目次
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夏の夜。
静寂のなかで、突如響きわたるあの忌まわしい羽音――「ブ~~~ン」。
恋人でもない、友達でもない、むしろ絶対に仲良くなれないあの存在。
そう、蚊である。まるでホラー映画の主役のように現れては、肌のすき間を狙い、気づけば我々の血液をちゅうちゅうと吸い上げていく。
「いや、君にも事情はあるのかもしれない。卵を産まねばならない。命をつながねばならない。分かるよ、その気持ち…」
そう思ったところで、ぷっくり腫れた腕と、止まらぬかゆみに涙が止まらない。
愛と許しの精神も、痒みの前には無力である。
「生きるため」と言えば許されるならば、人間だって蚊取りラケットを手に取る。
「やられる前に、やる」そんな静かなる決意とともに、今夜も戦いの火ぶたは切って落とされるのだ。
さあ、これはただの痒みではない。
これは人類と蚊による、終わらない戦争の物語。
羽音が鳴れば、夜は静かに緊張感を帯びる――。
次章より、いよいよ開戦である🩷。
電気を消して、今日も一日が終わった。
大事な休息に向けて、おやすみなさい、と目を閉じたその時だった。
「ブ~~~~ン」
低くて細い、あの羽音。
あの音を聞いた瞬間、人類は反射的に思う。
「ヤツだ…!」
姿が見えない。
部屋のどこにもいない。
けれど、耳元で確かに聞こえた羽音。
あまりにも控えめな音量なのに、神経をズタズタにするあの独特な音色。
寝かせる気がない。
確信犯である。
たぶんヤツはわざと耳元に来ている。
絶対に刺すつもりはなく、「おーい、ここにいるよー!」とアピールだけしてから、部屋のどこかにすっと消えていく。実にいやらしい性格である。
とりあえず電気をつける。
そして起き上がる。
だが、いない。
姿がない。
寝ぼけた頭で壁を見上げ、天井を眺め、カーテンの裏を覗きこむ。
その間にも、ヤツはどこかで「にやっ」と笑っている気がする。
もちろん、見えないけれど。
ようやく見つけたその時には、もう羽をしまい、天井に張り付いて静止している。
こちらが手を伸ばすと、その瞬間「スッ…」と絶妙な間合いで逃げる。
まるで忍者か、プロの暗殺者か、あるいは夜空に舞う小さなスパイ。
深夜の寝室は、突如としてサバイバルアクション映画の舞台となる。
人はパジャマのまま、布団の上でジャンプし、壁に向かって空振りを繰り返し、最後には「もういい!勝手に吸って行け!!」と魂を抜かれるのであった。
ヤツは、ただの虫ではない。
眠気と安眠を奪う、ステルス迷惑兵器🩷。
今夜もどこかの寝室で、耳元の「ブーン」に、人類は目覚め、そして敗北する。
人類がどんなに隠れても、蚊は必ずやってくる。
家の奥にいても、靴下を履いても、静かにじっとしていても、何かしらバレている。
なぜだ。
どうしてだ。
私の何を見ている。
どこに監視カメラがある?
その理由が明らかになるにつれ、恐怖は確信に変わる。
蚊は──軍事用ドローンも顔負けの索敵センサーを搭載しているのだ。
まず第一に、二酸化炭素の検知。
これは人間が生きていれば必ず吐いている。
蚊はそれを空中でキャッチする。
しかも、数十メートル離れていても分かる。
ちょっと待って、それって野生の犬よりすごくない?
もう能力が犬超えてない?
さらに体温。
ちょっと温かいだけで「おっ、いい血が流れてるね♡」とばかりにやって来る。
冷え性の人は若干の恩恵を受けるかもしれないが、汗っかきの夏場なんてもうアウトだ。
どこかで蚊がスタンディングオベーションしてる。
「こんなに発熱してくれてありがとう!」って。
おまけににおい。
人間の汗、皮脂、足のにおい…すべて蚊の大好物。
特に足のにおい。
靴下を脱いだ瞬間、蚊が一斉に飛んできてもはや歓喜の舞。
もう「足のにおい=集客アイテム」みたいなもの。ライブ会場か。
それでもって色まで見ているという。
特に黒。
蚊にとって黒はもう「吸ってください」と言っているようなもので、
白い服が安全とされているが、蚊の前ではファッションなんて無力だ。
つまり人間は、蚊の前に立った時点でアウトなのだ。
どんなに気配を消しても、息をして、体温があって、少しでもにおえば――
それは蚊にとって、もう「いらっしゃいませ」のネオン看板。
彼らの索敵能力は、我々の想像の遥か上をいっている。
あの小さな体に詰め込まれたスーパーレーダー。
そう、それは愛のため、命をつなぐため――
とはいえ刺されたら痒いものは痒いので、やっぱり悔しい🩵。
人類は考えた。刺されたくない、痒くなりたくない、もう眠れない夜はイヤだ。
そしてその願いのもとに、次々と開発されていった「蚊対策グッズ」。
スプレー、線香、電子音、電撃ラケット――どれも素晴らしい発明だ。
だが蚊は、そんな人類の努力に対してこう言った。
「で?」
まずは昔ながらの蚊取り線香。
これぞ昭和の必殺技。独特の香りに懐かしさを覚える人も多い。
だが最近の蚊は、あの煙をスルーしている気がしてならない。
線香を焚いていても、なぜか蚊は部屋の片隅でゆっくりと羽を休めている。
「お香?いい匂いですね」みたいな顔をして。
いや、違う、これは戦争なんだってば。
次にスプレー。
空間に噴射するタイプ、肌に直接かけるタイプ、いろいろある。
だが蚊は、どこからともなく風を感じ取り、スプレーの射程を巧みに避けてくる。
「シュッ!」とした瞬間には、もうどこかに避難済み。
もはやスパイ映画の回避アクションレベルである。
そして出ました、現代の英雄・電撃ラケット。
「パチンッ!」と決まったときの快感ときたら、そりゃあもう。
一瞬の電撃に、喜びの声が上がる。だが、あれは「狙いが完璧だったとき」だけだ。
ちょっとでもタイミングを外せば、逆に風圧を感じ取って逃げられる。
そして蚊はこう思っている。
「ビリビリ?あ、はいはい、またそれ?」と。
極めつけは「蚊が嫌がる音を出すアプリ」。
これに関しては、もはや蚊がスマホの上に止まっていたという目撃例まである。
「いいBGMですね」ってことか。
音楽として受け入れてないか、それ。
つまり、蚊は日々進化している。
人間が1つ新しい武器を開発すれば、蚊は1つ新しいスキルを身につける。
完全に適応してくる。
恐るべき対応力。
どこかで軍事研究に参加してるのでは?と思ってしまうほどである。
人類の開発力と、蚊のしぶとさの果てなき戦い。
まるでシューティングゲームのように、「次のステージ」に進んでいく。
敵も進化する。
こちらも新技を開発する。そして、刺される。
この繰り返しの中に、私たちは確かに「蚊との共存とは何か」を問い続けている🩷。
いや、ほんとは共存なんて望んでないんだけどね。
やっと見つけた。あの壁に止まる小さな黒い影。
ここまで何度も逃げられ、悔しい思いをしたけれど、今こそ…今こそ仕留める!
そう心に決めて、手のひらをそっと構え、角度を調整し、狙いを定めて……ペチンッ!!
……いない。
どこだ。
なぜだ。
確かにそこにいたはず。
消えたのか。
まさか……分身の術!?
そんなバカな、と思いながら天井を見上げると、そこにちょこんと止まる姿。
こっちを見て笑ってるように見える。
え、今、鼻で笑った?お前。
蚊の逃走能力、それはもはや虫の範疇を超えている。
人間の気配、空気の揺れ、手の振動、体の動き…あらゆる情報を、あの2ミリの脳みそで即座に分析し、「やばい!」と判断するや否や、ススススーーーっとスライド移動するように消えていく。
まるでCG。いや実写だけど。
空振りが続くと、人間側は次第にムキになる。
そして冷静さを失い、思わずダブル手叩きに挑戦。
パァン!!
音だけは立派だが、蚊は悠々と空中をヒラリヒラリと舞っている。
「焦ってる焦ってる〜♪」と、まるで余裕すら感じさせる軽快な軌道。
この時点で、我々は完全に試合に負けている。
蚊は軽い。
あまりに軽い。
数mg・mmのその体は、風に逆らうことなく、むしろ風に乗る。
人類の武器である「手のひら」は、風圧という致命的な弱点を持つことを、蚊は熟知している。
どの角度から、どのスピードで来るか――その一瞬の風の流れを読み切り、スッと回避。
もはや武道家。
いや、暗殺者。
むしろ未来から来た戦闘機なのでは?と疑うレベル。
こちらが全神経を集中しても、ヤツはそれを軽々と超えてくる。
こちらが狙えば狙うほど、ヤツは「ふっ…甘いな」とばかりに去っていく。
だがそんなヤツも、時に調子に乗りすぎて、目の前をフワッと通ることがある。
その瞬間、全身の筋肉が反応し、ペチンッ!…決まった。
やった、勝った!
けれど手を見ると、そこには……血。
自分のだ。
勝利したのに圧倒的な敗北感を感じる…。
やっぱり、勝っても痒い。
そして翌朝には、また新たな刺客が現れるのである🩵。
蚊には蚊の事情がある。
たった一度の恋の記憶を胸に、命をつなぐために血を求め、風のように飛び回る。
そう思えば、ちょっと切ない。
いや、すごく切ない。
だけど痒いのだ。
やっぱり痒い。
それはもうどうしようもなく、真夜中に目を覚ますほど痒い。
だから人間には人間の戦略が必要になる。
まず、何よりも「狙われない体」を目指す。
これは決して蚊に嫌われたいわけじゃない。
ただ、ちょっとだけ「今はごめん」って思ってほしいだけだ。
まずは服装。
蚊の好みは明確で、黒が好き。
濃い色が好き。
オシャレが刺される要因になるなんて悲しいけれど、真夏に全身黒は、蚊にとって「おいでませ」の看板そのもの。
一方で、白や明るい色はちょっと警戒される。
つまり…夏のファッションは「モテない服」を目指すことが、防御力UPの第一歩だ。
次ににおい。
蚊は汗や皮脂のにおいに敏感。
つまり「風呂入って寝よう」が最強の武器になる。
意外と知られてないけれど、足の裏のにおいがかなり刺されるポイントになっているらしい。
ということは…「寝る前に足を洗う人は、蚊にとってつまらない人間」と言えるかもしれない。
蚊に嫌われるなら、私は清潔に嫌われたい。
そして、物理的な最終防衛ラインとして「蚊帳」。
これがまた…地味だけど、圧倒的な効果を持つ。
古き良き知恵。風流と機能性の融合。蚊取り線香とセットで使えば、もはや戦国時代の守備陣形レベルの鉄壁。蚊は中に入ることができない。
悲しきかな、ノックも通じない。
だが、これだけは忘れてはいけない。
彼らは敵ではない。
刺してくるけど、命のためなのだ。
子どもを産みたい、それだけなのだ。
だから、できることなら共に生きたい。
刺されず、刺さず、穏やかに🩷。
……が、やっぱり痒いものは痒い。
というわけで、我々は今日も涼しい顔で蚊を避けながら、ほんのちょっぴりの哀愁と、たくさんのかゆみを胸に、夏を生き延びていくのである。
「ブ~~~ン」という羽音ひとつで、人は目を覚まし、戦闘態勢に入る。
手のひらを構え、スプレーを探し、スマホの光で部屋をスキャンする。
なぜここまで必死になるのか。
それは痒いから。
どうしようもなく、ただひたすらに痒いから。
だが、ふと立ち止まって考えてみる。
蚊は悪意があって刺すわけではない。
彼女たちは、ただ卵を産むための材料=血液のたんぱく質を探し求めているだけなのだ。
恋をして、命をかけて、たった数回の吸血のチャンスに人生を懸けている。
そう、これは「ただ血を吸う虫」ではなく、「命を育てようとする母」なのだ。
とはいえ、そんな蚊の想いを知ったところで、痒いものはやっぱり痒い。
夜中に目を覚まし、ぽりぽりと掻く自分の姿に、蚊への共感は追いつかない。
それでも、たった一滴の血に込められた彼女たちの切なる願いを思えば、ほんの少しだけ…ほんのちょっぴりだけ、憎しみのトーンを弱めることはできるかもしれない。
それが分かった上でも、人間はきっとまた蚊を叩く。
パチンッという音とともに、「あっ、やったか?」とつぶやく夏の夜。
恋も母性も尊いけれど、やっぱり痒みには勝てない。
でも、蚊もまた全力だったのだと、少しだけ想いを馳せてほしい。
宿命の戦いに終わりはない。
けれどその背後には、切実な生き様があって、意外と感動するかもしれない。
だから今夜も私は、蚊取り線香を焚きながら思うのだ――
「できれば刺さないで。
けど、どうしてもなら…せめて静かにしててね」って🩷。
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