介護整容ケアで尊厳を守る~日常の身嗜み支援をもう一段深くするには~
目次
はじめに…その方らしさは髪型とお顔に出ます
介護の現場でお仕事をしていると、食事や排泄、入浴のような大きな括りのケアにはとても力が入っているのに、整髪や髭剃り、爪周りの手入れ、ちょっとしたお肌の保湿といった細かい身嗜みは、どうしても後回しになりがちですよね。忙しい日や職員が少ない日が続くと、つい「今日はいいかな…」となってしまいます。けれどご家族がフラッと面会に来られるのも、看護師さんやケアマネさんが様子を見に来るのも、大抵はその「今日はいいかな…」の日だったりします。
整容は、単に綺麗にする作業ではなくて、「私はここで大切にされている」「まだ人と会う価値がある」とご本人が感じられるようにするためのケアです。特に入所・入院中は、鏡を見る回数も、人と出会うタイミングも自分で選び難くなります。だからこそ職員側が意識しておいて、いつ見られても恥ずかしくない状態を保っておくことが、尊厳の保持にも繋がりますし、施設や病棟の雰囲気をグッと明るくしてくれます。
本稿では、整容の考え方をもう一度、丁寧に整理しつつ、「法令上の最低ラインで止めない」「その人ごとの拘りに寄せる」「現場全員が同じレベルで出来るようにする」という3つの方向に広げてみます。ご利用者さんの中には、若い頃からお化粧や髪型をとても大事にしてこられた方もおられますし、男性でも毎朝の髭剃りが日課だった方は多いものです。その記憶を呼び起こしてあげるだけで、表情や姿勢がフッと変わることがあります。
日々の介護記録にはなかなか残しづらい部分ですが、ここが整っている施設は、どの時間帯に行っても綺麗です。この記事を読みながら、ご自分のところのやり方をそっと点検していただいて、「明日からここだけは必ずやろう」という小さな基準を作っていただけたら嬉しいです。
[広告]第1章…整容ケアとは何かを敢えて言語化してみる
介護の場面でいう「整容」は、とても地味なのに、じつはその人の暮らし振りや尊重のされ方が一番外に滲み出るところです。洗顔・整髪・髭剃り・爪の手入れ・お口周りの清潔・お肌への保湿、これらをまとめて整容と呼びますが、どれも1回で終わるケアではなく、日々の積み重ねで整っていくものですよね。だからこそ、介助する側が「今日は時間がないから後で」と流し始めると、3日もすれば前髪が乱れ、目ヤニが張り付き、髭が伸び、手指の爪が黒ずみ、耳の縁が少し汚れる…という具合に、見る人にははっきり分かる差が生まれてしまいます。
整容は最低限ではなくいつ会っても大丈夫な状態へ
国が示す介護の基準では、身嗜みを整えることは日常生活動作の一部として扱われています。けれど、基準はあくまで土台です。施設や病棟に暮らしている方は、誰がいつ来るかを自分で選べません。家族が突然来るかもしれませんし、行政の人が来るかもしれませんし、ボランティアさんが来る日かもしれません。つまり、施設側は「今日は誰も来ないだろう」という読みで整容を軽くすることが出来ないのです。目指すのは「いつ会っても大丈夫な状態」であって、「最低限しておいたから良し」ではありません。
この考え方に立つと、女性であればお肌の保湿や眉を整えるところまで、男性であれば毎日の髭剃りと髪型の乱れ直しまで、堂々とケアに含めて良いことになります。お化粧のような、少し楽しみが混じる整え方も、本人が望むなら介護サービスの延長として考えて構いません。マニュアル的にここまでしておこう、と自分で線を引いてしまうと、生活感のある顔付きになっていくスピードがとても速くなります。
その人らしさが一番残る場所が整容
高齢になってから施設に入ると、どうしても衣服は実用重視になっていきます。伸びるズボン、すぐ洗える上着、ケアしやすいパジャマ…。ところが、髪型・眉の形・髭の有り無し・口元の清潔感は、若い頃からの「自分の顔の作り方」に近いまま残っていることが多いです。ここを周囲が上手に整えてあげると、「ああ、うちのおばあちゃんの顔だ」「お父さん、昔はこうだった」とご家族がすぐに気付いてくださる。つまり整容は、家族が記憶している姿と今の姿を繋ぐ役割も持っています。
逆にここが乱れていると、「大事にされていないのかな」「人手が足りないのかな」という印象を持たれやすくなります。介護そのものは丁寧でも、パッと見た時の印象の方が強く残るからです。ですから、整容は「美しくする作業」というより、「この方は今もきちんと暮らしていますよ」というメッセージを外に向けて出すケア、と捉えておくと分かりやすくなります。
生活リズムに合わせて1日の中に位置づける
整容は入浴のついでにまとめて行えばいい、と思われがちですが、実際にはそうすると手が回らない部分が必ず出ます。入浴は週に2回、3回という方もおられますし、その日、体調が悪ければ中止になることもあります。ですので、整容は「入浴とセット」ではなく「毎日の朝と夕方に小分けで行う」方が乱れ難いです。例えば、朝の離床時に洗顔と髪を整える、食後にお口の中を見る、夕方の排泄介助の後に髭を剃る、といった具合です。ほんの2~3分でも、毎日続けると見た目はまったく違います。
ここで大事なのは、「今日はこの方のどこを整えたか」をさりげなく申し送りしておくことです。髪を整えたのか、髭を剃ったのか、耳周りを拭いたのか。見た目は翌日に持ち越されますので、夜勤・早番・遅番のどの職員が見ても「綺麗が続いている」と分かるようにしておくと、ばらつきが少なくなります。
危険を伴う部位は段階を踏んで
耳の奥、鼻の中、瞼の近くなど、少しでも力加減を誤ると傷になってしまう場所は、いきなり高いレベルを狙わず、まずは「見えるところをぬるま湯のタオルで丁寧にふく」「汚れを発見したら看護師に共有する」から始めます。利用者さんの中には、昔から自分のやり方を持っている方もおられますので、その方に手順を教えていただくのも1つの方法です。職員だけで完全なやり方を決めてしまうより、「〇〇さんはこうしていた」を残していく方が、その人らしさは失われません。
このように、整容は「決められたことをする作業」ではなく、「その人がこれまで大事にしてきた身嗜みを、暮らしが変わっても継続できるようにする支援」と考えると、ケアの質がグッと柔らかくなります。次の章では、この整容をどう目的付けると職員全員が同じ温度で取り組めるのかを見ていきますね。
第2章…どうせ施設だからと思われないように目的意識作り
整容が後回しになってしまう理由の多くは、「今日は外出も来客もないから」「家族さんは気にしないと思うから」という、ささやかな思い込みから始まります。けれど、生活の場である以上、利用者さんは毎日が本番です。写真を撮る日だけ、家族が来る日だけ、看取りの場面だけ綺麗にするのではなく、普段から綺麗にしてあるからこそ、急な出来事にも落ち着いて対応できます。ここでは、現場の職員さん全員が同じ方向を向けるように、整容の目的をはっきりさせておきましょう。
目的は生活の格を落とさないこと
入所や入院によって環境が変わると、「元の家での暮らし」と「今の暮らし」の間に段差が生まれます。この段差が大きいと、人は自分を低く評価しやすくなります。髪が乱れたまま、髭が伸びたまま、手の爪が黒いまま…そんな日が続くと、「自分はもうそういう年齢なんだ」「ここではここまででいいんだ」と、ご本人が自分を諦める方向に傾きやすいのです。
整容の目的は、この様々な段差を出来るだけ小さくして、「以前の自分と同じくらいの姿」で過ごしていただくことにあります。つまり、生活の格を落とさない、ということです。格が落ちなければ、訪室してきたご家族も安心しますし、本人の話し方にもハリが出ます。口腔ケアがきちんとされていれば声も明瞭になりますから、コミュニケーションの量そのものが増えていきます。これは介護の全体にとってとても良い循環です。
整容は気分のスイッチを入れるための介助
人は、顔や髪を整えると「さて、今日もやるか」という気持ちになりやすいですよね。これは高齢になっても同じです。朝に洗顔と整髪をしてあげると、起き上がりやすくなり、昼間の活動にも参加しやすくなります。逆に、顔がベタついたまま、前髪が目にかかったままだと、どうしてもベッドでのんびりしたくなり、結果として活動量が下がります。活動量が下がると、さらに整容の回数も落ちていき、少しずつ表情が乏しくなってしまう…この悪循環を止める1つの鍵が、毎朝の整容です。
ここで大切なのは、「綺麗にするためにやりますよ」という声かけをすることです。「今日はお客様が来るかもしれませんので」「写真も撮りやすいように整えますね」といった声掛けを添えると、ご本人の方も「じゃあ、眉もね」「じゃあ、髪を結んで」と、主体的な注文を出してくれます。これが続くと、その方の中に「ここでは綺麗にしてもらえる」という期待が生まれ、ケアを受け入れやすくなります。
尊厳を伝えるメッセージとしての整容
整容は、「あなたはどんな状態であっても人に会って良い方ですよ」というメッセージを体で伝えるケアでもあります。例えば要介護度が高く、ベッド上での生活が中心になった方の場合、訪問してくれる人の数は自然に減っていきます。その時に髪がボサボサで、髭が伸びたまま、耳の縁も白っぽくなっていたら、訪れた人は心のどこかで「可哀相」「仕方ないのかな」と思ってしまいます。すると、次に来るまでの間隔が少しずつあいていきます。
反対に、髪がツヤっと整っていて、口の周りも綺麗で、手も爪も清潔であれば、「この方はここで大事にされている」とひと目で分かります。そう感じてもらえると、家族はまた来ようと思いますし、ボランティアさんも気楽に訪ねられます。つまり整容をきっちり行っておくことは、利用者さんと外の世界をつなぐ扉を常に開けておく働きもしているのです。
職員同士でここまでは毎日というラインを共有する
目的がぼやけると、どうしても介助の深さに差が出ます。早番さんは髪まで整えるのに、遅番さんは顔拭きで終わってしまう、というようなことですね。これを防ぐには、「毎日ここまではやる」「体調が悪い日はここまで下げる」「特別な日はここまで上げる」という3段階くらいの基準を作っておくとスムーズです。とはいえ、ここで分厚い書類を作る必要はありません。申し送りのボードでも、タブレットでも構いませんから、誰が見ても同じレベルで支援できるよう、目的を言葉にして残しておきます。
この「目的の共有」が出来ていると、新人さんや非常勤さんが入っても、整容の質が落ちにくくなります。さらに、家族から「この間のように口紅もお願いします」といった希望があった時にも、「この施設ではお顔周りのケアを大事にしていますので」という形で自信を持ってお受けすることが出来ます。つまり、整容を目的付けておくことは、現場の安心感にも繋がっていくのです。
次の章では、こうした目的を実際の業務に落とし込むために、どんなふうに手順や担当を整理していけば良いかを見ていきますね。
第3章…現場で迷わない整容マニュアルの組み立て方
ここまでで「何のために整えるのか」がはっきりしてきましたので、次はそれを日々の介助に落とし込んでいきます。大事なのは、分厚くてだれも読まない紙を作ることではなく、「この利用者さんは今日はここまで整っていれば合格」という基準をチームで同じにしておくことです。マニュアルは現場で回らないと意味がありませんから、細かく書き過ぎず、でも曖昧過ぎずのちょうど良いところを狙います。
「毎日」「週に数回」「専門対応に回す」を分ける
整容の中には、毎日やってこそ効果があるものと、週単位で見れば大丈夫なもの、医療や専門職にお願いした方が安全なものがあります。これがごちゃ混ぜになっていると、「今日はここまででいいのか」が職員ごとにバラバラになりますので、まずは線を引きます。 毎日行うものは、洗顔・髪を梳かす・口周りの汚れを拭く・髭の目立つところを剃る、などの「見た目にすぐ出るもの」。週に数回で良いものは、耳の拭き上げや眉の形を整えるといった「崩れていてもすぐには分からないが、放置すると生活感が出るもの」。そして、分厚い爪の処置や耳の奥の大きな耳垢のように「無理をすると怪我につながるもの」は、看護師さんや医師に回す枠を予め書いておきます。こうして3段階に分けるだけで、介助の優先順位が一気に見えやすくなります。
人によって違う拘りポイントを1行で書き残す
整容が難しいのは、利用者さんごとに「譲れないところ」が違うからです。前髪の分け目にうるさい方もいれば、口紅を必ず塗りたい方もおられますし、男性でも「無精髭に見えるのは嫌だ」という方は多いものです。ここを職員の記憶だけに頼ってしまうと、休み明けに崩れていたり、担当が替わったら一気に簡素になったりします。ですので、個人シートや介護記録の中に、ほんの1行でよいので「Aさんは眉を細め」「Bさんは耳を優しくふく」「Cさんは毎朝ローションを塗ると笑顔になる」とメモしておきます。
この1行があるだけで、新人さんでも「今日はこれだけは外さないでおこう」と判断が出来るようになります。マニュアルが現場で生きるかどうかは、こうした小さな具体性を入れられるかにかかっています。
時間帯と担当を緩く固定しておく
整容は「ついで」でやると忘れます。ですから、早番なら朝の離床介助のあとに髪と顔、日勤なら昼食後にお口、遅番なら夕方のトイレ誘導後に髭、というように、時間帯とセットで書いておきましょう。きっちりとした時間でなくても「午前中」「食後すぐ」「就寝前」といった幅のある書き方で十分です。誰が見ても「あ、これはこの時間に私がやるんだな」と分かれば良いのです。
あわせて、鏡・櫛・電動シェーバー・使い捨てタオル・保湿剤などを、決まった場所にまとめて置くことも大切です。物がバラバラにしまってあると、忙しい時ほど「今日は辞めておこう」となりやすいからです。マニュアルと道具箱がひと組になっていると、初めてその場に立つ職員さんでもすぐに整容に入れます。
安全確認だけは書類で残す
顔周りの介助は、どうしても小さな事故と隣り合わせです。特にカミソリでの仕上げ、鼻毛周りのケア、爪切りなどは、ほんの少しの油断で皮膚を傷つけてしまいます。ですので、ここだけは「実施した日」「行った人」「異常の有無」を残すようにしておきましょう。毎日の洗顔まで細かく書く必要はありませんが、怪我に繋がりやすい箇所だけは記録にすると、後からの振り返りがしやすくなりますし、家族への説明も落ち着いてできます。
また、実施してみて「この方は耳を触るととても怖がる」「電動シェーバーの音が苦手」と分かった場合は、その日のうちにマニュアルへ追記しておくと、次に入った人が同じ失敗をしなくて済みます。こうして現場で使った情報をすぐに反映させていくと、マニュアルがだんだんその施設らしい形に育っていきます。
特別な日用の上乗せメニューも用意する
普段の整容と、家族が来る日やイベントの日の整容は、やはり段階を変えたいところです。そこで、普段はやらない口紅やチーク、男性なら整髪料の使用、服の皺伸ばしなどを、上乗せメニューとして別に書いておきます。これをしておくと、「今日はご家族が2人で来られますから、朝のうちに上乗せをお願いしますね」とスムーズに依頼ができますし、利用者さん自身も「今日は特別なんだな」と気持ちが上がります。
このように、毎日・週に数回・専門対応・特別な日、と4つに分けておくと、整容ケアは一気に回しやすくなります。次の章では、ここまで整った整容を、どうやってオシャレや写真撮影、楽しみのレクリエーションにまで広げていくかを見ていきましょう。
第4章…美容・お洒落・写真撮影まで広げる発展ケア
ここまでの整容がしっかり回り始めると、「もっと綺麗にしてあげたい」「本人が若い頃にしていたお化粧を再現したい」という次の願いが出てきます。ここから先は、日常介助としての整え方というよりも、「その方がまた外に向かう気持ちを取り戻すお手伝い」というイメージです。施設や病棟の中にいても、季節の行事やご家族の来訪の日、写真を撮る日、お誕生日など、少しだけ晴れやかにしたくなる場面は必ずあります。そうした時に、職員が迷わずに一段上の整え方ができるようにしておくと、場の雰囲気も写真の写りもグッと良くなります。
お化粧は娯楽と回想を兼ねたケアにする
高齢になると、「もう顔はいいから」「昔みたいにはならないから」と言われる方もおられますが、実際に下地を塗ってみたり、ほんのり色をのせてみたりすると、鏡を見つめる時間が長くなります。これは、自分の若い頃の顔を思い出しているからです。お化粧は、肌を守るだけでなく、過去の自分と今の自分を繋げる働きがあります。ですので、一人で行うのではなく、職員が2人ほどで「今日は明るい色にします?」「若い頃はどんな髪型でした?」とおしゃべりしながら進めると、回想レクリエーションとしても成立します。
この時、若い職員が若い人向けの色を選んでしまうと浮きますので、予め落ち着いた色味の口紅やチーク、保湿力の高いクリームなどを1段にまとめておきましょう。どの方にも使える「共通の棚」があると、安全に使い回しができます。
髪型を変えるだけでも写真映えが変わる
整容の基本では「梳かす」「乱れを直す」まででしたが、発展の段階では「少しまとめる」「分け目を変える」「前髪を上げる」といった変化も試してみます。特に女性は、白髪がある程度伸びていても、綺麗にまとめてあれば上品に写ります。男性でも、いつもよりワックスを少し使って立たせるだけで、若々しく見えます。こうした仕上げは、普段の介助の中ではなかなか時間を割きにくいので、「撮影のある日は髪も仕上げる」と決めておくと良いです。
撮影は、季節の壁面前や、面会スペース、お気に入りの居室など、いつもと違う場所で行うと表情が出やすくなります。写真に残ることを意識すると、整容の丁寧さも自然と上がります。
家族と一緒にできる整容を残しておく
ご家族が面会に来られた時、「今日はここまで整えてあります。良かったら口紅だけご家族でどうぞ」とひと言添えられると、とても喜ばれます。職員が全部やってしまうと、ご家族は「ありがとう」で終わってしまいますが、あえて最後の仕上げを残しておくと、親子・夫婦での触れ合いが生まれます。髪をなでる、頬にクリームをのばす、ひげそりのあとを確認する――。こうした動作は、介護が必要になってからはなかなか機会がないものなので、一緒にできる場面を人工的につくってしまうのです。
「今日は写真も撮りますので、ぜひ一緒に」とお誘いすれば、ご家族が面会に来る理由にもなりますし、施設としても明るい印象を持っていただけます。整容がコミュニケーションの入口になってくると、介護のやり取りが事務的になりにくくなります。
行事や広報に載せるつもりで整える
施設だよりや壁新聞、ホームページなどに入居者さんの写真を載せることがある場合は、撮影前に一斉に整容を行う日を決めておきます。「今日はお顔を出す日です」と宣言しておくと、職員も手を抜きにくくなり、ご本人も気持ちを切り替えやすくなります。普段の生活リハビリの写真と違って、家族や外部の人の目に触れるものになりますから、耳の縁・口周り・首元・手の爪など、細かいところまで見ておきましょう。
また、こうした写真を後でアルバムにしてプレゼントしたり、行事の時に大きく引き伸ばして飾ったりすると、「撮られるための整容」が定着していきます。単なる身支度だったものが、「人に見せる楽しみ」になった瞬間です。ここまで来ると、利用者さんのほうから「今日は髪やってくれる?」と声がかかるようになり、ケアが受け身ではなく共同行為に変わっていきます。
職員側も身嗜みを揃えておく
最後に大切なのは、整える側の姿です。職員の髪が乱れていたり、名札が曲がっていたりすると、「この人に整えてもらっても…」という気持ちがどうしても起きてしまいます。利用者さんの整容に力を入れる日だけは、職員も朝礼で鏡を見ておく、エプロンやユニフォームを新しいものにするなど、ちょっとした配慮をすると説得力が増します。「あなたも綺麗、私も綺麗」という空気があると、整容ケアはとても楽しい時間になります。
――ここまでが発展の段階です。日常の整え方の上に、楽しみや家族との触れあい、写真に残す体験を乗せていくことで、「この施設はどの時間に行っても皆さんが綺麗」という評価に近づいていきます。次のまとめでは、今日お話しした考え方をもう一度ギュッと寄せておきますね。
[広告]まとめ…誰がいつ見ても恥ずかしくない姿をチームで守る
整容の話はどうしても「時間がない」「人が足りない」という現実にぶつかります。それでも、顔まわりと髪と手先だけは整えておくと、場の空気が柔らかくなり、利用者さんの表情も明るくなる――これは多くの現場で共通していることです。つまり整容は、なくても生きてはいけるけれど、あると生活の質がグンと上がるケアなのです。
この記事では、まず整容そのものを言葉にして「これは日常生活のごく大事な身嗜みですよ」と位置付けました。次に、「どうせ施設だから」という気持ちを起こさないように、暮らしの格を落とさないことを目的にしました。さらに、現場で迷わないように「毎日」「週に数回」「専門に回す」「特別な日」という4つの層で考える方法を示しました。そして仕上げとして、お化粧や撮影、家族との触れ合いまで広げると、整容は一気に楽しいケアに変わる……という流れで整理しました。
大事なのは、これを特定の職員だけが頑張る形にしないことです。早番だけが綺麗にして、遅番で崩れてしまうと、利用者さんは「今日はたまたま当たりの日だったんだな」と感じてしまいます。そうではなくて、どの時間に行っても、どの曜日に行っても、「髪が整っている」「お口が綺麗」「手が清潔」という状態をチーム全体で守る。これが整容の理想です。
もう1つ、忘れたくないのはご家族や外部の方の目線です。面会に来た時、利用している方が綺麗に整っていると、「ここにお願いして良かった」と安心してくださいます。この安心感は、職員の丁寧な介助と同じくらい強い力を持っています。逆に、どこかが乱れていると、他がどれだけ良くてもその印象が前に出てしまいます。だからこそ、顔・髪・手先をおさえる整容は、現場の名刺代わりになるのです。
明日からすぐに出来ることは、ほんの少しずつです。朝の離床のついでに髪をとかす、食後にお口を拭く、夕方のトイレ誘導の後に髭を見ておく――それだけでも見た目は変わります。そこに「今日は写真を撮るからもうひと手間」「ご家族が来るから口紅を残しておこう」という楽しみを足していけば、整容は負担ではなく、施設を明るくする時間に変わっていきます。どうか現場の皆さんで話し合いながら、あなたの事業所らしい整え方に育てていってくださいね。
今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m
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