猫に選ばれる家の作り方~祖母・嫁・孫と仔猫のご機嫌大作戦100~
目次
はじめに…「好かれたい」がバレると逃げられる猫界のあるある
猫に好かれたい。猫好きなら、誰もが一度は心の中で唱えた呪文です。ところが猫は、こちらの呪文を聞いた瞬間にスッと距離を取ります。言葉は通じないはずなのに、「あ、この人、今わたしを落としに来たな」と全部バレる。不思議です。人間が恋をすると挙動不審になるのと同じで、猫に好かれたい人間も挙動不審になります。猫はその挙動不審を、ちゃんと怖がります。そりゃそうです。突然ニヤニヤして近づいてくる生き物、だいたい危険です。
今回の舞台は、祖母・嫁・孫の三世代が住む家です。主役は、最近やってきた仔猫。毛並みはフワッと、目はまん丸、行動は気まぐれ。つまり、家の中に小さな王様が即位しました。猫の世界では、王様は玉座に座りません。何故なら猫は、床に寝そべるだけで王様になれるからです。努力が少ない。なのに人間は貢ぐ。猫界は格差社会に見えますが、猫本人は格差という概念すら持っていません。「当然だが?」という顔だけがあります。
祖母は言います。「猫は追うと負ける。待つと勝つ」。一方、嫁は言います。「猫は空気。空気は整えるもの」。そして孫は言います。「猫は獲物が好き。なら私が獲物になる!」と叫びます。待ってください孫。自分を獲物にするのは危ない。猫は可愛いですが、爪は刃物です。可愛い顔の刃物。これが猫の恐ろしさであり、魅力であり、つまり人間はもう逃げられません。
この記事は、「猫に好かれる方法」をまとめたものです。ただし、猫に媚びる方法ではありません。猫の健康と気持ち、そして人格ならぬ“猫格”を大切にしながら、一緒に暮らす時間をとことん満喫するための話です。猫にとって安心できる家は、人間にとっても暮らしやすい家になります。猫が落ち着くと、家の空気が柔らかくなる。猫が眠ると、人間の声が小さくなる。猫が満足げに毛繕いを始めると、家族は勝手に反省を始めます。「あ、私、さっきバタバタし過ぎたな」と。猫は何も言っていないのに、生活指導が入る。これが猫の教育力です。
そして大事な前提があります。猫は、誰にでも同じように懐くわけではありません。猫は“選ぶ”生き物です。今日の好みと明日の好みが違うこともあります。昨日は膝に乗ったのに、今日は膝を踏んで通り過ぎることもあります。人間なら謝りますが、猫は謝りません。何故なら猫は悪くないからです。悪いのは、昨日の膝と今日の膝が同じだと思っている人間です。猫は常に正しい。ここ、テストに出ます。
だから私たちが目指すのは、「猫に好かれる人」になることではなく、「猫に嫌われ難い家」になること。誰を好きになるのかは猫が決める。人間が出来るのは、猫が安心できる条件を増やすことです。その条件100を、祖母の“間合い”、嫁の“段取り”、孫の“遊び”という三つの武器で、物語の中に散りばめていきます。読み終わる頃には、あなたの家の中にも、小さな王様がのびのびと歩ける道が見えてくるはずです。
さあ、まずは祖母の道場から始めましょう。合言葉はシンプルです。「動くな」。猫に好かれたい人ほど動く。だからまず、動かない練習をする。猫好きにとって、これは割りと修行に等しいです。ですが安心してください。修行の最後には報酬、ご褒美があります。猫が寄ってくるという、世界で一番静かな拍手がね。
[広告]第1章…祖母の教えは「まず動くな」~猫の間合い道場入門編~
仔猫が家に来た初日、孫は玄関で正座して待っていました。何を待っているかというと、奇跡です。猫が自分に駆け寄ってきて、顔をスリスリして、ゴロゴロ鳴らして、「あなたこそ我が運命の家族」と言わんばかりに膝へダイブする奇跡。孫の目はキラキラ。希望は満タン。手の平は既に撫でる形に整っています。
その横で祖母は、のんびりとお茶を啜りました。そして一言。「まず動くな」。孫は首をかしげます。動かない?猫が来たら撫でたいのに?祖母は続けます。「猫は、動くものを警戒する。動かないものには、興味を持つ」。なるほど、猫は落ち着かないものが苦手。人間がソワソワしていると、猫は「何か起きる」と思ってしまう。猫の世界は“予想できないこと”が一番怖い。祖母の言葉は、やけに重いのに、やけに簡単でした。
仔猫は、玄関の隅からこちらを見ています。距離はそこそこ。目は大きい。耳はピン。体は小さいのに、警戒心は立派な大人です。孫が小声で「こっちおいで」と言った瞬間、仔猫はスッと視線を外しました。まるで聞こえてないフリ。猫の得意技、知らんぷり。孫は少しだけ肩を落とします。そこで祖母が、さらに道場の奥義を出しました。「目を見つめるな」。え、目を見つめたら愛が伝わるんじゃないの?孫の疑問に祖母は笑います。「猫にとっては、目を見つめるのは挑戦状みたいなもんだ」。猫好きがやりがちな“愛のガン見”は、猫にとって“圧”になりがちなのです。
祖母は、目線を仔猫から少し外して、ゆっくり瞬きをしました。すると孫も真似をします。ゆっくり、ゆっくり。すると仔猫が、ほんの少しだけ瞬きを返しました。孫は「今の、返事?」と小声で言います。祖母は「たぶんね」と言ってまたお茶を飲みます。すごい。猫の会話は静か過ぎて、拍手が聞こえません。でも確かに、何かが通った気がする。孫の胸が少し温かくなりました。
そして祖母は、次の教えを差し出します。「手は上から出すな」。猫の頭の上に手が降ってくると、鳥が襲ってくるみたいに怖いことがある。だから手は横から、低く、ゆっくり。さらに「指先をいきなり近づけるな」。猫の鼻先に指を突き出すと、猫は「それ、何?武器?」となる。まずは自分の存在を置くように、手をそっと近くに置く。猫が自分から嗅ぎに来たら、そこで初めて“許可”が出る。祖母の説明は、まるで外交交渉でした。猫は国。人間は大使。許可なく領土に入ったら、そりゃ怒られます。
孫は、頑張って動かないようにしました。動かないというのは、想像以上に難しい。猫がちょっと前に出た瞬間、つい「来た!」と動きそうになる。ここで祖母が言います。「今が一番大事。今動いたら、猫は『あ、やっぱり罠』と思う」。罠。孫は反省しました。自分は猫を好き過ぎて、猫を捕まえようとしていたのかもしれない。好きは捕獲じゃない。好きは尊重。猫の道場は、いきなり人生の授業です。
しばらくして、仔猫が一歩だけ近づきました。さらにもう一歩。孫の膝は、ちょっと震えます。祖母が小声で「膝を震わせるな」と言います。無理です。世界一可愛い生き物が近づいてきているのです。孫は息を止めました。すると仔猫は、孫の足元に来て、スッと通り過ぎました。膝に乗らない。顔もすりすりしない。代わりに、孫の靴下の爪先だけを、ちょん、と触って去りました。
孫は呆然。「え、それだけ?」祖母は笑って言います。「それだけが、大事件なんだよ」。猫の信頼は、花火みたいにドカンと来ません。雪みたいに静かに積もる。今日の“ちょん”が、明日の“すり”になって、いつか“ゴロゴロ”になる。猫の時間は、人間の焦りと相性が悪い。だからまず、人間が猫の時間に合わせる。祖母の道場の第一の目的は、それでした。
この日、孫は帰り際にもう一度、仔猫を見ました。仔猫は少し離れたところで座り、また知らんぷりをしています。でも耳だけは、孫の方を向いていました。孫は小声で言いました。「……勝った?」祖母は即答しました。「今日は勝ち。猫が逃げなかったから」。猫好きの勝利条件は、だいたい静かです。けれど、その静かな勝利が、一番長持ちするのです。
次は嫁の出番です。祖母が“間合い”で猫の心に近づくなら、嫁は“段取り”で猫の暮らしを整えます。猫は気まぐれに見えて、実は毎日の安心をものすごく大切にしている。そこを守れる家は、猫に選ばれます。さて、嫁は何を整えるのでしょう。猫が議長の会議が、始まります。
第2章…嫁、空気を整える~猫格を守る暮らしは“静かな段取り”から~
翌朝、孫が起きると、家の中が妙に静かでした。静かというより、空気が「整っている」感じ。台所では祖母が湯気の出る湯のみを持ち、いつものお茶を啜っている。孫は昨日の“靴下ちょん事件”を思い出して、まだ胸がふわふわしていました。
その横で嫁が、淡々と動いています。音を立てないように、けれど迷いなく。まるで猫の秘書。孫が「何してるの?」と聞くと、嫁はさらっと言いました。「猫が落ち着ける環境を作ってるだけだよ。猫に好かれるって、撫で方より先に家の空気が大事だから」。祖母が頷いて、お茶を飲みました。うん、家族の中で猫の議長席が確定しています。
嫁はまず、玄関の“ガヤガヤゾーン”を片付けました。靴が散らかっていると、猫の動線が途切れる。猫は小さな体なのに、動線が命です。帰宅した人間の荷物の山は、猫にとっては山脈です。しかも山脈は突然増える。怖い。だから嫁は「猫が通れる道」を作りました。人間は道を作ると満足しますが、猫は道が出来ても満足しません。猫は「その道を通るかどうかは私が決める」と顔で言うだけです。言葉にしない圧が強い。ですが嫁は動じません。「使わなくて良い。あることが大事」と言い、さらっと掃除を続けます。
次に嫁が手をつけたのは、部屋の「高さ」です。猫は床だけで暮らしません。猫は空間を立体で使います。床に猫トイレ。ご飯皿。水。ここまでは猫初心者でも思いつく。でも猫が安心するのは、もう一段上です。嫁は棚の一角を空けて、フワッとしたブランケットを置きました。祖母が「そこ、猫の見張り台かい」と言うと、嫁は「見張り台というより、猫の避難所かな」と返します。逃げ道があると猫は落ち着く。落ち着くと、寄ってくる。寄ってくると、人間は勝手に幸せになる。猫はただそこにいるだけなのに、人間は忙しい生き物です。
孫は「それって好かれるの?」と聞きました。嫁は笑います。「猫はね、好かれる相手を決める前に、まず嫌いになる理由を潰すの。だから嫌いになる理由を減らしておく」。この言葉、猫好きの心に刺さります。猫は接待されるのが苦手です。過剰なサービスは、むしろ警戒されます。だから嫁の戦いは、目立たない。静かな段取り。猫が「ここなら生き延びられる」と思える条件を増やすこと。つまり、猫格の尊重です。
さらに嫁は、水の置き方まで気にしました。ご飯皿のすぐ横に水を置くと飲まない猫がいる。理由を聞いても猫は答えませんが、猫は自分の美学で飲みません。嫁は水を少し離して置き、器も広めのものに変えました。猫はヒゲが器に当たるのを嫌がることがあるからです。孫が「猫って贅沢だね」と言うと、嫁は「贅沢じゃなくて、繊細なんだよ」と返します。祖母が「繊細という名の我儘」と言って笑い、嫁は「はいはい」と笑って流しました。家庭内の平和も整っています。
そしてトイレ。猫の機嫌はトイレに出ます。猫が黙っているから大丈夫、ではありません。猫は不満を、静かに溜めます。黙ったまま、ある日突然、別の場所で表現します。これは猫の政治です。嫁はトイレの位置を、人の通り道から少し外した落ち着く場所に置き、砂の種類も試していました。祖母が「猫のトイレは嫁の城だね」と言うと、嫁は「城というより、猫の安心工事現場」と言って笑いました。猫は工事の完成を褒めません。完成したら当然だと思うだけです。それでも人間は工事をする。ここにも猫界の不思議があります。
孫は、撫で方の修行ばかり想像していたので、少し驚きました。「好かれる方法って、家の準備なんだ」。嫁は頷きます。「そう。猫にとって人間は天候みたいなもの。急に抱っこしたり、急に大声を出したり、急に追いかけたりする。天候が安定すると猫は安心する。安心すると猫はちょっと大胆になる」。なるほど。昨日、孫の靴下をちょんと触ったのも、家の空気が少し安心側に振れていたからかもしれません。
そしてこの日の夕方、事件が起きました。孫がソファに座っていると、仔猫が部屋に入ってきたのです。孫は反射で動きそうになり、祖母の「動くな」が脳内で鳴りました。孫は止まりました。すると仔猫は、嫁が用意した棚の避難所にひょいと登り、そこから家族を見下ろしました。まるで監督。いや、議長です。祖母が小声で「議長、点呼お願いします」と言うと、仔猫は無言でゆっくり瞬きをしました。嫁が「はい、承認」と言い、孫は吹き出しました。
猫は、人間に褒められたいわけじゃありません。猫は、自分が安全かどうかを確かめたいだけです。嫁が整えたのは、猫が安心できる条件でした。そしてその条件は、人間にも効きます。整った空気の中では、声も自然に小さくなるし、動きもゆっくりになる。猫に合わせた生活は、結果的に家族の暮らしも穏やかにします。猫に好かれる道は、猫を中心にすることではなく、猫を乱さないこと。嫁の章の結論は、そこでした。
次は孫の出番です。空気が整ったなら、次は信頼を貯金する時間。猫の心に一番近い通貨、それは遊びです。猫は遊びで本音を見せます。さあ孫よ、自分を獲物にするのはやめて、ちゃんと獲物を作りましょう。猫の狩りごっこが始まります。
第3章…孫が狩りごっこで信頼を貯める~遊びは猫のハートに直行便~
孫は考えました。祖母の「動くな」で猫の心の扉が少し開き、嫁の「空気を整える」で猫の王国が落ち着いた。じゃあ次は何だろう。答えは簡単です。猫が一番生き生きする時間、それは遊びです。猫にとって遊びは暇潰しではありません。遊びは“狩りの儀式”。つまり本能のリハーサルです。ここを押さえると、猫と人間の関係は急に上手くいきます。押さえないと、猫は別のリハーサルを始めます。例えば夜中の廊下で全力ダッシュ。例えばカーテン登り。例えば足首を獲物認定。人間の足首が狩られる未来が見えます。
孫は早速、おもちゃを用意しました。キラキラする紐、カサカサ鳴る羽、転がるボール。孫の目もキラキラ。ところが、仔猫は見向きもしません。見向きもしないどころか、棚の避難所から「それで?」という顔をしています。孫は焦りました。「え、好きじゃない?」すると祖母が小声で言います。「猫はね、最初は様子を見る。相手がどれくらい“本気”か見てる」。嫁も加わります。「遊びは接待じゃなくて儀式。中途半端に振ると、猫は興味が冷える」。孫は背筋を伸ばしました。遊びって、そんなに真剣勝負だったのか。
孫は作戦を変えました。おもちゃを猫の顔の前に出すのを辞めたのです。猫の前に「どうぞ」と差し出すと、人間の都合が見えてしまう。猫は都合に乗らない。だから孫は、おもちゃを床の陰からチラッと見せ、すぐ隠しました。見えたと思ったら消える。消えたと思ったら、また少し動く。しかも動きは小さく、弱く、逃げるように。すると仔猫の耳がピンと立ちました。目が細くなり、姿勢が低くなる。あの「狩りのスイッチ」が入る瞬間です。孫は心の中でガッツポーズ。祖母が「よし、猫の脳が起きた」と言い、嫁が「声が大きい」と笑いました。
ここからが大事です。猫は追うのが好きですが、追わせ方にはルールがあります。ずっと同じ速さで動かすと飽きる。ずっと猫の目の前で動かすと警戒する。ずっと逃げ続けると、猫は諦める。だから孫は、逃げる、止まる、隠れる、また出る、を繰り返しました。猫の視線が追う。体が追う。足が追う。最後に、仔猫がピョンと飛びつきました。成功です。孫は叫びそうになりましたが、嫁の「静かに」が頭に響き、堪えました。猫の狩りは集中の世界。人間の歓声は、儀式に水を差します。
仔猫はおもちゃを捕まえると、しばらくじっと見つめました。ここで孫は、次のコツを思い出しました。猫は勝ちたい。勝たせない遊びは、猫にとってストレスになる。ずっと逃げる獲物は、現実世界でも疲れる。だから最後は猫が「捕まえた!」と思えるように終える。孫はそっとおもちゃを渡しました。仔猫は口に咥え、誇らしげに歩きました。棚の避難所に持ち帰り、戦利品のように置きました。祖母が「議長、勝利宣言をお願いします」と言うと、仔猫は無言で毛繕いを始めました。勝利宣言、それが毛繕い。猫の世界では、勝ったら毛を整える。人間ならガッツポーズですが、猫は身嗜み。上品過ぎます。
そして孫は、もう1つ大事なことに気づきました。遊びは長時間やれば良いわけじゃない。むしろ短く、集中して、終わりを作る。終わりがない遊びは、猫のテンションが上がり過ぎて、夜に暴走しやすい。だから孫は、遊びの終わりに“ご褒美”を少しだけ用意しました。猫の気分が落ち着くポイントを作る。ここで孫は賢くなりました。ご褒美は大盤振る舞いにしない。猫は「毎回これが出る」と学習すると、要求が増えるからです。猫は学習能力が高い。人間を操る学習だけは特に早い。孫は「猫って天才だね」と言い、祖母は「人間が単純なんだよ」と返しました。
ところが、その夜、孫は油断しました。布団に入った瞬間、仔猫が足元に来たのです。孫は嬉しくて動きました。動いた瞬間、仔猫はシュバッと消えました。祖母の「動くな」が再び頭に鳴り響きました。孫は布団の中で反省しました。猫は「追いかけられる」と逃げるのに、「追いかけたい」と寄ってくる。難しい。猫は難しい。でも、そこが最高です。
孫は翌日から、遊びの時間を“猫の儀式”として扱うようになりました。猫が狩る。猫が勝つ。猫が落ち着く。人間はその舞台を作るだけ。すると不思議なことが起きます。遊びの後、仔猫は少しだけ人間に近づくようになります。体を預けるほどではない。でも、足元を通る。横に座る。チラッと見る。猫の信頼は、こういう小さな変化で表れます。孫はそのたびに、心の中で拍手しました。声に出すと逃げるから、心で拍手。猫と暮らす人間は、だんだん静かな人になります。
さて、祖母の間合い、嫁の段取り、孫の遊び。三つの武器が揃ってきました。ここから先は、家族がバラバラに頑張るだけでは足りません。猫は家族全体の“空気”を見て判断します。誰かが急に抱っこしたり、大声を出したりすると、猫は「この家は不安定」と判断してしまう。つまり次の章は家族会議です。議長はもちろん、あの仔猫。人間は議長の機嫌を取りつつ、ルールを揃えていきます。猫に選ばれる家は、だいたい家庭内ルールが静かに統一されています。さあ、猫議長の会議が始まります。
第4章…家族会議は猫が議長~三世代ルールで“選ばれる家”になる~
その夜、家族会議が開かれました。議長はもちろん、仔猫です。議長は棚の見張り台に陣取り、しっぽをふわりと揺らしながら、人間たちを見下ろしました。祖母は湯のみを持ち、嫁はメモ帳を持ち、孫はなぜか背筋を伸ばしています。家庭の会議なのに、空気が妙に厳か。なぜなら、議長は気分で採決を変えるからです。
祖母が言いました。「この子を追いかけるのは無しだよ。追われると猫は逃げる。逃げると人間が追う。追うと猫がもっと逃げる。気づいたら家が運動会になる」。孫は「昨日なった」と小声で告白し、嫁が「反省が早いのは良ろしい」と頷きました。議長は無言で毛繕いを始めました。つまり「議題を続けよ」の合図です。
嫁が次に言いました。「家のルールを揃えよう。人によって態度が変わると、猫は混乱するから」。孫は「でも私は好かれたい」と言いかけて、祖母の視線で止まりました。そうです。好かれたい顔は猫にバレる。議長は気配で察します。嫁は優しく続けます。「好かれるのは結果。まずは、猫が安心できる行動を家族全員で同じにする。これが一番効く」
そこで家族は、議長に向かって“誓い”を立てることにしました。誓いと言っても大袈裟なものではありません。毎日の暮らしの中で、猫の心がザワつかないようにするための小さな約束です。例えば、猫が隠れている時は覗かない。覗くと猫は「安全地帯が安全じゃない」と学習します。猫の安全地帯が壊れると、心が落ち着く場所が減る。落ち着かない猫は、家のどこかで不満を表現します。だいたい人間が大事にしている場所で。これは猫の政治です。
孫が一番つらそうにした誓いは「抱っこは契約」です。抱っこは猫の同意がある日にだけ。祖母は笑って言いました。「抱っこってのはね、猫が『よし』と言った時だけ成立する行事なんだよ」。孫は「じゃあ私はいつ抱っこ出来るの?」と聞き、嫁が「契約成立の日は突然くるから、毎日コツコツ信用を貯める」と言いました。議長は棚の上からゆっくり瞬きをしました。たぶん「そうだそうだ」と言っています。たぶん。
それから、触り方のルールも揃えました。猫の体には“触られて嬉しい場所”と“触られると急に気が荒くなる場所”が混在しています。人間でいうと、肩は気持ち良いけど、突然、脇腹をくすぐられると怒る、みたいなものです。猫はそれがもっと繊細です。だから触る時は短く、様子を見ながら、猫の顔としっぽをよく観察する。しっぽが強くバシバシ動き始めたら、猫の中で「そろそろ終わり」のサインが点灯している。ここで人間が「もう少しだけ」をやると、契約は破棄されます。孫は「猫の契約、厳しい」と言い、祖母は「厳しいんじゃない。正直なんだよ」と言いました。
そして、議長に一番効いたのが「終わりを作る」ルールでした。遊びも撫でるのも、終わりが上手だと次が来ます。終わりが下手だと、猫は逃げて崩れて終わります。孫は遊びを始めると夢中になりがちなので、嫁が合図を決めました。「猫が勝ったら終わる。勝たせてから終わる」。猫は“勝って終わる”と満足しやすい。満足すると落ち着く。落ち着くと眠る。眠る猫は天使です。夜中に廊下で運動会をしない天使。家族の目が輝きました。
会議の途中、議長がふいに「おえっ」としました。毛繕いの延長で、毛玉を出しそうな気配です。孫が「大丈夫!?」と立ち上がりかけ、嫁がそっと手で制しました。「慌てない。騒がない。まず落ち着く」。猫は人間の慌て声で余計に不安になります。祖母はティッシュをそっと取り、嫁は床を汚しにくい場所へ静かに誘導し、孫は息を止めて見守りました。議長は少し咳き込んだ後、何事もなかった顔で座りました。会議は続行。人間側だけが心臓バクバク。猫はこの“温度差”が通常運転です。
嫁が言いました。「こういう時こそ叱らない。猫はわざとじゃないし、体調のサインのこともある。いつもと違う回数や様子なら、食欲や元気、うんちの状態も含めて観察する」。孫は真剣な顔で頷き、祖母は「猫は我慢して倒れる時があるからね」と少し声を落としました。ここだけはユーモアで誤魔化しません。猫格を大切にするって、可愛がるだけじゃなく、ちゃんと見ることでもあります。
会議の最後に、祖母が締めの一言を言いました。「この家は、猫に合わせるんじゃない。猫を乱さない」。嫁も続けます。「猫の自由を増やすために、家族の動き方を揃える」。孫は両手を握りしめて言いました。「私は、好かれに行かないで、信用を貯める」。議長はその瞬間、棚から降りてきて、ゆっくりと祖母の足元を通り、嫁の横を通り、最後に孫の近くで立ち止まりました。
孫は動きませんでした。祖母の道場が効いています。嫁の段取りも効いています。孫の狩りごっこの信頼貯金も効いています。議長は、孫の足に体を軽くこすりつけました。スリ、ではなく、フワッ、くらいの軽さ。それでも孫の顔は一気に明るくなりました。声は出さない。拍手は心の中で。議長は満足そうにしっぽを立て、何事もなかったように歩いていきました。
家族会議の採決は、これです。「この家、採用」。猫は言葉で褒めません。代わりに、距離で示します。触れ方で示します。体温で示します。猫が少し近づいた、その事実が、家庭の勝利です。
次は、いよいよまとめに向かいます。猫に好かれる家は、魔法のテクニックでできるのではなく、毎日の小さな一致でできる。祖母の間合い、嫁の段取り、孫の遊びが揃ったとき、猫は「ここなら安心」と判断する。あとは議長の気分次第――と言いたいところですが、その気分すら、実は日々の安心で育っていくのです。
[広告]まとめ…猫に好かれる近道は猫も人も急がば回れ
猫に好かれる方法を探している人ほど、猫に「好かれに行く」気配を出してしまいます。猫はその気配に敏感で、見事なまでにスッと距離を取ります。言葉が通じないはずなのに、心の中の「お願い!好きになって!」が、何故か猫には丸見えです。猫は超能力者ではありません。ただ、人間の動きと呼吸と目線の変化を、毎日ずっと観察しているだけです。観察が長い。だからバレる。猫は賢い。人間は単純。これが猫界の真理です。
今回の三世代の家で起きたことは、結局とてもシンプルでした。祖母は「動くな」と教えました。猫の間合いに人間が合わせるだけで、猫は怖がり難くなる。嫁は「空気を整える」と動きました。猫が安心できる条件を増やすと、猫は大胆になっていく。孫は「遊びは儀式」と知りました。猫に勝たせて終わる狩りごっこは、猫の心に信頼を貯める。三人がそれぞれ頑張ったのではなく、三人が同じ方向に揃えた。ここが一番大きいポイントです。
猫は、誰か一人の努力だけで“落ちる”生き物ではありません。猫は、家全体の空気を見て判断します。誰かが急に追いかける。誰かが急に抱っこする。誰かが大声を出す。そういうブレがあると、猫は「この家は不安定」と思いやすい。逆に、家族の行動が静かに揃っていると、猫は「ここは安全」と判断しやすい。猫が選ぶのは人間というより、暮らしの安定です。人間はその安定の一部に過ぎません。悲しい?いえ、誇りましょう。私たちは猫の世界の一部になれたのです。
そして忘れてはいけないのが、猫格の尊重です。猫は“癒しの道具”ではなく、気分と意思を持った生き物です。毛繕いをして、時々「おえっ」として、眠くなったら寝て、機嫌が悪ければ距離を取る。猫は自分の都合で生きています。その都合を守ってあげると、猫は人間の傍にいてくれます。守らないと、猫は黙って離れます。猫は怒鳴りません。代わりに、姿を消します。これが猫のやり方です。
だから結論はこれです。猫に好かれる近道は、猫を急がせないこと。そして人間も急がないこと。猫は花火のようにドカンと懐きません。雪のように静かに積もります。今日の「靴下ちょん」が、明日の「すりっ」になる。いつかの「ゴロゴロ」になる。そういう積み重ねが、猫との暮らしの一番おいしいところです。
最後に、孫がポツリと言いました。「猫って、頑張っても褒めてくれないね」。祖母は笑って返しました。「褒めないんじゃない。距離で褒めるんだよ」。嫁も続けます。「近くにいてくれる時点で、もう十分な合格」。孫は頷いて、声に出さずに拍手しました。猫議長は、いつものように毛繕いをして、こちらを一瞬だけ見て、ゆっくり瞬きをしました。
それが、猫からの最上級の「うん、まあ、良いよ」です。人間はその“まあ”で、また明日も頑張れてしまいます。猫は今日も気まぐれ。でも、その気まぐれに合わせて暮らすと、家は不思議と優しくなる。猫に選ばれる家は、猫だけでなく、人も暮らしやすい家になる。これが、三世代と仔猫が教えてくれた結末でした。
付録~猫好きのための「猫に好かれる100の方法」一覧~
1.猫が近づくまでは自分から詰めない
2.追いかけない
3.逃げ道をふさがない
4.正面から一直線に近づかない
5.目をじっと見つめ続けない
6.ゆっくり瞬きで合図する
7.猫が隠れている時は覗かない
8.大声を出さない
9.急な動きをしない
10.立ち上がる時はゆっくり
11.手は上から降ろさず横から出す
12.指先を鼻先に突き出さない
13.まず手を近くに置いて待つ
14.猫が嗅ぎに来たら動かない
15.触る前に猫の表情を見る
16.しっぽの動きを観察する
17.しっぽが強く動いたら引く
18.耳が後ろに倒れたら引く
19.体が固まっていたら引く
20.撫でる時間は短めから始める
21.撫でる場所は顔まわり・首・背中中心
22.いきなりお腹を触らない
23.いきなり足先を触らない
24.いきなりしっぽを触らない
25.抱っこは猫の同意がある日だけ
26.抱っこは短時間で終える
27.降りたい合図が出たらすぐ降ろす
28.寝ている猫を無理に起こさない
29.寝床をいじらない
30.猫が逃げたら追わずに距離を戻す
31.家に“高い場所”を用意する
32.見張り台になる棚やキャットタワーを作る
33.猫の避難所を1つ以上用意する
34.隠れられる箱や布を用意する
35.通り道に物を散らかさない
36.猫の動線を確保する
37.水はごはん皿から少し離す
38.水の器は広めのものにする
39.水は毎日新しくする
40.飲みやすい場所に水を複数置く
41.トイレは落ち着く場所に置く
42.トイレは通り道の真ん中に置かない
43.トイレは清潔を保つ
44.砂の好みを観察する
45.トイレの数は余裕を持たせる
46.急にトイレの場所を変えない
47.急に砂の種類を全部変えない
48.失敗しても叱らない
49.粗相は静かに片付ける
50.怒鳴らない
51.罰を与えない
52.出来た行動を褒めるより“邪魔しない”を徹底
53.おやつは少量でルール化する
54.おやつで釣り過ぎない
55.ご飯の時間を出来るだけ安定させる
56.急な来客時は猫の避難所を優先
57.来客に猫を追わせない
58.子どもに追いかけさせない
59.触らせる前に「猫の許可」を待つ
60.猫が嫌がる音を減らす
61.掃除機の時間は猫が逃げられるようにする
62.急な拍手や騒音を避ける
63.香りの強い芳香剤を控える
64.猫の体調変化を毎日見る
65.食欲の変化を見逃さない
66.水を飲む量を意識する
67.うんち・おしっこの様子を確認する
68.元気がない日は無理に遊ばない
69.吐いた時は慌てず観察する
70.吐く回数が増えたら相談先を考える
71.遊びは“狩りの儀式”として行う
72.おもちゃを猫の顔の前に出し続けない
73.隠す・出す・止めるで緩急をつける
74.弱った獲物のように動かす
75.高低差をつけて遊ぶ
76.短く集中して遊ぶ
77.最後は猫に勝たせる
78.勝たせて終える
79.遊びの後に落ち着く時間を作る
80.手や足を獲物にしない
81.噛まれたら静かに離れる
82.噛み返さない(当たり前)
83.爪が当たっても大騒ぎしない
84.遊び中の興奮は上げ過ぎない
85.夜の運動会を避けたいなら夕方に遊びを入れる
86.日向ぼっこ出来る場所を作る
87.窓辺の安全を確保する
88.網戸や脱走対策をする
89.爪研ぎ場所を複数用意する
90.爪研ぎを叱らず誘導する
91.ブラッシングは短く気持ち良く
92.嫌がる日は無理にやらない
93.嫌がる場所を避ける
94.声掛けは優しく短く
95.名前を連呼し過ぎない
96.猫が来たら“動かず歓迎する”
97.猫が去ったら追わずに見送る
98.距離が縮まった日は静かに喜ぶ
99.猫の気分が変わる前提で暮らす
100.猫を急がせない。人も急がない
付録は一覧として並べましたが、本編ではこの中身を物語の中に散らばらせてあります。気になる項目があったら、読み返すたびに「うちの議長はどれ派?」と楽しめますよ
今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m
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