12月の我が家は全員がヒーロー~夜勤明けママと九九テスト娘とひぃばぁばの冬支度~
目次
はじめに…12月の家はちょっとした作戦本部です
12月って、カレンダーはキラキラしているのに、家の中はわりとギリギリですよね。こたつの温もりと同じくらい、予定表もパンパンにあったかい。夜勤明けのママは瞼が蕩けそうだし、小学生の娘は「明日こそ九九テストで満点とるんだもん」と机に齧りついているし、ひぃばぁばは「今日はすごく調子いいよ」と歌を歌っているし、パパはストーブの前で「これは安全なの?これは本当に安全なの?」と真顔で確認しているし、じぃじとばぁばは「非常用の準備は早めが安心なんだぞ」とちょっとだけ誇らしそうです。
このお話は、そんな家の12月の過ごし方を覗き見するような記録です。ドラマではありません。どこにでもありそうな1日。ただし登場人物が少し多いだけです。例えば、ママは介護の夜勤明けで朝に帰ってきます。ふらふらなのに「朝ごはんは食べた?宿題出した?今日は誰が見守り番?」と全員の様子を一瞬でチェックする、すごい司令塔です。娘は小学生。九九をブツブツ言いながらも、ひぃばぁばの車椅子をグイッと押して「はい次はリビングでテレビタイムです」と小さな介護スタッフみたいな顔をしています。ひぃばぁばはそのたびに「うちのひ孫は日本一」とニコニコです。ここまでで、既に朝です。まだ午前です。12月って、本当に朝からフルスピードなんです。
そして、冬ならではの問題もちゃんとやってきます。お家を温める道具をどうするのか。普段は電気ストーブとエアコンが主役。でも「雪が強い日や停電の時は?」という話になると、急に大人たちの顔が真面目になります。じぃじは灯油タイプのストーブの良さを語りだして、パパは「でも安全管理は?」と眉が寄る。これはただの家電トークではなくて、「家族みんなが安心して冬を越えるには、どんな準備をしておく?」という、とてもやさしい会議なんです。娘にはちょっと難しい話だけど、でもちゃんと耳はそっちを向いています。子どもってそういうところ、よく聞いていますよね。
この家では、誰か一人が全部やる、ということはもうできません。ママ一人に任せるのも無理。パパ一人でも無理。大人組だけでも、子どもだけでも、もちろん無理。だから「今日は誰がどこを見る?」という分担の会話が、毎日行われます。大袈裟に言えば、家中が小さな作戦本部みたいに動いているのが12月なんです。
このお話を通して伝えたいことは、とてもシンプルです。ヒーローは一人じゃないということ。ママが頑張る日もあれば、娘が頑張る日もあるし、ひぃばぁばが「今日は痛くないよ」と言ってくれるだけで皆が助かる日もあるし、パパが買い出しで重たいものを運んできて「これだけあれば週末こえられるぞ」と胸を張る日もある。本当の安心って、誰か一人の力ではなくて、皆のちょっとずつの力で生まれるんだな、というお話です。
この先の章では、朝のミーティング、九九テストと声かけ応援団、あたためグッズ問題、そして夜の見守りシフトまで、1日の流れをそのまま辿っていきます。12月の家って、寒いけど、温かい。そんな空気を、ゆっくり味わってみてください。
[広告]第1章…夜勤明けママの『今日は誰が見守り番?』朝ミーティング
12月の朝は、まだ外が薄っすら青いうちから始まります。時間で言うとだいたい朝6時だとしても、ママにとってはそれは「おはよう」ではなく「ただいま」です。ママは特養の夜勤から帰ってきたばかり。肩にはエコバッグ、目はトロン、声だけ元気。「皆起きてる?」と小さく声を掛けながら玄関に入ってきます。もうその時点で家の空気がフワッと柔らかくなるので、家族としてはちょっと安心します。
ママはコートも脱がずに、まずリビングをグルリと見ます。ひぃばぁばの様子、じぃじの様子、娘の様子、パパの様子。一番最初にチェックするのはテレビではなく、人の顔です。特養のフロアでやっている「夜はどうでした?変わりありません?」という申し送りとまったく同じことを、家でもやっているんです。しかもこの家の場合、その申し送りはソファの上で膝掛けに包まって行われます。緩い。でもここ大事。
「ひぃばぁば、夜は痛いとこ出んかった?」とママ。ひぃばぁばは「大丈夫やで」と言いながら、ちょっと自慢げです。何故なら、夜中トイレで誰にも呼び鈴を鳴らさず頑張ったから。ひぃばぁばにとってはこれは大仕事です。腰が冷えると立ち上がりが辛くなる季節なので、夜中トイレに立つ回数が減ると、皆ホッとします。12月の夜は足元が冷えやすいので、転ばないことが何よりも大事なんです。転ばない=朝の平和。これはこの家の1つの合言葉です。
次にママは、パパに小声で「昨日、ちゃんと寝た?」と聞きます。パパは「まあまあ」と言いながら、目の下にちょっとクマが出来ています。理由は、ひぃばぁばのトイレ介助に起きた後、ついでに洗い物もやってしまってそのまま目が冴えてしまったから。こういうところが、パパの照れくさい優しさです。パパは自分のことを「大したことしてないよ」と言いますが、家族側からすると、夜中に台所が片付いているだけで朝のスタートがまるで違います。朝のシンクがピカピカだと、ママは15分は早く寝られる。それって凄いことです。
その横で、娘はこたつに潜りながら九九の練習をブツブツ唱えています。「にろくじゅうに、にしじゅうはち…あれ…?」と急に止まると、ママがすぐに声をかけます。「今日は九九テストなんやろ。覚えてるとこから言ってみ?」娘は「うんっ」と胸を張って、また「にろくじゅうに」からやり直し。ママはその答えが合ってるか間違ってるかよりも、娘の口がちゃんと動いているかを見ています。眠いのにすごい集中力です。これも仕事の癖なんでしょうね。特養でも、夜勤明けのママは「ご飯入ってる?水は飲めた?」と、ご本人のリズムを見ながら声を掛けてきました。家でも同じで、九九の声がしっかり出ている=元気、という判断ポイントなんです。
こうやって、それぞれの体調と気分の確認がひと周りすると、ママはようやくコートを脱ぎます。そして、一番大事な議題に進みます。「今日は誰が見守り番?」という、家の安全会議です。
朝一番の一番大事なテーマは「見守り番」
「見守り番」という言い方が、まずこの家らしいところです。これは「ひぃばぁばをずっと見てて」という意味ではありません。もっとやさしい意味です。「ひぃばぁばが立つ時に声を掛けてあげる人」「飲み物が遠い時にすっと近くに置いてあげる人」「なんか表情がしんどそうだなって気付いたら『どうした?』って聞いてあげる人」。それを、今日は誰がする?という確認です。
ママはカレンダーに目をやって、「ママは今から寝たい。昼まで寝たらちょっとは復活する。それまでの間、まずパパがリビング担当。娘はひぃばぁばとテレビ一緒に見る担当。それでどう?」と提案します。パパは「了解」とすぐ返します。娘も「任せてください」と何故か敬礼します。こういうやり取りは、まるで小さな作戦会議みたいで可愛いのですが、内容としてはとても現実的です。
この「誰が見守り番かを決めておく」というだけで、家の中の空気がフッと落ち着きます。何故かというと、一番怖いのは「皆がバタバタしていて、誰も気付けなかった」というパターンだからです。例えば、冬の朝一番はトイレまでの廊下が冷たいので、ひぃばぁばの膝が思ったより固くなっていることがあります。いつもならスッと立てるのに、12月の朝は立ち上がりがゆっくりになったりする。その一瞬に声を掛けられる人が決まっていると、転びそうになる前に支えられるんです。
ママはプロの目でそれを知っているので、「今日の午前はパパ、午後はママ、夕方からはじぃじね」という風に、ほぼシフト表みたいに組んでいきます。もちろんカチカチの当番制ではありません。でも「なんとなくの担当」があるだけで、皆が気をつける角度が変わります。これは家族だからこそできる工夫です。お金もかからないし、紙1枚もいらないし、でも冬の滑りやすい時期にはものすごく頼りになります。
ママの「寝ていい?」は合図の言葉
朝の会議がひと区切りつくと、ママは「じゃあ、ちょっと寝てもいい?」と聞きます。ここが大事なんです。「寝るからよろしく」ではなくて「寝てもいい?」と聞く。これは単なる遠慮ではありません。家族皆に「今からママは一端、電池を切ります、だからその間は頼みますね」という合図になっています。この一言があることで、パパも娘も「よし、ママの分まで頑張ろう」という顔に切り替わる。12月の朝の温かい瞬間です。
ママが布団に入る頃には、娘は九九を口の中で小さく続けています。ひぃばぁばはこたつで、ゆっくり歌を口ずさんでいます。パパは台所で「昼ご飯、何が軟らかいかな」と冷蔵庫を覗いています。家の音はとても静かなんですが、ちゃんと誰かが誰かを見ている音がします。
これが、12月の朝のスタートラインです。大声で「家族はチームだ!」なんて言わないけれど、やってることはまさにチーム。夜勤明けのママが、みんなを並べて点呼していくこの時間は、家中に「今日も回せそうだね」という安心を配る時間なんです。
第2章…小学生の娘VS九九テストVSひぃばぁばの声かけ応援団
午前のリビングは、まるで小さな教室です。こたつが机になって、ひぃばぁばが観客席になって、娘が先生でもあり生徒でもある。娘は小学校でそろそろ学期末の九九テストがあります。12月ってそういう時期なんですよね。冬休み前に「ここまでは覚えようね」というラインがグッと迫ってくる。本人としては分かっているからこそ、ちょっと緊張している。目の前には九九カードと書きかけの練習プリント。こたつの上には消しゴムのカスが増えていきます。
娘は声に出して暗唱します。「にろくじゅうに、にしじゅうはち、にしちじゅうし…」そこまで言って、フッと止まります。止まった瞬間、ひぃばぁばがすかさず言います。「あら偉い、随分スラスラ出るようになったなあ」。まだ正解を言っていないのに、「偉い」。このタイミングが完璧なんです。
ママやパパだと、どうしても「次は?」「そこは?」「そこは言える?」と先を促してしまいがちです。忙しいから、つい結果を急いでしまう。でも、ひぃばぁばは違います。とにかく途中で褒める。声を掛けるだけ。九九そのものの中身までは細かく言いません。これが娘の肩の力をフッと緩める魔法になっています。
娘はその「褒め」を全身で受け取るタイプなので、こたつから顔だけひょいっと出して「でしょ?」と胸を張ります。完全にアイドルの楽屋インタビューみたいな表情です。そこからもう一度、「にろくじゅうに、にしじゅうはち、にしち…じゅうし…?」とやり直す。自分で少しずつ前に進んでいく感じが、見ていてとても可愛らしいんです。
ひぃばぁばの応援はスパルタではなく回想トーク
ひぃばぁばは、いきなり九九の続きを教えたりはしません。その代わりに、昔の話を混ぜてきます。「うちが子どもの頃はな、冬はちゃぶ台でな、手がかじかんで鉛筆が上手く持てへんかったんよ」と、柔らかい声で話し始めるんです。娘は九九カードを片手でパタパタさせながら、「ふーん」と聞いています。九九からちょっと脱線しているようでいて、これがとても大事な時間になっています。
というのも、「昔はもっとたいへんだった」という話は、子どもにとって重たい場合もあるんですけど、ひぃばぁばの語り口は違います。たいへんだった苦労話をしているのに、何故か嬉しそうなんです。「寒いのに、こたつにみかん置いてあって、それでな…」と話すときの笑顔が、ほぼお饅頭レベルに丸い。だから娘も「えっ、いいなあ、みかん食べ放題?」とすぐ食いつく。そこでひぃばぁばが「うん、でも九九言えたらな」と少しだけ条件をつけます。これがまた上手い。
つまりひぃばぁばは、「勉強しなさい」とは言わないんです。「みかんを一緒に食べたい」という話しかしない。だけど、そのためには九九が必要というルールをしれっと置く。これは昭和スタイルの交渉術なのかもしれません。娘は「じゃあ今やる」と言って姿勢を立て直します。ひぃばぁばは「流石やなあ」と温かい声で褒めるだけ。勝負はほぼこれで決まりです。
こういう時間は、ただ九九の点を上げるというより、「一人じゃない」という気持ちを娘の中に積み重ねていく感じに近いです。12月って、学校でも家でも「まとめ」とか「振り返り」とか、とにかく頑張りポイントが多い月ですよね。そこに「一人で頑張れ」ではなく「隣で見てるよ」という大人がいると、子どもはびっくりするくらいしぶとく粘れるんです。
娘は介護を介護は娘をちょっとだけ助ける
この家では、九九の練習とひぃばぁばの見守りが同じ部屋で同時進行します。これがすごくいい循環を生んでいます。
例えば、ひぃばぁばが「ちょっとトイレ」と立とうとすると、娘が九九カードを置いてすぐに横に立ちます。娘はまだ小学生だから力はそんなにないのですが、腕をそっと添えるだけでも、ひぃばぁばは安心します。「ありがと」と言われると、娘はものすごく誇らしそうな顔をします。その表情は、九九で「合ってるか分かんない…」と不安な顔をしていたさっきの子とは別人みたいです。「私は役に立ってる」と実感すると、人って一気に強くなれるんですよね。
逆に、娘が九九で詰まると、今度はひぃばぁばの方が「さっきの『にしち』って、ばぁばも昔そこ苦手やったわ」と言います。「大人でも難しいんやで」という言葉は、子どもにとって一番のガス抜きになります。九九は、ただの計算じゃなくて、世代の橋渡しの時間になっているんです。これがこの家のリビングの凄いところで、介護と勉強が綺麗に分かれていない。分けずに一緒にやってしまうから、どっちも少しずつやさしくなる。
12月の午後に向けて、家族の温め方も少しずつ決まっていく
お昼が近づく頃になると、パパがキッチンからそっと覗きに来ます。「そろそろ休憩にしよか。目も肩も疲れるぞ」と言って、温かい飲みものをテーブルに置きます。あたり前みたいな顔でしているけれど、これもかなり大事な役割です。冬はどうしても手先が冷えるので、字を書く力が落ちやすいんです。小学生の手は特に冷たくなりやすいし、ひぃばぁばの指も朝より強張ってきます。温かい飲みものは、身体だけじゃなくて、苛々し始めそうな心をゆっくり戻してくれるんです。
娘はマグカップを両手で抱えて「ふーっ」と息を吹きかけます。ひぃばぁばは「いい匂いやなあ」と目を細めます。その横でパパは、こっそり灯油ストーブのことを気にしています。普段は電気ストーブとエアコンで回しているけれど、「もし停電したらどうする?」という課題はいつも頭の片隅にあるからです。娘やひぃばぁばを冷やさない準備は、午後の議題でもあるし、このあと3章でじっくり話し合われることになります。
このように、娘の九九と、ひぃばぁばの安心と、冬の温め方の話は、全部繋がっています。「誰がどれだけ頑張ったのか」をはっきり言葉にしなくても、皆がそれぞれの小さな役割をもって動いている。その様子は、外から見ると賑やかな家庭ドラマなんですけど、中にいる本人たちからすると「これをしないと今日が回らない」という、ものすごく現実的なリズムなんです。
12月は忙しい。だけどこの家では、その忙しさの中で「大事な人をちゃんと見ているよ」というサインが、あちこちに置かれています。九九カードより先に大事なことは、たぶんそれなんだろうな、と見ていて思います。
第3章…パパとおじいちゃんたちの買い出し任務~電気ストーブ派と灯油ストーブ派の譲れない冬支度会議~
お昼前になると、家の主役がゆっくり交代します。ママは布団の中で電池切れ、娘とひぃばぁばはこたつでほわほわ、そこに静かに出てくるのがパパとじぃじです。ここから先は「何をどれだけ家に置いておけば安心して夜を越えられるか」という、とても大人っぽい話になります。名目は普通の買い出しです。だけど実際は、家族の冬支度の最終決定会議です。
「エアコンはある。電気ストーブもある。こたつもある。ならもう十分やろ」とパパは言います。パパの気持ちはとても分かりやすいです。日常で使う物は、既に揃っているんです。大袈裟なことはしなくていい、という考え方です。小さい子もいるし、高齢の家族もいるので、火を使うものは正直ちょっと怖い。だから「コンセントで入れて、スイッチを押すだけの温かさ」を信頼したいわけです。
ところが、じぃじはここで黙っていません。「いや、停電になったらどうするんや」とすぐ来ます。12月から1月にかけて、雪や風の影響で停電なんて本当にある話だ、とじぃじは言うわけです。「その時エアコンは止まるやろ。電気ストーブも止まるやろ。こたつも止まるやろ。ほな、どうするんや」と、なかなかの畳みかけ。パパは「そう言われると弱い」と苦笑いします。
ここからが長いです。というのも、話題は「どっちが正しいか」ではなく「家の中に何を置いておくと、皆が安心して眠れるか」に移っていくからです。
冬支度会議の切っ掛けはたいてい「もしもの夜」の話から
じぃじの言い分はこうです。真冬の夜にもし停電が起きたら、一番心配なのはひぃばぁばの身体の冷えです。特に足元が冷えるとトイレに立つ時にふらつきやすくなる。ふらつくと転びやすい。転ぶと、そこから先が一気に大ごとになります。大人が「寒いねえ」と笑って言えるうちはいい。でも高齢の身体は寒さで力が抜けてしまうことがある。「あの一晩さえ無事だったら」という場面は、実はそんなに遠い世界の話じゃない、と。
だから、じぃじは灯油ストーブを強く推します。昔ながらの、しっかり重いタイプのもの。コンセントに頼らず火で温めるので、停電の時でも部屋を温められるという安心感。確かに理屈はとてもはっきりしています。娘もその話を聞きながら「ひぃばぁば、寒いの嫌っていつも言うからなあ」と頷きます。面白いことに、この場では娘が割りとじぃじ派です。ひぃばぁば大好きなので、「温いの優先」が一番大事に聞こえるのです。
その一方で、パパの心配もちゃんと現実です。火を使う道具は、置き場所、給油、火傷のリスク、とにかく考えることが多い。特に小学生のいるリビングに置きっ放しにはできないし、起きていられない夜中に火をつけたまま寝るなんて、それは絶対嫌だ、とパパはきっぱり言います。安全のラインがはっきりしているのは、家族としてとても有り難いことです。
だから二人はケンカにはなりません。むしろ「じゃあ、どうしたら怖くなく置ける?」という方向に進みます。
二つのストーブはどこに置く?その後ろにある「誰を守りたいか」という話
ここから、ちょっとした作戦タイムが始まります。二人は家の間取りを思い浮かべながら、「これはリビングに常設していい物」「これは非常時だけ出す物」と線を引いていきます。
電気ストーブは、普段使う温め役としてリビングに。これはパパの担当。小さい子が前にベタッと座ってしまわないよう距離を置いて、コンセントの足元にカバーも用意する。これは既に慣れているので運用もしやすい。
灯油ストーブは、普段は押し入れで蓋をして待機させるという案になります。つまり「いつも出しておかない」「気軽につけない」。あくまで停電など、どうしても寒さを急いで凌がないといけない夜にだけ登場させる。さらに「大人が起きて見ていられる間だけ使う」という約束もその場で決まります。これならパパも「それならまぁ…」と折れてくれます。じぃじも「そこまで決めとくんなら安心やな」と頷きます。
この会話がいいなと思うのは、「物を買うかどうか」じゃなくて「誰を守りたいか」をちゃんと口にしているところなんです。パパは娘の安全を一番に考えていて、じぃじはひぃばぁばの冷えを一番に考えている。どちらも正しいから、両方とも採用する形に落ちていきます。どっちが勝つ、ではない。家族で暮らすって、本当はこういうバランスの積み重ねなのかもしれません。
買い出し任務は、ほぼ「家を守る遠征」
会議がまとまると、いよいよ買い出し部隊の出番です。ここでようやく、じぃじとパパが一緒にコートを着ます。じぃじは灯油用のポリ缶のことを考え、パパは単一サイズの電池や温かい毛布を思い浮かべる。二人とも頭の中に、家族の顔がちゃんと浮かんでいます。
ここで娘がとことこ来て、「おやつ、いる?」と聞くのがまた可愛い。どうやら遠足気分です。本人は九九の合間の休憩のつもりなのですが、じぃじは「おっ、補給係長やな」と褒めてしまうので、娘はいきなり胸を張ります。こうやって小さな役職名をつけてあげるの、じぃじは天才です。
この「買い出しにいく」という行動は、ただの買い物以上の意味があります。冬はいろんなものが一気に必要になります。乾いたタオル、固いボックスティッシュ、貼るカイロ、予備のカセットボンベ、飲みやすいゼリー飲料。何がどれだけあれば安心かを考えること自体が、もう家族のケアなんです。
そして、この任務の一番大切なところは、ママを起こさずに済むようにすることです。ママは今、横になって体力を戻している。そこに「これどこ置いとく?」「これ使っていい?」と何度も聞きに行ってしまうと、眠りが切れてしまいます。それは避けたい、と二人はちゃんと分かっています。だから買い出し前に相談をまとめておく。「これはここに置いとくな」「これは使わず押し入れな」。これを決めてから出かけるのは、すごく思いやりのある段取りです。
パパとじぃじは、よいしょと立ち上がります。コートのジッパーを上まであげるじぃじを見て、娘が小声で囁きます。「おじいちゃん、カッコいいから大丈夫」。それを聞いたじぃじは、何故か背筋が伸びます。じぃじは普段「腰がなぁ」と言っているのに、この瞬間だけは若い頃の顔をするんです。こういうところが多世代暮らしの温かさなんですよね。一言の声で、人って本当に立ち直る。
こうして、お昼前のリビングは静かになります。ママは寝息、娘は九九カード、ひぃばぁばは日向で微睡、家の男組は買い出しへ。家族それぞれが、自分なりの役目を持って動き始める12月の昼前。これはもう立派な「冬支度」です。普通の家の風景なんだけど、その中にちゃんとした安心の準備が積み上がっていきます。
第4章…夜の見守りシフト表~ちょっとだけでいいから寝なさい!が一番難しい件~
昼すぎから夕方にかけて、家の空気はまた少しずつ形を変えます。買い出し組のパパとじぃじが帰ってきて、「ただいまー」と玄関で靴をガタガタいわせる頃、ママはようやく目を覚まします。娘は九九カードをこたつに置いて、今はひぃばぁばの手にハンドクリームを塗ってあげているところです。ひぃばぁばは「おお…贅沢やなあ」とうっとり。これだけでリビングがほんわりあまい匂いになります。
ここから先、家のテーマは夜の備えに移ります。12月の夜って、昼より長いような気がしませんか。外が暗くなるのが早いので、なんとなく皆少しだけ不安になる。なんとなく体力が一段落ちする。でも一方で、やることは全然減らない。ここで必要になるのが「夜の見守りシフト表」です。この家ではカレンダーほど固くはないけれど、なんとなく「今日は誰が一番遅くまで起きてるか」「深夜の1回目は誰が起きるか」みたいな役割分担が、夕方のうちにフワッと決まります。
「今夜どうする?」という会話は、だいたい夕ご飯前に始まります。ママはまだ完全回復じゃありません。夜勤明けは一度寝ても、体の奥に深い疲れが残っています。瞼の色でそれが分かる。なのでパパがすかさず言います。「今日はママは早めに寝て。深夜はおれ見るから」。じぃじは「ほんならワシは寝るのちょい遅くして、寝る前にトイレ誘導してから休むわ」と続けます。この「寝る前にトイレ誘導」というひと言が、実はすごく頼もしいんです。
高齢の体にとって、夜のトイレは一大イベントです。12月の夜は床も廊下も冷えやすいので、いきなり立ち上がると、膝がガクッとしたり、ふらついたりすることがある。だから「寝る前に一遍だけ声かけとくわ」というのは、転ばない夜を作るための合図なんです。ひぃばぁばもそれを分かっていて、「助かるわぁ」と小さく笑います。こういうやりとりは書類には残らないけど、家の安全を支える一番大事なところです。
ちょっとずつの当番で誰も1人切りにならない夜にする
この家の夜のシフトは、本当に窮屈な当番表ではありません。例えば「深夜0時から〇時まではこの人」みたいな線引きはしません。代わりに、「一番遅くまでテレビついてる人」と「一番早く目が覚める人」を、その日の顔ぶれでなんとなく決めます。
この日は、パパが「遅番」。パパはもともと夜型気味なので、寝るのは割りと遅い方です。だからリビングの近くでゲーム機……と言いたいところですが、娘から「パパ、音小さくしてね」と厳しい視線を送られて、音量がしっかり絞られます。パパは「はいはい」と言いながらも悪い顔はしていません。むしろちょっと得意げ。だって「おれが起きてる間は何かあったら呼んで」の係だからです。頼られるって嬉しいものなんですよね。
朝一番係は、だいたいじぃじです。年齢のせいもあって、朝はものすごく早く目が醒めてしまう。まだ外が真っ暗なうちに「おはよう」という日もあるくらいです。この家ではそれをむしろ強みに変えている。「朝一番で起きるなら、皆がまだぐっすりな時間帯に、ひぃばぁばの部屋の温かさをチェックしてあげて」とお願いする流れです。じぃじは「了解」と頷きつつ、「ストーブの位置は安全第一でな」とそこも忘れません。昼に決めた通り、電気で温める物は普段どおり、灯油タイプはあくまで非常時用。ルールが共有されているから、安心して役割を渡せます。
この「遅番」と「早番」がはっきりしていると、真ん中の時間帯、つまり深夜の一番静かなゾーンを皆が少しずつ心穏やかに通り抜けられます。「この時間は誰も起きてない、もし何かあったらどうしよう」という不安を減らすことが出来るからです。特に12月は、体も冷えるし気持ちも寂しくなりやすいので、「見てる人がいる」というだけで夜がグッと明るくなるんです。
一番難しいのは「寝ていいよ」と言われてもすぐには眠れないこと
ここで1つ、家族あるあるの山があります。それは、ママが「今日はちゃんと寝て」と言われても、すぐには眠れない問題です。
ママはプロの目を持っています。ひぃばぁばの表情のちょっとした変化、足の上げ下ろしの重さ、娘の疲れ方、パパの目の下のクマの色。そういうのを1日の中で全部見てしまいます。だから「はい、おやすみ」と言ってフッと横になることが、頭では分かっていても心では難しい。これ、介護の仕事をしている人や子育て真っ最中の人なら、ものすごく分かるところじゃないでしょうか。目を閉じるには勇気がいるのです。
そこで登場するのが、ばぁばです。ばぁばの本当の役目は、実はここにあります。ばぁばはママのところへそっと行って、声を押さえて言います。「寝ないと顔色がどんどん冬になるで」。この言葉にママは笑います。つい笑ってしまうと、ちょっとだけ肩の力が落ちる。ばぁばは続けます。「顔色が冬やと、ひぃばぁばが心配して寝られへんのよ」。ここまで言われると、ママは「あ、私が寝ること自体が、皆の安心になるんだ」とちゃんと理解できます。これがスイッチです。
「寝ろ寝ろ」と言われると、かえって眠れない。でも「あなたが休んだら、皆安心して眠れる」と言われると、人はスッと横になれたりします。この声掛けの上手さは、ばぁばにしか出せない味です。多世代の家って、時々こういう言葉のバトンが飛びますよね。やさしいけど、ちゃんと効く。
ママはため息を1つついて、「分かった、じゃあ今日はもう横になるね」と宣言します。その宣言が、家族皆への約束みたいになります。娘も真面目な顔で「私とひぃばぁば、ちゃんとソファで大人しくするから」と言います。ひぃばぁばまで「大丈夫、ワシはお利口にしとくで」と胸を張って言います。ママは笑って、ようやく布団に潜ります。
誰か1人が無理をしない夜を皆で守る
夜というのは、家族の弱いところが少しだけ見えてしまう時間帯です。体力が減って、気力が擦り減って、声も小さくなる。12月は寒さもあるから、その“擦り減り”が早い。そんな中で「この時間は自分が見るから、あなたは目を閉じていいよ」という遣り取りがあると、家の中にフワッと灯りがともります。ただの豆電球じゃなくて、「あなたは一人じゃないよ」という灯りです。
シフト表といっても、紙も表もない。あるのは声だけです。「今日は私が起きてる」「じゃあ朝一番は任せて」「その代わり、あなたはもう横になって」。その声が、この家の一番の温かさになっています。
そして不思議なことに、この分担をしていると、皆がちょっとずつ自分のことも大事にし始めます。パパは「今日は早めに目薬指しとこ」とか、じぃじは「腰に充てる湯たんぽ用意しとくわ」とか、ママは「ホットドリンクだけ横に置いとこう」とか。自分の体力の線を、少しずつ意識するようになるんです。大人が自分を大事にする姿って、子どもはよく見ています。娘はそれを見て、「頑張るって、倒れることじゃないんだ」と自然に学んでいきます。
12月の夜は長いけれど、こうやってそれぞれの場所に、ちゃんと見守りの灯りが置かれています。だからこの家では、誰も「一人で頑張れ」と言われない。代わりに「ちょっとだけでいいから休んで」「残りは任せて」という声が飛ぶ。これこそが冬を越える力なんだろうな、とリビングの豆電球を見ながら思うのです。
第5章…非常用あったか準備~停電したらどうする?家族で決めた“あの日の約束”~
この家には、小さな「もしもの約束」があります。これはある年の冬、夜に一瞬だけ電気が止まったことが切っ掛けでした。ほんの数分だったのに、ひぃばぁばの「さむ…」という小さな声が、家族皆の胸に刺さったんです。真っ暗で、音もなくて、エアコンもこたつも使えない。外は冷たい雨。あの時、「あ、うちは冬の安心の準備をちゃんと決めておいた方がいいんだ」と全員がはっきり思いました。それ以来、12月が近づくと、家族そろってのプチ会議が行われます。テーマは一言で言うと「温かさの守り方」です。
この会議は、けっしてドラマチックな緊急対策本部みたいなものではありません。むしろ、皆でみかんを食べながらです。こたつに顎を乗せそうになっている娘もいるし、ハンドクリームを塗ったばかりのひぃばぁばもいるし、ママはマグカップを両手で持ちながら瞼がトロンとしていて、パパとじぃじがちょっと真面目な顔で話し始める。温かい雰囲気のまま、でも大事なことをちゃんと決める時間です。
停電したら1番最初に動くのは誰かを決めておく
まず一番最初に決めてあるのは、「誰が声を出すか」です。部屋が暗くなると、子どもも高齢の家族も、一瞬だけ不安で固まってしまうことがあります。その一瞬が一番危ない。足元は見え難いし、慌てて立ち上がると転びやすい。だから、この家では「真っ暗になったら、最初にパパが『大丈夫やで、待っててな』って声を出す」と決まっています。大きな声で呼び合って、部屋の中でガタガタ歩き回らないためです。
このひと声は、ただの合図ではありません。「動かなくていいよ」「こっちが行くから」という約束になっています。安心の合図が先にあると、ひぃばぁばは立ち上がろうとしません。娘もむやみに走りません。パパは「俺が言うから」と胸を軽く叩くのですが、娘は「かっこいい」と素直に褒めるので、パパはちょっと照れています。じぃじは横で頷いて、「声掛けの担当って大事やぞ、あれは立派な役職やぞ」と言います。そう言われると、パパも満更でもない顔になります。
この「最初のひと声係」を決めておくと、暗い時間にいきなり何人もが一度に立ち上がることを防げます。特に12月~1月の夜は床が冷えるので、転倒を避けるだけでも大きな安心になります。
温かさの中心はどこに集めるか
次に決めているのは、「どの部屋に集まるか」です。停電の時、家の中をバラバラに動くより、全員が同じ部屋にいた方が明らかに安心なんです。この家ではリビングがその場所に決められています。理由は簡単で、段差が少ない・毛布がたくさんある・ひぃばぁばのイスと娘のこたつポジションが近いから。この「近い」が本当に大事です。手を伸ばせば届く距離に、世代が揃って座れるというだけで、気持ちが違います。
リビングに集まったら、まず毛布と膝掛けを重ねます。ふわふわ系、もこもこ系、ひんやりしない素材のものがソファの脇にまとまって置かれていて、「これはひぃばぁば用」「これは娘用」という風にだいたい持ち主が決まっています。自分の肌触りが一番落ち着く1枚がすぐ取れるようになっているので、体も心もサッと落ち着きます。
そしてここで、昼間に決めたあのストーブの話がもう1回出てきます。普段はエアコンや電気ストーブ。だけど止まってしまった時の対策として、灯油タイプのストーブを持ち出すかどうかは、その時に起きている大人が相談してからです。「ママが起きている間」「パパが起きて見ていられる間」だけ使う、という約束がこの家にはあります。点けっ放しで全員寝る、ということは絶対にしない。ここは全員の同意が揃っていて、そこが一番安心なところです。
この約束は、パパの気持ちを守るためでもあります。パパは火に対して慎重でいて欲しい人です。だからこそ「誰かが起きて見ている時間だけ」という線を、家族としてはっきり引いておくことで、皆が落ち着いた顔で一緒にいられる。反対に言うと、そこまで決めていない道具は、この家では「しまっておく物」。すぐ手が届かないところに片付ける物、という扱いになります。
あの日の約束~誰も我慢のヒーローにならない~
最後に、この家で一番大事にされている合言葉があります。それは「温め役は交代する」ということです。つまり、誰か1人がずっと無理をしない。ずっと抱っこ役、ずっと見守り役、ずっと寒い中で立ち仕事役、そういう“頑張りっ放なしの人”を作らないという約束です。
あの冬の停電の夜、ママは「大丈夫、私起きてるから」と言ってひぃばぁばにずっとついていました。娘もじっと起きていて、途中でこっくりこっくり船を漕ぎながらも「私も起きてる」と言い張っていました。その姿は確かに凄く偉かった。でも翌朝、全員がクタクタでした。その時、じぃじが静かに言ったんです。「ヒーローは交代でええんやで。交代なしのヒーローはすぐ倒れるんやからな」。それからこの家では、夜の温め役も、声掛け役も、抱っこ役も、ちゃんとバトンを回すようになりました。
12月になると、人は「何とか今年を乗り切りたい」と思いますよね。その気持ちはとても分かるんですけど、実は「乗り切る」は一人の体力でやるものじゃない。家族の中で、少しずつ分けて持つものなんだな、とこの家を見ていると思います。
ひぃばぁばの手は冷えやすい。でも、ギュッと握ると柔らかい。娘の肩はまだ細い。でも、支えようとするとちゃんと強い。ママはクタクタでも、人の顔を見るだけで安心させる力がある。パパは物を運ぶ時も声をかける時もやたら落ち着いている。じぃじは、冬の夜がどれだけ怖いかをだいぶ前から知っているから、先回りして段取りをつけてくれる。
この「ちょっとずつの力」を回していくこと自体が、非常用の温かさなんだと思います。毛布やストーブももちろん大事。でも、誰かが「ここにいるから大丈夫」と言ってくれる、その声が一番温かい。12月の夜に本当に欲しいのは、きっとソコなんでしょうね。
[広告]まとめ…ヒーローなんていない~だから全員がちょっとずつヒーローになる12月~
この家の12月には、分かりやすいヒーローは出てきません。ママは夜勤明けのままフラフラで帰ってきて、「ただいま」と同時に全員の顔色を見てくれるけれど、それはもう限界ギリギリの優しさです。パパは「大丈夫、任せとけ」と言いながら、けっこう目の下にくっきりクマが出来ています。娘は九九カードを抱いてるはずなのに、気付けばひぃばぁばの手を引いてトイレまでついていき、本人は胸をはって「お任せください」と言ってる。ひぃばぁばは時々「今日はええ調子や」と皆を安心させようとするし、じぃじは「おれは朝一番に起きるからな」と腰を擦りながら宣言する。誰も完璧じゃない。誰も「任せろ、全部片付ける」とは言わない。
けれど、その「ちょっとずつ」の積み重ねが、この家をちゃんと温めています。
朝は、ママの点呼から始まります。「今日は誰が見守り番?」と、一人ずつの役目を決めていくあの時間。あそこで家中がスイッチオンになります。「ひぃばぁばはどう?」「パパは寝た?」「九九のテスト、今日なんやろ?」って、全員が全員の今日の大事なことを知っている。これは、外から見るとただの雑談に聞こえるかもしれません。でも中にいる人にとっては、「今日も一緒にいけるね」という合図なんです。
昼は、温かさの相談です。普段は電気ストーブとエアコンで十分。でも、雪や停電まで考えておきたいというじぃじの思いと、「火の道具は安全第一にしたい」というパパの思い。二人の話し合いは、家電の好き嫌いの話ではなくて、「大事な人をどうやって守るか」の話です。その結果、「普段使いの温め」と「非常時の温め」をちゃんと分けておこう、という結論が生まれる。押し入れで待機する灯油ストーブは、“怖いもの”ではなく、“ここぞの安心”としてそこにいる。そこには、家族の顔がちゃんと浮かんでいます。
夕方から夜にかけては、静かなリレーが始まります。「今日はおれが遅くまで起きてるから」「朝一番は任せろ」「その代わり、あなたは先に寝て」。紙の表もタイムカードもないのに、誰がどの時間帯の見守り役なのかが自然と決まっていく。これって凄いことです。本当は「一人で頑張らなくていいから休んで」という言葉を、お互いにちゃんと渡しているということです。12月の夜は長い。寒い。ちょっと心が弱くなる。そういう時間帯に「ここに人がいる」ということが、一番の温かさになります。
この家では、頑張ること=休まず働くこと、ではありません。頑張ること=次の人にバトンを渡すこと、なんです。パパが見守り役を引き受けることで、ママはようやく目を閉じられる。じぃじが「朝一番係やる」と言うことで、皆は夜の深い時間に少し安心して眠れる。娘が「ひぃばぁばの横にいるね」と言うことで、ひぃばぁばは「儂は迷惑やないんやな」と胸を張れる。一人一人の役割は小さいのに、その小さなピースがピッタリはまって、ちゃんと家を支える形になるんです。
12月は、クリスマスや年末の予定や、学校のまとめや、仕事のしめ切りや、家の用事が一気に押し寄せてきます。どうしても「まだこれもできてない」「あれも準備してない」と不安が膨らむ時期です。でも、この家を見ていると、冬を越える力って、立派な言葉とか立派な計画じゃないのかもしれません。たぶん、「今夜は私が起きてるから安心して」「その代わり明日はあなたが朝よろしくね」という、やわらかい約束の積み重ねなんです。
大事なのは、誰も一人ぼっちで戦わせないこと。ヒーローが一人で全部を救うお話は、確かにスカッと気持ちいい。でも、現実の家の12月はそうじゃない。全員がちょっとずつヒーローになる。交代しながら灯りを消さない。これが一番人を助ける形なんだと、この家は教えてくれます。
そしてその形は、どこにでも持って行けます。一人親の家でも、二人暮らしの家でも、三世代の家でもできます。「今夜は私が声を出すね」「寒かったらすぐ言ってね」「先に寝てていいよ」──そのひと言は、今日からもう使える、小さな温かい道具です。
12月は寒い。でも、人の声はほんのり温かい。その温かさが家の隅々まで届くようにすること。それが、この季節をちゃんと乗り越える一番の方法なのだと思います。
⭐ 今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m 💖
応援リンク:
ゲーム:
作者のitch.io(作品一覧)
[ 広告 ]
コメント ( 0 )
トラックバックは利用できません。
この記事へのコメントはありません。