5月9日はアイスクリームの日~ひと口から始まる記憶と会話の涼しい時間~
はじめに…冷凍庫を開けるだけで少し嬉しくなる日の話
冷凍庫を開けた瞬間、奥にアイスを見つけると、ほんの少し得をした気分になりませんか?暑い日ならもちろん、まだ夏には早い5月でも、「食べようかな」と手が伸びる。ところが家族の誰かが狙っていた品だったりして、冷凍庫の前で静かな心理戦が始まることもあります。甘い物なのに空気だけは妙に辛い。そんなところまで含めて、アイスは暮らしの中にすっかり溶け込んでいます。
5月9日は「アイスクリームの日」。子どもの頃に食べた棒アイス、家族で分けた箱入りアイス、ちょっと背伸びして選んだ濃厚なカップアイスなど、思い浮かぶ景色は人によって違います。老若男女、世代が違っても「好きだったアイス」の話なら意外なほど会話が続き、和気藹々とした時間が生まれます。
アイスの美味しさは冷たさや甘さだけではなく、そのひと口と一緒に誰かとの時間まで思い出せるところにあります。昔ながらの味を懐かしむのも、新しい食べ方に挑戦するのも楽しみ方の1つ。溶けてしまう前にスプーンを持ちつつ、今日は少しだけゆっくり、アイスが連れてくる小さな幸せを味わってみましょう。
[広告]第1章…明治のご馳走からいつものデザートへ~アイスが身近になるまで~
今ではスーパーやコンビニの冷凍ケースを覗けば、どれにしようか迷うほどアイスが並んでいます。ところが、日本でアイスクリームが知られ始めた明治の頃、それは「ちょっと甘い物でも買って帰ろう」と気軽に手を伸ばせる存在ではありませんでした。
日本のアイス史でよく語られるのが、1869年、横浜の馬車道で売られた氷菓子です。当時は非常に高価で、現在の感覚に置き換えると8,000円ほどともいわれる特別な食べ物でした。アイス1つに8,000円。冷凍ケースの前で「今日は濃厚タイプにしようかな…」などと悩んでいる場合ではありません。財布の方が先に溶けそうです。
そんな特別なご馳走が、時代と共に少しずつ身近になっていきます。昭和になると、駄菓子屋のアイスキャンデーや家庭の冷凍庫に入ったカチカチのアイスなど、子どもたちの日常にも「冷たくて甘い楽しみ」が広がっていきました。お小遣いを握って店へ走ったり、兄弟で半分に分けたり、溶けないうちに食べようとして最後だけ猛烈な勢いになったり。アイスには、味だけでは説明できない思い出がくっついています。
面白いのは、高級品だった頃も身近なおやつになってからも、アイスにはどこか「今日はちょっと嬉しい」という特別感が残っていることです。毎日食べられるようになったからといって、喜びまで日常茶飯になって消えてしまったわけではありません。むしろ老若男女が同じ冷たさを楽しめるようになったことで、家族や友人との記憶を乗せる食べ物へ育っていったのでしょう。
値段も売られ方も変わりましたが、アイスをひと口食べた時の「嬉しい」は、時代を越えて受け継がれています。明治の人が見たら、冷凍庫いっぱいのアイスは夢の宝箱に見えるかもしれません。そして現代の私たちは、その宝箱を開けたまま「バニラにするか?、チョコにするか?」で数分悩む。豊かになった証拠とは、こんな平和な迷いの中にもあるのかもしれませんね。
第2章…バニラに何を足す?~ひと手間で広がる大人のアイス時間~
いつものバニラアイスを器に盛ったところで、ふと手が止まります。このまま食べても十分に美味しい。でも、きな粉を少し振ってみる。そこへ黒蜜を細く垂らしてみる。すると見慣れた白いアイスが、急に甘味処のデザートらしい顔になってきます。アイスは完成されたお菓子なのに、まだ遊ぶ余地をたっぷり残している食べ物でもあります。
抹茶やきな粉、小豆や黒蜜といった和の味は合わせやすく、少量ずつ加えるだけでも雰囲気が変わります。少し変化球を投げるなら、お醤油をほんの一滴。甘さの中に塩気が入り、みたらし団子を思わせる味わいになることもあります。「アイスに醤油?」と眉を上げたくなりますが、一滴なら試す勇気も湧いてきます。二滴目からは自己責任です、と言いたくなる辺りも食卓の楽しさでしょう。
ヨーグルトを凍らせたフローズンヨーグルトのように、サッパリした酸味を楽しむ方法もあります。濃厚な甘さをじっくり味わいたい日もあれば、食後に軽く締めたい日もある。好みは千差万別ですから、「アイスとはこう食べるもの」と決めつけず、その日の気分で選べる方が楽しくなります。
そして、大人のアイス時間は勢いだけで食べなくても良いのです。大きなひと口で急ぐより、小さなスプーンで掬って、口の中でゆっくり溶かす。冷たさが気になる時には、温かいお茶を添えて交互に味わうのも穏やかな楽しみ方です。アイスを食べながら熱いお茶を飲むと、口の中が夏と冬を往復して少々忙しいのですが、この温度差が妙に心地良かったりします。
いつものアイスにほんのひと手間加えるだけで、「食べるおやつ」が「味わって遊ぶ時間」に変わります。試行錯誤といっても、必要なのは大掛かりな準備ではありません。冷蔵庫や戸棚にあるものを少し添え、「これは合う」「これは次回なし」と笑えればそれで十分。バニラ1杯から始まる小さな味覚実験なら、失敗したって最後はだいたい甘く終われます。
[広告]第3章…「昔はこんなの食べたなあ」~冷たいひと口が記憶を連れてくる~
「どのアイスが好き?」。たったそれだけの質問なのに、返ってくる答えには、その人が過ごしてきた時代までくっついてくることがあります。ソーダ味の棒アイスが好きだった人、小豆の入った硬いアイスを少しずつ齧った人、家族が買ってきたカップアイスを特別な日に食べた人。味の話をしていたはずなのに、いつの間にか学校帰りや夏祭り、兄弟喧嘩の話まで飛び出してきます。
食べ物の記憶は面白いもので、「何年の夏だったか?」は忘れていても、冷たさや甘さ、その時に一緒にいた人の顔は残っていることがあります。アイスの棒に当たりが出て喜んだ話、溶けた雫が手を伝って慌てた話、兄弟で半分にしたのに「そっちの方が大きい」と揉めた話。公平に分けたつもりでも、子どもの目には1ミリの差が重大事件です。大人になれば笑い話ですが、その小さな出来事まで含めて思い出なのでしょう。
こうした会話は、家族だけでなく、高齢者とのおやつ時間にもよく似合います。「昔はどんなアイスを食べました?」と尋ねれば、商品名だけで終わらず、駄菓子屋や近所の友達、暑かった縁側の景色へと話が広がるかもしれません。回想(昔の経験を思い出して語ること)は、何かを正確に答えてもらうための時間ではありません。「そんなこともあったね」と笑えるだけでも十分です。記憶は十人十色ですから、同じアイスを見ても開く扉は人それぞれ違います。
そして今の子どもが食べているアイスも、何十年か先には懐かしい味になるのでしょう。「昔は冷凍庫にこんなのが入っていてね」と語る日が来ると思えば、いつものおやつ時間も少し違って見えてきます。アイスは口の中ではすぐに溶けますが、誰かと笑って食べた時間は、意外なくらい長く心に残ります。
老若男女が同じテーブルを囲み、「私はこれが好き」「いや、こっちでしょう」と和気藹々。結論が出なくても構いません。むしろアイスの好みくらい、まとまらない方が会話は長持ちします。冷たいデザートを真ん中に置いて、話だけは温かく続いていく。それもアイスクリームの日らしい楽しみ方ではないでしょうか。
第4章…子どもも大人も高齢者も~美味しく安全に楽しむ小さな工夫~
アイスを前にすると、つい「溶ける前に食べなきゃ」とスプーンが忙しくなります。ところが冷たさが魅力の食べ物だからこそ、急いで頬張れば歯がキーンとしたり、お腹がビックリしたりすることもあります。子どもから高齢者まで同じアイスを楽しめるのは嬉しいことですが、食べる速さや一口の量まで同じにする必要はありません。自分に合った食べ方を選ぶ方が、安心して最後まで美味しく付き合えます。
特に高齢になると、噛む力だけでなく飲み込む力にも個人差が出てきます。嚥下(食べ物や飲み物を口から喉へ送り込む働き)が気になる方なら、小さめのスプーンで一口ずつ味わい、食べる様子を見ながら進めたいところです。少しやわらかくなった状態の方が食べやすい人もいるでしょう。ただし、溶ければ誰にでも安全になるわけではありません。本人の状態に合わせるという安全第一の考え方は、冷たいおやつにもきちんと必要です。
そして忘れたくないのが、「安全に食べる」と「楽しく食べる」は対立しないということです。大きな器いっぱいに出すより、少量を綺麗に盛って「今日は何味にします?」と選んでもらう。家族ならそれぞれ違う味を用意して、一口ずつ感想を言い合う。臨機応変に量や食べ方を変えれば、無理をせず参加できる人も増えていきます。食べることそのものだけではなく、「選ぶ」「香りを感じる」「誰かと話す」ことも、おやつ時間の楽しみです。
温かいお茶を傍に置いて、アイスを少し食べては一服するのも、ゆっくり楽しむキッカケになります。熱いお茶と冷たいアイスを交互に口へ運んで、「口の中だけ季節が忙しいな」と笑えるくらいがちょうど良いでしょう。急いで完食することよりも、その人のペースで気持ちよく終われる方が、次のおやつ時間も楽しみになります。
食べられる量や速さが違っても、「美味しいね」を一緒に味わう時間まで手放す必要はありません。アイスは年齢を競う食べ物ではありませんし、早食い選手権でもありません。小さな一口をゆっくり味わい、その人らしい楽しみ方を見つける。それが子どもにも大人にも高齢者にも似合う、やさしいアイス時間です。
[広告]まとめ…溶ける前に食べたい~でも楽しい時間はゆっくり味わいたい~
アイスクリームは、冷たくて甘いだけなら、ここまで長く愛される食べ物にはならなかったのかもしれません。明治の頃には特別なご馳走だったものが、今では冷凍庫を開ければ手が届く身近なおやつになりました。それでも、フタを開ける瞬間の小さな期待や、ひと口目の「美味しい」は、どこか特別なまま残っています。
昔ながらの味を懐かしむ日があってもヨシ、きな粉や黒蜜を添えて新しい味に寄り道してもヨシ。家族で「どれが好き?」と盛り上がるのもヨシ、高齢者と昔のおやつ話に花を咲かせるのもヨシです。百人百様の楽しみ方が出来るところに、アイスの面白さがあります。「花より団子」と言いますが、5月9日ばかりは花よりアイスでも怒られないでしょう。
もちろん、冷たい物ですから無理は禁物です。子どもも大人も高齢者も、一口の量や食べる速さはそれぞれ違います。ゆっくり味わう人の横で、もう空になった器を持つ人がいても問題なし。隣のアイスまで狙い始めたら、そこから先は家族会議です。
アイスが溶けるのは早くても、一緒に笑った時間や懐かしい味の記憶は、そう簡単には溶けてなくなりません。何気ないおやつの時間が、誰かとの会話を生み、古い思い出を連れてきて、今日という日に小さな楽しみを足してくれる。そんな一期一会のひと口を味わえるなら、5月9日は冷凍庫を少しだけ楽しみに開けてみたくなります。
さて、今日は何味にしましょう?悩んでいる間にもアイスは少しずつやわらかくなりますが、その迷っている時間まで含めてご馳走なのかもしれませんね。
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