親の介護がいよいよかも…と感じたら最初の3ステップ~夜の安全グッズと頼れるサービス~

目次
はじめに…これってもう一人では無理かも?と感じたあなたへ
お母さん、お父さん、身内の方に久しぶりに会った時、「あれ? ちょっと前と違うな」と感じることがあります。歩き方がふらつく。夜によく起きているみたい。着ている服や、家の中の様子がどこか心配。
その一瞬で、胸がギュッとなることってありますよね。「もう一人では難しいのかな」「これから私はどうすればいいのかな」。その気持ちはとても自然なことです。むしろ、その小さな気付きこそが大事なスタートになります。
ただ、多くの人がそこで躓きます。
何故なら、いきなり全部を考えようとしてしまうからです。例えば、これからのお世話、お金、住む場所、病院、手続き、人にお願いすること……。一遍に考えると、頭も心もすぐパンパンになります。やさしい人ほど「全部私がやらなきゃ」と思いがちで、すごく苦しくなります。
ここでお伝えしたいのは、とてもシンプルです。
いきなり全部やらなくてかまいません。まずは「今日安心できること」を1つだけ見つければ十分です。
この案内は、そういう順番で読めるように並んでいます。
第1章では、「本当に気をつけたい変化はどこに表れやすいのか」をお伝えします。難しい道具や難しい言葉はいりません。家の中のある場所をそっと見るだけで、今どのくらい手助けが必要かが少し見えてきます。
第2章では、夜の心配に触れます。躓いて転ぶ、フラッと歩き出してしまう、トイレまでの道が暗い。こういった不安は、小さな工夫だけでもかなり和らぎます。大きな準備よりも、まず今夜を安全にすることが一番大切です。
第3章では、言葉のかけ方についてまとめます。心配だからつい強く言ってしまったり、反対に遠慮しすぎて何も言えなかったり。どちらもよくあることです。ここでは、なるべくケンカにならずに気持ちを伝えるコツを、ゆっくり言葉にしていきます。
第4章では、「どこに助けを求めればいいのか」を整理します。いきなり大ごとにしなくても、相談できるところは身近にあります。どんな順番で声をかければいいのか、道標のように書いていきます。
最後に、第5章では、ご家族であるあなた自身の気持ちを守るお話をします。つい自分を責めてしまったり、「私が弱いからこうなったんだ」と思ってしまったりする方は少なくありません。でも本当は、そう思うくらい既に頑張っているという証拠です。
この案内は、「今すぐ全部決めてください」ではありません。
「今日はここまでできたら十分だよ」という道標です。あなたはもうスタート地点に立っています。あわてなくて大丈夫です。ここから、一緒に一歩ずつ見ていきましょう。
第1章…実家でまず見る3つのサイン~冷蔵庫・服そう・トイレ~
家に入ってすぐに全部を聞き取りしようとすると、どうしても重くなりますし、言い方次第ではケンカの火種にもなってしまいます。代わりに、そっと見るだけで今の様子がかなり分かる場所が3つあります。難しい道具は全然いりません。見る場所は「冷蔵庫」「服そう」「トイレ」。この3つだけで、今どのくらい日常が回っているのか、そしてどこが不安なのかが、静かに伝わってきます。
この3つは、無理に本人に正面から尋ねなくても分かるものばかりです。だからこそ、相手のプライドを傷つけにくく、家族としての関係を壊さずに状況を掴むことができます。
冷蔵庫だけで食べているか?忘れているか?それとも手が回らないのか?を見る
まずは台所の冷蔵庫を、そっと開けてみてください。ここは生活の体力がまっすぐ出ます。
中がほとんど空っぽの場合、「買い物に行くのが辛い」「重い荷物を持つのがしんどい」というサインのことがあります。動きたくても動けない、という黄色信号です。体の支えが必要になってきているのかもしれません。
逆に、賞味期限がだいぶ前の物や、開けかけのパック・おかずが何個もたまっている場合は、「片付けるのを後回しにしてしまう」「同じ物を何度も買ってしまう」など、記憶や判断の面で少し心細い状態かもしれません。ここはそっと見守りたいところです。
冷蔵庫は正直です。例えばコンビニのお弁当の空き容器がたくさん積んであっても、それは「怠けている」ではありません。火を使うのが怖い、洗い物が辛い、立ちっ放しがしんどい。つまり安全の方を選んでいるだけ、ということも多いのです。
ここを見て感じたことは、いきなり「何これ!危ないじゃない!」と口にしなくて大丈夫です。心の中で「買い物を助ける手」と「片付けや整理を一緒にする手」、どちらが今は必要そうかな…とそっとメモしておくだけで十分です。後の章で、その「手」をどう形にするかを考えていきます。
服装で身につけているものはその人の毎日の頑張りそのもの
次に見るのは身につけている服です。服そのものというより、「着替えられているか」「清潔さが保てているか」「季節に合っているか」を見ます。
毎日ほぼ同じ服、ボタンやファスナーが半分だけ、前や後がズレている、季節に合わない厚さの服、これらはちょっとした赤信号です。体の動きに無理があるか、指先の細かい動きが辛いのか、または「今日はどれを着ればいいのか分からない」という迷いが出ているのかもしれません。
ここでいちばん大切なのは、「だらしない」で片付けないことです。高齢の方の服装は、そのまま誇りでもあります。身綺麗にしていた人ほど、ここを指摘されると強く傷つきます。
「洗濯手伝おうか?」ではなく、「この色似合うね。これ最近のお気に入り?」みたいな感情のところから入ると、相手の気持ちを守ったまま様子を聞きやすくなります。服は、体力と同時に心の張りも教えてくれる場所なんです。ここが以前より乱れてきているなら、「そろそろ生活の段取りを少し軽くしてあげた方がいいかな」という目安になります。
トイレでの足元と臭いは夜の安全のサイン
3つめはトイレと洗面台回りです。ここは少しデリケートなので、覗かせてもらう時は静かに、バタバタとドアを開けたりせず「ちょっと借りるね」と自然に入りましょう。
床が濡れていないか、マットがグシャッと丸まっていないか、滑りそうな物が置きっ放しになっていないかを見ます。もし床がよく濡れている・臭いが強いという状況なら、「夜中に間に合わない」「トイレまでの道が暗い」「立ち上がるとふらつく」というサインのことが多いです。これは体の問題というより、夜が怖いサインでもあります。
ここが怪しい時は、第2章で出てくる夜の灯りや足元の工夫が役に立ちます。すぐに大がかりな介護に入らなくても、まず躓きそうな物をどかす、暗い場所に小さな灯りを置く、立ち上がり時に掴まれる場所を用意する。そういった小さな一歩からで十分なんです。
トイレの状態は、本人が「言い難い」と感じている大事なサインでもあります。だからこそ家族が気づいてあげることに意味があります。ただし、ここも怒る必要はありません。「こぼしてるでしょ」ではなく、「夜眠れてる? 急いで転ばないか心配でさ」と、自分の心配ごととしてそっと伝えると受け入れてもらいやすいです。
3つのサインを見た後にまだしなくていいこと
この3つを見ただけで、「もうムリだ、すぐ全部引き取らなきゃ」と思う方もいます。でもそこまで背負わなくて大丈夫です。むしろ一気に抱え込み過ぎると、次の一歩が重くなって進めなくなります。
今やることは、たった1つ決めればOKです。例えばこんな感じです。
「今日は冷蔵庫の整理だけ手伝う日にしよう」
「今日は夜の足元にライトを置くだけにしよう」
「今日は洋服ダンスから、今季の服を前に出すだけにしよう」
たったこれだけでも、生活はゆっくり安全な方へ向かいます。そして相手は「命令された」ではなく「手伝ってもらえた」と感じやすくなります。
この第1章で見てほしかったのは、「全部を背負う前に、まず現状をそっと見ていいんだよ」ということです。次の第2章では、特に夜の場面に絞って、安心させる工夫をもう少し深くお話しします。
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第2章…夜が怖い時の安全対策~転倒・トイレ・徘徊をやわらげる小さな道具~
夜の時間帯は、家族にとって一番心がざわつくところです。昼間は普通に見えても、夜になると足元がふらついたり、急いで立ち上がろうとして転びそうになったり、場所が分からなくなって家の中を歩き回ってしまったりすることがあります。これは珍しいことではありません。とくに足腰に自信がなくなってきた方や、トイレを我慢しやすい方ほど、夜には一気に不安が出ます。
ここでは、夜の不安を「責める」形にしないで「安心の方に寄せていく」ための考え方をまとめます。大がかりな工事や難しい制度の話ではなく、まず今夜から出来ることに絞ってお伝えします。
暗い廊下とトイレまでの道をやさしく照らす~足もとライトという味方~
夜に一番多い危険は、足元の段差や物に躓いてしまうことです。特に寝ぼけている時は、本人も自分がどれくらいフラフラしているか分かっていないことが多いので、家族が「気をつけてよ!」と言っても現実には止まりません。
そこで役に立つのが、ひとりでに光る小さなライトです。人の動きを感じて自動でポッとつくタイプのライトは、置くだけの物やコンセントに刺すだけのものなど、難しい取り付けがいらないものが多いです。明るさは眩し過ぎず、足元が分かるくらいのやわらかい光に調整されている物もあります。
家族の立場から言うと、寝室からトイレまでの間にこのライトを2つか3つ置くだけで、「どこに足を出せばいいか」がはっきり見えるようになります。これだけで、慌てて廊下を全力で走ってしまうような危ない動きがグッと減ります。点けっ放しの豆電球よりも、必要な時だけ点く方が眩しさが少ないので、夜中に完全に目が覚めてしまいにくいのも良いところです。
大切なのは、「危ないから勝手に歩かないで」と怒るより、「ここね、足元だけ明るくなるようにしておいたよ。転んだら困るからさ」と伝えることです。相手を止めるのではなく、味方になる形です。この言い方の小さな差が、拒否感をだいぶ変えてくれます。
立ち上がりの瞬間が一番倒れやすい~掴まる場所を決めておく~
ベッドや布団から起きあがる瞬間、イスから立ち上がる瞬間、トイレから立つ瞬間。実はこの「立ち上がりの一歩め」が一番転倒しやすい場面です。夜中は特に、頭がまだ半分眠っているので足がついてきません。
この時、「掴まる場所が最初から用意されているかどうか」で安全度が変わります。例えば、ベッドの横に手をかけられるバーを置いておくタイプの道具や、便座の横に両手で掴まれる簡易の手すりを置くタイプの道具など、置くだけで使える物があります。床にしっかりと置ける重さがあって、グラグラしにくい物だと安心感が違います。
家族の目線で言うと、こういう道具は「家族を呼ばずに自分で立てた」という自信にもつながります。誰かを夜中に起こす罪悪感って、年齢に関係なく凄く大きいんです。「1人で立てたよ」という気持ちは、相手の尊厳を守ることにもなります。つまり安全とプライドの両方を支えてくれるのが、この手すり系の道具なんですね。
ここでも、言い方はとても大事です。「危ないからこれを使って」ではなく、「ここ持つとラクだから置いてみたよ。夜、腰痛いって言ってたでしょ?」と、あくまで「ラクするために置いた」という形にしてあげると、受け入れられやすいです。
ふらっと歩きだしてしまう時に家族がずっと起きて見張らなくていい形を考える
夜中に家の中をうろうろしてしまう方もいます。「トイレどこだっけ」「ちょっと外の様子を見たい」「仕事に行かなきゃ」と思い込んで玄関まで行ってしまうことも、じつはそれほど珍しくありません。
家族としては「寝てて!」「外に出ないで!」と強い声を出したくなりますが、強い声は相手をびっくりさせて逆に動きを早くさせてしまうこともあります。ここで役に立つのは、「見張る」というより「気付ける」仕組みです。
例えば、ドアが開いた時にやさしい音が鳴るグッズや、ベッドの横に置いて体重が動くと音で知らせてくれるマットのような物があります。大声の警報というより、「チリン」「ピンポン」といった小さめの合図の物もあります。家族が気付けさえすれば、いきなり転んでしまう前にそっと声をかけに行けますよね。
一度落ち着いて声をかける時は、問い詰めるより「今何時か分かる? まだ夜なんだよ。トイレ一緒に行こうか」と、目的を反らさず、一緒に行動する形にしてあげると落ちつきやすいです。「ダメ」「やめて」は正面からぶつかることになるので、相手の中では「ここは危ない場所なんだ」「急いで逃げなきゃ」という気持ちに変わってしまうこともあるからです。
家族の眠りも大事にしていい
ここまで読んで、「私がずっと気にしていなきゃいけないのかな」と重く感じたかもしれません。でも、家族が夜通し付きっ切りになる必要はありません。むしろ、それを続けると数日であなたの方が倒れてしまいます。
だからこそ、ライト・掴まりやすい場所・小さな合図。この3つを揃えるのは、家族の負担を緩めるためでもあります。自分だけが徹夜で見守る形にしないことは、冷たいどころか、とてもやさしい判断です。あなたが元気でいることは、本人にとって安心そのものだからです。
夜は、人が一番弱くなる時間です。本人も弱くなりますが、支える側も弱くなります。「今夜だけでも少しラクにしよう」という考え方は、我儘ではありません。むしろとても現実的で、本当に役立つ一歩です。
このあと続く第3章では、実際に会った時、あるいは帰省した時、気まずくならない声のかけ方についてお話します。道具だけでは守れないのが気持ちのぶつかり合いです。言葉は転倒防止用のバーと同じくらい大切な支えになります。
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第3章…面会や帰省でケンカにしない声掛け~差し入れと話し方のコツ~
大切な人に会いに行く時、本当は安心してほしくて言った一言が、何故かピリッとした空気を生んでしまうことがあります。とくにお父さんやお母さんが弱ってきたかな、と感じている時期は、ちょっとした言い方の違いで、お互いが深く落ち込んでしまうこともあります。ここでは「つい言いがちだけど重く響く言葉」と「同じ気持ちを柔らかく伝える言い方」を、ゆっくり比べていきます。難しい敬語を使う必要はなくて、「心配だから来たんだよ」という本音があれば十分です。
「大丈夫?」は安心させる言葉に見えて実はテストのように聞こえることがある
面会の最初、あるいは久しぶりの帰省の玄関挨拶で、つい口から出やすいのが「大丈夫?」という言葉です。この言葉そのものは優しいのですが、受け取る側には「私はもう大丈夫じゃないと思われているのかな」「ちゃんと出来てないように見えるのかな」と伝わってしまうことがあります。チェックされているように感じる人もいます。
代わりに、「会いたかったよ」「顔見てホッとした」「来るの楽しみにしてた」など、状態ではなくて気持ちを伝えると、相手はまず安心できます。安心が先にあると、そのあとで体調の話や困りごとの話がしやすくなります。いきなり様子を確認されると身が固くなりますが、「来てくれてうれしい」「会えてよかった」と受け止められると、胸がやわらかくなって口が開きやすくなるのです。
ここでのポイントは、「心配してるよ」という色を褪せて見せるのではなく、「あなたはまだ私の大切な人だよ」という色を先に渡すことです。順番だけで、会話の空気は随分と変わります。
体のことを聞きたい時は、原因を尋ねるよりも気持ちと場面を尋ねる
例えば歩き方が前よりゆっくりになっていたとします。この時「なんでそんな歩き方なの?どこか悪いの?」と聞くと、本人は責められたように感じやすいです。「悪いところなんてない」「まだ平気だ」という反発が返ってくるのは、その気持ちの防御です。
ここは、例えば「ここまで来るの疲れなかった?」や「腰ちょっと重そうだけど、今日痛くない?」のように、今目の前の場面と感覚だけをやさしく聞くのがコツです。原因を言わせようとすると、立場を守ろうとするスイッチが入ります。でも「今しんどい?」なら、防御になりにくいんですね。弱さを認めることと、今少し辛いと言うこととは、相手の中ではぜんぜん別物だからです。
「疲れない?」と尋ねて「まあね」と返ってきたら、それはサインです。そこから「じゃあ後でイスある場所に移ろっか」「帰りはゆっくりでいいよ」と、手伝う形に自然に繋げられます。問い詰めるのではなく、今を一緒に整える提案に変えていく。これは相手の自尊心を守りながら手を差し出す、とても丁寧なやり方です。
差し入れは役に立つ物よりあなたを思い出した物の方が嬉しい時がある
何を持って行けば喜ばれるかは本当に悩むところです。「甘い物はムリかな」「固いものは危ないかな」「量が多いと職員さんに迷惑かな」など、考え出すとキリがありません。ここで覚えておきたいのは、差し入れがいつでも「食べ物そのものの価値」で評価されているわけではない、ということです。
例えば小さめの膝掛け、手を温めるやわらかいカイロ風のカバー、足首をあたためるレッグウォーマー、喉が乾き切らないような保温マグ。こういう物は「これ使うとあったかいよ」というだけではなく、「あなたのことをちゃんと考えて買ってきたんだよ」というメッセージにもなります。特に冬場は、「寒くない?」という声かけとこの手の差し入れがセットになると、本人は「気にしてもらってる」「まだ愛されてる」と素直に感じやすいんです。
もちろん、食べ物の差し入れも場を温めます。ただ、その場合は量が少ないもの、すぐ口に出来る軟らかい物、あと残りを保管しやすい物を選ぶと安心です。「食べ切れなかったら後で一緒に食べよう?」と先に言ってあげると、本人も職員さんも「急いで今全部食べないと失礼かな」と焦らずに済みます。
差し入れは大きなご褒美ではなくて、「あなたに触りたい」「近く感じたい」という合図でもあるのだ、と考えてもらえると気持ちが軽くなります。高価さよりも、顔を思い出すやさしさのほうが伝わりやすいことはたくさんあるんです。
強く止めるより、同じ方向を向くことばのほうが落ちつきやすい
会っている時に困りやすいのが、「もう歩かないで」「勝手に立たないで」「ムリだからやめて」というストレートなストップの言葉です。家族からすると当然の心配なのですが、受けた側は「自由を取り上げられた」と感じてしまうこともあります。そうなると、急に動きが早くなることさえあります。これは本人も怖がっている証拠です。
代わりに、「一緒に行こうか」「手だけ貸して」「ちょっと待って、イス持ってくるね」という形に変えると、相手は「止められた」よりも「支えられた」と受け止めやすくなります。同じ目的(トイレに行きたい、ベッドから立ちたい)を一緒に目指す言い方は、衝突を起こしにくいのです。
この「一緒に」という声掛けは、ただの気休めではありません。安心した状態のほうが足取りはゆっくりになります。ゆっくりになれば、転ぶ危険は目に見えて減ります。つまり、言葉そのものが安全の道具になっている、と言って良いくらい大切なんです。
「心配だから怒ってる」ではなく「あなたが大切だから守りたい」に変えるだけでいい
時々、言い合いになってしまうことがあります。特に親子の間では、「あんたに世話になんかならない」とか「ほっといてくれ」という、強い言葉が飛ぶこともあります。これを真正面から受けると、こちらは心が折れてしまいますよね。
そんな時は、言葉の全部を正面から受け取らずに、ただ芯だけを返してあげてください。「わかった。ほっとけって言われたのは分かったよ。でも、私はあなたが大切だから心配なんだよ」という風に、気持ちだけをそっと置いていきます。すぐ仲直りしようとしなくて大丈夫です。大人同士のプライドって、すぐに下がらないのが普通だからです。
家族がギクシャクしてしまうと、「じゃあもう何も言わない」となってしまいがちですが、本当に言わなくなると、今度はお互いが黙って傷つきます。言葉をゼロにするのではなく、強い指示ではない形のことばを細く続ける。それで十分なんです。
第3章では、少し気まずい場面での言葉の向けかたを中心にお話しました。これは、相手の自由とプライドを守りつつ、安全に近付いてもらうためのコツです。次の第4章では、「もう少し具体的に人に頼りたい時、どこに声をかければいいのか」をまとめます。どこに相談していいか分からない間が、じつは一番辛い時間です。そこであわてず、順番を作っていきましょう。
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第4章…どこに相談すればいいの?~地域の相談窓口とサービスの入り口をやさしく整理~
家族の体や暮らしが心配になってきた時、多くの人が躓くポイントは「誰に話せばいいのか分からない」というところです。いきなり大きな施設や大きなお金の話をするのって、正直怖いですよね。「もし断られたらどうしよう」「まだ早いって言われたら気まずいな」と感じて、そのまま日だけが過ぎてしまうことが本当に多いです。
ここでは、「まずここに言ってみよう」という順番と、実際どんな風に話しかければいいのかをまとめます。ポイントは、立派な説明を用意しようとしないこと。メモ書きレベルで十分です。プロに会う時は、頑張って強い家族を演じる必要はありません。「ちょっと心配なんですけど」で大丈夫です。
一番近い味方は街の相談窓口
すぐ頼れる場所としておすすめしたいのは、お住まいの市区町村にある高齢者向けの総合相談の窓口です。呼び名は地域によって少しずつ違いますが、「高齢福祉の相談」「見守りの相談」「地域での支えあいの相談」などの言葉がついていることが多いです。
ここで聞かれるのは、いきなり難しい制度の話ではなくて、「どんな様子ですか?」「最近特に困ったのはいつですか?」という、普通の暮らしの話です。つまり病名や専門用語ではなく、あなたが第1章と第2章で感じたことをそのまま伝えれば大丈夫です。
例えば、こんな風に伝えてみてください。
「夜にトイレへ行く時にふらついていて転びそうで心配なんです」
「同じ服をずっと着ていて、着替えがしんどいのかなと思っています」
「冷蔵庫の中がちょっと気になって…。ご飯がちゃんと食べられてるのか迷っていて……」
このくらいで十分です。かっこよくまとめるより、日常のままを話すほうが伝わりやすいのです。ここから先は、担当の人が「じゃあこういう支え方がありますよ」と道の地図を一緒に描いてくれます。
普段のかかりつけ医も体だけじゃなく暮らしごと聞いてくれることがある
昔から通っているお医者さんや、お薬をもらっているクリニックがあるなら、そこにチラッと相談するのも手です。「お薬ちゃんと飲めてますか?」という確認だけでなく、「夜ふらつくことが増えたみたいでちょっと心配なんです」と家の中の話をしてもかまいません。
大きな検査がすぐ始まってしまうのでは、と身が引ける人もいますが、実際には「では足元を明るくしてくださいね」「無理に一人でトイレに行かないよう声をかけてくださいね」といった、かなり身近なアドバイスから始まることが多いです。お医者さんは、家族に「あなたが悪いわけじゃないよ」と言ってくれる役目も持っています。特に気持ちが沈んでいる時は、このひと言が心の支えになります。
ここでも「完璧に伝えなきゃ」と思わなくて大丈夫です。メモに「夜ふらつき」「服装が前と違う」と2つほど書いて持っていくだけで、話しやすくなります。紙に書いておくと、涙が出そうな時でも読み上げるだけで伝わるので安心です。
介護の専門職はいきなりお願いしても失礼ではない
「まだ本格的ではないのに呼んでいいのかな」と遠慮してしまいやすいのが、介護の相談にのってくれる専門職の人たちです。でも、本当は「まだ本格的じゃない段階」こそ相談してほしい、という考え方の人が多いんです。何故なら、早いほどゆっくり準備が出来るからです。
ここでのコツは、「もうお世話してください」という頼み方ではなく、「何から始めればいいでしょうか」という尋ね方にすることです。
「夜のトイレが心配で。私が毎晩付きっ切りになると続かないと思っていて、どういう助け方があるのか教えて欲しいです」
「一人で着替えが難しそうなんですが、どこから手を入れてあげると良いですか」
こういう入り方なら、相手は状況の整理役として動きやすくなります。あなたが我慢の限界になる前に道を作ることは、ぜんぜん我儘ではありません。むしろ安全に近づく行動です。
相談に行く前にメモしておきたいこと
相談の場に行く時、いわゆる「正解の答え」を揃える必要はありません。ただ、あなた自身がスッと説明しやすくなるので、メモしておくと助かる項目はあります。
1つめは、「一番心配な時間帯」。昼なのか、夕方の黄昏時なのか、夜中なのか。例えば夜なら、「夜中に起きて歩き回ろうとする」「暗い中でトイレへ急いで転びそうになる」などと書いておきましょう。
2つめは、「本人がイヤそうにしていること」。例えば「手伝おうとすると怒る」「トイレを勧めるとイヤな顔をする」などです。これは我儘ではなく、誇りや不安の表れなので、とても大切な情報です。
3つめは、「あなたがそろそろ限界を感じる場面」。正直に書いていいところです。「夜は2時間ごとに起きて見に行っていて、朝が辛い」「仕事がある日も眠れない」など、あなたの生活そのものを書きます。サポートの人は、本人だけでなく、あなたも支える対象として見てくれます。これは甘えではありません。家族が潰れてしまったら、本人も安心できなくなるからです。
この3つのメモがあるだけで、相談の場はグッと話しやすくなります。上手く話せなくても、紙を見せるだけで伝わります。泣いてしまっても大丈夫です。泣けるということは、それだけ大切に思っているということだからです。
「もう施設に入れるしかないの?」と思ったときに知っておきたいこと
家族としては一番言いたくない言葉かもしれませんが、「このまま家では難しいかな」という考えが頭を過る瞬間は、大抵、誰にでも訪れます。そのたびに自分を責める必要はありません。これは冷たい判断ではなく、「この人を安全に守るにはどうしたらいいんだろう」と本気で考えた結果生まれる危機感だからです。
ここで覚えておいて欲しいのは、「いきなり引っ越す」か「完全に家で頑張る」かの二択ではない、ということです。昼だけ手を借りる、夜だけ見守りをお願いする、短いお泊りで家族が休む時間を作る、という形もあります。段階は1つではありません。
だから、相談の時に「施設しかないんでしょうか」と聞くよりも、「昼と夜、どっちを先に軽くしたらいいでしょうか」と尋ねる方が、具体的な提案が返ってきやすいのです。プロは、あなたの今一番しんどい時間帯からほぐしていく道筋を一緒に考えてくれます。全てを一度に変える必要はありません。
ここまでで、「どこに話せばいいの?」「私の言い方でいいの?」という不安が、少し和らいだら嬉しいです。次の第5章では、支える側のあなた自身の気持ちの守り方について一緒に見ていきます。体のサポートも大切ですが、心が折れてしまったら続けられません。あなたが潰れないことは、我儘ではなく、大切な人を守るための条件そのものなんです。
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第5章…家族が潰れないための気持ちの守り方
介護や見守りは、目に見えないところでとても大きな力を使います。例えば夜に起きて様子を聞きに行く、急に呼ばれたらすぐ駆けつける、同じ話を何回も受け止める、きつい言葉をぶつけられても呑み込む。これは普通の元気だけでは続きません。心の方もすり減っていきます。
それでも多くの家族は「私が弱音を言ったら申しわけない」「この人は年をとっているのに、まだまだ甘えているみたいで嫌だ」と、自分の方を後回しにします。ここでは、それがどれだけ重いことなのか、そして「守っていい一線」をどこに置けばいいのかを、丁寧に言葉にしていきます。
「私が怒ってしまった」それは失敗ではなくて今が限界に近いというサイン
介護や見守りの中で、つい声を荒げてしまうことはあります。「もうムリだからね!」「勝手にしないでよ!」と言ってしまった後に、後から胸がチクチクして、自分をきつく責めてしまう人もいます。
でも、そこで罪だけを感じる必要はありません。その言葉は、ただの我儘ではなく「これ以上、一人では抱えられないよ」という合図なんです。体が熱の時に出る咳と同じで、心にも合図が出ます。その合図が「強い言い方」になって溢れてしまっただけです。
つまり、「怒ってしまった私はダメ」というより、「ここで助けが必要だよというSOSが口から出た」と考えて欲しいのです。自分を責めるよりも、「あ、今、赤信号がついたんだな」と気付くことが、次の一歩になります。
一人で全部やろうとすると相手も不安になる
家族はよく「全部、私がやらなきゃ」と決めてしまいます。けれども実は、それは相手の方も落ちつかなくさせてしまうことがあります。「この子に負担をかけている」「自分のせいで疲れさせている」という思いは、とても重たいものです。年をとった方ほど、その重さを気にします。
だから「手伝ってくれる人を増やす」「ちょっと預かってもらう時間を作る」「夜だけ他の人の目を借りる」という工夫は、あなたの休憩のためだけではありません。相手の方も、「自分のせいで家族が壊れるのでは」という不安から少し自由になれます。
「家族が元気でいてくれること」が、一番安心な環境なんです。つまり、あなたが休むことは、お互いの気持ちを守るための方法でもあるのです。
「今日はここまででお終い」と区切る力は弱さではなく技術
真面目な人ほど、今日も明日も明後日も、家のことを全て片付けてからでないと休んではいけない、と感じます。でも、介護や見守りはゴールテープが見え難いマラソンのようなものです。終わりの合図が鳴らない毎日で、全力ダッシュは続きません。
そこでおすすめしたいのが、「今日はここまででお終い」と口に出して区切ることです。
例えば、「今日は冷蔵庫の中を一緒に整えたから、そこまででいい」「今日は夜の灯りを付けたから、そこまででいい」。このように、1日にやることを1つだけ決めて、その1つが終わったらそこで終了にします。
この区切りは、怠けではありません。むしろ長く支えるための技術です。毎日100点を目指して折れてしまうより、毎日60点で静かに続いた方が、家族皆の安全は守りやすいんです。
誰かに喋ることは、泣き言ではなく整理の作業
身内のことは、なかなか友人に話し難いものです。特に親のことは「かわいそうだね」と言われたくない、パートナーのことは「大変だね」と同情されたくない、そう思ってしまい、一人で抱え込む方が本当に多いです。
でも、人に話すことそのものが「考えの整理」になります。言葉にしている間に、自分がどの部分に一番モヤモヤしているのかが、自分でも分かってきます。「あ、私が一番辛いのは夜なんだ」「私は怒られたことじゃなくて無視されることがキツイんだ」と、芯が見えてきます。
芯が見えると、次に何を軽くすればいいかも見えます。夜が辛いなら夜だけサポートを足す、無視が辛いなら言葉の向け方を変える。対策が「ぼんやりと全部」ではなく「ここだけ」に絞れると、心はかなりラクになります。
「泣き言を言ってしまってごめんね」ではなく、「今、頭の中を並べてるところなんだ」と思って話していいんです。話すことは、弱音ではなく作業なんです。
自分の生活も続けて良いという許しを自分にちゃんと出す
支える側には、もう1つ大きな悩みがあります。それは「自分の楽しみは悪いことなのでは」という罪悪感です。好きなおやつを食べる、好きな動画を見る、短いお出掛けをする。それをしただけで、「こんなことしている場合じゃない」と胸が苦しくなることがあります。
けれども、あなたが全てをやめてしまうと、毎日が呼吸しづらくなります。呼吸が浅くなると、イライラや涙が表に出やすくなります。そしてそのイライラは、大切な相手にぶつかります。するとまた自己嫌悪になります。これが一番辛い悪循環です。
だから「今日は30分だけ好きなことをする」と決めるのは、ただの気晴らしではありません。大切な人をやさしく扱い続けるための準備です。あなたが笑っている日があることは、周りの人にとって安心材料なんです。むしろ必要なことなんです。
「私がイヤになる前に止まる」も立派な守り方
時々、「このままいくと私は声を荒げる」「キツいことを言いそう」という予感が胸に出る瞬間があります。そこに気づけたら、とても偉いことです。それは、心のブレーキがちゃんと動いている証拠だからです。
その合図が出たら、いったん場を離れていいんです。「ちょっとお手洗いね」「お茶いれてくるね」と言って、数分だけでも距離をとってください。それは逃げではありません。あなたも相手も怪我をしないように、安全地帯に避難しているだけです。
「我慢こそ美徳」という考えが染み付いていると、この離れる行動をサボりのように感じてしまいます。でも実際は逆で、離れるのが上手い人ほど長く支え続けられます。そして、怒鳴り合いにならないことそのものが、大切な人の安心にもつながります。
第5章では、「家族であるあなた自身」を守るお話をしました。これは我儘でも、サボりでもありません。むしろ、これが無いと長く見守ることはできません。
あなたが休むこと、助けを呼ぶこと、今日はここまでと区切ること、少し笑うこと。それは全部「大切な人を本当に守りたいからこそ選ぶ行動」です。
次のまとめでは、ここまでの流れを一端、整理して、「今日、まずどこから手を付ければいいか」をもう一度、一緒に決めていきましょう。
▼詳しく読む
□ 春風に吹かれて何度でも!認知症の“無限ループ会話”との付き合い方のほんわか指南書
□ 4月はストレス注意報!?新生活をラクにするリラックス術
まとめ…慌てて全部抱き抱えこまなくて大丈夫~今日出来ることを1つだけ決めよう~
ここまで読んでくださって本当にありがとうございました。もしあなたが今「どうしよう」「もう無理かも」と胸がギュウッとなっているなら、その気持ちは間違っていません。むしろ正しいです。だって、あなたはもう気づいてしまったからです。「この人は、ちょっと前と同じではいられなくなってきているかもしれない」ということに。そして「私も、前と同じではしんどいかもしれない」ということに。
第1章では、冷蔵庫・服そう・トイレという3つの場所を一緒に見ました。これは、責めるためではなく、静かに今を知るための見方でしたよね。ここを覗くことで、「ごはんは足りている?」「着替えはつらくなってきていない?」「夜あぶなくない?」といった、毎日の暮らしの土台が分かります。無理に問いつめなくても分かるので、相手のプライドも守りやすい場所でした。
第2章では、夜の不安を少し軽くする工夫を考えました。足元をやさしく明るくするライト、立ち上がりの時に掴まる場所、小さな合図で「動き出したよ」と気付ける仕組み。どれも大がかりな準備ではなく、「今夜を安全にする」というとても身近な一歩でした。これは、本人を守るだけではなく、あなたが夜通し気を張り詰めないための助けでもありました。
第3章では、言葉の向け方を考えました。「大丈夫?」という確認ではなく「会いたかったよ」という気持ちから入ること。強く止める言葉より「一緒に行こうか」という並び方で支えること。差し入れを「役に立つ物」ではなく「あなたのことを思って選んだ物」として手渡すこと。言葉そのものが安全の道具になる、というお話でした。
第4章では、「どこに話せばいいの?」に答えました。市区町村の相談先、普段の先生、介護の専門職。どこも「いきなり本番です」という場所ではなく、「様子を聞かせてくださいね」と言ってくれる場所でした。かしこい説明より、日常のそのままを伝える方がちゃんと届く、ということもお伝えしましたね。あなたが泣いてしまってもいい場所である、ということも。
第5章では、あなた自身の心の守り方を見ました。怒ってしまった自分を責めないこと。一人で全部やろうとしないこと。「今日はここまで」と区切ること。少し離れること。少し笑うこと。それらはサボりではなく、長く支えるための技術だということをお話ししました。あなたが潰れないということは、相手にとっての安心そのものだからです。
ここまでの内容を一遍に実行する必要はありません。むしろ、一遍にやろうとすると、心も体も一気に限界に近づいてしまいます。大切なのは「今日、どれを1つだけやるか」を決めることです。
例えば、今日は冷蔵庫を一緒に整理するだけでもいいんです。
今日は寝室からトイレまでの間にライトを1つ置くだけでもいいんです。
今日は「会いたかったよ」とだけ伝えて帰る日でもいいんです。
今日は相談窓口の電話番号だけメモしておく日でもいいんです。
今日は「私がしんどいんだよ」と紙に正直に書くだけの日でもいいんです。
その1つは、とても小さなことに見えるかもしれません。でも、その小さなことが「私は動けた」という自信になります。その自信は、「私は何もできていない」という自己否定をゆっくり溶かしてくれます。そしてその安心は、相手の安心にも繋がります。
あなたは、もう十分に優しいです。すでにちゃんと動いています。何も知らない人ではありません。第1章からここまで読んでくれたということは、それだけ本気で誰かを大切に思っているということです。
どうか自分にこう言ってあげてください。「今日はここまででいい」。それは逃げ言葉ではなく、家族をこれからも支えていく人のとても強い宣言です。
今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m
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