冬の高齢者の乾燥肌を守るコツ~塗るケア・食べる工夫・暮らしのひと手間~
目次
はじめに…冬になると増える「痒い」のお悩みと向き合う
冬になると、病院や介護施設、おうちで暮らす高齢者さんから「痒い」「また肌がカサカサする」といった声が増えてきます。お風呂あがりに保湿クリームを塗っても、気が付けば夜中にゴシゴシ掻いてしまい、朝になったら赤い線が増えている…。そんな姿を見ると、ご本人もご家族も、介護職や看護職の方も、なんともやるせない気持ちになりますよね。
「冬だから仕方ない」「年齢のせいだから」と諦めてしまいがちな乾燥肌ですが、じつは毎日のちょっとした工夫で、痒みの回数や強さを和らげることが出来ます。保湿クリームやボディソープを変えることも大切ですが、それだけでは足りないことも多いのが現実です。肌を洗う時の力加減やお湯の温度、水分の摂り方、食事内容、体を動かすタイミング、居室の湿度や温度、そして看護師さんのチェック体制など、1日の暮らし全体が合わさって、ようやく「痒みの少ない冬」が見えてきます。
この記事では、高齢者さんの肌が冬に荒れやすくなる理由を振り返りながら、「塗るケア」「洗うケア」に加えて、「食べること」「飲むこと」「動くこと」「環境作り」といった視点も一緒に整理していきます。忙しい現場でも取り入れやすい、ほんのひと手間の工夫を中心にまとめていきますので、「全部は無理だけど、これなら出来そう」というところから、気楽に読み進めていただけたら嬉しいです。
乾燥肌は、放っておくと痒みだけでなく、眠れないイライラや転倒リスクの上昇、気持ちの落ち込みにも繋がります。逆に言えば、肌の調子が少し整うだけでも、「よく眠れたよ」「今日はあまり掻かなかったよ」という小さな安心を積み重ねることが出来ます。今年の冬こそ、「痒いのは当たり前だから」と諦め切ってしまう前に、出来ることをもう一度、一緒に見直していきましょう。
[広告]第1章…なぜ冬になると高齢者の肌は痒くなるのか
冬になると、高齢者さんの肌が急にカサカサしてきて、「痒い」「つい掻いちゃう」という訴えが増えてきます。クリームを塗っても、しばらくするとまた痒くなる。お風呂に入って温まった直後は気持ちいいのに、寝る前にはチクチク、ムズムズ……。まずは、この「冬になると痒くなる」という流れを、体の中と外の両方から見ていきましょう。
冬の空気と体の仕組み
年齢を重ねると、肌の表面を守っている脂と水分が少しずつ減っていくと言われています。若い頃は少しくらい空気が乾いていても、自分の力で潤いを守ることが出来ましたが、高齢になるとその力が弱くなり、肌を守る壁がうすく、脆くなりやすくなります。
そこに、冬特有の乾いた冷たい空気が重なります。外気は湿度が低く、鼻や口からの呼吸だけでも、少しずつ水分が奪われていきます。さらに、体を冷えから守るために、手足などの細い血管はキュッと縮み、血液が中心部へ集まりやすくなります。すると、手先や脛、背中など、元々、乾燥しやすいところへ十分な血液や栄養が届き難くなり、肌の生まれ変わりのリズムが乱れがちになります。
また、冬の生活では「寒い場所」と「暖かい場所」を行ったり来たりします。冷えた脱衣所から温かい浴室へ、暖房の効いた居室から冷たい廊下へと移動するたびに、肌は急な温度差にさらされています。急激な温度変化は、肌の表面の水分を一気に飛ばしてしまい、目には見えない小さなひび割れや傷を作りやすくします。この小さな傷が、「沁みる」「痒い」といった不快感のスタート地点になるのです。
お風呂・衣類・暖房が作る“痒みの悪循環”
冬の楽しみの1つに、熱めのお風呂でゆっくり温まる時間がありますよね。ところが、肌のことだけを考えると、「熱いお湯で長く入る」「ナイロンタオルでゴシゴシ洗う」という習慣は、乾燥肌にはかなり厳しい条件になります。熱いお湯は、汚れだけでなく、肌を守る大切な脂まで一緒に流してしまいますし、力を入れてこすると、ただでさえ弱くなっている表面の角質に細かい傷が増えてしまいます。
一度お湯でふやけた肌は、浴室から出た後、急速に水分を失います。濡れた髪や体をきちんと拭かないまま、寒い脱衣所で長く過ごすと、水分がどんどん蒸発して、カサカサ感が強くなりやすくなります。ここで痒みが出て掻いてしまうと、傷が増え、翌日以降の痒みがさらに悪化するという悪循環に入りやすくなります。
衣類の選び方や着方も、肌には大きな影響を与えます。冬場は厚手の服を何枚も重ねることが多く、首周りや脇の下、腰周りなど、汗がこもりやすい場所が増えます。汗で一度湿った後、そのまま冷えると「冷え」と「ムレ」が同時に起こり、肌への刺激が強くなります。ウールなどチクチクしやすい素材が直接肌に触れていると、それだけで痒みの引き金になることもあります。
さらに、暖房の効いた室内は暖かくて快適な一方で、どうしても空気が乾きがちです。特に、エアコンの風が直接当たる場所や、加湿が十分でない個室では、肌の潤いがジワジワと奪われていきます。外の寒さから身を守るための「お風呂・衣類・暖房」が、気づかないうちに乾燥と刺激を積み重ね、痒みの土台を作ってしまうのです。
病気や薬もかゆみに関係することがある
高齢者さんの乾燥肌には、体質や生活習慣だけでなく、元々のご病気や、飲んでいるお薬が関係していることもあります。例えば、糖尿病や腎臓の病気があると、皮膚の状態が変化しやすくなり、ちょっとした乾燥からでも痒みが強く出てしまうことがあります。また、血圧を下げる薬や利尿剤など、一部の薬は、体の水分バランスや血流に影響を与えることがあります。
もちろん、だからといって自己判断で薬を辞めるのは危険です。ただ、「このところ急に痒みが強くなった」「今までと同じ生活なのに、今年は特にひどい」といった変化があれば、早めに看護師さんや主治医に相談してみることが大切です。乾燥肌と思っていたものが、じつは湿疹や感染症など、別の原因だったというケースもあります。
冬の高齢者さんの乾燥肌は、空気の状態、体の仕組みの変化、お風呂や衣類の選び方、室内環境、そして病気や薬の影響と、様々な要素が重なって起きています。「年齢だから仕方ない」と一言で片付けず、どの部分なら生活の中で工夫できそうかを見つけることが、改善への第一歩になります。次の章では、「傷つけない洗い方」と「潤いを守る塗り方」に焦点を当てて、具体的なケアのポイントを見ていきましょう。
第2章…お風呂と保湿ケアで「傷つけない洗い方」を作る
乾燥肌のケアというと、まず思い浮かぶのは保湿クリームや軟膏かもしれません。でも、その前の「洗い方」や「お湯の温度」が肌を大きく左右します。毎日の入浴や清拭で肌を傷つけない工夫をしておくと、そのあとに塗るクリームの力がグッと生きてきます。ここでは、お風呂と保湿の合わせ技で「傷つけない洗い方」を作るポイントを整理してみましょう。
お湯の温度と洗い方を少しだけ見直す
冬はつい「熱めのお湯でしっかり温まりたい」と思いがちですが、乾燥肌には温めのお湯が向いています。あまり熱いお湯だと、汚れだけでなく、肌を守っている大切な脂まで一緒に流してしまい、その後のカサカサや痒みを強くしてしまうからです。体が「冷たくてつらい」と感じない程度の、やや温めのお湯を意識してみてください。
洗う時は、ナイロンタオルや固いスポンジでゴシゴシこするのではなく、柔らかいタオルか素手で「泡を撫でるように」洗うのがおすすめです。特に、脛・腰周り・背中・二の腕など、元々、乾燥しやすい部分は、石鹸やボディソープをたっぷり泡立てて、手の平で円を描きながら優しく洗いましょう。汚れが気になるところだけ、少し念入りに。それ以外の場所は「泡を通す程度」で十分なことも多いです。
漱ぎも大切なポイントです。肌に洗浄成分が残っていると、後から沁みたり、痒みの原因になったりします。背中や腰のくびれなど、泡が残りやすいところは、介助者が手で確かめながら、ぬるま湯をかけ流してしっかり流してあげると安心です。ここでの「ひと手間」が、後からの痒みや赤みを減らしてくれます。
お風呂上がりの数分が勝負どころの保湿ケア
保湿クリームや軟膏は、「どれを使うか」も大事ですが、「いつ・どう塗るか」で効果が大きく変わります。おすすめなのは、お風呂上がりから数分以内に塗ってしまうことです。タオルで軽く水分を押さえた後、肌にまだ少ししっとり感が残っているうちに塗ると、水分と脂が一緒に肌に留まりやすくなります。
塗る時は、「こする」ではなく「置いてのばす」イメージが大切です。まず手の平に適量を取り、両手を合わせて少し温めてから、肌の上にポンポンと乗せていきます。その後、広い面を手の平全体で、毛の流れに沿ってゆっくりのばします。力を入れてマッサージする必要はありません。むしろ強く擦ると、せっかく整いかけた表面の角質が剥がれてしまい、痒みの原因になることもあります。
全身に塗るのが難しい場合は、「特に乾燥しやすい場所から優先する」という考え方も大切です。脛、踵、腰、背中、腕の外側、手の甲などは、冬場にトラブルが出やすい代表的な場所です。介護現場では、時間の制約もありますから、「毎日ここだけは必ず」「余裕のある日はもう少し広く」といった形で、優先順位を決めておくと続けやすくなります。
ボディソープとシャンプーは「肌に合うか」を軸に選ぶ
ボディソープやシャンプーは、香りや泡立ちで選ばれがちですが、乾燥肌ケアでは「刺激が強過ぎないか」「洗い上がりが突っ張り過ぎないか」が大事なポイントになります。洗った後、肌がキュッと音がしそうなくらい突っ張るようなら、その人にとっては少し強すぎる可能性があります。
施設によっては、経済面を考えてボトルを薄めて使うこともあるかもしれません。ただ、ただ薄くするだけでは、汚れは落ちにくいのに洗浄成分だけが肌に残る、という残念な状態になることもあります。本来は「元々、刺激が少ない商品を選ぶ」「使う量や回数を調整する」といった工夫の方が、安全で確実です。どうしても薄める場合でも、看護師さんや薬剤師さんなどに相談しながら、肌の状態を見て慎重に判断したいところです。
頭皮の痒みやフケが目立つ方には、いきなり専用の高価な商品に切り替える前に、「洗う回数を減らす」「熱過ぎるお湯をやめる」「爪を立てない」といった基本の見直しから始めてみるのも1つの方法です。爪で頭皮をガリガリかく習慣がある方には、指の腹で優しく揉み洗いすることを繰り返し声掛けし、必要に応じて介助の手をそっと添えてあげるだけでも、刺激はかなり減らすことが出来ます。
入浴できない日の清拭と保湿で差をつける
体調不良やご病気の影響で、お風呂に入れない日が続く高齢者さんも少なくありません。そのような場合でも、「ぬるま湯での清拭」と「こまめな保湿」の組み合わせで、肌の状態を出来るだけ守ることが出来ます。
清拭の時は、熱過ぎないお湯にタオルを浸し、よく絞ってから、体の中心から外側へ向かって順に拭いていきます。ここでも、ゴシゴシこするのではなく、肌の上を滑らせるように、汚れと汗をそっと拭い取るイメージが大切です。石鹸を使う場合は、全身に毎回使うのではなく、匂いやべたつきが気になる部分に絞って使い、最後はしっかり拭い取ります。
清拭の後には、出来る範囲で保湿ローションや乳液タイプのものを馴染ませておきます。入浴後ほどしっとりはしなくても、「何もしない日を減らす」こと自体が、乾燥の進行を緩めることに繋がります。寝たきりの方ほど、シーツとの擦れやおむつのムレなど、肌への刺激が重なりやすいので、小さな保湿の積み重ねが大きな差になっていきます。
お風呂や清拭は、体を清潔にするだけでなく、高齢者さんにとって楽しみやリラックスの時間でもあります。その大切な時間を、肌にとっても優しいものに変えていくことが、「痒みの少ない冬」への近道です。次の章では、お風呂と保湿で守った肌を、今度は「食べること」「飲むこと」「動くこと」「室内環境」から支える工夫を見ていきましょう。
第3章…食事・水分・運動・室内環境で内側から整える
肌に塗るケアや、お風呂での「傷つけない洗い方」を工夫しても、それだけではなかなか乾燥肌が落ち着かないことがあります。特に高齢者さんの場合、体の中の水分量や栄養状態、血の巡り、部屋の環境など、内側と外側の条件がいくつも重なって、ようやく肌の状態が決まっていきます。ここでは、毎日の暮らしの中でできる「内側からのケア」を、食事・水分・運動・室内環境という四つの視点から整理してみましょう。
まずは食事です。肌は、毎日のご飯から作られています。たんぱく質や脂質、ビタミン類が不足すると、新しい皮膚が上手く育たず、表面のバリア機能も弱くなってしまいます。だからといって、急に量を増やそうとしても、高齢者さんにとっては負担になります。冬は寒さのせいで動く量が減り、空腹感も弱くなりがちですので、「量を増やす」よりも「質を整える」意識が大切です。例えば、同じ量でも、卵や豆腐、魚、鶏肉など、少ない量でしっかり栄養がとれる食材をこまめに取り入れる。煮物や鍋物のように、野菜とたんぱく源を一度に食べられる料理を増やす。そんな小さな工夫だけでも、肌を作る材料をきちんと届けることに繋がっていきます。
「好きな物を美味しく食べているか」という視点も、冬の乾燥肌ケアでは見落とせません。食欲が落ちている方に、体に良いからと味気ないメニューを並べても、結局は残ってしまいますよね。普段から好みをよく聞き、味付けや見た目の工夫で「一口なら食べてみようかな」と思えるように整えることが大切です。皮膚のための栄養は、最後まで食べ切って始めて力を発揮します。完璧な献立を目指すより、「その人が、無理なく食べ切れる一皿」を積み重ねていく方が、現実的で効果的です。
次に、水分の摂り方を見直してみましょう。冬は喉の渇きに気付き難く、「気がついたらほとんど飲んでいなかった」という高齢者さんも多くおられます。体の水分量が減ると、血液はドロッとして流れ難くなり、肌まで十分な水分や栄養が届き難くなります。そこで役に立つのが、「少量をこまめに」「楽しみながら飲む」という工夫です。
例えば、定番のお茶だけでなく、生姜湯や柚子茶、葛湯、ハーブティー、温めたジュースなど、体が温まりやすく香りも楽しめる飲み物を、1日に何回か提案してみます。大きなコップになみなみと入れるのではなく、「数口で飲み切れるくらいの量」で用意すると、気軽に手が伸びやすくなります。「さっきはお茶だったから、今度は柚子茶にしてみませんか」「今日は体が冷えていますし、生姜湯にしてみましょうか」と声掛けを変えることで、味の変化も楽しみながら自然に水分量を増やすことが出来ます。数人でテーブルを囲み、温かい飲み物を片手におしゃべりをする時間を作れば、ティータイムがそのままレクリエーションにもなり、気分転換やストレス軽減にも繋がります。
三つめの視点は運動です。「肌荒れと運動? 関係あるの?」と思われるかもしれませんが、血の巡りを良くするという意味では、とても重要な要素です。腕を振ったり、足首を回したり、椅子に座ったままでも出来る体操を取り入れることで、心臓から送り出された血液が、手足の先や皮膚の表面近くまでしっかり届きやすくなります。栄養と水分をきちんと摂った上で体を動かすと、届いた材料を使って新しい肌を作る力が高まり、乾燥への抵抗力も少しずつ整っていきます。
もちろん、持病や体力の状態によって、出来る運動量は人それぞれです。大切なのは、「その人なりのベスト」を見つけること。立って歩ける方は、廊下を一緒にゆっくり一往復する。座位中心の方には、上半身だけの体操を短時間で行う。寝たきりに近い方でも、介助者が手足をゆっくり動かしてあげることで、程良い刺激を与えることが出来ます。「肌のために、少しだけ体を動かしましょう」と声を掛けると、目的が分かりやすく、前向きに取り組んでいただけることも多いものです。
最後は室内環境です。どんなにクリームを塗っても、水分と栄養をとっても、部屋の空気がカラカラに乾いていては、肌から水分が逃げていくスピードの方が勝ってしまいます。冬の暖房は欠かせませんが、エアコンの風が直接当たる場所は、肌にとってかなり厳しい条件です。ベッドや椅子の位置を少しずらして、風が直撃しないように工夫したり、加湿器を使って空気に潤いを足したりすることが大切です。
加湿器が十分に置けない環境であれば、濡らしてよく絞ったタオルをハンガーにかけて、高齢者さんの頭の少し上辺りに吊るしておく、という昔ながらの方法も役立ちます。ポタポタ水滴が落ちない程度に絞ったタオルから、少しずつ水分が空気中に放たれ、寝ている間に喉や鼻が極端に乾くのを防いでくれます。エアコンの風の向きを調整しながら、タオルや洗濯物を室内干しにすることで、暖房と加湿を同時に叶えることも出来ます。
このように、食事で肌の材料を整え、水分で体の隅々に潤いを届け、適度な運動で血の巡りを良くし、室内環境で潤いが逃げないように守ってあげる。どれも特別なことではありませんが、少しずつ積み重ねていくと、冬の乾燥肌のつらさは確実に和らいでいきます。次の章では、こうしたケアを安全に進めるための「見極め役」として、看護職・介護職・家族がどう連携していくかを考えていきましょう。
第4章…看護職・介護職・家族で作る「痒み見守りチーム」
冬の高齢者さんの乾燥肌は、保湿クリームやボディソープを変えるだけでは、なかなか落ち着かないことがあります。そこに大きく関わってくるのが「見守る側の連携」です。看護職、介護職、家族が同じ方向を向いてケアを考え、役割を分け合うことで、「毎年冬になると当たり前のように出ていた痒み」を少しずつ減らしていくことが出来ます。ここでは、チームで取り組む時の視点を整理してみましょう。
まず大事なのが、「早めに気付き、早めに相談する」という流れを作ることです。高齢者さん自身は、「ちょっと痒いだけだから」「迷惑を掛けたくないから」と言葉に出すのを躊躇ってしまうことがあります。そのため、周りの大人の方が、些細な変化に目を向けておく必要があります。例えば、夜間に布団の中でゴソゴソ動いている様子が増えた、パジャマやシーツに引っかき傷の跡がある、入浴介助の時に同じ場所を何度もかいている、といった小さなサインです。「最近、ここが痒いですか」「お風呂上がりはどうですか」と、柔らかく声を掛けて聞き出すだけでも、早い段階での対処に繋がります。
介護職や家族が気づいたことは、そのままにせず、看護師さんへ繋ぐことが大切です。看護師さんは、皮膚の色やブツブツの出方、左右差の有無などを専門的な目で確認し、「季節的な乾燥が中心なのか」「湿疹や感染症の可能性があるのか」といった見立てを行います。必要があれば、医師への報告や受診の相談もしてくれます。「ただの乾燥肌」と思って保湿だけを続けているうちに、じつは別の病気だった、というケースを防ぐためにも、「いつもと違うかも」と感じた時点で看護師さんに一声かける習慣を作っておくと安心です。
また、飲んでいる薬や元々の病気が、肌の状態に影響していることもあります。例えば、むくみを取るための薬や血圧の薬などが、体の水分量や血流に関わっている場合もあります。もちろん、自己判断で薬を中止したり減らしたりするのは危険ですが、「冬になってから急に痒みが増えた」「新しい薬が始まってから肌の様子が変わった気がする」といった情報を看護師さんへ伝えることで、主治医との相談材料が増えます。こうした情報は、介護職や家族の方が気づきやすいことも多いので、「気になったことはメモしておく」「申し送りの時間に一言添える」といった小さな工夫が役に立ちます。
もう1つ大切なのが、「誰が、いつ、どんなケアをしているか」を揃えることです。例えば、ある日は介護職が入浴後にクリームを塗り、別の日は家族が独自の保湿剤を持ち込んで塗る、さらに別の日は忙しさのあまり塗り忘れてしまう、といった状態では、肌への刺激や成分が日ごとにバラバラになってしまいます。出来る範囲で、「使う保湿剤を決めておく」「塗るタイミングを揃える」といったルールをチームで確認しておくと、肌への負担を減らしやすくなります。
施設であれば、「お風呂上がりに必ず足と腰だけは塗る」「特に乾燥がひどい時期は、就寝前にもう一度、気になる場所に薄く塗る」など、現場の人員体制に合わせた基準を決めておくと、スタッフが入れ替わってもケアの質が大きくブレ難くなります。自宅介護であれば、「平日は家族、週末は訪問介護」など、関わる人が変わるたびに塗り方や回数が変わってしまうことがあるので、小さなノートに「今日はここが痒いと言っていた」「この部分は赤みが強い」「この保湿剤を使った」と一言書いておくだけでも、次に関わる人の大きなヒントになります。
高齢者さん本人の「希望」や「心地良さ」を、チームの共通認識にしておくことも忘れたくない視点です。例えば、「ベタベタする感触が苦手」「香りがきついものは頭が痛くなる」といった好みがある場合、いくら保湿効果が高いと言われても、本人が嫌がるケアは続きません。介護職や家族が普段の会話の中で好みを聞き取り、看護師さんへ伝えることで、「この方にはこういうタイプの保湿剤が合いそうだ」と選ぶ助けになります。「今日は、このクリームが気持ち良かったですか」「いつもと比べて、痒みはどうですか」と、感想を確認する声掛けも大切です。
こうした連携を続けていくと、「誰か1人が頑張る」ケアから、「皆で少しずつ支え合う」ケアへと変わっていきます。看護師さんは皮膚の状態を専門的に見立てる役目、介護職は生活の中での小さな変化を拾い上げる役目、家族は長い時間を共に過ごす者として、気持ちや好みを代弁する役目。それぞれの視点が合わさることで、「冬だから、痒いのは仕方ない」という諦めを、少しずつ手放していくことが出来ます。
乾燥肌のケアは、すぐに劇的な変化が出るものではありませんが、「今年の冬は、昨年より少し楽だった」「夜中に起きる回数が減った」といった小さな変化が見えてくると、本人も周りも大きな安心に繋がります。次のまとめでは、ここまでのポイントを振り返りながら、「この冬から始められる一歩」を一緒に整理してみましょう。
[広告]まとめ…この冬こそ「痒みを当たり前にしない」ケアへ
冬になると、高齢者さんの肌トラブルは「毎年のことだから」と流されがちです。でも、肌がカサカサして痒みが続くということは、眠りが浅くなったり、イライラしたり、転倒の危険が高まったりと、暮らし全体にも影響を及ぼします。「年齢だから仕方ない」と諦めてしまう前に、出来る工夫を1つずつ積み重ねていくことが、とても大事になってきます。
この記事では、まず冬の乾燥肌が起こる理由を、空気の乾きや寒暖差、血の巡り、病気や薬の影響など、いろいろな角度から見直してきました。その上で、お風呂の入り方やお湯の温度、洗い方、保湿のタイミングといった「塗る・洗う」ケアを整えることが、最初の一歩になることを確認しました。ゴシゴシ洗うより、優しく泡で撫でて、ぬるめのお湯でしっかり流し、湯上がりすぐに保湿する。この小さな流れを意識するだけでも、肌への負担はグッと変わってきます。
さらに、肌の力を内側から支えるために、食事と水分、運動、室内環境の見直しもポイントとして挙げました。無理に量を増やすのではなく、少ない量でも栄養が摂れる食材を選ぶこと。温かい飲み物を少量ずつ、楽しみながらこまめに口にしてもらうこと。その人に合った範囲で体を動かし、血の巡りを整えること。そして、暖房で乾き過ぎた空気に、加湿や洗濯物、濡れタオルなどで潤いを足してあげること。どれも特別な道具はいらず、暮らしの中で続けやすい工夫ばかりです。
そして何より大切なのが、看護職・介護職・家族が「痒み」に目を向け、同じ情報を共有しながら動くことです。早めに小さなサインに気づき、看護師さんの専門的な目で皮膚の状態を確認してもらう。使う保湿剤や塗るタイミングをチームで揃え、本人の好みや感覚も聞き取りながら、「この人には何が心地良いか」を一緒に探していく。誰か1人が背負うのではなく、役割を分け合って支えることで、「毎年ひどくなる痒み」を「今年は少し楽だったね」という実感へと変えていくことが出来ます。
乾燥肌は、今日ケアを始めたからといって、あす突然綺麗になるものではありません。でも、湯温を少し下げる、保湿を忘れないようにする、飲み物の種類を増やしてみる、タオルを1枚吊るしてみる……そんな小さな一歩の積み重ねが、1か月後、1シーズン後の肌の落ち着きに繋がっていきます。今年の冬こそ、「痒いのは当たり前だから」と全てを飲み込んでしまうのではなく、「出来ることを少しずつ試していこうか」と、高齢者さんと一緒に前向きに取り組む切っ掛けにしていただけたら嬉しいです。
今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m
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