高齢期のインフルエンザ予防接種をどう考える?~介護の現場から見た受けた方が良い理由~
目次
はじめに…冬になると気になるあの感染症に介護があるご家庭ほど早めに構えておきたい話
冬が近づくと、テレビや自治体の広報でも「予防接種を受けましょう」という呼びかけが増えてきますよね。とくに65歳以上の方は自治体の補助があるので、自己負担がグッと軽くなり、「このタイミングで受けておこうかな」と思いやすい季節です。施設に入っている方や、通所サービスを利用している方なら、職員さんから「〇月中に受けられそうですか?」と声をかけられた経験もあると思います。
では、どうしてそこまで気にかけるのか。体が弱ってきた時期のインフルエンザは、ただの「数日つらい風邪」で終わらないことがあるからです。熱が高くなると水分が減ってしまい、持病が悪化したり、普段は大丈夫だった家の中の移動が急に危なくなったりすることがあります。さらに介護サービスを使っている方の場合、「発症中は来てもらえない」「デイに行けない」ということが起きやすく、生活のリズムそのものが崩れてしまいます。ここが、高齢期ならではの厄介なところです。
私が介護支援専門員として訪問していた頃も、10月~12月は利用者さんごとに「もう受けたかどうか」を一人ずつ確認していました。これは無理に勧めるためではなく、「後で困らないように前もって整えておく」ための確認でした。予防接種をすることで、インフルエンザそのものを100%防げるわけではありませんが、重くならずに済む可能性が高まり、結果としてご本人も家族も、施設や事業所の職員も、後からバタバタしにくくなります。つまり「転ばぬ先の杖」としての意味がとても大きいのです。
この記事では、実際の介護の現場で感じた「受けておくと後が楽になる理由」を中心にお話ししていきます。強く元気な時ほど軽く考えがちなテーマですが、「もし今かかったら、この家は誰が動けるかな?」と少し想像してもらえると、予防接種をどう位置づけるかが見えてきます。
[広告]第1章…「今年もうった?」と聞かれる理由――施設でも在宅でも接種状況を確認するワケ
介護の仕事をしていると、秋が深まる頃からある決まった会話が増えてきます。職員どうしでも、ご家族にも、そしてご本人にも。「今年、もう受けられましたか?」というあの一言です。ちょっとしつこく感じるくらいに聞かれるのは、単に予防を勧めたいだけではなく、その方が普段使っている介護サービスを止めずに冬を越してもらいたい、という事情があるからです。
私が介護支援専門員としてご自宅を回っていた頃は、10月~12月はいつも手元にメモを持っていました。1人1人の利用者さんの名前の横に、受けた・予約した・まだ、という印を付けていくんです。何故そんなに細かく見るのかというと、もしその方がインフルエンザにかかってしまうと、通所系のサービスや訪問サービスの運営そのものが一端中止になることが多いからです。感染を広げないためのルールなので仕方がないのですが、利用する側からすると「今日も来てもらえるはずだったのに来ない」「デイに行けないからお風呂もない」という状態になってしまいます。これが一人暮らしの方や、日中に家族が不在のご家庭だと、途端に生活が不安定になります。
施設の場合も考え方は似ています。入居している方全員が揃って体調を崩すことは避けたいので、秋~初冬にかけて一斉に予防接種の案内をします。ここで受けてもらえると、もし外部からウイルスが持ち込まれても、重くならずに乗り切れる可能性が高まります。施設は高齢の方が集まって暮らしているので、一人だけ重症化してしまうと、職員の配置も看護の目もそこに集中してしまいます。そうなる前に「打っておきましょうね」と声を掛けるわけです。
在宅の方の場合は、さらに別の事情もあります。インフルエンザでサービスが止まると、ヘルパーさんが家事をしてくれない、配食サービスを受けたくても一時的に変更になる、通所リハでリハビリを受けられない、などの小さな困りごとが一気に押し寄せます。これまで「週に〇回、来てもらえるから大丈夫」と成り立っていた生活リズムが、病気1つで崩れてしまうのです。介護支援専門員が「今年どうされます?」と何度も確認するのは、この崩れをなるべく起こさせないための事前準備というわけです。
もちろん、予防接種を受けるかどうかは本来ご本人とご家族の判断です。体質的に心配がある方もいますし、その年の体調次第ということもあります。ただ、介護が必要な段階にある方の場合、「罹ったらどうしよう」よりも「罹っても済むようにしておこう」の方が後から楽になります。サービスを使って暮らしている方ほど、生活が止まらないことが大事だからです。
こうしてみると、秋にあちこちから届く「予防接種どうですか?」という声は、単なるお知らせではなく、その人の冬の生活を守るための確認作業なんだと分かっていただけると思います。受けてしまえば数分で終わる話ですが、受けずにかかった場合は、ご本人・家族・事業所・医療機関と、じつに多くの人が動くことになります。だからこそ、少し早めに聞かれるのです。
第2章…完全には防げなくても意味がある~重症化を抑えて療養期間を短くするという考え方~
「予防接種をしていたのに、罹ったよ?」という声は、毎年どこかで聞こえてきます。確かに、インフルエンザのワクチンは「絶対にかからないお守り」ではありません。ウイルスの型が毎年少しずつ変わることもありますし、体力や持病の状態によって、体の中で作られる防御力に差が出ることもあります。ですから、接種をしても発症することはあります。ここまでは正直に押さえておきたいところです。
それでも高齢の方に接種を勧める理由は、もう1段階先にあるからです。すなわち「罹ってしまった時に重くならないようにする」「治るまでの道程を短くする」ことが期待出来るからです。年齢を重ねると、熱が出たり食欲が落ちたりした時の回復が若い人よりゆっくりになります。若い頃なら2~3日で元に戻れたところが、70代、80代では1週間、10日と長引くこともあります。その間に体力が落ちてしまうと、せっかく続けていたリハビリに戻れなくなったり、ベッドで過ごす時間が増えて足腰が弱ったりと、別の困りごとがくっついてくるのです。
施設でも、こうした「二次的な弱り」を防ぐために毎年ご案内をしています。もし施設内でインフルエンザが数人に広がったとしても、事前に接種している方が多ければ、昼夜つきっきりで看護しなければならないほどの重症者が出にくくなります。結果として、隔離や消毒といった対応期間も短く済み、他の入居者さんの暮らしも大きく乱さずに済みます。「全員打っているのに出たから意味がない」ではなく、「全員打っていたからこそ、この程度で収まった」と見るのが現場の感覚に近いと思います。
在宅の方にとっても、この「長引かせない」という点はとても重要です。高熱が続くと、水分が摂れずに脱水気味になり、元々持っている心臓や脳の病気に負担が掛かることがあります。高齢期の身体は、体調を崩した直後よりも、そのあと数日してからガクンと弱ることがあり、ここで転倒したり、食べられなくなったりしやすいのです。予防接種には、こうした「後からくる波」を小さくする役割があり、これがあるかないかで冬の過ごしやすさがかなり変わります。
もう1つ、介護サービスとの相性の良さもあります。デイサービスやショートステイなどは、どうしても大勢が集まる場になるので、ひとたび体調不良が出ると利用を控えてもらうことになります。ところが接種をしておくと、感染しても回復が早く、サービスの再開までの期間を短く出来ることが多いのです。利用者さんだけでなく、ご家族の予定やお仕事のシフトも元に戻しやすくなるので、家族介護にとってはとてもありがたい効果といえます。
つまり、インフルエンザの予防接種は「罹るか、罹らないか」だけで評価すると「イマイチ」と感じる年もありますが、「罹った時にどれだけ軽く済ませるか」「周囲をどれだけ慌てさせずに済むか」という目線で見ると、やはり受けておいた方が冬が楽になります。高齢の方に勧められることが多いのは、こうした小さな利点を積み重ねて、生活全体の安定を守るためなのです。
第3章…接種していないと生活サービスが止まりやすい~一人暮らし・介護力が少ない世帯のリスク~
ここからは「受けないと何が起きるのか」を、もう少し生活の場面に近づけてお話しします。介護が必要な方がインフルエンザを発症すると、多くのサービス事業所はまず安全を優先して、一端利用を止めるか、短時間の対応に切り替えます。これは決して冷たいわけではなく、他の利用者さんや職員にうつさないための基本的な対応です。ところがこの基本対応が、その方の暮らしにとってはかなり大きな負担になることがあります。
例えば、週に〇回ヘルパーさんが入って掃除・買い物・配下膳をしていたお宅。インフルエンザが出た途端に「今日は伺えません」「症状が治まってから再開しましょう」となると、食事をどうするか、洗い物はどうするか、薬は取りに行けるのか、といった細かな課題が一気に表面化します。普段は気づかないだけで「誰かが少しずつ助けているから成り立っている暮らし」だった、ということがここで露わになるのです。家族が同居していても、日中は仕事で不在なら同じです。夕方に帰宅した時点で高齢の親がぐったりしていると、そこからのケアは家族だけで担わなければなりません。
通所系のサービスでも同じようなことが起きます。デイサービスに行くことで入浴・リハビリ・食事・見守りを一度に済ませていた方が、感染症のために数日通えなくなると、自宅でお風呂をどうするのか、体を動かす機会をどう確保するのか、孤独にならないよう誰が見に行くのか、といった調整が必要になります。高齢になると数日動かなかっただけで筋力が落ちますから、「たった3日行けなかっただけなのに、次に来た時に歩き方が違う」ということもあります。これを防ぐには、そもそも休まなくて済むようにしておくのが一番早いのです。
私自身、介護支援専門員として訪問していたときには、インフルエンザが出たお宅に短時間で何度も様子を見に行ったことがあります。事業所のスタッフは次々と別のお宅にも回らないといけないので長居ができません。「食べられそうなものはあるか」「水分は摂れているか」「熱が上がっていないか」をサッと確認し、場合によっては家の中にある食材でお粥を作ったり、主治医の往診をお願いしたり、とにかく生活が中断しないように手を打ちます。本来ならここまで手を回さなくても、予防接種をしておいて軽く済めば、事業所の通常サービスに戻るまでの期間を短くできたはず…と感じる場面も少なくありませんでした。
怖いのは、インフルエンザそのものよりも、その後の「弱り」や「転倒」に繋がることです。熱が下がっても数日は体が怠く、水を飲む量も減りがちです。そこに買い物中止や通所中止が重なると、家の中で一人でいる時間が増え、ふらついた拍子に倒れてしまうことがあります。こうなると、発症した日の何倍もの手間と心配が必要になります。予防接種を受けておくと、この悪循環に入り込み難くなるので、在宅で暮らす高齢の方にはとても相性が良いと言えるのです。
つまり、予防接種をするかどうかは「打つのが好きか嫌いか」ではなく、「自分の暮らしは何で支えられているか」を見て決めるのが安心です。訪問・通所・家族の手助けなど、いくつかの支えを組み合わせて生きている場合、インフルエンザで1つでも止まると負担が跳ね上がります。そうならないように前もって力をつけておく――それが冬場のワクチンの一番実用的な意味だと、現場では感じています。
第4章…持病や副反応が心配な時の作戦会議~時期・体調・主治医との相談で安全性を高める~
ここまで読んでくださった方の中には「確かに受けた方が冬は楽そうだけど、うちは持病があって心配なんだよね」「前に腕が腫れたから、もう打たなくていいかなと思っていて…」というお宅もあると思います。高齢になるほど、血圧・心臓・呼吸器・糖尿病・腎臓など、体のどこかに日々のコントロールが必要なところが出てきますから、「全員が同じ時期に同じように打てばいい」とは言い切れません。ここでは、そんな時にどう考えると安全に近づくかを整理しておきます。
まず意識しておきたいのは、予防接種は「体調が一番落ち着いている時」に受けるのが基本だということです。いつもより浮腫みが強い日や、風邪気味で食欲が落ちている日、前日に転倒して打撲がある日などは、無理にその日に受ける必要はありません。自治体の助成期間はある程度幅がありますから、数日~1週間ほど体調を整えてから受けても十分間に合います。介護支援専門員や家族がスケジュールを見ながら「今週はデイも少なめだから、この日に病院に行こう」と組み立てると、無理がありません。
持病がある場合は、主治医とのひとこと相談がとても助けになります。「去年は腫れたけれど、今年も受けた方がいいですか」「心不全があるけれど、量はどうなっていますか」などと聞いておくと、その方の心臓や腎臓の状態を知っている先生から、その年の体調に合わせた答えが返ってきます。施設に入っている方なら看護師さんが代わりに確認してくれる場合もありますし、在宅の方でも訪問看護が入っているならタイミングの相談に乗ってもらえます。つまり「いつもの状態を知っている人」に一度通しておくのが安心への近道なのです。
それでも不安が残る場合は、予防接種そのものを辞めるのではなく、「感染をもらわない工夫」を厚くする方向に切り替えることもできます。冬の人混みを避けること、家に入る前の手洗いとうがいを徹底すること、同居家族が体調を崩したら距離をとること、訪問サービスの職員にも早めに体調を知らせておくこと…。こうした小さな対策を組み合わせると、予防接種をした場合ほどではなくても、感染する確率や重くなる可能性を下げることが出来ます。実際、持病が強くてあえて接種しなかった方でも、家族や事業所と連携をとって冬を乗り切っていたケースはたくさんあります。
もう1つ覚えておきたいのは、「受けない」と決めた年でも、その情報を介護側に共有しておくと対応がグッとしやすくなるという点です。ケアマネジャーやデイサービスは、冬になると利用者さん全体の状況を見ながらサービスの調整をしています。「〇〇さんは今年は見送り」「△△さんは主治医のOKが出たら受ける予定」ということが分かっていれば、職員もマスク・換気・送迎時間の工夫などをきめ細かく組み立てられます。逆に、知らないまま発症してしまうと、前の章でお話ししたようにサービス中止が続いて生活が大きく揺れてしまいます。ここは、少しだけ先に伝えておくことがご本人を守ることにつながります。
つまり、持病や副反応が心配だからといって「もううちは関係ない」と切り離してしまう必要はありません。体調の良い日を選ぶ、主治医や看護師に一言添える、どうしても見送るなら周囲と情報を共有する――この3つを押さえておくと、予防接種をする場合もしない場合も、冬の支援体制を崩さずに済みます。年を重ねるほど「倒れてから考える」より「倒れないように段取りする」ほうが、体にも家族にもやさしいですよ。
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ここまで、高齢期のインフルエンザ予防接種を「病気を防ぐためだけのもの」ではなく、「冬の生活を止めないための準備」としてお話ししてきました。若い頃なら熱が出ても2~3日で終わったことが、60代・70代・80代になると、思った以上に長引きます。熱で水分が減る、食べる量が落ちる、動かない日が続く――この3つが重なると、体力がガクンと下がり、せっかく続けていたリハビリやデイ通いに戻るのが大変になります。予防接種には、こうした「後からの弱り」を小さくしてくれる期待があるので、介護が始まっている方ほど勧められる場面が多いのです。
また、介護サービスを利用している方の場合は、発症するとどうしても訪問や通所が中断しやすくなります。これはその人だけでなく、同じサービスを使っている周囲の人を守るための大事なルールです。でも、ご本人やご家族からすると「今日も来てくれるはずだったのに」の連続になってしまいます。事業所やケアマネジャーが秋から何度も「今年どうされます?」と聞くのは、この中断をなるべく起こさずに冬を越して欲しいからです。少し早めに腕をまくっておくだけで、冬の訪問・入浴・送迎がいつも通り回りやすくなります。
もちろん、持病があったり、過去に腫れたりして心配な方もいます。そういう時は無理をせず、体調が整った日を選んだり、主治医にひと声かけたり、今年は見送ることを介護側に共有したりすれば、グッと安全に近づきます。大事なのは「打つか、打たないか」よりも、「冬に体調を崩した時、この家は誰がどこまで動けるか」を先に見ておくことです。選び方さえ丁寧にすれば、予防接種は高齢の方の暮らしを守るための、心強い味方になってくれます。
今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m
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