目次
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海。
それはただのレジャースポットではない。
それは、命の始まりの地であり、心の荒波を整える道場であり、そして――じぃじにとっては孫の才能を目覚めさせるための、究極の修行場でもある。
今朝、ママがふと漏らした。
「今日は、海行ってみようか。天気もいいし、じぃじ、ヒマでしょ?」
その一言に、じぃじの脳内で、過去の浜辺バトルの記憶が走馬灯のようによみがえる。
潮の流れ、波のタイミング、浜風の罠、砂の熱さ、クラゲの策略――すべてが蘇る。
だが、今日は違う。
相手は海ではない。
守るべき存在がいる。そう、小学二年生、8歳の男児。
この夏、彼を「ただの少年」から「海の戦士」へと導く使命が、じぃじに課せられたのだ。
母親であるママは日焼け止めを塗りながら、
「まあ、海っていってもそんなに危険ないでしょ~?」と軽い調子。
違う。違うんじゃ。
じぃじの視界にはすでに、波の奥にひそむ“引っ張りおじさん(離岸流)”、
砂に潜む“地雷(焼けた貝殻)”、風に舞う“パラソルブーメラン”の姿が浮かんでいる。
孫よ、見ていろ。
このじぃじが、すべてを制し、すべてを教え、そして最高の思い出を、
潮の香りとともに、おぬしの胸に刻んでくれるわい――。
こうして、令和の浜辺に新たなる伝説が刻まれる。
じぃじ、フルパワー出陣の時。
さあ、戦場は海じゃ!!🩷
その日は朝から青空が張り切っていた。
雲ひとつない晴天。
つまり、それはすなわち“敵の全力態勢”である。
ママは「わぁ~海きれい~」とスマホで撮影大会。
孫はすでにテンションMAXで浮き輪を腰に装着し、謎のダッシュを繰り返している。
そしてその後ろに立つ、ひとりの男。じぃじ。
彼はすでに勝負に挑む顔をしていた。
「よいか、おぬしら……この砂浜は、ただの白い大地と思うなよ」
じぃじはまず、足元にタオルを広げ、手のひらで砂をすくった。
一瞬で理解したようにうなずく。
「これは、鉄板焼きレベルじゃのう……」
そう、この白砂。
見た目に反して、温度は40度超えも珍しくない灼熱の拷問エリア。
油断してサンダルを脱ごうものなら、足の裏が悲鳴を上げて昇天しかねない。
孫はすでに「うぉおお!」と叫びながらジャンプで進もうとしていた。
「ストップじゃ!」
じぃじは孫の腕をキャッチ。
突然“背負い投げ”でも始めるのかという構え。
「おぬし、まずは『日焼け止めの儀』を済ませよ。これを怠る者は、午後から“皮むけモンスター”と化す運命にある」
日焼け止め。
しかもスプレーではない。
じぃじの持参した“白くて伸びにくいクリームタイプ”。
しかも、“顔面白塗り+耳裏仕上げ”という念の入れようで、孫は途中で「これ戦隊ヒーローの変身かよ~」と笑いながらも、ちょっとワクワクしていた。
そしていよいよ、ビーチ陣取り合戦が始まる。
ママは「このへんでいっか~」と砂の上にバッグを下ろしかけたが、すかさずじぃじが割って入る。
「その場所、あと1時間で波に飲まれる場所じゃ。見よ、この潮のライン……わしが若いころ、ここでクーラーボックスが海に連れ去られた」
ママ、目をぱちくり。
孫、「えっそんなの見えるの?」と尊敬のまなざし。
じぃじ、静かにうなずきながら、棒で地面に影をさして言った。
「影の向きと太陽の高さで、おおよその潮位が読めるんじゃ。これぞ“影時計”……昔の男は、腕時計より影を信じたものよ」
結果、彼らは浜辺の絶妙な安全地帯に、じぃじ流“パラソル城”を築くことになる。
風向きを読み、日差しを予測し、海風に立ち向かうように斜めに打ち込まれる傘。
その傘を支えるのは、じぃじの知恵と、ペグと、あとママの予備タオルで即席に巻かれた補強結び。
まるで戦陣のごとし。
「ふふふ、これで本拠地は盤石じゃ。さあ、孫よ。次は波と対話する時間じゃ🩷」
それはまだ、ほんの序章にすぎなかった。
浜辺に立つ男、じぃじ。
彼の背中に、夏の太陽がまぶしく光っていた。
じぃじが選んだ場所は、波も届かぬ安全地帯、日差しも角度によって弱まる戦略的ポジション。
そこで始まるのは、静かなる建設作業――名付けて“パラソル城築城の儀”。
ママが涼しげに言う。「パラソルって、ただぶっさせばいいんでしょ?」
じぃじ、即座にため息ひとつ。
「甘い。そんな考えで夏を制することはできぬ」
まず、パラソルのポールを差す場所には、じぃじが掘った“砂の井戸”が現れる。
そう、ただの穴ではない。
あれは風を分散させ、倒壊を防ぐ要塞の土台。
その深さ、じぃじの経験により約30センチ。
孫はスコップで「ぼくがやる!」と大興奮。
まるで城づくりゲームが現実になったかのよう。
「風向き、南南西じゃな……よし、斜め打ち込み戦法でいく」
そうつぶやくじぃじは、もはや戦場カメラマンのような顔つきで空を見上げる。
そしてそのポールを、少し傾けながら砂にねじ込み、さらにはあらかじめ用意していたペグ(じぃじ私物、年季入り)で固定していく姿に、孫もママも感嘆の声を漏らす。
そして――運命の瞬間。
その時、突然、海から「ビュオオオ……ッ」と風が舞い、パラソルがわずかに揺れる!
ママが「えっ倒れない!?」と叫ぶより早く、じぃじが素早くタオルで根本を縛り、バッグのベルトでさらに補強。
すでに動きは職人芸。
孫が思わず「じぃじ、忍者!?」と声を上げると、じぃじはニカッと笑ってこう言った。
「これが“風の舞”じゃ。受け流すのが極意じゃのう」
だが、風だけではない。真の敵は“潮”である。
見よ、あの遠くからじわじわと攻めてくる海水。
油断すると足元のレジャーシートを濡らし、タオルを塩まみれにし、クーラーボックスを連れていく、その静かな脅威。
「ママ、あそこに置いたバッグ……じわじわ来てるよ!」と孫。
「あっ、うそ、やだ濡れるー!!」とママがバッグを抱えて走る横で、じぃじは重々しくうなずく。
「潮は、いつでも“すべてを持っていく者”じゃ。油断は禁物」
この日、じぃじの口から発せられた名言は数知れず。
孫はすでに小さな手帳に、“じぃじのことば”をメモし始めていた。
「砂場の深さは心の深さ」なんて、使いどころのない金言まで記録済み。
そしてついに完成する、“じぃじ式パラソル城”。
中央には荷物スペース、日陰が最大になる角度で傘が傾き、まるで計算されたかのように座るとちょうど涼しい。
いや、計算されていたのだ。
じぃじによって。
「これぞ、夏の陣。拠点完成じゃ!」
じぃじの言葉に、孫は小さく敬礼🩷。
ママはアイスを取り出しながら、じぃじの背中にうっすらと敬意をにじませた。
だがまだ、戦いは終わらぬ。
次に立ちはだかるは、あの波、そして海に潜む“引っ張りおじさん”。
次章、波とじぃじの直接対決、いよいよ開幕である。
昼の陽が高く昇り、パラソル城の陰も短くなりつつあるころ、じぃじが静かに立ち上がった。
「よし……そろそろ、波と話してくるかのう」
孫が浮き輪を抱え、まっすぐにじぃじを見上げた。
その目はもう、ただの小学二年生ではない。
すでに“浜辺の弟子”としての覚悟が宿っている。
じぃじはまず、足元の砂を踏みしめた。
「波と戦う前に、まずは砂と友にならねばならぬ」
そう言って片足を砂の中にグイッと突っ込む。すると砂がじわじわと沈んでいく。
「これが“重心固定”。足場を見失った者は、波に遊ばれるだけじゃ」
孫はすぐにまねをして片足砂にズボッ。
笑いながらも「うわっ、沈むー!」と大はしゃぎ。
じぃじは笑わない。ただ、遠くの波を見つめながら静かに語る。
「見ろ……波には“性格”がある」
やってくる波は、小さな三兄弟。
手前の一番目は遊び好きな次男坊。
真ん中は穏やかだけど油断するとぐいっとくる三男坊。
そして奥からやってくる一番大きな波、こいつが長男。
見た目に反して急に本気を出してくる、いわば“押しの強い厄介者”である。
「波はな、ただの水じゃない。押してくる波と、引いていく波。2つの力が交互にやってくる。それを“波の呼吸”という」
「呼吸!?」と孫は目をキラキラさせた。どうやらじぃじが言うと、どんな技もかっこよく聞こえるらしい。
じぃじは波打ち際で、まず静かに前屈み。
「こうして、背を低くし、波の力を受け流す。そしてここで――“引き波返し”じゃ!」
引き波返しとは、引いていく波に足を合わせ、ふくらはぎを砂に埋め、逆らわず、でも飲まれずに踏みとどまる古の技法。
じぃじは軽やかに波の引き際を見極め、スッと体を後ろに反らしてバランスを取る。
何度も。まるで波と会話をしているかのように。
「これは……カッコイイ……」と、孫がぽつり。
ママはその姿を、ちょっと遠くから写真に撮ろうとするも、波に集中しすぎてじぃじのポーズが毎回ちょっとブレる。
「おぬしもやってみよ」
そう言ってじぃじが促すと、孫も果敢に波へと足を進めた。
最初の一波で「うわわわっ」とバランスを崩したが、じぃじが背中を支えて一言。
「焦るでない。波は敵ではない、“対話相手”じゃ」
そうして二人は並んで、波の押し引きを読んで立ち続ける。
引く力が強ければ少し体を後ろに。押しがきたらしゃがんでやりすごす。
孫は言った。
「これって……ゲームよりおもしろい!」
「そうじゃ。これが“本物の夏”じゃ」
じぃじは空を見上げ、遠く水平線のかなたに向かってにやりと笑う。
その頃、ママはというと、足首までしか入っていないのにすでに「ヒィッ冷たっ!」と叫んで、砂浜へ撤退。
じぃじは「ママはレベルEやな」と孫に耳打ちし、ふたりで声をひそめて爆笑。
波と語り、風と戯れ、太陽と握手。
そうして孫の中に、じわじわと“海の流儀”が浸透していく。
そしてふと、孫がじぃじの手を握りながら、こう言った。
「じぃじ……来年も、一緒に来ような」
じぃじの口元が、ほんの少しゆるむ。
そのとき、空のどこかでセミが鳴いた。
夏はまだ、はじまったばかりだ――🩷。
浜辺の喧騒が少し落ち着いた午後、じぃじはふと、岩場の方角を見つめた。
「孫よ……見えるか。あの光る水たまりの向こうに、“やつら”がいる」
孫の目が、きらりと光る。
「やつらって……カニ?魚?それとも……宝物?」
「そのすべてじゃ」
じぃじは無言で腰から取り出したアイテムを見せた。
ビニールバケツ、手網、そして年季の入った図鑑。
表紙は擦り切れ、“潮だまり完全攻略”と手書きで書いてある。
「よし……潮だまり探検、開始じゃ」
潮だまり――それは自然が残した小さな水の箱庭。
時間が止まったような静けさの中に、ちょろちょろと動く小魚、すばしっこいカニ、岩の陰からのぞくウミウシ。
まるで“自然界のミニチュア水族館”。
「うわっ!なんか動いた!」と孫。
「落ち着け。急ぐとやつらはすぐ逃げる。観察とは、“目”で追うんじゃ、手ではない」
じぃじはそっと身をかがめ、小さな水たまりに目線を合わせた。
「ほれ、あそこ。フジツボに混じって隠れてる……イソガニじゃ」
孫もしゃがみこみ、じーっと見つめる。
「動いた!ちょっと動いた!かわいい~!」
その声にカニが“シャッ”と後退。
孫はびっくりして尻もち。
じぃじは笑わず、こうつぶやく。
「カニも生きとる。無駄に触るでない。“距離感”が大事なんじゃ」
そして突然、孫が小さく叫ぶ。
「おぉっ!青いのいた!青い魚がピョンって跳ねた!」
じぃじは即座に図鑑を開く。
「それは……アゴハゼのちびかもしれん。見分けるのは“背びれの形”じゃな」
2人で顔を突き合わせて図鑑を覗き込む。
まるで生き物学者と助手のよう。
ママは少し離れたところからその光景を見て、スマホを胸にしまった。
撮るより、この時間を焼きつけておこうと思ったらしい。
「おっと、触るな!そいつは毒クラゲじゃ」
「え、マジで?毒なの!?」
「いや、正確には“触ると痛いだけ”じゃが、ママが触ったらたぶん3日ぐらい怒るからな」
孫が笑いながらクラゲを避けると、そこにはカラフルな巻貝がひとつ。
じぃじが目を細めて言った。
「それは……“アサリ界の迷子”じゃ。たぶん波にのまれて、ここにたどり着いた」
「迷子かぁ……助けてあげよっか」
「いや、迷子にもな、それなりの旅がある。いまそっとしておこう」
孫はちょっと難しい顔をしながらも、うん、と頷いた。
その後も、2人はじっと水たまりをのぞき、時にメモをとり、時にしゃがみこんで動きをまねして笑った。
「じぃじ、すっごく詳しいんだね……」
「ふふ、昔な、わしは海の忍者と呼ばれた男じゃ」
「嘘でしょそれ」とママが遠くで突っ込む。
こうして潮だまり探検隊は、バケツの中に数匹の魚と貝、そして心の中に“大きな感動”をお持ち帰り。
じぃじの目には、昔の自分とそっくりな小さな探検家が映っていた🩷。
そして帰り際、孫がぽつりとつぶやく。
「ねぇ、ぼくも将来、じぃじみたいに海に詳しくなれるかな?」
じぃじは、すぐに答えなかった。
ただ、潮風の中で少しだけ笑った。
それが、なにより確かな答えだった。
午後の陽ざしが少しだけ和らぎ、じぃじと孫が探検から戻ってきたころ、浜辺の空気はどこかのんびりとしていた。
ママはレジャーシートの上で、サングラスをかけ、片手に雑誌、片手にジュース。
すっかりリゾート気分。だが、この後あれほど全力で走ることになるとは、誰が予想できただろうか。
じぃじが戻ってきてまず言った。
「潮が満ちてきとる。あと30分で“第2波”がくる。物資は高台へ移動じゃ」
その忠告をよそに、ママは「うんうん、だいじょぶ~」と笑って手を振る。
孫は貝殻コレクションを見せながら「これ、ぼくが見つけたんだよ!」と嬉しそう。
だが、そのとき。
「ちょ、待って、これ……なに?動いた!今、絶対動いたよね!?」
ママが何気なく広げていたバスタオルの上に、なぜか一匹の小さなカニが出現。
じぃじが「おぉ、そいつは“タオルガニ”じゃな」とうなずいた。
「タオルガニ!?それ図鑑に載ってるの!?」
「いや、勝手にわしが名付けた。タオルによく潜むからのう」
ママは叫ぶ。
「ちょ、ちょっと!早くなんとかしてぇー!」
カニはカニで「ここ、居心地いいんスけど?」という表情でしがみついて動かない。
じぃじはまったく動じず、木の棒でそっと持ち上げ、パラソルの影へリリース。
ママはその間、2メートルほどジャンプしながら移動していた。
だが、それで終わりではない。
数分後――今度は、「ぎゃああああああ!」という、さっきより明らかに“質量のある悲鳴”が響いた。
なんと、ママの足元に小さなクラゲが漂着していたのだ。
しかも、ちょっとだけ透明でキラキラしていたため、最初は「わぁキレイ~」と触ろうとしてしまったらしい。
じぃじが飛んできて「触るでない、それは“ミニ地獄玉”じゃ」
「地獄玉!?」と孫。
「正式名はな、まぁ……あんまり気にするな。“触れたらピリッとくる海の悪戯”と思え」
ママは足を確認しながら「うう……ちょっとチクっとした……もう帰る……」と涙目。
孫が「ママ、弱っ!」と爆笑。
じぃじも思わず吹き出す。
そのあと、じぃじは持参していた“海辺の応急セット”から酢を取り出し、患部をやさしくふきふき。
「酢はな、万能なんじゃ。クラゲにも、砂落としにも、さらには――弁当が傷まんようににも使える」
「それ、万能すぎじゃない!?」と孫が突っ込み。
「うむ、人生も調味料が大事じゃ」
その直後、今度は波がひときわ高くなり、ママのスマホが乗っていたレジャーシートの端っこがずるっと海水に。
「やーめーてーーー!!」とママがダッシュで取りに行く。
もう髪の毛も巻きも崩れ、メイクも薄れ、見た目は完全に“海辺のサバイバー”。
じぃじがぽつり。
「海とは……己をさらけ出す場所じゃのう」
孫、また爆笑。
こうして浜辺の午後は、笑い声と悲鳴と海風に包まれて過ぎていく。
そしてママは、帰りの車の中でしみじみと言った。
「……うちのじぃじ、なんか最強だったね今日🩷」
それを聞いたじぃじは、何も言わず、助手席でサングラスをかけた。
その横顔は、どこか潮風と似ていた。
夕陽が浜辺をオレンジ色に染め始めたころ、じぃじはそっとパラソルをたたみはじめた。
ママはバスタオルを絞りながら「いや~今日はドッと疲れたわぁ」と息を吐く。
孫は貝殻の入ったバケツを大事そうに抱えたまま、じぃじのそばにトコトコと座った。
「じぃじ、今日いっぱい教えてくれたよね」
「ふむ……全部覚えておるかの?」
「うーんと……“カニに挟まれても動くな”、“砂浜は敵”、“クラゲには酢”……あとなんだっけ……」
「ふふ、よし、それなら今日は“まとめの儀”を授けよう」
そう言ってじぃじは、ひと昔前の手帳を取り出した。表紙にはうっすらと、“海の心得帳”と書かれている。
「これはな、わしがまだ若かったころ、海に通い詰めて作った“教訓メモ”じゃ」
孫が目を輝かせてのぞき込む。中には、じぃじの達筆……かどうかは微妙な文字でこう書かれていた。
――「波と喧嘩するな。挨拶して通してもらえ」
――「砂に埋もれたサンダルは、大事にされてなかった証」
――「潮が満ちると心も満ちる。けれど、忘れ物も流される」
――「おにぎりは海風にさらすと2割増しでうまくなる。ただし砂も2割増し」
――「どんな波でも、ちゃんと見ていればタイミングがわかる。それが人生じゃ」
孫はひとつひとつに「なるほどなぁ~」とうなずいたり、「それ、ちょっと違うと思う!」と爆笑したり。
ママはそばで聞いていて、じぃじの“詩人スイッチ”が入ったことを悟り、タオルをたたむ手を止めた。
そして、じぃじは最後にこう言った。
「忘れるなよ、夏はのう……ただの日差しと水遊びじゃない。自然と話して、体を動かして、知恵を使って――そうして初めて、“遊んだ”って言えるんじゃ」
孫はまっすぐな目でうなずいた。
だがそのすぐあと、バタリと倒れこむじぃじ。
「ぬぅ……足が……足が……つった……!」
「え!?じぃじ!?だ、大丈夫!?」と孫が焦る。
「う、うむ……今のは……“筋肉の儀”じゃ……夏の証じゃ……」
ママは冷たく言う。「はいはい、単なる運動不足でしょ」
それでも孫は、そんなじぃじのふくらはぎを一生懸命さすっていた。
「来年も来ような、じぃじ!またいっぱい教えてね!」
「うむ……それまでに、わしは……ストレッチを習得しておこう……🩷」
海の音がやさしく打ち寄せ、砂に書かれた貝殻の列が静かに揺れた。
こうして、“じぃじの夏”は、ひとつの名場面として刻まれていく。
筋肉痛の痛みとともに。
帰り道、クーラーの効いた車内で、じぃじは助手席に沈み込みながら、静かに足をさすっていた。
「ぬぅ……やはり筋肉痛は翌日に出る年齢ではなかったか……」
「じぃじ、すっごいカッコよかったよ!ぼく、また行きたい!」と後部座席から孫の声。
「ふふ……それはよかった。わしはもう、足が棒じゃがな……」
ママは運転しながらふとつぶやいた。
「でもさ、今日って“ただの海水浴”じゃなかったよね」
じぃじはうなずく。
「うむ。あれは戦いでもあり、修行でもあり……家族の冒険でもあった」
孫は、貝殻の詰まった小さなバケツを膝に乗せながら、どこか誇らしげな顔をしていた。
ママはそんな姿に、少しだけ胸があたたかくなった気がした。
じぃじの知恵は、昔ながらの地味な教えかもしれない。
だけど、その中には“危険を楽しみに変えるコツ”や、“自然を敬う心”や、“自分の体を守る感覚”がぎっしり詰まっていた。
今日のじぃじは、スマホも持たず、日陰でゲームもしなかったけれど、
孫にとっては誰よりも頼れる冒険のパートナーだったに違いない。
じぃじの背中は日焼けでほんのり赤く、肩にはタオルがかけられている。
その姿は、まるで“最後まで責任を果たした戦士”のようだった。
そして孫の目には、夕焼けよりもまぶしい何かが映っていた。
それは、今日しか得られなかった“本物の夏のかけら”。
汗と笑いとちょっぴりの塩味が混じった、大切な宝物だった。
来年も再来年も、きっと忘れない。
じぃじと歩いた浜辺、波と戦ったあの瞬間。
ママの悲鳴と、カニとの接近戦と、砂まみれのおにぎり。
それ全部、ぜーんぶひっくるめて――“最高の夏”だった。
「じぃじ、ありがとう」
「ふっ……礼などいらぬ。ただ……帰ったら湿布を貼ってくれぬか……🩷」
車の中に、家族の笑い声が広がる。
エアコンの風に、ほんのりと潮の香りが混じっていた。
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