介護現場の6月は職場のクセが見える月~お願い・評価・人手不足を笑って越える~
はじめに…6月は「ちょっとお願い」が積もり始める
6月の介護現場には、梅雨とは別の意味で空気が重くなる瞬間があります。新人さんは仕事の流れを覚え、異動してきた人も職場の人間関係が少しずつ見えてくる頃。ベテランは通常業務を回しながら、夏の行事や会議、研修、勤務調整まで気にし始めます。そこへ上司から飛んでくるのが、「ちょっとお願いして良い?」のひと言です。
この「ちょっと」が実に奥深い。話を聞いた時には紙1枚だったはずが、気づけば打ち合わせ、担当決め、買い出し、連絡、確認まで付いてくることがあります。「あれ、ちょっとって何分でしたっけ?」と心の中で時計に聞いても、もちろん返事はありません。職場あるあるとはいえ、笑って受け続けていると、知らないうちに仕事が特定の人へ集まってしまいます。
介護は、誰か1人の頑張りだけでは回らない仕事です。利用者さんへのケアがあり、記録があり、家族への対応があり、その横では季節行事の準備まで進んでいく。そんな多事多端な6月ほど、「誰が頑張るか?」ではなく「どう分けて支えるか?」が職場の明日を変えます。
忙しくなると、人の本音も職場のクセも見えやすくなります。お願いする人、断れず抱える人、黙って手伝う人、何故か会議になると急に発言量が増える人。正に十人十色です。それでも同じフロアで働き、同じ利用者さんの暮らしを支えている仲間には違いありません。
6月は、ただ耐える月ではありません。「この仕事、本当に私だけが持つ必要ある?」と考えたり、「一緒にやろう」と声をかけたりするには、ちょうど良い時期でもあります。少し働き方を変えるだけで、雨模様の勤務表にも小さな晴れ間は作れます。
[広告]第1章…夏祭り準備は誰の仕事?~「去年もお願い」が生む仕事の偏り~
「そろそろ夏祭りの準備、始めようか」
6月の介護現場でこの言葉が聞こえると、季節は夏へ向かっているのに、職員の背中には少しだけ冷たいものが走ります。利用者さんにとって夏祭りは楽しみな行事です。飾りを眺めたり、いつもと違う食事を味わったり、家族や職員と笑ったりする時間には、日常とは違う華やかさがあります。
問題は、祭りそのものではありません。準備が通常業務の上に「そっと置かれる」ことです。
「去年も担当してくれたから、今年もお願いね」
このひと言には悪意がないことも多いでしょう。経験者なら話が早い。流れも知っている。失敗も少ない。頼む側から見れば合理的です。ところが頼まれる側からすると、去年経験したことが、そのまま今年の担当権に変換されています。どうやら介護現場には、一度担当すると自動更新される謎の年間契約があるらしい。もちろん、契約書にサインした覚えはありません。
夏祭りほどの行事になると、仕事は飾りを作るだけでは終わりません。企画を考え、予算を確認し、必要な物を揃え、人の配置を考え、当日の動線まで確認する。利用者さんの体調や安全にも気を配らなければなりません。その裏側では、食事介助も排泄介助も記録も普段通り続いています。正に多忙多端。行事の華やかな提灯の下では、職員たちが水面下で右往左往しているわけです。
本来なら、経験者が知恵を出し、新しい職員が少しずつ参加し、管理する側も必要な時間や人員を考える。そんな適材適所が出来れば、行事は職員を疲れさせる仕事ではなく、チームを育てる機会にもなります。
ところが、「去年の人に任せれば早い」が続くと、仕事の出来る人、断らない人、責任感のある人へ役割が集まっていきます。そして本人も「まあ、私がやった方が早いし」と引き受けてしまう。そこが少々厄介です。早く終わる方法を選んだはずなのに、その人だけ1年ごとに詳しくなり、周囲はいつまでも経験できません。
行事を続けるために必要なのは、同じ人が頑張り続けることではなく、経験をみんなの仕事へ変えていくことです。
夏祭りの成功を、立派な飾りや豪華な企画だけで測る必要はありません。準備の途中で「これは一緒にやろう」「次はこの人にも覚えてもらおう」と仕事を渡せる職場なら、それも立派な成果です。「急がば回れ」という言葉の通り、今年だけ早く終わらせるより、来年が少し楽になる仕組みを残した方が、長い目ではずっと助かります。
利用者さんの笑顔を作る行事なのですから、準備する職員まで険しい顔になってしまっては少し寂しいもの。祭りの提灯を一個増やすより、抱えている仕事を一個減らす。そんな発想があっても良い6月です。
第2章…抱え込まない人が現場を救う~巻き込み上手と断り上手の仕事術~
仕事を頼まれた時、「分かりました」と反射的に答えてしまう人は少なくありません。介護の仕事では、特にその傾向が出やすいものです。目の前には利用者さんがいて、同僚も忙しそうで、「出来ません」と言ったら誰かが困る気がする。そんな気遣いが積み重なって、気づけば自分の予定表だけ妙ににぎやかになっています。
夏祭りの準備でも同じことが起こります。「飾りだけお願い」「景品もちょっと見ておいて」「ついでに当日の配置も考えてもらえる?」と、仕事は実に自然な顔をして増えていきます。最初は小さな頼み事だったのに、夕方には立派な担当者になっている。出世した覚えはないのですが、肩書きだけは順調に増えていきます。
そこで必要になるのが、何でも断る技術ではなく、仕事を1人で完成させない工夫です。「去年の資料を一緒に確認してもらえますか?」「この部分は誰に相談しましょうか?」と声をかければ、抱えていた仕事がチームの課題へ変わります。これは責任逃れではありません。むしろ情報共有を進め、誰かが休んでも止まりにくい状態を作る、一石二鳥の働き方です。
介護現場では、「出来る人に頼む」が続きやすい一方、「出来るようになる人を増やす」という発想が後回しになりがちです。経験のある職員が全部やれば、その日は早いでしょう。しかし、新しい職員が経験する機会は減り、翌年も同じ人へ声がかかります。いつの間にか「あの人しか分からない仕事」が増えれば、本人にも職場にも負担が残ります。
本当に頼れる人とは、何でも自分で抱える人ではなく、仕事を周囲へ上手に渡せる人でもあります。
もちろん、受けられない仕事には「今は難しい」と伝える場面も必要です。食事介助や排泄介助、体調不良への対応など、安全に直結する仕事が重なっている時に、行事準備まで無理に抱える必要はありません。「今日は利用者さんへの対応を優先したいので、これは明日に出来ますか?」と具体的に伝えれば、単なる拒否ではなく優先順位の相談になります。
ここで意外と大切なのが、曖昧な笑顔で受けないことです。「はいはい」と返事をした本人は「聞きました」のつもりでも、頼んだ側は「引き受けてもらった」と受け取っていることがあります。数日後、「あれ、どうなった?」と聞かれて初めて、お互いの認識が別々の道を走っていたことに気づく。以心伝心が成立して欲しい場面ほど、職場では案外成立しません。
助け合いは、1人が何でも引き受けることではありません。忙しい時には手を貸し、難しい時には声を上げ、余裕のある人へ仕事を繋いでいく。その小さな往復がある職場ほど、誰か1人の限界に頼らずに済みます。
6月の忙しさは、働き方のクセが見えやすい時期でもあります。「自分がやった方が早い」と手を伸ばす前に、一度だけ周りを見る。その数秒が、夏祭り当日の笑顔より先に、職員の顔を少し明るくしてくれるかもしれません。
[広告]第3章…評価面談でモヤるのは何故?~見えない頑張りと職場の物差し~
6月になると、夏祭りの準備とは別のところでも妙な緊張感が漂い始めます。「来週、評価面談がありますのでお願いします」。そのひと言を聞いた途端、普段なら普通に開けられる面談室のドアが、何故か少し重そうに見えてくる。何も悪いことはしていないはずなのに、呼ばれただけで背筋が伸びるのですから、人間とは不思議なものです。
職場によっては、人事考課(勤務態度や仕事の成果などを基に職員を評価する仕組み)が給与や賞与、役割などに関わります。評価する仕組みそのものは必要でしょう。誰がどんな仕事を担い、どこが成長し、何を伸ばしていくのかを確かめる機会になれば、本人にとっても職場にとっても意味があります。
ところが介護の仕事には、数字だけでは拾いにくい働きが山ほどあります。新人が困っている時にさりげなく声をかけたこと、忙しい同僚の代わりにコールへ向かったこと、利用者さんの小さな変化に気づいたこと、家族からの何気ない話を次の勤務者へ伝えたこと。1つ1つは小さく見えても、そんな積み重ねが毎日の安全と安心を支えています。
反対に、「提出が少し遅れた」「会議で反対意見を言った」「休憩中によく話していた」といった分かりやすい場面ばかりが印象に残れば、本人には腑に落ちない評価になることがあります。「協調性に課題がありますね」と言われて、心の中では「昨日、急な欠勤の穴を埋めたのも私なんですが……」と小さな会議が始まる。残念ながら、その心内会議には議事録もありません。
人が人を評価する以上、完全な公平無私は簡単ではありません。同じ行動でも、上司によって「積極的」と見ることもあれば、「出過ぎている」と感じることもあります。だからこそ、評価する側には日頃の姿を見る姿勢が必要ですし、評価される側にも、自分が担ってきた仕事を言葉にする力が役立ちます。
評価面談は「点数を告げられる時間」ではなく、普段は見えにくい仕事を言葉にして届ける時間にも出来ます。
「頑張りました」だけでは伝わりにくくても、「新人さんの独り立ちまで一緒に確認した」「行事準備を分担できるよう記録を残した」「利用者さんの体調変化を早めに看護職へ伝えた」と話せば、働きぶりの輪郭が見えてきます。自画自賛する必要はありません。黙っていれば伝わらない仕事を、事実として置いてくる。それだけでも十分です。
そして管理する側にも、面談の日だけ職員を見るのではなく、普段の仕事へ目を向ける余裕が欲しいところです。失敗だけを集めれば誰でも減点できますが、良い働きを見つけるには日頃から人を見る必要があります。そこに信賞必罰だけではない、人を育てる評価の難しさと面白さがあります。
面談室から出た時に、「結局、何だったんだろう」と肩を落とすより、「次はこれをやってみよう」と1つでも持ち帰れるほうが良い。評価は人の値段を決めるものではありません。職員それぞれが積み重ねている見えない仕事まで少しずつ拾える職場なら、6月の面談室も、もう少し明るい場所になっていくはずです。
第4章…人が足りなくても介護は止まらない~命と暮らしを守る優先順位~
6月は湿度も気温も上がり、制服の背中がじんわり汗ばむ季節です。ところが暑くなるのは外だけではありません。職員の欠勤、体調不良、勤務変更が重なれば、現場の忙しさも一気に上がります。「今日はちょっと人数が少ないね」と朝に話していたはずが、昼には「ちょっとって何人まででしたっけ?」と言いたくなることもあります。
介護現場では、人が少ないからといって生活そのものを止めることは出来ません。食事の時間は来ますし、トイレへ行きたい人もいます。入浴予定もあれば、体調の変化を訴える人もいる。ナースコールまで「本日は人手不足のため休業します」と空気を読んではくれません。そんな時こそ、何もかも普段通りに仕上げようとするのではなく、何を先に守るのかをチームで共有することが大切になります。
優先したいのは、命や安全、健康状態に直結することです。6月から夏に向かう時期には、脱水や発熱、食欲低下など、小さな変化にも目を向けたいところです。いつもより水分が進まない、食事中の表情が違う、何となく元気がない。そんな違和感は、忙しい日にこそ見落としたくありません。介護では臨機応変が求められますが、それは何でも急いで片づけることではなく、その瞬間に大切なものを選ぶ力でもあります。
一方で、急がなくても困らない仕事はあります。飾り付けの続きを翌日に回したり、急ぎではない作業を別の勤務へ渡したり、予定していた仕事の量を調整したりすることも必要です。「全部やらなければ」と考えると、職員が無理を重ね、その無理が利用者さんへのケアにまで影響しかねません。満身創痍の職員が「まだ大丈夫です」と走り回っている光景は、頼もしさより先に心配になります。
人手が足りない日に必要なのは、全員が限界まで頑張ることではなく、今日守るべきものを全員で同じ方向に揃えることです。
そして介護現場には、もう1つ簡単には止められない流れがあります。長く生活を共にしてきた利用者さんとの別れが訪れても、次の食事介助や排泄介助は待っています。職員の心にはまだ昨日までの姿が残っているのに、フロアではいつもの1日が進んでいく。その切り替えの速さに、自分の気持ちだけが置いていかれたように感じることもあるでしょう。
さらに空いた居室には、やがて新しい暮らしが始まります。新しい利用者さんを迎える準備をしながら、つい数日前までそこにいた人を思い出す。介護の仕事には、出会いと別れが同じ廊下を行き交うような瞬間があります。忙しさだけでは語れない、悲喜交交の仕事でもあるのです。
そんな毎日を支えるのがチームです。誰かが体調の変化を見つけ、誰かが看護職へ伝え、誰かが周囲の利用者さんを支え、その間に別の職員が記録を残す。1人では難しいことも、役割が繋がれば乗り越えられます。助けを求める声が出せて、それを聞いた人が自然に動ける職場なら、人手不足の日にも余白を少し残せます。
介護は止まりません。でも、働く人まで止まれない必要はありません。忙しい時ほど「これは今」「これは後」「これは誰かと一緒に」と仕事を分ける。その小さな判断の積み重ねが、利用者さんの一日だけでなく、働く人の明日も守っていきます。
[広告]まとめ…勝ち負けより大切なのは明日も笑って働けること
6月の介護現場には、いくつもの仕事が同じタイミングで押し寄せます。夏祭りの準備が始まり、いつもの業務は変わらず続き、評価面談が近づき、人手が少ない日には勤務表まで落ち着かなくなる。梅雨空を見ながら「せめて仕事くらいカラッとしてくれないかな…」と思っても、そう都合よく乾燥注意報は出てくれません。
けれど、忙しい時期だからこそ見えてくるものがあります。誰か1人へ仕事が集まっていないか?、お願いする側と受ける側の負担は釣り合っているか?、普段の頑張りをきちんと見てもらえているか?そして、人が足りない日に何を優先して守るのか?職場の問題は千差万別でも、働く人が少し楽になる入口は、意外と日々の小さなやり取りの中にあります。
介護職には責任感のある人が多い分、「自分がやれば済む」と背負ってしまう場面もあります。でも、1人が満身創痍になるまで支える職場より、「これは一緒にやろう!」「今日はそこまでで大丈夫!」と言える職場の方が長く続きます。良い介護を続けるためには、利用者さんを守ることと同じくらい、支える人が明日も働ける余白を残すことが大切です。
評価でモヤモヤした日も、行事準備で机が埋まった日も、欠勤者が出て予定がひっくり返った日も、最後に介護を支えているのは人と人との繋がりです。完璧な職場を1日で作ることは出来なくても、「仕事を渡す」「助けを求める」「誰かの働きを見つける」という小さな試行錯誤なら今日から出来ます。
6月を勝ち抜く必要はありません。上司に勝つことも、同僚より多く働くことも、本当の目的ではないはずです。勤務が終わった時に「今日も何とか回ったね」と笑えて、翌朝また利用者さんへ自然に「おはようございます」と言える。そのくらいの余力が残る職場なら、雨の多い季節にもちゃんと晴れ間はあります。
[ 広告 ]今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m
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