介護現場5月の陣!~無茶振り・沈黙・見えない壁を笑って越える~
はじめに…5月に職場の「素」が顔を出す頃
4月の介護現場には、どこか新学期のような空気があります。新人さんには「分からなかったら聞いてね」、異動してきた人には「ゆっくり覚えれば大丈夫」。先輩も上司も少し丁寧で、休憩室の会話にも春風が吹いている。ところが連休を越えた辺りから、その風向きが妙に変わります。
「これ、今日中にお願い出来る?」「そろそろ1人で大丈夫だよね?」「あれ、このやり方じゃないのよ?」。気がつけば仕事は山積みに増え、教える側にも教わる側にも余裕がなくなり、昨日まで普通だったひと言が妙に胸へ引っかかる。試行錯誤しているだけなのに、シフト表を見て「今日は平和でありますように」と願っている自分がいる。いや、勤務表はおみくじではありません。
5月は誰かが急に意地悪になる月というより、それぞれが抱えていた疲れや期待や仕事の癖が、隠しきれなくなってくる頃です。新人は「早く覚えなければ」と焦り、ベテランは「そろそろ任せたい」と思い、中堅にはなぜか仕事が集まり、上司は「新年度の計画を動かさなければ」と前のめりになる。みんな仕事を良くしたいはずなのに、タイミングが少しずつズレて、一触即発になりかけるのだから職場とは不思議なものです。
けれど、そのズレが見えてくるのは悪いことばかりではありません。「誰が悪いか」を決めるより、「どこで無理が生まれているか」を見つけられれば、職場の景色は少し変わります。無茶振りにも、沈黙にも、人との相性にも、それなりの理由があるもの。5月の介護現場はなかなか賑やかですが、戦う相手を増やすより、笑って越えられる場所を1つ増やした方が働く日は軽くなります。
[広告]第1章…上司のひと言が大仕事に化ける!~無茶振りの正体~
介護現場で少し怖いのは、会議中に上司が明るい声で放つ「これ、やったら面白そうだよね!」というひと言です。その場では雑談に近かったはずなのに、数日後には「実施する方向で進めます」と予定表に載り、さらに数日すると担当者まで決まっている。そこで職員が初めて知ります。「あれ、決まってたの?」と。しかも担当者が自分だったりする。こうなると電光石火、企画書、会議録、職員配置、必要物品、利用者さんへの説明、家族への連絡と、仕事が子だくさん状態で増えていきます。
春の外出行事なら、行き先を決めれば終了とはいきません。車両はどうするのか、車椅子の方は何人乗れるのか、トイレはあるのか、急に暑くなったらどうするのか、雨なら中止なのか延期なのか。利用者さんに楽しんでもらうためには、安全管理や体調確認まで含めた準備が必要です。現場から見れば「楽しそうだから行こう」と「実際に安全に行ける」の間には、かなり長い橋が架かっています。その橋を渡る役目が、気づけば現場職員に丸ごと届いていることも珍しくありません。
さらに厄介なのは、指示そのものより「完成形が見えない仕事」です。「もう少し具体的に」「何かインパクトが欲しい」「臨機応変にお願い」。便利な言葉ですが、受け取った側は頭の中で会議をもう一度開催することになります。インパクトって何だ。利用者さんとバンジージャンプでもするのか。もちろん、しません。準備不足なら叱られ、慎重になれば「時間をかけ過ぎ」と言われる。そんな板挟みに入れば、意気消沈するのも無理はありません。
けれど、問題の中心は「上司が悪い」「部下が動かない」という単純な対立ではありません。上司には計画を前へ進めたい事情があり、現場には普段の介助を止められない現実があります。その間を繋ぐ説明が足りないまま仕事だけが降りてくると、無茶振りに見えてしまうのです。良い指示とは仕事を渡すことではなく、「何のために・どこまで・誰とやるか」まで一緒に渡すことです。それだけでも疑心暗鬼はかなり減り、「やらされ仕事」が「みんなで動かす仕事」へ変わる余地が生まれます。
介護は利用者さんを中心に多くの人が動く仕事ですから、何も企画しない職場が良いわけでもありません。必要なのは、思いつきを否定することではなく、思いつきが現場へ着地するまでの道筋を作ること。上司の「やってみよう」と職員の「ちょっと待ってください」の間に、小さな作戦会議を置ける職場は案外しなやかです。忙しい5月だからこそ、号令より共有、勢いより段取り。そのひと手間が、職員の溜め息だけでなく利用者さんの安全まで守ってくれます。
第2章…新人もベテランも実は疲れてる!~静かな籠城戦~
5月になると、休憩室の景色が少し変わることがあります。4月には「昨日どうだった?」「分からないことない?」と飛び交っていた会話が減り、休憩に入った職員はスマートフォンを眺めたり、黙って飲み物を口にしたりする。挨拶はしているし、喧嘩をしているわけでもない。それなのに、どこか空気が固い。そんな静かな変化から、職場の籠城戦は始まります。
新人さんの側では、「もう1か月たったのだから、そろそろ覚えないと」という焦りが出てきます。分からないことを聞きたいのに、「それ、前にも教えたよね」と言われそうで声を掛けづらい。先輩が忙しそうなら、なおさら遠慮してしまいます。すると分からないまま動き、注意され、「やっぱり聞けば良かった…」と落ち込む。次は慎重になり過ぎて動けず、今度は「もっと自分から動いて」と言われる。右へ行けば左と言われ、左へ行けば右と言われるような気分です。これでは疑心暗鬼にもなります。
けれど、先輩やベテランも楽をしているわけではありません。4月は「新人さんがいるからフォローしよう」と普段より周囲をよく見ながら働き、自分の仕事と教育を同時に抱えています。5月になれば、その疲れがジワジワ表に出てきます。「そろそろ任せられるかな?」と期待する一方、新人さんはまだ全部を覚え切れていない。この時間差が、「まだ出来ないの?」と「まだ1か月ですよ!」のスレ違いを生みます。どちらにも言い分があるからこそ、話がややこしくなるのです。
こんな時に大切になるのが、心理的安全性(不安なく質問や意見を出しやすい状態)です。何でも優しく許すという意味ではありません。「分からない時は聞いて良い」「疲れている時は助けを求めて良い」という空気があるだけで、仕事上の小さな詰まりはかなり減ります。職場の沈黙は、やる気がない証拠ではなく、誰かが「これ以上傷つかないように」と身を守っているサインかもしれません。無理に仲良くなる必要はありませんが、「大丈夫?」「そこ、一緒にやろうか?」のひと言が入る余地は残しておきたいものです。
さらに介護現場では、日勤と夜勤、早出と遅出など勤務時間が違うため、「昨日の流れを知っている人」と「今日初めて状況を見る人」が同じ瞬間に働きます。夜勤明けは早く引き継いで帰りたい。出勤した側は詳しく聞いてから動きたい。この両者が出会えば、以心伝心どころか「そこまで言わなくても分かるよね?」と「いや、分かりませんけど」が正面衝突することもあります。人間、疲れている時ほど言葉を省きたくなるものですが、そんな日に限って省いた一言が後で大仕事になります。
「急がば回れ」と言うように、忙しい5月ほど短い確認を惜しまない方が結局は楽です。新人は完璧に見せなくて良く、ベテランも全部を背負わなくて良い。少し距離を取る日があっても、それを人間関係の終わりだと思わないことです。籠城したくなった時は、城門を全部閉じるのではなく、小さな勝手口くらい残しておく。そのくらいの距離感が、長く働く職場にはちょうど良いのかもしれません。
[広告]第3章…「この人とは合う・合わない」見えない壁との付き合い方
介護現場で働いていると、不思議なくらい仕事の呼吸が合う人に出会うことがあります。「そっちお願い」「了解です」と短い言葉だけで動きが繋がり、気づけば予定より早く仕事が片づいている。正に阿吽の呼吸です。ところが別の日、違う人と組んだ途端に「えっ、今それをするの?」「先にこっちじゃない?」と、頭の中で小さな会議が始まる。同じ介護職、同じ勤務表、同じ利用者さんを支えているのに、組み合わせ1つで1日の体感時間まで変わるのだから、人間関係とは面白いものです。
相性が合わないからといって、相手の能力が低いとは限りません。仕事を早めに片づけたい人もいれば、1人1人との会話に時間を取りたい人もいます。先の予定まで読んで準備する人もいれば、その場の状況を見ながら柔軟に動く人もいる。介護の仕事には正解が1つではない場面が多いため、自分と違う手順を見ると、つい「どうしてそうするの?」と感じやすくなります。十人十色とはよく言ったもので、職員が10人いれば、仕事の時計も10個あるようなものです。
さらに難しいのが、経験年数による感覚の違いです。長く働いてきた人には、言葉にしなくても体が覚えている判断があります。一方、若手には新しく学んだ知識や「もっとこうした方が動きやすいのでは?」という視点がある。どちらかだけを正解にすると、「昔からこうしている」と「今はこう考える」の綱引きが始まります。しかも、その綱の真ん中に利用者さんがいたら笑えません。経験は大切ですが、新しい視点も大切。その両方が同じテーブルに載った時、職場には意外な工夫が生まれます。
ここで気をつけたいのは、「男性だから力仕事」「女性だから細やかなケア」「ベテランだから頑固」「若手だから効率優先」と人を属性で決めてしまうことです。実際の働き方は、性別や年齢だけでは分かりません。体力のある女性もいれば、声掛けがとても丁寧な男性もいる。慎重な若手もいれば、新しい道具を楽しそうに試すベテランもいます。人間は勤務表の備考欄ほど簡単には分類できないのです。「合わない人」ではなく「自分とは仕事の順番や大切にする場所が違う人」と見るだけで、見えない壁には小さな扉ができます。
もちろん、誰とでも親友になる必要はありません。むしろ介護現場で必要なのは、好き嫌いをなくすことより、好き嫌いがあっても必要な連携ができることです。「私は先に食事の準備をしますね」「その間に移動をお願いできますか」と役割を言葉にするだけでも、勝手な思い込みは減っていきます。シフト表を見て「今日はこの人か……長いぞ」と心の中で遠い目をする日はあるでしょう。そこは人間ですから仕方ありません。ただし勤務開始前から心のシャッターまで下ろす必要はありません。相手の動きが1つ予想できるようになれば、それだけでも昨日より仕事は合わせやすくなります。
職場の相性は、白黒をつけて勝敗を決めるものではありません。「気が合う」「少し苦手」「仕事なら普通に組める」くらいの濃淡があって良い。無理に壁を壊そうとすると疲れますが、必要な時に声が届く高さまで低くできれば十分です。5月に見えてきた人間関係の違いは、これから長く働くための取扱説明書を少しずつ集め始めた時期、と考えるくらいがちょうど良いでしょう。
第4章…戦わず回す人がうまい!~職場に余白を作る小さな作戦~
介護現場には、とても忙しく動いているのに周囲まで慌ただしくさせない人がいます。利用者さんに声を掛けながら次の仕事を見て、手が足りないところには自然に入り、誰かが困っていれば「こっちはやっておくよ」とサラリと言う。大声で指示を出しているわけでも、全部の仕事を引き受けているわけでもありません。それでも、その人が勤務に入っている日は何となく現場が回る。こういう人の働き方には、介護技術とは少し違う「余白を作る力」があります。
忙しい職場では、目の前の仕事を早く終わらせることばかり考えがちです。しかし、予定を隙間なく詰め込むほど、小さな予定外が起きた時に全体が崩れます。利用者さんが「今日はお風呂に入りたくない」と言うこともあれば、食事がいつもより進まない日もある。電話が鳴り、家族が訪ねてきて、ナースコールも重なる。介護現場で予定通りだけを期待するのは、雨の日に「今日は傘を使わない予定でした」と空に抗議するようなものです。空はたぶん聞いてくれません。
余白を作る人は、仕事を減らしているのではなく、仕事の詰まりを早めに見つけています。「この後、入浴介助が重なるから、今のうちに物品を出しておこう」「新人さんが記録で止まりそうだから、先に声を掛けておこう」と少し先を見る。臨機応変とは、その場で何でも器用に片づけることだけではありません。予想できる混雑を先にほぐしておくことも、立派な臨機応変です。先手必勝とまで力む必要はありませんが、5分前の準備が30分後の大混乱を救うことはあります。
そして、余白を作るために意外と効くのが「言葉にして渡す」ことです。「後はお願い」ではなく、「食事は終わっています。薬はまだです。〇〇さんが少し眠そうなので見てもらえますか?」と短く伝える。申し送りも同じです。知っている側には当たり前でも、これから担当する人には初めて聞く話かもしれません。仕事が回る職場は、誰か1人が頑張っているのではなく、次の人が動きやすいところまで仕事を渡しています。
これが出来ると、人間関係にも少し余裕が生まれます。「何でやってないの?」と思う前に、「どこまで終わってる?」と確認できる。「普通は分かるでしょ」と腹を立てる前に、「私はこうするつもりだったよ」と伝えられる。小さな確認が増えるだけで、職場に漂っていた疑心暗鬼は少し薄くなります。相手を変えようとするより、情報の渡し方を変える方が早い場面は少なくありません。
もちろん、毎日そんなに綺麗には回りません。人手が足りない日もあれば、予定外が3つ4つ同時に飛び込んでくる日もあります。「今日は余白どころか空欄すらない!」と叫びたくなる勤務もあるでしょう。そんな日こそ、全部を自分で抱え込まず、「今、これが詰まっています」と周囲に見せることが大切です。助けを求めるのは仕事を放り出すことではなく、チームで仕事を戻すための合図です。
介護は1人で完成させる仕事ではありません。誰かが少し早めに準備し、誰かが続きを受け取り、また別の人が利用者さんの変化に気づく。その小さな連携が繋がって1日になります。5月の職場で人間関係がざわついた時ほど、勝ち負けを決めるより「次の人が少し楽になる仕事」を1つ残して帰る。その積み重ねが、慌ただしい現場にちょうど良い呼吸を戻してくれます。
[広告]まとめ…みんな自分の正義を持っているから「ほどほど」でいこう
5月の介護現場は、新年度の緊張がほどけた分、人それぞれの考え方や疲れが見えやすくなります。上司には「仕事を前へ進めたい」という事情があり、新人には「迷惑を掛けずに覚えたい」という焦りがあり、ベテランには「現場を止めたくない」という責任感がある。同じ職場にいながら、それぞれ違う方向を向いて頑張っているから、時々、歯車がカチッではなく、ガリッと鳴るわけです。
その音が聞こえた時、すぐに「誰が悪い」と決めなくても良いのでしょう。無茶振りだと思ったら目的と期限を確認する。新人が黙っていたら、分からないことがないか一声掛ける。苦手な同僚とは仲良しを目指さず、仕事に必要な言葉だけ丁寧に交わす。八方美人になる必要もなければ、孤軍奮闘で全部を背負う必要もありません。職場は家族でも親友グループでもなく、違う人たちが力を持ち寄って利用者さんの暮らしを支える場所だからです。
良い職場は「みんな仲良し」の職場ではなく、違いがあっても助けを求められ、必要な仕事を次の人へ渡せる職場です。人間ですから、「今日はこの人と一緒か……」と勤務表を見て遠い目になる日もあります。それでも朝になれば挨拶をして、必要な時には声を掛け、困っていれば手を出す。そのくらいの距離感でも、チームはちゃんと作れます。
5月に見えてくる職場の凸凹は、悪いものばかりではありません。「この人は急ぐタイプ」「私は確認してから動きたい」「この上司には途中経過を早めに伝えた方が良い」と分かってくれば、6月以降の働き方は少し楽になります。人間関係の答えを一気に出そうとせず、ほどほどに近づき、ほどほどに離れ、困った時には声を掛ける。そのくらいの柔軟な付き合い方が、忙しい介護現場を長く歩く知恵になるのでしょう。
今日、上手く回らなかったとしても、明日1つ声を掛けられれば十分です。職場の空気は、大改革よりそんな小さな一言から変わることがあります。5月の陣は勝敗を決める戦いではなく、お互いの取扱説明書を少しずつ覚えていく時間。肩の力を抜きながら、明日の勤務表には今日より少し軽い気持ちで向かいたいものですね。
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