秋の実はそのまま食べるだけじゃない~香る・煮る・剥く・割る4つのご馳走~

[ 旬の食と暮らし ]

はじめに…秋の木の下にはまだ知らないご馳走が転がっている

秋になると、食卓は急ににぎやかになります。栗、柿、梨、ぶどう、さつま芋に新米。正に百花繚乱ならぬ「百味繚乱」と呼びたくなる季節ですが、少し視線をズラすと、名前は聞いたことがあっても食べ方をよく知らない実が、まだあちらこちらで旬を迎えています。

南国風の甘い香りを持ちながら日本の秋にも実るフェイジョア。生で齧る姿より、甘露煮や乾燥果実の印象が先に立つナツメ。実が落ちた時の匂いには思わず足を止めるのに、殻を割れば翡翠色のご馳走が現れる銀杏。そして、日本の山に昔から育ち、硬い殻の中に香ばしい味を隠しているオニグルミ。それぞれ性格が違い、食べるまでの道のりまで違います。

興味深いのは、こうした実が「珍しいから面白い」だけではないところです。ビタミンやミネラル、食物繊維、脂質など、それぞれ違った栄養を持ち、土地ごとに煮る、乾かす、炊く、炒る、割るといった食べ方が育ってきました。同じ木の実でも、日本では茶碗蒸しに入り、別の国ではお菓子や料理に姿を変えることもあります。食材1つ追いかけるだけで、台所から世界旅行が始まってしまうのです。飛行機代がいらないのは助かります。

便利な食べ物が増えた今は、「剥くのが面倒」「食べ頃が分からない」と感じれば、別の商品へ手を伸ばすことも出来ます。それでも、落ちるのを待ったり、煮て保存したり、殻を外したりする時間には、旬を味わう楽しさが残っています。四季折々の実りは、人が少し手を添えることで、ただの収穫物からその土地らしい料理へ変わっていきます。

秋のご馳走は、木から採れた瞬間に完成するのではなく、人のひと手間で最後の美味しさが仕上がるものもあります。

香りを楽しみ、赤い実を煮て、少しクセのある実を剥き、硬い殻を割る。そんな一手間も含めて眺めてみると、見慣れた秋が少しだけ広くなります。知らなかった味に出会う日は、食卓に新しい一皿が増えるだけでなく、季節そのものをもう一度楽しむ日に変わってくれそうです。

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第1章…フェイジョアは落ちてからがお楽しみ~香りで知る南国生まれの秋果実~

庭木の下に緑色の卵のような実が落ちていたら、「まだ青いのに落ちちゃった」と拾って捨てそうになります。ところが、それがフェイジョアなら話は逆。日本では10月から11月頃に実が見頃を迎え、熟して自然に落ちてきた果実を食べたり、少し硬ければ追熟(収穫後に熟成を進めること)させたりして楽しめます。見た目は緑色のままなので、桃や柿のように色だけで「食べ頃です」と教えてくれないところが少し奥ゆかしい果物です。

切ってみると、中心部には半透明でゼリーのような果肉が現れます。香りはパイナップルを思わせながら、バナナやリンゴ、洋梨にも似た甘い芳香を含み、口に入れると甘味とほど良い酸味が広がります。南米原産のフトモモ科の果樹で、野生の分布はブラジル南部からウルグアイ、アルゼンチン北東部へ続きます。日本の秋の庭に南米生まれの香りが漂うのですから、ちょっとした異国情緒です。

栄養にも、この小さな緑色の実らしい見どころがあります。ニュージーランドの食品成分資料では、生のフェイジョア果肉100gにビタミンCが約30.3mg、食物繊維がおよそ3g含まれています。ビタミンC(水溶性ビタミンの一種)だけを目当てに山盛り食べる必要はありませんが、旬の果物を楽しみながら食物繊維なども摂れるのは嬉しいところです。

フェイジョアは、色ではなく香りと柔らかさで「そろそろ食べ頃ですよ」と知らせてくれる秋の果実です。

日本で手に入ったなら、まずは半分に切ってスプーンで掬うだけで十分です。それで気に入ったら、ジャムやゼリー、果実酒、ケーキやヨーグルトのソースへ進めます。少し酸味があるため、砂糖と合わせると香りが残りやすく、リンゴやレモンと組み合わせても相性が良いとされています。花まで食べられる品種があり、赤い雄しべを囲む肉厚な花弁も食用になります。「実だけじゃないの?」と木を二度見したくなりますが、花と果実の両方を味わえる果樹なのです。

そしてフェイジョアを語る時、ニュージーランドの台所は外せません。現地では秋になると庭の木から次々と実が落ち、食べ切れないフェイジョアをどう使うかという話が成立するほど身近です。生食だけでなく、ジャム、アップルクランブル、パンケーキ、チーズに添える濃厚なフルーツペースト、コーディアル(果汁などを使った濃縮飲料)、さらには肉や魚へ合わせるサルサまで作られています。果物だからデザートへ直行、とは限らないのです。

日本の台所でも、この発想は借りられます。細かく刻んだフェイジョアを玉ねぎや酢と合わせて甘酸っぱいソースにすれば、豚肉や鶏肉の付け合わせになります。クリームチーズに少量のジャムを載せれば、お茶菓子にも軽い前菜にもなる。一石二鳥どころか、「知らない果物を買ったけれど生で食べ切れませんでした」という秋の小事件まで救ってくれそうです。

フェイジョアには、もう1つ面白いところがあります。南米に生まれた果実がニュージーランドで暮らしの味になり、日本ではまだ少し珍しい秋果実として育てられていることです。同じ実でも、土地が変われば「珍果」になったり「庭に落ち過ぎて困る果物」になったりする。食べ物の知名度とは、味そのものより、その土地との距離で決まるのかもしれません。

緑色だから未熟だろうと決めつけず、拾って香りを確かめ、少し待ってから切ってみる。そんなフェイジョアとの付き合い方を知れば、秋の果物を見る目も少し変わります。派手な色で目立たなくても、食べ頃になればちゃんと香る。秋には、そんな控えめなご馳走も実っています。


第2章…ナツメは生でも煮ても奥深い~秋の赤い実が日本と世界の保存食になる~

秋の庭先に、小さな青リンゴのような実がなっています。やがて表面に赤茶色が混じり始めると、そろそろ収穫の合図。それがナツメです。飛騨地方では古くから庭木として育てられ、10月上旬頃、実が暗赤色へ色づき始める頃に収穫されてきました。乾燥した赤褐色の実を思い浮かべる人も多いでしょうが、秋には生のナツメを味わうことも出来ます。

生の実は、乾燥ナツメほど濃厚な甘さではありません。熟したものはほんのり甘く、歯を入れるとシャクッとした食感があり、乾物から想像する姿とは少し違います。そして飛騨では、この秋の実を砂糖と醤油でことこと煮る「なつめの甘露煮」が親しまれてきました。生で食べるなら赤く熟したもの、甘露煮には煮崩れしにくい色づきの浅い実を使うこともあるというのですから、同じ木の実でも台所側がちゃんと使い分けています。食べ頃を逃したのではなく、「君は煮物班ね」と配属先が変わるだけ。なかなか無駄がありません。

甘露煮は水で柔らかく煮たナツメに砂糖、塩、醤油を加え、さらに煮含めていきます。煮上がった直後に全部食べず、一昼夜ほど煮汁につけておけば味がよく馴染みます。飛騨では精進料理にも使われてきた「ごっつお」、つまり土地のご馳走です。秋の小さな実を冬へ繋ぐ保存の知恵でもあり、茶請けに一粒、摘めば、派手なお菓子とは違う素朴な甘さが残ります。

栄養を見る時は、生と乾燥品を分けて考えるのが大切です。日本食品標準成分表の乾燥ナツメ100gには、食物繊維12.5g、カリウム810mg、鉄1.5mg、葉酸140μgなどが含まれています。乾燥によって水分が減るため栄養成分も凝縮して見えますが、その分、100g辺りのエネルギーは294kcalあります。食物繊維(腸内環境などに関わる消化されにくい成分)やミネラルを含むからと、大きな袋を抱えて際限なく食べるものではありません。小さな実ほど、ひと休みしながら味わうくらいがちょうど良さそうです。

ナツメの魅力は、秋に生まれた一粒を、生で楽しみ、煮て味わい、乾かして季節の先まで連れていけるところにあります。

そして少し紛らわしいのが「ナツメ」と「ナツメヤシ」です。名前は親戚のようですが別の植物で、ナツメはクロウメモドキ科のZiziphus jujuba、デーツとして知られるナツメヤシはヤシ科のPhoenix dactyliferaです。食品成分表でも別々の食品として扱われています。「ナツメを英語にすればデーツかな」と思ったら、ここで小さな落とし穴。食卓の世界は古今東西、名前だけで判断すると時々こちらを試してきます。

中国ではナツメの栽培そのものに長い歴史があります。陝西省佳県の伝統的なナツメ栽培地域は、国連食糧農業機関の世界農業遺産にも認定され、1000年以上に渡る栽培文化が残っています。実はそのまま食べるだけでなく、菓子やジュース、ちまきなどにも利用されてきました。乾燥させた赤いナツメは粥や甘い飲み物にも使われ、ショウガと一緒に煮出す飲み物など、温かい料理にもスッと入っていきます。

韓国へ渡れば、また別の顔になります。鶏のお腹にもち米、高麗人参、ナツメなどを詰めて煮込むサムゲタンは、日本でも知られる料理です。さらに「薬食」と呼ばれる伝統料理では、蒸したもち米にナツメ、栗、松の実、蜂蜜、醤油などを合わせます。甘い果実が鶏料理にも、もち米の甘い料理にも入るのですから、ナツメはなかなか融通が利きます。果物売り場だけに置いておくのは少しもったいない存在です。

今の家庭なら、甘露煮だけに限定しなくても楽しめます。乾燥ナツメを細かく刻んで蒸しパンやヨーグルトへ入れたり、煮出してショウガや紅茶と合わせたり、鶏肉の煮込みへ少量加えて自然な甘味を添えたりすることも出来ます。生のナツメが手に入ったなら、薄切りにしてサラダへ加えれば、シャキッとした食感がちょっとしたアクセントになります。昔ながらの保存食と今の料理が同じ台所に並んでも、喧嘩する理由はありません。一挙両得どころか、秋から冬まで出番を伸ばせます。

庭になった小さな実を、その日に齧る人もいれば、鍋で甘く煮る人もいる。海を越えれば鶏の中へ入り、もち米と一緒に蒸されることもある。同じナツメでも、土地と暮らしが変われば食べ方は千差万別です。

秋の旬とは、その日に全部食べ切ることだけではありません。たくさん実った時に少し手をかけ、寒くなってからもう一度味わう。ナツメは、季節を保存するという昔ながらの楽しみを、小さな赤い実の中に今も残しています。

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第3章…銀杏は匂いの向こうに翡翠色~栄養と食べ過ぎ注意まで知って味わう秋の実~

秋の街路樹を歩いていて、鼻が先に季節を知らせてくることがあります。見上げればイチョウは美しい黄金色。それなのに足元から漂ってくる香りは、ロマンチックな紅葉狩りへ少々手厳しい現実を突きつけます。「秋ですね」と深呼吸した直後に「やっぱり浅めで」と訂正したくなる、あの銀杏の季節です。

けれども、あの匂いを越えて硬い殻を割り、薄皮を取りながら加熱すると、中から現れるのは透き通るような黄緑色。もちっとした食感と、仄かな甘味、独特のほろ苦さがあります。植物学ではイチョウは裸子植物で、私たちが果肉のように感じる臭い部分も実は種を包む種皮です。栗やクルミと同じ「木の実」と思っていたら、植物としての仕組みから少し違う。銀杏は食べる前から変化球を投げてきます。

日本の食卓では、銀杏と聞けば茶碗蒸しが思い浮かびます。フタを開け、鶏肉や椎茸を食べ進めた先から一粒出てくると、何故か少し得をした気分になるものです。炊き込みご飯へ入れれば秋らしい彩りになり、炒った銀杏に塩を振れば酒肴にもなります。静岡では、銀杏と鶏肉、ネギを炒め合わせる料理も紹介されており、蒸すだけでなく炒め物へ動かしても、翡翠色と弾む食感が生きます。

栄養を見ると、生の銀杏100gにはエネルギー168kcal、たんぱく質4.7g、脂質1.6g、炭水化物34.8g、カリウム710mg、マグネシウム48mgなどが含まれています。クルミのように脂質をたっぷり含む木の実とは違い、銀杏はでんぷんを多く含むのも特徴です。茹でた銀杏100gでは、でんぷんが29.3g、食物繊維は2.4gとなっています。小さな一粒ですが、中身はなかなか質実剛健です。

ただし、銀杏は「栄養があるなら多めに食べよう」と進んではいけません。銀杏には4′-O-メチルピリドキシン(ビタミンB6の働きを妨げる天然成分)が含まれており、食べ過ぎによって嘔吐や痙攣などの中毒症状を起こすことがあります。特に子どもでは注意が必要です。加熱したから好きなだけ食べて良い、という食材でもありません。厚生労働省には、幼児が多数の銀杏を食べた後に痙攣を起こした事例も報告されています。

銀杏は、美味しさと注意点が表裏一体だからこそ、「少しを季節のご馳走として楽しむ」がよく似合う秋の味です。

海を渡っても、銀杏は東アジアの台所で長く親しまれてきました。中国では殻を割って炒ったものを茶や酒のお供にしたり、粥や甘いスープ、煮込み料理へ使ったりします。中国、日本、韓国では甘い料理にも塩味の料理にも使われてきた記録があり、銀杏の食文化そのものが東アジアを跨いでいます。中国で「白果」と呼ばれることがあるのも、白っぽい硬い殻を見るとなるほどと思えます。

韓国では、加熱すると美しい翡翠色になる銀杏を秋の料理へ使い、牛肉料理などの彩りにも添えます。石鍋で炊く栄養ご飯には、米、高麗人参、ナツメ、栗、松の実、きのこなどと一緒に銀杏を加える作り方もあります。先ほどまでナツメの話をしていたと思ったら、別の国の鍋の中で銀杏と再会する。食文化を辿っていると、食材同士が思わぬところで知り合いだったことに気づきます。

今の家庭なら、茶碗蒸しだけに居場所を決めなくても良いでしょう。加熱済みの銀杏をきのこと一緒に炊き込みご飯へ入れたり、鶏肉やれんこんとの炒め物に少量散らしたり、塩味の効いたチーズ焼きのアクセントにしたりと、臨機応変に使えます。主役として大量に盛るより、料理の中へ数粒入れて色と食感を変える方が銀杏らしい。料理の「びっくり箱係」とでも呼びたくなります。

あの独特な匂いだけを知っていれば、イチョウの木の下は足早に通り過ぎたくなる場所です。けれど殻の中にある色や味、昔から続く料理、食べる量への注意まで知ると、見え方は少し変わります。

秋の銀杏は、良い匂いだから食べたくなる果実ではありません。むしろ匂いに驚き、殻を割り、火を通して、ようやく小さなご馳走へ辿り着きます。その遠回りまで含めて、毎年待ちたくなる季節の味なのでしょう。


第4章…オニグルミは殻を割ってからが本番~日本の山の木の実と世界のクルミ料理~

秋の山や川辺でオニグルミを見つけても、スーパーで見る「くるみ」の姿とはかなり違います。木から落ちてくるのは緑色の果皮に包まれた実で、その中から硬く、ゴツゴツした殻が現れます。そして食べたい部分は、さらにその内側。美味しいところまで何枚扉があるんだ、と少し言いたくなる木の実です。

オニグルミは日本に自生するクルミの仲間で、秋に実を採ることが出来ます。北海道のアイヌ文化では、採集した実を乾燥させて保存し、冬になると炉で温めてから石などで殻を割って食べていました。中身を潰してギョウジャニンニクのおひたしへかける食べ方も伝わっています。秋に拾ったものを冬の食卓へ回すという、季節を跨ぐ保存食でもあったわけです。

問題は、その殻です。西洋グルミのように手で簡単に割れるものではなく、オニグルミはかなり硬いことで知られています。初対面で真正面から挑めば、食材と料理人が悪戦苦闘する妙な勝負になりかねません。乾燥させたり加熱したりして殻の合わせ目を開きやすくし、専用の道具などを使って中身を取り出す方が現実的です。「急がば回れ」ということわざが、木の実相手でも妙にしっくりきます。

けれど、この手間を越えると香ばしい実が待っています。岩手県奥州市江刺地域には、地元で採れるオニグルミを磨り潰し、水や砂糖、葛粉と合わせて固める「くるみ豆腐」という郷土料理があります。精進料理として法事などで刺身の代わりに出されてきた料理で、味噌、砂糖、生姜汁などを合わせたタレを添えます。ゴマ豆腐のくるみ版と考えると近いのですが、薄皮まで丁寧に取るため、なかなか手間のかかる一品です。

岩手にはさらに、雑煮の餅を別皿の甘い「くるみダレ」につけて食べる文化があります。使われるのは地元のオニグルミで、磨り潰した実に砂糖や塩を加え、トロリとしたタレに仕立てます。醤油味の雑煮を食べていたはずなのに、餅だけ別皿へ旅立って甘いくるみダレをまとって帰ってくる。雑煮の自由度は、思っているよりかなり高いようです。

長野県の五平餅でも、くるみは活躍します。味噌や醤油を基調にしたタレへ、磨り潰したくるみを加える「くるみ味噌」は信州らしい味の1つです。焼けた米の香ばしさに、味噌の塩気とくるみのコクが重なります。山の木の実は、おやつとして単独で食べるだけでなく、「タレになる」という道を随分と昔から歩いていました。

オニグルミの面白さは、硬い殻の中身を取り出して終わりではなく、磨り潰した瞬間から料理の幅が急に広がるところです。

栄養については少し注意して見たいところです。日本食品標準成分表に掲載されている「いりくるみ」は、一般的に流通する別種のくるみであり、オニグルミそのものの数値ではありません。それでもクルミ類の特徴を知る目安にはなります。いりくるみ100gには脂質68.8g、たんぱく質14.6gが含まれ、脂肪酸の中では多価不飽和脂肪酸(体内で様々な働きをする不飽和脂肪酸の一種)が多く含まれています。エネルギーも100gで713kcalと高めなので、「体に良さそうだから丼いっぱい」という食べ方ではなく、少量を料理へ加えるくらいが似合います。

現代の台所なら、くるみダレの考え方をもっと臨機応変に使えます。食用として適切に処理された実を刻んで味噌と合わせ、焼いたなすや厚揚げに載せても良いですし、磨り潰して牛乳や豆乳と合わせれば、きのこや鶏肉に似合うコクのあるソースにも出来ます。醤油と少量の砂糖を加えて温野菜の和え衣にすれば、昔ながらの「くるみ和え」と洋風のナッツソースの中間辺りへ着地します。

世界へ出ると、くるみは甘い菓子より先に「ソース」として存在感を見せる地域があります。ジョージアの代表料理「サツィヴィ」は、くるみをたっぷり使ったソースで鶏肉や七面鳥を味わう料理です。にんにくや香辛料などを合わせ、家庭や地域によって作り方も変わります。新年などの祝いの食卓にも登場する料理で、日本のくるみダレとは材料も味も違いますが、「木の実を磨り潰して主役級のソースにする」という発想には不思議な共通点があります。

イタリアのリグーリア地方にも、くるみのソースがあります。野菜やリコッタチーズを詰めたパスタ「パンソッティ」に、くるみとクリームを使ったソースを合わせる食べ方が知られています。日本では餅に絡み、ジョージアでは鶏肉を包み、イタリアではパスタへ向かう。くるみは世界を渡ると、随分と働き者です。

もちろん海外で一般的に使われるくるみと、日本のオニグルミは同じものではありません。それでも「殻の中にある油分と香ばしさを、砕いて料理へ生かす」という人の知恵はよく似ています。硬い殻を見て諦めるか、その先にある味を知ろうとするか。その小さな違いから、郷土料理も世界のソースも生まれてきたのでしょう。

秋の木の下に落ちているオニグルミは、一見すると食卓から遠い存在です。けれど殻を割り、磨り潰してみれば、餅にも豆腐にも味噌にも料理のソースにもなる。食材の価値は「そのまま食べやすいか?」だけでは決まりません。ひと手間の向こう側にある美味しさを知ると、山道に転がる硬い実まで、少し気になる秋のご馳走に見えてきます。

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まとめ…秋のご馳走は待つ・煮る・剥く・割るほど味わい深くなる

秋の実りというと、木から採って、そのまま美味しく食べる姿を思い浮かべがちです。けれどフェイジョア、ナツメ、銀杏、オニグルミを眺めてみると、むしろ収穫したところから人の出番が始まる食材ばかりでした。

フェイジョアは自然に落ちる頃を待ち、香りや柔らかさを確かめる。ナツメは生の瑞々しさを楽しむ一方で、甘露煮や乾燥によって季節の先まで残していく。銀杏は匂いのある外側と硬い殻を越え、食べる量にも気を配りながら翡翠色の一粒を味わいます。オニグルミはさらに頑丈な殻を割り、磨り潰すことで、タレや郷土料理へ姿を変えてきました。

栄養の個性も四者四様です。フェイジョアにはビタミンCや食物繊維、乾燥ナツメには食物繊維やカリウムなどが含まれ、銀杏はでんぷん質を多く持ちます。クルミ類は脂質やたんぱく質を豊富に含む一方、少量でもエネルギーは高めです。「体に良さそう」という一言で全部を同じ皿に載せるのではなく、それぞれの特徴を知ってほどよく楽しむ方が、旬の食卓には似合います。

そして面白いのは、日本だけを見ていても終わらないことです。南米生まれのフェイジョアはニュージーランドの家庭で身近な果物になり、ナツメは中国や韓国で料理にも飲み物にも使われます。銀杏は東アジアの食卓を渡り歩き、くるみは日本で餅のたれになったかと思えば、ジョージアでは鶏料理を包むソースになり、イタリアではパスタへ向かいます。

食材は国境を越えるたびに別人になるわけではありません。香り、甘味、油分、食感といった持ち味を、その土地の人が自分たちの料理へ引き寄せているのでしょう。そこには試行錯誤があり、質実剛健な保存食があり、時には「そこへ入れるのか?」と驚く料理もあります。台所という場所は、昔からなかなか自由です。

旬を味わうとは、採れたものをすぐ食べることだけではなく、その実に合った時間と手間を楽しむことでもあります。

知らない食材に出会うと、最初は少し身構れます。食べ頃が分からない、殻が硬い、匂いが気になる、調理法も知らない。それでも1つ分かれば、次に見かけた時には景色が違います。「これはフェイジョアかもしれない」「銀杏は少しだけ楽しもう」「くるみをタレにしてみよう」と、秋の選択肢が1つずつ増えていきます。

全部を自分で拾い、下処理から挑戦する必要もありません。生産者が育てたもの、適切に加工されたもの、地域で受け継がれた料理を味わうだけでも十分です。手間を知ってから食べれば、一口の向こうにある景色まで少し見えてきます。

四季折々の食卓には、知っている味だけでも十分な幸せがあります。それでも、年に1つくらい知らない秋の実を迎えてみる。そんな小さな冒険があれば、毎年やって来る秋も少し新しく感じられます。次に木の下や直売所で見慣れない実と出会ったら、「食べられるのかな?」の次に、「どんなご馳走になるんだろう?」と考えてみる。その瞬間から、秋の楽しみはもう1つ増えています。

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