秋のお彼岸に咲く彼岸花・曼殊沙華の意味とちょっと怖い魅力をほどく日
目次
はじめに…彼岸花を見ると昔の人の暮らしが見えてくるというお話
秋のお彼岸の頃、道端やお寺の土手にスッと立っている赤い花を見つけると、「ああ、今年もこの季節になったなあ」と思いますよね。夏の名残りがまだあるのに、空気だけ先に秋になっていくあの時期に、まるで合図のように咲くのが彼岸花です。
この花は綺麗なだけでは終わらないところが面白いところです。名前がたくさんあって、しかも「天からの目出度い印」を表す名前もあれば、「あんまり近付かないでね」というような怖い呼び方もあります。どうして明るい呼び方と怖い呼び方が同じ花に集まったのか。そこには、日本の田んぼやお墓を守ってきた人たちの工夫と、先に生きた人を大切にしたい気持ちが重なっているからです。
今回の記事では、彼岸花・曼珠沙華と呼ばれるこの花の名前の来歴、たくさんある花言葉、そして全身にある毒との付き合い方を、ゆっくり丁寧に見ていきます。難しい言い回しはなるべく開いて、小学生にも説明できるように書きますので、施設のレクの話題にする時や、子どもさんに「これ何の花?」と聞かれた時にも使ってくださいね。
最後の方では、今の時代にこの花を楽しむならどこに気をつけるといいか、写真を撮る時や園芸で育てる時にどんな工夫が出来るかもそっと加えておきます。秋の入り口に出会う1本の花から、昔と今を繋ぐお話を始めましょう。
[広告]第1章…彼岸花・曼珠沙華という名前はどこから来たのか
秋のお彼岸の頃に、忘れたように一斉に咲くので彼岸花。ここまでは分かりやすいですね。日本ではお彼岸はご先祖様のところへ心を向ける日なので、その時期に綺麗に咲く花にこの名前が付いた、と考えるとスッと入ってきます。田んぼの畔やお墓の周りに多いのも、ちょうどこの時期に人が出歩くからよく目につく、というだけでなく、「ここは大切なところですよ」という目印にもなっていたからです。
では「曼珠沙華(まんじゅしゃげ)」はどうでしょう。これは仏教の言葉で、元々はサンスクリット語を写したものとされています。お目出度いことが起こる時に天から降る花、と説明されることが多く、昔のお坊さんたちは「天上で咲く花」「良い印の花」として伝えてきました。日本で彼岸花を見た人たちは、そのパッと開く姿を見て「この世のものじゃないような咲き方をするから、きっとあの曼珠沙華のことだろう」と重ねていったのでしょう。1つの花に2つの線が重なるのはこのためです。現実の土手で咲く花と、天の物語に出てくる花が、秋のお彼岸でピタリと1つになったわけです。
ここで面白いのは、日本には「彼岸花」という名よりも、土地ごとの呼び名がものすごく多いことです。お寺に近いところでは仏様に結びついた呼び方が多く、山や里の方では「近寄るな」という意味をそっと含ませた呼び方が多くなります。どちらも同じ花を指しているのに、暮らしぶりによって受け止め方が違ったのですね。お墓や田んぼを守るために植えられていた地域では、子どもがむやみに触らないように、ちょっと怖い名前を敢えて使ったと考えると筋が通ります。
しかも、普段、私たちが見るのは赤が多いですが、改良や交雑が進んで白や黄色のものも身近になりました。これらも元は同じ仲間で、秋の合図のように茎を伸ばしてから花だけで咲きます。先に花が咲いて、後から葉が伸びるという順番は、他の花とちょっと違うので人の目に留まりやすく、昔の人はここにも特別さを感じたようです。「どうしてこの花だけお彼岸にきっちり顔を出すのだろう」「どうして葉がないのにこんなに目立つのだろう」──そうした素朴な驚きが、後にたくさんの呼び名を生みました。
つまり、彼岸花の名前の源は1つではなく、お彼岸に咲くという季節の特徴、仏教が伝えためでたい花のイメージ、田の神様やご先祖様を守るという生活上の役割、この3つが重なってでき上がったものだと考えると、とても綺麗に説明できます。ひと目で秋と分かる花なのに、裏には何百年分もの暮らしが折り畳まれている──それが彼岸花というわけです。
第2章…情熱からまた会いましょうまで~不思議に多い花言葉と異名たち~
彼岸花を調べていくと、まず目に付くのが花言葉の多さです。一般的に知られているのは「情熱」「独立」「また会う日を楽しみに」「想うはあなた一人」といった、心の奥で強く誰かを思っているような言い回しです。秋のお彼岸にパッと咲いて、数日の間だけ鮮烈な赤で立つ姿を見れば、「この花は一瞬で自分の全てを見せるんだな」と感じますから、「情熱」という言葉はとてもよく似合います。一方で、田んぼやお墓の傍で静かに咲いている様子を見ると、「あちら側にいる人を静かに思い出す花」という見方もできます。そこから「また会いましょう」「あなたを忘れていません」という、別れの先にある思い出を表す意味が付いていったと考えられます。
面白いのは、こうした温かい意味と同時に「悲しい思い出」「諦め」「転生」といった、どことなく影を帯びた意味も残っていることです。これは、彼岸花が咲く場所と深く関係します。お墓周りや田んぼの畦道、川の土手など、人が生活の中で「ここは守りたい」「ここは危ないから子どもに入ってほしくない」と思うところに植えられてきたので、花を見た人たちは「ここには過去がある」「ここには別れがある」と自然に感じたのでしょう。秋のお彼岸は、遠くにいった人を思い出す時季ですから、花が咲くたびにその人を少し寂しく思い出す。そうした繰り返しが、明るい意味と寂しい意味を同じ花に住まわせたのだと思われます。
さらにこの花は、名前の数がとにかく多いことで知られています。「曼珠沙華」は仏の国の目出度い花を指す名ですが、他にも「天上の花」「仏法花」「悲願花」「狐花」「蛇花」「幽霊花」「地獄花」など、耳で聞いただけで場面が浮かぶような言い回しが各地に残っています。やさしい名前と怖い名前が混ざっているのは、「目出度い花として飾りたい」という思いと、「毒があるから無暗に触ってはダメ」という注意を一緒に伝えたかったからでしょう。特に子どもに伝える時は、少し怖めの名前を敢えて使うことで「ここに入ってはいけないよ」と言いやすくなります。花そのものに役割を持たせていたわけです。
また、赤い花が中心ではあるものの、白い彼岸花や淡い黄色の彼岸花も登場してからは、花言葉の受け取り方も少し広がりました。白い物は「またお会いできますように」といった柔らかい意味で語られることが多く、黄色い物は太陽の恵や実りと結びついて「秋の恵みへの感謝」を重ねる人もいます。色が変わっても、秋にきっちり咲き、葉のない茎の先で火花のように開く姿は同じなので、どの色でも「一瞬の輝き」「あちらとの境を思い出させる花」という根っこは共通です。
こうして見ていくと、彼岸花の花言葉が多いのは、ただロマンチックだからというより、暮らしの場面ごとにこの花に語ってもらいたいことが違ったからだと分かります。お墓周りならご先祖さまへの挨拶として、田んぼなら豊作や畦を守る印として、家庭の庭なら季節を知らせる飾りとして、同じ花でも役目が変わる。そのたびに人は言葉を添え、やがてそれがたくさんの花言葉として残っていったのだと考えると、とても自然ですね。
第3章…全身にある毒との付き合い方と田んぼやお墓を守ってきた知恵
彼岸花は、花弁だけでなく、茎も葉も、そして土の中にある球根にも成分が含まれています。見ているだけなら心配はいりませんが、「口に入れる」「すりおろして肌につける」などをしてしまうと体がびっくりしてしまいます。昔の人が子どもに「そこには入っちゃだめ」「その花は折らないで」と言い伝えたのは、この性質をよく知っていたからです。秋は野山に出る機会が増えるので、今の子どもたちにも同じように伝えておくと安心ですね。
この毒は水にとける性質があるので、昔の村ではどうしても食べ物が足りない年に、丁寧に何度も煮こぼしてから粉にして使ったことがあったと伝わっています。けれども、これは本当に戦時中の最後の手段で、手順を間違えると口の中や喉が痺れたり、吐き気が出たりします。ですから現代では真似をしないで、綺麗に咲いている姿を眺めるだけにしておきましょう。秋の飾りにしたいなら、根をいじらず花だけをそっと切って、手を洗って終わりにする。それだけで十分です。
では、どうしてそんな気を遣う花が、日本中に植わるほど広まったのでしょうか。ここがこの花の面白いところです。彼岸花の成分は、人だけでなく動物にも効きます。田んぼの畔やお墓の周りに植えておくと、イタチやモグラのように土を掘る生き物が嫌がって近付き難くなります。大切にしているお墓を荒らされたくない、せっかく育てた稲の根を齧られたくない──そう思った人たちが、わざと畔道や土手にこの花を列にして植えていったのです。色があざやかで目立つので、境界を示す目印にもなりました。花が咲くと「ああ、ここからは人の手が入っているんだな」「ここからは中に入らないようにしよう」とすぐに分かります。
しかも、土手やお墓というのは、普段は人がたくさん出入りしません。そうすると、草の間にヘビなどが住みつくこともあります。「蛇花」という名があるのは、こうした場所にこの花が多かったからで、花そのものがヘビを呼んでいるというより、「人があまり入らない場所だから住みつきやすい」というのが本当のところでしょう。ですから、群生地を見に行くときは、足元を見ながら歩く、長靴などを履く、無暗に草を掻き分けない、といった基本を守ると安心です。遠くから眺めるだけでも十分に綺麗ですから、写真を撮る時も無理に中に入らず、道から撮れる角度を探すと良いですね。
こうして見ていくと、彼岸花の毒は「怖いから近づくな」というだけのものではなく、「畑を荒らさせない」「墓所を綺麗に保つ」という役目を何百年も果たしてきたことが分かります。人にとって注意がいるということは、他の生き物にとっても注意がいるということです。その性質をうまく使って生活を守ってきたのが日本の昔の人たちでした。私たちは、その知恵のおかげで秋に綺麗な赤い帯のような景色を見られている、と言っても良いかもしれません。毒があるからこそ、人と花との間に丁度良い距離が生まれ、今も身近にこの花を見られるのです。
第4章…現代で彼岸花を楽しむためのマナーと子どもへの伝え方
今の日本では、彼岸花は「秋の撮影スポット」としても人気があります。川べりや古いお寺の土手に一斉に咲く様子は本当に見事で、背景にススキや棚田があるとそれだけで絵になります。ただし、この花は元々「ここは大事な場所です」「そこから先は入らないで」という印として植えられてきた歴史を持っています。ですから、綺麗だからといって花の中にグッと入り込んだり、株を跨いだり、根を見せるように掘ったりするのは出来るだけ控えたいところです。根を傷つけるとその年は咲けなくなりますし、地面が荒れると土手自体が弱くなってしまいます。少し離れた場所から、群れとしての姿を楽しむ──これが一番花に優しい見方です。
また、私有地に植えられている場合もあります。田んぼの畔道、農家さんの敷地、お墓の周りなどは、見た目が開けていても人の持ち物です。写真やスケッチをする時は、通路から絵になる角度を探す、地元の方がいたらひと声かける、車で行った場合は道路を塞がないようにする、といったごく当たり前のことを守るだけで、その土地で毎年咲き続けます。秋は観光客も増える時期ですので、ちょっとした心づかいが次の年の景色を守ってくれると考えると、気持ちよく鑑賞できますね。
子どもに見せる時はどうでしょう。赤くて目立つ花なので、どうしても触ってみたくなります。ここで「毒があるからダメ!」とだけ言ってしまうと、怖い花として記憶されてしまいます。出来れば順番を変えて、「この花は田んぼを守るために植えてあるんだよ」「綺麗だから遠くから見るんだよ」と、まず役目と楽しみ方を伝えてから「だから触るのは辞めようね」と言うようにすると、子どもは納得しやすくなります。危険だけを前に出すより、「守る花」「季節を知らせる花」という良い顔を先に見せる方が、後まで覚えてくれます。
さらに、学校や施設の行事で秋の植物を紹介する時には、「手で摘まんだら石けんで洗う」「球根はいじらない」「無暗に家に持ち帰らない」という3点をそっと添えておくと安心です。特に球根は、植物に詳しい子どもほど興味を持ってしまう部分なので、「ここは大人が扱うところ」として線を引いてあげるとトラブルを防げます。大人が既に切って花瓶に刺してあるものなら、短時間触るくらいで大事になることは少ないので、その時に「これが彼岸花だよ。秋になるとお寺に咲くんだよ」と教えてあげれば十分です。
このように、今の暮らしで彼岸花を楽しむコツは「少し離れて見る」「土地ごとの決まりを尊重する」「子どもには役目から伝える」の3つに絞れます。無暗に摘み取らなくても、写真やスケッチ、SNSへの発信などで十分に季節を届けられる時代です。花の側に立ってくれた人が多い土地ほど、翌年もまた綺麗に咲き揃います。古い知恵を今風に言い換えながら、毎年の秋らしさとして残していきたいですね。
[広告]まとめ…怖そうで優しい守るために傍にいた花でした
彼岸花は、秋のお彼岸にピタリと合わせて咲くところから名をもらい、仏様の世界の花になぞらえられ、「曼珠沙華」という気高い呼び名まで得た、珍しい花でした。しかも、田んぼやお墓を守るために人がわざと植えた歴史があるので、「ここは大切な場所ですよ」と知らせる役目も背負っています。だからこそ、優しい花言葉と、少し距離をおきたくなるような異名が、同じ花に混ざって残ったのです。
1章で見たように、この花の背景には、季節の巡り・仏教の物語・生活を守る知恵という3つの線が重なっていました。2章では、それぞれの場面で人が言葉を添えてきた結果、「情熱」から「また会いましょう」まで幅広い意味が生まれたことが分かりました。3章では、全身に成分があるからこそ、畦や墓所を荒らさせない働きを長く続けてこられたこと、でも現代では見るだけに留めておくのが安心なことをおさえました。4章では、それを今の私たちが楽しむなら、少し離れて見る・土地の決まりを守る・子どもには役目から教える、この3点を意識すると長く付き合えるとお伝えしました。
つまり、彼岸花は「危ないから近寄るな」というだけの花でもなく、「綺麗だから持ち帰ろう」というだけの花でもなく、昔の人の暮らしを丸ごと背負って立っている花です。一人で眺めても、家族と出かけても、利用者さんや子どもさんに話しても、少し前置きを添えるだけで秋の話題がグッと豊かになります。今年出会った彼岸花にそっと挨拶して、「また来年の秋にもここで会えますように」と心の中で言っておけば、その土地の景色も守られていきます。そうして続いていくところに、この花らしい温かさがありますね。
今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m
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