冬の介護施設での事故防止~研修と委員会を日常ケアに変えるコツ~

[ 冬が旬の記事 ]

はじめに…冬になると増えるヒヤリハットをどう受け止めるか

冬の介護施設は、空気がキリッと冷えはじめる頃から、どことなく緊張感が増していきます。廊下に敷かれたマット、厚手の衣類、乾燥した空気、早朝と夕方の冷え込み。どれも当たり前の冬の風景なのに、現場で働く職員さんにとっては「転倒しないかな」「体調は崩れていないかな」と、心の中で常に小さな心配ごとが増えていく季節です。

その不安を少しでも減らそうと、多くの施設では事故防止マニュアルを整え、目標を掲げ、勉強会や研修を重ね、委員会での検討を繰り返しています。月ごとに件数を集計し、昨年と比べてどうかを確認しながら、「次こそは減らしたい」と対策を積み上げていることでしょう。

ところが、書類や会議は増えているのに、現場で感じるヒヤリハットの回数が、思ったほど減らないと感じることはないでしょうか。職員同士で気を付けているつもりなのに、忙しい時間帯には同じような場面で躓きや転倒が起きてしまう。「また起きてしまった」「分かってはいたのに」という、やるせなさだけが残ってしまうことも少なくありません。

本来、冬の事故防止は、紙の上の計画や会議室での話し合いだけでは完結しないはずです。利用者さんの表情、歩き方、衣類の重ね着の具合、浴室やトイレの温度差、夜間の見回りの声かけ。そうした、日々の生活の一場面一場面にこそ、危険の芽を見つけて摘み取るチャンスが隠れています。

この文章では、冬の介護施設で起こりやすい事故の背景を振り返りながら、従来の研修や委員会を否定するのではなく、「現場と繋がる形」に組み替えていく視点を大事にしていきます。勉強会をレクリエーションの時間に取り入れる工夫や、委員会を「現場の編集会議」として活かす発想など、少し角度を変えるだけで冬の事故防止がグッと現実的になるヒントを、一緒に辿っていきましょう。

そして最後には、職員だけが頑張るのではなく、利用者さん、家族、経営者までを巻き込みながら、冬を「危ない季節」ではなく「安心して過ごせる季節」に変えていくための、やさしい一歩を考えていきたいと思います。

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第1章…冬に増える介護事故~身体・環境・人のリスクを整理する~

冬の介護施設では、同じフロア、同じ利用者さん、同じ介護スタッフでも、季節が冬に変わるだけで事故の起こりやすさが少しずつ変化していきます。廊下を歩く足取りが重くなり、ベッドからの立ち上がりに時間が掛かり、トイレや浴室への移動がいつもより不安定に感じられる。そうした小さな変化が積み重なることで、転倒や打撲、誤嚥などのトラブルに繋がりやすくなります。

冬の冷え込みは、利用者さんの筋肉や関節の動きを鈍らせます。足首や膝、股関節が強張ると、一歩を踏み出す時に足が思うように上がらず、絨毯の端や布団の裾に足先を引っ掛けてしまうことがあります。厚手のズボンや重ね着した衣類も、膝の曲げ伸ばしや上半身の捻りを妨げ、ベッドから車椅子への移乗や、トイレでの立ち座りの動作をぎこちないものにしてしまいます。

活動量が落ちることも、大きなリスクです。寒いとどうしてもベッドやこたつの近くで過ごす時間が長くなりがちです。歩く距離が減れば筋力も落ち、脹脛や太腿の力が弱くなって、立ち上がった瞬間にふらつく場面が増えます。血流が悪くなって手足が冷えると、痛みや痺れに気づき難くなり、いつの間にか擦り傷や打撲を作ってしまうこともあります。

さらに、冬は飲水量が減りやすく、口の中や喉が乾燥しがちです。唾液が減ると喉の潤いが足りず、飲み込みの動作にも影響が出ます。ちょっとしたお茶やお粥でも咽せやすくなり、誤嚥から肺炎に繋がる危険も高まります。インフルエンザやノロウイルスなどの感染症が流行する時期でもあるため、体力が落ちている利用者さんにとっては二重三重の負担です。

環境の変化も、冬ならではの落とし穴を作ります。暖房器具や加湿器が増えることで、コンセント周りやコードが床に張り出し、普段は何もなかった場所に「躓きポイント」が生まれます。ポータブルトイレ、予備の掛け布団、厚手のカーテンなど、冬支度のために物が増えると、動線がわずかに狭くなり、車椅子での方向転換や歩行器の取り回しが難しくなることもあります。

床やマットの状態も、季節によって変わります。冷え込みが強い地域では、窓際や出入り口の近くの床が冷えやすく、結露や湿り気で滑りやすくなることがあります。逆に、暖房で乾燥しすぎると、静電気や埃が増えて、体調不良や不快感に繋がることもあります。こうした細かな環境要因が、尻餅、転倒、衝突といった事故の背景になっている場合も少なくありません。

もう一つ、見落としがちなのが職員側の変化です。冬は日の出が遅く、日没が早いため、一日を通して「暗い時間」が長くなります。通勤時の冷え込みや路面状況への不安、インフルエンザ流行による職員欠勤なども重なり、気づかないうちに心身の疲労が溜まっていきます。厚手の制服や重ね着をしていると、介助の動きもいつもより少しだけ重たくなり、慌ただしい時間帯には声かけや確認が疎かになることもあります。

早朝の起床介助、朝食前後のトイレ介助、入浴の時間帯、夕食前後の排泄ラッシュなど、元々から忙しい時間帯は、一瞬の判断や「いつもなら気づくはずの違和感」を見逃しやすい場面でもあります。そこに、冬の寒さや人員の薄さが重なると、ずり落ち、ベッドからの転落、車いす同士の接触、食事中の誤嚥などが集中しやすくなります。

こうして眺めてみると、冬の事故は誰か一人の不注意ではなく、「体の変化」「環境の変化」「心と働き方の変化」が静かに積み重なった結果として起こっていることが分かります。それなのに、振り返りの場では「気をつけます」「注意します」で終わってしまい、こうした根っこの部分に踏み込めないことも多いのではないでしょうか。

次の章では、こうした冬ならではのリスクに対して、目標管理や勉強会、研修、委員会といった取り組みが、なぜ現場感覚と噛み合わず、空回りしてしまうことがあるのかを、少し冷静に見つめ直していきます。


第2章…目標管理と研修・委員会が空回りしてしまう理由

多くの施設では、冬場の事故が続くと「今年こそは転倒ゼロを目指そう」「誤嚥を〇割減らそう」といった目標を掲げ、年間の計画表や委員会のテーマに落とし込んでいきます。書類の上ではとても立派で、実地指導の時に説明しても、筋の通った取り組みに見えるはずです。ところが現場で働く職員さんの感覚としては、「また目標が増えた」「また会議が増えた」という負担感の方が先に立ち、日々のケアの質にまで届いていかないことが少なくありません。

その理由の1つは、目標の立て方が「数字を減らすこと」に偏りやすいからです。例えば「転倒件数を半分にする」という掲げ方は、一見とても分かりやすく、やる気も引き出せそうに見えます。しかし、実際の現場では誰かが転びそうになった場面で、咄嗟に支えて未然に防いだことが何度もありますし、「あの配置だと危ないからベッド位置を変えよう」と気づいて動いた職員の工夫もたくさんあります。こうした細かな努力は数字には表れません。件数だけを追い掛けていると、いつの間にか「数を減らすこと」が目的となり、本来大切にしたい利用者さんの安心感や職員の気付きが、記録の中に埋もれてしまいます。

もう1つの理由は、研修や委員会の時間帯が、現場の忙しさとズレてしまうことです。例えば、午前中の比較的落ち着いた時間に委員会を設定し、日勤帯のベテランが集まって熱心に話し合ったとします。資料もパワーポイントも完璧で、「これなら大丈夫」と感じるかもしれません。しかし、実際に事故が多いのは、早朝の起床介助や夕方の排泄ラッシュ、夜勤との交代前後など、人手も時間もギリギリな場面です。その時間帯に床を歩き回っているのは、若手や非常勤の職員であることも多く、委員会で決めた内容が、一番困っている人たちにきちんと届いていないことがあります。

さらに、研修で扱う内容が「教科書的」であればあるほど、「それは分かっているんだけど…」というもどかしさを生みやすくなります。正しい移乗介助の手順、誤嚥のリスクが高い姿勢、環境整備のポイント。どれも基本として大切ですが、現場の職員は日頃から意識しようとしています。それでも冬になると同じような場所で同じような転倒が起きるのは、利用者さん個々の癖や、そのフロア特有の動線、時間帯ごとの人員配置といった「現場ならではの事情」が絡んでいるからです。教科書の内容だけをなぞる研修では、そのズレに手を伸ばすことができません。

委員会の場でも、同じようなことが起きがちです。議題はいつもまじめで、「ヒヤリハットの件数」「原因の分類」「対策案の検討」と進んでいきますが、席についているのは役職者やリーダークラスが中心で、実際にその場に居合わせたヘルパーや夜勤者の声は、報告書の数行に要約されているだけということもあります。書類にまとめる段階で、言葉が綺麗に整えられてしまい、「本当はもっとバタバタしていて、誰も悪くないけれど条件が悪かった」という現場の息遣いが抜け落ちてしまうのです。

こうした状況が続くと、職員の側にも少しずつ諦めが生まれます。「どうせ委員会でまた同じ話になる」「研修で聞いたことを現場でやる余裕なんてない」という思いが積み重なると、会議や研修そのものが「やらなければいけないもの」に変わっていきます。本来は事故を減らし、働きやすさを高めるためのはずが、「書類を揃えるための行事」になってしまうと、心の中でブレーキが掛かり、本当に言いたいことを飲み込んでしまう職員も出てきます。

目標管理の場でも、同じような「すり替わり」が起こります。本当は「利用者さんのこの行動を、もう少し安全に出来るようにしたい」「この時間帯の職員配置を見直したい」といった具体的な願いが出発点であるはずなのに、年度計画や評価表に落とし込む段階で、「転倒件数の削減」「誤嚥事例の削減」といった抽象的な文言に変換されてしまうのです。その結果、目標を達成したかどうかを確認する時にも、「件数が増えたか減ったか」という見方に偏り、現場で起きている小さな前進や工夫が見えにくくなります。

そして忘れてはならないのが、冬という季節そのものが、職員と利用者さんの両方にジワジワと負荷をかけているという事実です。インフルエンザ流行による人手不足、雪道の通勤への不安、家族の体調不良の心配。そんな中で「目標を達成しなければ」「もっと事故を減らさなければ」と数字だけが前面に出ると、職員は自分を責めやすくなり、「また転倒が出てしまった」という報告が、心の重荷にもなってしまいます。責められたくないから、報告をためらう雰囲気が生まれると、今度は情報が集まらなくなり、本当に必要な対策も取りづらくなってしまいます。

つまり、目標管理や研修・委員会が空回りしてしまう理由は、「紙の上の綺麗な計画」と「冬の現場で本当に起きていること」の間に、小さくて深い溝があるからだと言えます。その溝を埋めるためには、会議室の中だけで考えるのではなく、利用者さんと同じ空気を吸いながら、一緒に体を動かし、同じ時間帯を体験する工夫が必要になります。

次の章では、そのヒントとして、勉強会や委員会を「レクリエーション」と結び付ける発想や、利用者さん自身が事故予防の主役になっていけるような場作りについて、少しずつ具体的な形を考えていきます。冬の事故対策を、現場に根を張る取り組みに変えていくための、一歩先のアイデアを一緒に見ていきましょう。


第3章…利用者と職員が一緒に作る事故予防レクリエーション

ここまで見てきたように、冬の事故は「誰か1人の不注意」ではなく、体・環境・心の変化が重なった結果として起きています。そうであれば、本当に欲しいのは、誰かを責める仕組みではなく、「皆で気付き合える場」です。その場作りにピッタリなのが、日常のレクリエーションに、さりげなく事故予防の要素を組み込んでしまう発想です。

レクというと「ゲーム」「工作」「体操」といったイメージが強く、「遊びと事故対策は別物」と感じるかもしれません。けれど、利用者さんが一番生き生きと話し、笑い、体を動かしてくれる時間こそが、実は一番「学び」が入りやすいタイミングでもあります。特に冬は外出が減り、刺激も少なくなりがちですから、レクの時間を「楽しみながら身を守る練習をする場」に変えてしまう価値は大きいと言えます。

例えば、転倒予防をテーマにしたレクなら、いきなり「注意してくださいね」と伝えるのではなく、まずは職員がわざと軽く躓いてみせたり、布団の裾やポータブルトイレを使って「どこに躓きやすいか」のクイズを出したりするところから始めます。「ここ、危ないと思う人ー?」と手を挙げてもらい、「どうしてそう思いましたか?」と意見を聞くことで、利用者さん自身の経験や感覚が言葉になります。職員が一方的に説明するよりも、「自分で気付いたこと」は忘れにくく、日常の動きの中でも意識しやすくなります。

歩行や立ち座りの練習も、ゲーム感覚にしてしまうと、冬場の運動不足解消と事故予防を同時に狙えます。廊下を使って「ゆっくり歩き大会」を開き、爪先をしっかり上げて歩く練習をしたり、「段差を見つけて声を掛けるゲーム」をしたりすると、普段、何気なく通り過ぎている場所の危険にも目が向くようになります。数歩だけでも「姿勢を意識する」「足を高く上げる」といった小さな習慣が付いてくると、ベッドやトイレでの立ち上がりも安定していきます。

冬ならではのポイントとしては、衣類や室温の工夫もレクに取り入れやすいテーマです。「あったかファッション相談会」と題して、重ね着の仕方をみんなで話し合いながら、「膝が曲げやすいズボン」「滑りにくい靴下」などを紹介すると、転倒予防に繋がる服装のヒントを楽しく共有できます。職員が自分の冬用ユニフォームやインナーを見せながら、「こうすると動きやすいですよ」と話すと、利用者さんとの距離もグッと縮まります。

食事や飲み込みに関しても、レクの中で自然に触れることが出来ます。口腔体操や発声練習を、歌や手拍子と組み合わせて「冬の歌の会」にしてしまえば、「ご飯の前にはこの体操をする」という流れが定着しやすくなります。乾燥する時期だからこそ、飲水タイムを「温かい飲み物を味わうお茶会」として楽しみながら、咽込み難い飲み方や姿勢を確認するのも良い方法です。

このような「事故予防レクリエーション」の一番大切な点は、職員だけで完璧な企画を作り込むことではなく、利用者さんを「参加者」ではなく「一緒に考える仲間」として迎え入れることです。「昔、家でこんな転び方をしてね」「雪の日は、こうやって気をつけていたよ」といった語りは、まさに人生の知恵そのものです。その知恵をみんなで共有し、笑い合いながら「じゃあ、施設ではどうしようか」と考えていく時間こそが、本当の意味での予防になります。

もちろん、忙しい冬の現場で毎日大がかりなレクをするのは現実的ではありません。そこで、既に行っている体操や合唱、脳トレなどの中に、事故予防の一言や一場面を差し込むだけでも十分です。例えば、立ち上がりの体操の前後に「椅子を引く時はこうすると安全です」とひと工夫を入れる、トイレ誘導の前に「足元の確認ゲーム」を挟むなど、小さな仕掛けを少しずつ増やしていきます。

こうして日常のレクが「楽しむ時間」であると同時に、「体と環境を見直す時間」に変わってくると、職員の意識も自然と変わっていきます。会議室のホワイトボードに書かれた言葉ではなく、利用者さんと一緒に笑いながら体験した場面が、職員の中にリアルな記憶として残るからです。冬の事故対策は、ペンを持って資料を読むだけでなく、利用者さんと同じ場所を歩き、同じ椅子から立ち上がってみることで、ようやく具体的な姿を持ち始めます。

次の章では、こうしたレクの場で生まれた気付きやアイデアを、どのように委員会や会議の場に持ち込み、「現場の編集会議」として育てていくかを考えていきます。書類を増やすためではなく、冬のフロアを少しずつ安全な場所に変えていくための、小さな工夫の積み重ね方を一緒に見ていきましょう。


第4章…委員会を現場の編集会議に変える~小さな改善の回し方~

委員会と聞くと、どうしても「会議室で書類を広げて反省会をする場」というイメージになりがちです。けれど、冬の介護施設で本当に欲しいのは、誰かを責める会議ではなく、「現場で生まれた小さな工夫を、皆で持ち寄って育てていく場」です。そこでお勧めしたいのが、事故防止委員会を「現場の編集会議」として捉え直す発想です。

編集会議というと、雑誌やテレビ番組を思い浮かべるかもしれません。たくさんあるネタの中から「これは伝えたい」「これは次に回そう」と選び、タイトルや見せ方を工夫していく作業です。同じように、冬のフロアで起きたヒヤリハットや、レクリエーションの中で生まれた気付きを、「責任追及の材料」ではなく「次の一歩を決めるネタ」として並べてみる。委員会は、そのネタを皆で編集しながら、明日からのケアの形を少しずつ整えていく場だと考えてみるのです。

そのためには、会議室に集まる前の時間が大切になります。例えば委員会の日は、メンバーが交代でフロアをゆっくり歩き、「ここは冬になると冷えやすい」「このカーテンの裾は躓きそう」と、実際の空間を自分の目で見て確認します。全てを1日で見て回る必要はありません。今日はトイレ周り、次回は浴室周り、といった具合に、テーマを絞って「現場ラウンド」の時間を決めておくだけでも、会議での話がグッと具体的になります。

ラウンドで感じたことは、完璧な文章でなくて構いません。「早朝、Aさんのベッド脇でコードが気になった」「夕方のポータブルトイレが通路を塞いでいた」など、短いメモや簡単なスケッチで十分です。夜勤者や非常勤の職員にも、「気になったことを付箋に1枚だけ書いてもらう」といった形にすると、委員会メンバー以外の声も拾いやすくなります。委員会は、その付箋をホワイトボードに貼りながら、「どれから手をつけようか」「何ならすぐに変えられるか」を相談する編集作業の場になります。

ここで意識したいのが、改善を時間軸で回すことです。例えば、現場で気付きを集める、次の1週間で試す行動を決める、その結果を委員会で振り返る、という流れを1つのサイクルにします。大きな対策を一度に決めようとすると空回りしがちですが、「明日からできる工夫を1つだけ決める」「来月までにやることを1つだけ決める」と、小さな単位に区切ることで、職員の負担感も少なくなります。

記録の残し方も工夫ポイントです。実地指導に対応するためには、議事録や年間計画が必要になりますが、その書類を「後からまとめるための作業」にしてしまうと、やはり気持ちが重くなってしまいます。そこで、委員会の場でホワイトボードに書いた内容をそのまま写真に残し、あとで簡単な文章を添えて保存するなど、「現場の空気ごと残す」方法を選んでみるのも一案です。冬のレクリエーションで実施した転倒予防ゲームや、歩行練習の様子を短く記録しておけば、「どんな形で利用者さんと一緒に事故対策を進めているか」が一目で分かる資料になります。

もう1つ大切なのは、委員会に経営側の視点を取り込むことです。建物の構造や床材の選択、暖房の配置などは、職員だけではどうにもならない部分が多くあります。本来は、設計を承認した経営陣や事務方にも、転倒や誤嚥のリスクに対する責任の一部があるはずです。だからこそ、冬の事故防止委員会には、可能な範囲で管理職や施設長にも加わってもらい、「なぜこの造りになっているのか」「今から変えられるところはどこか」を一緒に考える時間を用意したいところです。

例えば、訓練用のフロアに階段や波打つ床を取り入れる話は、現場だけでは決められません。しかし、経営者が実際にフロアを歩き、利用者さんの歩行の様子を目にし、「ご自宅に戻った時のことを考えると、こういう場所も必要ですね」と自分の言葉で語ってくれれば、それは職員にとって大きな励ましになります。逆に、職員側からも「この設備があると、こういう冬の事故を減らせると思います」と、具体的なイメージを添えて提案すると、話し合いが前向きな方向に進みやすくなります。

こうして委員会が、「数字を並べて反省する会」から、「現場の知恵を持ち寄って、冬のフロアを編集していく会」に変わっていくと、職員の表情も少しずつ変わってきます。ヒヤリハットを報告することが、「怒られる入口」ではなく「皆で改善のネタにする入口」になるからです。利用者さんと一緒に行った事故予防レクリエーションの話題が委員会で取り上げられ、「次はこんなやり方も試してみよう」と話が広がれば、現場と会議室の間にあった溝も少しずつ埋まっていきます。

次のまとめでは、こうした日々の工夫を積み重ねながら、冬という季節そのものを「危ない時期」から「安心して過ごせる時期」に変えていくために、施設全体としてどんな姿勢を大切にしていきたいかを、改めて整理していきます。利用者さんも職員も経営者も、同じ方向を向いて冬を乗り越えていくための、やさしいゴールイメージを描いていきましょう。

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まとめ…冬を「危ない季節」から「安心して過ごせる季節」へ

冬の介護施設は、ただでさえ体調を崩しやすい季節に、体の動き難さや環境の変化が重なり、小さな躓きが大きな事故に繋がりやすい時期でもあります。早朝の冷え込んだ居室、夕方の慌ただしいトイレ介助、厚手の衣類と乾燥した空気。どれも日常の一場面でありながら、見方を変えれば「危険の芽」が潜んでいる場所でもあります。

その危険の芽を、紙の上の反省だけで摘み取ろうとすると、どうしても限界が出てきます。年間目標や会議の資料は大切ですが、それだけでは、利用者さんが実際に歩いている廊下の段差や、ポータブルトイレの位置、夕方のナースコールの鳴り響き方までは見えてきません。書類を整えることが目的になってしまうと、「また増えた」「またやらなきゃいけない」という気持ちが先に立ち、現場との温度差は広がるばかりです。

そこで大事になるのが、勉強会や委員会を、会議室の中だけで完結させない工夫です。利用者さんと一緒に体を動かす「事故予防レクリエーション」の時間を作り、その中で見えた気付きを、委員会で拾い上げて次の一歩に変えていく。ヒヤリハットを「失敗」として処理するのではなく、「皆で考えるための素材」として扱う。そんな小さな姿勢の変化が、冬のフロアを少しずつ変えていきます。

また、事故防止を職員だけの課題にしないことも大切です。利用者さんは、自分の体の癖や、昔からの転びやすい場面を一番よく知っています。家族は、その人らしい生活スタイルや、過去のエピソードを教えてくれます。経営者や事務方は、建物や設備に関する決定権を持っています。それぞれの立場が少しずつ前に出て、「自分に出来ることは何か」を出し合うことで、冬の事故対策は「現場任せ」の重荷から、「施設全体で取り組むプロジェクト」に変わっていきます。

もちろん、どれだけ工夫を重ねても、事故を完全にゼロにすることは難しいでしょう。人が生きて動いている限り、予想していなかった出来事は起こります。それでも、「どうせ起きるから仕方がない」と諦めるのか、「せめて一件でも減らせるように」と目の前の一場面に向き合うのかで、利用者さんの安心感も、職員の働きやすさも大きく変わってきます。

冬の事故防止は、特別な魔法ではなく、日々の暮らしの中に小さな工夫を織り込んでいく積み重ねです。レクリエーションを通して笑い合いながら体を動かすこと、委員会で現場の声を編集し直して次の一歩を決めること、経営者も一緒にフロアを歩いて利用者さんの生活を肌で感じること。そうした一つ一つの行動が、やがて「冬は危ない季節だから」という諦めを、「冬でもここなら安心して過ごせる」という信頼へと変えていきます。

この記事が、施設ごとの工夫を考える切っ掛けになり、関わる全ての人にとって、冬が少しでも温かく、穏やかな季節になりますように。利用者さんの笑顔と、職員のホッとしたため息が、同じフロアに優しく響く冬の日常を、一緒に育てていけたら嬉しく思います。

今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m


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