ぐうたら女神と生真面目な神父と坑夫たち~不思議な贈り物と痛快人生逆転劇~

目次
- 1 はじめに…この世は神様任せでは終わらない話
- 2 第1章…煤まみれの坑夫と寝そべるぐうたら女神
- 3 第2章…神父の懺悔室はいつも大忙し
- 4 第3章…鉄アレイと糸電話と転んで繋がる不思議な縁
- 5 第4章…王城の前に飛ばされた男と熊に追われた奴らのその後
- 6 第5章…ハンカチを落としたら王女と結婚した男の話
- 7 第6章…クワで掘ったら…ちょっとヤバい話(ゲフンゲフン)
- 8 第7章…ペアカップがもたらす家庭円満と子宝の暗示
- 9 第8章…欲張り坑夫と“奇跡の壺”と腰痛の話
- 10 第9章…南国フルーツと金脈と人生を変える景色
- 11 第10章…女神の寝言と神父の祈りと教会の扉に刻まれた言葉
- 12 第11章…欲張りたちの末路と笑える天罰カーニバル
- 13 第12章…教会の扉に刻まれた言葉と煤まみれの笑顔
- 14 第13章…ぐうたら女神の本音と生真面目神父のため息
- 15 第14章…石段を上る音と煤にまみれた祈り
- 16 第15章…煤の中の笑い声と明日を待つ教会
- 17 まとめ…この物語で伝えたかったこと
はじめに…この世は神様任せでは終わらない話
坑道の奥深く、真っ暗な闇の中でカンカンとツルハシを打ち鳴らす音が響いている。汗と煤で顔は真っ黒、疲れ切った坑夫たちが今日も地上への長い階段を上ってくる。足元はふらふら、息はぜえぜえ、でもそれでも前に進むのは、たったひと欠片の希望が胸にあるからだ。
そして、その希望を抱いて彼らが向かうのが、古びた石造りの教会。祭壇の奥には、神々しさなんてどこ吹く風、片腕を枕に寝そべってあくびを噛み殺すぐうたら女神が一柱。あらゆる願いに耳を傾けるのは、真面目一本槍の神父。いや、この神父もまた困ったものだ。女神の気まぐれな言葉を、なんとか神意らしく解釈して坑夫たちに渡すのが仕事だから。
今日も教会には、救いを求める坑夫たちがぞろぞろと懺悔室に並ぶ。背中を丸め、煤まみれの手を合わせて「どうかお恵みを…」と泣きつく声が絶えない。だが、待ち受けているのは、愛なのか天罰なのか、それともただの気まぐれか。
そう、この物語は、そんなぐうたら女神と生真面目神父、そして坑夫たちの「もらってしまった不思議な贈り物」が織りなす、とんでもない人生逆転劇。読んだあなたが思わず笑い、首をかしげ、そして「でもちょっとわかるかも」とニヤリとしてしまう、そんなお話を、どうぞゆっくりお楽しみください。
[広告]第1章…煤まみれの坑夫と寝そべるぐうたら女神
坑道からの石段をのそのそと上ってくる煤まみれの坑夫たちは、息も絶え絶えで、額の汗を拭く手まで煤で真っ黒だ。そんな重労働の後でも、みんなが向かうのは古びた教会。誰もが知っている、この世で一番不思議な土産を授かれる場所。だが坑夫たちに見えるのは真面目でおっかない顔をした神父だけだ。
神父は懺悔室で煤だらけの坑夫の言葉をじっと聞く。「神様、どうか、もう少し楽に働けるように…」「妻に優しくされたいんです…」「膝が痛くて…もう掘れません…」神父は深く頷くと、祭壇の奥へと向かう。
神父が向かったそこにいるのは、片腕を枕にして寝そべり、あくびを噛み殺すぐうたら女神。神父だけがその姿を見ることができているらしい。美しいだけに著しく悲しいギャップである…。思わず口元を隠して言上する。
「女神さま、坑夫たちが救いを求めております。」
「あー? めんどくさいなあ。…まあいいや。」
女神は指先をパチンと一度だけ弾く。
神父は戻ってくると、神妙な顔で煤まみれの坑夫たちに手渡す。「これが……神の御意志です。」
落とされたのは小さな飴玉。
坑夫はぽかんとする。「飴玉?」
神父は咳払いをする。「神意です。」これで押し切るしかない…。
坑夫はしぶしぶポケットにしまい、家に帰って妻に渡した。
その夜、妻は思わず頬を赤らめ、久しぶりに柔らかい声で「ありがとう」と、そっと呟いたという。
また別の坑夫が懺悔室で泣き言を言った。「神様、身体のあちこちが痛くて、もう動けないんです…」
神父はまた奥に引っ込む。「女神さま、別の願いです。」
「んー…だるい…ほい。」
女神はまた指先をパチンと弾く。
戻ってきた神父は手に持っていたのは、小さな洗濯板。坑夫はそれを見てため息をつく。しかし神父は怯まない。「これが……神意です。」怯んだら負けな気がするのだ…。
「はあ?」
坑夫はうやうやしく拝領して持ち帰るが、使い道が分からず家の玄関に放っておいた。
翌朝、慌てて出かけた拍子に洗濯板につまずいて、しかも洗濯板の上で転げ回ってしまって、全身に鋭い痛みが走る…。
しかし、痛んだのも束の間、外傷も無く不思議なことに翌日からは肩も腰もすっきり、ツルハシを振る腕が軽くなった。
教会を出るとき、神父はそっと言う。「どうか、大切にお使いください。神の御意志ですので。」
女神は見えない場所で大きく伸びをして、寝返りを打つ。
「あんたら次第でしょ。」
その声は神父にしか聞こえていないが、不思議と坑夫たちの背筋にひやりと冷感を這わせた。
懺悔室から坑夫たちは土産を抱えて家に帰り、翌日には再び煤だらけの坑道へと帰っていく。いつも心のどこかに、ほんの少しだけ灯がともっていた。
第2章…神父の懺悔室はいつも大忙し
教会の扉をくぐると、煤だらけの坑夫たちが懺悔室の前に長い列を作っていた。皆が疲れ切った顔だったが、それでも順番を待つ。懺悔室の前では、あちこちからため息が漏れる。心の奥底に溜まった愚痴や怒りを、どうにか吐き出したくて仕方がないのだ。
そんな坑夫の列をかき分けて割り込む男がいた。坑夫たちも渋々な表情で場を譲る…。
神父も仕方なく、煤まみれの割り込み巡回役を前に真剣な顔で耳を傾けることにした。注意しても効果がないことを悟っていたからだ。「神様、俺は巡回役なのにさ、親方からケチだのなんだのって言われて、給金もこれっぽっちだ。なんでこんなに頑張ってるのに報われないんだ…もうちょっと、いやせめて少しだけでも褒賞を高くして欲しいんでぃ…。」
神父は静かに頷き、奥の祭壇へ向かって深く頭を下げる。「女神さま、どうかお言葉を。」
女神は片腕を枕に寝そべったまま、目を閉じてあくびを漏らす。「あー、めんどくさ。…じゃあ、ほら。」
指先を気怠そうにパチンと弾いた瞬間――
懺悔室にゴンと鈍い音が響く…。頭を垂れていた巡回役の頭上に、突然、小さな鍋が落ちたのだ。
「痛ぇッ!なんだこれ!」
神父は目を見開きながら、転がる鍋を慌てて拾い上げて渡す。「……これが、神の御意志です。」
巡回役は泣きそうな顔で受け取ったが、結局その鍋で料理を作り、腹を壊して寝込んだ。そして仕事を親方に解雇されて畑を耕すようになったのだが、驚くことに彼の手によって栽培されて収穫された野菜は、誰もが驚くおいしさだったという。
次の日、懺悔室に座ったのは親方だった。腕組みをしてふんぞり返り、声を荒げる。「あいつら、全然働きゃしなぇ!文句ばっかりだ。神様、俺にもっと力をくれ、言うことを聞かせる力を!」
神父は顔をしかめつつ奥へ行き、女神に恐る恐る告げた。「女神さま、親方が…。」
女神は半目で「んー…はいはい」と気のない声を出し、指先をパチン。
その瞬間――
「グワァンンンンン!!」
懺悔室に盛大に響いた音…。
親方の頭上に、巨大なカネタライが勢いよく落ちた。
「ぐああああ!!」
数本抜けた歯を食いしばりながら、涙目でタライの下から顔を出す親方を前に、神父は少し青冷めながら必死に言葉を絞る。「……こ、これが、神の御意志です。」
親方は顔を真っ赤に怒りながらも渋々とタライを抱えて家に帰った。家の風呂釜の底が抜けて壊れていたため、ちょうど良いとばかりに風呂釜の底代わりに使おうとしたが、瞬時にカネタライが猛烈に加熱されてしまい大火傷した。足裏の痛みで寝返りも打てず、坑道に顔すら出せなくなった。奇妙なことに、その間だけは坑道が不思議と、とても平和だったらしい。
懺悔室から出ていく坑夫たちを見送る神父は、真面目な顔で言葉をかける。「神の御意志は時に厳しく、試練です。それでも、きっと何かしらの意味があるはずです。」
奥では女神が寝返りを打ち、面倒くさそうに尻をポリポリ掻きながら、トロピカルジュースを片手に「あたしは知らないけどね」と小声で笑った。神父にはそれが聞こえてしまい、深く溜息をつくことになったが、やっぱりそれも仕事のうちだと割り切ることにしたんだとか…。
第3章…鉄アレイと糸電話と転んで繋がる不思議な縁
懺悔室は相変わらず煤まみれの坑夫たちで大賑わいだった。神父は毎日毎日、煤の漂う中で溜息をつく。
今日もまた泣きそうな顔の坑夫がやってきて、煤を落とす暇もなくペコリと頭を下げる。「神様、俺、本当にもう無理なんです。体が痛くて、ツルハシも握れません。もう限界なんです…。」
神父は優しくうなずくと、いつも通り祭壇の奥へ進む。そこで目にするのは、定番のだらしなく寝そべる女神の姿。片腕を枕にして欠伸をしている。「女神さま、別の願いです。」
「あー、はいはい…だるいなあ…。」
女神は目を開ける気もなく、指先をパチンと弾いた。
その瞬間、懺悔室の坑夫の頭上にゴン、と鉄アレイが落ちた。
「いてええぇぇぇー!!」響く坑夫の絶叫~。
神父は大慌てで懺悔室に駆け戻り、鉄アレイを抱えて抗夫に手渡す。「……神の御意志です。」
坑夫は泣きそうな顔で頭をさすりながら、鉄アレイを手に家に帰った。
しかし、その日から、生活は激変した…。家の中で鉄アレイは毎日勝手に知らず知らずのうちに、不思議と居場所を変えるのだ。朝起きたら枕元、夕方にはトイレの前、夜には台所の床。しかも必ず躓かされる。度重なる転倒に、抗夫は怒り狂いながらも転び続けた結果、一ヶ月後には背筋が伸び、筋肉がつき、村の若い娘たちの注目を浴びるスターに変貌を遂げていたという…。現代の美容整形も真っ青の自然な施術である…。
別の日には、また別の坑夫が頭を垂れていた。「神様、嫁と全然うまくいかないんです。喧嘩ばかりで、もう限界です。話をするのも怖い。」
神父は真面目な顔で奥へ向かい、「女神さま、またお願いが…。」
女神は面倒くさそうに寝返りを打ちながら、「あー、もう、はい。」とまた指をパチン。
ポトン。
坑夫の頭上に落ちたのは、くねくね動く紙コップ2つとつながる紐?…そう謎の糸電話だった。
「うわっ、何だこれ…!」
神父は笑いをかみ殺しながら、震える声で差し出す。「……神の御意志、です。」
持ち帰った坑夫は、仕方なく糸電話を部屋に置く。だが夜になれば糸が勝手に伸びて嫁の部屋へ繋がり、強制通話が始まる。寝言も独り言もトイレの音も筒抜けで、お互いの恥ずかしい話が全部ダダ漏れに漏れ続ける。最初は大喧嘩にもなったわけだが、隠し事を全部吐き出したら、いつしか笑いながら話せる夫婦になった。気づけば嫁は頬を赤らめ、ちょっとだけ声が優しくなっていたという。不思議と美女化して見えるから驚きだったという…。
神父は煤だらけの手を合わせて見送る。「これもまた、神の御意志です。」
女神は奥で寝そべったまま、かすれた声で「あたしは知らないけどね」と呟く。神父は肩を落としながらも、しっかりと扉を開け、坑夫たちを送り出すのだった。彼らは煤を落とす暇もなく、でも少しだけ胸を張って坑道へと戻っていった。
第4章…王城の前に飛ばされた男と熊に追われた奴らのその後
坑夫たちが列を成す懺悔室は、今日も煤とため息と熱気で充満していた。神父は煤に塗れた顔を拭いながら、それでも一人一人の話に耳を傾ける。ある日、弱々しい声で泣きつく坑夫がいた。「神様、こんな生活もう嫌です。なんでもいいから、俺を別の場所に連れて行ってください…。」
神父は奥の祭壇へと歩みを進め、ぐうたら女神を見上げて頭を下げる。「女神さま、またお願いが来ております。」
女神は片腕を枕にしながらあくびをかみ殺し、「あー、はいはい」と適当に指をパチン。
懺悔室から物音がしない…。あれ?…今日は何もなしか…抗夫がそう思いながら、帰ろうと教会の扉を開け一歩を踏み出たその瞬間、足が空を切り、気づいたら王城の前に頭から落ちていた。落ちた痛みよりもびっくりして腰を抜かしていると門番たちに引っ張られ、あれよあれよという間に謁見の間へ。王様に直面する羽目になったが、なぜかその正直な煤まみれの顔が気に入られ「お前、騎士になれ」と命令される始末。泣きながら稽古の剣を振ったが、次第に誇りを覚え、今では立派な騎士として国を守っているらしい。
また別の日、坑道帰りの坑夫が懺悔室で肩を震わせていた。「神様、俺は仲間と一緒にもっと稼ぎたいんです。でも親方が怖くて言えなくて…。」
神父は同じように女神の前で頭を下げる。「女神さま、こちらも…。」
女神は片目も開けずに指をパチン。
教会を出た坑夫は翌朝、いつものように坑道へ向かったが、道の途中で巨大な熊と鉢合わせすることになった。「うわぁああああああ!」と転げて逃げ回るうちに、偶然にも親方一行と遭遇。親方たちは一目散に逃げ散り、もう二度と坑道に戻れなかったという。残された坑夫たちは相談して、仕方なく自分たちで坑道を運営することに。試行錯誤を重ねたが、皆で力を合わせて経営を始め、いつしか家族ごと村ごと豊かになっていったという。
神父は煤だらけの顔で、転がり込んでくる坑夫1人1人と真剣に見つめて言う。「神の御意志は、時に厳しくも新しい道を開きます。」
奥で女神はゴロリと寝返りを打ち、「あたしは別に知らないけどね」と鼻を押し上げ豚の鼻。その美貌の崩れ振りに神父は深いため息をついたが、今日もまた坑夫たちの背中をそっと押して送り出す。外では坑道へ戻る者、新しい街へ旅立つ者、笑いながら腕を組む仲間たちの声が聞こえていた。
第5章…ハンカチを落としたら王女と結婚した男の話
懺悔室には今日も煤まみれの坑夫が座り込み、声を震わせて願いを絞り出していた。「神様…俺はもう、何でもいい。何か1つ、希望をください。人生を変えるきっかけが欲しいんです。」
神父は深く頷くと、背筋を伸ばして祭壇の奥へ進む。そこには相変わらず片腕を枕に寝そべり、欠伸を噛み殺すぐうたら女神がいた。「女神さま、切実な願いが届いております。」
「んー…はいはい。」女神は目も開けずに、気怠そうに指をパチン。
次の瞬間、坑夫の頭上にふわりと落ちたのは、一枚の布。
「なんだ、これ……ハンカチ?」
神父はそっとそれを拾い上げ、真剣な顔で手渡す。「……神の御意志です。」
坑夫は狐につままれたような顔で、煤だらけの手でハンカチを受け取った。
その帰り道、石段を降りる途中でつまづき、彼の手から滑り落ちたハンカチが風に舞った。慌てて拾おうとした瞬間、ちょうどそこにいた誰かの手とぶつかる。顔を上げると、そこには見知らぬ美しい女性が頬を染めて立っていた。お互いに言葉を失い、その場で不器用に名乗り合った。
そして数日後、坑夫は真っ青な顔で教会を訪れる。「神父様、俺、信じられないんですけど、俺…出会ったんだけど…あの人…王様の第三王女様なんだそうで…。」しどろもどろで説明する坑夫。
神父は目を丸くしつつも小さく頷く。「神の御意志は、予想を超えることがあります。」
「でも、でもですよ!俺なんかが…!」
「それでも選ぶのは、あなた自身です。」
結局、坑夫は意を決してプロポーズし、王女もまた恥ずかしそうに承諾した。国中を巻き込んだ大騒動になりつつも、最終的には誰もが祝福し、ちょっと不釣り合いと坑夫だけが思う奇妙で誰よりも幸福な二人の結婚式が盛大に開かれたという。
奥で女神は寝返りを打ち、声もなくゲタゲタと笑っていた。…その肩の動きを見て、そう思ってしまった神父は、煤まみれの手を合わせながらそっと囁いた。「本当に、困ったお方だ。」
坑夫たちは、そんな奇跡を心のどこかで夢見て、今日もまた石段を上り、懺悔室の扉を叩き続けるのだった。
第6章…クワで掘ったら…ちょっとヤバい話(ゲフンゲフン)
煤にまみれた坑夫たちが、今日もまたも列を作り、神父は懺悔室でため息をついていた。
次に座り込んだのは、ひときわ泥だらけで、ヒゲの奥からも弱々しい声が漏れる初老の坑夫。「神様、もう一歩も坑道を進む気力がありません。せめて何か…何でもいいんで、新しい生き方を教えてください。」
神父は真剣な表情で頷いて、祭壇の奥へ向かう。
ぐうたら女神は相変わらず、片腕を枕にして寝そべって、ほとんど白目を剥きかけていた…ように見えた。
「女神さま、またお願いが…。」
「んー……だるいなぁ……。はい。」
指をパチンと弾いた瞬間――
ゴン。
坑夫の頭上に落ちてきたのは、ヒビの入った古いクワが1本。
「いってえ!なんだこれ!」
神父はためらいがちにクワを拾い、煤だらけの手で差し出す。「……神の御意志です。」
坑夫は不満タラタラだったけど受け取って、舌打ちして悪態つきながら家へ帰った。
坑道を辞めた彼は、仕方なく家の裏庭をクワで掘ることにした。どこかでぶつぶつ言いながら、「こんなもんで何が変わるんだよ」と悪態をつきつつ、ザク、ザク、ザク……。
ところがある日、土が不自然に柔らかい場所に当たった。なんだろうと掘り進めた途端、ザラザラッと金貨がこぼれ落ちる。「お、おおおお……ゲフンゲフン…!」
慌てて周囲を見回し、誰もいないのを確認してから、腰を抜かしてその場にへたり込んだ。
後日、同じ坑夫が煤を落とした綺麗な服を着て神父の前に現れる。「神父様…俺、もう坑道には戻りません。家族を食わせる方法を、土の中からもらいました。」
神父は目を細めて頷き、「神の御意志は、時に足元を掘れと言います。」
奥の祭壇では、女神が面倒くさそうに寝返りを打ち、無言のまま口角を少し上げていた。神父はそれを見て、心の中で「ああ、やれやれ…」と呟いたが、声には出さなかった。それもまた、彼の大切な役目だ。
他の噂を聞いた坑夫たちはそれを知る由もなく、今日も煤に塗れた顔で懺悔室の前に並んでいた。希望を胸に、だけど生涯、ちょっと頭上を警戒ながら、いつ落ちてくるか分からない「神の御意志」を待っていたという。
第7章…ペアカップがもたらす家庭円満と子宝の暗示
懺悔室はいつもと変わらず煤と溜息でいっぱいだった。神父は黙って耳を傾け、煤だらけの手を握りしめる坑夫の話を待った。その坑夫はどこかしょんぼりした声で言った。「神様、俺、もうどうしたらいいか分かりません。嫁さんと全然、話もできなくなって、子どももいなくて…。何か、何か変われるきっかけをください。」
神父は真面目に頷き、いつものように奥の祭壇へ向かった。
そこでは相変わらずぐうたら女神が片腕を枕にして寝そべり、寝言混じりにあくびをしていた。
「女神さま…またお願いが来ております。」
「あー…はいはい、もう、めんどくさいな…。」
女神は指先をパチンと弾く。
懺悔室の天井から、ゴトンと落ちてきたのは小さな包み。
神父が拾い上げると、それはペアのカップ。名入りで、控えめに彫られた二人の名前が光った。
神父は煤にまみれた坑夫にそれを渡し、神妙に言った。「……これが、神の御意志です。」
「カップ……?」
「大切に、お使いください。」
坑夫は戸惑いながら家へ持ち帰り、黙ってカップを台所に置いた。最初は嫁も無言でちらりと見ただけだった。だが翌朝、気まずい空気の中で二人はそのカップでお茶を飲むことにした。不器用に目を逸らしながらも、嫁がぽつりと「これ、名前が入ってるんだね」と、微笑んで言った。
それからは少しずつ会話が増えていった。夕食の味付けの話、昔話、仕事の愚痴。やがて二人は肩を寄せて笑い合うようになった。そんなある日、嫁が照れたようにお腹を撫でた。お互いに慌てて驚いて目を見合わせ合った後、二人とも顔を真っ赤にして笑ったという。
教会では神父が煤にまみれたままそっと手を合わせていた。「神の御意志は、人を繋ぎます。」
奥では女神が寝返りを打ち、面倒くさそうに「ふーん、よかったね」と呟いた。その声を確かに聞いた神父は、小さく笑いを漏らしつつも、煤を拭き取ることもなく次の坑夫を迎える準備をしていた。
教会の外では、石段を上る坑夫たちが、少しだけ軽くなった足取りで順番を待っていた。願いを抱えた煤だらけの顔に、うっすらとした希望の色が差していた。
第8章…欲張り坑夫と“奇跡の壺”と腰痛の話
今日も懺悔室には煤をまとった坑夫が列を作っていたが、その中でもひときわ目つきの鋭い男がいた。神父に呼ばれると、彼は大股で懺悔室へ入り、椅子に腰を下ろすや否や吐き捨てるように言った。「神様よ、あんたらさ、最近の土産は小さすぎるんだよ。俺にはもっとでかい、ご利益ってやつをくれよ。倍だ、いや十倍でも足りねえ。全部くれ。」
神父は冷や汗を浮かべつつも、神妙に頷き、祭壇の奥へと足を進めた。
そこでは女神がいつも通り、片腕を枕にして寝そべり、だるそうにまぶたを開けていた。
「女神さま、欲張りな願いが届いております。」
「あー、もう面倒くさい…。はい。」
女神は気のない声を漏らし、指をパチンと弾く。
その瞬間、懺悔室の天井からズシンと鈍い音を立てて巨大な壺が落ちた。
「ぐわっ、重っ!」
頭を押さえた坑夫がよろめきながら、目をギラつかせる。「これだよ、これ!やっぱり神様ってのは分かってらっしゃるじゃねえか!」
神父は青ざめながらも必死に声を出す。「……それが、神の御意志です。」
壺を抱え込むようにして家へ帰った坑夫は、村人たちに得意げに見せびらかした。「この壺を拝むと、どんな願いも叶うんだぞ!」だが村人たちは首をかしげ、次第に誰も寄り付かなくなった。中身を覗けば空っぽで、光るのは彼の欲だけだった。
それでも諦めきれず、壺を担いであちこち持ち歩くが、重さで腰を痛め、ついには動けなくなった。壺は納屋の片隅で埃をかぶり、坑夫は布団の上で「なんでだよ…なんでこうなるんだ…」と泣き言をこぼすしかなかった。
教会の神父は煤にまみれた手を合わせ、「神の御意志は、時に試されるものです。」と声を落とした。
奥では女神が寝返りを打ち、「あたしは別に知らないけどね」と吐き捨てるように呟く。だがその口元は、少しだけにやりと笑っていた。
懺悔室の列に並ぶ坑夫たちは、その笑い声を知らない。だが頭を垂れながらも、どこかで自分に何が落ちてくるのか、震える期待と怖さを抱えていたのだった。
第9章…南国フルーツと金脈と人生を変える景色
教会の懺悔室は今日も煤にまみれた坑夫たちで溢れていたが、その中にひとり、目の下にクマを作った男がいた。神父に呼ばれると、弱々しい声で座り込み、うつむきながら絞り出すように言った。「神様、もう掘りたくないんです。どこでもいい、別の場所で生きさせてください…。」
神父は静かに頷き、奥の祭壇へ向かった。そこではぐうたら女神が相変わらず、片腕を枕にあくびを噛み殺していた。
「女神さま、彼もまた、違う場所を望んでおります。」
「あー、めんどくさい…でもはい。」
女神は投げやりに指をパチンと弾いた。
懺悔室を出た坑夫は、一歩踏み出した瞬間、目の前の景色が一変した。潮風が吹きつけ、聞こえるのは波の音。振り返ると、そこは離島の砂浜だった。最初は茫然自失だったが、仕方なく島で生きるしかない。木に登り、果物をもぎ取り、海で魚を獲るうちに、知らぬ間に身体はさらに引き締まり、笑顔が戻っていった。実った南国フルーツを船乗りが買い付けに来る頃には、彼は島の王様のように胸を張って生活していた。
また別の日、煤を落とさぬまま懺悔室に座った坑夫が震える声で言った。「神様、俺はもっと稼ぎたい。あの坑道じゃダメなんだ、何か、何か別の道を…!」
神父は奥へと進み、「女神さま、また願いが。」
女神はほとんど白目を剥きながら、「はいはい」と指をパチン。
坑夫が外へ出ると、いつもの道が崩れて足元が裂け、落ちた先は真新しい坑道だった。震えながらもツルハシを振ると、ザクザクと金の鉱脈が顔を出す。最初は1人だったが、噂を聞きつけた仲間が集まり、やがて町が生まれた。新しい坑道の主となり、彼は仲間と共に汗だくで笑える人生を送った。
神父は煤まみれの手を合わせ、「神の御意志は、新しい景色を見せます。」と囁いた。
奥で女神は寝返りを打ち、目も開けずに「あたしは別に、どうでもいいけどね」とぼそり。その唇の端が、少しだけ上がったことを神父は見逃さなかった。
坑夫たちは列を成しながら、煤にまみれた顔を見合わせ、誰もが心の奥で「自分には何が落ちてくるのか」と期待と怖さを抱えていた。そして教会の石段を登る音は、今日もどこか少し軽い音を響かせていた。
第10章…女神の寝言と神父の祈りと教会の扉に刻まれた言葉
教会は今日も変わらず、煤をまとった坑夫たちの行列で溢れていた。みんな石段を上るときには足取りが重いのに、不思議なことに懺悔室を出て行くときは少しだけ背筋が伸びていた。それでも次の人がまた煤まみれの手で扉を押し開け、「お願いします」と頭を下げる。そのたび神父は、同じように深く頷いてから奥へ進む。
祭壇の奥では、女神が片腕を枕に寝そべり、髪をぐしゃぐしゃに乱したまま欠伸をしていた。
「女神さま、また一人、願いを持って来ております。」
「あー…あたし、眠いんだよねぇ…。」
「それでも、どうか。」
「……んー、もう、勝手に持ってけ。」
そしてお決まりのように、指をパチンと弾く。
懺悔室では、ゴトンと何かが落ちてきて、煤まみれの坑夫が「うわっ!」と驚きの声を上げる。それを拾って神父が真剣に渡す。「……これが、神の御意志です。」飴玉、洗濯板、鉄アレイ、糸電話、鍋、タライ、ハンカチ、クワ、壺、ペアカップ……その一つ一つが、坑夫たちの人生を少しずつ、時には大きく変えていった。
ある者は愛を取り戻し、ある者は家族を笑わせた。
ある者は王城に呼ばれ、ある者は熊に追われて仲間と自分の坑道を作った。
ある者は庭を掘り当て、ある者は離島で果物を育て、またある者は新たな金脈を切り開いた。
そしてある者は壺を抱えて腰を痛め、欲張りを笑い者にされた。
神父は煤にまみれた手を合わせ、深く頭を下げる。「神の御意志は時に厳しく、時に優しく、それでも必ず意味があります。」
奥では女神が寝返りを打ち、ぼそりと寝言を漏らす。「意味?あたしは知らないけどね。」
その声を聞いた神父は、眉を下げて小さく笑った。
そして教会の重い扉を開けると、そこには煤まみれの坑道へと続く長い石段があった。坑夫たちはそれを下りていく。誰もが土産を抱え、汗と涙を拭いながらも、足取りは少しだけ軽かった。
教会の入口には、古びた文字が刻まれていた。
『何度でも戻ってこい。いかなる時でもフェニックスであれ。』
坑夫たちはその看板を横目に、一人また一人と、煤にまみれた笑顔を浮かべ希望を胸に、今日も暗い坑道へと歩みを進めるのだった。
第11章…欲張りたちの末路と笑える天罰カーニバル
懺悔室の長い列には、今日もさまざまな煤まみれの顔が並んでいたが、その中には目を光らせてニヤニヤ笑う者たちが混じっていた。「へっへっへ、今日は何をせしめてやろうかね」「神様からもっといいもんをせびり取ってやるんだ」などと肩を組んで囁き合う。
神父はそんな連中を前に、眉間にしわを寄せながらも懺悔室へ呼び入れる。「はい、どうぞ。お話をお聞かせください。」
すると奴らは待ってましたとばかりに口を開く。「神様よ、あんたらさ、この間は小さすぎたぜ?俺たちはもっと大きいのがほしいんだ。何倍でも、いや、限界まで寄越せ!」
神父は深く溜息をつくと、煤を振り払いながら奥へと進む。祭壇の奥では女神が相変わらず寝そべり、ぼんやりと天井を見ていた。「女神さま…また、です。」
「はぁ…またか。もう、勝手にしなよ。」
女神はだるそうに片目を開け、指先をパチンと弾く。
懺悔室の天井がギシギシときしむ音がしたかと思うと、ドガーン!!ととんでもない音とともに巨大な木箱が落ちてきた。
「うわっ!?」「でけえ!!」
欲張り連中は狂喜乱舞。「これだよこれ!さすが神様!」
神父は蒼白になりつつも呟く。「……これが、神の御意志です。」
家に帰った欲張りたちは、重たいのを我慢しながら、やっとの思いで開けた木箱を前に息を荒げた。「さあ、中身は金か宝石か…どれだァ!」
だが箱の中は空っぽだった。しかもその木箱は湿気とカビの塊で、持ち上げるたびに変な音を立てて崩れ始める。慌てて捨てようとしたものの重さで腰をやられ、全員が布団に寝込む羽目に。
それでも奴らは諦めが悪い。「まだだ、まだ終わらんぞ!」と泣きながら神父のところへ戻り、煤を撒き散らしながら「もう一度だ、もっと寄越せ!」と喚く。
神父は煤にまみれた手を合わせ、顔を伏せる。「神の御意志は、受け取る者を選びます。」
奥の祭壇では女神が寝返りを打ち、「あーあ、もう知らないよ」とぼそりと吐き捨てたが、その肩はわずかに揺れていた。きっと笑いを噛み殺していたのだろう。
そして教会の外では、今日も新たな煤だらけの坑夫たちが石段を登ってくる。「俺はどうなるんだろうな」「あんな目にだけは遭いたくねえな」と怯えながらも、どこか楽しそうに肘で小突き合っていた。誰もが、次に自分の頭上に何が落ちてくるのか、少しだけワクワクしていたのだった。
第12章…教会の扉に刻まれた言葉と煤まみれの笑顔
煤で真っ黒になった坑夫たちが、今日も石段をゆっくりと上ってくる。汗が目に入っても、足が棒のようになっても、誰も立ち止まらない。それはここが、何かをもらえる場所だからではなく、何かを置いていける場所だからだ。
教会の中では神父が煤を払いながら、1人1人の声に耳を傾けていた。「神様、もう無理です」「助けてください」「せめて何かを変えたいんです」――そのすべてを受け止めるたび、神父は背筋を伸ばし、奥へと歩いていく。
そこには相変わらず、ぐうたら女神が片腕を枕に寝そべり、目を閉じて欠伸を漏らしている。
「女神さま、またです。」
「んー……はいはい。」
いつも通り気のない返事とともに、指先がパチンと弾かれる。
そして懺悔室には、ポトリ、ゴトン、ドガン、ズシン――とさまざまな音を立てて奇妙な「土産」が落ちてくる。飴玉、洗濯板、鉄アレイ、糸電話、鍋、タライ、ハンカチ、クワ、壺、ペアカップ、そして巨大な木箱まで。
それを拾い上げた神父は、煤にまみれた顔を上げて言う。「……これが、神の御意志です。」
笑いながら持ち帰る者、泣きながら抱える者、怒鳴って投げつける者。だが、どの坑夫も、最後には必ず煤だらけの手でそれを握りしめ、坑道へと戻っていった。
女神は相変わらず寝返りを打ちながら、「あたしは知らないけどね」と小声で呟く。だけど神父はそれを聞くたびに、小さく頷いて背筋を伸ばすのだ。「知らなくても、渡すのが私の役目ですから。」
そして教会の分厚い扉には、煤が染み込んだ古い文字が今も刻まれている。
『何度でも戻ってこい。何度でもフェニックスになれ。』
坑夫たちは煤にまみれた顔を擦り、鼻をすすり、時には笑いながらまた石段を下りていく。坑道は暗くて深いけれど、その手には必ず何かが握られている。そして彼らは、またきっと戻ってくるのだ。何度だって、笑いながらだ。
第13章…ぐうたら女神の本音と生真面目神父のため息
教会の夜はしんと静まり返り、煤まみれの坑夫たちも帰ったあとは、ほの暗い灯りが祭壇をぼんやりと照らしていた。神父は煤を払う布を手にしたまま、深いため息をひとつつく。今日も、あれだけの願いが積もった。泣き声も、怒鳴り声も、震える声も全部覚えている。それでも彼は、また明日もこの扉を開けるのだ。
奥では、ぐうたら女神が相変わらず片腕を枕に寝そべり、寝返りを打っていた。神父の気配を感じ取ると、片目をわずかに開けて「んー…まだいたの?」と声を漏らす。
「ええ、今日も終わりました。」
「ふぅん…みんな大変だね。」
「ええ。みんな必死です。」
「面倒だなあ。なんでそんなに一生懸命になれるんだろうね。」
神父は黙って床を拭き続ける。煤を落としても落としても、すぐに真っ黒になる。けれどそれが神父の仕事の1つだ。女神はもう一度欠伸をし、指先をくるりと回すように動かして小さく笑った。「でもさ、あたし別に意地悪してるわけじゃないからね。」
神父は手を止めて女神を見た。
「知ってます。」
「だって意味なんか考えたことないし。」
「はい。」
「勝手に笑ったり泣いたりして、勝手に変わってくれるんだもん。」
「それが、人間です。」
「へえ。」
女神はふふんと鼻を鳴らし、また大きく寝返りを打つ。
神父は布を絞りながら、少しだけ口元を緩めた。
「でも、だからこそ私は渡すのです。神の御意志として。」
「重っ。」
女神は呆れたように笑う。「あんた、真面目すぎ。」
「お褒めいただき、光栄です。」
そのやり取りを最後に、教会はまた静けさを取り戻した。煤はまだ残っているけれど、それを掃除する音が、夜の中で小さく響いていた。
そして朝になれば、また坑夫たちが石段を上ってくるのだ。煤まみれの顔に、涙と笑いをこめて。彼らを迎えるために、神父はまた懺悔室を開ける。女神はまた片腕を枕に、面倒くさそうに指をパチンと弾くだろう。そして誰もが、その奇妙な「土産」を抱え、坑道へと帰っていくのだ。
教会の扉には変わらぬ文字が刻まれている。
『何度でも戻ってこい。何度でもフェニックスになれ。』
そして今日もまた、煤まみれの笑顔が教会を訪れるのだ。
第14章…石段を上る音と煤にまみれた祈り
まだ陽が昇りきらない薄明の中、教会へと続く石段にはまた今日も音が響いていた。コツ、コツ、コツ…。煤だらけのブーツが擦れ、息を切らしながらも、坑夫たちは足を止めない。朝露で冷たく光る手すりを掴み、転ばぬように必死に上る。
教会の扉を開けると、そこには煤を吸い込んでくすんだ空気と、かすかなろうそくの匂いが混じっていた。神父は煤まみれの祭服を正し、微笑みはしないけれど柔らかな目で彼らを迎える。
「お入りなさい。」
坑夫たちは頭を下げ、懺悔室へ入る順番を待つ。
順番を待つ間、あちこちから声が漏れる。
「昨日もらったの、ペアカップだったぜ。」
「え、それでどうした?」
「……ちょっとだけ、嫁さんが笑った。」
「馬鹿だなあ、お前。」
「でも嬉しかったんだよ。」
煤まみれの顔が、ひび割れた笑いをこぼす。
別の者が拗ねたように言う。
「俺は壺だったんだぞ、壺!しかも中身空っぽ!」
「ハハ、腰やっちまったんだろ?」
「笑うなよ!」
「でも、こうして来てんだろ、また。」
「……ああ。」
懺悔室では神父が一人ひとりの声を受け止め、奥へと進む。そのたびに女神は、相変わらず片腕を枕にだらしなく寝そべり、めんどくさそうに目を開ける。
「また?」
「はい。」
「…あー、もう、はいはい。」
そして指をパチン、と弾く音が教会の奥に響く。
煤まみれの坑夫たちの上に、今日もまた奇妙な「土産」が落ちてくる。笑う者、泣く者、怒鳴る者。だけどみんな、それを握りしめて坑道へ戻る日々を過ごす…。
神父は煤を拭いながら祈るように呟く。
「それでも、何度でも。」
外の石段には新しい足音が近づく。コツ、コツ、コツ…。煤にまみれ、疲れた顔をして、それでも目を伏せずに一歩を踏み出す者たちがまたやってくる。
そして教会の扉に刻まれた言葉が、変わらずそこにあった。
『何度でも戻ってこい。何度でもフェニックスになれ。』
女神は気怠げに寝返りを打ち、面倒くさそうに「また来たね」と呟きながら、片腕を枕にその指をゆるく伸ばすのだった。
第15章…煤の中の笑い声と明日を待つ教会
教会の外は夕暮れの色に包まれ、石段は一日の終わりを告げるようにひっそりとしていた。煤をたっぷり吸い込んだ空気が冷たく澄み、吐く息は白く伸びる。坑夫たちの足音はもう聞こえない。扉の前には足跡だけがいくつも残り、煤で黒く染まったそれは今日という日を刻んでいた。
中では神父が祭壇の蝋燭を取り替えていた。煤で黒ずんだ指が不器用に芯を整え、慎重に火を灯す。小さな炎がゆらりと揺れるたび、天井の煤をかすかに照らす。どれだけ拭っても落ちきらない煤が、まるで坑夫たちの人生そのもののようだった。
「終わりましたよ。」
神父は奥の祭壇へ声をかけた。
女神は片腕を枕に寝そべったまま、まぶたを半分だけ開ける。
「ふーん、今日もいっぱい来た?」
「ええ、たくさん泣きましたし、笑いました。」
「面倒な人間たちだねぇ。」
「ええ、愛おしい人間たちです。」
「……変わってるよ、あんたも。」
女神は大きくあくびをして、体をくねらせながら寝返りを打つ。「あたし、別に助けてるつもりないんだけどね。」
神父は小さく笑う。「それで十分です。」
「本当に面倒くさい。」
「ええ。でも、明日も来ます。」
「知ってる。」
女神は声を潜め、ほとんど聞き取れないくらいの声でぽつりと呟いた。「……みんな頑張ってるもんね。」
神父は目を伏せて蝋燭の灯りを見つめる。煤の向こうで、笑ったり泣いたりしながら、また歩き出す坑夫たちの姿を思い描く。煤を払っても払っても黒くなる床を、今日も明日も磨き続けるのが自分の役目だと知っていた。
外では、夜の風が石段を吹き抜ける。きっと明日になれば、またあの足音が近づいてくるのだ。煤だらけで、疲れ果てて、それでも何かを抱きしめるようにして。
そして教会の扉には変わらず、煤でかすれた文字が輝いていた。
『何度でも戻ってこい。何度でもフェニックスになれ。』
煤にまみれた祈りと笑い声を、教会は今日もそっと抱きしめていた。
[ 広告 ]まとめ…この物語で伝えたかったこと
煤にまみれた坑夫たちが、疲れ切った身体を引きずりながらも教会を目指す姿は、どこか私たち自身の日常を思わせます。汗を流し、悩みを抱え、明日も同じ仕事が待っている。逃げ場のないような暗い坑道に戻るのが分かっていても、それでも人は救いを求めずにはいられません。
もちろん、坑道は歴史を振り返れば分かりますよね。
また比喩として一寸先の見えない将来を暗示するものです。
この物語に登場する女神は、決して優しく手を差し伸べてくれる存在ではありません。むしろ面倒くさそうに寝そべり、指をパチンと弾くだけで、何の説明もなく奇妙な「土産」を落としていきます。鍋、タライ、鉄アレイ、糸電話、クワ、壺、ペアカップ…。一見役立たずで、時には痛い目に遭うようなものばかり。でも、それをどう使うかを決めるのは受け取った本人たちの行動の選択の結果です。
神父は女神の気まぐれを「神の御意志」として渡すしかない。彼自身も意味なんて分からない。それでも真面目に煤だらけの顔で「大切にお使いください」と渡す。そこには答えを与えるのではなく、問いを投げかける覚悟が存在しています。
「欲しいもの」をくれと迫った者は重い壺を背負い、腰を痛める。
「変わりたい」と泣いた者は、糸電話という小さなアイテムで嫁と心の底まで話し合う。
「逃げたい」と願った者は離島で南国フルーツを育てる人生を得る。ここは分かりにくいかもしれませんが、新たな人生も順風満帆ではないけど頑張れる新天地を指しています。
「新しい道を」と叫んだ者は金脈を掘り当て、仲間と町を作る。
ここは運と行動を折り込んでいるところです。
この物語は、私たちの日常をそのまま昔話にしたようなものです。誰もが「助けてほしい」「変わりたい」「もっと欲しい」と願います。でも結局のところ、どんな助けも、どんなご利益も、自分で選んで使わなければ意味がない。むしろ痛い目を見て、転んで、泣いて、笑って、それでやっと少しだけ前に進める。
定番のフレーズ。
「何度でも戻ってこい。何度でもフェニックスになれ。」
煤だらけでも、泣きながらでも、笑いながらでも、何度だってやり直せばいい。女神は多分、そこまで面倒は見てくれません。でも教会の扉は開いている。神父は煤を払いながら、また話を聞いてくれる。
だから私たちも、明日もまた石段を上ればいい。暗い坑道に戻るとしても、その手には必ず、誰かからもらった「土産」があるはずだから。それが役立つかどうかは、自分次第なのです。
この物語が少しでも、今日のあなたの心を軽くしてくれたなら。煤を洗い流すのは自分の手でも、そこまでの歩みを支える物語であれたら、何よりです。
またいつでも戻ってきてください。
何度でも、煤だらけの笑顔を連れて。
⭐ 今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m 💖
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