小雪の頃ってどんな季節?~11月22日から始まる小さな冬の楽しみ方~
目次
はじめに…冬がそっと動き出す日が小雪の季節です
小雪(しょうせつ)という言葉にはふんわりとした優しさがあります。まだドカンと雪が積もるわけではないけれど、空気の冷たさがはっきり変わってきて、雨が少しずつ雪混じりに変わる頃。二十四節気の第20番目の小雪で、太陽の通り道が240度の位置に来るタイミングとされています。今の暦だと、だいたい11月22日頃がその日はじまりの頃合いです。
「小雪」は1日だけの名前ではありません。この日から次の節気である大雪(たいせつ)の前日、つまり12月6日頃までの間全体を指す言い方でもあります。言い替えると、11月下旬から12月初めにかけての空気そのものが「小雪」なんですね。立冬(りっとう)で「冬が来ますよ」と合図が鳴って、その次にくるのがこの小雪。そしてさらに先には本格的な寒さの大雪。この並びを見ると、小雪は冬の入口より一歩奥、いよいよ本気で冷えてくるドアの内側、といったポジションです。
この頃の日本の空は、夏や秋のにぎやかな色から、しっとり落ち着いたトーンに変わります。西日が低くなり、午後4時台から部屋の中にオレンジ色の光が差し込んで、壁もカーテンも夕焼け色に染まる日が増えてきます。外に出ると北からの風はキュッと冷たくて、耳や指先が「もう手袋が欲しい」と呟きます。落ち葉はカサカサと道を滑り、掃除する人が追いかけても追いかけても、次の一陣の風がさらっていく。江戸時代の暦の本『こよみ便覧』では「冷ゆるが故に雨も雪と也てくだるが故也」と書かれていて、冷え込みのおかげで雨が雪混じりになる、と説明が残っています。たしかにこの時期、北の地域では「初雪だよ」と声が聞こえ始めます。
小雪の初め頃は「虹蔵不見(にじ かくれて みえず)」といって、虹が見えにくくなる時期とされます。夏は夕立の後に大きな虹が出てくれましたが、今の雨は細かくて冷たく、空気も乾いてきて、色の橋はなかなか現れません。次には「朔風払葉(きたかぜ このはを はらう)」という言い伝えが続き、北風が木々の葉を一気に払い落とす、と表現されます。木の枝はどんどん裸に近づき、歩道はカラフルな落ち葉の絨毯になっていきます。末の頃には「橘始黄(たちばな はじめて きばむ)」といって、柑橘の実がゆっくり色づく合図がくる。まるで、「そろそろこたつと蜜柑の準備をしてくださいね」と季節が声をかけてくれているみたい。
この時期は、家の中でも変化が起きます。押し入れからフワフワのこたつ布団が引っぱり出されて、ラグは夏用のさらさらから、温かタイプに衣替えします。テーブルの上にはみかんが乗り始め、「今日のは甘いかな?」と家族で味見が始まる。夜は湯気の昇るお鍋がうれしい季節で、白菜、ねぎ、大根の白い色が食卓の主役になっていきます。台所に立つ人にとっては、まさに「冬の湯気が始まる日」が小雪なのです。
この緩やかな変わり目は、心にもカチッとスイッチを入れる時期になります。11月22日から12月初めまでは、今年も頑張った人へ「ありがとう」をちゃんと渡したくなるタイミング。家族に、同僚に、介護や看護の現場で支えてくれている人に、言葉で温もりを手渡すにはちょうど良い季節です。年末のドタバタが本格的になる前に、温かい言葉で部屋を温めておく。これもまた、大切な冬支度の1つだと思います。
そしてもうひとつ。「小雪」は体調管理がほんの少し難しくなる時期でもあります。昼はまだなんとか大丈夫でも、夜は一気に足元から冷え込んで、朝起きたら首や肩が強張っている…そんな声が増えるのがちょうどこの頃。首・手首・足首を冷やさない工夫や、温めのお湯でゆっくり温まってから眠る習慣が、実はとても役に立ちます。部屋の乾燥も進むので、喉やお肌の潤いを守る小さな工夫が、冬全体をラクにしてくれます。
つまり「小雪」は、ただ「雪が少し降るよ」という日ではなく、「空」「暮らし」「台所」「気持ち」「体」までが、一斉に冬仕様へ切り変わっていくスタート合図の時期なのです。11月22日から12月6日頃までの間に、あなたのお家ではどんな音やにおい、どんな湯気、どんな温かい言葉が生まれるでしょうか。この後に続く章では、その答えを1つずつ覗いてみましょう。
[広告]第1章…空の色と北風が教えてくれる「冬はもうここまで来てるよ」
11月下旬の空は、夏や秋のにぎやかさを少しだけ脱いで、やわらかな白さを纏い始めます。太陽が低くなり、午後の光りは長い影を作ってゆっくり部屋に入り、16時過ぎにはカーテンがオレンジ色に染まります。ベランダの手すりに指をそっと置くと、ヒヤリとした冷たさが伝わってきて、頬に当たる風もキュッと細くなります。耳朶や指先が「手袋を用意してね」と囁くようで、景色の色も音も、少しずつ冬の顔に変わっていきます。
この頃の合図として昔から語られてきたのが「虹蔵不見(にじ かくれて みえず)」という言葉です。夏は夕立の後に大きな虹が現れましたが、今は雨粒が細かくて冷たく、空気もカラッとしているため、虹色の橋はなかなか姿を見せません。子どもに尋ねられた時は、「空がキュッと冷えて、虹のインクが出にくくなっているんだよ」と説明すると、季節の移り変わりをやさしく想像してもらえます。
やがて木々の足元では落ち葉がカサカサと転がり始め、「朔風払葉(きたかぜ このはを はらう)」の情景そのままに、北からの風が枝に残った葉をひと息でさらっていきます。朝の公園を歩くと、踏みしめるたびに軽やかな音が弾み、校庭や並木道には色とりどりの絨毯が敷かれます。風が強い日は、葉が空へ舞い上がってくるくる回り、まるで空が大きな箒を振っているみたいに見えます。
空気の手触りの変化は、暮らしのリズムにも静かに入りこんできます。洗いたての服は日なたでふんわり乾くのに、日陰では思ったより冷たく、夕方の外出は首元をひと巻きするだけで安心感がグッと増します。吐く息は白く、朝の窓ガラスには薄っすら水の模様が描かれて、指で小さな絵を描きたくなります。北の地方では「初雪が舞ったよ」と嬉しい声が聞こえはじめ、街の足音もコートの布が擦れ合う音に少しずつ置き換わっていきます。
季節の物語は木の実にも続きます。庭の橘やみかんの実が少しずつ黄色を帯びて、枝の緑に明るい光を点すようになります。遠くの山はすりガラス越しのように淡く、夕焼けの時間は短いのに、一番濃い橙色を一瞬だけ見せてくれます。その一瞬を見送ると、辺りはすぐに藍色へと沈み、温かな室内の灯りが心地よく感じられます。
こうして空と風が少しずつ冬の顔を見せるこの時期は、「冬支度を始めるよ」という自然からのやさしいメッセージです。次の章では、そのサインを受け取った家の中がどう変わっていくのか、こたつやみかん、加湿の話題と一緒に見ていきましょう。
第2章…こたつとみかんと加湿の時間 おうちが冬モードになる瞬間
こたつ布団をかける日は小さな冬祭りみたいなもの
11月下旬から12月初めにかけて、家の中でもっともドラマチックな出来事と言えば、何と言ってもこたつ布団の登場です。押し入れからフワッと出して、パタパタとはたいて、テーブルの角にそっと合わせて広げるあの瞬間。ホコリを払う手つきは、毎年同じはずなのに、どこか儀式っぽい特別さがあります。「今年もここに集まろうね」という合図のようで、家族の視線が自然とそこに集まります。電源スイッチを入れる前から、そこはもう家の中心になります。
こたつが出ると、部屋のレイアウトそのものが冬仕様に変わります。ラグは夏のさらさら素材から、厚手でふっくらとしたものになり、床に座り込む時間が長くなっていきます。そこに体を半分埋めると、下半身だけ先に冬支度が完了してしまうような安心感があって、気がつくと全員が同じ場所でテレビを見たり、本を読んだり、スマホをいじったり、用事もないのにただボーッとしたりします。気温が低い外の世界と、温かいテーブルの下。このギャップこそが小雪の贅沢です。
昔から、こたつの傍は「話をしやすい場所」でもありました。学校であったこと、仕事であったこと、ちょっとした愚痴もほめ言葉も、立ったままだとわざわざ言い難いのに、こたつに入ってしまえば何故か口に出しやすくなる。高齢の方にとっても、長時間の立ち話よりも、足を温めながら腰を落ち着けて向かい合う方が体に負担が少なく、安心してゆっくり喋ることができます。11月の終わり頃から12月の初めは、ただ寒いというだけではなく、家の真ん中に「ここにいれば大丈夫」という場所が戻ってくる時期なのだと感じます。
みかんのカゴがテーブルに置かれるともう冬の顔になる
こたつと一緒に存在感を増すのが、みかんです。テーブルの上に小さなカゴやお皿が置かれて、黄色からオレンジ色へと少しずつ濃くなっていく実が、ぽんぽんと積まれていく。それを誰かが1つ取って、爪で皮に小さな切れ目を入れると、フワッと広がるあの甘い香り。あの香りが部屋に漂い始めると、「ああ、今年も冬がきた」と確信できます。
この時期のみかんは、外側がまだ少しかための日もありますが、とびきり甘い当たりに出会えると、ちょっとした勝負に勝ったような気持ちになります。「今日のは当りだよ」と誰かが言えば、隣の人も試してみたくなって、自然と手が伸びる。皮を綺麗に花の形に開いて並べるのが得意な子がいたり、白い筋まで綺麗に取ってあげるのが上手なおじいちゃんがいたり、同じみかんなのに、むき方や食べ方にそれぞれ個性があるのも面白いところです。
そして、みかんはそのまま冬の元気の話題にもつながります。空気が乾き始めると喉がイガイガしたり、朝起きた時に声が掠れたりすることがありますが、みかんは口の中にやさしい瑞々しさをくれる果物として、とても身近な味方です。子どもにもお年寄りにも渡しやすく、火を使わず、包丁もいらず、そのまま手で剥いて食べられる。こたつの中から動かずに手が届く距離にある、というのも冬らしい幸せです。
乾燥と仲よくつき合う工夫は喉とお肌の守り神になる
「小雪」の頃の空気は、冷たいだけではなくて乾いています。昼間はまだそれほどでもないのに、夜になると一気に乾燥して、朝には喉がカラカラ、唇がひび割れそう、という声がグッと増え始めます。これは北風がしっかり吹き始めるサインでもあって、体の表面の潤いが奪われやすい時期に入った合図です。
そこで頼りになるのが、部屋の加湿や、温もった飲み物です。難しいことをしなくても、お湯や白湯をゆっくり口に含むだけで、喉の内側が落ち着くことがあります。寝る前にあまり熱過ぎる飲み物ではなく、ふうふうせずに飲める温度のものを少しだけ。そうすると、夜中の乾いた咳が和らいだり、朝一番の声が出しやすくなったりします。
お肌も同じで、北風は目に見えない小さな泥棒だと考えると分かりやすいです。風が当たる場所、例えばほっぺや唇や手の甲から、水分をスウッと持っていってしまいます。お風呂あがりに保湿をさっと馴染ませるだけで、その泥棒を追い返すことができる、とイメージしてあげると、子どもにも高齢の方にも伝えやすくなります。特に指先がカサカサになると紙がめくりづらい、ボタンが留めづらいなど、ふだんの作業に小さなイライラが出てきます。だから冬の準備は、家を温めるだけではなく、手の平と唇の調子をキープしてあげることも大切なのです。
家の中の空気をほどよくしっとりさせることは、体を守ることと同時に、気持ちを緩ませる力も持っています。乾ききった部屋では、人は知らない間に肩や首に力が入りがちで、呼吸が浅くなりやすいと言われます。ほんのり温かく、ほんのり湿った空気の中で、こたつに潜り込み、みかんをむいて、今日のことを話す。これ以上ないくらい日本の冬らしい時間が、まさに小雪の頃から始まります。
こうして見ると、11月22日から12月初めのこの短い期間は、ただ寒くなるだけの時期ではありません。こたつが家族の集まる場所になり、みかんがテーブルの真ん中に座り、空気の乾きに気をつけるだけで、家そのものが安心のぬくもりスペースに変わっていきます。次の章では、同じ時期に台所で起きているもう1つの大きな季節の変化、つまり湯気と白菜と大根のお話へ進みます。
第3章…所は湯気の季節へ~白菜と大根と土鍋の幸せ~
台所にフワッと立ち昇る湯気は冬の始まりの合図です
11月下旬から12月初めの台所には、目に見える温かさが増えてきます。コンロの上で土鍋がコトコトと音を立て、蓋の隙間から白い湯気がフワリと逃げていく。その湯気が、窓ガラスに小さな水の粒を作って、部屋の空気までやさしく温めてくれる。これが小雪の頃の台所です。料理というより、家そのものを温める行為が始まる時期と言ってもいいくらいです。
普段は料理する人だけの場所だったキッチンに、家族が覗きに来ることも増えます。「何作ってるの?」と蓋を開けようとして「まだだよ」と止められるやり取りは、この季節の名物かもしれません。土鍋の周りに人が集まり、食べる前からもう会話があたたかい。湯気は食欲だけでなく、人を集める力も持っているのだと感じます。
この時期の土鍋の主役は、何と言っても白菜です。白菜は、ぐつぐつ煮こまれると葉っぱの白い芯が透明がかったやさしい色に変わり、口に入れると蕩けるような甘さになります。冷たい外気にあたった白菜は、特に甘みがグッと増してくるので、スプーンでそっと掬うだけで幸せな気持ちになります。少しだけお醤油やお味噌が入った出汁を吸い込んだ白菜は、体の中から寒さをほどいてくれる小さな毛布みたいな存在になります。
白菜と肩を並べるもう1つの冬の顔が大根です。大根は厚めに切ってコトコト煮ると、中まで出汁が沁み込んで、お箸を入れるだけでホロリと広がります。口に入れると、ジュワッと温かいスープが沁み出して、冷えていたお腹の底から「ホッとした」という声が上がるような感覚になります。おでんの大根はもちろん、味噌汁の大根、豚バラと一緒に煮た大根、とにかく大根があるだけで鍋の中は冬のご馳走に変わります。大根の葉っぱも、じつは細かく刻んで炒めたり、ふりかけのように使えたりして、無駄なく使えるところが嬉しい。もったいない精神は年配の方が一番喜ぶ話題であり、同じ食材を大事にしてきた長い時間も、一緒にテーブルへ運んでくれます。
土鍋では、白菜と大根に加えて、長葱のトロリとした甘さや、きのこの香り、豆腐の柔らかさ、生姜の温かい刺激などが仲間になります。グツグツいう音は小さなストーブのようで、部屋全体がしんしんと冷えてきた夜でも、テーブルの上だけはふんわりと湯気の雲がかかっているように見えます。「あ、眼鏡が曇った」と言いながらフーッとレンズを拭く仕草も、この時期の食卓の風景の1つです。体だけじゃなく、笑い声まで温めてくれるのが冬の鍋料理のいいところです。
干して漬けるという冬支度はちょっとした台所の伝統行事です
小雪の頃の台所には、もう1つ大事な景色があります。それが「干す」「漬ける」という準備です。ベランダや軒下につるされた干し柿、半分に割って干される大根、しんなりさせてから漬け物の下拵えに入る野菜たち。どれもすぐに食べるわけではありません。だけど、この手間をかけておくことで、冬の間のご馳走が少しずつたまっていくのです。
例えば大根を干すと、水分がほどよく抜けて味が沁み込みやすくなり、煮物にした時にギュッと味を抱きしめてくれる、深い味わいになります。干し柿は、皮を剥かれた渋柿が寒い外気の中で少しずつ萎み、だんだんと宝石みたいな甘さを纏っていきます。どちらも、時間そのものがおいしさになる食べ物です。すぐに結果が出ないのに、手をかける。これはとても日本らしい冬の知恵で、子どもにとってはちょっとした「理科の観察」みたいな楽しさにもなりますし、高齢の方にとっては「ああ、これこれ」と思い出話が溢れ出す瞬間でもあります。
保存の用意は、安心の用意でもあります。台所で静かに進むこの準備は、「寒い日が来ても、温かい物がちゃんとあるから大丈夫だよ」という未来の自分への手紙のようなものです。急に冷えこんで買い物に出るのが億劫な夜でも、前もって用意しておいたお漬物や下ゆでした野菜があるだけで、一汁一菜がすぐ整ってしまう。体を温めることはもちろん、気持ちを落ちつけることにも繋がります。冬のご飯には「やさしい手間」という安心感が、ちゃんと味として入っているのです。
台所の湯気は家族の真ん中で交わされる会話までも温める
土鍋を囲むと、人は自然と向かい合います。お皿に取り分けてもらうのを待っている間、普段ならスマホを見てしまうはずの手が、何故か止まります。湯気の向こうにいる相手の顔が、少しだけ赤く、やわらかく見えるからかもしれません。「今日は寒かった?」「手、冷たいね」「明日、マフラー持っていきなよ」など、何でもない会話がポロポロ出てきて、それが体内の温もりみたいにゆっくり広がっていきます。
この時期の食卓は、ただ美味しい物でお腹を満たすためだけの場所ではなくなります。冷たい外と温かい内側の間にある、境目のテーブル。一人ひとりの体温を交換して、今日はどんな一日だったかをゆっくり受け渡す、小さな居場所。もし家族に年配の方がいれば、食べやすい大きさに切ってあげる、熱過ぎないところをよそってあげる、そういった自然な気遣いもそこに乗ります。そういう気遣いは、相手の体を守るだけでなく、「あなたのことを見てるよ」という気持ちを伝える働きも持っています。
そして、この季節の台所と食卓の過ごし方は、体の守りにもなります。白菜や大根のやさしい甘さ、ゆっくり温まるスープ、生姜のポカポカとした刺激、柑橘の爽やかな香り。どれも、冷えた体をゆっくりほぐしてくれる味です。無理をせず、体をガンガン熱くさせるのではなく、温いお湯にジンワリ手を入れるみたいに温めていく。そうすることで、夜、布団に入ったときに筋肉がカチカチにならず、朝の強張りも少し和らぐことがあります。これは特別なサプリや高価なグッズではなく、家の台所が毎年ちゃんとやってきてくれる冬の魔法のようなものです。
「小雪」という季節は、空の色や北風の冷たさだけでなく、キッチンの火と湯気の物語が一緒に動き出すタイミングです。白菜の白い芯が透き通るまでコトコト煮こまれ、大根が出汁をたっぷり抱きしめ、皆で「ふうふう」しながら食べる。この面倒のない幸せは、冬の始まりにしか味わえないご褒美です。次の章では、この温かい食卓からもう一歩広げて、11月下旬から12月初めに自然と生まれる「いつもありがとう」という気持ちの渡し方について触れていきます。
第4章…「いつもありがとう」を渡すタイミング 11月下旬は心もあたためる日
いつもありがとうと口にしやすい季節があるというお話
小雪の頃は気温だけでなく気持ちの流れも静かに冬支度になります。11月22日頃から12月初めにかけて、人は不思議と「今年もここまで頑張ったね」という気持ちを口にしやすくなります。これは偶然ではなく、1年の終わりが見え始める時期だからこそ生まれる、軟らかい心の習慣なのだと思います。
この時期には「勤労感謝の日」という祝日があります。11月23日という日付は、カレンダーの上ではたった1日の赤い数字に見えるのですが、その意味はとても大きいです。本来は働いてくれている人にありがとうを伝える文化の日とされていて、家族の中でも、職場でも、介護や医療の現場でも、「いつも助かってるよ」と本音を言いやすい空気が生まれます。ただの休みの日ではなく、「あなたの頑張りはちゃんと見てるよ」と目を合わせて伝える日、と言い替えても良いくらいです。
お皿を洗ってくれる人、ゴミを外に出してくれる人、夜遅い送り迎えをしてくれる人、体調の辛い人をそっと支えている人。普段は当たり前として流れていく行動の1つ1つを、ちゃんと名前をつけて褒めてあげられるのが、この11月下旬です。「今日もお疲れ様」「助かったよ」「ありがとう助かった」は、どれもお金では用意できないご褒美で、聞いた方は体の芯まで温まります。そして、言った方の心も何故かじんわり明るくなります。言葉は相手だけでなく、自分自身も温めるんだな、と気付けるのが、この季節の良いところです。
介護や看護の現場でも、11月の終わりはとても大切なタイミングになります。年末が近づくほど現場は忙しくなることが多く、師走に入ると1日があっと言う間に終わってしまいます。その前の少し静かなこの時期に、「いつもありがとうございます」「安心して任せられています」と早めに伝えておくと、お互いの気持ちがとても安定します。大げさな手紙やプレゼントでなくても構いません。こたつの上で、帰りぎわの玄関で、マスク越しでもいいから、ちゃんと声として渡すことに意味があります。
年末の慌ただしさの前に暮らしを整える緩やかな準備タイム
小雪の時期は、家の中がゆっくりと冬の形に整っていく期間でもあります。12月に入ると一気に行事や予定が詰まって忙しなくなるので、その直前である11月22日から12月6日頃までは、気持ちの息継ぎが出来る貴重なゾーンだと言えます。
この頃、家の片隅には来年のカレンダーがそっと置かれ始めます。手帳コーナーにはもう新しい年の予定を書き込むスペースができていて、「来年はどんな風に過ごそうか」という会話が自然に出てきます。台所では、お正月ほど本格的ではないけれど、保存しやすい物を少しずつ整える下準備が始まり、玄関ではコートやマフラー、手袋がすぐ出せる高さに移されます。灯油ストーブやファンヒーターを使う家では、埃を払って安全に火をつけられるようにしておいたり、残りの灯油の量を確かめたり、そういう「安心の確認」が静かに進みます。
この安心の確認はとても優しい家仕事です。例えば高齢の家族がいるお家では、夜中に部屋が冷え過ぎないように、寝室を18℃くらいから大きく下げない工夫を考えたり、廊下との寒暖差が急になり過ぎないように膝掛けやカーディガンを用意しておいたりします。体をびっくりさせない準備は、体の守りにも、介助する人の安心にも繋がります。冬の夜はただ寒いのではなく、体にとっては小さなイベントの連続です。そのイベントを、出来るだけ穏やかに通過させてあげることが、家族皆の落ちつきにつながります。
そしてもう1つ、11月下旬は「来年もよろしくね」をやわらかく言えるチャンスでもあります。年賀状や年始の挨拶ほど畏まっていない、けれど「今年もお世話になりました」がちゃんと伝わる、ちょうど良いタイミング。それがこの小雪の頃です。仕事仲間、友達、ご近所さん、家族。誰に言っても不自然じゃない、ほの温かい言葉を渡せる時期というのは1年の中でもあまり多くありません。
このように小雪という季節は、ただ北風が冷たいだけの期間ではありません。こたつで温もりを分け合いながら、みかんの香りを囲みながら、台所の湯気に顔を委ねながら、「本当にありがとう」をゆっくり言葉にして渡す時間です。そして同時に、12月の慌ただしい波に呑まれる前の、静かな準備運動の時間でもあります。気温が下がっていく中で、人は本能的に寄り添う場所や寄り添う相手を求めます。だからこそ、11月22日から12月初めは体と同じくらい心の温かさが大事になる時期なのです。
次の章では、この温かさを体の中にちゃんとキープするための「ぬくぬく習慣」について触れていきます。夜や朝にヒヤッとした時、どこを温めると安心して眠れるのか、どんな過ごし方が冬を優しく迎える助けになるのかを具体的に見ていきましょう。
第5章…体を冷やさない約束~ぬくぬく習慣でこの冬を優しく迎える~
ちょっと冷えたなと思ったら温めたいのは体の端っこから
小雪の頃の寒さは、いきなりガツンと氷の世界になるほどではありません。でも油断すると、ジワジワと体の端っこから冷えてきます。夕方の買い物帰り、車から降りた後、布団から出た朝一番。そういう一瞬の隙間風みたいな冷えが、肩こりや怠さの原因になることがあります。そこで守ってあげたい場所が「首」「手首」「足首」という3つの首です。この3か所には大きめの血管が通っていて、ここが冷えると全身までスッと冷たくなってしまいやすいのです。マフラーをサッと巻いたり、手袋やリストウォーマーを使ったり、くるぶしを出しっ放しにしないようにしたり、小さな工夫だけでも体感がまるで違ってきます。
寒い日は、つい肩に力が入りやすくなります。肩に力が入ると首周りの血の巡りがキュッと細くなり、頭痛や怠さにつながることもあります。だからこそ、帰ってきたら一度ゆっくり息を吐いて、肩を上下にフワッと揺らしてあげると良いです。大きなストレッチをしなくても、上に竦めてストンと落とすだけで十分効果があります。これはお年寄りにもやりやすい動きなので、座ったままでもそっと取り入れることができます。家族皆で「せーの」で肩をすくめて、ストン、と力を落とすだけでも、何となく笑えて、体も緩んで、気持ちまでほぐれていきます。
熱過ぎるお風呂よりも体がホッとするお湯の入り方
冷えた体を温めようとして、すごく熱いお風呂に長く入ろうとする人は多いです。でも小雪の頃に一番優しいのは、実はそこまで熱くないお湯にゆっくり浸かる入り方です。温めのお湯に肩まで浸かって、フウッと息を長く吐く。そうすると、体の表面だけでなく、お腹の中や脹脛の辺りまでジンワリほぐれていきます。熱々のお湯にドボンと入って一気にのぼせるよりも、ヌクヌクと体の芯に火をともす感じです。
お風呂あがりは、湯気でもう部屋が白くなるような温度差の中をいきなり歩くことになります。このタイミングで体を冷やすと、せっかくのあたたかさがスーッと逃げていきます。タオルでポンポン水けを押さえたら、肩や首、腰まわりに軽く掛けものを1枚のせて、落ちついてパジャマに着替えるだけでも、朝のこわばりがずいぶんちがってきます。お風呂から上がった直後は、のどやお肌のケアをするのにもいちばん良い時間なので、リップクリームやハンドクリームをさっとなじませておくと、北風のカサカサにも負けにくくなります。これは小さなお子さんにも、高齢の方にも役に立つやさしいケアです。
夜と朝をラクにするぬくぬく前倣え
小雪の頃は、日中はまだ平気でも夜と朝に体調を崩しやすくなります。夜は足元が冷えやすいので、脹脛を両手でやさしく擦ってあげるだけでも違います。下から上に向けて、10回くらいゆっくり撫でるだけで、血の巡りが温かくなるのを感じる人も多いです。強く押す必要はありません。やさしく、撫でるくらいで大丈夫です。これはベッドやお布団の上で座ったまま、あるいは横になったままでもできるので、安全で、体力もいりません。自分で出来ないときは、家族がお休みなさいの挨拶代わりに、脹脛全体を毛布の上からゆっくり包んで擦ってあげるだけでも安心感が生まれます。
朝は逆に、いきなりガバッと立ち上がらないことが大事になります。部屋の空気が一晩で冷えていると、体の内側と外側の温度差が大きくて、動き出しの瞬間にフラッとすることもあります。お布団の中で手首と足首をグルグル回して、首を左右にゆっくり向けてから起き上がると、血の巡りが落ちついて、その後の動きがずっとラクになります。これは特にご高齢の方にはとても大切な習慣で、急に寒い廊下に出たときのヒヤッとしたショックを和らげる助けになります。
部屋の温度も、体の味方になります。特に夜の寝室とトイレや廊下の温度が差があり過ぎると、体が急に吃驚してしまうことがあります。ほんの少しで良いので、冷え過ぎないように工夫しておくと安心に繋がります。膝掛けをわかりやすい場所にかけておく、小さめのルームシューズをトイレ前に置いておく、廊下に出る時1枚羽織れるものを用意しておく。どれも特別なお金をかけなくても出来る工夫ですが、身体にとっては守られているというサインになります。
小雪という季節はただ寒いから厚着しようね、というだけの話ではありません。脹脛をさすってあげるような手の温もりや、温めのお湯でゆっくり温まるお風呂、3つの首を冷やさない小さな気遣い。そういった毎日の積み重ねが、12月に入ってからの本格的な寒さに負けない土台になります。そして何より、体を労わる時間は、その人自身を大切にする時間でもあります。「今日はよく頑張ったね」「ちゃんと温まって寝ようね」と、自分や家族に静かに声をかけること。それは目に見えないマフラーのように、心の周りにもフワッと巻きついてくれます。
この後、まとめでは、小雪というたった一言の中にどれほどたくさんの冬支度が詰まっているのかを、改めてもう一度ふり返ります。11月22日から12月初めのこの短い期間に、あなたの暮らしの中で始まっている温かさを、一緒に確認していきましょう。
[広告]まとめ…今日から始める小さな冬支度をあなたのお家では何からにしますか?
小雪という言葉はただ雪が少し降る頃という説明だけでは足りませんでした。実際には、11月22日頃から12月初めにかけての空気全部を指す合図であり、そこには空と風、家の中、台所、気持ち、体の温もりまで、丸ごとの物語が入っていました。太陽はゆっくり低くなり、午後の光はオレンジ色を纏い、北風は落ち葉をさらい、虹は姿を見せなくなっていきます。外の季節はもうすっかり冬の顔に変わりはじめ、「あ、今年もここまで来たんだな」と体で気づかされる時期です。
その変化は家の中にもちゃんと入ってきます。こたつ布団が押し入れから出てきて部屋の真ん中にどんと座り、テーブルの上にはみかんが並び、会話がこたつの低い位置に集まります。ラグはフカフカに衣替えされて、足元からの冷えを和らげる準備が進みます。乾いた北風で喉や唇が荒れないように、加湿や白湯でやさしく守ってあげる工夫も始まります。「今年もここで一緒に温まろうね」という、目に見えない合図が家族の間を行き交うのが、この時期の温かいところです。
台所ではさらに分かりやすく冬が始まります。白菜や大根が土鍋の中でグツグツと柔らかくなり、蓋の隙間から上がる白い湯気が部屋中を包み込みます。出汁を纏った大根、透き通る白菜の芯、湯気で眼鏡が曇る笑い声。干し柿や干し大根、漬物の下拵えのように、「少し先の自分たちに温かいものを渡す準備」も静かに始まります。すぐには食べない物を用意しておく行為そのものが、「寒い日がきても大丈夫」という安心に変わっていくところが、とてもやさしい冬の仕草です。
そして小雪の頃は、心の温まり方も少し変わります。11月下旬は「いつもありがとう」を口にしやすい季節です。頑張っている人に「助かってるよ」と言える。支えてくれている人に「安心して任せられるよ」と伝えられる。12月の慌ただしさに飲み込まれる前のゆっくりとした落ちついた声かけの時間が、ここにあります。家族の中でも、仕事の中でも、介護や看護の現場でも、小さな「ありがとう」をちゃんと手渡せる時期は、じつはそれほど多くありません。この静かなタイミングは、とても貴重です。
もう1つ、大切なのは体の守りです。寒さが本格化する前の今こそ、3つの首、つまり首・手首・足首を冷やさないように意識すること。ぬるめのお風呂でゆっくりあたたまって、ふくらはぎを軽くさすってから眠ること。朝いきなり立ち上がらず、手首や足首を回してから動き出すこと。どれも特別な道具はいりませんが、これをやるかどうかで、冬に入ってからの体のラクさが全然変わります。体を労わる時間は、自分を大切に扱う時間でもあります。「今日もよくがんばったね」「ちゃんと温まって寝ようね」と声をかける行為そのものが、心への毛布になります。
こうして見てみると、「小雪」は一年の中でもとてもやさしい季節です。我慢大会のような真冬ではなく、まだ笑いながら「寒いね」と言える時期。こたつを囲んでみかんを剥き、土鍋の湯気を覗き込み、ありがとうを言葉にし、体に「無理しなくていいよ」と伝える時期。この短い間に整えた温もりは、12月の忙しさや本格的な寒さの中でも、ちゃんとあなたを守ってくれます。
11月22日から12月初めまでのこの期間、あなたのお家ではどこから冬支度を始めますか。こたつを出すところからでもいいし、みかんをテーブルの真ん中に置くところからでもいいし、「いつもありがとう」をちゃんと声にするところからでもいいのです。小雪は家と体と心をあたためるスタートライン。今日の一歩目はどんなあったかさにしましょうか?
⭐ 今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m 💖
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