12月8日は何をする日?事八日・事始め・事納めと針供養のすべて
目次
はじめに…12月の小さな節目を思い出してみる
12月に入ると、どうしても25日や31日のような大きな日に目が向きますよね。けれど昔の人は、そうした大きな日だけでなく「8日」という区切りにもちゃんと意味を持たせて暮らしていました。とくに12月8日は「事八日(ことようか)」といって、1年の仕事をいったん締めるとか、この日だけは無理をしないでおくとか、そんな静かな決まりごとが伝えられてきた日です。
面白いのは、この日を「事納め」と呼ぶ地域もあれば、まったく同じ日を「事始め」と呼ぶ地域もあることです。終わりと始まりが同じ日に並んでいるなんて、ちょっと不思議ですよね。でもそこの理由には、農作業を中心に考えるか、お正月の支度を中心に考えるかという、暮らし方の違いがちゃんとあるのです。
また、同じく12月8日や2月8日には「針供養」をするところもあって、働いてくれた道具に「ありがとう」を伝える日にもなりました。忙しくなる年末だからこそ、ひと息ついて、身の回りを整えてから次の段階に進む。そんな日本らしいリズムが、この日に重なっているのですね。
この記事では、何故、12月8日が特別視されるのか、どうして地域によって呼び方が逆になるのか、そしてどんな風に過ごすと今の生活にも取り入れやすいのかを、ゆっくりお話ししていきます。最後には「おこと汁」と呼ばれる素朴で温かな料理にも触れますので、年末の1日を味わいたい時の参考にしてください。
[広告]第1章…12月8日は事八日~事始めと事納めが同じ日に並ぶ理由~
12月8日は「事八日(ことようか)」と呼ばれ、昔の暮らしではひと区切りをつける合図でした。面白いのは、この日を「事納め」と言う地域と、「事始め」と言う地域があること。終わりと始まりが、どうして同じ日に並ぶのでしょうか。その背景には、暮らしを何を軸に捉えるかという視点の違いがあります。
農の暦でとらえると「事納め」
田畑の仕事を中心に考える地域では、12月8日は年内の作業を締める目安でした。収穫や片付けを前日までに終え、この日は「物忌み」として無理をせず身を慎む。畑仕事だけでなく、針仕事も控えるのが礼儀とされ、道具を休ませる静かな1日です。寒さが深まり、年の瀬の忙しさが迫る前に体と心を整える――そんな意味合いがありました。
正月支度でとらえると「事始め」
一方、お正月の準備を暮らしの中心に据える地域では、12月8日を「事始め」と見なします。歳神様を迎えるための計画を立て、道具の手入れをし、家の中を整える段取りを組み始める。12月は行事が続きますから、早めにスイッチを入れて、ゆとりを持って進めるための“スタート”の日でもあったのです。
対になるもう1つの事八日~2月8日~
12月8日と表裏の関係にあるのが、2月8日。同じ「事八日」でも、こちらは呼び名が入れ替わることがあります。農作業を軸にすれば、春に向けての準備が動き出すので2月8日が「事始め」。お正月行事の片付けを軸にすれば、2月8日が「事納め」となります。季節の移ろいに合わせて、暮らしの節目を前後に配したわけです。
地域差の目安
大まかに言うと、西日本では「12月8日=事納め・2月8日=事始め」とする考え方が広く、関東の一部ではその逆の呼び方が根付きました。中部では両方を「事八日」として意識する土地もあります。どれが正しいというより、何を暮らしの中心に置くかで名前が変わる――その柔らかさこそが、この日の魅力と言えるでしょう。
このように、12月8日は「締めくくり」と「始まり」が同居する不思議な日。無理をせず休むこと、そして次の段取りを静かに整えること。その両方を緩やかに抱えた節目なのです。
第2章…針にお疲れ様を伝える日~関東と関西で違う針供養~
事八日といえば、もう1つ忘れてはいけないのが「針供養」です。
1年間の間に折れたり曲がったりした針、だんだん切れ味が落ちてきた針を、そのまま捨てるのではなく「ここまで働いてくれてありがとう」と労ってあげる行事です。裁縫が暮らしの中で大事な仕事だった時代には、道具にも心を配ることが、家事上手・仕事上手の証とされました。
面白いことに、この針供養も日付が2つ伝わっています。関西では12月8日に行われることが多く、関東では2月8日に行うところが目立ちます。これは第1章で触れた「12月を始まりと見るか、納めと見るか」という考え方の違いが、そのまま行事の日取りに表れたものだと考えると分かりやすいですね。
やり方の基本は針を柔らかい物に刺して休ませる
針供養の中心になる作法はとても素朴です。こんにゃくや豆腐のような柔らかい物を用意して、もう使わない針をそこにそっと刺します。固い布を何度も縫ってきた針に、最後くらいはやさしい寝床を用意してあげる、という考えです。寺社ではこうして集めた針を納め、裁縫の上達や家内安全を祈ります。
この「やわらかいものに刺す」という所作は、道具を物扱いせず、長く使った相手に礼を尽くすという日本的な感覚が表れていて、とても美しいところです。忙しい現代でも、この部分だけなら気軽に真似できますね。
なぜ事八日と繋がるのか
事八日は「この日は無理をせず慎む」と伝えられてきた日です。だからこそ、普段の仕事を休んで、仕事道具のお世話をするのにピッタリでした。
12月8日に行う地域では「今年もよく縫ったね、ここで一端終わりにしよう」という気持ちが込められ、2月8日に行う地域では「新しい年も怪我なく上手くいきますように」と始まりの祈りが込められます。日付は違っても、道具を大切にして次の季節に繋げるという芯の部分は同じです。
現代の暮らしに置き替えるなら
今は毎日針を使う人の方が少ないかもしれません。ですが考え方だけ借りることは出来ます。例えば、ほつれを直すときに使った針を丁寧にしまう、ミシンの針を交換する日を12月8日に決めておく、手芸が好きならその日だけは机を片付けて道具を並べる。そんな小さなことでも「整えてから年を越す」という昔ながらの流れにスッと乗ることが出来ます。
この章で覚えておきたいのは、事八日=何もしない日ではなく、「本番前に道具と自分を休ませる日」ということです。年末に向けてギアを上げる前に、一度柔らかいところに心を降ろす──それが針供養に繋がる考え方なのです。
第3章…事八日の味はおこと汁~冬野菜で体を整える行事食~
12月8日や2月8日を事八日として迎える地域では、この日を特別な日として覚えやすくするために、温かい汁物を用意するところがありました。それが「おこと汁」と呼ばれるものです。名前の由来はそのまま、「事(こと)の日にいただく汁」。とても素朴ですが、まさに暮らしの行事らしい名付けですよね。
おこと汁は、冬に手に入りやすい根菜を中心に、6種類前後の具をたっぷり入れて煮込みます。大根、にんじん、ごぼう、里芋、こんにゃく、小豆……この辺りがよく登場します。地方によってはここに豆腐を加えたり、わかめを少し入れて香りを添えたり、白みそ仕立てにしてやわらかな色にまとめたりと、細かな違いが見られます。どれも「ある物をきちんと使って身体を整える」という日本の冬らしい考え方が土台にあります。
なぜ具材が多いのか~年末に向けて体を整える意味~
事八日は「この日から年末の支度を頑張るよ」という合図にもなる日です。寒くなるとどうしても食事が偏りやすく、台所に立つのも億劫になりますよね。そこで、この日だけは野菜をしっかり取っておこう、豆類も少し入れておこう、と考えた先人たちの知恵が、この具だくさんスタイルになったと考えられます。味噌で仕立てるのも、体温を上げてくれる発酵食を美味しく摂るためです。
また、6種類ほどの具を入れることで「六つそろって円満に」というような、縁起の良い意味を重ねて説明する土地もあります。必ずしも決まった具でなければいけないわけではありませんが、「数を揃えて作るとそれらしくなる」と覚えておくと、家庭でも真似しやすくなります。
行事の雰囲気を今に残すアレンジ
現代の台所では、昔ながらの里芋や小豆を毎回揃えるのはちょっと大変かもしれません。そんな時は、冷蔵庫にある根菜を中心にして「今日は事八日だから具を多めにしよう」と考えるだけでも雰囲気が出ます。じゃがいもや玉ねぎを使っても構いませんし、こんにゃくの代わりに厚揚げを入れても、おこと汁っぽい“ごちそう感”は出せます。出汁がしっかりしていれば、味噌は赤でも白でも合わせでも問題ありません。
そしてもう1つ大事なのは、慌ただしく食べないことです。事八日はもともと「無理をしない日」。せっかく具だくさんの汁物を作ったなら、温かいうちにゆっくり味わって、身体を落ち着かせてから次の支度に進むと、この行事本来のリズムに近付きます。
お正月ばかりが目立つ12月ですが、その前にささやかな1日を用意しておくと、年末の忙しさに飲み込まれにくくなります。おこと汁は、そのための合図のような料理なのだと思っていただければ十分です。
第4章…現代の事八日の過ごし方~年末支度・手帳準備・道具のメンテの日にする~
昔の人にとって12月8日は「この日は少し手を止めて、これからの準備に向き合う日」でした。
農作業が中心ではない私たちの暮らしでも、この考え方はとても応用しやすいです。年末はどうしても、仕事・家事・行事が一気にやって来ます。だからこそ、忙しさが本格化する前に1日だけ緩める日を決めておくと、12月後半がだいぶ楽になります。
現代版に置きかえると、事八日は「年末のスタートボタンを押す日」「来年の段取りを整える日」として使うのが良さそうです。
年末タスクの棚卸しをする
この日に全部やるのではなく、「何をやるか」を書き出すだけで十分です。
大掃除をどの部屋から始めるか、年賀状や年末の挨拶をどうするか、お正月に必要なものをどのタイミングで買うか……こうしたことを12月8日に一度書き出しておけば、後は空いた時間に分割して進められます。昔の人が「無理をするな」と言ったのは、まとめてやると大変だからでもあります。
手帳・カレンダーを更新する
事八日は元々「ここから先の段取りを始める」意味がありました。そこで、来年のカレンダーを掛け替えたり、新しい手帳を卸したりする日としてしまうのも良い方法です。
12月の後半はバタバタして落ち着いて書けませんから、少し早めに予定の大枠だけでも書き込んでおくと、年明けの自分が楽になります。2月8日も事八日ですから、この日に見直す習慣をセットにしておくと、年の前半・後半でリズムが整います。
道具と持ち物を休ませる
針供養の考え方を真似て、この日は「よく働いたものを労う日」にしてみましょう。
裁縫をする人ならミシンや針を、パソコンをよく使う人ならキーボードの掃除を、料理が好きな人なら包丁を研ぐことを、この日にまとめて行うのです。1年間頑張ってくれたアイテムに感謝して手入れをすると、不思議と気持ちまで整って「さあ年末を迎えよう」という前向きな感覚が生まれます。
1日だけ“無理をしない”と決める
事八日の根っこには「物忌み」、つまりあえて行動を控えて心身を落ち着けるという考えがあります。
現代でも、12月8日だけは残業をやめて早く帰る、夜更かしはしない、重い買い物は別の日に回す、と決めてしまうと、その後に待っている年末行事に綺麗にバトンを渡せます。忙しさに呑まれないための“安全装置”として、この日を置いておくイメージです。
こうしてみると、事八日は昔ながらの行事でありながら、今の生活リズムにもスッとはまる要素ばかりです。12月8日と2月8日という、わずか2日を丁寧に扱うだけで、季節の切り替えがやさしくなります。
[広告]まとめ…12月8日と2月8日が作る始まりと終わりの緩やかな帯
12月8日の事八日は、ただの昔話ではなく、年の終わりと始まりを丁寧に繋ぐための知恵が詰まった日でしたね。農作業を基準にすればこの日で一端、手を止める「事納め」になり、正月支度を基準にすればここから始める「事始め」になります。同じ日なのに呼び名が逆転するのは、暮らしの中心に置くものが地域で違っていたからでした。
また、この日に針供養を行った地域があったことからも分かるように、事八日は「よく働いたものに感謝する日」「これからも無事に働けますようにと願う日」という静かな意味も持っていました。忙しさに走り出す前に、あえて1日だけ緩める。道具を労い、心をまっすぐにしてから年末年始に向かう。そういう日本らしいリズムが見えてきます。
さらに、具だくさんのおこと汁で体を温める習わしは、年の変わり目を元気に乗り切るための実用的な工夫でした。大根やにんじんといった身近な食材で作れるので、今の家庭でも取り入れやすいですし、「今日は事八日だからちょっと特別にしよう」と決めるだけで、12月が少し楽しくなります。
今の暮らしに当てはめるなら、12月8日は年末タスクを書き出す日、カレンダーや手帳を整える日、よく使う道具をメンテナンスする日にしてしまうとちょうど良くはまります。2月8日も合わせて覚えておけば、年末から年明け、そして春先へと気持ちをなだらかに移していけます。
大きな行事の日だけでなく、こうした小さな節目を自分の中に1つ置いておくと、1年のリズムが整い、年の越し方にも余裕が生まれます。12月8日を、来年を迎えるための“やさしいスタートライン”として、これからも思い出してあげてください。
今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m
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