介護職は未来無限の総合職~現場から広がるセンスと仕事の可能性~

[ 介護現場の流儀 ]

はじめに…介護職は底辺でも行き止まりでもない~可能性が広がる総合職という視点~

「介護って、給料は低いし、きついし、将来にもつながらない“底辺の仕事”なんでしょ?」
こんな言葉を、どこかで目にしたり、耳にしたりしたことはないでしょうか。もしかすると、心のどこかで自分でも少しだけそう思ってしまい、「このまま年を重ねていったら、行き止まりなんじゃないか」と不安になる夜もあるかもしれません。

けれど、現場で日々利用者さんと向き合っている人ほど、本当は知っているはずです。介護職は、単に身体を支えるだけの仕事ではありません。体調の変化を見抜く観察の眼、人の話を聴き取る耳、家族や他職種と調整する交渉力、レクや行事を組み立てる企画力、記録や書類を分かりやすくまとめる文章力。これらを全部同時に使いこなして、ようやく1日が回っていきます。むしろ「よくこんなに多くの役割を1人でこなしているな」と、別の業界の人が驚くほどの総合職なのです。

それなのに、現場では「最低限は保障している」「人手不足だから仕方ない」といった言葉を盾に、効率化だけを求められる場面も少なくありません。会社やお金を隠れ蓑にした圧力の皺寄せは、職員の心と体に重く圧し掛かり、やがて、その先にいる高齢者の暮らしにも影を落としていきます。本当は、人生の最終盤を支える大事な仕事なのに、そこで働く人も、サービスを受ける人も、どこか「我慢するのが当たり前」という空気に包まれている。この構図を、少しずつでも変えていきたい。その気持ちが、今回の文章の根っこにあります。

だからといって、ここでいきなり激しい言葉を並べて現場を責めたいわけではありません。過激な主張は、却って現場で踏ん張っている人の心を消耗させてしまいますし、「結局、何も変わらないよね」という諦めに繋がりがちです。むしろ今回は、もっと静かで、もっと前向きなところから話を始めたいのです。「介護職は、実はどんな未来にも化ける力を持った総合職なんだ」という視点をそっと手渡すこと。それが、この記事の一番大きな目的です。

日々のケアを惰性でこなしてしまうのは簡単です。忙しさに追われていればなおさら、目の前のタスクを順番に片付けるだけで1日が終わってしまいます。でも、その同じ1日の中に、「未来に繋がるセンス」を育てるヒントが、いくつも隠れています。居室やフロアの空間をどう整えるかを考える眼。1日の流れやレクの進行を組み立てる段取りの眼。利用者さんの物語を聴き取り、言葉にして残す眼。ちょっとした写真や動画、掲示物を通して表現してみるデジタルの眼。こうした視点は、磨けば磨くほど、他の仕事にも通用する“プロの眼”へと育っていきます。

この記事では、介護の現場で自然に育っている4つのセンスに光を当てながら、「実はこんな未来の仕事にもつながっている」「こんな働き方も選べる」という具体的なイメージを広げていきます。ブログやユーチューブのように自分の物語を発信していく道。施設や地域とパートナーを組み、企画や広報を担っていく道。仲間と学び合う場を作り、講座やコミュニティを育てていく道。どれも特別な人だけのものではなく、現場でコツコツと経験を積んできた介護職だからこそ、深みを持って歩けるルートです。

将来の社会保障や老後の安心が、この先どう変わっていくのかは、誰にも断言できません。だからこそ、「会社にしがみ付くしかない」と自分を縛りつけるのではなく、「自分のセンスを育てて、いつでも冒険できる自分でいよう」と思えるかどうかが、人生の大きな分かれ道になっていくはずです。夢見ることと現実を見ることは、決して矛盾しません。現場での経験に、少しだけ夢と冒険の視点を足していくことで、いつか、高齢者と介護職の両方が笑って過ごせる世界に近付いていける。そのための小さな一歩として、この記事を置いておきたいと思います。

さあ、「介護職は底辺でも行き止まりでもない」という前提に立って、あなたの毎日がどれほど多彩な可能性を秘めているのか、一緒に見ていきましょう。

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第1章…現場で自然に育つ4つのセンス~空間・時間・物語・デジタル~

忙しい1日が終わって、フウッと一息ついたとき、「今日もバタバタだったなあ」としか思い出せないことがあります。けれど、少し視点を変えて振り返ってみると、そのバタバタの中で、あなたはいくつもの“プロ級の感覚”を当たり前のように使いこなしています。しかも特別な講座を受けたわけでもなく、現場に立ち続けるうちに、自然と磨かれてきたものばかりです。この章では、その中でも特に大きな4つのセンス――空間、時間、物語、デジタル――に焦点を当ててみたいと思います。

まず、介護職は「空間を見る眼」を鍛え続けています。ベッドの位置、手すりの高さ、ポータブルトイレの向き、車椅子の置き場、カーテンの開け閉め。これらを何となくではなく、「この方ならここが安全」「ここに物があると躓きそう」と瞬時に判断しながら動いていますよね。居室に入った瞬間、「あれ、今日は何となく歩きにくそうだ」と感じて、さりげなく物をどかす。窓からの光の入り方を見て、「まぶしすぎて表情が読み取りにくいな」とレースカーテンを調整する。こうした1つ1つが、インテリアや店舗作りの世界にも通じる、立派な空間デザインの感覚です。

次に育っているのが、「時間を編むセンス」です。早番・日勤・遅番とシフトが回る中で、起床介助、排泄、更衣、食事、服薬、入浴、レク、面会対応……やるべきことは山ほどあります。その中で、「どの順番で回れば、利用者さんの負担が少なく、自分も倒れずに済むか」を、頭の中で瞬時にシミュレーションしているのが介護職です。少し早めに声を掛けておく人、逆に敢えて最後に回した方が落ち着く人。急な体調変化や家族からの電話が入った時に、「ここを入れ替えれば全体が崩れない」と瞬時に組み替える力。これは、イベントの進行やプロジェクト管理にそのまま生かせる、立派な時間プロデュースの力と言えます。

3つ目は、「人の物語を感じ取るセンス」です。介護の現場では、年齢も歩んできた道もまったく違う人たちが同じフロアで生活しています。同じ「転倒リスクあり」という一文の裏には、若い頃の仕事、家族との関係、病気との長い付き合い、その人なりのプライドや拘りが詰まっています。何気ない会話や表情の変化から、「この方は、責任感の強い長男として生きてきたんだろうな」「この冗談の裏には、寂しさを隠す癖がありそうだな」と、さりげなく人生の背景を読み取っていく。その上で、家族や他職種に伝える時には、「ただの情報」ではなく「その人らしさ」が伝わるように言葉を選んでいるはずです。この感覚は、インタビューや記事作成、動画企画といった“ストーリーを扱う仕事”にとって、掛け替えのない土台になります。

そして見逃されがちですが、確実に育っているのが「デジタルと仲良くするセンス」です。介護記録ソフトへの入力、タブレットでのバイタル管理、オンライン会議、家族とのメールやメッセージアプリでの連絡。紙の時代とは違い、今の介護職は、PCやスマホを通じて情報を扱う場面がどんどん増えています。「この写真ならご家族が安心しそう」「この文章なら読み落とされにくい」といった、画面越しの伝え方を工夫する場面も増えているのではないでしょうか。最初は苦手意識があった人でも、業務の中で少しずつ慣れ、今では新人さんに操作を教える立場になっているかもしれません。この経験は、将来、在宅ワークやコンテンツ制作の世界に踏み出すとき、大きな力になります。

こうして眺めてみると、介護職が日常的に使っている4つのセンスは、「ただ忙しく動き回っているだけ」の仕事とは全く別物だと分かります。空間を見て整える眼。時間の流れを設計し直す眼。人の物語をすくい上げる眼。画面の向こう側の相手までイメージして情報を届ける眼。どれも、意識して磨けば磨くほど、様々な職業や働き方に通じていくキーワードばかりです。

この章でお伝えしたかったのは、「あなたは既に、たくさんの可能性の種を持っている」という事実です。何か新しいことをゼロから始めなければ未来が開けないわけではありません。今やっている介護の仕事の中に、すでに次のステージへのヒントが埋まっています。次の章からは、この4つのセンスが、具体的にどんな仕事や働き方に形を変えていけるのかを、一緒にたどっていきましょう。


第2章…日々のケアがコンテンツになる~ブログ・ユーチューブ・本へ繋がる道~

介護の現場で過ごす1日は、外から見ると「同じことのくり返し」に見えるかもしれません。起床介助、トイレ誘導、食事介助、入浴、一日の締めのナイトケア。けれど、その中身を少し細かく覗いてみると、まったく同じ1日は1度もありません。昨日と同じメニューの朝食でも、向かい合う表情は違うし、飛び出すひと言も違う。転倒しそうになったけれどギリギリで支えられた瞬間、いつも無表情な方がフッと笑ってくれた瞬間、不器用な職員同士のやり取りが妙に面白かった瞬間。そうした小さな出来事の積み重ねこそが、実はたくさんの人の心に届く「ネタ」の宝庫です。

ブログやユーチューブ、本作りというと、特別な才能を持った人が、独創的な世界観をゼロから生み出しているようなイメージがあります。でも実際には、多くの人の心を掴むのは、誰かの日常のリアルな体験です。介護職が語る「現場のあるある」は、同じ業界の人だけでなく、家族の介護で悩んでいる人や、医療職、福祉に関心のある学生たちにも響きます。自分では「こんなこと、どこにでもある話だよ」と思っている一場面が、他の人にとっては「そんな工夫があるんだ」「そんな感情になるんだ」と新鮮に映るのです。

ここで大事になるのが、第1章で触れた「物語のセンス」です。日々のケアの中で感じたこと、印象に残った場面を、その日のうちに数行だけでもメモしておく。誰が見ても分かるような氏名や地名は伏せて、「元トラック運転手」「海の近くで育った」「昔は町内会のまとめ役」など、雰囲気が伝わる程度にぼかしながら、自分の言葉で書き留めていく。それは最初はただの備忘録のように見えても、何十個、何百個とたまっていくうちに、「一人の介護職が見つめてきた世界」として、ジワジワと重みを増していきます。

ブログという形を選ぶなら、こうしたメモを少しずつ整えて、1本の読み物にしていくことが出来ます。「今日、入浴を嫌がったAさんが、最後にポツリとこぼしたひと言」だけで、1つの記事になります。ユーチューブなら、文章ではなく語りとして、顔出しを避けながら声だけで話す方法もありますし、イラストや簡単な図を組み合わせたスライド形式にすることもできます。本としてまとめるなら、章ごとにテーマを決めて、「食事」「夜勤」「家族とのやり取り」といった切り口で並べていくのも1つのやり方です。

もちろん、個人情報の扱いはとても重要です。具体的な施設名や本人が特定できるエピソードは避ける、時系列や細部を敢えてぼかす、一人の話を複数人のエピソードとして再構成するなど、いくつかの工夫を組み合わせることで、安全とリアリティのバランスを採ることが出来ます。「そのまま事実を一字一句再現する」必要はありません。むしろ、守るべきところをしっかり守った上で、それでも伝えたい本質を言葉にすることが、“物語を扱う人”としての訓練にもなります。

また、「どんな視点で語るか」も、コンテンツの広がりを左右します。例えば同じ入浴介助でも、「大変さ」を前面に出す語り方もあれば、「どうやってその方の拘りに寄り添ったか」という工夫の部分に光を当てる語り方もあります。「こんな理不尽があった」と怒りをぶつけることもできるけれど、あえてそこをグッとこらえて、「あの時、自分はこの一言に救われた」と締めくくる書き方もあるでしょう。後者の方が、読み手の心に静かに残ることが多く、結果として、長く読まれやすい物語になっていきます。

日々のケアをコンテンツに変える過程では、第1章で挙げた他のセンスも生きてきます。空間のセンスがある人は、「この部屋のレイアウトを変えたら、皆の表情がどう変わったか」を写真やイラストつきで紹介できるかもしれません。時間を編むセンスがある人は、「朝の1時間をこう組み立て直したら、職員も利用者さんもラクになった」という小さな工夫を、読みやすい流れで語れます。デジタルに慣れている人なら、文字と写真、音声、動画を組み合わせて、自分なりの表現スタイルを作ることも出来ます。

こうして育てたコンテンツは、単なる「趣味の日記」で終わる必要はありません。続けていけば、同じ現場で働く人たちとの共有の場になり、「あの人の記事、参考になるよ」と口コミが広がることもあります。そこから、他施設の勉強会やオンラインでの対話会に声が掛かることもあるでしょう。さらに先には、出版社や制作会社の目に留まり、「介護現場をテーマにした企画を一緒に考えませんか」といった話に繋がる可能性もあります。

大切なのは、「自分の経験には、語る価値がある」と信じることです。完璧な文章でなくても構いません。凝った映像技術がなくても、スマホ1つでも十分です。日々のケアの中で感じたことを、少しずつ外に向けて言葉にしていく。その行為そのものが、未来の自分の仕事の幅を広げていきます。やがて、「ただ現場で働くだけ」ではなく、「現場の物語を外の世界に届ける人」としての自分が、もう1つの顔として育っていくでしょう。

次の章では、こうして生まれたコンテンツが、どのように施設や地域との新しい関係作りに繋がっていくのかを見ていきます。現場で培ったセンスを、今度は「外部パートナー」という形で生かしていくルートについて、具体的にイメージしていきましょう。


第3章…施設や地域と組む働き方~外部パートナーとして頼られる未来~

ブログやユーチューブ、本などの形で自分の物語を外に出し始めると、少しずつ周りとの関係が変わっていきます。最初は、ごく身近な同僚や友人が「読んだよ」「あの話、うちの職場にもある」と声を掛けてくれるところから始まりますが、そのうち、「その感覚、うちの施設でもちょっと力を貸してくれない?」と、外部からの相談として届くようになっていきます。ここからが、「外部パートナー」という新しい役割の出番です。

外部パートナーというと、何だか遠い世界のフリーランスのように聞こえるかもしれません。でも、介護の現場から生まれるその形は、とても身近で、そして現実的です。例えば、行事やレクリエーションの企画が得意な人なら、「年間の行事カレンダーを、一緒に見直してほしい」と別の施設に頼まれるかもしれません。飾り付けや空間作りが好きな人なら、「デイサービスのホールを、もう少し温かい雰囲気に変えるアドバイスが欲しい」と相談されることもあるでしょう。文章や写真が得意なら、「施設だより」や「採用ページ」の文章や構成を手伝って欲しいと言われるかもしれません。

これらは、すべて第1章で触れた4つのセンスが、施設の外側にまで届き始めた姿です。空間を見る眼は、「利用者さんの目線で見た、居心地の良いフロア」を提案する力になります。時間を編むセンスは、「行事当日の進行表」や「無理のないタイムスケジュール」を一緒に組み立てる力になります。物語を感じ取るセンスは、「この施設らしさ」「この法人らしさ」を言葉にしてまとめるときの核になります。そしてデジタルに慣れてきた感覚は、写真や動画、ホームページの構成を考える時の大きな助けになります。

こうした役割は、必ずしも大きな契約から始まるわけではありません。最初は、小さなお願い事からです。「今度、地域の介護者教室で話してみませんか」「うちの新人向け研修で、現場目線の話をしてくれませんか」。ほんの1回の講話であっても、それは立派な外部パートナーとしての仕事です。現場での日常を丁寧に見つめてきた人だからこそ、参加者の心にスッと入る言葉が生まれます。そこから「次の年度もお願いします」と繋がっていけば、少しずつ、日々のシフトとは別の「もう1つの仕事」が育っていきます。

地域との繋がりも、外部パートナーとしての可能性を広げてくれます。地域包括支援センターや社会福祉協議会、自治体の介護予防事業などは、「現場のリアルな声」を求めていることが少なくありません。介護職としての経験に加え、物語やコンテンツの形で発信している実績があれば、「この人に地域向け講座の企画を相談してみよう」と思ってもらえる土台になります。例えば、「家族介護者の気持ちを支える講座」「高齢者と暮らしを楽しむ工夫を紹介するミニイベント」など、あなたが日々の仕事の中で大事にしている視点を、そのまま地域のプログラムに落とし込むことが出来るのです。

ここで1つ、心に留めておきたいのは、「何でもかんでもボランティアで引き受けない」ということです。もちろん、気持ちから始まる無償の関わりも、時には大切です。でも、自分の時間と経験を使って企画を練り、人前で話をするというのは、本来きちんと対価が払われるべき仕事です。「外部パートナー」として関わる時は、相手との話し合いの中で、可能な範囲で条件を擦り合わせていく勇気も必要です。これは、介護職としてだけでなく、「自分のセンスを仕事として扱う人」としての第一歩でもあります。

施設や地域との関係が広がっていくと、「1つの職場だけに運命を握られている」という感覚が少しずつ薄れていきます。今の職場の方針や人間関係がどう変わろうと、自分には「別のところでも役に立てる経験とセンスがある」と思えるだけで、心の自由度は大きく違います。その自由さが、却って今の職場での働き方を柔らかくし、「ここではこの役割を全力でやってみよう」「合わなくなったら、別の場所で新しい役割を探そう」と、しなやかに考えられるようになっていきます。

大げさな独立や起業を目指さなくても、「現場+外部パートナー」という重ね方は十分に可能です。週のうち数日は現場で働き、別の日に地域の講座や施設の企画を手伝う。あるいは、フルタイムで現場に立ちながら、月に1回だけ外部の仕事を入れていく。働き方の形は、人の数だけあって良いはずです。「自分にはそんな世界、来ないだろう」と決めつけてしまうのではなく、「もし声がかかったら、どんなことをしてみたいか」と想像してみるところから始めてみませんか。

第3章では、現場で育ったセンスが施設や地域と結びつき、「外部パートナー」として頼られる未来についてイメージしてみました。次の第4章では、こうして広がった繋がりを元に、自分自身で学びの場やコミュニティを作り、仲間と一緒に道を開いていく働き方について考えていきます。介護職を一人で頑張るだけの仕事から、「仲間と学び合いながら育っていく仕事」に変えていく視点を、一緒に見ていきましょう。


第4章…仲間と学び合う場を作る~講座・コミュニティ・ディレクターという選択~

ここまで見てきたように、介護職の中には、空間を整える眼、時間を編む眼、物語をすくい上げる眼、デジタルと仲良くする眼という、いくつものセンスが眠っています。これらは一人で磨き続けることも出来ますが、本当は「仲間と学び合う場」があるほど、グンと伸びやすくなります。同じように現場で悩み、同じように利用者さんのことを大事に思っている人たちと繋がると、「自分だけがしんどいわけじゃない」と分かる安心感と、「自分の経験も誰かの役に立つんだ」という手応えが同時に生まれてきます。

その第一歩は、ほんの小さな勉強会やおしゃべり会でも構いません。施設の中で、数人の職員同士が「今度のレクをどうしようか」「夜勤の工夫を持ち寄って話そう」と集まるところから始めてもいいですし、地域の介護職どうしがオンラインで顔を合わせ、「最近の現場の空気」「ここだけの失敗談と成功談」を語り合う場を持つのもひとつの形です。そこに、あなたが得意なセンス――空間づくり、段取り、物語、デジタル――を、さりげなく持ち込んでいくのです。

たとえば、「物語を書くのが好き」な人なら、仲間の体験を聞き取って、それを小さな文章にして共有することが出来ます。「今日の主役はこの人」と決めて、一人ずつ現場エピソードを語ってもらい、それを短い読み物にまとめて配る。話すのが得意な人なら、ミニ講座のような形で、「私がやっている朝の1時間の組み立て方」や「利用者さんの本音を引き出す声かけ」をテーマに、経験を紹介できます。デジタルが得意な人なら、その場で出てきたアイデアをスライドや資料に整理し、後で参加者が見返せるようにすることも出来ます。

こうした場を何度か重ねていくと、自然と「場の進行役」や「全体の流れを組み立てる人」が必要になってきます。その役割が、いわゆる「ディレクター」に近い立ち位置です。ディレクターというと難しく聞こえますが、実際には、「誰に話してもらうか」「どの順番で進めるか」「どんなアウトプットにまとめるか」を考える人のことだと思ってみてください。介護の現場で、日々シフトや業務の段取りを組み替えている人にとっては、実はとても親しみやすい仕事です。

やがて、その学びの場が少しずつ広がっていくと、「参加したい」という介護職や、「うちの職員にも聞かせたい」という管理者が増えてきます。そこから、正式な講座として依頼を受けたり、「このテーマでシリーズを組んでほしい」と言われたりすることも出てくるかもしれません。最初は小さな輪だったコミュニティが、いつの間にか「介護職が自分のセンスを育てる学校」のような役割を持ち始めることもあります。そうなった時、あなたは単なる参加者ではなく、「場を育ててきた人」として、1つ上の視点から介護の世界を眺めている自分に気付くでしょう。

この「講座」「コミュニティ」「ディレクター」という3つの要素は、組み合わせ方によって、働き方を柔らかく変えていく力を持っています。現場を続けながら、月に1回だけ講座を開く人もいるでしょう。コミュニティ運営を中心に据え、必要な時に現場へヘルプに入る形を選ぶ人もいるかもしれません。あるいは、複数の施設や事業所の企画や広報をまとめて引き受ける「ディレクター」として動きつつ、自分自身の物語発信も続ける、というスタイルを選ぶことも出来ます。

大切なのは、「仲間と学び合う場を作る」という選択が、自分一人のためだけでなく、ゆくゆくは介護職全体の環境を変えていく力に繋がる、ということです。現場で働く人たちが、それぞれのセンスを持ち寄り、「こういうやり方なら、職員も利用者さんも笑顔になれるよね」と話し合う場が増えれば、「とにかく効率だけ」「とにかく我慢だけ」という空気は、少しずつ押し返されていきます。現場から生まれた工夫が、講座やコミュニティを通じて広がり、やがては制度や仕組みを動かす声にもなっていくかもしれません。

もちろん、いきなり大きなコミュニティを作る必要はありません。最初は、信頼できる1人か2人とのおしゃべりからで十分です。「こんな場があったらいいな」と感じた人が、小さな一歩を踏み出すこと。それが巡り巡って、自分自身の未来を守り、高齢者の暮らしを守ることにも繋がっていきます。

第4章では、仲間と学び合う場を作り、講座やコミュニティ、ディレクターという形でセンスを生かしていく道を眺めてきました。最後のまとめでは、「介護職は未来無限の総合職」というテーマに立ち返りながら、これらの可能性が、あなた自身の人生の安心感とワクワクをどう支えてくれるのかを、改めて振り返っていきたいと思います。

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まとめ…1本の道に縛られない介護職へ~自分のセンスを未来の味方にする~

ここまで読み進めてみて、「自分の仕事の見え方が、少し変わったかもしれない」と感じていただけたなら、とても嬉しく思います。介護職は、世の中の一部から雑に扱われたり、「きつい割りに先がない」と決めつけられたりしがちな仕事です。でも、第1章で見たように、現場で自然に育っているのは、空間を整える眼、時間を編む眼、人の物語を受けとめる眼、デジタルと仲良くする眼という、どこにでも通用する4つのセンスでした。これは、どんな職場にも簡単には真似できない、介護ならではの強みです。

第2章では、その日々のケアが、そのままブログやユーチューブ、本といった形に姿を変えられることを見てきました。誰かの排泄介助やナイトケアの裏側には、その人の人生や、職員同士の思いやりや葛藤が隠れています。それを自分の言葉で掬い上げれば、「ただの大変な毎日」だったはずの出来事が、人の心を動かす物語に変わります。小さなメモから始めた経験が、いつか誰かの悩みにそっと寄り添う読み物になっていくかもしれません。

第3章では、そのセンスや物語が、施設や地域との新しい関係を生み出すことも確認しました。行事やレクの企画、空間作り、広報や採用の文章作り。現場で磨いてきた感覚は、施設の外側から“外部パートナー”として頼られる力にもなります。1つの職場だけに人生を握られず、「別の場所でも役に立てる自分」がいると気付けた時、たとえ今すぐ環境が変わらなくても、心の中には大きな余白が生まれます。

そして第4章では、仲間と学び合う場を作り、講座やコミュニティ、ディレクターという形でセンスを分かち合う未来を描きました。現場で孤立しがちな介護職が、「自分の経験も誰かの役に立つ」と感じられる場を持てた時、その輪はゆっくりと広がっていきます。小さなおしゃべり会から始まった取り組みが、いつしか「介護を面白くする人たちのネットワーク」になっていくかもしれません。それは、職員だけでなく、高齢者の暮らしを少しずつ良い方向へ押し戻していく力にもなります。

もちろん、現実は簡単ではありません。人員配置の厳しさ、書類の多さ、理不尽に感じる指示や評価。そうしたものに心を削られ、「理想なんて語っていられない」と感じる日もあるでしょう。それでもなお、「介護職は底辺でも行き止まりでもない。未来無限の総合職なんだ」という視点を、心のどこかで手放さないで欲しいのです。今の職場に不満があるからこそ、自分のセンスを育て、いつでも別のルートへ歩き出せる準備をしておく。その静かな決意こそが、会社や制度の圧力に飲み込まれないための、一番確かな盾になります。

今日から急に人生を変える必要はありません。明日のシフトに入る時、ほんの少しだけ意識してみるところからで構いません。「この居室の空間を、どう整えるとこの人は落ち着くだろう」「この1時間の流れを、どう組み替えれば皆が楽になるだろう」「今日一番心に残った一言を、3行で書き残してみよう」。その小さな問い掛けと行動が、やがてあなたの中のセンスを太くしていきます。

介護の仕事を続けることも、別の道へ踏み出すことも、どちらも尊い選択です。ただ1つ言えるのは、「どちらに進むとしても、今ここであなたが意識して育てたセンスは決して無駄にならない」ということ。あなたが今日、目の前の利用者さんの暮らしを支えながら、同時に自分自身の未来を守る力を育てているのだとしたら、その1日は決して“使い捨て”ではありません。

介護職は、未来無限の総合職。
その証拠を、これからもあなた自身の毎日で、少しずつ積み上げていってください。あなたのその一歩が、いつか誰かにとっての希望の道標になる日が、きっと来ます。

今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m


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