ケアマネママの冬休みサバイバル日記~家族も仕事も抱えたまま走り抜ける~

[ 冬が旬の記事 ]

はじめに…冬休みカレンダーを見て固まるケアマネママの本音

「冬休み」の文字が赤ペンで囲まれたカレンダーを見て、ケアマネママは固まりました。可愛い保育園児の娘、まだ抱っこの赤ちゃん、マイペースなパパ。そこに重なるのは、担当利用者さんの年末年始の体調管理、家族との調整、実家と義実家への挨拶回り。カレンダーのマス目は、まるでパズルゲームの最終ステージのようにビッシリ埋まりかけています。

「この予定表を作ったの、どこの鬼?」そう心の中でツッコミを入れた後、すぐに気付きます。そう、鬼は自分でした。仕事モードの時は冷静に書き込んだはずのスケジュールが、ママ目線で見直すと、一気にラスボス級の難易度に見えてくるのです。

冬は、家族にとっても、利用者さんにとっても、大きなイベントが続く季節です。クリスマスや年越し、初詣。楽しい予定が増える一方で、寒さや体調不良、転倒や入院といった心配事も増えていきます。ケアマネとしては見逃したくない小さな変化が、毎日の暮らしの中にいくつも転がっています。

とはいえ、家に帰れば一人のママ。洗濯物の山、冷蔵庫の中身、保育園からの連絡帳、テーブルの上に置きっ放しのランドセル。その横で、赤ちゃんはミルクを要求し、保育園児は「ママ、今日のご飯はなーに?」とキラキラした目で聞いてきます。ケアマネママは、心の中でそっとため息をつき、笑顔を貼り付けながらエプロンを結びます。

「家族も仕事も、どっちも大事。でも、私は一人しかいない。」そう感じた瞬間、少しだけ胸がギュッとします。それでも、利用者さんの顔を思い浮かべると、つい電話の一本を入れたくなるし、子どもたちの寝顔を見ると、「この子たちの冬を楽しい思い出にしてあげたい」と欲が出てしまうのも事実です。

この物語は、そんな欲張りで不器用なケアマネママが、冬休みという長いイベント期間を、笑ったり、泣きそうになったり、時々、全てを投げ出したくなりながらも、なんとか駆け抜けていく日記のようなお話です。時には、実家と義実家をハシゴしながらさりげなく親の変化を見たり、予定通りにいかない1日に振り回されながらも、家族の名場面がふいに生まれたりします。

仕事も家族も、どれかを完全に切り離すことはできない。だからこそ、きっちりこなすのではなく、「まあ、これくらいで合格にしよう」と、自分で自分に合格点をあげる感覚が大切になってきます。この冬休みサバイバル日記を通して、「あ、うちも似たような感じかも」と笑ってもらえたり、「ここはちょっと真似してみようかな」と思えるヒントが、1つでも見つけてくれたら嬉しいです。

さあ、ページをめくって、ケアマネママの冬休みの1日に、そっと覗き見気分でついてきてください。あなたの毎日のバタバタにも、少しだけ寄り添える物語になりますように。

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第1章…午前はケアマネ午後はママ~2つの顔を持つ1日のタイムテーブル~

外はまだ真っ暗な冬の朝。
枕元で鳴り響くアラームを止めようと手を伸ばした瞬間、隣から小さな足がグイッとお腹にめり込みます。
「ママ、寒い…、もっとお布団かけて…」
時計を見ると、まだ6時台。布団の中では可愛い天使、現実ではスケジュールぎっしりのケアマネママの1日が、今日もここから始まります。

キッチンに立つ頃には、既に頭の中で2つのタイムテーブルが動き出しています。
1つは、午前中のケアマネ業務。
訪問の時間、モニタリングの内容、昨日から気になっている利用者さんの体調。
もう1つは、家族の時間割。保育園の持ち物、赤ちゃんのミルクのタイミング、今夜の夕ご飯と翌朝のパンの残り具合。

「冷蔵庫の中身と利用者さんの冷蔵庫の中身、どっちも気にしている自分って何者なんだろう。」
そんな小さなツッコミを心の中で入れながら、トーストを焼きつつ味噌汁を温め、洗濯機のスタートボタンを押します。

そこへ、早めの電話が鳴ります。画面を見ると、いつも頑張ってくれているヘルパーさん。
「もしもし、おはようございます。朝からごめんなさいね。」
声のトーンで、少し心配そうなのがすぐに分かります。
「〇〇さん、今朝ちょっと食欲が無くてね…」
フライパンの上のウインナーが、ジュウジュウ音を立てて自己主張を始めます。
ケアマネママは、菜箸でウインナーを転がしながら、頭の中で予定表を書き換えていきます。
「午前の訪問ルート、少し入れ替えようかな…。」
目の前では、娘がふりかけご飯を頬張りながら「今日、保育園で雪だるま作れるかなあ」とご機嫌です。
同じ朝ご飯のテーブルに、家族の心配と利用者さんの心配が、さりげなく並んでしまうのが、ケアマネママの朝あるあるです。

慌ただしく身支度を整え、娘の手袋を半分強引にはめ込み、赤ちゃんを抱っこ紐におさめて、ようやく玄関を飛び出します。
外の空気はピリッと冷たくて、マフラーから出た鼻の頭がしんと痛いほど。
それでも、保育園の門が見えてくる頃には、心の中に少しだけゆとりが戻ってきます。
先生に娘を託し、「冬休みもよろしくお願いします」と頭を下げる時、ママの顔は少し寂しそうで、同時にホッとしたようにも見えます。

事業所に着く頃には、時計は既に9時を回っています。
コートを脱いだ瞬間から、ケアマネモードにスイッチが入ります。
「おはようございます」と挨拶しながらデスクに座ると、机の上には書類の山と、昨夜置いていったメモが綺麗に並んでいます。
電話は既に何本か鳴き終わった気配をまとっていて、ファクスのトレーには新しい紙が顔を覗かせています。

午前中は、まさに「分刻み」と言いたくなるようなテンポで過ぎていきます。
ケアプランの確認、家族からの相談、医療機関との情報共有。
1つの電話を切るたびに、メモが1枚増え、手帳の書き込みも増えていく。
それでも、利用者さんの顔を思い浮かべると、不思議と面倒くさいとは感じません。
むしろ、「この人の冬を、なんとか安心して過ごしてもらいたいな」と、じんわり気持ちが熱くなる瞬間もあります。

玄関から出ると、冷たい風がドッと押し寄せてきます。
午前の訪問に向かう車の中で、ケアマネママはつい考えてしまいます。
「この時間、ママ友たちは何してるんだろう。」
スーパーで買い物をしている人、職場で会議をしている人、家で赤ちゃんとゴロゴロしている人。
それぞれの冬の午前中を想像しながら、ハンドルを握る手に力を込めます。
「うん、私は私の持ち場をやるだけだ。」

利用者さんの家に着くと、廊下にはこたつから漏れる湯気のような温もりが漂っています。
「寒くなりましたねえ。」
そんな挨拶から始まる会話の中に、食欲や睡眠、痛みや不安のヒントがいくつも隠れています。
冬場の足元、ストーブの位置、薬の飲み忘れ。
ちらっと視線を走らせるだけで、気になるポイントがあちこちに目に入ります。
その様子を、利用者さんの家族は不思議そうに見ています。
「ケアマネさんって、どうしてそんなところまで見えるんですか。」
そう聞かれて、ケアマネママは笑いながら答えます。
「母親業で鍛えられてるんだと思います。子どもがイタズラしそうな所も、だいたい分かるので。」
利用者さんと家族、皆で笑い合うその瞬間だけ、バタバタした午前中が、少しだけやさしい時間に変わります。

気がつけば、時計は12時を過ぎています。
事業所に戻ると、机の上に置きっ放しの水筒と、コンビニのおにぎりが待っています。
ゆっくり味わう余裕はないけれど、ひと口齧ると、塩むすびのシンプルな味が、妙にありがたく感じられます。
「さあ、ここからはママモードへの準備時間だ。」
午後の予定を確認しながら、頭の中でまた別のタイムテーブルが立ち上がります。
保育園のお迎えの時間、夕方の買い物、洗濯物を取り込むタイミング、子どものお風呂。

2つの役割を掛け持ちしているというより、1つの人生の中で役割が入れ替わり続けている感じ
午前中に交わした利用者さんや家族の言葉が、午後のママ時間にもふと甦ることがあります。
「無理し過ぎないでね」と利用者さんに言ったはずなのに、気がつけば自分が一番無理をしそうになっている。
その矛盾に苦笑しながらも、ケアマネママは心の中で小さく宣言します。

「よし、今日も取り敢えず、ここまでやったら合格。後は、家でのドタバタを笑って乗り切ろう。」

午後の扉が開く直前、ケアマネママは、ほんの数秒だけ椅子にもたれて深呼吸をします。
この一息が、午前と午後、2つの顔を切り替えるスイッチ。
この後で始まる、保育園のお迎えと家族との時間は、また別のドラマでいっぱいです。
その続きは、次の章でゆっくり覗いていくことにしましょう。


第2章…実家と義実家をハシゴしながら~さりげなく親の変化を見抜くコツ~

冬休みのカレンダーの中でも、ケアマネママの胃がきゅっと縮む日がある。
それが「実家」と「義実家」をハシゴする日だ。
カレンダー上では、ただの2本の矢印。
けれど、その裏側には、親の体調と家族関係と、嫁としての立ち回りがぎっしり詰まっている。

まずは午前中の実家。
車を停めた瞬間、ケアマネママの脳は、半分ケアマネ、半分娘モードに切り替わる。
玄関のドアを開けた瞬間、鼻をくすぐる匂いで、今日は「ちゃんと朝ご飯を作った日」か「インスタントで済ませた日」か、何となく分かる。
「あら、よく来たねえ。」
エプロン姿の母が出てきて、笑顔で迎えてくれる。
その笑顔の奥に、少しだけ疲れが混じっていないか、ケアマネママの目はそっと確認を始める。

キッチンに足を踏み入れると、そこは母の生活がそのまま現れる舞台だ。
シンクの中の食器の量、調味料の減り具合、冷蔵庫の中のラインナップ。
「わあ、お汁物も作ってるんだ、流石だね。」
そう言いながら、さりげなく鍋の中を覗くと、中身はほとんど具なしの薄いスープ。
「最近はあまり食欲がなくてねえ。」
母が笑いながら言う一言の中に、「もしかして、買い物が負担になってきているのかな」という小さなサインが隠れている。

ここでいきなり娘モード全開で、「もっとちゃんと食べないとダメじゃん!」と突っ込んではいけない。
ケアマネママの本領発揮は、「心配」と「ツッコミ」をちょうどよく混ぜることだ。
「そっか、冬は寒いし台所に立つだけでも大仕事だもんね。
今度、一緒に作り置きしようか。あたし、最近手抜きレシピの腕だけは上がってるからさ。」
冗談っぽく切り出して、母のプライドを傷つけずに支える提案を差し込んでおく。
ここで少し笑いが生まれれば、その日はもう7割成功だ。

居間に移動すると、今度は父の様子チェックが始まる。
ソファに座る姿勢はどうか、立ち上がる時に「よっこらしょ」と言うだけでなく、実際に時間が掛かっていないか。
新聞を読む指先はしっかり動いているか、トイレに立つ頻度は増えていないか。
「お父さん、最近どう? 散歩行ってる?」
何気ない会話のようでいて、ケアマネママの頭の中では、情報整理のメモ帳がせっせと開かれている。

そこへ、保育園児の娘が駆け込んでくる。
「じいじ、一緒にゲームしよー!」
タブレットを手にした孫から渡された画面を、父は少し戸惑いながらも楽しそうに触っている。
その様子を見ながら、ケアマネママは内心ニヤリとする。
「指はまだまだ動くし、画面の文字も読めてるな。よしよし。」
遊びの時間を借りて、さりげなく「認知機能チェック」を済ませてしまうあたり、プロと娘の二刀流はなかなか侮れない。

ひとしきり実家での時間を過ごしたら、今度は午後の部、義実家へ移動だ。
車の中では、ママとして家族に声を掛けつつ、頭の中では「義母チェックリスト」が自動起動する。
とはいえ、義実家には「嫁としての立場」というもう1つのハードルがある。
いきなり専門家モードで話し始めると、「仕事を家に持ち込まないで」と受け取られてしまうこともある。
そこでケアマネママは、敢えてちょっとドジな嫁を演じながら、情報を集めていく。

「お義母さん、いつものお漬物、わたしも手伝わせてください。あの味、家でも出せたら、うちのパパ絶対泣いて喜びます。」
そう言いながら台所に立つと、義母はまんざらでもなさそうな顔で、「ここはね、こうするんよ」と手本を見せてくれる。
その手元を、ケアマネママはじっと観察する。
包丁の握り方、刻むスピード、まな板の上で食材が滑る時の反応。
「まだまだ大丈夫そうだな」と安心する日もあれば、「あれ、ちょっと怖いかも」と胸がざわつく日もある。

そんな時、ケアマネママは、敢えて自分の失敗談を持ち出す。
「こないだ、うちで包丁落としかけてさ、足の上に落ちなくてほんとにラッキーだったんですよ。」
「もう、あんたドジなんやから。」
義母が笑いながらそう言ったら、その流れでさりげなく続ける。
「お義母さんも、もし危ないなって思うことあったら、すぐ言ってくださいね。わたし、失敗談ならいくらでも持ってますから、一緒に笑い話にしましょう。」
心配を「説教」ではなく「笑い話」で包んで伝えるのが、冬の嫁業の小さな技だ。

リビングに戻ると、今度は義父の登場だ。
テレビの音量はどうか、リモコンの操作はスムーズか。
ソファから立ち上がる時、テーブルに手を付いていないか。
ビールを注ぐ手元を見ながら、「お義父さん、最近、夜起きる回数増えてないです?」と、あくまで軽く尋ねる。
「よう分かるなあ、さすが本職や。」
そう言ってくれる義父の一言に、ケアマネママは少しホッとする。
「本職」を持ち込んで良い空気が、ここにはちゃんとあるのだと分かるからだ。

実家と義実家をハシゴする1日は、正直なところ、体力的にはなかなかのハードモードだ。
けれど、その中で「元気そうで良かった」という安心を拾えたり、「あれ、ちょっと心配かも」というサインを早めに見つけられたりすることは、大きな意味を持っている。
そして何より、孫と一緒に笑う親たちの姿は、ケアマネママにとっても、冬のご褒美のような景色だ。

帰りの車の中で、子どもたちはチャイルドシートの上でコテンと眠りに落ちる。
パパは運転しながら「あっちもこっちも、元気そうで良かったな」と呟く。
その横でケアマネママは、今日見た細かい様子を頭の中で整理しながら、自分にそっと言い聞かせる。
「うん、今はまだ“見守り強化”で大丈夫。でも、次の帰省までに、兄弟とも情報共有しておこう。」

家族としての心配と、専門職としての視点。
その両方を抱えながら笑っていられるうちは、まだまだ大丈夫。
そう思えるからこそ、次の冬休みも、きっと同じように実家と義実家をハシゴしている自分の姿が、何となく想像できてしまうのだ。


第3章…予定通りにいかない日ほど家族の名場面が生まれる不思議

明日は朝から、今日は完璧な1日にするつもりだった。
ケアマネママは、前日の夜に手帳を開き、びっしりと今日の予定を書き込んだ。
午前は訪問1件と電話連絡をテキパキ終わらせ、午後は家族のための「おこもりデー」。
早めにご飯を作って、子どもたちとゲーム大会。
夜はパパも巻き込んで、家族で映画を1本見て、ホットココアで締める――そんな理想図を思い描きながら眠りについたのだ。

ところが現実は、目覚ましではなく、子どもの咳でスタートした。
「ゴホッ、ゴホゴホッ…」
隣で丸まっている保育園児の娘の額にそっと手を当てると、ほんのりいつもより熱い気がする。
「うわ、ちょっと熱いかも…。」
時計を見ると、まだ朝の6時台。
頭の中に「小児科」「仕事の訪問」「保育園への連絡」という単語が一気に走り抜け、さっきまで夢の中で輝いていた理想のスケジュール表が、バリバリと音を立てて崩れていくイメージが浮かぶ。

取り敢えず、朝ご飯と検温を一気に進めることにした。
赤ちゃんを片腕に抱えたまま、もう片方の手で冷蔵庫を開ける。
昨夜の自分が、きちんと下準備をしていたおかげで、スープの鍋と下味のついた鶏肉が並んでいる。
「よし、昨日の私、良くやった。」
自画自賛しながらガスコンロに火をつけた瞬間、今度はスマホが震えた。
画面には、担当利用者さんの家族の名前。
嫌な予感しかしない。

「おはようございます、朝からすみません。」
電話越しの声は、少し焦りを含んでいる。
話を聞くと、利用者さんが夜中からトイレに何度も起きていて、朝になっても怠そうにしているとのこと。
「今日は、訪問時間を前倒し出来ますか?」
ケアマネママは、コンロの火を弱めながら、頭の中でパズルを組み直す。
娘の発熱、小児科、利用者さん宅への時間変更。
手帳の中の綺麗なスケジュールが、シャッフルモードに突入した。

こうなると、もう「完璧な1日」は潔く諦めるしかない。
代わりに、「転ばぬ先の段取り」を発動する。
パパを起こし、事情を伝え、家事を細かく役割分担する。
「悪いけど、洗濯は全部パパにお願いしたい。あと、赤ちゃんのおむつ替え係も今日はフルで担当してくれたら助かる。」
まだ瞼の重そうなパパは、一瞬固まるが、娘の顔色を見て状況を理解する。
「分かった。オレも今日の予定、ちょっと動かしてみるわ。」
こんな時、家族が「自分事」として一緒に考えてくれることが、何より心強い。

小児科の診察を終えた頃には、時計は既に午前の後半に差し掛かっていた。
診察室で、「少し様子を見れば大丈夫でしょう」の言葉を聞いて、ようやく胸のつかえが少し下りる。
帰りの車の中で、娘はシートに寄りかかりながら「ママ、今日はお家でゴロゴロしてもいい?」と聞いてくる。
本当は、午後からの家族イベントで賑やかに過ごすつもりだったけれど、今日は「ゴロゴロデー」に予定変更だ。
ケアマネママは笑ってうなずく。
「いいよ、ゴロゴロどころか、ダラダラもしちゃおう。」

一度家に戻り、娘を布団に寝かしつけてから、ケアマネママは、利用者さんの家へ向かう。
訪問の途中、ふと自分の足元を見ると、左右で靴下の柄が違っていた。
「え、まさかのしましま+ドット…。これ、娘と同じミスしてるじゃん。」
思わず一人ツッコミを入れながらも、そのアンバランスさにちょっと笑ってしまう。
予定がぐちゃぐちゃな日は、だいたい身だしなみにも小さなほころびが出る。
それを笑い飛ばせる心の余裕だけは、何としても残しておきたい。

利用者さんのお宅では、家族が少し疲れた表情で出迎えてくれた。
話を聞くと、夜間のトイレ介助が増えたことで、家族の睡眠時間が削られているらしい。
利用者さん本人も、「皆に迷惑かけてごめんね」と申し訳なさそうにしている。
そこでケアマネママは、わざと大げさに自分のドジ話を持ち出す。
「うちなんて今朝、バタバタし過ぎて、左右違う靴下でここに来ちゃったんですよ。
夜起こされるのもしんどいけど、寝ぼけてると人間ってなんでもやらかしますよね。」
家族が吹き出し、利用者さんも声を出して笑う。
その笑い声を聞きながら、ケアマネママは、「今日ここに来られて良かった」と心から思う。

家に戻る頃には、既に夕方近く。
ヘトヘトのママを待っていたのは、布団に貼り付いた娘と、部屋中に散乱した玩具、そしてキッチンで奮闘中のパパだった。
「おかえり。今日は俺がカレー作りの担当です。」
振り向いたパパのエプロン姿が、何故かいつもより頼もしく見える。
鍋の中身を覗くと、野菜の形が大き過ぎたり小さ過ぎたりして、まるでパズルのピースのようになっている。
「わあ、具だくさん。絶対美味しいやつだね。」
ケアマネママがそう言うと、パパは照れくさそうに笑った。

食卓につく頃には、娘の熱も少し下がり、顔色が戻ってきていた。
「パパカレー、美味しい。」
スプーンを握りしめながらそう言う娘の声に、パパの目尻が緩む。
赤ちゃんは、離乳食を食べながら、何故かカレー鍋の方をじっと見ている。
「君はまだ早いからね。」
家族全員で笑いが起きる、その瞬間だけは、今日のバタバタも全部「前フリ」に変わる。

食後、映画大会は中止になった。
娘の体調を考え、代わりに「布団の中で絵本読み聞かせ大会」に変更する。
部屋の電気を少し落とし、スタンドライトだけにすると、冬の夜が一気に特別なステージに変わる。
パパが絵本を読み上げ、途中で言い間違えるたびに、娘が嬉しそうにツッコミを入れる。
ケアマネママは、その様子を枕元で見守りながら、「ああ、予定通りじゃないのに、ちゃんと名場面になってるな」と、しみじみ感じていた。

思い通りに進まない1日は、正直、しんどい。
けれど、そんな日に限って、いつも見逃してしまいそうな家族の表情や、互いを思いやる言葉がくっきりと浮かび上がることがある。
子どもの熱、お客様からの急な相談、家事の段取り崩れ。
どれも、本音を言えば「勘弁してほしい」と思う出来事ばかりだ。
それでも、その中で誰かが誰かを気遣うひと言を掛けたり、不格好なカレーを一生懸命作ってくれたり、絵本の読み聞かせで笑い合ったりする。
そういう時間こそ、後から振り返ると、「あの日、うちの冬休みはちょっとドラマチックだったよね」と語れる、家族の名場面になるのかもしれない。

ケアマネママは、娘と赤ちゃんの寝顔を確認してから、そっとスマホのメモを開く。
今日の出来事を簡単に書き留めながら、自分自身に小さな拍手を送る。
「完璧には程遠かったけど、まあ、これはこれで合格。むしろ、予定通りにいかなかったおかげで、いいシーンをたくさん見られたし。」

こうしてまた1つ、冬休みサバイバルの日記に、「思い通りじゃなかったけれど、悪くなかった1日」が静かに書き加えられていくのだった。


第4章…「できないこと」を認めたらラクになった~冬休みを回すゆるい作戦会議~

冬休みも後半に差し掛かったある夜、ケアマネママは、キッチンの床にしゃがみこんで溜息をついていた。
洗い物はシンクに山盛り、洗濯カゴはパンパン、テーブルの上には子どもの工作と書類がミルフィーユ状態。
そこへ追い打ちをかけるように、スマホの画面には「明日、ご相談いいですか」のメッセージ。

「……これ、もしかして、私の方が支援対象では?」
自分で自分にツッコミを入れた瞬間、ふと閃いた。

「そうだ、この家にも“作戦会議”がいる。」

普段、利用者さんの家では、家族や関係者が集まって相談する場をまとめている。
ならば、自分の家でも同じことをやってみればいい。
しかも、ちょっと面白く。

その夜、ケアマネママは、こたつの上にメモ帳とカラーペンを並べた。
「はい、急遽ですが、冬休み作戦会議を開催しまーす。」
パパと娘は、ポカンとした顔でこたつに集まってくる。
赤ちゃんだけは、何も知らずにおしゃぶりをもぐもぐしている。

「まず最初の議題です。この家のママが、一人で抱えるには無理ゲーになっている件について。」
そう宣言すると、パパは「急に真面目」と笑い、娘は「あ、ゲームの話?」と目を輝かせた。
「ある意味ゲームだね。クリア条件は、ママが倒れないこと。」

そこでママは、素直に口を開いた。
「正直に言うとね、全部を完璧にやるのは無理。仕事も、家のことも、子どものことも、全部100点を目指したら、私のライフがゼロになる。」

普段なら「大丈夫、大丈夫」と強がってしまうところだ。
でも、この冬は、自分でも限界が分かるくらい、疲れが溜まっていた。
だから敢えて、ちょっと大袈裟に「出来ない宣言」をしてみたのだ。

パパは、少し黙ってから、ポツリと言った。
「そうか……オレ、けっこう自分が手伝えてる気になってたけど、まだ足りなかったか。」
その言い方が、責められていると感じていないのが分かって、ママはホッとする。
「ううん、責めたいわけじゃなくてね。皆でやらないと回らない家になってきたんだなって、やっと認めただけ。」

そこでママは、メモ帳をぐるっと回して、家族それぞれの前に置いた。
「じゃあさ、やれることと、やれそうにないことを、正直に書いてみよう大会をしよう。」

パパはペンを握り、「洗濯物を干す」「ご飯をよそう」「ゴミ出し」などを書き出していく。
途中から何故か、「子どもと本気で遊ぶ」「ママにコーヒーを出す」なんて項目も増えていき、娘はそれを見て大笑い。
「パパ、それ“係”というか“サービス”じゃない?」

娘には、子どもなりの役割を書いてもらった。
「玩具を片付ける」「テーブルを拭く」「パパとママをくすぐる」
最後の一行に、ママは吹き出してしまう。
「それ、一番大事かもしれない。」

一通り書き終えたところで、ママは敢えて、自分の欄をスカスカにしてみせた。
「ママはね、料理と、全体の段取りを考えるのは得意。でも、この冬は“毎日手作りで豪華なおかず”は無理。時々お惣菜に頼るし、洗濯物が1日たまる日もあると思う。」

その言葉を口にした瞬間、少し肩の力が抜けた。
今まで、自分で勝手に「ちゃんとしたママ像」を作って、その枠からはみ出さないように気を張っていたのかもしれない。
「出来ない」と認めるのは負けじゃなくて、「助けて」が言えるスタートラインだったのだと、ようやく分かってきた。

パパは、その様子を見てうなずいた。
「じゃあ、オレも冬休み限定で、“夜のお皿洗い隊長”やるわ。あと、“子どものお風呂コーチ”も引き受ける。」
娘はすかさず、両手を挙げて発言する。
「わたし、“タオル運び名人”やる! あと、“ママをギューッてする係”!」
赤ちゃんは意味が分からないまま、ニコニコと笑っている。
その笑顔を見て、ママの胸の奥のモヤモヤが、少しずつ溶けていくのが分かった。

そしてもう1つ、この作戦会議で決めた、大事なルールがある。
それは、「やらないことリスト」を作ることだった。
毎年、何となく続けていたけれど、実は誰もそこまで望んでいなかった習慣。
例えば、完璧なおせちを全部手作りすることや、年末の大掃除で家中をピカピカにすること。
「それ、今年は辞めても良いよね?」
勇気を出してそう言うと、パパはあっさりと答えた。
「いいよ、むしろ辞めよう。大掃除は、春でも夏でもできるし。」
娘も、「おせちより、ママのカレーの方が好き」とニッコリ。

「やらない」と決めた瞬間、時間と気力がフワッと浮いたような感覚があった。
その分を、「ゆっくりお茶を飲む時間」と「家族でダラダラする時間」に回してもいい。
それは決して、手抜きではなくて、「この家が長く元気でいるための投資」だと、ケアマネママは自分に言い聞かせた。

ふと、仕事で訪問しているお宅のことが頭をよぎる。
「一人で抱え込み過ぎないでくださいね」
いつもそう伝えている自分が、一番抱え込み体質だったのかもしれない。
「利用者さんには優しく言えるのに、自分には厳し過ぎたなあ。」
こたつの中で足を伸ばしながら、ママは少し照れくさそうに笑った。

作戦会議が終わる頃には、メモ帳は家族それぞれの字でいっぱいになっていた。
仕事の書類とは違う、少し曲がった文字や、子どもらしい丸文字。
その全部が、この家の「冬休みプラン」を支える小さな約束のように見えた。

「よし、これで今年の冬休みは、“頑張り過ぎない家族”としてスタートしよう。」
ママがそう宣言すると、娘が突然立ち上がって、両手を上げた。
「はい!最後に、“ママが一人で抱え込まないようにする宣言”をお願いします!」
まさかの締めのフリに、ママは思わず吹き出してしまう。

「えー……本日はお集まりいただき、ありがとうございます。わたくし、この冬休み中、“一人で何とかしようとする癖”を出来る限り封印し、困ったらすぐに“ちょっと助けて”と言うことを、ここに誓います。」

パパと娘から、大きな拍手が起こる。
赤ちゃんも、つられてパチパチと手を叩いた。
その音を聞きながら、ケアマネママは思う。

「できない」と認めることは、この家の弱点を見せることではなくて、「みんなで支え合うチャンネル」に切り替えるための合図だったのかもしれない。

冬休みという長いマラソンを、最後まで笑って走り切るために必要なのは、完璧な段取りではなく、「無理です」と言える勇気と、「いいよ、じゃあ一緒にやろう」と返してくれる人の存在。

その両方が、この家にはちゃんと揃っている。
そう気づいた時、冬休みのカレンダーのマス目は、ただのタスク表ではなく、家族みんなで分け合って塗っていく、小さな物語の枠のように見えてきたのだった。

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まとめ…全部完璧じゃなくていい~冬が終わったらそれだけで合格点~

冬休みが始まる前、ケアマネママの頭の中には、きちんと並んだ理想のカレンダーがありました。
午前はケアマネ、午後はママ、夜は家族の時間。
実家と義実家もバランスよく回って、子どもの思い出もたっぷり作って、利用者さんの体調もきめ細かくフォローして――そんな「ドラマの主人公」みたいな冬を、どこかで夢見ていたのかもしれません。

でも、現実は、だいたいその逆を行きます。
保育園児の突然の発熱、小児科の待ち時間、利用者さんからの急な相談、実家の親の些細な変化、義実家での気遣い。
朝決めた予定は、お昼を迎える頃にはすっかり別物になっていて、晩ご飯のメニューも「冷蔵庫の中身と相談した結果」に変わっている。
それでも不思議なことに、そんな日々の方が、後から振り返ると、家族の名場面でいっぱいになっていたりします。

午前中は利用者さんの暮らしを支えるケアマネとして走り回り、午後は「ただいま」と玄関を開けた瞬間に、ママとしての役割に切り替わる。
その途中で、左右ちがう靴下に気づいてひとりで笑ったり、実家の台所で母の手元を見ながら「少し疲れてきたのかな」と胸がキュッとなったり、義実家の漬物作りを手伝いながら、「嫁」と「専門職」のバランスに悩んだりする。

どの場面にも、正解マニュアルはありません。
「こうすれば100点」という答えは、きっとどこにもないのだと思います。
その代わりにあるのは、その日その場で、「いちばんマシな選択」を重ねていくこと。
完璧な段取りよりも、「今はこっちを優先しよう」と決めた自分を、あとで責めすぎないこと。

そして何より大切なのは、「できないこと」をきちんと言葉にして、家族と分け合う勇気を持つことかもしれません。
「これは無理」「ここは手伝ってほしい」と打ち明けた瞬間、かたい冬空みたいだった家の空気が、ふっと温かくなることがあります。
パパがエプロンをつけてカレーを作り、子どもがタオル運び名人になり、赤ちゃんがわけも分からず拍手をしてくれる。
その光景は、どんな高価なご馳走にも負けない、冬のご褒美です。

ケアマネとしての視点を持つ人ほど、家族のことも「ちゃんとしなきゃ」と思いがちです。
利用者さんには「一人で抱え込まないでくださいね」と伝えながら、自分の家ではつい、一人で抱え込んでしまう。
そんな矛盾に気づいて、こたつの上で「冬休み作戦会議」を開いたケアマネママは、ようやく、「この家は、皆で回すチームなんだ」と認めることが出来ました。

冬の間、全ての予定をこなしきれなくても大丈夫。
おせちが少し簡略版になっても、大掃除が春にずれこんでも、2日連続でカレーが続いても、それで家族が笑っていられるなら、それで十分です。
大切なのは、「誰かひとりが燃え尽きないこと」と、「しんどいね」と言い合える相手がそばにいること。

もし、この記事を読んでいるあなたが、仕事と家庭のあいだで毎日綱渡りをしていると感じているなら、どうか、今年の冬だけでも、自分にやさしい合格ラインを引いてあげてください。
「今日もなんとか生き抜いた」「家族で笑える時間がひとつでもあった」
それだけで、冬休みマラソンは立派に完走です。

ケアマネママの冬休みサバイバル日記は、特別な物語ではありません。
どこにでもいる家族の、どこにでもある1日が少しだけドラマチックに見える瞬間を、そっとすくい上げて繋いだだけのお話です。

だからこそ、この冬を乗り切ろうとしているあなたの毎日にも、きっと同じように、小さな名場面がいくつも隠れています。
寒い朝、あったかいマフラーを巻きながら家を飛び出す時、ほんの少しだけこの物語を思い出して、
「全部完璧じゃなくていい。冬が終わったら、それだけで合格。」

そう呟いて、胸の中で自分に〇をつけてあげてください。
それくらい図々しくても、きっと冬は、何も怒らずに通り過ぎていってくれます。

今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m


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