雪道で命を運ぶ車は同じじゃない~福祉車両の装備格差と運転術~
目次
はじめに…冬の道路は、みんな平等に「油断禁止」になる
冬の朝って、空気がシャキッとして気持ちいい反面、道路だけは笑ってくれません。昨日まで普通に走れていたカーブが、今日は「はい、ここ滑りますよ〜」と突然牙をむく。通勤でも送迎でも、冬の道は容赦なく“いつもの癖”を試してきます。
福祉車両の送迎には、そこにもう一つ、重たい責任が乗ります。乗っているのは荷物じゃなくて人です。しかも車椅子の方がいれば、車内の固定、乗り心地、体調の変化まで気を配る必要がある。にも関わらず、現場で良く使われている車は、ハイゼットやアトレーのような軽のトラックベースだったり、頼れるけど大柄なハイエースだったりとバラバラです。同じ「送迎」でも、車の作りも、余裕も、得意な場面もまったく違うのに、気合いと慣れで同じように運用してしまう。ここが冬に一気に危なくなります。
さらに厄介なのが、教育の厚みです。タクシーやバスの世界みたいに、運転そのものを仕事の柱として鍛え続ける文化があるところと比べると、福祉の現場はどうしても「マニュアルで操作は覚えるけど、冬道の“立て直し”までは身体に入っていない」状態になりやすい。忙しさ、疲れ、会話、時間の圧。そこへ凍結が加わると、事故の芽がヌルッと育ちます。スタッドレスを履いていても、冬の道は「装備だけで勝てるゲーム」ではありません。
この記事では、車椅子を送迎をしている人が感じている「なんか不安」を、ちゃんと形にしていきます。車のグレード差がどこで効くのか、冬に本当に差が出る装備は何か、そして“急がつく操作を消す”だけでは足りない時に、運転技術と教育をどう積み上げればいいのか。通勤でハンドルを握る人にも、そのまま役に立つ話として、少し笑えて、でも読み終わったら背筋が伸びる――そんな内容にしていきます。
冬の道は、焦った人から順番に試されます。ならばこちらは、焦らない仕組みと、焦らない運転を先に作っておきましょう。あなたの送迎も、あなたの通勤も、帰り道がちゃんと「ただいま」に着地するために。
[広告]第1章…ハイゼットとハイエースは別の乗り物~車両グレード差の正体~
福祉車両の話になると、つい「スタッドレス履いてるし大丈夫でしょ」と言いたくなります。でも冬の送迎で本当に差が出るのは、タイヤ以前に「車の土台の強さ」です。ハイゼットやアトレーのような軽ベースと、ハイエースのようなバンは、同じ“箱”に見えても中身が別物です。言い方を替えると、軽は“身軽な自転車”、ハイエースは“安定感のある台車”。どちらも便利ですが、雪道で求められる性格が違います。
軽ベースの強みは小回りです。狭い住宅街、駐車スペースの小ささ、細い路地。送迎の現場は「え、ここ入るの?」みたいな道が普通に出てくるので、軽が救世主になる瞬間はたくさんあります。ただし冬は、その小回りが“罠”にもなります。車体が軽い分、路面の変化に影響されやすく、滑り出すとスーッと持っていかれます。ハンドルが効き過ぎる感じも出やすいので、「曲がれる」からといって曲がろうとすると、雪道はニヤッと罠を張って待っています。小回りが利く車ほど、急ハンドルを封印しないといけない。ここが冬の逆説です。
一方ハイエースは、車体が大きくて重くて、ホイールベースも長めです。この「重さ」と「長さ」は、雪道では味方になりやすい。急な姿勢変化が起こり難く、直進が安定しやすいからです。もちろん万能ではありません。大きい車は止まるのに距離が必要ですし、狭い道では気疲れも増える。けれど“利用者さんを乗せて走る”という仕事で見ると、冬に一番欲しいのはキビキビ感よりも、ドッシリ感だったりします。雪の日は、派手さより安定が勝ちます。
そして福祉車両には、もう1つの「グレード差」があります。それが車内です。特にリクライニング式車椅子で足を挙上して乗せるケース。ここは現場の人ほど「あるある」と頷くと思います。背を倒して足を上げた姿勢は、車椅子が一気に長くなります。すると軽ベースの車内では、足先が運転席や助手席のシートに当たりやすくなる。見た目はちょっと触れてるだけでも、走行中の微振動で“押され続ける”状態になって、気づかないうちに姿勢がずれたり、車いす側に変な力が掛かり続けたりします。雪道はただでさえ揺れが増えますから、接触があるとストレスが倍増しやすい。つまり冬は、車内のミリ単位の余裕が、安全の余裕になります。
冬に効く装備は「走る道具」だけじゃない
車のグレード差は、タイヤや駆動方式だけで決まりません。冬に強い車は、地味な装備がきちんと仕事をします。例えばフロントガラスの曇り取りが速い。ワイパーが雪に負けずに動く。ミラーや窓の霜取りが間に合う。ライトの照射がしっかりしている。こういう“視界を守る装備”は、雪の日に効きます。雪道の事故は、滑る前に「見えてない」から始まることが多いんです。
もう1つ、運転を助ける安全装備の差もあります。ここは車種や年式で違いが出ますが、雪道では「ブレーキを踏んだ時に車がどう振る舞うか」が重要になります。滑りやすい路面での制御は、運転者の腕だけでなく、車側の助けも関わってきます。だからこそ、福祉車両を選ぶ時は“荷室が広いか”だけでなく、“冬に落ち着いて走れるか”を見て欲しい。送迎は、カッコ良さより落ち着きが偉い世界です。
同じ車椅子でも「乗れる車」と「無理が出る車」がある
ここは誤解されやすいところですが、車椅子の種類によって、現実的に扱える車が限られることがあります。特にリクライニングと頭部保持があるタイプは、乗車姿勢と全長の問題で、車内レイアウトに余裕が必要です。後部座席を畳んで補助席を確保するか、前席の位置をどうするか、固定の角度をどうするか。これらを「いつも通り」でやろうとすると、雪の日ほどズレが出ます。
だから第1章の結論はシンプルです。軽は悪者ではないし、ハイエースが絶対の正義でもありません。ただ、雪道では“車の性格”がはっきり出る。軽の現場は、軽だからこそ「急がつく操作を消す」「車内の接触をゼロにする」「視界を守る装備をサボらない」が命綱になります。ハイエースの現場は、安定を活かして「止まれる速度」「長い車間」「大きい車の死角管理」を徹底するのが強い。
雪の日の送迎は、車にとっての期末テストみたいなものです。そこで赤点を取らないために、まずは“自分の車の性格”を正しく知る。次の章では、冬に効く装備を「タイヤ以外」で掘り下げていきます。
第2章…装備はタイヤだけじゃない~冬に効く「足回り・視界・制動」の話~
冬の送迎で「スタッドレスは履いてます!」と言えた瞬間、つい安心したくなります。分かります。履いてないより百倍偉い。偉いんだけど、雪道の神様はそこで拍手して終わってくれません。「では次の問題です。視界が死にました。どうする?」と、平然と第二問を出してきます。
雪道の怖さは、滑ることそのものより、滑る前に“見えていない”ことだったりします。白い路面、白い空、白い息。そこに夕方のライトの反射が混ざると、道路は急に“白い迷路”になります。通勤帯の人も同じで、朝のフロントガラスがちょっと曇っているだけで、歩行者や自転車が「突然出現するイベント」に変わってしまう。送迎はさらに、車内に利用者さんがいる分、急な回避行動が取りづらい。つまり冬は、視界が守れているかどうかで、運転の難易度が二段階変わります。
雪の日の勝負は「視界の整備」で決まる
まず地味だけど強いのがワイパーです。冬のワイパーは、動けばいいわけじゃなくて、雪を押しのけて“ちゃんと拭ける”ことが大事です。ゴムが弱っていると、拭いたつもりでスジが残り、そこにライトが当たって視界が一気に乱れます。送迎で一番困るのは、道路より先に自分のガラスが見えないことです。
次にウォッシャー液。ここは笑い話みたいで笑えないポイントですが、寒い日に「水」で補充していると、凍って出ません。出ないとどうなるか。融雪剤の跳ねや泥跳ねがガラスに貼りついたままになり、視界がじわじわ狭くなります。雪道で“じわじわ視界が狭くなる”のは、精神に地味に効いてきます。焦りの種が増えるんですね。
曇り取りも同じです。暖房を入れているのに窓が曇る日があります。あれは車内の湿気や温度差のせいで、誰が悪いわけでもないのに起こります。だから冬は、曇り取りが「早い車」「効きが弱い車」で差が出ます。もし同じ車種でも効きに差があるなら、フィルターの汚れや風量設定、窓の内側の汚れが原因のことも多いので、そこを整えるだけで冬の運転が一気にラクになります。雪道って、操作より先に“呼吸”が整ってるかが大事で、視界が整うと呼吸が整うんです。
福祉車両なら、もう1つ。スライドドアやリフトまわりの「凍る問題」です。レールに雪が噛んだり、ゴム部が凍ってドアが重くなったりすると、乗降の段取りが崩れます。段取りが崩れると時間の圧が生まれ、時間の圧は運転の雑さに直結します。冬は、走る前に“乗せる道具”がスムーズに動く状態かどうかも、立派な安全装備です。
「走れる」と「止まれる」は別物~制動の装備と癖を知る~
四輪駆動や滑り難い機構があると、発進は確かに助かります。雪の駐車場から出る時、坂道で止まってしまった時、あの安心感は大きい。ただし冬の落とし穴はここで、「走れるから大丈夫」と思った瞬間に、止まる距離の現実が遅れてやってくることです。雪道は、止まるのが一番難しい。だから冬は、車の装備というより、車の“止まり方の癖”を知っている人が強いです。
最近の車は、滑った時に姿勢を整えようとする仕組みが入っていることが多く、運転者のミスを小さくしてくれます。これがあると、カーブで「あ、やばい」と思った瞬間の挙動が穏やかになりやすい。一方で、年式が古い車や簡素な車は、運転者の操作がそのまま車の動きに出やすい。だから「装備が弱い車ほど丁寧に」になります。これは精神論ではなく、車の性格に合わせた現実的な作戦です。
福祉車両の送迎で大事なのは、止まり方を“滑らかにする”ことです。急ブレーキをしない、というより、ブレーキの踏み始めをやさしくして、止まるまでの圧を一定に保つ。そうすると車内の揺れが減って、利用者さんの体への負担が減ります。路面が滑りやすい日は、実はここが一番効きます。「止まる技術」は、雪道の安全と乗り心地の両方を一度に守ってくれるからです。
チェーンは“最後のカード”~持つだけで安心が増えるが使えないと意味がない~
冬の装備で意外と差が出るのがチェーンです。持っているだけで心の余裕が変わります。でも現場で本当に怖いのは、「あるけど付けたことがない」状態です。雪が降っている中で初めて箱を開けると、説明書の文字が雪で滲んで読めません。手は冷たい。地面は濡れている。焦りは増える。はい、冬の神様が笑っています。
だからチェーンは、装備というより“段取り”です。雪の日に付けるのではなく、雪じゃない日に一回だけ、練習しておく。すると本番で焦りが減ります。焦りが減ると、運転が丁寧になります。丁寧になると、事故が減ります。冬は結局、こういう地味な連鎖が一番強いです。
ここまで読むと、「結局、全部大変じゃないか」と思うかもしれません。でも逆に言えば、冬に効く装備は“高級な物”だけではありません。ワイパーの拭き、曇り取りの効き、ドアとリフトの動き、止まり方の癖、そしてチェーンを使える段取り。この辺りは、工夫と習慣で底上げできます。
次の章では、ここに「教育」の話を入れていきます。二種の世界にある“運転の作法”を、福祉の現場に落とし込むにはどうすれば良いのか。気合いではなく、忙しい現場でも回る形で、運転技術に変えていきましょう。
第3章…二種と一般の差はどこに出る?~教育訓練を“技術”に変える方法~
冬の送迎が怖いのは、雪が降るからだけではありません。雪が降ると、人の“甘さ”が露出するからです。ここで言う甘さは、性格の話ではなく、仕組みの話です。忙しい、時間がない、疲れている、会話が増える。そこへ路面の凍結が合わさると、運転は「安全運転」から「イベント対応」に変わります。イベント対応に入った瞬間、運転は経験や勘の世界になりやすい。ここが事故の入口です。
「二種だとスリップの立て直しを練習した気がする」という感覚、すごく大事です。たとえ全員がガッツリ雪道訓練を受けていなくても、二種の世界には共通して“運転を仕事として磨く文化”がある。つまり差は、免許そのものより、運転に対する姿勢の作り方に出ます。福祉の現場は、運転が仕事の一部であって、仕事の中心ではない日も多い。だからこそ、教育訓練を「マニュアルを配りました」で終わらせると、冬に弱くなります。
運転は“腕前”より“再現性”が強い
ここで大事なのは、カッコいいテクニックではありません。むしろ逆で、誰が運転しても同じように安全になる「再現性」です。冬の事故を減らす教育って、実は運転の上手さを競うものではなく、運転のブレを小さくするものなんです。
福祉送迎で再現性が効くのは、走行そのものより「走り始める前」にあります。走る前に時間が押していると、運転は雑になります。車内の準備が整っていないと、走りながら気になって視線が散ります。だから教育訓練で一番価値があるのは、「出発前の整え方」を統一することです。雪の日に焦らない人は、運転が上手いというより、出発前に焦らない仕組みを持っている人です。
例えば、雪の日の段取りを決めておく。遅れることを想定して、早発よりも便やルートの考え方を変える。視界の整備を最優先にする。チェーンを“持ってるだけ”にしないで、一回だけ練習しておく。こういうことは運転技術というより、運転環境を整える技術です。これが出来ると、冬道が急に優しく見えてきます。いや、優しくはならないんですが、牙が見えやすくなります。
雪道の立て直しは「起きる前」に勝負がつく
スリップの立て直しという言葉は格好いいですが、福祉車両の現場で本当に強いのは、立て直しを“発生させない”ことです。雪道は、一度滑ると立て直しのために操作が増えます。操作が増えると車内は揺れます。揺れると利用者さんの体に負担が掛かります。だから雪道のプロっぽさは、派手に戻すことではなく、「戻す必要がない速度で走っている」ことに出ます。
ここでよくある落とし穴が、「四輪駆動だから大丈夫」と思ってしまうことです。発進は確かに楽になります。でも止まるのは別。曲がるのも別。ここを教育で繰り返し共有しておかないと、冬の最初の大雪で、運転者の気持ちだけ先に走り出します。
立て直しの教育を入れるなら、私は雪道の“操作”よりも“感覚”に寄せた方が現場で生きると思います。例えば、ブレーキの踏み始めはやさしく、止まるまで一定の圧で。カーブ手前で速度を落とし、曲がり始めたら足はおだやかに。ハンドルは切り足しをしない。雪の日は「直す」より「乱さない」が正義。こういう言葉は、短いのに身体に残ります。
教育の本丸は「疲れ」と「会話」と「時間の圧」を減らすこと
現場で一番難しいのは、雪道そのものより、雪の日の勤務状況です。渋滞、遅れ、クレームの予感、そして“今日に限っていつもより利用者さんが元気で話しかけてくる”というあるある。運転者の注意力は有限なので、そこに会話が長く乗ると、視線は散り、反応は遅れます。ここは気合いでは守れません。ルールで守ります。
運転中の会話は、完全に禁止しなくて良いんです。大事なのは「運転者が会話の担当にならない」ことです。送迎に同乗者がいるなら、会話の受け皿は同乗者が持つ。運転者は返事を短くして、視界と操作に集中する。ひとり送迎なら、最初に宣言しておく。「安全第一、運転中は返事が短くなります。つらい時は合図してください。安全な所で必ず止まります」。この一言で、運転者の心が軽くなります。心が軽いと、操作が丁寧になります。冬は本当にこれです。
時間の圧も同じです。雪の日は遅れる前提にする。遅れを取り戻そうとしない。取り戻そうとした瞬間に急操作が増えて、滑りやすい路面と衝突します。教育訓練で伝えるべきは、「遅れは悪ではない。事故が悪だ」という価値観の共有です。これが揃うと、現場の空気が変わります。
運転免許を取ってからの年数より“冬前の練習”が効く
「勤務後3年以内に運転免許の取得が必須にしてみたら?」という感覚、これも現場目線で重要です。ペーパードライバー状態や運転経験が薄い状態で、いきなり雪道送迎に入るのは、本人にとっても利用者さんにとっても危険です。ここは現場のやさしさで補うのではなく、仕組みで補うべきところです。
大袈裟な研修を毎回やるのは難しい。だからこそ、冬前に短い練習を入れるのが現実的です。広い駐車場で、止まり方と曲がり方を確認する。チェーンの練習を一度だけやる。ワイパーや曇り取りの効き方を全員で共有する。こういう“短い共通体験”は、冬の本番で効きます。運転が上手い人の技を、言葉ではなく手触りとして全員が持てるからです。
福祉の現場は、運転だけが仕事ではありません。感染対策もある。記録もある。利用者さんとの関わりもある。だから教育は、厚くするほど良いとは限らない。むしろ、短くても確実に回る形にする方が強い。冬道は、その差をはっきり見せてきます。
次の章では、通勤帯にも直結する「雪道の運転技術」を、もっと具体的にしていきます。急のつく操作を消すのは当然として、何故それが効くのか、どこでやらかしやすいのか、そして福祉車両ならではの“乗り心地を守る運転”はどう作るのか。雪の日にハンドルを握る全ての人が、少し強くなれる話を続けます。
第4章…雪道は急がつく操作が命取り~通勤帯にも効く安全運転の基本~
雪道の運転って、極端な話「上手い人が勝つゲーム」ではなくて、「雑な瞬間が負けを呼ぶゲーム」です。だから冬は、運転が得意な人ほど危ない時があります。慣れているからこそ、いつものテンポで行ける気がしてしまう。でも雪道は、こちらの自信を見つけると急に無口になります。返事をしないまま、ツルッと結果だけ出してくるんです。
通勤帯はさらに条件が悪い。急いでいる人が多い、車間が詰まりがち、信号が続く、歩行者や自転車も多い。つまり「急」が生まれやすい環境が最初から揃っています。福祉車両の送迎でも、一般の通勤でも、冬に強い人の共通点はシンプルで、急がつく操作を消し、見えない凍結を疑い、止まる準備を早めに始める人です。
「加速・減速・曲がる」を分解すると雪道は急に優しくなる
雪道で怖いのは、同時に2つ以上のことをやる瞬間です。例えば「曲がりながらブレーキ」「加速しながらハンドル」「車線変更しながらアクセル」。乾いた路面なら何となく成立するのに、凍結が混じると一気に破綻します。だからコツは、運転を分解することです。
曲がる前に減速を終わらせる。曲がり始めたら操作は優しく一定にする。曲がり終わって車がまっすぐになってから、ジワッと加速する。これだけで、車の挙動が落ち着きます。軽ベースの車は特に、ハンドルが軽く反応しやすいので「切る量を少なめ、戻すのもゆっくり」を意識すると、雪道の神様が少し機嫌を戻します。少しだけですけど。
雪の日の敵は「白い雪」より「見えない凍結」
雪が積もっている道は、まだ親切です。滑るかも、と人間が疑えるからです。本当に怖いのは、パッと見で乾いて見えるのに、実は凍っているところ。いわゆる“黒い凍結”みたいな状態です。通勤帯に多いのは、橋の上、日陰、交差点の手前、トンネルの出入り、そして坂の途中。ここは「凍っている前提」で、早めに減速しておく方が安全です。
雪道では、「止まれる速度」が正義になります。スピードを出さない、というより、止まる距離を自分で管理できる速度にする。止まる距離が読めている運転は、同乗者にも伝わります。福祉車両だと、その安心感は利用者さんの体にも直結します。揺れが減り、恐怖が減り、車内が落ち着く。冬の運転は、車の中の空気まで変えるんです。
車間は“優しさ”ではなく“技術”である
雪道で車間を空けると、割り込まれることがあります。ここで腹が立って詰め返すと、雪道はニヤッとします。冬は、車間は優しさではなく、技術です。自分のための安全装置です。
特に通勤帯は、信号で止まる回数が多いので「止まるたびに詰めがち」になります。でも雪道のブレーキは、同じ踏み方でも効き方が変わる日があります。だからこそ、車間は夏の感覚のままだと足りません。体感として、夏の車間のまま冬を走ると、ブレーキの余裕を前借りして走っている状態になります。前借りは、いつか返済日が来るんですね。だいたい、急に来ます。
ブレーキは「強く踏む」より「早く始める」が勝つ
雪道での減速は、踏む力の勝負ではありません。始めるタイミングの勝負です。早めに減速を始めて、優しく一定の力で速度を落としていく。そうするとタイヤが路面を捉え続けやすくなり、車内の揺れも減ります。福祉車両では、この“揺れを減らすブレーキ”がそのまま介助になります。利用者さんの体調に影響しにくい、という意味での介助です。
もし車に滑りを抑える仕組みが付いているなら、過信は禁物ですが味方には出来ます。ただし、味方にする条件があります。それは「運転者が慌てないこと」。慌てて操作を増やすほど、車は落ち着き難くなります。雪道は、運転者の心拍数がそのまま車に伝わる、と覚えておくとちょうど良いです。
もしヒヤリが来たら、「戻す」より「落ち着かせる」
ここは短く、でも大事な話です。万一「おや?」となった時、やってはいけないのは、急に何かを増やすことです。急に強いブレーキ、急に大きいハンドル、急にアクセル。雪道で急は相性が悪い。
大切なのは、まず落ち着いて、余計な操作を増やさず、車が落ち着くのを待つことです。視線は近くではなく、進みたい方向の少し先を見る。ハンドルは必要以上に切り足さない。車がまっすぐに近い姿勢に戻ったら、そこで初めて次の判断をする。雪道は「立て直しの速さ」より「乱れを小さくする」方が安全に繋がります。派手な復活劇より、地味な無事帰還が正解です。
冬の運転技術は、魔法のテクニックではありません。急を消し、見えない凍結を疑い、止まる準備を早く始める。これだけで通勤帯でも事故は減りますし、福祉車両の送迎なら同乗者の安心が増えます。次は、雪道で実際に悩みやすい「現場の判断」をどう安定させるか――運転の外側にある迷いを、仕組みで減らす話に進みましょう。
[広告]まとめ…安い車でも事故は減らせる~整備・教育・運用の優先順位~
冬の送迎や通勤は、毎年やってくる“路面の抜き打ちテスト”です。しかも問題は、運転だけを見ていません。車の素性、装備の整い方、そして運転者の心の余裕まで、全部ひっくるめて点数をつけに来ます。だから雪道で事故が起きる時は、たいてい「その瞬間だけのミス」ではなく、積み重ねていた小さな無理が雪の日に一気に表に出ただけだったりします。雪は正直です。隠していた雑さを、白く塗って見せてきます。
この記事で一番伝えたかったのは、福祉車両だから特別に難しい、という話ではありません。むしろ逆で、福祉車両の送迎は、冬の運転で大切なことが“分かりやすく”出る世界です。軽ベースのハイゼットやアトレーは小回りが利くからこそ、急ハンドルを封印しないといけない。ハイエースのような車は安定があるからこそ、止まれる速度と長い車間を守らないといけない。どちらが良い悪いではなく、車の性格を知って合わせる。これが冬の基本でした。
装備も同じです。スタッドレスは大前提。でも冬に効くのはタイヤだけじゃなく、視界を守るためのワイパーや曇り取り、雪が噛みやすいドアやリフト周りの整備、そして「持ってるだけ」になりやすいチェーンを“使える状態”にしておく段取りでした。雪の日は、走る前の準備がそのまま安全に繋がります。準備が整うと、運転者の呼吸が整い、操作が丁寧になり、結果として同乗者の安心が増えます。冬の安全って、実はこういう地味な連鎖で出来ています。
教育の話も、気合いではなく再現性でした。二種の世界の強さは、派手な立て直しよりも「そもそも乱さない」文化にあります。福祉の現場は忙しいからこそ、厚い研修より、短くても確実に回る形が強い。雪の日の会話ルール、時間の圧を増やさない段取り、運転者が一人で抱え込まない連絡の仕組み。こういう“運転の外側”の整備が、雪道のヒヤリを減らします。雪道は、運転技術だけの勝負ではありません。運転者の注意力を守る設計の勝負です。
そして通勤帯の人にとっても、結論は同じでした。雪道で勝つのは、上手い人ではなく、雑な瞬間を消せる人です。加速・減速・曲がるを分解して、同時にやらない。見えない凍結を疑って、止まる準備を早く始める。車間を“優しさ”ではなく“技術”として確保する。ブレーキは強く踏むより、早く始める。これらは、特別な人の特別なテクニックではなく、誰でも身につけられる冬の作法です。
最後に、少しだけ現場に向けた背中押しを置いておきます。福祉の世界は、補助や寄付でスタートできることが多い分、「あるもので回す」に慣れてしまいがちです。でも冬の事故は、あるもので回す姿勢そのものを問い直してきます。安い車でも事故は減らせる。けれど事故を減らすには、安いまま“同じ運用”を続けないことが必要です。整備に手を入れる。教育を回す。運用を磨く。少しずつでも計画的に積み上げる。これが出来る事業所は、結局スタッフも疲れ難く、利用者さんも安心し、送迎が安定していきます。
雪の日に一番強いのは、四輪駆動の車でも、最新装備でもありません。落ち着いて走れる仕組みを持った人と組織です。冬の道は毎年やってきます。だからこそ毎年、少しずつでもこちらが賢くなっていきましょう。次の雪の日、あなたのハンドルが少し軽く感じられたら、それは“運転が上手くなった”というより、“焦らない準備ができた”証拠です。そんな冬を、一緒に増やしていけたら最高です。
今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m
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