星を探す二人の夜~日本で流れ星に出会うためのほんの少しの工夫~
目次
はじめに…灯りを離れて君と空を共有する理由
車のフロントガラスに映っていた街の灯りが少しずつ減って、代わりに黒くて広い夜が窓の外に広がってくると、人は何故か空を見上げたくなります。二人並んで座っているのに、同じ方向を見て、同じ暗さの中で目を凝らしていると、「今私たちは同じ世界を見ているんだな」と安心出来るからかもしれません。そんな夜に「流れ星、見えるかな」と言えると、その時間は一段階ロマンチックになります。何故なら流れ星は、待っても来ないこともあるし、来ても一瞬で消えてしまうからです。滅多に会えないものを二人で待つ──それだけで記憶に残る夜になります。
日本で空を見上げる時、場所によって少しずつ景色は違います。海の傍のまっ暗な防波堤、山あいの駐車スペース、郊外の小さな公園。けれど、地球が宇宙の細かい砂を受け止めて光らせるという仕組みは同じなので、「日本からでもちゃんと流れ星は見られる」という一本の物語として語ることが出来ます。しかもそれは、特別な機材がなくても、二人の時間を少し夜更かしにして、街の明るさから離れてあげるだけで手が届く世界です。
このお話では、彼氏と彼女というとてもシンプルな二人に登場してもらって、「どうして流れ星は毎晩あるのに見えないことがあるのか」「どんな時間帯なら見つけやすいのか」「どんな場所なら二人とも『あっ!』と同時に声を上げられるのか」をそっと辿っていきます。大事なのは、難しい天文学の話ではなく、二人が同じ夜空を楽しむための段取りです。よく晴れた夜に車を停めて、スマホの光をいったん閉じて、「ちょっと待ってみよっか」と笑えるようにしておくこと。それが出来れば、たとえその夜に星が流れなくても、「あの時、二人で待ってたね」という思い出だけは確実に残ります。
そして季節は巡ります。夏には夏の、冬には冬の、流れやすい時期があります。二人で「今度のあの夜も行こうね」と予定に書き込めば、来月も、来年も、同じように夜を見上げる理由が出来ます。そうやって重ねていくと、空を見上げるたびに「ここであの時も一緒だったな」と思える場所が増えていきます。そんな二人のための、柔らかい流れ星の話をこれから綴っていきます。
[広告]第1章…日本のどこにいても同じ夜空を見上げられるという安心
彼女を迎えに行った彼は、街の灯りがまだ明るいうちに車をゆっくり走らせていました。海でも山でもいいけれど、今日はただ“空を見たい”というだけの夜です。彼女は助手席で「こんな町の中でも流れ星ってあるの?」と聞きました。彼はすぐに「あるよ」とは言わず、少しだけ間を置いてから「空さえ暗ければね」と答えました。日本は北にも南にも長くて、北海道の空と九州の空では季節ごとの星座の高さが少し違います。でも、流れ星という話をする時には、そんな差はあまり気にしなくていいのです。二人が日本のどこかで同じ夜空を見上げていると思えば、それでほとんどの場合は足ります。
流れ星は、特定の町だけに降るものではなくて、地球が宇宙の中を進んでいく中で小さな砂粒を捉まえて光らせているようなものです。だから日本のどこにいても、晴れていて、空が暗ければ、見られるチャンスはあります。「東京だから無理」「北海道だからいっぱい見える」みたいに極端に考えなくていい、と彼は伝えたくてそう言ったのです。彼女は「じゃあ、うちらも見られるんだ」と少し声を明るくしました。そうやって期待が膨らんでいく感じも、この記憶をやさしくしてくれます。
もちろん、沖縄と東北とでは地平線の高さや空の色、周りの明るさの具合が違うから、まったく同じようには見えません。それでも「日本で星を見る」という括りにしてしまえば、季節ごとの流れ星の話も、時間帯の話も、1つの物語にまとめることができます。例えば8月の有名な流星がある頃には、北海道でも九州でも「今夜は多いかも」という期待を持てますし、12月の冷たい風の中で見上げる星も、大筋では同じように語ることが出来ます。二人でどこかに移動するたびに「ここでも見えるのかな」と話題に出来るのは、日本がそのくらいまとまった場所にあるからです。
彼は「日本ってさ、宇宙の感覚で見たら1つの点みたいなもんなんだよ」と少し得意げに言いました。彼女は「宇宙の感覚って何それ」と笑いましたが、言いたいことはわかりました。宇宙から見たら、日本列島の北の端と南の端の差なんてほとんどなくて、同じエリアに降ってくる光だと考えてしまっていい、ということです。そう考えると、旅行先でも、二人が別々の場所に住んでいても、「今夜は見えるかもね」というメッセージが似た意味を持てるようになります。離れていたとしても、同じ国の夜を見上げているという感覚を共有できるのです。
それに、日本は四季がはっきりしていて、空気の透明度も季節で変わります。冬は冷たくて澄んでいるから光がくっきり見えやすく、夏は湿気で少しぼんやりします。けれどこれは「冬なら日本中がダメになる」とか「夏なら日本中が見えない」といった極端な話ではありません。あくまで「今夜はちょっとボヤっとしてるから、出来れば暗い場所へ行こうか」と二人で判断する材料になるだけです。つまり、二人で空を見ようと決めた夜に、日本のどの県にいるかで諦める必要はない、ということです。
彼女は窓の外を見ながら、「じゃあ、うちの地元でも見えたってことか」と呟きました。彼は「見えたはずだよ。ただ、気付かなかっただけかも」と返します。流れ星は、流れていても気付かれないことが本当に多いのです。明るい場所にいたり、ほんの数秒だけ上を見ていただけだったり、瞬きの瞬間だったり。それを「この国の空では見えない」と感じてしまうのは勿体ない、と彼は思っていました。だからこそこの記事でも、まずは「日本なら見える可能性がある」というところから話を始めるのが良いのです。
二人はそのまま郊外の暗い道へと進んでいきます。車のライトが照らすのは手前だけで、その先は夜がゆっくり広がっています。「ここで止めてみる?」と彼が聞くと、彼女は頷きました。日本のどこにいても、こうして明るさを少し避けてあげれば、夜空はちゃんと二人を迎えてくれます。後は、どの時間に、どんな向きで、どんな風に待てばいいのか。それは次の話として、二人が同じ空を見上げる土台だけ先に作っておきたかったのです。日本の夜空は、思っているよりもちゃんと二人に開かれています。
第2章…0時を過ぎたら空が近くなる~時間帯と向きの優しい約束~
エンジンを止めると、周りの音が一気に小さくなりました。彼はライトも落として、「暗さに慣れてからの方が見つけやすいよ」と言いました。彼女は「そんなに違うの?」と聞き返しましたが、ほんの数分でその意味がわかります。街より少しだけ高い場所、灯りの少ない場所、そして夜も深くなっていく時間。この3つが揃ってくると、空の黒さが増して、星の粒がプツプツと浮かび上がってくるからです。
流れ星は、夜ならいつでも同じように見えると思われがちですが、実はそうではありません。だいたい夜の前半よりも、日付が変わる頃から明け方にかけての方が見つけやすくなります。彼はそれを難しい言葉にせずに「0時を過ぎた後の方が増えることが多いよ」とだけ伝えました。彼女にとってはそれで十分です。「じゃあ今日は夜更かしコースだね」と笑いながら、彼の方へ少し身体を寄せました。二人で同じ時間に起きていること自体が特別になる時間帯ですから、その特別さを流れ星待ちに重ねられるのはとても相性がいいのです。
向きのことも話しておきたくなって、彼は「空ってね、どこからでも出るんだよ」と続けました。流れ星というと1つの方向からすーっと飛んでくるような印象がありますが、実際には空のどこにでも突然現れます。だから本当は、「あっちを見なさい」と細かく指定するよりも、二人で仰向けになって空全体をぼんやり眺めるのが一番です。膝にかけたブランケットを分け合って、肩と肩が触れるくらいの距離で、首だけ上に向けておく。どちらが見つけてもすぐ声が届くように。そういう姿勢が夜デートには似合います。
ただ、後の章で出てくるような有名な流星群の夜には、「今夜はあの星座のほうから多めに来るらしい」と教えてあげると少し大人びた雰囲気になります。例えば北東の辺りから上がってくると分かっているなら、その方角を二人で見やすい位置にしておく。車の向きを少し変えるだけでも視界に入る星の量は変わります。彼は「今日はこっち向きに停めようか、見やすいから」とさりげなく場所を選びました。こういう小さな配慮ができると、「この人、本当に今夜を楽しみにしてたんだな」と彼女に伝わります。
時間を味方にするというのは、待つ時間を楽しむということでもあります。0時より前は街から帰る車がまだ走っていることもあるし、空気も昼の余韻を少し残しています。けれど0時を過ぎる頃には、人の気配がグッと減って、音が遠くなって、空の黒が深くなります。その静けさは二人の声をよく通すので、流れ星が流れた一瞬を「今見えた?」とすぐに確かめ合えます。もし片方しか見られなくても、「じゃあもう1回出るまでいようね」と自然に言える空気が残ります。
彼女は、首が疲れてきたのか、彼の肩に頭をのせました。「このままでも見える?」と聞くと、彼は「見えるよ。ゆっくりでいいよ」と答えました。流れ星はずっと流れているわけではないので、1分や2分で諦めると、ちょうどその後に出た光を逃してしまいます。だから二人で並んでいられる体勢を作ることは、実はとても大事なのです。車の座席を倒す、レジャーシートを敷く、外が冷える夜なら膝掛けを重ねる。どれも「もっと一緒に上を見ていよう」という気持ちを形にしたものです。
時間帯と向きを揃えるというのは、ただ星を見やすくするだけではなく、二人の心の向きも揃えてくれます。昼間の話題や仕事のこと、スマホの通知からいったん離れて、「今は空を見ている時間だよね」と共通の目的を持てるからです。0時を跨ぐ頃に見上げた空で一筋の光が走れば、その夜はきっと「運がよかったね」で終わりますし、もし流れなかったとしても「またこの時間に来ようか」と次の約束に繋がります。時間と向きを一緒にすることは、二人の夜を長くするための、小さいけれど効き目のあるおまじないのようなものなのです。
第3章…見える夜を作る4つの支度~暗さ・天気・月・スマホの明かり~
「せっかく来たのに見えなかったらどうしようね。」車を降りながら彼女がそう言うと、彼は笑って「見える夜ってね、ちょっとした準備でグンと確率上がるんだよ。」と答えました。流れ星は空の方でちゃんと起きているのに、人間の側の条件が整っていないせいで気付けないことが多いのです。だから二人の方から夜空に合わせてあげる。たったそれだけで、光の線に出会える可能性は大きく変わります。この章では、そのためにしておきたいことを、二人が実際にやっているみたいに辿っていきます。
まず彼が選んだのは、街の灯りから少し離れた場所でした。夜景が綺麗な高台はロマンチックですが、あまりに明るいと流れ星のような淡い光は埋もれてしまいます。だから彼は、夜景が見えるギリギリ手前、施設の照明も届かない場所を知っていて、そこへ案内しました。「暗過ぎない?」と彼女は言いましたが、目が慣れてくると、空の方にたくさん光があることが分かってきます。二人で星を見ようと決めた夜は、街の便利さを少しだけ手放して、空を優先する。それが1つめの支度です。
2つめは天気です。こればかりは二人ではどうにも出来ませんが、逆に言えば、曇っているのに無理して出かけて「見えなかったね」と落ち込む必要はない、ということでもあります。彼は天気予報を見て「今日は雲が切れるらしいから」と言い、彼女は「わざわざそれを待っててくれたんだ」と嬉しくなります。流れ星の話は、見えない夜を責める話ではなく、見えやすい夜を選ぶ話にすると、やさしくなります。雨や厚い雲の夜は、そもそも空が隠れているので、次の晴れた夜のお楽しみに取っておく。二人でそう決めておけば、空と仲良くなれます。
3つめは月です。夜空は同じ暗さで広がっているように見えて、実は月の形によって明るさが大きく変わります。満月の頃は、地面も人の顔も見えるくらい明るくて、それはそれで美しいのですが、空の淡い光を見分けるには少し明る過ぎます。彼はそれを知っていて、「今日は細い月だからいい夜だよ」と言いました。細い月や、まだ月が昇ってくる前の時間なら、空の黒さが勝つので、流れ星がスッと走った時にしっかり浮かび上がって見えます。彼女は「へえ、月ってそういう影響あるんだ」と目を丸くし、彼は「あるよ。だから今夜はちょうどいい」と、まるでこの日のために準備していたみたいな言い方をしました。そういう小さな知識は、二人の夜を特別にしてくれます。
そして4つめは、すごく身近なのに忘れがちなこと──スマホの明かりを少し控えることです。夜の外に出ると、つい写真を撮ったり、星座アプリを開いたり、通知を見たりしてしまいます。けれど画面の光はとても強くて、目がその明るさに慣れてしまうと、空の暗さが急に物足りなく感じられます。そうなると、流れ星が走っても「今の光った?」と自信が持てなかったりします。だから彼は車を止めた後で「ちょっとだけ画面消しておこうか。目が慣れたらもっと見えるよ」と言いました。彼女は「そういうのって本当に効くの?」と半信半疑でしたが、数分経つと、本当に星の数が増えたように見えてきて、「わ、本当に見える」と小さく声を上げました。画面を閉じるという行為は、「今はこの人とこの空にだけ集中する」という合図にもなるので、二人の距離も自然と近くなります。
こうしてみると、見える夜を作る準備というのは、どれも難しいことではありません。街から少し離れる、晴れの日を選ぶ、月の形を気にする、スマホを伏せる。どれも二人で話せるやわらかい話題ばかりです。そしてそれらをすることで、「今日は上手くいきそうだね」という期待が膨らみます。たとえその夜に流れ星が走らなかったとしても、「ここまで揃えたら、きっとまた来たら見えるよね」と次の夜が楽しみになります。準備を重ねることがそのままロマンチックな時間になっているので、失敗にならないのです。
彼女は空を見上げながら、「こういうことをちゃんと考えてから連れてきてくれるのって、すごく嬉しい」と言いました。彼は「星は人間に合わせてくれないからね。こっちが合わせるしかないんだ」と笑いました。合わせる、と彼が言ったのは、空に対してだけではなく、隣にいる彼女に対してもそうだったのでしょう。相手が冷えないように膝掛けを渡すことも、目が慣れるまで話し相手になってあげることも、全ては「一緒に見たいから」という同じ理由から出てきます。見える夜というのは、自然がたまたまくれたご褒美ではなくて、二人でそっと作り上げた舞台なのだと、この時、彼女は気がついたのです。
第4章…季節が連れてくる流星群を二人の予定にそっと書き込む
彼女が「〇月〇日頃って書いてあるけど、その日しか見えないのかな」と首をかしげたので、彼は少し嬉しそうに「いいところ気づいたね」と言いました。空の出来事というのは、きっちり1日だけで終わるものばかりではありません。とくに流星群は、たいてい数日の間で緩やかに続いて、その真ん中辺りで一番流れる夜が来る、という風に出来ています。だから「12日じゃないとダメ」ではなくて、「12日辺りが一番にぎやかだからその前後も狙えるよ」というのが本当のところです。この考え方を知っておくと、仕事や天気で日程がずれても諦めずに済むので、二人の星見デートがグッと現実的になります。
彼はまず冬の話から始めました。「1月の最初の方に来るしぶんぎ座流星群は、期間が割と短くて、極大の夜に寄せられたらラッキーって感じ。でも前日の夜や翌日の夜にも少しは出るから、完全に外れじゃないんだ。」寒い時期なので長く外にいられませんが、夜明け前に北東の空が高くなってくる頃を狙えば、淡い光がすっと走るのを見つけられます。彼は「北東って、ほら、カシオペヤ座がある方だよ」と指さしで説明しました。Wみたいな形をしたあの星座を見つけられれば、その近くから広がっていくように流れ星がやって来る、と彼女もイメージしやすくなります。寒さで息が白くなる時間帯に、北東を向いて待つ──それだけで冬の特別な夜になります。
春から初夏にかけての流星は、冬ほど鋭くはないけれど、穏やかな季節の夜風と一緒に楽しめます。5月頃に活動するタイプは、月明かりが少ない時なら南寄りの空も見ておきたいところです。「この時期はさ、1つの方向をにらむよりも、南の方と頭の真上を緩く見てると拾いやすいかもね」と彼は言いました。彼女は「南って、さそり座が出てくる頃?」と星座を思い出すように空を見ます。大まかに季節の星座が分かっていれば、「今日はあの辺から多いらしいよ」と相手に伝えやすくなりますし、ちゃんと空を見に来た感じが出ます。春~初夏は夜の冷え込みもやさしいので、車のボンネットに腰かけて一緒に南の空を見上げる、なんて座り方も出来る季節です。
夏は二人が一番外に長くいられる季節で、しかも日本で人気の高いペルセウス座流星群がやって来ます。活動期間はけっこう長く、極大の夜を中心に前後数日でも「お、今の見えた?」が狙えます。彼は「8月の12日頃って言うけど、11日の夜から13日の夜まで、晴れてたらとりあえず見に行っていいレベルだよ」と教えました。方角としては北東から上がってきて、夜が更けるほど空の高いところに放射点が来るので、寝転んで空全体を見渡すのが一番楽です。「あのカシオペヤ座の少し下から、真ん中に向かって散っていく感じだから、上を広く見ててね。」そう言われると彼女は、夜空のどこを見ていればいいのかが一気に分かります。夏は湿気で空が白っぽくても、元々の数が多いので、がっかりし難いのも嬉しいところです。
秋が近づくと、東の空が賑やかになります。10月21日ごろのオリオン座流星群は、その名のとおりオリオン座の辺りを起点に見えてくるので、まだ低い位置にあるオリオン座を見つけたら、その周辺をゆるく見守るようにしていればいいのです。彼は「冬の三つ星が上がってくるじゃない。あれの辺りからスッて来るから。」と説明しました。オリオン座は形がハッキリしているので、星に詳しくない彼女でもすぐに見つけられますし、「あの星のところから来た!」と二人で同時に指さして盛り上がれます。秋の流星は夏ほど数が多くないこともありますが、空気が静かで、夜の冷え方で季節の移り変わりを感じられるので、二人で肩を寄せる理由が自然にできます。
そして12月のふたご座流星群。これは活動している期間が比較的長くて、極大の夜を中心に前後数日がんばれば、どこかで必ず1本は見られるくらい頼りになります。彼は「この時期はね、真上が一番賑やかになることが多いから、もう寝転がっちゃうのが正解」と言って、レジャーシートを広げました。ふたご座は冬の高い空に上がってくるので、方角をあまり気にしなくても大丈夫です。むしろ月の位置や街明かりを避けるほうが大事で、空の一番暗いところを選んで見ていると、あちこちから線が走ります。彼女は「冬の空って、星が近いみたいに見えるね」と言い、彼は「空気が澄んでるからね。だからこの時期は頑張る価値あるんだよ」と答えました。冷たい空気の中で見る光は、夏より短くても心に残ります。
こうして見ていくと、流星群ごとに「続いている期間の長さ」と「よく見える方向」が少しずつ違うのが分かります。だから記事にするときは、日にちを1つだけ書いて終わりにするのではなく、「この前後もゆるやかに続きます」「この星座の近くを意識して空全体を見てください」と添えておくと、読んだ人が予定を合わせやすくなりますし、二人で「本当は11日がピークだったけど13日なら空いてるから行こう」と話し合っても、ちゃんと楽しめる形になります。空は人間の都合通りにはならないので、人間の方の都合を入れても崩れない書き方にしておくのがやさしさです。
最後に彼は「じゃあさ、今年は8月と12月は決定でしょ。後は天気と月を見て行けそうなときに行こ」と言いました。彼女は頷いて、スマホのカレンダーにそっと入れました。たとえその日がずれても、数日の間があると分かっていれば、気持ちに余裕が生まれますし、「今日はこっちの方角のほうが暗い」とか「今はオリオンが低いから東を見よう」と二人で選ぶ楽しみも出来ます。季節が連れてくる星の予定を、二人の生活の予定に重ねておく──それだけで、同じ国の同じ夜空が、毎年の約束の場所に変わっていくのです。
[広告]まとめ…また来年もこの空で同じ光を待とう
今夜の二人は、日本のどこにいても同じように見上げられる空を前提にして、時間を揃え、場所を選び、季節の星の予定まで手帳に書き込んでいきました。流れ星は、空の方で勝手に起きている出来事なのに、人がそれに気付けるかどうかは、人の側の小さな準備にかかっている──この物語で辿ってきたのは、そのやさしい仕組みでした。街の灯りから少し離れて、0時をまたいで、月の形を見て、スマホを伏せて、二人で同じ方向を見て待ってみる。そうやって「見える夜」を作ろうとする行為そのものが、相手に対する思いやりとほとんど同じ形をしているので、空を見上げると二人の仲もついでに温かくなっていきます。
日本には、流れ星が流れている間に願いごとを唱えると叶う、という昔からの言い伝えがあります。ほんの一瞬で消えてしまう光に自分の願いを間に合わせるなんて、よく考えたら少し無茶な話です。でもだからこそ、人は「今だ」と思った瞬間に心の奥にある本当のお願いごとを取り出します。時間がたっぷりある時には出てこない本音が、一瞬で消えてしまう星の前だとスルリと出てくる。二人で一緒に待っている夜なら、たとえ声に出さなくても、相手も今同じように何かを思ったんだろうな、と想像できます。そうやって「同じ一瞬を見た」という事実が、願いごとの中身よりも強くふたりの記憶に残ります。
流れ星が好まれるのは、その一瞬の煌きが、人の時間の長さにピッタリ合っているからです。ずっと光っている星には「後で見よう」が出来ますが、一瞬で消える光には花火と同じような「今見るしかない」があります。恋人同士が共有したいのは、まさにその「今しかない」の方です。だから流れ星の夜は、告白でも、将来の話でも、結婚の話でもなくていいのに、何故かそれらを語りたくなる。空が特別な雰囲気を作ってくれるから、いつもは照れて言えないことも「さっきの星にお願いしてみた」と言い換えられます。迷信をちょっと借りて、自分の気持ちを渡す。そんな使い方ができるのが、流れ星の夜の可愛らしいところです。
そして季節は毎年巡ります。1月の冷たい朝の前、5月のやわらかな深夜、8月のぬるい風の中、10月の静かな東の空、12月の吐く息が白くなる夜。それぞれに「この頃なら多めに流れるよ」という目安があって、その前後も少しずつ光が散っている。二人がそのことを知っていれば、予定が1日ずれても「まだ大丈夫、今日はこっちの方向を多めに見ておこう」と言えます。空の方が緩やかに続いてくれるから、人の方も緩やかに待てる。その余裕が、夜を争いごとのない優しい時間にしてくれます。
最後に彼は、流れ星が流れた後に小さな声で「今のにお願いした?」と聞き、彼女は恥ずかしそうに「うん」とだけ答えました。何をお願いしたのかは、互いに聞かなくても良かったのかもしれません。大事なのは、あの光を二人で同時に見て、同時に何かを思ったという事実です。そんな夜を年に何度か重ねていけば、たとえ願いごとがすぐには叶わなくても、「あの時も同じ空を見ていたよね」という心強さだけはずっと残ります。流れ星を待つ夜は、空のためにあるのと同じくらい、二人のためにも用意された時間です。これから先も、季節の案内する光る夜を、二人の予定にそっと書き足していってください。そうすれば毎年、同じ国の同じ空で、同じ一瞬を待つことができます。
今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m
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