1月の松飾りは1つじゃない~7つの相棒で冬の部屋を着替えよう~

[ 1月の記事 ]

はじめに…1月の松は「相棒の草花」と出会うともっと楽しい

お正月の玄関やリビングに、凛と立つ松を見ると、「さぁ、今年も始まるぞ」という気持ちになりますよね。けれども、三が日が過ぎ、鏡開きも終わる頃になると、同じ松飾りがだんだんと日常の風景に溶け込み、「ありがたいけれど、少しだけ寂しいな」と感じる瞬間もあるかもしれません。飾りを片付けてしまうと、今度は一気に冬の素っ気なさが前に出てしまい、部屋の空気がひんやり見えてくることもあります。

実は1月の象徴のような松は、「孤独に頑張らなくても良い」存在です。そこに相棒となる草花を少しだけ添えてあげると、同じ松でも雰囲気がガラリと変わります。蕾を膨らませた梅の枝、ふわっと香る水仙や蝋梅、赤い実をたわわにつけた千両・万両や南天、足元を支えてくれる葉牡丹や菊、そして冬の空気に映える椿や山茶花。どれも1月から2月にかけて出会いやすい仲間たちで、「松+〇〇」という組み合わせを考えるだけで、冬の部屋作りがグッと楽しくなっていきます。

家庭の玄関なら、「今年も良い一年になりますように」という願いを込めて松に赤い実を添えるだけで、帰ってくる家族やお客さんを迎える表情がふんわり変わります。リビングやダイニングでは、ミニサイズの松と香りの良い草花を組み合わせれば、食事やお茶の時間が少しだけ特別なものに変わります。高齢者施設やデイサービスでは、季節を感じづらい利用者さんにとって、松と冬の草花は「今は1月なんだ」とさりげなく知らせてくれる、優しいカレンダーのような役目も果たしてくれます。

ただ、「何をどう組み合わせれば良いのか分からない」「難しそう」「お花に詳しくない」という声も少なくありません。そこでこの記事では、難しい専門用語は脇に置いて、松を主役にしながら、七つの相棒となる草花を分かりやすく紹介していきます。それぞれがどんな意味を持ち、どんな表情をしていて、どの場所に飾るとしっくり来るのかを、物語を読むような感覚で辿っていけるようにまとめていきます。

また、単に「綺麗に飾る」だけでなく、介護の現場や子どもがいる家庭でも使いやすいよう、安全面や香りの好みへの配慮にも少し触れていきます。花粉が気になる場所ではどう工夫するか、花器が倒れないようにするにはどうしたら良いかといった小さな工夫も、一年のスタートを気持ちよく過ごすための大切なポイントだからです。

1月の松は、飾ってお終いではなく、そこから物語を育てていける存在です。松の隣にどんな草花を選ぶかは、その家や施設の「今年の一歩目」をどう踏み出したいか、という気持ちの表れでもあります。この記事を読み終える頃には、「うちの松には、この相棒が似合いそうだな」と自然にイメージが浮かんで、次の週末には小さな花瓶を用意したくなるような、そんな冬の飾りのヒントをお届けできれば嬉しいです。

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第1章…主役は松~新しい一年の「背骨」を決める~

1月の飾りを考える時、一番最初に決めたいのは「どんな松を、どこに置くか」です。どんな草花を合わせるにしても、松がすっと一本通っていないと、全体の印象がぼんやりしてしまいます。人の身体で言えば背骨のようなもので、太さや長さ、立ち方1つで、その場所の空気がガラリと変わってしまうからです。

松は昔から「長生き」「変わらない強さ」の象徴として大切にされてきました。冬の間も葉を落とさず、寒さにじっと耐えて青さを保つ姿は、新しい一年を迎える入り口にふさわしい頼もしさがあります。玄関に松が一本あるだけで、「ここから先は、この家の時間が流れている」と静かに宣言してくれているようにも感じられます。高齢者施設のロビーや玄関ホールでも、松が立っていると、利用者さんや家族にとって「今年もここで過ごすんだな」と心の準備が整う小さな合図になるでしょう。

とはいえ、松と一口に言っても、床の間に似合う堂々とした枝ぶりのものから、食卓の片隅に置ける小さな鉢物まで、姿は様々です。まず考えたいのは、「この場所を、どんな空気にしたいか」という目的です。人の出入りが多い玄関やエントランスなら、少し背の高い松を選び、入り口から見て真正面か、やや斜めに位置を取ると、場全体を引き締める効果があります。反対に、リビングやデイルームのテーブルに置くなら、腰より低い位置に収まる小ぶりな松にして、座っている人の目線と同じ高さに緑が来るようにすると、圧迫感が出ず、ホッとする存在になります。

もう1つ意外と大切なのが、「松をどれくらい“飾り立てないか”」という加減です。豪華な飾りをたくさん付けた松は確かに華やかですが、ずっと見ていると少し疲れてしまうこともあります。主役である松そのものの線や葉の流れが綺麗に見えるよう、最初の段階では敢えて飾りを控えめにしておくと、後から草花を足した時に全体のバランスが取りやすくなります。まずは松をスッキリと立たせ、「ここが一年の中心地点です」と静かに宣言してもらう。その上で、次の章以降で登場する相棒たちを少しずつ招き入れていくイメージです。

介護の現場では、「大きなものをどんと置く」のが難しい場合もあります。動線の邪魔になったり、歩行器や車椅子の通り道にかかってしまったりするからです。そういう時は、思い切って高さを抑え、カウンターの上やテレビ台の端など、「スタッフも利用者さんも必ず目に入るが、身体はぶつからない場所」を選びます。背の低い松でも、背景に白い壁やパーテーションがあれば、そこに緑のシルエットがクッキリと浮かび上がり、十分に存在感を発揮してくれます。家庭でも、廊下の角やコンセントの近くなど、物が集まりがちな場所を避けて、小さくても視線が通る位置を探してみると良いでしょう。

松を長く楽しむためには、ほんの少しの「お世話の習慣」も役に立ちます。切り枝の松なら、花瓶の水をこまめに替え、根元を清潔に保つだけでも持ちが変わります。鉢植えの松であれば、暖房の風が直接当たらない場所を選び、時々、葉に霧吹きで軽く水をかけてあげると、乾燥した室内でも元気な姿を保ってくれます。そうした毎日の小さな手入れは、職員同士や家族同士の「今日もよろしくね」という声掛けの切っ掛けにもなり、場の空気を柔らかくしてくれるオマケ付きです。

こうして松の位置と大きさ、「どんな表情の松にするか」が決まると、その瞬間から部屋に一本の線が通ります。後は、その線に寄り添うように草花を足していくだけ。春を呼び込む香りを添えるのか、赤い実で福を呼ぶのか、足元をどっしり支える葉を選ぶのか。どんな相棒を招き入れても、最初に決めた松がしっかりと立っていてくれれば、全体がちぐはぐになる心配はありません。次の章では、その松の隣に立たせたい「香りと蕾の仲間たち」に登場してもらい、1月の部屋にそっと春の気配を連れてきてもらうことにしましょう。


第2章…香りと蕾で春を連れてくる~梅・水仙・蝋梅のしつらえ~

松というしっかりした背骨が決まったら、その隣にそっと添えたいのが「香り」と「蕾」を連れてくる草花たちです。まだ外の空気は冷たくても、部屋のなかにフワッと良い香りが漂ったり、固いつぼみが少しずつ膨らんでいく様子が目に入ったりすると、「まだ真冬だけど、ちゃんと春は近づいているんだな」と心がほどけていきます。そんな役目を担ってくれるのが、梅と水仙、そして蝋梅です。

梅は、松との相性がとても良い存在です。「松竹梅」という言葉にもあるように、元々お祝いの場面で一緒に登場してきた仲間同士。まだ蕾が多い枝を松の横に一本だけ挿してみると、松の深い緑の中に、丸い蕾がポツポツと浮かび上がり、それだけで景色に物語が生まれます。毎朝その枝を眺めながら、「少し膨らんできたかな」「一輪だけ開いたね」と声を掛ける時間は、家族にとっても、利用者さんにとっても、小さな楽しみになります。満開の派手な花ではなく、「これから咲く途中」の姿こそが、一年の始まりの期待感とよく似ているのかもしれません。

水仙は、梅よりも少し控えめな見た目ですが、清らかな香りで存在感を発揮します。細くまっすぐ伸びる葉と、白や黄色の花が、冬の室内の光を柔らかく受け止めてくれて、松の力強さをそっと支えるように寄り添ってくれます。松を背の高い花器に生けたなら、その足元に浅い器を置いて水仙をまとめると、高低差が生まれて、目線がゆっくり上下に動く落ち着いたコーナーになります。ダイニングテーブルやデイルームのテーブルに置けば、食事やお茶の時間に香りがフワリと届き、会話の切っ掛けにもなってくれるでしょう。「昔、庭にたくさん咲いていてね」と、自分から思い出話をしてくれる高齢の方も少なくありません。

蝋梅は、見た目も香りも少し特別な存在です。半透明の黄色い花弁が、まるで蝋細工のように光を透かして、冬の弱い日差しをキラリと反射します。花に顔を近づけると、濃厚だけれどどこか懐かしい甘い香りがして、思わずもう一度深呼吸したくなります。玄関や廊下の端に、松と並べて一本だけ蝋梅の枝を挿しておくと、通り過ぎるたびに香りが届き、「あ、さっきと少し違う匂いがする」と季節の変化に気づく切っ掛けになります。視力が弱くなってきた方でも、香りならしっかり届くので、五感のうち別の入り口から季節を感じてもらえるのも良いところです。

香りの花を選ぶ時に気をつけたいこと

香りの花は、人によって「心地よい」と感じる度合いが分かれます。梅や水仙、蝋梅はどれも人気がありますが、体調や過去の経験によっては「少し強い」「頭が重くなる」と感じる方もいます。特に介護の現場では、香りに敏感な利用者さんもいるので、いきなり大きな花束を置くのではなく、最初は控えめな本数から始めて様子を見ると安心です。匂いが強いと感じた時には、飾る場所を食卓の真ん中から少し離して、廊下や窓際など「香りが柔らかく広がる位置」に移してあげると、程良い存在感に落ち着きます。

花粉やアレルギーが心配な場合は、無理に生花に拘る必要はありません。梅や水仙、蝋梅の写真を大きく印刷して額に入れたり、花屋さんで手に入れた枝をモチーフにして、折り紙や画用紙で蕾だけを作って松の枝に結んでみたり。それだけでも、視覚的には十分に季節感が伝わります。ほんの少しだけアロマオイルやフレグランスを使うなら、直接花の代わりとしてではなく、「玄関マットの下に忍ばせた小さな布切れ」や「見えない位置のディフューザー」など、香りの強さを調整しやすい形で取り入れると、好みの違いにも対応しやすくなります。

香りと蕾の花を添えることの一番の魅力は、「時間の流れが目に見えるようになる」ことです。今日は固い蕾だった枝が、数日後にはふっくらしてきて、ある朝ふと気づくと一輪だけ咲いている。その変化は、カレンダーの数字が進むよりもずっと、季節の進行を実感させてくれます。職員や家族が、「今日は何輪咲いたかな」と声を掛け、利用者さんや子どもたちに数えてもらうのも良い交流の機会です。小さな紙に「今日の梅」「今日の水仙」と一言メモを書いて花器の傍に貼っておけば、後で写真を見返した時に「この頃、こんな会話をしたな」と思い出す手掛かりにもなってくれます。

松だけが立っている時の空間は、どこか厳かで、背筋が伸びるような雰囲気があります。そこに梅や水仙、蝋梅の蕾と香りが加わると、その厳かさの中に「柔らかい期待」が混ざります。「まだ寒いけれど、ここから先に続く一年はきっと悪くない」と思わせてくれる、そんな空気です。次の章では、香りや蕾とはまた違う方法で場に彩りを添えてくれる、千両・万両・南天・葉牡丹・菊・椿・山茶花といった仲間たちに登場してもらい、松のまわりに「福」と「安定感」を足していくしつらえについて見ていきましょう。


第3章…赤い実と冬の花で「福」を呼ぶ~千両・万両・南天・葉牡丹・菊・椿・山茶花~

香りや蕾で「これから来る春」を感じられるようになったら、次に足してみたいのが、目で見てはっきり分かる「福の色」です。冬の景色はどうしても白やグレー、茶色が多くなりがちですが、その中でパッと目を引くのが、濃い緑と赤い実、そして冬を耐えながら咲く花の色です。松の傍にそうした色を少し足してあげるだけで、その場所がグッと温かく見え、「ここには良いことが集まりそうだな」という予感が生まれます。その役を担ってくれるのが、千両・万両・南天・葉牡丹・菊・椿・山茶花といった冬の助っ人たちです。

千両と万両は、名前からしてお目出度い木です。「千」「万」という数字の響きには、昔から「たくさん」「ゆたか」という願いが込められてきました。ツヤツヤとした緑の葉の下に、赤や橙の実がたわわにぶらさがっている姿は、見ているだけで何だか嬉しい気持ちになります。松の後ろに背の高い枝を立て、その手前に鉢植えの千両や万両を置くと、「しっかりと根を張った暮らしの上に、実りが重なっていく」という物語を静かに語ってくれているようです。施設の玄関や自宅の入口にこの組み合わせを置けば、出入りするたびに赤い実が目に入り、「今年はどんな実りがあるかな」と自然に会話が生まれる切っ掛けにもなります。

南天は、姿はスラリとしていながら、とても心強い意味を持っています。「難を転ずる」という言葉遊びから、災いを遠ざける木として親しまれてきました。細かい葉がフワリと重なり合い、その先に小さな赤い実が連なっている様子は、千両や万両のどっしりした実とはまた違う、軽やかな美しさがあります。松の枝が力強く上へ伸びているなら、南天はその横でやわらかく揺れる脇役です。介護支援専門員の机の近くや、ナースステーションのカウンターに、小さな南天の一枝を松と一緒に飾っておくと、「今年は大きなトラブルが少ない一年になりますように」と、職員同士でそっと願いを込める目印にもなってくれるでしょう。

千両・万両・南天のような「実ものチーム」と並んで、場に安定感を与えてくれるのが、葉牡丹と菊です。葉牡丹は、ぱっと見たところ「大きなキャベツ?」と思ってしまう人も多いかもしれませんが、丸く重なった葉が花のように見える、立派なお正月の仲間です。白やピンク、紫など、いくつかの色があり、冬の冷たい空気の中でもしっかりと根を張っていてくれます。松を背の高い器に生け、その足元に葉牡丹の鉢を2つ、左右にそっと添えると、まるで着物の裾がふんわりと広がったように、全体のシルエットが安定して見えます。車いすの方や小さな子どもにとっては、目の高さに近い場所で色を楽しめるので、「これ、本当にお花なの?」「キャベツに似ているね」などと会話が弾む、良い切っ掛けにもなります。

菊は、和の空間には欠かせない花です。色も形も様々ですが、1月に飾るなら、白や淡い黄色など、優しい色を選ぶと松の深い緑と良く馴染みます。菊は日持ちが良く、こまめに水を替えてあげれば長く楽しめるので、忙しい現場でも取り入れやすい存在です。仏壇の傍に、松と白い菊を一緒に活ければ、新年の挨拶と日々の感謝を同時に表すことが出来ますし、デイルームの棚の上に小さな松と菊数輪を置けば、「きちんと新年を迎えました」という静かなメッセージになります。派手さはなくても、「整える」「ととのえる」といった役割をしっかり果たしてくれる、頼れる名脇役と言えるでしょう。

椿と山茶花は、冬の寒さの中でも鮮やかな花を咲かせる力強い木です。ツヤツヤとした濃い緑の葉の間から、真っ赤やピンク、白の花がポッと灯ったように現れる姿は、見つけるたびに思わず足を止めてしまうほどの存在感があります。松の落ち着いた緑の横に椿や山茶花の花を一輪挿すだけで、そこだけ時間がゆっくり流れているような、不思議な温かさが生まれます。家庭なら玄関の靴箱の上に、小さな花器に挿した松と椿をそっと並べるだけで、冬の朝が少しだけ華やいで見えるはずです。

一方で、椿については「花がポトリと落ちる様子が、少し縁起が悪い気がする」と感じる方もいますし、花弁が床に散ると、掃除や転倒の心配が出てくる場面もあります。特に高齢者施設や病院などでは、生花としてたくさん飾るのが難しいこともあるでしょう。そんな時は、無理に本物の椿を使わなくても大丈夫です。椿の絵柄の手拭いを松の花器の下に一枚敷いたり、利用者さんと一緒に折り紙で椿の花を作って、松の枝元に飾ってみたり。布や紙なら、色の美しさはそのままに、安全面への不安を減らして取り入れることが出来ます。山茶花も同じように、写真やイラストを使ったり、外の庭に咲いている花を皆で見に行く「お散歩レク」の切っ掛けにしたりと、場に合わせた楽しみ方が考えられます。

色と実を飾る時の小さなコツ

赤い実や色の濃い花は、それだけで目を引く力がありますが、あれもこれもと欲張り過ぎると、視線が落ち着く場所がなくなってしまいます。松を主役に据えるなら、「主役の傍に、色の強いものは1つか2つまで」と心の中でルールを決めておくと、まとまりやすくなります。例えば、玄関には松+千両、リビングには松+葉牡丹、職員室には松+南天、といったように、場所ごとに「この組み合わせ」と決めておくと、それぞれの空間に個性が生まれますし、飾る人も迷わず準備できます。

また、視力が弱くなってきた高齢の方にとっては、細かい模様よりも「色の塊」の方が認識しやすいと言われています。赤い実がギュッと集まっている千両や南天、紫や白が大きくまとまった葉牡丹は、その意味でも冬の室内に向いている存在です。飾る高さを、立っている人の目線だけでなく、椅子や車椅子に座った時の目線でもう一度確かめてみると、普段、気づかなかった場所に「ここに置いたら喜ばれそうだな」というポイントが見つかるかもしれません。

こうして見てくると、千両・万両・南天・葉牡丹・菊・椿・山茶花は、それぞれ姿も意味も少しずつ違いながら、どれも「場に福を呼び込みたい」「不安な気持ちを和らげたい」という願いとよく似合う草花だと分かります。松という背骨の周りに、香りの花たちが春の気配を運び、赤い実や冬の花たちが彩りと安定感を添える。その組み合わせ方次第で、一月の玄関もリビングも、介護のフロアも、まったく表情の違う舞台に変わっていきます。次の章では、それらの草花をどの場所に、どんな組み合わせで飾ると、一日を通して心地よく過ごせるのか。玄関・リビング・介護の場という三つの場面を例に、「松+相棒」の具体的なしつらえを見ていきましょう。


第4章…玄関・リビング・介護の場~場所別「松+相棒」コーディネート術~

同じ松と草花の組み合わせでも、どこに置くかで伝わり方は驚くほど変わります。通り過ぎるだけの場所なのか、座ってじっくり過ごす場所なのか、一日のうちに何度も目に入る場所なのか。それぞれの場面に合った「松+相棒」のしつらえを意識すると、一月の空間がグッと生き生きしてきます。ここでは、家庭と施設のどちらにも馴染みやすい、玄関・リビング(デイルーム)・介護の場の三つを思い浮かべながら、具体的なコーディネートを辿ってみましょう。

1月の玄関は、その家や施設の「顔」です。扉を開けた瞬間に目に飛び込んでくる景色が、そのまま一年への第一印象になります。ここに置きたいのは、しっかりとした松と、赤い実や足元のボリュームで「福」と「安定感」を伝えてくれる相棒たちです。例えば、やや背の高い松をひと枝、スッと縦に生け、その手前に千両か万両の鉢を寄り添わせます。千両の赤い実が、松の深い緑と重なって、入口全体がパッと明るく感じられるはずです。さらに足元には葉牡丹を左右に一つずつ置いておくと、色の塊がグッと視線を引き寄せ、「ここから先はお目出度い空間ですよ」と静かに宣言してくれます。スペースがあまり広くない玄関なら、松を小さめの花瓶に変え、千両か南天を一本だけ添えるだけでも十分です。靴箱の上や飾り棚など、上から見下ろす高さに置くことで、帰るたびに赤い実が目に入り、「ただいま」の声と一緒にほっとする時間を重ねていけます。

リビングやダイニング、施設のデイルームは、家族や利用者さんが長く滞在する場所です。ここでは玄関ほど「格式張った顔」を作る必要はありません。むしろ、日常の中でふと目に入って和めるような、柔らかい組み合わせが向いています。食卓なら、テーブル中央に大きな松をどんと置くのではなく、片隅に小さな松の一輪挿しと水仙をまとめて飾ると、会話の邪魔をせずに視界に季節感を忍ばせることが出来ます。松のすぐ近くに蝋梅の枝を少しだけ加えれば、食事中にフワリと香りが届き、「香りがするとご飯が美味しく感じるね」と話題が広がることもあるでしょう。テレビの横や窓辺の棚には、梅と菊、葉牡丹を組み合わせたコーナーを作っても楽しいものです。松は控えめなサイズにして、背景に見えるように置き、その前に色の違う葉牡丹を二つ並べると、座った時の目線にちょうど良い彩りになります。家族や利用者さんが「今日はこっち側のソファに座ってみようかな」と、自然に居場所を選びたくなるような引力が生まれます。

介護の現場では、玄関やリビングといった共用スペースに加えて、スタッフが集まるカウンター周りや個室、廊下のコーナーなど、少し視点の違う場所にも「松+相棒」を忍ばせる工夫が役に立ちます。例えばナースステーションやケアマネの机の近くには、南天と松を組み合わせた小さな一角を作っておくと、「難を転じる」という願いが目に見える形になり、忙しい合間にふと目をやるだけでも心が落ち着きます。紙に「南天(なんてん) 難を転ずると言われる木」と小さく説明を書いて花器の脇に添えておけば、利用者さんや家族との会話の糸口にもなりますし、新人職員に季節のしつらえを伝える切っ掛けにもなるでしょう。

デイルームでは、テーブルごとに大きな松を置くのではなく、全体を見渡せる位置に一か所、しっかりとした松と千両・葉牡丹を組み合わせた「中心の舞台」を作り、その周りのテーブルには水仙や菊など香りと色の控えめな花をそれぞれ一つずつ配る方法もあります。これなら歩行器や車椅子の動線を妨げにくく、転倒の心配も減らせます。テーブルの上の花は倒れ難い器を選び、花の本数も少なめにして、あくまで「会話の切っ掛け」「手指を伸ばしてそっと触れたくなる存在」に留めておくと安心です。個室や四人部屋のような場所では、ベッドサイドの棚にミニサイズの松と水仙を置き、「自分だけの小さなお正月コーナー」を用意するのも良いでしょう。面会に訪れた家族がその花を見て、「この匂い、昔おばあちゃん家の庭で嗅いだね」と思い出話を始めることもあるかもしれません。

廊下の端やエレベーター前の小さなスペースも、一月のしつらえを楽しむにはピッタリの場所です。ここには椿や山茶花の写真や絵、折り紙で作った花を使い、足元には葉牡丹、背景には松の枝を一筋というように、布や紙も交えた飾り方がお勧めです。生花が難しいスペースでも、色と形の力を借りることで、歩いているだけで「冬の花回廊」を散歩しているような気持ちになれます。車椅子に乗った方の目線の高さも意識して、花や写真の位置を決めると、その人にとっても自分事として季節が近づいてきます。

場所別のしつらえで大切なのは、豪華さを競うことではなく、「ここに集う人は、どんな気持ちでこの一月を過ごしたいのだろう」と一度立ち止まって考えることです。玄関には「ようこそ」「お帰りなさい」という気持ち、リビングやデイルームには「ここで一緒に寛ぎましょう」という気持ち、介護の場には「今年も無事に乗り切れますように」「少しでも穏やかでありますように」という願い。それぞれの場に相応しい思いを、松と七つの相棒に託して具体的な形にしていくことで、1月というひと月が単なる「寒い季節」ではなく、ゆっくりと気持ちを温め直す時間に変わっていきます。次の章では、こうして整えたしつらえを長く楽しむための工夫や、介護の現場で気をつけたいポイントを振り返りながら、松に七つの相棒を添えた1月の物語をどのように育てていくかをまとめていきましょう。

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まとめ…松に7つの相棒を添えて~1月の物語をはじめよう~

こうして振り返ってみると、1月の飾りは「松だけ」でも「花だけ」でもなく、その間にある揺らぎや物語を楽しむ時間なのだと分かってきます。しっかりと場の中心に立ってくれる松を背骨にして、その周りに七つの相棒たち――春を連れてくる香りの仲間、福を呼ぶ赤い実、足元を支える葉や冬の花――を少しずつ招き入れることで、同じ部屋が何通りもの表情を見せてくれるようになります。

第1章で決めたのは、「どんな松を、どこに立たせるか」という土台でした。高さや太さ、置き場所を選ぶことは、「この家や施設で、どんな一年を過ごしたいか」をそっと言葉にする作業でもあります。玄関で背筋を伸ばしてくれる松、リビングで寛ぎに寄り添う松、介護の場で働く人と暮らす人の気持ちを支える松。それぞれの場に相応しい姿を選ぶことで、日常の中に一本の軸が通りました。

第2章では、梅や水仙、蝋梅といった「香りと蕾」の仲間たちが、その軸に柔らかな期待感を足してくれました。固い蕾が膨らんでいく様子や、ふとした瞬間に漂う香りは、「寒さの向こうに春がいる」という当たり前のことを、五感を通して思い出させてくれます。カレンダーの数字が増えるだけでは味わえない、ゆっくりとした時間の流れを、花の変化が教えてくれるのです。

第3章で登場した千両・万両・南天・葉牡丹・菊・椿・山茶花は、目に見える形で「福」や「安定感」を運んでくれる存在でした。赤い実の塊、寒さに負けない葉の重なり、冬空の下で凛と咲く花弁。それぞれの色と形には、「今年も何とかやっていこう」「ここで一緒に暮らしていこう」という前向きな気持ちを支える力があります。派手ではなくて良いけれど、ふと視線を向けた時に心を温めてくれる相棒たちです。

第4章では、そんな松と相棒たちを「どこに、どう並べるか」という視点から見直しました。玄関には、その家や施設の顔としての松と実ものを。リビングやデイルームには、会話や食事をさりげなく彩る香りと色を。介護の場やスタッフのカウンター周りには、「無事に過ごせますように」という願いを託した小さなコーナーを。それぞれの場所に合った組み合わせを考えることは、その場に集う人の気持ちを想像することと重なっていきます。

大袈裟な道具や高価な鉢を用意しなくても、出来ることはたくさんあります。花屋さんで一本だけ梅の枝を選んでみる。スーパーの片隅に並んだ葉牡丹の小さな鉢を、いつもの買い物カゴにそっと足してみる。庭に生えている南天を、ほんの少し剪定して玄関に置いてみる。それだけでも、家の中や施設の空気は少しずつ変わり始めます。大事なのは、「今年の私たちは、どんな気持ちでこの1月を過ごしたいだろう」と一度立ち止まり、その答えを松と草花の形にしてあげることです。

介護の現場では、時間も心も余裕がなくなり、「飾り付けなんて二の次」と感じてしまう日もあるかもしれません。それでも、玄関の片隅やナースステーションの一角に小さな松と南天があるだけで、出勤した職員や通所してきた利用者さんの気持ちは、ほんの少しだけ救われます。家庭でも、バタバタと過ぎていく毎日の中で、テーブルの端に置いた水仙や葉牡丹が、「今日もよく頑張ったね」と静かに語り掛けてくれることがあります。

1月の飾りは、特別なイベントのためだけに用意するものではなく、これから続く一年を、少しでも優しい目で見つめるための準備でもあります。松が背骨となり、七つの相棒がそれぞれの役割で寄り添ってくれることで、その準備はぐっと心強いものになるはずです。次の週末、あるいは次の勤務の前に、近くの花屋さんや園芸コーナーを覗いてみませんか。「うちの松には、この相棒が似合いそうだ」と感じる一本と出会えた時から、あなたの一月の物語は静かに動き出します。

今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m


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