目次
🎻BGMをご用意しました。お好みで▷ボタンでお楽しみください。
「勇者、起きてください」
目覚まし時計の音すら聞きたくない朝に、脳内で誰かがそう囁いた。
だけど正直、無理だった。
仕事のタスクは山積み。
上司はラスボスみたいな圧。
パーティメンバー(=同僚)はそれぞれ勝手に動き、町の道具屋(=経費申請)は書類不備で却下。
そう、勇者は完全にやる気を失っていた。
ステータスで言えば、
【HP:かすり傷】【MP:ゼロ】【やる気ゲージ:???】
そんな状態で“納期の塔”へ登れというのか?!
でも、あの日――
ふと目にした一枚のスクリーンに映るメッセージ。
「モチベーションは、ダメになってからが本番です」
そう言ったのは、どこの誰でもない。
かつて“伝説の社畜”と呼ばれた勇者だったらしい。
やる気が出ない。もう無理。立ち上がれない。
でも、もしそこからもう一度立ち上がれたら?
もし“やる気の剣”がどこかにあるのなら、探しに行こうじゃないか。
これはそんな、やる気ゼロの勇者が“全回復”して“完クリ”するまでの冒険譚。
あ、言っておくけど、ちゃんと最後にスカッと勝ちます🩷。
その日、勇者は“納期の塔”の最上階にいた。
スケジュール表という名のマップを広げ、装備は社内チャットと報告書フォーマット。
戦闘力は……ゼロに近かった。
「もうちょっとで終わります!」と言ってから二日目🩷。
塔の壁には“仮提出版”という貼り紙が風に舞い、後ろから聞こえる足音――上司という名のラスボスが近づいていた。
「これ、まだ上がってないの?」
低い声とともに、勇者のやる気は足元から崩れ落ちる。
ザザ……
その瞬間、塔は揺れた。
タスクという名の石がゴロゴロと降ってきて、勇者は“モチベーションゲージ”の残量を失ったまま、見事に転落した。
下には「リマインドの谷」と「先送りの沼」が広がっている。
谷底からは、かつての冒険者たちの声がこだまする。
「やる気はどこに行ったのか…」
「昨日までは確かにあったのに…」
「タスクって、何で分裂するの?」
勇者は思った。
いや、感じた。
ああ、これが“やる気ロスト状態”か…
自分の中に火が灯らない。
MPが自然回復もしない。
回復アイテム(甘い飲み物)すら効かない。
何より恐ろしいのは、「このままでは自分が消えてしまう」という感覚。
ただのサボりではない。
これは存在意義レベルの崩壊だった。
そして、谷底の泥に沈みながら、勇者はつぶやいた。
「……やめたい。いや、転職か? それとも記憶を消すか?」
そう、ここが物語の始まり。
やる気ゼロ勇者が、いよいよ“本当のやる気”を取り戻すまでの旅に出る準備が、静かに、そして確実に始まろうとしていた。
転落から三日。
勇者はようやく、沼地の底で目を覚ました。
そこは「アピールの沼」――自分のがんばりが、誰にも届かない世界だった。
「資料、出してたのに見られてなかった…」
「先にやってたのに、後からやった人が評価された…」
「“見える形で動く”って何?オーラでも出せばいいのか?」
泥のようにネバつく後悔と苛立ちが足元をつかみ、一歩ごとに、足が取られる。
そのとき、上空から影が落ちる。
バサッ…!
とてつもなくデカい“中間監査ドラゴン”の登場だった。
「この件、どこまで進んでる?」
「前回の会議で出てたよね?」
「あと、なんで報告してなかったの?」
やめてくれ…今はまだ、戦える状態じゃないんだ…
勇者は震える声で言う。
「…いま、途中でして…」
だが、ドラゴンは許してくれない。
その口から吐き出されたのは、**「進捗報告フォーマット」**の炎!
一瞬で脳内に広がる“あれ書いたっけ?”のパニック。
記憶の中からメモを探すが、時すでに遅し。
「〇月〇日、対応中」とだけ書かれた自分のログが、頭の中で点滅していた。
逃げようにも、アピールの沼が足をつかむ。
「評価されてない気がする」
「目立たないと存在しないことになる」
「タスクより、“タスクをやってますアピール”の方が重要って、何それ?」
そのとき、どこかで光が見えた。
沼の中に、沈みかけた剣――
名もなき“やる気の剣(未認証)”が、光を放っていた。
「これか…?」
勇者は泥だらけの手で剣を掴む。
だが、引き抜くには“承認”が必要だった。
上司のハンコか、メールでの返信、もしくは会議での明言。
……つまり抜けない。
そんな状態で勇者はまたもや、力尽きて倒れ込んだ。
ドラゴンは去っていったが、勇者の心に残ったのはひとつ――
「俺、評価されない場所で、何を探してるんだろう…🩷」
それでも、その剣は、確かに彼の手の中で光っていた。
アピールの沼をなんとか抜け出した勇者は、森を越え、次にたどり着いたのが――
「言い訳の洞窟」。
そこは暗く、静かで、居心地がいい。
どれだけやる気がなくても、なぜか堂々としていられる、不思議な空間。
入口にはこう書かれていた。
「ようこそ、“仕方なかった”の館へ」
洞窟の中には、無数の彫像が並んでいる。
「時間がなかった」「指示が曖昧だった」「他部署のせい」
それぞれの台座には、納得できそうでできない“理由”の石碑が添えられていた。
そんな中、ひときわ大きな石像が立ち上がる。
そう、彼こそがこの洞窟の主――
責任転嫁ゴーレムである。
「勇者よ。お前が進まなかったのは、お前のせいじゃない」
「計画通りに進めなかったのは、タスクを増やした上司のせい」
「モチベが下がったのは、環境のせい、社会のせい、全部…外だ」
その声は優しく、温かく、そして危険だった。
勇者は一瞬、心がとろけそうになった。
あぁ、このゴーレムのせいにすれば、どんな失敗も怖くない。
完了報告書に「不可抗力」と書けば、それで済む――
だがそのとき、勇者のポーチの中で、小さな鈴が鳴った。
“やる気の剣(未認証)”が、かすかに光を放っていたのだ。
剣の柄には、小さくこう刻まれていた。
「言い訳で動かぬ者に、抜く資格なし」
ハッとした勇者は、洞窟の奥にあった“自分の姿”の鏡を見つめる。
そこに映っていたのは、頬に泥をつけ、言い訳に寄りかかりながら立ち止まる、自分自身の姿だった。
「……それでも前に進みたい」
「誰かのせいにしないで、完クリしたいんだ…!」
その瞬間、ゴーレムは崩れ落ち、洞窟の壁が崩れ始める。
勇者は再び剣を握った。
まだ抜けない。
けれど、確かに一歩、進んだ感触があった。
外の世界は相変わらず眩しく、めんどくさくて、不条理だけど、洞窟の外は、少しだけ風が気持ちよかった🩷。
倒したはずの責任転嫁ゴーレムの影を背に、勇者はふらふらと進んでいた。
心は軽くなったようで、でも体は重いまま。
言い訳の洞窟を抜けた先にあったのは、**“立ち止まりの森”**だった。
静かすぎる。
風の音すらしない。
そこにぽつんと、小さな焚き火が灯っていた。
その火の前で、少女の姿をした何かが静かにこちらを見つめている。
「……あなた、ずっと走ってきたのね」
その声は、なぜか懐かしかった。
彼女の名は休息の精霊ミネル。
昔、どんな冒険にも“キャンプ”という名の休憩を用意してくれていた存在だ。
「立ち止まることに、罪悪感を持ってはいけません」
「進まないときにしか見えない景色があります」
そう言って差し出されたのは、あたたかいスープと小さな毛布。
勇者は最初、ためらった。
でもそのスープを一口飲んだ瞬間、張り詰めていた全身がふわっと緩んだ。
「やる気が出ないからって、あなたがダメなわけじゃない」
「炎が燃え尽きる前に、薪を足してあげる時間も、旅には必要なの」
そう言いながら、ミネルは勇者の手に“やる気の剣”をもう一度そっと置いた。
今度は、少し軽く感じる。
握る手にも力が戻ってきた。
焚き火のそばには、かつての冒険者たちが残した言葉が並んでいた。
「セーブして寝たらクリアできた」
「一回寝てから考えたら、ラスボスが雑魚に見えた」
「全ては“睡眠とカフェイン”で解決」
ミネルはにっこり笑って言う。
「再起動の条件、それは休息と“ちょっとの気持ち”よ」
「今日のあなたは、ちゃんと立ち止まった。それだけで立派」
勇者は静かに目を閉じた。
そして、焚き火のぬくもりの中で誓う。
「明日、もう一度、剣を抜いてみよう」
その夜、久しぶりに深く、深く眠った🩷。
朝日が差し込む森の中。
焚き火は小さくなっていたが、勇者の心には確かな“芯”ができていた。
スッと立ち上がり、やる気の剣を見つめる。
手に持った剣が、ポッと光を放った。
その刃には、こう刻まれていた。
「ちゃんと寝た者に、抜く資格あり」
シュッと風が通り抜けるように、勇者の手の中で剣はすんなりと抜けた。
その瞬間、遠くで雷が鳴った。
塔が、城が、社内チャットが震えた。
「ブラック魔王・カンショ」が目覚めたのだ。
「おまえ…まだいたのか」
上司の声に似た、あの低く重たい音が響く。
「今さらやる気出したって、終わりは変わらんぞ」
「もう全部、誰かがやってる。おまえの役目など、ない」
それでも勇者は一歩、踏み出す。
「俺のやる気に、“誰かの許可”はいらない」
戦いが始まった。
魔王は“即レスビーム”を放つ。
勇者は避けながら、やる気の剣で「いい感じのテンポ」を守る。
魔王が叫ぶ!
「先に進め!」
「で、報告は?」
「会議で共有してたよね?」
そのすべてを受け流しながら、勇者は叫ぶ。
「俺は、俺のペースで進む!」
「タスクを倒す前に、まず“納得”を装備するんだ!」
魔王の表情がゆらぐ。
そして、渾身の一撃――
「やる気の剣・再起動斬(リスタートスラッシュ)」!
ズバァン!
社内に走る衝撃。空気が変わる。
チャットは静かに、通知は止まり、画面にはこう表示された。
「タスク、完了しました。」
魔王は煙のように消えた。
勇者の背後には、ミネルがそっと立っていた。
「おつかれさま。よくがんばったね」
勇者は静かにうなずき、やる気の剣をそっと鞘に納める。
その剣には、もう「未認証」の文字はなかった🩷。
「このタスク、終わりました」
その報告を受け取った瞬間、静かに震えたのは――
理事長室のドアだった。
経営陣の眼差しが、冷たい。
「この程度で満足か?」
「次は何ができる?」
だが勇者は、もはや迷わなかった。
「次は、自分で決めます」
「必要のないムリゲーは、もう受けません」
「言葉ひとつで人のやる気を奪う仕組みには、剣を向ける覚悟があります」
理事長の額に、ヒビが入る。
背後に控える「会議の魔獣」や「方針変更の精霊」たちが、ざわついた。
ザシュッ!
やる気の剣が放たれたその瞬間、古びた社訓が斬られ、貼り出されていた「根性で乗り越えよう」のポスターが、静かに崩れ落ちた。
そして、世界に静寂が訪れる。
勇者は背を向け、歩き出す。
その背中にミネルの声が届く。
「あなたの旅は、今日終わったんじゃない。今日、“自由に選べるようになった”のよ」
ふと見上げた先には、空があった。
いつの間にか、タスクの山ではなく、未来の景色が広がっていた。
最後に勇者はつぶやいた。
「次のセーブは……ちょっと遠くにしてみるか🩷」
そして、新たな“やる気の書”が静かに閉じられた。
ページの端にはこう刻まれていた。
『スカッと完クリ。つづきは、あなたのタスクの中にある』
[ ⭐ 今日も閲覧ありがとう 💖 ]
読み込み中…読み込み中…読み込み中…読み込み中…😌来場された皆様、今日という日の来訪、誠にありがとうございます
お気づきのご感想を是非、お気軽にお寄せくださいましたら幸いです
😌2つも参加して欲張りですが、是非、ポチっと応援をよろしくお願いします