脳梗塞後に寝たきりで退院した夏~家族で守る『毎日の3点セット』~
目次
はじめに…退院はゴールじゃなくて我が家の「新ルール」開幕です
退院の日って、不思議な日です。病院の廊下を出る瞬間まで「やっと帰れる…!」って胸がいっぱいなのに、玄関に着いた瞬間、家の空気がこう言うんです。
「ここからは、うちのチームでやるんだよ」って。
この話の主人公は、祖母と娘と孫の3人家族。祖母は脳梗塞の後に半身麻痺が残り、ベッド中心の暮らしになりました。娘は「よし、私が全部やる!」と、気合いだけはプロレスラー級。孫はというと、空気を読む天才で、何故か一番落ち着いているタイプです。大人が慌てるほど、子どもは静かに真似をしますからね。怖いくらいに。
退院後の生活で大事なのは、「病気のことを勉強し尽くす」よりも先に、家の中を“安全に回る仕組み”に変えることです。特に夏は、脳梗塞後の寝たきり・半身麻痺の人にとって、静かに危ない季節になります。理由は単純で、暑さが体力と水分を奪い、体の調子が崩れると発熱に繋がりやすく、発熱が続くとさらに水分が減って…と、負のループが回りやすいからです。
そして、この負のループにこっそり混ざってくる、厄介な相棒がいます。
「誤嚥性肺炎」です。
飲み込みが弱くなると、咽込みやすくなったり、食べた後に痰が増えたり、声がガラガラしたりします。本人はしんどいのに、言葉で説明できないこともある。さらに寝たきりだと、痰を自分で出し難い。すると肺のトラブルが起きやすく、そこで発熱が起きる。発熱で汗が出る、息が荒くなる、体力が落ちる。体力が落ちると飲み込みがさらに弱くなる。はい、夏の負のループ、完成です。夏は職人技でループを仕上げてきます。怖い。
でも、ここで希望の話をします。
この負のループ、家族の「観察」と「小さな記録」で、途中で止められることが多いんです。
病院ではプロが見てくれていました。家に帰ったら、家族が“早めに気づく係”になります。そこで役に立つのが、記事タイトルにもある「毎日の3点セット」。体温・血圧・酸素濃度です。難しい医療の話じゃなくて、「いつもと違う」を目に見える数で掴む道具。これがあるだけで、相談する時も説明が上手になります。家族がパニックになり難い。本人も守りやすい。良いこと尽くしです。
娘は退院初日の夜、祖母の横で小声で呟きました。
「よし…明日から完璧にやる」
すると孫が、冷蔵庫に貼る紙を持ってきて言いました。
「完璧じゃなくて、“毎日できるやつ”にしよ?」
……強い。大人が負ける瞬間です。
この先の章では、祖母の体を守るために家族がやるべきことを、難しくし過ぎず、でも大事なポイントはきちんと押さえて、物語として読みやすくまとめていきます。夏の敵は、暑さだけじゃありません。「まあ大丈夫だろう」が一番強い敵です。
さあ、退院は終わりじゃなくて、我が家の新ルール開幕。祖母と娘と孫の3人で、今日から“守り方”を作っていきましょう。
[広告]第1章…頭だけ守れば安心?~いいえ全身が「チーム戦」になります~
退院して家に帰ってきた祖母をベッドに寝かせた瞬間、娘はまず「頭を揺らしちゃいけないよね」と慎重に枕を整えました。正しい。とても正しい。脳の病気と聞くと、どうしても“頭”が主役になりがちです。
でも、孫がすぐに気づきます。祖母の左手が少し冷えていること、足先の布団がいつの間にかはだけていること、口元が乾いていること。
そう、脳梗塞の後に半身麻痺があると、守るべき場所は「頭だけ」じゃなくて、体全部なんです。しかも、本人が自分で動かし難い部分ほど、家族の目と手が必要になります。ここから先は、家族が“チーム”になって支える時間が始まります。
脳梗塞で困るのは、麻痺そのものだけではありません。麻痺は目に見える困りごとですが、本当に怖いのは「見え難い困りごと」が増えることです。例えば、体が動かないことで呼吸が浅くなりやすい。寝返りが少ないと痰が絡みやすい。飲み込みが弱くなると、咽込んだ時に気道へ入りやすい。すると誤嚥性肺炎のリスクが上がる。肺炎が起きると発熱しやすい。発熱すると汗で水分が減り、暑さの中では脱水に寄りやすい。脱水が進むと体はさらに弱って、飲み込みも弱って、痰も切れ難くなって……夏の負のループが回り始めます。
娘はここで一度、静かに深呼吸します。
「え、待って。家って、こんなにイベント多いの?」
孫が返します。
「うん。夏は“連鎖イベント”が多い。回避できるけどね」
小学生の冷静さは、たまに大人を刺してきます。
ここで大事な考え方があります。脳梗塞の後、体は“壊れた人”になったわけではありません。脳のダメージで指令が届き難くなった部分があるだけで、心臓も胃も腎臓も皮膚も、基本は一生懸命に働いています。だからこそ、家族がやることは「動かない部分を、雑に動かす」ではなく、「動かない部分が困らないように環境を整えて、必要な刺激を安全に足していく」になります。
例えば半身麻痺で片側が動かし難いと、同じ姿勢が続きやすくなります。同じ姿勢が続くと、肩や股関節が強張りやすい。強張ると、ちょっと動かしただけで痛みが出て、ますます動かすのが怖くなる。痛みがあると食欲も落ちるし、眠りも浅くなる。眠りが浅いと体力が落ちる。体力が落ちると、発熱や肺炎にも弱くなる。これもまた、静かな負のループです。
だから、ここで“チーム戦”の意味が出てきます。娘が全部背負うと、娘が先に倒れます。祖母も不安になります。孫も空気を読み過ぎて疲れます。チーム戦とは、誰かがヒーローになることではなく、「皆が続けられる形に分けること」です。
祖母本人が出来ることも、ちゃんとあります。たとえ寝たきりでも、目で合図できる、表情で教えてくれる、口を動かせる、痛い場所を示せることがあります。娘は祖母に聞き方を変えました。
「大丈夫?」ではなく、「暑い?寒い?喉渇いた?痛い?」と、短い選択肢で聞く。すると祖母は頷ける。これだけで、家族の介護はグッとやりやすくなります。本人の“伝える力”を守ることは、家族の“守る力”を強くします。
そして夏の話に戻ります。夏は、本人が「暑い」と言い難い季節でもあります。遠慮もあるし、上手く言葉に出来ないこともある。だから家族は、言葉より先に“状況”で判断します。部屋の温度、湿度、汗の量、尿の色や量、口の乾き、呼吸の速さ、痰の増え方、声の変化。これらは、次の章で出てくる「毎日の3点セット」とセットで見ると、かなり強い武器になります。
娘はここで、祖母の枕元に小さくメモを置きました。孫が書いた、やたら可愛い文字です。
「おばあちゃんは、チームのボス。困ったら、すぐ言う」
祖母がフッと笑いました。笑う力がある日は、だいたい良い日です。
第1章の結論はこれです。脳梗塞後の寝たきりと半身麻痺は、「頭を守る」だけで終わらない。全身を、家族チームで、夏の負のループから守る戦いになる。でも、怖がり過ぎなくて大丈夫。チーム戦は、準備と習慣で強くなれます。
次の章では、退院後すぐに家の中で整えるべき“新ルール”を、祖母・娘・孫の作戦会議として進めていきます。ここで仕組みを作れると、夏がグッとラクになります。
第2章…家に帰った初日が勝負!~家族会議は「作戦会議」へ~
退院当日の夜。祖母はベッドで眠り、娘はリビングで力尽き、孫は何故かランドセルを背負ったまま座っていました。たぶん「大事な日だから正装」みたいな感覚です。
娘が半目で言います。
「明日から、退院指導のプリント全部、完璧に守るから…」
孫がすぐ返します。
「完璧は無理。続くやつにしよ。家って“続けた人が勝つゲーム”だよ」
ホントそれ。退院はイベントじゃなくて、生活です。生活は“続けられる仕組み”が一番強い。
病院で聞いた話は、全部正しいです。リハビリ、栄養、水分、体位変換、口のケア、薬の飲み方、受診のタイミング。どれも大事。
ただ、家に帰ると起きるんです。「正しいことが多過ぎて、どれからやれば良いか分からない問題」。これを放置すると、介護はアッという間に“気合いと根性”の世界へ突入します。気合いと根性は初速は速いけど、燃料切れが早い。夏は特に、燃料切れが命取りになります。
だから第2章のテーマは、ズバリ「家のルール化」です。家族会議というより、作戦会議。紙とペンが武器。冷蔵庫は掲示板。祖母の枕元は情報センター。孫は…意外と監査役に向いてます。容赦なく「それ、昨日やってないよね?」って言うので。
退院指導は“最低限の正解”~我が家の事情で“最適化”する~
ここ、誤解されやすいんですが、病院の指導は「これだけは外さないでね」という最低限の安全ラインです。すごく大事。ただし、家庭の人数、家の間取り、暑さ対策、介護できる時間、祖母の性格、孫の生活リズムまで含めると、同じ指導でも“続く形”は家によって違います。
娘は最初、「全部を綺麗に守れないとダメなんだ」と思い込みがちでした。でも孫が言います。
「おばあちゃんの安全が守れたら、勝ち。書類の満点は要らない」
この言葉は、介護の核心を突いています。大切なのは“続けて守れる形”です。
「誰が・いつ・何を」を決めると家族は急に仲間になる
退院後って、不思議と“責任の取り合い”が起きます。
「私がやるよ」
「いや、私がやる」
この言い合い、仲が悪いわけじゃなくて、怖いから起きるんです。失敗したくないから、抱え込む。抱え込むと疲れる。疲れると判断が鈍る。鈍ると事故が増える。夏はそこに暑さが乗って、さらにキツい。
だから、作戦会議では「気持ち」より先に「役割」を決めます。娘が全部抱えないように、孫も“出来る範囲で参加”できるように。孫が出来るのは医療行為じゃありません。でも、生活の見守りと声掛けは立派な戦力です。
例えば、祖母が咽込んだ回数が増えてないか、声がゴロゴロしてないか、口が乾いてないか。これを孫が気づいて娘に報告するだけで、誤嚥性肺炎の予兆に早く近づけます。子どもの目は、意外と正確です。「昨日と違う」に強い。
夏の負のループは“家の中の小さな油断”から始まる
夏の敵は、派手じゃありません。
「ちょっと暑いけど、扇風機でいけるか」
「今日は汗かいてないから、水分は後で良いか」
「咽込んだけど、まあたまたまかな」
この“まあまあ”が積み重なったところに、誤嚥性肺炎と発熱がスッと入り込んできます。
誤嚥性肺炎は、いきなり大騒ぎで始まるとは限りません。少し咳が増える、痰が絡む、声が湿っぽい、食後に苦しそう、夜に咳き込む。そこへ室温や湿度の高さが加わると、体はどんどん疲れて、発熱が起きやすくなる。発熱で水分がグッと減って、痰が粘って、さらに咳が増えて、飲み込みが弱って…というループが完成します。
だから第2章で作るべきは、ループを回さないための“家の仕組み”です。ここで効いてくるのが、次章で本気を出す「毎日の3点セット」。ただし、その前に、家の中のルールを整えないと3点セットも続きません。体温計が行方不明になったら終わりです。血圧計の電池が切れてたら、その日は“雰囲気測定”になります。雰囲気測定は当たりません。未来予知は出来ないんです。
娘は作戦会議の最後に、冷蔵庫へ貼りました。孫の字で書かれたタイトルです。
「おばあちゃん夏の守り方:チーム戦」
その下に、祖母の好きな絵(たぶん猫)も貼ってありました。何故、猫なのか。理由は分かりません。でも、こういう“ちょっと笑える要素”があると、不思議と続きます。介護って、まじめ100%だと息が詰まるんですよね。
この章のゴールは1つ。退院指導を家の事情に合わせて“続くルール”に変えること。完璧じゃなくて良い、続くことが最強。
そして次の第3章で、いよいよ「体温・血圧・酸素濃度」の3点セットが登場します。ここから先は、家族の不安が“数字で落ち着く”ようになります。数字って、味方につけると頼もしいんです。
第3章…体温・血圧・酸素濃度~毎日の3点セットで“変化”を先に見つける~
退院して数日。娘は気づきました。介護って、「何か起きたら対応する」だけだと、毎日が救急車の気分になるんです。何も起きてないのに心臓が忙しい。
そこで孫が提案します。
「お母さん、毎日3つだけ見れば良いよ。あとは“いつも通り”で良い」
娘は思いました。3つで済むなら、人生ラクになるじゃないか、と。
その3つが、体温・血圧・酸素濃度。この記事の主役「毎日の3点セット」です。ここでのポイントは、数字で祖母を“管理”することではありません。数字で“早めに気づく”ためです。脳梗塞後の寝たきり、半身麻痺、飲み込みの弱さがあると、体の異変が大きくなる前に小さく始まりやすい。小さい段階で気づけるほど、手が打ちやすくなります。
そして夏は、暑さそのものが体に負担をかけます。暑い➡汗が出る➡水分が減る➡痰が粘る➡咽込む➡誤嚥しやすい➡肺炎になりやすい➡発熱➡さらに汗…という、あの負のループ。これを止めるには「ループが回り出した瞬間」を掴むのが大事で、そのために3点セットが効いてきます。
体温~熱は“結果”じゃなく“合図”として扱う~
体温は分かりやすいですよね。上がったら心配。下がったら安心。……と言いたいところですが、脳梗塞後の寝たきりでは、そこが落とし穴になります。
まず、夏の発熱は脱水とセットになりやすい。暑いだけで水分は減るのに、発熱すると汗と呼吸でさらに水分が飛びます。祖母が自分で「喉が渇いた」と言い難い時もありますし、飲み込みが弱いと水分を増やすのも簡単ではありません。だから、熱が出たら「熱が出た」だけで終わらせず、「水分が足りているか」「痰が増えていないか」「呼吸がいつもより速くないか」を一緒に見ます。
ここで娘がやらかしがちな勘違いがあります。
「熱が下がった!良かった!解散!」
孫が止めます。
「待って。熱が下がったのは“体力を使って下げた”かもしれないよ」
そうなんです。熱が一晩で下がる日ほど、体の中は水分が減っていることがあります。熱が下がっても、体が回復したとは限らない。脳梗塞の人は再発予防の薬を使っていることも多いので、自己判断で放置せず、いつもと違う発熱は早めに相談に繋げるのが安全です。
血圧~数字は怖がるものじゃなく“状況説明”の道具~
血圧は、家庭で測れる“体の余裕メーター”みたいなものです。高いから即アウト、低いから即アウト、という単純な話ではなく、普段との違いが重要です。
脱水気味になると血圧が上がりやすいことがあります。逆に食事が少ない、眠れていない、体力が落ちていると下がることもあります。寝たきりで半身麻痺があると、体位を変えた時の負担も出やすいので、血圧は「今日は祖母の体が頑張れているか」を見る目安になります。
娘が血圧計の表示を見て青ざめた日がありました。
「高い…どうしよう…」
孫が言います。
「“高い”って言うと怖いから、“今は体が緊張してる”って言おう」
言い方を変えるだけで、焦りが少し減ります。焦りは判断を鈍らせますからね。
血圧の数字がいつもと大きく違う日は、祖母の状態を説明する材料になります。「いつもより高い」「いつもより低い」だけでなく、「食事が少なかった」「汗をかいた」「咽込みが増えた」などと合わせて伝えられると、相談する側もされる側も話が早い。家族が落ち着けるのが一番のメリットです。
酸素濃度~誤嚥性肺炎の“早めのサイン”に気づきやすくなる~
そして3点セットの中でも、夏のループ対策でかなり頼れるのが酸素濃度です。指に挟むだけで測れるので、血圧より簡単に感じる人も多いです。
誤嚥性肺炎は、最初は「ちょっと咳が増えた」「痰が増えた」「声が湿っぽい」「夜に咳き込む」みたいに始まることがあります。そこから発熱が出たり、息がしんどそうになったりして、酸素の回りが落ちることがあります。もちろん酸素濃度は万能ではないし、機械の誤差もあります。でも、「いつもの祖母より明らかに違う」変化が出た時に、家族が早く気づけるのは大きい。
娘はある日、祖母の指を挟みながら言いました。
「何かこれ、未来が見える装置みたいで怖い…」
孫が返します。
「未来は見えないけど、“今の祖母のしんどさ”は見える」
その通り。酸素濃度は、本人が言葉にできない“しんどさ”を数字で代弁してくれることがあるんです。
3点セットは“朝の点呼”にすると続く
ここで大事なのは、測り方のテクニックより「続け方」です。続かなければ、変化に気づけません。続けるコツは、毎日同じタイミングで、同じ流れでやること。祖母の体が落ち着いている時間帯にすると、数字が比べやすくなります。
娘は朝、祖母に声をかけます。
「おばあちゃん、チームの朝礼します」
孫が横で手を挙げます。
「体温よし、血圧よし、酸素よし!」
祖母は笑って頷きます。笑顔が出る時は、たいてい循環も呼吸も悪くない。数字だけじゃなく、表情も一緒に見ているのが実はとても大切です。
数字が“いつも通り”の日は、安心して良い日です。数字が“いつもと違う”日は、早めに手を打つ日です。ここでの勝ち方は、何も起こさないことじゃなくて、起こりそうな芽を小さいうちに摘むこと。夏の負のループは、芽のうちなら止められます。
次の第4章では、そのループの本丸である「暑さ」と「脱水」と「誤嚥性肺炎」の関係を、家の中でどう回避するかを、さらに具体的に物語でまとめます。夏は強敵だけど、チーム戦なら勝てます。祖母も、娘も、孫も、ちゃんと勝てます。
第4章…夏は静かに攻めてくる~脱水・熱・肌トラブルの「三つ巴」に備える~
夏の怖さって、いきなりドカンと来ないところなんです。台風みたいに「来ます!」って予告してくれない。むしろ、静かに忍び寄って、気づいたら家の中が“夏モードの罠だらけ”になっています。
娘が言いました。
「エアコンつけてるし、水も飲ませてるし、完璧じゃない?」
孫が返します。
「夏は“完璧そうに見える日”が危ない。油断に強いから」
この子、人生何周目ですか。
脳梗塞後の寝たきり、半身麻痺、飲み込みが弱い祖母にとって、夏の要注意は大きく3つが絡み合います。脱水、熱、そして肌トラブル。ここに誤嚥性肺炎が絡むと、負のループが強化されます。だから第4章は、家の中でできる“夏の守り方”を、ムリなく続く形でまとめます。
脱水~水分だけじゃなく「体に入る量」を増やす発想~
夏は汗で水分が減ります。寝たきりでも減ります。むしろ、寝たきりの方が「暑い」「喉が渇いた」を言えないことがあって危ない。半身麻痺で自分でコップを持ち難いなら、なおさら家族が主導になります。
ここで大事なのは、水分を“飲ませる”だけじゃなく、体に“入る形”にすることです。飲み込みが弱いと、サラサラの水は咽込みやすいことがあります。咽が増えると誤嚥性肺炎のリスクが上がる。だから、祖母に合わせて飲みやすい形を作るのがコツになります。
娘は最初、気合いで水を勧めました。
「はい、お水!飲んで!」
祖母は咽込みました。
孫が一言。
「お母さん、それ“咽込みチャレンジ”になってる」
言い方は雑ですが、指摘は正しい。
例えば、少しトロミのある飲み物にすると楽な人もいますし、ゼリー状の水分にすると安心な人もいます。飲み込みの状態は個人差が大きいので、主治医や訪問の専門職の助言をもらいながら、その人に合う形を見つけるのが安全です。大切なのは「咽込まずに体に入ること」。量より質、そして安全です。
それから、食事も水分の味方です。汁物、果物、軟らかいデザートなど、食べることで水分が入るルートを増やせます。孫は冷蔵庫を開けて言いました。
「おばあちゃんの水分、飲むだけじゃなくて“食べても増える”作戦でいこう」
作戦名が小学生なのに、やってることはかなり合理的です。
熱~夏の発熱は「一晩で終わらない」と思って動く~
第3章でも触れましたが、夏の発熱は“脱水とセット”になりやすいです。熱が出ると汗が増え、呼吸も速くなり、水分が減る。水分が減ると痰が粘る。痰が粘ると咳が出る。咳が出ると体力が減る。体力が減ると飲み込みが弱る。飲み込みが弱ると誤嚥性肺炎が起きやすい。はい、例の負のループです。
ここで危ないのが「熱が下がったから大丈夫」と思ってしまうこと。祖母が一晩で熱が下がっても、体の中の水分が戻っているとは限りません。むしろ、熱が下がった後こそ、ぐったりすることもあります。だから、熱が出たら下がったとしても、いつもと違うなら相談の対象にする。これが家で守る時の基本になります。
娘は体温計を見て一喜一憂しがちでした。
「上がった!どうしよう!」
「下がった!勝った!」
孫が言います。
「それ、株価みたいになってる」
確かに。体温は上がった下がったの勝負じゃなくて、体の状態を読むためのサインです。勝負しても勝てません。相手は夏ですから。
肌トラブル~汗と圧と蒸れは、静かに“痛い”を作る~
寝たきりで半身麻痺があると、同じ場所に圧が掛かりやすくなります。夏は汗で蒸れやすい。蒸れると皮膚がふやけやすく、ちょっとした摩擦で傷になりやすい。傷になると痛みが出る。痛みがあると動かすのが怖くなる。動かさないとさらに圧がかかる。ここにも小さなループがあります。
祖母は言葉で訴えにくい日もあります。だから家族が観察します。背中、腰、お尻、かかと、肘。赤みがないか、湿っていないか、痒がっていないか。ここは“毎日のルーティン”にしてしまうと強いです。
娘はある日、祖母の背中をそっと見て驚きました。
「え、こんなに汗かいてたの?」
孫がすぐ言いました。
「汗って、見えないところに溜まる。背中は“夏の貯金箱”」
貯金箱にしては嫌な貯まり方ですが、例えは妙に分かりやすいです。
肌を守るのは、見た目の問題じゃありません。痛みを減らして、眠りを守って、体力を守ることに繋がります。体力が守れれば、飲み込みの力も保ちやすい。結果的に誤嚥性肺炎のリスクにも関わってきます。つまり肌は、夏の戦いの前線です。
夏の負のループを断ち切る“合言葉”は「早めに相談」
ここまで読んで、「やること多い…」となったら、安心してください。家族が全部を完璧にやる必要はありません。家で守る介護は、専門職と一緒に組み立てるものです。
体温・血圧・酸素濃度の3点セットは、相談の時にとても役に立ちます。「何となく元気がない」より、「体温がいつもより高めで、酸素濃度が普段より下がっていて、咳と痰が増えた」の方が、話が早い。早いということは、祖母がしんどい時間を減らせる可能性が上がるということです。
娘が最後に言いました。
「なんか…夏の敵って、暑さじゃなくて“放っておくこと”かも」
孫が頷きます。
「うん。だから、放っておかない仕組みが3点セット」
祖母は小さく笑って、娘の手を握りました。チームの士気が上がる瞬間です。
夏は静かに攻めてきます。でも、こちらも静かに守れます。脱水を溜めず、熱を軽く見ず、肌を見落とさず、咽込みや咳の変化を見逃さず、数字を味方にする。これが出来ると、誤嚥性肺炎と発熱と暑さの負のループは、回り難くなります。回り難くなるだけで、家の空気はグッと軽くなります。
次は「まとめ」で、祖母・娘・孫のチーム戦をギュっと1つに結びます。
[広告]まとめ…夏の敵は暑さと油断~味方は「小さな記録」と早めの相談~
退院って、嬉しい出来事のはずなのに、何故か家に着いた瞬間に現実が肩に乗ってきます。
「はい、今日から本番です」って。しかも夏だと、敵が暑さという名の“ステルス”でやってくる。音もなく、派手な予告もなく、じわじわ体力と水分を削ってきます。
脳梗塞の後に寝たきりや半身麻痺があると、家族が気をつけたいのは「大きな事件」よりも「小さな変化」です。咽込みが少し増えた、声が少し湿っぽい、痰が増えた、食後に咳き込む、呼吸がいつもより速い、口が乾く、汗が多い、尿が少ない。こういう小さなサインが、誤嚥性肺炎と発熱と暑さの負のループの入口になります。
そして、この負のループは、回り出すと勢いがつきやすい。暑さで汗が出る、脱水に寄る、痰が粘る、咽込む、誤嚥しやすくなる、肺の調子が崩れる、発熱する、さらに汗が出る。祖母が言葉で訴え難い時ほど、家族の「いつもと違う」センサーが頼りになります。
でも、ここで安心してほしいのは、家族が医療者になる必要はないということです。家族が担うのは、“早めに気づいて相談できる状態”を作ること。そこに効くのが、毎日の3点セットでした。体温・血圧・酸素濃度。数字は怖がるものじゃなく、祖母の状態を説明してくれる通訳です。通訳がいると、家族の不安が落ち着き、相談が早くなり、手当てが早くなる可能性が上がります。
娘は最初、「全部私がやらなきゃ」と抱えそうになりました。でも孫が何度も言ってくれました。
「完璧より、続くやつ」
この一言で、家の介護は“気合い勝負”から“チーム戦”に変わりました。祖母は守られる側であると同時に、表情や合図でチームを支える大事なメンバーです。娘は司令塔。孫は監査役、そして空気を明るくする天才。チーム戦になると、不思議と家の中の空気が軽くなります。軽くなると、続きやすくなる。続くと、守れる。良い循環が回り始めます。
夏の介護で一番怖いのは、「熱が下がったからもう大丈夫」と油断してしまうことかもしれません。熱が下がっても、水分が戻っているとは限りませんし、肺の調子が戻っているとも限りません。だから、いつもと違う発熱や、咽込み・咳・痰の変化がある時は、早めに相談する。ここだけは、遠慮しないで良い。むしろ遠慮しない方が、祖母がしんどい時間を短く出来る可能性が上がります。
最後に、祖母・娘・孫の家の“合言葉”を置いておきます。
「夏の敵は暑さと油断。味方は、小さな記録と早めの相談。」
娘が冷蔵庫の紙を見上げて言いました。
「よし、今日も朝礼しよ」
孫が元気よく返します。
「体温よし、血圧よし、酸素よし!」
祖母は笑って、目で「ありがとう」を伝えました。
夏は強い。でも、家族のチーム戦も強い。今日の小さな確認が、明日の安心に繋がります。
今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m
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