5月の衣替えは大騒ぎ!~高齢者施設のタンスとその人らしさ~
はじめに…5月の服選びは朝と昼で答えが変わる
5月の朝、窓を開けると少しひんやり。「今日は薄手のカーディガンが良さそう」と思って着てもらったのに、お昼には日差しがグンと明るくなって、「ちょっと暑いね」と袖をまくる。ところが夕方になると、今度は風が冷たい。朝に決めた服装が半日で不正解になるとは……誰が決めたんですか、このコーディネート。はい、朝の私です。そんな小さな自分ツッコミが生まれやすいのも、5月らしい風景です。
高齢者施設では、この寒暖差に合わせた着替えだけでなく、春物を出し、冬物をしまい、ご家族へ返す衣類を分け、名前や洗濯方法まで確かめなければなりません。タンスの容量にも限りがあるため、春夏秋冬すべてを詰め込んでおくわけにもいかず、毎年の衣替えはちょっとした共同作業になります。臨機応変に動いているつもりでも、「あの服はどこへ行った?」が始まれば、スタッフの頭の中も一気に衣類売り場の棚卸し状態です。
けれど、服にはサイズや季節だけでは測れないものがあります。「この色が好き」「昔よく着ていた」「家族に似合うと言われた」。そんな一着には、その人が暮らしてきた時間までそっと重なっています。便利さや管理のしやすさだけで全部を決めてしまうと、きれいに整ったタンスの中から、本人の楽しみまで少しずつ減ってしまうことがあります。
衣替えは服を入れ替える作業であると同時に、その人らしい暮らしを次の季節へ繋ぐ時間でもあります。
5月の衣替えは、確かに手間がかかります。それでも試行錯誤しながら「今日はこれが似合いますね」と声をかけられる朝には、服を整える以上の意味があります。春から初夏へ向かうタンスの中で、今年もまた、その人らしい一着に出番が回ってきます。
[広告]第1章…小さなタンスで始まる春夏衣類の入れ替え作戦
高齢者施設の居室でタンスを開けると、「あれ、思ったより入らないぞ」と感じることがあります。冬物のセーター、厚手のズボン、肌着、パジャマ、春のカーディガンまで並べれば、引き出しはすぐ満員御礼。そこへ初夏の半袖まで加わる頃には、服同士が場所取りを始めそうな勢いです。もちろんタンスが勝手に広がってくれることはありません。現実はなかなか厳しいものです。
5月の衣替えで大切なのは、冬物を一気に全部なくしてしまうことではありません。朝晩が冷える日もあれば、昼には汗ばむ日もあります。厚手の服を少し減らしながら、薄手の長袖や羽織れるものを残し、半袖も少しずつ増やしていく。そんな臨機応変な入れ替えの方が、この季節にはよく合います。
そして施設の衣替えには、ご家族との「服のバトンリレー」もあります。春夏物を持ってきてもらったら、その分だけ冬物を返す準備をする。ところが、いざ袋へ入れようとすると「この赤いセーターはお気に入りだったな」「これはまだ朝に使えそうだな」と、簡単には仕分けられません。衣類には季節だけでなく、その人の好みや暮らしの記憶までくっついているからです。
十人十色という言葉どおり、暑がりの人もいれば寒がりの人もいます。同じ5月でも、同じ服装が全員に合うわけではありません。「もう春だから薄着」とカレンダーだけで決めるより、その日の気温と本人の様子を見ながら選んだ方が安心です。袖を通した瞬間の表情や、「今日はこれがいい」というひと言も、立派な衣替えの判断材料になります。
タンスを整える時に本当に残したいのは、服の枚数ではなく、その人が心地良く選べる余地です。
スッキリ片づいたタンスは気持ちが良いものですが、整頓に夢中になってお気に入りまで全部しまってしまったら少し寂しいもの。「よし、綺麗になった!」と満足した直後に、「あの青い服は?」と聞かれて再び収納箱を開ける――そんな小さな二度手間も、施設の衣替えらしい春の風景です。服を減らすことよりも、次の季節を気持ちよく迎えられるタンスを作る。そのくらいの余裕が、5月にはちょうど良いのかもしれません。
第2章…名前・洗濯・返却まで!~衣替えの舞台裏は大忙し~
衣替えというと、冬物をしまって春夏物を出せば終わり……と言いたくなりますが、高齢者施設ではそう簡単にはいきません。新しく届いた服をタンスへ入れる前に、誰の衣類なのかを確かめ、返却するものを分け、洗濯に向く素材かも気にする。1つの服が居室へ収まるまでに、意外なほど細かな仕事がついて回ります。
中でも侮れないのが名前です。同じような色、同じような形、同じようなサイズの衣類が重なる施設では、記名が薄くなっただけでも途端に難易度が上がります。とくに靴下はなかなかの難敵。同じ色と形が何足も並び、「これは誰のだろう?」と職員が右往左往する光景も起こります。見た目だけでは判断しにくくなれば、もはや靴下本人に名乗って欲しいところですが、残念ながら今日も無言です。
洗濯にも気を配ります。施設では毎日たくさんの衣類を扱うため、乾燥機との相性が悪い素材や、縮みやすい服は注意が必要です。お気に入りの羽織物が小さくなって戻ってきたら、本人にとっては笑い話では済みません。清潔を保つことはもちろん大切ですが、その服を次も気持ちよく着られる状態で戻すところまで含めて衣類の支援です。
さらに衣替えの時期には、ご家族へ返す冬物と、まだ施設に残す服が入り混じります。「これは返却」「これは朝晩にまだ使う」「これは本人のお気に入りだから残したい」と考えているうちに、机の上には小さな衣類会議が開幕します。臨機応変が求められる季節ですが、忙しい時ほど「全部まとめて袋へ」は避けたいところです。一着ずつ確認する手間が、後で「あの服がない」という騒動を減らしてくれます。
衣類管理は裏方の仕事に見えて、実はその人の毎日の心地良さを守る大切な介護の1つです。
服を着る本人にしてみれば、名前札も洗濯方法も返却袋も普段は見えません。それでも、朝になればお気に入りの服がちゃんとタンスにあり、気持ちよく袖を通せる。その当たり前の景色は、スタッフと家族の地道な確認で成り立っています。正に縁の下の力持ち。衣替えの季節は忙しくても、1枚の服がきちんと本人のところへ戻った瞬間、舞台裏の苦労もちょっと報われます。
[広告]第3章…リース服は頼れる味方?~便利さと選ぶ楽しさの間で~
衣替えのたびに衣類を持ち込み、冬物を持ち帰り、名前を確認して洗濯まで気にする。ご家族が遠方に住んでいたり、頻繁に施設へ足を運べなかったりすれば、このやり取りだけでもなかなかの負担です。そんな時に頼りになるのが、衣類のリース(服を借りて利用する仕組み)です。必要な衣類を安定して用意しやすく、洗濯や収納の負担も軽くなるため、施設にも家族にも助かる仕組みといえます。
しかも、着替えが不足しにくく、清潔な服を確保しやすいのは大きな安心です。本人が衣類を管理することが難しくなった時にも支えになりますし、入居したばかりで必要な枚数が分からない時にも心強い存在でしょう。衣替えのたびに大きな袋を抱えて往復しなくて済むなら、「ああ、助かった」と肩の力が抜けるご家族もいるはずです。リースにはリースの良さがあり、正に一長一短です。
ただ、便利になったところで少し立ち止まって見たいのが、「何を着るか?」という楽しみです。誰にでも合わせやすい服は、サイズや扱いやすさを考えれば実用的ですが、毎日似た色や形が続けば、「今日はこっちにしようかな」という小さな選択が減ることもあります。朝タンスを開けて迷う時間なんて面倒そうですが、好きな服だけは人間、不思議と迷うのも楽しいものです。「どっちでも良い」と言いながら鏡の前でしっかり選んでいたりする。そこは年齢を重ねても、そう簡単には変わりません。
若い頃から青が好きだった人、花柄を好んできた人、外出の日だけ少し上品な服を選んでいた人。十人十色の装いには、それぞれの暮らし方が滲みます。服は体を包むための布であると同時に、「私はこういうものが好き!」という気持ちを外へ見せられる身近な手段でもあります。リースを利用する場合でも、お気に入りのカーディガンを数枚残したり、面会や外出の日には自分の服を選んだりと、便利さと本人らしさを両立させる余地は作れます。
管理しやすい服だけを揃えるより、「これを着たい」と思える一着が残っていることも暮らしの豊かさです。
リースか私物かを二者択一にする必要はありません。忙しい毎日を支える部分は便利な仕組みに任せながら、その人が大切にしてきた色や柄、思い出の一着には出番を残す。施設で暮らし始めたからといって、服まで急に「誰にでも似合うもの」へ統一される必要はないでしょう。便利さの中にほんの少し選べる余白があるだけで、朝の着替えは単なる作業から、その人自身の時間へと変わっていきます。
第4章…似合う一着が暮らしを動かす~衣服も大切な生活支援~
朝、職員が「今日はどちらにします?」と2枚の服を見せると、それまでぼんやりしていた人が、青い方を指さす。「こっちが良い」。たったそれだけのやり取りでも、自分で選んだ服に袖を通した日は、少し背筋が伸びたり、鏡をじっと見たりすることがあります。服には体を守る役目がありますが、それだけではありません。「今日の自分をどう整えるか」という、暮らしのスイッチにもなります。
介護が必要になると、安全性や着替えやすさが優先されやすくなります。もちろん、更衣動作(服を着たり脱いだりする動き)が楽なことや、介助しやすいことは大切です。ただ、そこだけで服を決め続ければ、本人の「好き」が置き去りになることがあります。ボタンが少ない、伸びる、洗いやすい。それだけなら職員には優等生の服でも、本人から見れば「別に着たくない服だらけ」かもしれません。
そこで大切にしたいのが、着やすさと似合う楽しさの両立です。伸縮性があって着替えやすくても、本人が好きな色を選ぶことは出来ます。冷えやすい人なら薄手の羽織物を用意しながら、オシャレな柄を楽しんでも良い。動きやすさと見た目を一緒に考えられれば一石二鳥です。「介護しやすい服」と「本人が着たい服」は、本来はそれほど遠いところにあるものではありません。
服を選ぶことは、外へ向かう気持ちにも繋がります。「今日は家族が来るから、この服にしよう」「散歩ならあの帽子も欲しい」。そんな予定が生まれると、着替えは作業ではなく準備になります。お気に入りの服には、出かけた日や褒められた記憶が重なっていることもあります。 心機一転、新しい服を1枚加えただけで、「ちょっと食堂まで行こうかな」と気分が動くことだってあるでしょう。
介護の中で服を選ぶことは、身なりを整えるだけでなく「今日をどう過ごしたいか?」を本人に返すことでもあります。
もちろん毎朝ファッションショーを開く必要はありません。職員が「赤と青、どっちにします?」と尋ねて、本人が「今日は青」と答える。その数秒でも十分です。選ぶことが難しい人なら、表情や視線、これまで好んできた色から探る方法もあります。「備えあれば憂いなし」と言いますが、季節に合う服を何枚か用意しておけば、安全と楽しさの両方を守りやすくなります。
施設で暮らしていても、その人の人生まで施設仕様になるわけではありません。好きな色も、似合う柄も、ちょっと格好をつけたい日も残っています。介助のしやすさに、本人の好みをほんの少し足す。それだけで衣服は「着せるもの」から「暮らしを作るもの」へ変わります。明日の朝、タンスを開けた時に「どれにしようかな」と迷えることも、なかなか豊かな日常なのだと思います。
[広告]まとめ…タンスの中に季節と思い出を残して
5月の衣替えは、冬物をしまって半袖を出せば終わるほど単純ではありません。朝は肌寒く、昼は汗ばみ、夕方にはまた羽織り物が欲しくなる。そんな季節の真ん中で、高齢者施設のタンスも少しずつ春から初夏へ姿を変えていきます。服を出したり戻したりする職員にとっては忙しい時期ですが、その迷いもまた、本人の体調や心地よさを考えている証なのでしょう。
収納には限りがあり、名前の確認や洗濯、ご家族への返却も必要です。便利なリースを使えば負担を減らせる一方で、好きな色や思い出の服まで全部手放す必要はありません。取捨選択をしながら、「管理しやすい」と「本人が嬉しい」の間にちょうど良い場所を探していく。そこに施設の衣替えらしい工夫があります。
そして忘れたくないのは、服にはその人の歩いてきた時間が重なっていることです。「このブラウス、昔から好きなの」「今日は家族が来るから、こっちにする」。そんなひと言が聞ければ、衣替えは単なる収納作業ではなくなります。鏡の前で少し髪を整えたり、似合うと言われて笑ったりする瞬間まで含めて、衣服は毎日の暮らしを作っています。
タンスの中に残したいのは衣類だけではなく、自分で選び、自分らしく過ごせる小さな自由です。
春夏秋冬、季節が巡ればタンスの中身も変わります。それでも、その人の好みまで季節ごとに入れ替える必要はありません。動きやすさや安全を守りながら、お気に入りの一着にはちゃんと出番を残す。そんな和気藹々とした衣替えなら、少しくらいタンスの前が騒がしくても悪くないでしょう。「あれ、この服まだあったの?」と笑顔がこぼれたなら、その日の衣替えはもう十分に成功です。
5月の風が少しずつ暖かくなるように、服も無理なく次の季節へ移っていけば良い。タンスの扉を閉じた向こうには、綺麗に並んだ衣類だけでなく、明日もその人らしく暮らすための小さな楽しみが待っています。
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