秋の味わいを言葉で遊ぶ~果物のことわざから広がる高齢者レクリエーション~
目次
はじめに…台所の記憶と世界のことわざで繋ぐ秋の日
秋になると、施設のレクリエーションにも落ち着いた話題を入れたくなります。体を大きく動かすゲームも楽しいのですが、季節の味や昔の家事の話をゆっくり語り合う時間は、高齢の方の“持っているもの”が一番綺麗に出る場面です。今回のテーマは「果物」と「ことわざ」。日本には「桃栗三年柿八年柚子十八年」と、思わず口ずさめるリズムの良い言い回しがあり、そこに台所の思い出を重ねられる方がとても多いです。昔、庭に柿があった、梅を漬けていた、干し柿の紐を縁側に並べた――そうした生活の話は、クイズよりもずっと表情を明るくしてくれます。
さらに今回は、世界の果物ことわざも少し混ぜ込んでいきます。ドイツのリンゴの話、韓国の熟した柿を待つ話、ベトナムの「実を食べるとき植えた人を思え」という優しい言葉。日本の言い方と並べると、「どこの国でも、食べ物を大事にしてきたんだな」と実感できますし、利用者さんの暮らしの話に職員さんの豆知識を添えやすくなります。単なる当てものにせず、“しゃべるための切っ掛け”として言葉を並べるのが今回の狙いです。
このあとで、まずは場を温める導入の話題、その次に日本と世界の食べ方の違いをやさしく説明し、最後にレクリエーションとしての運び方と持ち帰り用のことわざカード案まで繋げていきます。読み進めながら、そのまま現場で話せるようにしてありますので、季節の壁面やおやつの時間と合わせて使ってみてください。
[広告]第1章…「桃栗三年柿八年」を思い出すだけで場が温まる理由
レクリエーションで一番最初に欲しいのは、「あ、これ知ってる」と思ってもらえる一言です。「桃栗三年柿八年」はその役を見事にやってくれます。なぜなら音のリズムが良くて、子どもの頃や若い頃の記憶と結びつきやすく、しかも台所や庭仕事といった身近な場面を思い出させるからです。体操やゲームのように体を大きく動かさなくても、口にした瞬間に頭の中で景色が広がるので、年齢が高い方でも参加しやすくなります。
このことわざには「時間をかけて育てると、ちゃんと実る」という安心できるメッセージが含まれています。高齢の方の人生は、まさにそれを体験してきた時間でもあります。子どもを育てるのに何年かかったか、家を建てるのに何年我慢したか、畑の果樹を大きくするのに何年通ったか――そういう話を引き出すことが出来るので、ゲームの点数よりも深い交流になります。職員が「柚子は十八年なんて言い方もあるんですよ」と添えると、「家にもあった」「うちは実がつかなかった」と、すぐに生活の話が返ってきます。
さらにこのことわざは、果物の名前が並んでいるだけで秋らしさが出るのも強みです。桃・栗・柿・柚子・梅・梨……と声に出してみると、季節の色や匂いが一緒に立ち上がってきます。秋の装飾をしたデイルームでこの話をすると、周りの飾りやおやつとも雰囲気が繋がって、「今日は果物の日なんだな」と全体に統一感が出ます。食べ物の話は会話が続きやすいので、認知症の方でも入り口を掴みやすく、発語を促しやすいのもポイントです。
もう1つ大事なのは、このことわざが“必ずしも正確でなくてもいい”ところです。「あれ、どう続いたかな」「梨もあったよね」「枇杷って言ってたような…」と、記憶が曖昧でも話が止まりません。むしろ地域差や家ごとの言い回しの違いを楽しめるので、全員に同じ答えを言わせる必要がなくなります。レクがテストにならない、というのは高齢者施設ではとても大事な視点です。
ここで職員が一度だけ世界の話を差し込むと、場がさらに和らぎます。「外国だとリンゴで似たようなことを言う国があるんです。“リンゴは木から遠くへ落ちない”って、親に子が似るって意味なんですって」。そう伝えると、「へえ、向こうでもそうなのか」「日本だけじゃないのね」と反応が返ってきます。日本のことわざを中心にしつつ、世界にも同じような考え方があると知ると、利用者さんも“自分たちの暮らしは世界に通じる”という誇らしさを感じやすくなります。
つまり「桃栗三年柿八年」は、思い出を呼び出しやすく、間違いを気にしなくて良くて、秋の雰囲気にも合っていて、世界の題材にも繋げやすいという、レクリエーション向きの素材なのです。この土台を最初に敷いておけば、次の章で日本と外国の食べ方を比べても、参加者は“さっきの話の続きだ”と分かりやすく感じてくれます。
第2章…日本の食べ方と世界の食べ方~柿は干す?すくう?香りでまとう?~
果物は同じ名前でも、国や家庭によって驚くほど表情が変わります。日本では「採れた物を一番良いタイミングで食べる」という感覚が強くて、熟したらすぐ切る、保存したい時は干すか漬ける、香りだけ使いたい時は皮を削ぐ、と目的がはっきりしています。これがそのまま高齢者の方の思い出話と繋がるので、レクリエーションに取り入れやすいのです。
日本の秋らしい代表が柿です。やわらかくなったら包丁で四つに切ってお皿に、もっと甘くしたいときは軒に吊して干し柿に。干すことで水分が抜け、甘さがギュッとまとまって、寒い季節のお茶請けになります。中には熟し切った柿にストローを差してトロリと飲む楽しみ方をされていた方もいて、聞くだけで場が和みます。梅もよく似ていて、青いときはシロップに、色づいたら塩に、さらに天日で干して梅干しにと、段階ごとの工夫がありました。柚子は少し特別で、実をガブリと食べるというより、汁や皮で香りをまとわせる果物として使われます。お鍋に浮かぶ輪切りや、お吸いものに載せる細い皮は、まさに日本の台所の姿そのものです。
これを世界に目を向けると、同じ果物でも「見せ方」「口当たりの作り方」が変わります。イタリアでは、よく熟れた柿をグラスや器に入れてスプーンで食べます。日本で言えば“完熟のとろとろ柿をきれいな器に盛ってゆっくり食べる”感じで、上品で、秋のお茶会にも合いそうな所作です。地中海沿岸では渋が抜けた硬めの柿をサラダに載せて、オリーブ油やチーズと合わせることもあります。日本だと柿をサラダに入れるのはまだ珍しい方ですが、「こんな食べ方もあるんです」と紹介すると、「へぇ、うちの柿でも出来るね」とちょっとした話題になります。
栗も面白い対比ができます。日本では茹で栗や焼き栗、そしておせちの栗きんとんなど、和食の中で甘くたのしむ場面が多いですが、ヨーロッパでは砂糖で煮てツヤを出したマロングラッセだったり、クリームにしてケーキに重ねたりとお菓子との結びつきが強くなります。ここで「日本ではお正月の彩りに使いますが、向こうでは秋の街角で紙袋の焼き栗を持って歩くんですって」と添えると、利用者さんが風景を想像しやすくなります。
もう1つ、レクリエーションとして大事なのは「噛まずに話せる果物」を混ぜることです。柚子やレモンのように香りで楽しむ果物なら、実物がなくてもティッシュに香りを移しただけで「この匂いお正月にした」「お風呂に入れたよ」と記憶が立ち上がります。噛む動作が難しい方でも、香りだけなら安全に参加できますし、食形態の違う利用者さんが同じ題材で話せるのもポイントです。
こうして日本と世界の食べ方を並べてあげると、「家ではこうだった」「昔の村ではこうだった」「テレビで見たことがある」と、利用者さん自身の言葉が出てきます。職員側は、あくまで話の切っ掛けとして世界の例を1つ2つ差し込むだけで十分です。言葉を並べる時間が長くなるほど、“今日は果物の話をする日”という全体のテーマがはっきりし、次の章で紹介する実際の進め方にも無理なく繋がります。
第3章…話して・見て・香りを感じる果物レクの進め方
ここからは、実際に施設で行う場面をイメージしながら流れをまとめていきます。今回のレクリエーションは、言葉で思い出を引き出し、目で季節を感じ、香りで場を柔らかくする三つの仕掛けを重ねていく形にします。体をたくさん動かさなくても成立するので、秋の静かな時間帯や、食後のクールダウンにも向いています。
最初の導入は、司会役の職員がことわざを1つだけ声に出すところから始めます。「今日は果物がテーマです。『桃栗三年柿八年』って覚えている方いますか」とゆっくり問い掛けると、知っている方がぽつぽつと声を出してくれます。ここで正解を求め過ぎないことが大切です。「柚子十八年って言ったよ」「うちは梨も言ったなあ」など、少し違う話が出てきても、「そうそう、地域でいろいろあるんですよ」と受け止めて進めます。これで“答え合わせではない時間”だと分かってもらえるので、話せる人が増えていきます。
次に、果物の絵や写真を机に並べます。桃・栗・柿・柚子・梅・梨のうち、施設にあるものだけで十分です。可能なら秋らしい色紙に貼っておくと、一気に場が季節になります。並べたら「この中で家にあったものはどれでしたか」と聞きます。家にあったものは思い出と結び付きやすいので、ここで一番会話が広がります。畑をやっていた方なら実が付くまでの苦労、買っていた方なら店頭に並ぶ時季、必ず一つは話題が出ます。職員はその話を受けながら、「イタリアでは熟した柿をスプーンで食べるところもあるそうですよ」と世界の小さな豆知識を挟みます。利用者さんが自分の昔話をした後に別の国の話がくると、「同じ果物でもこんな違いがあるんだね」と自然に受け取ってもらえます。
香りの仕掛けは三番目です。柚子やレモンのように香りが分かりやすいものを、薄く切るか、ティッシュに果汁を含ませて配ります。大袈裟にしなくても、巡回しながら「この香り、いつ感じました?」と尋ねるだけで、冬至のお風呂、お正月のお雑煮、漬け物の話など、季節の行事に話題が飛びます。嚥下や衛生に配慮が必要な方にも参加してもらいやすいのが、この香りパートの良いところです。香りは記憶を呼び戻す力が強いので、ことわざ➡果物の絵➡香りという順番にすると、時間の中で記憶がゆっくりほぐれていきます。
話が一巡したら、世界のことわざを1つだけ紹介します。「リンゴは木から遠くへ落ちないという国もあります。親に子が似るって意味ですね」「熟した果物が口に落ちるのを待つだけではだめだよ、という言い方をする国もあります」と、一文で済むものにすると聞きやすいです。全部紹介しようとせず、日本のことわざと似ているものを1つ、ちょっと捻ったものを1つ、合計で2つ程度に留めると集中が途切れません。ここでも利用者さんの表情を見て、「それ、うちの孫にも言いたいわね」と笑いが出たら成功です。
最後は、今日、一番印象に残った果物やことわざを、短い言葉で書いてお渡しできるようにしておくと綺麗に締まります。職員が予め小さな色紙に「桃栗三年柿八年」「果実を食べる時、植えた人を思え」などを書いておき、選んでもらうのも良いですし、その場で名前を添えて渡しても喜ばれます。壁面に貼る予定がある場合は、同じ書式で何枚か作っておき、参加者の話題に出た果物を中央に貼ると、その日のレクが目に見える形で残ります。話す・見る・香りを感じるの三段階をゆっくり行えば、内容は秋らしく深く、体への負担は小さく、どのフロアでも行いやすいレクリエーションになります。
第4章…ことわざを飾る・持ち帰る~制作と掲示にひと工夫~
せっかくおしゃべりで場が温まったら、その日のうちに形にして残しておくと、フロアが一段と秋らしくなります。ことわざは短くて意味がやさしいので、工作の材料としてとても使いやすいのも利点です。ここでは、時間や人手が限られている施設でも取り入れやすい形を中心にまとめておきます。
一番手軽なのは、事前に小さな色紙やカードを用意しておき、職員がことわざを書いて配る方法です。「桃栗三年柿八年」「柚子十八年」「果実を食べる時、植えた人を思え」「リンゴは木から遠くへ落ちない」など、今日話題になったものを数種類つくって、利用者さんに選んでもらいます。手元に置けるようにしておくと、後から職員が会話を切り出すときの切っ掛けにもなりますし、ご家族の来訪時にも話題にできます。
もう少し時間が取れるときは、秋色の画用紙に果物のシルエットを貼り、真ん中にことわざを置く“ことわざプレート”にしてみてください。柿なら橙色、梨なら黄緑、柚子なら黄色をベースにし、周りを金色や赤の細い紙で囲むと、見た目が一気に秋の掲示になります。文字を書くのが難しい方には、職員が書いたものを貼っていただく、あるいはスタンプで名前だけ押してもらうだけでも、作品への参加感が出ます。貼り出す場所は、食堂の入り口やエレベーター前など、通るたびに目に入るところが良いでしょう。
世界のことわざを混ぜた場合は、その国名を小さく添えておくと「今日は外国の話も出たんだね」と一目で分かります。例えば「ドイツのことば:リンゴは木から遠くへ落ちない」「ベトナムのことば:果実を食べるとき植えた人を思え」と書いて、旗のような小さな飾りを付けておくと、見た人が「これ何?」と声をかけやすくなります。読み上げるときも楽しくなるので、掲示とレクが自然につながっていきます。
行事予定と組み合わせる方法もあります。10月の壁面に柿・栗・梨の絵を貼り、その横にことわざカードを数枚セットしておくと、月間レクのテーマが一目で伝わります。冬至が近づいたら、同じ壁面の端に柚子湯のイラストを足して「柚子十八年」を置くだけで、季節の移り変わりを表現できます。入居者さんの中には変化に敏感な方も多いので、小さな差し替えでも「変わったね」と会話が増えます。
持ち帰りが可能な施設なら、ポストカードサイズの紙にことわざを印刷して配るのもお勧めです。家族に見せやすい大きさで、冷蔵庫や玄関に貼りやすいので、施設で過ごした1日の余韻が家庭にも届きます。そこに小さく「今日は果物の言い回しを楽しみました」と添えておけば、ご家族が写真を撮る切っ掛けにもなり、次回来訪の話題作りにもなります。
このように、ことわざは話すだけでなく飾ることで記憶に残り、次のレクリエーションへの橋渡しもしてくれます。紙とペンと少しの秋色があれば出来るので、行事が重なる時期でも無理なく取り入れられます。後は、利用者さんがその日一番笑った言葉を中心に据えるだけで、そのフロアだけの“秋の言葉コーナー”が完成します。
[広告]まとめ…秋のレクリエーションとして待つ甘さを皆で分け合う
今回のテーマは、ただことわざを当てるだけの遊びではなく、果物の名前から暮らしの記憶を呼び出し、さらに世界にも同じような思いがあることを重ねていく、少し大人びた秋の時間でした。日本には「桃栗三年柿八年柚子十八年」という気長で朗らかな言い方があって、これだけで季節と台所と家族の景色がふわっと立ち上がります。そこへ「リンゴは木から遠くへ落ちない」「果実を食べるとき植えた人を思え」といった世界の言葉を添えると、利用者さんの人生と世界の知恵が、1つのテーブルの上で並びます。
レクリエーションとして大事にしたいのは、ことわざを切っ掛けに話してもらう、実物や写真・香りで季節を感じてもらう、最後にことわざを形にして残す――この三段階をゆっくり回すことです。体力差や認知の差があっても、果物の話ならほとんどの方が何か一言を持っています。干し柿を吊るした話、梅を漬けた話、柚子湯に入った話、孫に梨を剥いてあげた話……どれもその方の暮らしの中心にあったことで、職員が無理に答えを引き出さなくても自然と場が温まります。
そして忘れてはいけないのが、こうした果物の背景には、長い歳月をかけて苗を守り、毎年の天候に付き合い、私たちの食卓に届くまで工夫を重ねてくださった農家さんの努力があるということです。ことわざが「待ちなさい」と教えるのは、ただ気長になりなさいという意味だけでなく、その時間を支えてくれた人への想像力を持ちなさい、という優しい誘いでもあります。利用者さんがその一文を読むだけで、戦後の畑や家の庭を思い出すこともあるでしょう。
まとめてみると、秋の果物レクは、にぎやかなゲームとは別の方向で「話す」「感じる」「残す」を実現できるメニューです。飾ったことわざカードを見れば、次に来る家族も話題を繋ぎやすくなりますし、職員も季節が変わるたびに一枚ずつ増やしていくことができます。言葉と香りと記憶をやさしく重ねるこのやり方を、ぜひ施設の秋レクの1つとして育ててみてください。
今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m
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