目次
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勇者が倒れた──その日が、7月8日。
そう、七転八倒の日である。
魔王との戦いでもなければ、伝説の剣を抜こうとして腰をいわしたわけでもない。
ただ…シンプルに、疲れていたのだ。
朝から連続でクエストを詰め込み、MP(メンタルポイント)はすっからかん。
ゴブリンどころか玄関の段差すらボス級に感じるほどである。
いや、正確には七回倒れて、八回目で「もうムリ」と言った。
つまり、八回目の“起き上がり”に失敗したのだ。
ここで豆知識を一つ。
七転八倒とは、七回転んで八回目に見事に起き上がる、などという勇気ある格言ではない。
実際には、もう転げ回ってのたうち回って、もはや誰か呼んでくれ救急車!な状態を意味する。
まさに現代の勇者たち──そう、あなたや私のことだ。
そんな勇者に問いたい。
転んだ回数を数えてる場合か?
どうせまた転ぶのだから、もう数えるのはやめにして、起きる“準備”を始めようじゃないか。
体力ゼロ、MPゼロ、財布の中身もゼロ。
だが、今日が七月八日なら話は別だ。
この日だけは、堂々と七転八倒してよい! むしろ全力で転がってよし! そして全力で「もう一度、立ち上がる理由」を探すのだ。
というわけで本稿では、過労死寸前だった勇者が、いかにして完全復活を遂げたかを、RPG風にお届けしたいと思う。
立ち直りのスキルも、心のポーションも、ギャグと一緒に詰め込んだ。
ぜひ、転がりながら読んでほしい。
あなたが今、布団の中でも、トイレの個室でも、給湯室でため息ついていても、この物語はあなたのMPを少しだけ回復するだろう。
たぶん🩷。
勇者は静かに畳に倒れていた。
派手にぶっ倒れたわけではない。
ゆっくりと、あたかもお布団と恋に落ちたかのように、静かに沈んでいった。
MPがゼロになっただけだ。
ただそれだけなのに、なぜこうも世界が灰色になるのか。
目の前には洗濯物の山、スマホには未読の通知が99+、冷蔵庫には賞味期限が半年前のポーション(もはや毒)──現実とは、なぜこうも無慈悲なのだろう。
そもそも勇者とは、心が強いとか、敵をバッサバッサと斬るとか、そんなキャラじゃなかった。
元々は慎ましくバイトしてた青年である。
気づけばクエスト(タスク)が積み上がり、気づけば責任がのしかかり、気づけば「ちゃんとしてる人」扱いされていた。
心の中ではずっと叫んでいた。
「わたしはそんな強くありません」と。
しかし、声を上げる暇などなかった。
なぜなら次の依頼(メール)が来るからだ。
そしてそれを断る理由は、「体力ゼロ」では認めてもらえない。
現代の社会という魔王は、HPゼロはともかく、MPゼロは自己責任と笑ってくるのだ。
ひどい。
メンタルにも持ち時間はあるのに。
そのうち、勇者はアイテム欄すら見るのが怖くなった。
かつては満タンだった“やる気”は空っぽ、装備していた“やさしさのマント”は擦り切れ、“冷静さの指輪”もどこかに置き忘れていた。
そして手に残っていたのは、“責任感の重い石”だけである。
たぶん、装備重量オーバーだった。
それでも誰かは言う。
「転んでもまた立てばいいよ」と。
うん、それはそう。
でも、**その“立つ”って動作、めっちゃMP使うやつじゃん?**って話である。
立つためには回復アイテムが必要だし、なにより「立っても誰も見てない」なら寝てた方がマシだとすら思う。
だから、勇者は畳の上で、文字通り“七転八倒”していた。
ちなみに勇者が寝転びながら考えていたのは、「もう一度立ち上がる理由がないなら、せめて誰かが笑ってくれたらそれでいい🩷」だった。
そう思った時、少しだけMPが回復した。
これはつまり、心のポーションとは、必ずしもアイテム欄にあるわけではなく、“言葉”や“笑い”や“誰かの共感”に宿ることを、勇者はなんとなく思い出し始めたのだった。
「ねぇ、もうそれ、転んでるんじゃなくて寝てるよ?」
その一言が、勇者の耳に届いたのは、三日目の畳タイムに入ったときだった。
まるで“意識の狭間”から聖女が語りかけてきたかのように、どこか懐かしく優しい声だったが、内容はわりと雑だった。
勇者はうつ伏せのまま、目だけ動かしてつぶやいた。
「え…これ…“気絶”じゃなかったの?」
実際、現代の勇者たちは「立ち直るには回復魔法がいる」と信じがちだ。
スゴい自己啓発本とか、高額ヒーリングセミナーとか、何か壮大なきっかけがなければ、このダメージからは戻れないと。
でも、本当に必要だったのは、**ちょっと笑える“ひとこと”**だったりする。
特に、ツッコミ系の軽いやつ。
あの日、畳の勇者を起こしたのは“やさしさ+ツッコミ”の融合だった。
ポイントは「ねぎらい」ではなく、「ちょっと笑える言い方」である。
勇者を抱きしめて「よく頑張ったね」ではなく、「むしろ、そこまで倒れられる体幹すごくない?」くらいのユルさがよかったのだ。
この“笑ってもらえる転び方”は、もはや現代の必須スキルである。
立ち上がれないなら、せめて「寝転んでても愛される勇者」になればいい。
事実、SNSでも話題になるのは、圧倒的な努力より、ちょっと抜けてて共感できるエピソードだったりする。
つまり、我々が想像する“蘇生魔法”とは、誰かの完璧な正解の言葉ではなく、「お前もか!」と思わせる、人間味あるひと言のことなのだ。
そしてその言葉をかける人が、べつに賢者でも姫でもなく、近所のコンビニの店員とか、毎朝すれ違うおばあちゃんとか、ただのXのフォロワーだったとしても、それでいい。
むしろ、意外な人からの“何気ないひと言”が、最強のポーションになることはよくある話だ。
このとき勇者は学んだ。
立ち上がるには、「立て」と言われるより、「それ寝てるだけだよ」の方が効く場合があると。
つまり、真面目すぎると回復しにくい🩷。
ツッコミ待ちの余白を作ることも、勇者の立派な防御術なのだ。
そう考えると、今日もまたMPゼロで畳に沈む誰かが、どこかで救われているのかもしれない。
自分じゃ気づけないけど、誰かが笑ってくれたら、それでちょっと回復できる──それが、“自動回復スキル:共感Lv1”の効果である。
その夜、勇者はふと気づいた。
仲間はいない、と思っていたけれど、実はずっと“バフ”は受けていたらしい。
なお、ここでいうバフとは、「HP回復+10」や「物理防御アップ」ではなく、「LINEでたまに送られてくるスタンプ」とか、「疲れてる時にだけ反応する家族の“今日早く寝たら?”」などの、いわゆる現代型サイレント支援のことである。
本当に孤独なパーティーなんて存在しない。
人間という職業は、だいたいソロプレイに見えて、裏で誰かがバフをかけ続けてくれている。
たとえば、会社の自販機に補充されたお気に入りの缶コーヒー、それを切らさずに補充してくれる名もなき補充員さん。
あるいは、職場であなたのスリッパを絶妙な位置に揃えておいてくれる影のヒーラーさん。
気づいてないだけで、あなたの“転び防止スキル”は、周囲からのバフで保たれているのだ。
勇者も気づいた。
洗濯カゴに、いつの間にか替えの靴下が追加されていた。
あれ…?これ…自分で洗って干した記憶…ない…。
まさか、母…。
一瞬で、「家事スキル:洗濯+炊事+心配Lv99」のバフが全身を包み込む。
「あ、これ…無償バフだ……」。
勇者は思わず涙ぐんだ。
泣くタイミングはそこじゃないと言われたが、それでも泣いた。
人は、疲れているときほど気づかない。
バフって、派手じゃないから。
でも、それがないとMPは自然回復しないのだ。
ときどき、「自分には誰もいない」と感じることもある。
そういうときは、大抵“目に見えないバフ”の存在を見落としているだけ🩷。
関係性の強さは、言葉の多さや頻度じゃない。
むしろ、そっと送られた既読スルーの中に、たっぷりの回復魔法が含まれていることだってある。
ちなみに、あの夜、勇者の部屋の前にそっと置かれていたのは、カップ麺とチョコレートと、冷えた栄養ドリンクだった。
メニューは完璧に“おかんバフ”である。
勇者は心の中で、最大MPの10%くらいまで回復し、再び布団に沈んだ。
「うん、まだ起きないけど、ちょっと元気にはなった」と、布団の中で静かにポーションの味を噛み締めた。
勇者はようやく、布団という名のフィールドから上半身だけを起こした。
体力ゲージは限りなくゼロに近かったが、気力のMPがちょっとだけ回復していることを確認した。
これは……起きるフラグ……?
しかし、その瞬間、勇者は気づいてしまった。
装備、ボロボロじゃね?
たしかにこれまで頑張ってきた。
戦いの場数も多かった。だが、改めて自分の状態をステータス画面で確認すると、「防御力:紙」「精神耐性:風前の灯」「魅力:やや寝癖あり」と、誠に遺憾な数字が並んでいた。
どうやらこの数ヶ月、武器は折れたまま、盾はヒビが入り、マントはいつの間にかバスマットに転職していたようだ。
昔の勇者なら、そんな装備でも気合で戦っていた。
でも今の勇者は気づいたのだ。
もう、気合だけで世界を救う時代じゃない。
装備、見直そう。
まずはそこからだ。
というわけで、勇者は再鍛冶に取りかかることにした。
まず、あの“責任感だけでできた重すぎるフルプレートアーマー”は脱ぎ捨てよう。
誰もそこまで期待していないのに、勝手に「オレが何とかしないと病」にかかっていた。
次に、“なんでも引き受ける剣”も修理に出そう。
便利だったが、切れ味が良すぎて自分のHPまで削っていた。
そして大事な“自己肯定のブーツ”。
これはもう、どこに置いたかすら思い出せない。
どこかで脱いで、そのまま裸足で社会に突っ込んでいったような記憶がある。
勇者は思い出す。
装備を整えるとは、見た目を完璧にすることじゃない。
今の自分に合った軽さ、動きやすさ、守られ方を見つけ直すことなんだ。
昔の「かっこいい」や「ちゃんとしてる」スタイルじゃなくてもいい。
今の自分が「ちょうどいい」と思える装備で、再スタートすればいい。
たとえば、以前はスケジュール帳にびっしり書き込んでいた予定を、今では付箋1枚で済ませる。
昔は人前でビシッと発表してたのに、今は「えーっと…まぁそんな感じです」で済ませる技も身につけた。
これも装備の変化である。
適応=進化なのだ。
再び歩く前に、しっかり装備を整える時間をとろう。
回復ポーションも良いけれど、まずは自分というキャラの再チューニングが大事🩷。
勇者は言った。
「今日のオレ、わりといい感じの軽装だな」と。
ヒゲを剃り忘れていたが、気にしない。
それもまた、今のスタイルだ。
立ち上がるのは勇気だった。
けれど、歩き出すのは、もはや事件だった。
勇者は、長らく畳と一体化していた背中をバキバキ鳴らしながら、ついに立った。
世界は変わっていなかった。
部屋は散らかっているし、洗濯物は干した覚えのない角度で乾いている。
だが、空気が少し違った。
勇者が初めて“自分の足”で立ったからだ。
ここでひとつ重要なことを確認しておこう。
**立ち上がるだけでは、RPGではイベントは進まない。
歩くのだ。
前に出るのだ。
クエスト「布団から出る」をクリアしない限り、次の村には行けない。
**それがこの世界の仕様である。
だが、その一歩が……重い。
いや、重いのは足ではない。
「また転ぶんじゃないか」という未来の想像力と、「また期待されちゃうんじゃないか」という過去のトラウマが、がっつり両肩に乗ってくるのだ。
もうね、歩くというより、心理的なベンチプレス。
動き出すときの勇者の顔は、もはや「筋トレ中の部活男子」である。
それでも歩いた。
なぜか?
理由なんて特になかった。
冷蔵庫が空だったからかもしれないし、洗濯した服を取り込まないと湿気で異臭がするからかもしれない。
でもそれでいい。
人生の再スタートに、壮大なテーマなんていらない🩷。
勇者がドアを開けて、一歩外に出た瞬間、風が吹いた(扇風機の首振りのタイミングだったけど)。
その風を受けながら、勇者はつぶやいた。
「あ、今日ちょっと涼しいな」――この何気ない一言こそが、新しい冒険のプロローグだった。
歩き出すことでしか見えない景色がある。
頭でいくら考えても、布団の中では“世界が狭い”。
そして、歩いた先で出会う人や出来事が、新しいバフやクエストをくれる。
大切なのは、勇者が“立ち上がったこと”を自分で誇りに思っていいということ。
誰も見ていなくても、通知も来なくても、「今日、ちゃんと起きて歩いた」それだけで、世界のどこかがちゃんと変わっている。
ちなみに、歩いた先でつまづいて、またコケたらどうするか?
そのときは、笑えばいい。
**「オレ、またレベルアップしてる」って言えばいい。
**七転八倒なんだから、あと一回ぐらい転がっても誤差である。
そして勇者は、七転八倒の果てに、なんとか今日も生きている。
大きな勝利はなかった。
ラスボスも出てこなかった。
奇跡の剣も入手していない。
けれど、布団から出て、チョコレートをかじり、バフがかかったTシャツを着て、外の空気を吸った。
それだけで、もう十分すぎるほどの偉業だと、誰かが言ってくれる気がした。
現代社会というダンジョンは、とにかく罠が多い。
「ちゃんとして見える人ほど、限界を見せちゃいけない空気」とか、
「一度転ぶと、SNSで全方向から突っ込まれるシステム」とか、
もはや仕様がバグっているとしか思えない難易度なのに、勇者たちは日々、何事もなかったかのような顔で“復活”を繰り返している。
でも本当は、もう少し“転んでもいい文化”があっていいと思う。
七転八倒とは、苦しみながら、もがきながら、それでも「もう一回やってみるか」と笑える日を待つ姿だ。
転びながら進むこと自体が、現代の勇者の立派なスキルなんだと、今日だけは思っていい。
もしも、あなたが今まさに転んでいて、立ち上がれないでいるとしたら、それは決して“敗北”じゃない。
むしろ、「再起動中」かもしれないし、「ポーションを飲んでいる最中」かもしれない。
あるいは、ただ寝てるだけかもしれないけど、それもまた戦略である。
そして、七転八倒してる人を見かけたら、そっと言ってあげよう。
「それ、転んでるんじゃなくて、休憩中だね」と。
そのひと言が、どこかの誰かのMPを回復させるかもしれないし、世界のどこかがちょっとだけ、優しくなるかもしれない。
7月8日、七転八倒の日。
今日という日を、**倒れながらも笑って立ち上がる人たちの“祝日”**にしよう。
この日がある限り、何度転んでも、きっとまた“次の一歩”が始まるから🩷。
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