夜は静かに満足は大きく特養の大晦日~温とろ甘酒・匂い袋・初夢仕込み~

[ 12月の記事 ]

はじめに…人手を増やさず区切りを作る理由~大晦日は昼に温めて夜はそっと整える~

師走は走る月。大晦日それでも特養の夜はいつも通り静かに眠っていただくのが一番です。パートさんはお休み、事務も最小限、デイはお休み、面会は控えめ。そんな現場で無理をせず、入居者さんの心にだけ「年の区切り」をそっと灯す――それが本稿の目的です。

大晦日の合言葉は「昼に温め、夜はそっと整える」。昼は温とろ甘酒をスプーンでひと掬い。甘い香りが口に触れた瞬間、体の内側からほぐれていきます。夜は匂い袋をお手玉サイズの巾着で一晩だけ贈る。強い香りやまぶしい演出は要りません。枕元ではなく床頭台の奥に静かに置けば、眠りを妨げずに「特別な夜」の記憶だけが残ります。

そして、初夢の仕込みは見えないところに上品に。「一富士二鷹三茄子」をヘッドボードに忍ばせたり、床頭台にさりげなく立てたり。離床センサーやエアマットに触れない方法を選べば、安全は守りつつ、気持ちはしっかり年越しモード。鐘が鳴る頃にはスヤァ…でも、目覚めた翌朝に「やってくれてたんだね」と笑顔が生まれます。

必要なのは大掛かりな催しではなく、短時間・静音・安全・個別性。今回の3本立て――温とろ甘酒・匂い袋・初夢忍ばせ――で、夜勤を増やさず満足は大きく。終わり良ければ全て良し、を現場サイズで叶えていきましょう。

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第1章…温とろ甘酒の力~スプーンひと匙で心も体も温まる~

お椀を手にした瞬間、フワッと立つ香りが鼻先をくすぐり、ひと匙を口に含めば喉をやさしく流れて胃の奥がポウッと灯る――大晦日の午後に欲しいのは、まさにそんな一杯です。ここでは熱々すぎず・咽せ込みにくく・作業少なめを合言葉に、糀の甘さだけで上品に仕上げる温とろ甘酒を物語のように仕立てましょう。主役はノンアルの甘酒、助演はキサンタン系のトロミ。寒天は冷やして固めるのが得意な俳優なので、この舞台では客席からの応援に回ってもらいましょう。

まずは味の土台づくり。甘酒は濃縮タイプでもストレートでも構いませんが、完成時に舌にやさしいぬる熱さ(およそ60℃前後)になるよう火加減を整えるのがコツです。香りの袖役におろししょうがを米粒ほど、まろやか担当に牛乳や豆乳をひと口分。塩をひと摘まみ落とすと甘さの輪郭がキュッと締まり、最後まで飽きません。ここまで来たら、いよいよトロミの出番です。表示通りの量でさっと振り入れ、くるくる三十秒混ぜて一〜二分だけ待つ。スプーンの背に薄く残るくらいの粘度がベストな抱擁。この順番を守るだけで、驚くほど均一な舌触りになります。

提供は温泉の掛け流しのように軽やかに。カップへ百ミリリットルずつ注ぎ、席に着いた方から順にお渡しすれば湯気のご馳走もセットで届きます。ひと口目に迷われる方には「今日は大晦日の温かおやつですよ」と声を添え、もし咳き込みが見えたら申し訳なさそうに微笑んで「少しだけ濃さを変えますね」とトロミを一段階上げます。飲み進める家に頬がほどけ、いつもより会話がゆっくりになる――その空気こそ、現場にとってのご褒美です。

人数が多いユニットでも段取りは簡単です。前もって小袋に小分けしたトロミをトレーに並べ、ポットに温度を保った甘酒を用意。配膳直前に注いで混ぜるだけで、十分足らずで十名分が整います。味の“変化球”を忍ばせるなら、生姜の代わりに柚子皮のすりおろしを爪の先ほど、あるいは黒ごまのひと振りも楽しいアクセント。香りの足が速い素材は、席に着いてから上に落とすとフワリとした食感が長続きします。

安全面は大切な相棒です。お一人お一人の嚥下指示に合わせて粘度を調整し、温度は猫舌さんでも安心のラインに。乳製品が苦手な方には豆乳を、糖分制限がある方には甘酒を薄めの設計にして香りで満足を目指します。お椀を置く位置は利き手の側、テーブルの角からこぶし一つ分内側へ。ほんの小さな配慮が、ひと匙の幸福を大きくします。

食べ終わりには、そっと小さな余韻を。空になったカップの底に見える糀の小さな雪片を眺めながら、「今年もありがとう」「来年もよろしく」を一言だけ。派手な演出はいりません。台所には静かな湯気、フロアにはゆるい笑顔。温とろ甘酒は、夜の匂い袋と初夢の仕込みへ続くやわらかな前奏曲。ここで心を温めておくと、夜の静けさが一層心地よくなります。


第2章…一晩だけの匂い袋~赤と青の小さな贈り物で特別な夜にする~

昼の温とろ甘酒でほぐれた気持ちを、そのまま夜へ静かに引き渡す役を、赤と青の巾着にお願いしましょう。お手玉サイズの小さな袋は、主張し過ぎずに存在感だけを残す名脇役。袋の口をキュッと結ぶと、香りは布の内側にとどまり、枕元まで届かないくらいの薄っすらだけが床頭台の奥に留守番します。これくらいが丁度よいのです。強い香りはおしゃべり好きで、眠りの邪魔をしてしまいますから。

用意するのは、赤は艶やか、青は凛々しさという物語をまとった巾着と、名刺ほどの匂い紙。精油はミントやユーカリのような目が覚めるタイプはお休みさせて、やすらぎ担当の面々を少数精鋭で招待します。柑橘のやわらかい明るさ、ラベンダーの定番の安心、ヒノキの森の深呼吸。どれにするか迷ったら、この三択から始めると外しません。紙の片隅に綿棒の先で米粒ひとつ分だけ点を置き、2時間ほどしっかり乾かしてから袋に入れる――作法はこれだけ。液体のまま布に触れないよう、乾燥を待つのが大切なワン呼吸です。

配るのは21:00頃の夜間初回巡回。袋は床頭台の“手の届くけれど視界の端にいる場所”にそっと置き、声は小さめに「今夜だけの匂い袋です。明日の朝には引き出しの中でお休みくださいね」。演出の〆には、名刺サイズのタグを添えます。表には「令和〇〇年 大晦日の香り」、裏には小さなお願いを書き留めておきましょう――酸素機器の近くには置かないこと、衣類に直接精油を付けないこと、香りが強く感じたら袋の口を緩めるか引き出しにしまうこと。読むだけで眠くなるほど当たり前の注意ほど、翌朝の穏やかさを守ってくれます。

色分けは目印であって、決まりではありません。赤が好きな殿方も、青が似合うご婦人もいます。ご本人の“これがいい”を最優先にして、「今日は青い夜にしますか、それとも赤い夢にしますか」と小さな楽屋口で一声かけると、受け取る瞬間が自分ごとに変わります。香りが苦手な方には、勇気ある“無香”という選択を。選ばない自由があると、選んだ人の満足はグッと深まります。

職員にも1袋ずつ。1年お疲れ様の合図として手渡しますが、フロアでは置かず更衣室で楽しむルールにしておくと、場の香りが混ざらず運用も美しく回ります。大晦日を共に走り抜ける仲間が同じ道具を手にすると、不思議と背筋が伸びます。赤と青の小さな仲間が、今日は利用者さんと職員の橋渡し役。渡す手も、受け取る手も、どちらも少しだけやさしい気持ちになれます。

夜は静かに過ぎ、香りは4〜6時間で役目を終えます。朝になったら、タグに書いたとおり引き出しの中へ。一晩だけの贈り物は、そこで静かな記念品に変わります。袋を握りしめて「いい夜だったね」と笑えば、それはもう立派な年越しの思い出。派手な飾りも、長い台本もいりません。赤と青の巾着が、眠りの向こう側に“特別”をそっと連れて行ってくれます。


第3章…初夢を忍ばせる作法~一富士二鷹三茄子をヘッドボードと床頭台で静かに~

「一富士二鷹三茄子四扇五煙草六坊主」。この六つの縁起を、眠りの邪魔をしない場所にそっと忍ばせるだけで、年越しの夜は“自分の物語”に変わります。やることはとても簡単。薄いコピー用紙にA4横で絵札を1枚、右下に日付と“担当”の小さな押印欄を添えておきます。紙は薄いほど良く、ラミネートは必要ありません。厚みを増やさないことが、静かな夜への最短距離です。

まずはヘッドボードの裏側に小さな舞台を用意します。薄型のクリアホルダーを面ファスナーでペタリと固定し、そこへ絵札を差し込むだけ。寝具にも機器にも触れず、けれど仕込んでくれた感じはしっかり届くという、優等生のやり方です。エアマットや離床センサーのお部屋でも、ここなら安心して使えます。設置が終わったら、「今夜は初夢の仕込み、ちゃんと入れてありますよ」と一言だけ。大仰な説明は要りません。小さな約束が、朝の会話をやさしく始めてくれます。

次に、床頭台の見える場所に、邪魔にならない置き方を整えます。絵札を二つ折りにして自立させ、「今夜は初夢しのばせ済」と細い帯を添えると、夜勤明けの朝にご本人やご家族がひと目で分かります。枕の下に紙を入れる昔ながらの方法はロマンがありますが、今回はあくまで静けさ優先。寝返りのたびにカサリと音がすると眠りが浅くなるので、見えるけれど触れない位置がちょうど良いのです。

設置の所作は、丁寧さが命です。手の動きはゆっくり、視線はやわらかく。例えば21時ごろの見回りで、ベッドに近づく足音を半歩だけ小さくしてみる。絵札を差し込む手は30秒で終わるのに、その静けさは4時間も6時間も続いて、目覚めの第一声を変えます。「あ、富士山が来てたのね」。そんな小さな発見が、その日、一日の機嫌を決めることがあります。

もちろん、やらない勇気も同じくらい大切です。機器優先のお部屋ではヘッドボード裏のみ、香りが苦手な方のお部屋では床頭台のみ。“自分に合うやり方を選べた”という感覚が、安心と信頼を連れてきます。翌朝は「どんな夢でした?」とひとことだけ聞いてみてください。覚えていなくてもかまいません。「準備してくれたのね」という事実だけが、初夢よりも確かな贈り物になります。


第4章…現場が回る段取り~準備15分・配布は各フロア数分・安全ひと言~

前日は深呼吸を1つして、まずは仕込み箱を整えます。甘酒は当日温めるだけにして、キサンタン系のトロミは小袋に小分け、紙コップとスプーンは人数ぶんをトレーへ並べます。匂い袋は名刺サイズの匂い紙に綿棒で米粒ひとつ分の点を置き、しっかり2時間乾かして赤と青の巾着にそっと入れます。初夢の絵札はA4横で1枚、右下に日付と担当の小さな押印欄。どれも厚みを出さず、軽い身支度で十分です。密封袋に香り別でしまえば混ざる心配もありません。ここまでで準備はおよそ15分、台所の湯気の立ち方を眺める余裕さえ残ります。

大晦日の午後は、温度計の針が60℃を指す辺りで甘酒が主役の顔になります。カップに100ミリリットルずつ注いだら、席に着いた方から順にトロミ小袋をパラリ、クルクル三十秒混ぜて一〜二分待つだけで舌にやさしい香りと湯気の抱擁が出来上がりです。声掛けは短くやわらかく、「今日は温かい甘酒のおやつです」。もし咳き込みが見えたら、申し訳なさそうに微笑んで「少しトロミを強くしますね」と粘度をひと段階上げます。乳製品が難しい方には豆乳で丸みを、糖分を控えたい方には薄めで香りの余韻を。テーブルの角からコブシ1つ内側にそっと置く、その小さな所作が安全の味方です。

夜は21:00の最終巡回で“贈るだけ”。赤と青の巾着は床頭台の奥側に静かに置き、覚醒している方には「今夜だけの匂い袋です。強く感じたら引き出しにしまってくださいね」と耳にやさしい声で一言。酸素機器や匂いに敏感なお部屋は無香を選び、職員用の巾着は更衣室で楽しむ約束にしてフロアへ香りを残さない工夫を添えます。香りは4〜6時間で役目を終え、翌朝はそのまま記念の小物へ。夜勤の手は増えず、空気は変わらず、気分だけがフワリと年越しになります。

初夢の仕込みは、離床センサーやエアマットに触れない静かな舞台へ。ヘッドボード裏に薄型のクリアホルダーを貼って絵札を差し込み、床頭台には二つ折りの立て札を1つ。「今夜は初夢の仕込み、バッチリ入れてありますよ」と囁くように伝えたら、後は紙の静けさに任せます。枕の下はロマンがありますが、今回は寝返りのたびにカサリとしない位置が正解。見えるけれど手を伸ばさない場所が、グッスリへの近道です。

安全のひと言は、難しく言わないのが一番効果的です。強い香りと点滅する光は今夜だけお休み、火気はもちろん使わず、電子機器の吸気口の近くにも置かないこと。嚥下の指示に合わせて粘度を調整し、温度は猫舌さん基準のぬる熱さへ。写真を残すなら人物を映さず、巾着と絵札の寄りを1枚だけ。記録も「出した・喜んだ・少しむせた」の三語で足ります。小さく始めて、静かに終える。その流れが翌日の穏やかさを支えます。

もし「香りが強い」と言われたら、袋の口をゆるめるか引き出しに移動すれば即座に解決します。「味が濃い」と眉が動いたら、おかわりを薄めにしてふうふう一息。「夢は覚えていない」と笑われたなら、「それはきっと良い夢でした。覚えていないのはぐっすり眠れた証拠です」と答えましょう。段取りは軽く、言葉は温かく。準備15分、配布は各フロア数分で、夜は静かなまま“区切りの満足”だけがちゃんと残ります。

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まとめ…静かな満足が年を越す

特養の大晦日は、賑やかにしない勇気が光ります。人手は薄く、夜は静かに、でも気持ちだけはきちんと区切る。その合言葉で進めば、フロアの空気は穏やかなまま、心の温度だけがほのかに上がります。

昼は温とろ甘酒。スプーンひと匙で喉がほぐれ、糀の甘さが胸の奥をなでるように広がります。難しい技は要りません。トロミがそっと寄り添えば、会話の足取りまでゆっくりに。「今年もありがとう」の一言が、湯気と一緒にまっすぐ届きます。

夜は“匂い袋”。赤と青の小さな巾着が、床頭台の奥で見張り番。強く主張しない香りは、眠りの邪魔をせずに特別な夜の記憶だけを残します。選ばない自由=無香も立派な選択。受け取る瞬間の「これがいい」を大切にすると、満足は不思議と長持ちします。

そして初夢の仕込み。「一富士二鷹三茄子」の絵札をヘッドボードの裏に忍ばせたり、床頭台にそっと立てたり。離床センサーやエアマットには触れず、紙の薄さで静けさを守る作法が、朝一番の微笑みを連れてきます。「あ、富士山が来てたんだね」――その一言が、新年の調子を決めてくれるはず。

段取りは軽く、言葉はやわらかく。準備は15分、配布は各フロア数分、夜はいつも通り。大きなイベントはしないけれど、心の中では盛大に年が明ける。そんな静かな満足を、今年のラストシーンに据えましょう。

さあ、大晦日は昼に温め、夜はそっと整えて、朝にフワリと花弁を一枚。鐘の音が遠くから届く頃、皆さんはきっと夢の国へやさしくテレポート。起きた時に残るのは去年から引き継いだ温かい心、派手さよりも丁寧さ――それこそが、現場サイズの「終わりよければ全て良し」。来年もまた、良い一日を積み重ねていきましょう。

⭐ 今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m 💖


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