10月20日は恵比寿講の日~恵比寿天に感謝する準備と心得~
目次
はじめに…神在月と神無月~出雲に集う神々と、町を守る恵比寿天~
10月になると、日本のあちこちでは「神無月」と呼ばれます。出雲では逆に「神在月」。全国の神さまが出雲へ集まり、私たちの来年のご縁や実りについて相談すると伝えられてきました。となると、各地の町や台所や店先はどうなるのか……そこを静かに見守ってくれるのが、恵比寿天。にっこりと笑って釣り竿をかかえ、左手にめでたい鯛。留守番役といっても、ただ座っているわけではありません。家の玄関に入る風や、おだしの湯気、店ののれんの揺れ方まで、全部を福の方向にそっと整えてくれる、頼もしい存在です。
恵比寿講は、そんな恵比寿天に「いつもありがとう」と伝える秋の行事。とりわけ10月20日には、地域ごとに小さな支度をして、季節の恵みをお供えし、家族や仲間と笑顔を交わします。難しい作法は要りません。綺麗に拭いた食卓に柿や栗を一皿、湯のみを一杯、できれば鯛を一尾。もし鯛が手に入らなければ、焼き魚でも煮物でもかまいません。「今日は恵比寿様の席を作ったよ」と声に出して、皆で箸を伸ばす。それだけで、部屋の空気がフッと明るくなります。
出雲で神さまの会議が開かれている間、私たちの暮らしはいつも通り進みます。だからこそ、足元にある小さな“めでたい”を拾い上げたいものです。朝のゴミ出しが一度で済んだ、落としたイヤリングがすぐ見つかった、レジでちょうどのお釣りになった――そんな日常の端っこに、恵比寿天の笑顔を見つけたら、心の中で軽く会釈してみてください。肩の力がぬけて、今日の一歩が少し弾みます。
この秋は、出雲に想いをはせつつ、目の前の暮らしに「恵比寿席」を。準備はシンプル、気持ちは賑やかに。次の章からは、恵比寿天という神様の素顔、恵比寿講の楽しみ方、そして縁起物の意味を、やさしく辿っていきます。
[広告]第1章…海から来た福の象徴~鯛?それとも鯨?恵比寿像のウラ話~
恵比寿天といえば、右手に釣り竿、左手に立派な鯛。まずはこのスタイルから。海風が似合う姿なのは、恵比寿さまが“海の恵”と縁が深いからです。港町の市場がにぎわう朝、氷の煌きと一緒に「めでたい」が並ぶ――そんな光景そのものが、恵比寿笑いの風景。魚籠をのぞく子どもみたいに、私たちの顔もついほころびます。
恵比寿という名には、外から来たものを温かく受け入れるニュアンスが宿っています。古くは「蛭子」に通じる説や、海の神と重なる「事代主命」との習合説など、由来はじつにバラエティ豊か。どの説にも共通しているのは、岸に届いた恵みをありがたくいただき、暮らしを立て直す“現場力”です。大漁の日は港が明るい。凪の日は網を直して、次の好機を待つ。恵比寿さまは、そんな現場の味方として親しまれてきました。
鯛と鯨――二大スターの舞台裏
赤い鯛はお祝いの主役。うろこの艶や、堂々たる体つきは、食卓の中心で「よく来たね」と言わんばかりに存在感を放ちます。一方で、かつては鯨にも“えびす”の名が重ねられました。海から漂着した大きな命は、地域に油と栄養をもたらし、冬を越す力をくれたからです。鯛が晴れの日の象徴なら、鯨は暮らしを支える頼もしさの象徴。どちらにも「海の恵をいただく感謝」が通底しています。
ただ、境内の木札や招福の置物で主役を張るのは、やっぱり鯛。理由は単純明快、見た目が華やかで縁起が伝わりやすいから。肩に鯨を抱えて微笑む像を想像してみると……それはそれで迫力満点ですが、土間の神棚にはちょっと大きすぎますよね。だから鯛が選ばれ、恵比寿笑いが暮らしのサイズにぴったり収まった、というわけです。
釣り竿の意味――「当てもの」ではなく「段取り」
恵比寿像の釣り竿は、棚ぼた待ちではなく、準備と一手間の象徴です。網を打つにも、糸を垂らすにも、潮を読むにも、段取りは欠かせません。今日の献立を考え、台所を整え、食器を拭き上げる。そんな小さな段取りの積み重ねが、家の空気をすっと軽くしてくれます。恵比寿さまは、竿を携えてこう囁きます。「準備は味方だよ」。その声に頷けば、夕方の買い出しも不思議と足取りが軽くなるはず。
「えびす顔」が連鎖する仕組み
港で交わされる「お疲れさん」の一言。店先で聞こえる「いらっしゃい」の声。帰宅して玄関がすっきり片付いているだけで、家族の顔はやわらぎます。こうして笑顔は連鎖は恵比寿様のふくよかな表情に近づいていく。鯛の赤はその連鎖の合図で、テーブルの中央から「今日もいい日だったね」と灯をともします。海から届いた“めでたい”は、実は毎日の表情づくりの先生でもあるのです。
さて、恵比寿さまの素顔が見えてきたところで、次の章では“お願いごと”に届きやすい向き合い方を、暮らしの場面に重ねながらやさしく辿っていきます。準備はシンプル、気持ちは晴れやかに――それが恵比寿流です。
第2章…七福の中の万能選手~家運向上・子孫繁栄・五穀豊穣・漁業の守り~
恵比寿天のご利益は、ひとことで言えば「暮らし丸ごと応援団」。家の空気を整え、台所に季節の香りを運び、仕事場には前向きな追い風を連れてきます。にっこり笑うお顔に油断してしまいがちですが、実力は折り紙つき。ここでは、日常の場面にそっと重ねながら、恵比寿流の“叶え方”をやさしく解いていきます。
家のこと――家内安全は“片づけ一杯の湯気”から
朝一番に窓を少しだけ開け、台所の流しをサッと磨く。恵比寿講の日でなくても、この二つで家の雰囲気はふわっと軽くなります。家内安全は、難しい願文よりも、今日の湯気を綺麗に立てること。急須を温め、お茶を一杯いれて、最初の一口を恵比寿様に心の中で勧めてみる。たったそれだけで、玄関の靴が自然と揃い、家族の足取りがやわらぎます。小さな整いが積み重なるほど、家運向上は現実味を帯びてくるのです。
家族のこと――子孫繁栄は“声かけの温度”で育つ
恵比寿天は、にぎやかな食卓が大好き。テーブルの中央に柿や栗をひと皿、そこに「今日もお疲れ様」とひと声を添えると、不思議と笑顔が連鎖します。子どもには「よく噛んでえらいね」、年配の家族には「その話、また聞かせて」。声掛けの温度が上がるほど、家系に流れる“いい循環”が太くなる。系譜の願いは、難しい祈りより、毎日の会話のなかでゆっくり叶っていきます。
仕事のこと――商売繁盛は“段取りのひと手間”で近づく
恵比寿像の釣り竿は、幸運待ちの小道具ではなく、段取りの象徴。朝の十分を使って在庫棚を拭き、手帳の今日の行先を一度だけ声に出す。電話はワンコールで出る、と決めてみる。そんな“ひと手間”が、店の暖簾の揺れ方を変えます。うまくいった日は恵比寿様に小さく会釈、うまくいかなかった日は竿を持ち替える気分で仕切り直し。笑顔で続ける粘りが、看板の照りを日ごとに増してくれます。
畑と海のこと――五穀豊穣と豊漁は“天気と相談する間”に宿る
空を見上げて風を読む一分間。畑では土の湿りを指で確かめ、海では潮の具合を頬で測る。恵比寿流では、この“相談する間”が一番大切です。急がない勇気が実りを守り、引き返す判断が網を救う。帰ったら台所で鍋を1つ火にかけ、湯気が立ったら「今日の判断に感謝」とつぶやく。豊作も豊漁も、こうした小さな節目が積み重なって、季節の器になみなみと注がれていきます。
願いの届け方――“ごあいさつ→お供え→笑顔”の三拍子
恵比寿様への願いは、華やかな儀式でなくて大丈夫。まずは心の中で「いつもありがとう」とご挨拶。次に、家にある季節のものを一口分だけお供え。最後に、食卓でひとりでも多く笑顔になる工夫をひとつ。三拍子そろえば、願いは恵比寿天の“えびす顔”に乗って軽やかに進みます。叶ったら忘れずにお礼をもう一度。約束を守るように、次の一歩もまた整っていきます。
こうして見ると、恵比寿天は“万能”というより“日常の名監督”。試合を決めるホームランも好きだけれど、送りバントや守備位置の微調整も同じくらい大事、というスタンスです。次の章では、その監督に敬意をこめて迎える恵比寿講の一日を、朝から夜までやさしく辿ってみましょう。準備はシンプル、気持ちは晴れやかに――それが恵比寿流です。
第3章…恵比寿講の一日体験~飾り・供え・宴で整う福回路~
恵比寿講は、難しい作法よりも「気持ちよく暮らす段取り」が主役です。ここでは10月20日を想定しながら、朝・昼・夜の流れで“えびす顔”が家中に広がっていく一日を、やさしく辿ってみます。準備はシンプル、気持ちはにぎやかに。さあ、恵比寿流のスイッチを入れていきましょう。
朝――空気を整え、席をこしらえる
最初の合図は窓を少し開けること。新しい風が入ってきたら、玄関と台所に「恵比寿席」を作ります。小さな台や棚を拭き上げ、白い紙か清潔な布を一枚。そこへ米と塩と水、できればお神酒を少し。旬の柿や栗、海のめでたさを象徴する一尾の魚をそっと添えます。鯛が一番華やかですが、焼き魚や煮魚でも十分。釣り竿と鯛の置き飾りがあれば、笑顔がすっと集まります。
飾りの向きを決めるときは、家族が自然に目を向ける方向へ。朝一番の「ようこそ恵比寿さま」で一礼。深呼吸が1つ増えるだけで、廊下の足音まで軽くなります。ここまでで所要は10分ほど。忙しい朝でも間に合います。
昼――縁起を連れてくる買いものと“ご挨拶”
昼は近所の市場やスーパーへ。赤い鯛の絵柄の小さな飾りや、福笹、熊手、金色の小判モチーフなど、目に楽しい縁起物を一つだけ迎えてみましょう。東京なら甘い香りのべったら漬け、関西なら十日えびすにちなむお飾りの雰囲気を思い出しつつ、今の台所に似合うサイズを選ぶのがコツです。大切なのは“背伸びしすぎないこと”。買って帰ったら、恵比寿席に「ただいま」と声をかけてから置くと、部屋の空気がふわりと柔らかくなります。
夕方にかけては、宴の支度を少しずつ。お刺身なら赤が美しい一品を中心に、煮物や汁物で温かさを添えます。お酒を用意するなら、最初の一杯だけは恵比寿席に置いてから。飲まないご家庭なら、湯のみのお茶で十分。家族の帰宅に合わせて、台所の湯気が1つ、また1つと増えていきます。
夜――“二十日えびす”の宴で笑顔を循環させる
夜になったら、灯りを少し明るめにして、恵比寿席の前で静かに一礼。続けて食卓へどうぞ。乾杯のひと声は「よく頑張ったね」。続けて、今日一番の“目出度い”を誰かに尋ねてみると、会話は自然に温度を上げていきます。食卓の中心に赤い一皿があるだけで、写真にも心にも晴れやかなポイントが生まれます。
気分がノッてきたら「恵比寿講の売り買い」に倣い、小さな遊びを。テーブルの上の料理や湯のみ、箸置きに架空の値段をつけて「千両!万両!」と掛け合いをするだけで、笑い声が膨らみます。最後は恵比寿席の飲み物をそっと下げ、台所で一杯ぶんを流してから片づけ。締めの一礼で「今日もありがとう」と伝えれば、家中の空気がやさしく落ち着きます。
――こうして朝・昼・夜の三拍子が揃うと、家の中に一本の「福回路」が通ります。朝の風が入口、昼のご挨拶が中継、夜の笑顔が出口。毎年10月20日を合図に、この回路を少しずつ磨いていくと、来年の10月には操作がさらに滑らかになります。恵比寿流の段取りは、続けるほど頼もしく、暮らしのサイズにぴったり寄り添ってくれるのです。
第4章…縁起物の意味を知る~福笹・熊手・大判小判のすすめ~
恵比寿講の楽しみは、食卓と笑顔だけでは終わりません。玄関や店先にそっと置いた縁起物が、毎日の景色を明るく塗り替えてくれます。ここでは代表的な三つ――福笹、熊手、大判小判――をやさしく味わい直してみましょう。大切なのは、今の暮らしのサイズに合わせて“1つだけ”迎える気持ち。背伸びをしない方が、部屋にすっと馴染みます。
福笹――「青い息吹」を室内へ連れてくる
青竹の爽やかさをそのまま閉じ込めたような福笹は、部屋に入れた瞬間から空気が澄みます。葉の揺れは、台所の湯気や出入りの風と相性抜群。竹はまっすぐ伸び、節ごとに強くなる植物だから、置くだけで背筋が伸びる感じがします。恵比寿席の傍に立てかけるなら、動線を邪魔しない高さに。朝一番の光を受ける位置に置くと、葉がきらりと光って、家族の視線が自然と集まります。
熊手――「かき集める手」でチャンスを逃さない
熊手は、落ち葉集めの道具がルーツ。つまり、散らばった“いいこと”をかき集める象徴です。店ならレジの見える場所、家なら玄関の上方が似合います。大きさは控えめでも十分。毎朝ひと振りするつもりで、気持ちだけ軽く持ち上げてみましょう。昨日のうっかりや置き忘れすら、今日の学びとして拾い上げる――そんな心の姿勢を形にしてくれるのが熊手です。買い替えるときは、昨年の熊手に「一年ありがとう」と声をかけてから納めると、区切りがすっきりします。
大判小判――「めでたい輝き」を一点だけ添える
金色の小さなプレートは、光を受けてきらりと主張します。たくさん並べるより、恵比寿席の近くに一点を。日中は自然光、夜は照明の反射で、ほどよく存在感を放ちます。台所で家計簿を開く前に、そっと見やるだけで気持ちが整い、数字の並びと向き合う肩の力が抜けます。財布の中に入れるミニサイズなら、レシートをしまう所作まで丁寧になって、毎日の小さな循環が滑らかになります。
べったら漬けの香りと“えびす顔”の関係
東京では、10月の空気に甘い香りを添えるべったら漬けが名脇役。白い大根の清々しさは、恵比寿席の湯気と相性がよく、ひと切れで食卓の色が引き締まります。関西の十日えびすの賑わいを思い出しながら、地域の味を1つだけ迎えるのもおすすめ。鼻に抜ける香りが合図になって、家族の表情は自然と“えびす顔”に近づいていきます。
――どの縁起物も、飾って満足では終わりません。毎朝のひと声がけ、夜のひと拭き、季節ごとの入れ替え。その小さな手入れこそが、恵比寿流の“効かせ方”です。次の章では、地域ごとに少しずつ表情の違う“えびす顔”を巡り、東京と関西、そして各地の講の楽しみをやさしく見渡していきます。
[広告]まとめ…来年も笑顔でえびす顔~続けるほど効いてくる福習慣~
恵比寿講の一日は、立派な儀式で飾らなくても大丈夫。朝の風を入れて席を拵え、昼に小さな縁起物を迎え、夜は「よく頑張ったね」と笑い合う。そんな流れが家中を柔らかく照らし、恵比寿天の微笑みにぴたりと重なっていきます。釣り竿は段取り、鯛は晴れやかさ。台所の湯気がいつもよりおいしそうに見えたら、もう恵比寿流は始まっています。
今年の10月20日が良い合図になったなら、次は11月20日、12月8日、そして年明けの1月10日へと、季節の歩幅で続けてみてください。毎回贅沢をする必要はありません。柿を一切れ、湯のみを一杯、笑顔を1つ。背伸びしない“目出度さ”ほど、暮らしにすっと馴染みます。
福笹の青さは気持ちを真っ直ぐにし、熊手は散らばった“良いこと”を集めてくれます。大判小判のきらりとした光は、家計や仕事に向き合う肩の力をふっと抜いてくれるはず。東京ならべったら漬け、関西なら十日えびすの賑わいを思い出しつつ、あなたの町に合う一品をそっと添えれば、食卓の真ん中に小さな晴れ間が生まれます。
出雲に神様が集う季節でも、私たちの暮らしはいつもの場所で回り続けます。だからこそ、足元にある“目出度い”を拾い上げて、恵比寿天に「いつもありがとう」と一礼を。来年の10月、同じ席に座ったとき、今日よりも少し明るい風が入ってくる。その予感こそが、恵比寿講の一番のご利益です。笑顔の連鎖を家から町へ――どうぞ、やさしい一歩を続けていきましょう。
⭐ 今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m 💖
応援リンク:
ゲーム:
作者のitch.io(作品一覧)
[ 広告 ]
コメント ( 0 )
トラックバックは利用できません。
この記事へのコメントはありません。