暦で辿る冬の入り口と出口~二十四節気と七十二候で味わう季節~
目次
はじめに…暦を知ると冬がやさしくなる
冬って、肌に触れる空気がキュッと冷たくなって、「ああ、来たなぁ」と分かる季節ですよね。けれど私たちが感じるそのタイミングと、暦の上で「ここから冬ですよ」とされるタイミングは、実は少しズレています。暦では立冬をもって冬の幕が開き、立春で冬は終わりを告げます。実感としてはまだ寒いのに「もう春?」と感じるのは、そのズレのせいです。
このズレを「何となくそういうものか」で済ませてしまうのは勿体ないんです。古い人たちは太陽の動きや自然の変化を細かく観察して、季節を知らせる目安として二十四節気や七十二候を残してくれました。これを手元に置いておくと、「今日は冷えるなあ」で終わらずに、「今は小雪の頃だから風が冷たいのも当たり前」「七十二候ではそろそろ動物が冬支度をする頃だな」と、季節を立体的に感じられるようになります。
特に冬は、クリスマスやお正月、節分など、行事がギュッと詰まっています。ご家族で過ごす方も、介護や支援のお仕事で季節感を大事にしたい方も、暦のリズムを知っておくと行事や声かけのタイミングがとても付けやすくなります。「今日は暦の上では…」と一言添えるだけで、会話に季節の香りがするから不思議です。
このあと、冬を示す二十四節気と、それをさらに細かくした七十二候を辿っていきます。難しい専門書のようにはしませんので、ご自宅での過ごし方のヒントにしたり、ブログやお便りのネタにしたり、ケアの現場での話題作りに使ったり、自由に味わってみてください。冬の間中「今はどの辺りかな?」と見返して楽しんでもらえるように書いていきますね。
[広告]第1章…冬はいつからいつまで?暦が示す季節のはじまりとおしまい
「寒くなってきたから冬だなあ」と思う日と、暦の上で「ここから冬です」とされる日は、じつは少し違います。
私たちが普段感じている季節は、気温や風や雪の様子など“体で感じる季節”。
一方で、昔から伝わる暦の方は、太陽の動きを元にして決められた“決まりごとの季節”。
この2つを並べてみると、「まだ寒いのに春?」「まだ暖かいのに冬?」というズレが出てくるわけです。
暦では冬は「立冬」から
暦の上では、冬はだいたい11月7日頃の「立冬」から始まります。
この日は「冬の気配が立つ日」という意味で、ここから先は寒さに向かっていくと考えられてきました。
まだ紅葉を楽しめる地域もありますし、雪なんてまるで降らない場所もありますが、暦ではここを冬の入口と見なします。
言い換えると、冬の準備を始める合図の日でもあります。
そして終わりは、翌年の2月4日頃の「立春」です。
「えっ、2月なんてまだ真冬じゃない?」と感じますよね。
でも暦ではこの日から春に入ることになっていて、1年のスタートとしてもとても大切にされてきました。
まだ雪が残っていても、地面の下では春に向けた動きが少しずつ始まっている――そう考えると、2月初めの冷たい空気にも少しだけ希望が混ざって感じられます。
体感の冬と暦の冬はずれていて当たり前
どうしてズレるのかというと、人が感じる寒さは地域やその年の天候に左右されるからです。
日本は南北に長く、海に囲まれているので、同じ日でも北海道と九州ではまるで季節が違います。
一方で暦は全国で同じ日付を使うため、どうしても「体感の季節」とはズレてしまうのです。
ここを知っておくと、「暦ではもう冬だから、今日は冬らしいものを楽しもう」といった風に心の切り替えがしやすくなります。
「ズレている」より「先に教えてくれるもの」と考える
暦を「ズレてるなぁ」と思うより、「少し早めに季節の知らせをくれるもの」と考えると分かりやすいです。
例えば11月に立冬を迎えたら、防寒具を出すタイミングにしたり、冬の行事の準備を考え始めたり、お便りやブログを書くなら冬の話題に寄せていったり――そうした実生活の目安にできます。
さらに、介護や支援のお仕事では「暦の上では今日から冬なので、湯冷めに気をつけましょうね」のように声をかけると、季節を共有する小さな会話が生まれます。
つまり、暦の冬は11月初めに始まり、2月初めで終わる。
実際の寒さはその前後に広がっている。
この2つを頭の中で重ねておくと、冬という季節がグッと分かりやすくなりますし、「今は暦の上でどのあたりかな」と思うだけで、日常が少し上品な時間になります。
第2章…草木や動物が動き出す七十二候の世界
冬のことを暦でとらえるとき、いちばん分かりやすい入口になるのが二十四節気です。1年を24個に分けた昔からの季節の目安で、そのうち冬にあたるのが「立冬」「小雪」「大雪」「冬至」「小寒」「大寒」、そして次の季節を呼び込む「立春」です。1つずつ見ていくと、寒さの段階がとても丁寧に並んでいることが分かります。
最初に登場するのが、だいたい11月7日頃の「立冬(りっとう)」です。ここで「冬が立つ=冬が顔を出す」とされ、空気がカラッとしてきたり、朝晩の冷えがはっきりしてきたりします。紅葉がまだ残っている地域でも、暦の上ではここから冬。衣類や行事の話題も、ここから冬寄りにしていくと季節に寄り添った感じが出ます。
次が11月23日頃の「小雪(しょうせつ)」。名前に「雪」とありますが、どっさり降るというより「そろそろ舞うことがある頃だよ」という合図です。日ごとに冷たさが増して、北風の音がほんの少し鋭くなる頃ですね。ここまで来ると庭やベランダの冬支度を済ませておきたいところです。
12月7日頃になると「大雪(たいせつ)」。字の通り、雪が本格的になるとされた時期です。日本列島すべてが大雪になるわけではありませんが、山あいでは積もり始め、街でも「もう冬用コートじゃないと厳しいな」と感じる頃。人の体も冷えやすくなるので、声かけや入浴の時間帯に気を配るのにちょうどいい季節の区切りです。
そして12月22日頃が「冬至(とうじ)」。1年のうちで昼が一番短く、夜が一番長い日です。昔からゆず湯に入ったり、かぼちゃを食べたりと、体を守るための知恵が受け継がれてきました。気温だけでなく、日照時間が短くなることで体調を崩しやすい時期でもあるので、ここを1つの峠と考えると分かりやすいです。
年が明けて、1月5日頃になると「小寒(しょうかん)」。ここは「寒の入り」とも呼ばれ、本格的な寒さがここから始まりますよ、というお知らせです。外に出ると「おお、さっきまでの寒さと違う」と感じるあのピンと張った冷気ですね。水道の凍結や、早朝の外出などに注意するのもこの辺りからです。
さらに1月20日頃の「大寒(だいかん)」で寒さはピークに達します。読んで字のごとく「いちばん寒い頃」。これを過ぎると本当に少しずつですが、寒さがやわらいでいきます。一番厳しい時期が分かっていると、準備も心構えもやりやすくなりますし、「もうすぐ抜ける」と思えるだけでも気持ちが楽になります。
そして2月4日頃の「立春(りっしゅん)」で、暦の上では春の始まり。まだまだ気温は低く、地方によっては雪も残りますが、二十四節気ではここで季節が切り替わります。冬を締め括る日でもあり、新しい年の節目でもあるので、ここを目標に冬の計画を立てておくと、最後まで季節を楽しめます。
こうして並べてみると、冬の二十四節気は「だんだん冷たくなる」「いちばん寒い」「ここからゆるむ」という3つの流れがはっきりしています。毎年同じ日付を目安にできるので、暮らしの予定や施設のおたより、季節の話題作りにもとても使いやすい区切りになります。
第3章…草木や動物が動き出す七十二候の世界
二十四節気が季節の「大きな柱」だとしたら、七十二候はその柱の間を丁寧に埋める「極め細かな窓口」のようなものです。凡そ5日ごとに名前が付けられていて、空の色や風の向き、草木の芽ぶき、動物の動きといった、ごく小さな変化を言葉にして伝えています。冬は景色が動かないように見えますが、七十二候をなぞっていくと「実は静かなだけで、ちゃんと季節は進んでいる」と分かるようになります。
初冬――花が咲き、地面が凍り、空から虹が消えるころ
暦の冬が始まる11月上旬には「山茶始開(さざんかはじめてひらく)」という、美しい名前の候が置かれています。寒さのなかで咲く花をちゃんと見ていた人たちがいたからこその名前ですね。続いて「地始凍(ちはじめてこおる)」では、大地の表面が薄っすらと凍り始める様子が描かれます。まだ本格的な氷ではないけれど、土が夜の冷気を含み始める時期です。
11月も下旬になると「金盞香(きんせんかさく)」で水仙が香り、「虹蔵不見(にじかくれてみえず)」で虹が見えなくなるとされます。冬の空気は乾き、光の屈折が起こり難くなるからです。さらに「朔風払葉(きたかぜこのはをはらう)」で北風が木の葉を払い、冬の景色がすっきりしていきます。12月初めの「橘始黄(たちばなはじめてきばむ)」になると、常緑の木にも季節の色づきが訪れ、いよいよ冬の顔が整ってきます。
真冬――動物は眠り、魚は群れ、地上は静けさを深める
12月に入って寒さが増すと、「閉塞成冬(そらさむくふゆとなる)」で空がどんよりと閉ざされたようになり、「熊蟄穴(くまあなにこもる)」で熊が冬ごもりに入ります。人も同じで、外に出るより室内での時間が長くなりますね。さらに「鱖魚群(さけのうおむらがる)」では鮭が川をのぼる様子が語られ、冬でも水の中では命が活発に動いていることを教えてくれます。
冬至のころには「乃東生(なつかれくさしょうず)」という、ちょっと不思議な名前の候が置かれています。夏に枯れた草がまた芽を出す、という意味で、1年で一番昼が短い時期にも、小さな再生が始まっていることを知らせる言葉です。年末の「麋角解(さわしかのつのおつる)」では大きな鹿が角を落とすとされ、自然界が次の季節の準備をしていることが分かります。
厳寒――凍った地面の下で、春への支度が始まる
年が明けて1月になると、外気はさらに冷えるのに、七十二候の名前には少しずつ「芽ばえ」の気配が混ざってきます。元日の頃の「雪下出麦(ゆきわたりてむぎいずる)」では、雪の下で麦が伸びているとされ、続く「芹乃栄(せりすなわちさかう)」では、春の七草にも入るせりが元気に育つ姿が描かれます。地上は凍っていても、根元では春を見据えた動きが始まっているというわけです。
1月中旬の「水泉動(しみずあたたかをふくむ)」になると、凍っていた泉がわずかに動き出すとされます。まだ氷は解けませんが、水が中から温もりを持ち始める――そんな細かい変化まで言葉にしているところが、この暦の粋なところです。その後「雉始雊(きじはじめてなく)」で雄のキジが鳴き、「款冬華(ふきのはなさく)」でふきのとうが姿を見せ、「水沢腹堅(さわみずこおりつめる)」で沢の水がさらに厚く凍るという、張りつめた冷気と春の兆しが入り混じる流れが続きます。
そして立春直前の「鶏始乳(にわとりはじめてとやにつく)」で、鶏が卵を産み始めるとされます。まだ外は寒いのに、生きものの体内時計は春を感じ取っている――この終わり方がとても綺麗です。冬の最後に、次の季節の入口をきちんと置いているのです。
七十二候はこうして、冬を「寒さ一色」にしてしまわず、花が咲き、葉が落ち、動物が休み、再び芽が動き出すという、細やかな変化として描いてくれます。5日ごとに移り替わる名前を眺めているだけでも、「今日はこの情景なんだな」と思えて、冬の日常が少し温かくなります。
第4章…季節の目安を日々の暮らしとケアの場面にそっと取り入れる
ここまでで、冬を示す二十四節気と七十二候をざっと辿りました。
「ふうん、昔の人は細かく季節を見ていたんだなあ」で終わらせてもいいのですが、せっかくなので今の生活にも少しだけ混ぜてみましょう。難しい準備は要りません。ほんの一言を添える、行事の日付をずらさずに行う、季節の言葉をタイトルにつける――そんな小さな工夫で、文章にも会話にも深みが出ます。
例えば立冬の頃になったら、「暦ではもう冬だそうですよ」と家族やご利用者さんに声をかけるだけで、その日がちょっと特別になります。実際にはまだそんなに寒くなくても、「じゃあ今日は温かいものにしようか」「そろそろ上着出そうかな」と話題が転がっていきます。暦は話のタネにしやすいので、場を温めるアイスブレイクにもピッタリです。
冬至なら、ゆず湯やかぼちゃの話がしやすいですね。「1年で一番、昼が短い日だから、体を冷やさないようにしましょうね」と添えると、介護や見守りの場面でも自然に使えます。お便りやブログを書く時も、その時期の二十四節気を一言を入れておくと季節の流れが伝わるので、読み手が時期をイメージしやすくなります。
七十二候はさらに細かいので、全部を覚えようとしなくて大丈夫です。
「熊蟄穴」なら「そろそろ動物も冬ごもりね」と言い換えたり、「水泉動」なら「まだ寒いけど、地面の下は春の準備をしている頃です」と説明したり、今時の言葉に変換して使えば十分役に立ちます。高齢の方と話す時は昔の言い回しをそのまま使って懐かしさを引き出し、子どもに話す時はやさしい日本語に変える――同じ暦でも相手によって味付けを変えられます。
また、行事やレクリエーションの企画を考える時にも、暦をひと目見ておくと計画が立てやすくなります。12月上旬は「これから本格的に寒くなるよ」と伝える企画、1月の寒の入りの頃は「体を温める」「転倒に注意する」など健康寄りのテーマ、2月に入ったら「暦では春です」と気持ちを上向きにするテーマ、といったように季節の通り道に沿って内容を変えていけます。季節と話題が合っていると、それだけで読んだ人・参加した人の納得感が高まります。
そしてもう1つ。暦の言葉はタイトルや見出しにするととても美しく見えます。
「冬至の日にしたいこと」
「小寒の頃の体の整え方」
「立春前に片付けておきたい冬の仕事」
こんな風に重ねると、日本の季節らしさがパッと立ち上がります。普段の暮らしに、ほんの少し古い呼び名を混ぜるだけで文章が上品になりますし、季節の記事を何本も続けて書く時の差し替えワードとしても使いやすいです。
つまり、二十四節気と七十二候は「知って終わり」の知識ではなくて、「話す・書く・お世話をする」を季節に寄せるための便利な道具です。冬はどうしても室内に籠りがちですが、暦を味方に付けると、日々に変化の色が増えていきます。
[広告]まとめ…春を待つ心で冬を満喫する
冬はどうしても「寒い」「暗い」「動きにくい」といった印象が先に立ちますが、暦のページを開いてみると、本当はとても表情の豊かな季節だと分かります。11月の立冬でそっと始まり、12月で深まり、1月でキュッと引き締まり、2月の立春でふわりとほどけていく――そんな流れが二十四節気には綺麗に並んでいました。
さらに細かく見ていく七十二候では、花が咲いたり、動物が眠ったり、凍った地面の下で芽が動き出したりと、5日ごとに小さな「知らせ」が届きます。外の景色が止まって見える真冬でも、自然は止まっていない。そう思えるだけで、冬の日が少しやわらかくなります。
そしてこの暦の言葉は、暮らしやおしごとにそのまま使えます。「今日は〇〇の頃なんですよ」と一言を添えれば会話になり、行事のテーマにもなり、文章のタイトルにもなります。とくに福祉・介護の場面では、季節を感じることが心の潤いに繋がりますから、昔ながらの季節の呼び名はとても相性がいいのです。
これから冬本番を迎える方も、「早く春になってほしい」と思っている方も、どうか体を冷やさずに、できる範囲で冬の楽しみを拾ってみてください。暦を手掛かりにすると、寒さだけではない冬の顔が見えてきます。ゆっくり進む季節と一緒に、心もゆっくり進めていきましょうね。
今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m
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