3月の特養で新人歓迎が爆誕!~理事長マイク暴走と事務長アタフタの館内挨拶ツアー~

[ 3月の記事 ]

はじめに…4月入社はまだ先なのに3月の内定挨拶で「歓迎の宴」が始まってしまった話

4月入社が決まった内定者さんが、ひと足早く3月に館内へご挨拶に来てくれる。特養の春は、そういう“新しい風”がフッと入る瞬間があって、現場の空気が少しだけ明るくなるんですよね。……本来なら、ここで終わるはずでした。「4月からお世話になります。よろしくお願いします」と、穏やかな拍手と笑顔。はい、平和。理想。教科書。

ところが、うちの館には“教科書に載っていない人”がいます。理事長です。マイクを見ると、何故か魂がライブ会場に転送されるタイプ。さらに、横でそれを止めたいのに止められず、顔だけがどんどん青くなっていく事務長。そこへ、真面目で礼儀正しい新人男子1名と新人女子1名が並んで立つものだから、もう対比が美しい。片や「盛り上げたい!」の権化、片や「事故だけはやめて!」の守護神、そして新人2人は「え、挨拶って……こんな感じでしたっけ?」のポカン顔。完成です。コントの舞台が。

しかも、この日のタイミングがまた絶妙。ちょうどレクリエーション前の“まったり時間”で、利用者さんはお茶を飲みながら、緩く集まり始めている。職員も、慌ただしいけど穏やかな準備の真っ最中。つまり、笑いが起きたら勝ち確の空間です。すると案の定、理事長がマイクを手にした瞬間、空気がフワッとライブ仕様に変わり、事務長の心拍はスリリング仕様に変わり、新人2人の表情は「社会科見学」みたいになり、利用者さんの笑いは春の花粉より勢いよく飛びました。いや、飛んでない。響いてました。

この話は、ただの“暴走事件”ではありません。新人くん新人さんが「待ってたよ」と迎えられる空気が、どうやって館全体に広がるのか。笑いが、緊張をほどき、初日の不安を軽くし、人と人の距離をフッと縮める瞬間が、ちゃんと詰まっています。もちろん、現場には現場の事情もある。時間、動線、音量、転倒リスク、予定通りに進めたい段取り。そこで暗躍するのが事務長の“火消し術”で、これがまた職人芸みたいに効くんです。笑って良いけど、越えちゃいけない線は守る。盛り上げたい気持ちと、安全に回したい現実。その綱渡りを、まさか新人挨拶でやるとは思いませんでしたが。

本記事では、4つのフロアを巡る“新人歓迎爆誕ツアー”を、フロアごとに違う披露方式でお届けします。デビュー発表会、握手会未遂、原稿防衛戦、そして千秋楽アンコール地獄。新人2人の心が弾む……というより、途中から心拍が弾む。けれど最後には「ここで働くの、ちょっと楽しみかも」と思える着地が待っています。どうぞ、3月の特養で起きた、春一番の盛大な笑いをご一緒に。

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第1章…1Fデビュー発表会開幕!~理事長が司会者になった瞬間に空気がライブ会場になった~

1Fのホールは、レクリエーションが始まる少し前の“まったり時間”でした。利用者さんはお茶を啜りながら談笑し、職員はさりげなく椅子の向きを整えたり、テーブルの上を拭いたりして、いつもの穏やかな準備をしている。音楽が鳴っているわけでもないのに、何故かこの時間って、空気がフワッと柔らかいんですよね。ここに新人くん新人さんが挨拶に来るなら、普通は「緊張するけど、温かい」って感じてもらえる理想のスタートが切れるはずでした。

新人男子1名、新人女子1名。2人とも背筋がまっすぐで、スーツのシワまで真面目。内定者さんらしい初々しさがあって、職員の方が先にニコニコしてしまうタイプです。まずは主任が軽く紹介して、「では一言お願いします」と、いかにも“いい感じ”に進めようとした、その瞬間でした。

どこからともなく現れた理事長が、ホールのマイクを見つけてしまったのです。

あの人は、マイクを見つけると別人格になります。普段は穏やかで品のある方なんです。ところがマイクを握った瞬間、目の奥に「さぁ始まるぞ」というステージの光が灯る。例えるなら、会議室の理事長ではなく、文化祭の司会者が降臨する感じです。新人くん新人さんが並んだだけで、既に舞台は完成しているのに、本人だけが“さらに照明を足す”方向に走る。危ない。危ないけど、面白い。ここで横を見ると、事務長の顔が既に薄青い。止めたい。でも止められない。止めたら理事長が拗ねる。拗ねると長引く。長引くとレクが押す。押すと現場が詰む。事務長の脳内で、そんな因果関係がドミノみたいに倒れているのが見て取れました。

理事長は、息を吸い込み、にこやかにマイクを口元へ寄せます。あの“一拍”が怖い。利用者さんも職員も、何故かその一拍で察するんです。「来るぞ」と。

「皆さまー!お待たせしました!今年の春、当館に新しい風が吹きます!」

ホールが一瞬静まり、次の瞬間、利用者さんが笑いながら拍手を始めました。新人2人は、まだ何が起きたのか分からない顔で、ポカンとしています。もちろん、本人たちは悪くない。むしろ真面目過ぎて、舞台装置として完璧です。理事長はさらに続けます。

「4月からお世話になります、内定者さんの登場です!拍手ー!」

拍手がもう一段増えました。事務長が小声で「理事長…普通に…普通にで…」と言った気がしますが、マイクに乗ることはありません。乗せてはいけないタイプの叫びです。理事長のテンションが上がるほど、事務長のテンションは下がっていく。新人くん新人さんは、タイミングを測りながら、きちんと一礼しました。ここはさすが、真面目。

「4月からお世話になります。〇〇と申します。本日はご挨拶に伺いました。どうぞよろしくお願いいたします」

丁寧でまっすぐな挨拶。これで一旦、空気が“正しい方向”へ戻るはずでした。……戻るはずだったんです。ところが理事長は、拍手の波を聞くと「まだいける」と判断してしまうタイプでした。司会者としては100点ですが、施設運営としては事務長の胃が痛い。

「素晴らしい!ではここで、皆さまに1つお願いがあります!新人さんに“歓迎の合図”を送りましょう!せーの!」

利用者さんが笑いながら手を振ったり、「よろしくねぇ」と声を掛けたりして、ホールが一気に温かくなりました。これ自体は、正直すごく良い光景です。新人2人の表情も、ここでようやく柔らかくなる。新人くんは目尻が下がり、新人さんは少し照れ笑いを浮かべました。理事長は満足そうに頷き、事務長は「このまま着地してくれ…」という顔で祈っています。

ところが理事長の“もうひと押し病”が発動します。

「さぁ新人さん!特技はありますか!」

新人2人が同時に固まりました。ポカンの質が変わった。今のは「え?」ではなく「えっ!?」です。会場がどっと笑い、事務長が一歩前に出ました。今ここで火を消さないと、特技が“無茶ぶり地獄”に進化してしまう。

「理事長、特技はですね、“腰を守ること”です。まずそれが一番大事です。拍手!」

その瞬間、利用者さんの拍手がまた起きて、笑いも起きて、理事長も「なるほど!」と納得した顔になりました。新人くん新人さんも救われたように笑い、場は完全に“平和な笑い”で落ち着きました。事務長は心の中でガッツポーズをしていたと思います。たぶんしています。絶対にしています。

こうして1Fのデビュー発表会は、ギリギリのところで“温かい歓迎”として渋々で成立しました。新人2人の心はきっと弾んだはずです。いや、弾んだと信じたい。少なくとも「ここ、怖いところじゃないな」と思えたはず。ここが大事です。

そして事務長は、何事もなかったかのように言います。

「では皆さま、いつものレクリエーションを始めましょうか。今日は手を動かす体操からいきます」

理事長のマイク劇場は、レク前の空気にフッと溶け、笑いの余韻だけが残りました。新人くん新人さんは、職員に小さく会釈しながら、次のフロアへ向かいます。まだこの時の2人は知りません。これが“ツアーの初日”で、しかもまだ最初のフロアで序章に過ぎないことを。


第2章…2F握手会(未遂)勃発!~新人男子と新人女子がファンサの波に飲まれそうになる~

1Fでの“デビュー発表会”を、事務長の機転でなんとか「歓迎の拍手」に着地させた直後。新人くん新人さんは、少し肩の力が抜けた顔で2Fへ向かいました。ここで2人は、たぶんこう思ったはずです。「なるほど、挨拶ってこういう感じなんだな。ちょっと驚いたけど、みんな優しかったし」。うん、分かる。分かるけど、それは“1F限定の常識”でした。

2Fに到着すると、雰囲気がガラリと変わります。ホールのような舞台感はなく、生活の匂いが濃い。テレビの音が小さく流れ、テーブルにはお茶の湯気。職員がさりげなく見守りながら、利用者さんはそれぞれのペースで過ごしている。静かだけど温かい、こういう空気の中での挨拶は、むしろ一番丁寧にやりたいところです。新人くん新人さんも背筋を整え、控えめに一礼して「4月からお世話になります」と切り出そうとしました。

そこで、また理事長が“いる”んです。何故いる。どうしている。テレポートでも使えるのか。事務長の顔に「嫌な予感」という文字が浮かび、胃の辺りがキュッと縮むのがこちらまで伝わってきました。理事長は2Fの空気を一瞬で読み取り、そして読み取った上で、敢えて別の方向へ投げる天才です。そう、ここはホールじゃない。マイクもない。ならばどうするか。答えはシンプル。「近い距離で盛り上げる」。つまり、ファンサービス路線へ。

「皆さま、こんにちは!こちら、4月から仲間になる内定者さんです。今日は特別に、目の前でご挨拶です!」

目の前でご挨拶。言い方が既にイベントの告知です。新人くん新人さんは、笑顔を作りながらも目が泳ぐ。事務長は小声で「理事長、距離、距離…」と念じるように呟きます。理事長は頷くフリをして、次の一手を繰り出しました。

「さぁ、せっかくですから、皆様と“交流”しましょう!どうぞ、こちらへ!」

理事長が、新人2人を半歩前へ促す。これが危ない。2Fの交流は尊い。でも、尊いからこそ、動線と安全とタイミングが大事なんです。さらに言うと、この時の新人2人は“まだ施設の距離感”を体に入れていない。ここで無茶が来ると、緊張が笑いに変わる前に、心だけが置いていかれる可能性があります。

ところが利用者さんは、こういう空気の変化に強い。理事長の声を聞いた瞬間、ニコニコしながら身を乗り出して、「あら、若い人だねぇ」と目を輝かせる方が増えます。新人さんの方に「可愛いねぇ」と声が飛び、新人くんの方に「背が高いねぇ」と飛ぶ。もうこの時点で、2人は“歓待の波”に包まれていました。良い。良いけど、良過ぎる。良過ぎると、理事長の中の“イベント演出担当”が目を覚ましてしまう。

「握手……いけますか?握手!」

出ました。握手。理事長が言うと、握手が握手じゃなくなるんです。握手会になってしまう。しかも2Fで握手会は、事故の香りがする。利用者さんは冗談半分で「握手券ある?」と笑い、新人くん新人さんは「え、握手券…?」と真顔で困り、周囲の職員は「理事長、それは…」と目で訴え、事務長はついに目が決まりました。ここで火を消さないと、“列ができる未来”が見える。

事務長は一歩前へ出て、笑顔で、しかし断固として言いました。

「握手は心の中でお願いします。代わりに、皆さまと“手を動かして”歓迎しましょう。新人さん、手を振るのが一番安全です。はい、どうぞ」

この瞬間の事務長は、ただの事務長ではありません。平和維持部隊の隊長です。新人2人はその言葉にすがるように、両手で小さく手を振りました。利用者さんは「良いねぇ」「可愛いねぇ」と笑い、拍手まで起きる。握手会は未遂で終わりました。未遂なのに、何故か“やり切った感”だけは残るのが怖いところです。理事長は「なるほど、手振りもファンサだ」と何故か満足そう。事務長は心の中で「助かった…」と床に崩れている。崩れてないけど、魂は崩れている。

ここで、新人くん新人さんの立ち位置が少し変わってきます。1Fでは「え、何が起きてるの?」のポカン顔だったのが、2Fでは「なるほど、僕たちは今、何かを求められている?」のポカン顔になっている。経験値が上がっているのか、ただ混乱が深まっているのか、判断が難しい。でも、利用者さんの笑いが優しいから救われる。新人さんが照れ笑いをすると「ええ笑顔や」と返ってくるし、新人くんが会釈をすると「真面目やなぁ」と褒められる。歓迎の仕方は派手でも、根っこは温かい。これが2Fの良さです。

とはいえ、理事長のイベント魂はまだ収まっていません。むしろ2Fでの“近距離の盛り上がり”が気持ち良かったのか、目がキラキラしています。新人2人の心拍が、さっきより少し上がったのが見えました。ここで事務長は、先手を打ちます。重要なのは「盛り上がった後に、生活のリズムに戻すこと」。ここを失敗すると、午後の流れが崩れる。だからこそ、着地の言葉が必要です。

「皆さま、歓迎ありがとうございます。新人さんたちは次のフロアにもご挨拶に伺いますので、この後はいつもの時間に戻りましょう。では、手の体操を少しだけやってから、お茶にしましょうか」

利用者さんが「はーい」と笑い、新人2人も「ありがとうございました」と深くお辞儀をしました。理事長は「次も楽しみだね」と言い、事務長はその“次”という言葉に戦慄します。新人くん新人さんは、廊下を歩きながら小声で「挨拶って…体力使うんだね」と目で会話していました。たぶん、心は弾んでいます。弾んでいるというより、跳ねています。心拍が。

そしてツアーは、まだ折り返し地点にも来ていません。次は3F。静かなフロアでの“原稿防衛戦”が待っています。新人2人が、ここで初めて「普通に挨拶させてください」と願うことになるとは、この時点ではまだ知る由もないのでした。


第3章…3F原稿防衛戦!~事務長が新人の挨拶文を守り抜けて理事長の演出欲と真っ向勝負~

2Fで握手会(未遂)という名のファンサ波を乗り切った新人くん新人さんは、廊下を歩きながら目だけで会話していました。新人くんの目は「挨拶って、体力使うね」。新人さんの目は「うん、笑顔の筋肉がもう限界」。そこへ追い打ちのように現れるのが3Fです。ここは空気が違う。ホールの賑やかさとも、2Fの生活感とも違って、静けさが“厚め”に敷かれている感じ。テレビの音も控えめで、職員の声も自然と小さくなる。利用者さんもそれぞれのペースがはっきりしていて、場の流れを崩さない配慮がとても大事になります。

ここで新人2人は、ようやく「普通の挨拶が出来るかもしれない」と希望を抱きました。何故なら、新人さんは胸ポケットに挨拶文を忍ばせていたからです。折り目のついた紙。丁寧に書いた原稿。緊張すると頭が真っ白になる人にとって、あれは命綱です。新人くんも同じく、短いメモを用意していました。真面目。堅実。こういう準備が出来る人は強い。ここでこそ、その強さが生きるはずでした。

ところが、希望には敵がいます。理事長です。マイクがないから安全、とはならない。マイクは“武器”の1つでしかなく、理事長の本体は「演出したい心」だからです。3Fの静かな空気を一瞬で察した理事長は、声量を落とし、表情だけでテンションを上げるという高度な技に切り替えてきました。新人くん新人さんの前に立ち、にこやかに手を広げます。ステージの照明はないのに、何故か理事長の周りだけスポットライトが当たって見えるから不思議です。

その瞬間、事務長が新人さんの胸ポケットに目を留めました。紙の端が見えている。あれは原稿。つまり、ここで新人が落ち着いて話せる最後の砦。事務長の脳内に警報が鳴ります。「原稿だけは守れ」。そして事務長は、いつもの“火消し”ではなく、今回は“防衛”に回ることを決めたようでした。

理事長が小声で言います。「3Fは落ち着いているから、逆にね、ちょっとだけアイドルっぽく、印象に残る一言をね」。新人さんが「えっ」と小さく固まり、新人くんが「……」と瞬きを増やしました。利用者さんは既に気配を感じ取っていて、口元に笑いが集まり始めています。ここで新人が無理をすると、場が固くなる。固い空気は3Fでは響く。だから事務長は、笑顔のまま一歩前に出て、理事長の言葉をやんわり受け止めつつ、方向を変えました。

「理事長、3Fは皆様、落ち着いてお過ごしですので、今日は“原稿通り”でいきましょう。新人さんも準備されてますから」

その言い方がもう、上手いんです。「やめてください」ではなく、「新人さんの準備を活かしましょう」。新人の味方に見せて、実は場の安全も守っている。理事長は一瞬だけ「ムム」と顔をしましたが、“準備を褒められる”という言葉に弱いタイプでもあります。しかもそこに利用者さんの視線がある。理事長は流石に頷きました。「そうか、準備が大事だね」。この瞬間、事務長の勝ちが確定しました。少なくとも原稿は守られる。

ところが理事長は、完全に引き下がるわけではありません。演出欲は残る。残りながらも、3Fの空気を壊さない範囲で遊び始めます。何をしたかというと、声は小さいのに表情が大きい。新人くん新人さんが話し始める前に、理事長が“無言の拍手”を先にして見せたのです。こうすると、周囲の利用者さんもつられて小さく拍手をする。音が大きくないのに、場が1つになる。悔しいけど、上手い。事務長は「そこは上手いんだよな…」という顔をしていました。きっと毎回そこに腹が立っている。

新人さんは原稿をそっと取り出し、深く一礼して話し始めました。声は少し震えているけれど、言葉が整っている。準備の力です。「4月からお世話になります。まだまだ学ぶことばかりですが、皆さまが安心して過ごせるよう、笑顔を大切に頑張ります」。利用者さんが頷きます。こういう“まっすぐさ”は、飾らないほど届くんですよね。

続いて新人くん。こちらも原稿というよりメモを見ながら、短く丁寧に。「皆さまのお名前を早く覚えて、たくさんお話を伺えるようになりたいです」。利用者さんの表情がフッと柔らかくなりました。「名前を覚える」。それは新人の誠意として、一番分かりやすいプレゼントです。3Fの空気は静かなまま、でも温かく揺れました。

ここで理事長が、また余計なことを言いそうになる。事務長は既に予測しています。新人が良い挨拶をした直後に「特技は?」を言うと、空気が急に“お笑いステージ”に寄ってしまう。3Fではそれが刺激になり過ぎることもある。だから事務長は、理事長が口を開く前に、先に“締めの言葉”を差し込みました。これがプロの差し込み技です。

「ありがとうございます。皆さま、温かく迎えてくださって新人さんたちも安心したと思います。ではこの後は、いつもの時間に戻りましょう。新人さんたちは、次のフロアにもご挨拶に伺いますので」

理事長が「そうだね」と頷くしかない完璧な着地。新人くん新人さんは、原稿を大事そうにしまいながら、最後にもう一度だけ深く頭を下げました。利用者さんの中から「頑張ってねぇ」という声が上がり、誰かが小さく笑って言いました。「3Fは静かやけど、歓迎は熱いんやで」。新人さんが思わず笑ってしまって、その笑顔がまた場を和らげます。

廊下に出た瞬間、新人2人の顔がホッとほどけました。新人くんは小さく息を吐き、新人さんは胸ポケットを押さえて「原稿、守られた…」と目で語る。事務長はその様子を見て、ほんの一瞬だけ誇らしそうに見えました。表情は平静を装っていましたが、心の中ではたぶん言っています。「守ったぞ、原稿。守ったぞ、3Fの平和」。

ただし、安心してはいけません。次は4Fです。理事長の中で、既に“千秋楽”という文字が踊っているのが見えました。新人くん新人さんの心は、弾むというより、もう跳ねる準備運動に入っています。拍手が止まらないアンコール地獄が、この先で待っているとも知らずに。


第4章…4F千秋楽アンコール地獄!拍手が止まらず新人の心拍が跳ねる、でも最後は合格の笑顔

3Fで原稿を守り抜き、静かな歓迎を受け取った新人くん新人さんは、廊下に出た瞬間だけ「やっと普通に挨拶できたね」と目で笑い合いました。もうこれでツアーは終盤。次が最後の4F。2人の心はようやく落ち着いて……くるはずでした。ところが現実は、施設あるあるの“最後に一番濃いのが来る”です。何故かこういうのって、最後に全部が詰まってる。4Fの扉が見えた時点で、事務長の足取りが妙に重くなりました。理事長は逆に軽い。軽過ぎる。あれは確実に「千秋楽」という字を心の額に貼っている歩き方です。

4Fに入ると、空気がもう違いました。拍手が鳴っていないのに、拍手の準備だけが整っている感じ。利用者さん同士の距離が近く、誰かが笑うと全体に波が広がるタイプのフロア。職員も“ノリ”が良いけれど、実は一番よく見ていて、危ない方向に行きそうな時はスッと支える。つまり、盛り上げるには最高で、暴走するとカオスになる、非常に味の濃いステージです。

理事長が一歩踏み込んだ瞬間、もう勝負は決まりました。誰かが「あっ、理事長や」と言い、別の誰かが「あれ、新しい子?」と目を細める。新人くん新人さんが並んで立つだけで、4Fの皆さんは“物語の始まり”を察してしまう。こういう時、利用者さんの観察眼って、職員より鋭いことがありますよね。理事長はその視線を受け止め、満を持して言いました。マイクはない。でも問題ない。声のトーンが完全にライブ司会です。

「皆様!いよいよ千秋楽です!」

事務長がその言葉に「千秋楽って何の千秋楽ですか」と目で突っ込みましたが、4Fの皆さんは既に笑い始めています。理事長が言う“千秋楽”って、こちらの予定表には存在しないんです。でも存在しないものほど楽しい。新人くん新人さんは、ここまで来るともうポカンを超えて、少し悟りの顔になっていました。たぶん2人は思っています。「挨拶って、そういうことなんだね」。違う。違うけど、今はそのまま受け入れた方が安全です。

理事長は新人2人を紹介し、「4月からよろしくお願いします」と改めて言わせようとします。新人さんが一礼して挨拶し、新人くんも続く。ここまでは普通。普通にいける。4Fは意外と、最初だけはちゃんとしてくれる。最初だけは。問題は、その“挨拶が終わった後”でした。

拍手が起きたんです。良い拍手。歓迎の拍手。ここまでは最高。ところがその拍手が、なかなか止まらない。止まらないどころか、拍手の速度がだんだん上がっていく。誰かが笑いながら言いました。「もう一回言って!もう一回!」。出ました。アンコール。4Fはアンコール文化がある。いえ、文化というか、ノリが良過ぎる。新人くん新人さんの目が、同時に事務長へ助けを求めました。事務長の目は「分かってる、分かってる、今から助ける」の目でした。理事長はもちろん、そのアンコールを“ステージの成功”と判断します。止めて。判断しないで。

「皆さま!アンコールありがとうございます!新人さん、もう一度いきましょう!」

新人さんが固まり、新人くんが小さく息を吸いました。ここで事務長が入る。入らないと、無限ループです。新人挨拶が終わらないまま、夕食の時間になってしまう未来が見える。事務長は前に出て、笑顔で、しかし理事長より少しだけ大きい声で言いました。ここは声量勝負です。安全のための声量勝負。

「アンコールは一回だけにしましょう。新人さんも新人くんも、最後に“決め台詞”を1つ用意してきています!」

もちろん用意していません。が、事務長は言い切りました。言い切ることで、場に“終わりの形”を作ったのです。理事長は「そうか、決め台詞か」と目を輝かせ、利用者さんは「決め台詞!良いねぇ!」と拍手。新人2人は「決め台詞!?」という顔で固まりましたが、その瞬間、事務長が目だけで伝えました。「短く。安全に。腰を守る系で」。職員としての全てが詰まったアイコンタクトです。

新人くんが一歩前に出て、少し照れながら言いました。

「4月からお世話になります。まず、腰を守ります!」

4Fが爆笑しました。拍手も起きました。何故か“腰を守る”が刺さるんです。施設の皆さんには分かる。腰は大事。腰が守れた人だけが、明日も笑って出勤できる。利用者さんが「それが一番や!」と声を上げ、誰かが「合格!」と叫びました。新人くんは救われたように笑い、続いて新人さんも小さく一歩前へ出ます。新人さんは目を細めて、こう言いました。

「4月からお世話になります。皆さまのお名前、全部覚えます!」

これもまた、4Fに刺さりました。「名前を覚える」は最大級の誠意です。派手じゃないのに、心に届く。笑いの中にちゃんと温かさが混ざり、拍手が優しくなりました。理事長は満足そうに頷き、事務長は胸の奥でようやく息を吐きました。新人2人の表情が、ここで初めて「楽しかった」に変わったのが見えました。心拍が跳ねていたのに、最後だけは心が弾んだ顔です。

理事長は締めに入ります。ここで余計な一言が出るとまたループするので、事務長は既に“終幕カーテン”を用意していました。理事長が「素晴らしい!」と言った瞬間、事務長が間髪入れずに重ねます。

「では皆さま、歓迎ありがとうございました。新人さんたちはここで挨拶ツアー終了です。拍手はここで大きく一回!せーの!」

拍手がドンと鳴って、ピタッと止まりました。終わった。終わりました。終われた。4Fの皆さんも満足そうで、「また来てね」「4月待ってるよ」と手を振ってくれる。新人くん新人さんは深々と頭を下げ、廊下に出た瞬間、同時に小さく笑いが漏れました。笑いが漏れるってことは、もう緊張がほどけている証拠です。最初はポカンだった2人が、最後には自分の言葉で場を締められた。これって、歓迎としては最高の形かもしれません。

そして理事長は、やり切った顔で言いました。「いやぁ、良い千秋楽だった」。事務長は笑顔で頷きながら、心の中で静かに訂正します。千秋楽じゃないです。今日はただの“3月の挨拶回り”です。でもまあ……4Fの拍手が全部持っていったので、もう千秋楽で良いかもしれません。

新人くん新人さんは、その背中を見送りながら、たぶんこう思っています。「4月から、ここで働くんだ」。不安もある。でも、笑って迎えてくれる人がいる。守ってくれる事務長がいる。盛り上げ過ぎる理事長もいる。なんだかんだで、悪くない。むしろ、ちょっと楽しみ。そう思えたなら、この“歓迎爆誕イベント”は大成功だったのです。

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まとめ…新人くん新人さんを待ってたよ~笑いが生む「安心の第一歩」と現場が守った一線~

こうして3月の館内挨拶ツアーは、まさかの「新人歓迎爆誕イベント」として幕を閉じました。1Fでは理事長がマイクで空気をライブ会場に変え、2Fでは握手会未遂のファンサ波が押し寄せ、3Fでは原稿が命綱になって事務長が防衛に回り、4Fでは千秋楽アンコールが本気で発生する。新人くん新人さんは、たった半日で“特養の空気の濃淡”を全部浴びたわけです。普通の職場見学なら、ここまで濃縮されません。入社前の人が浴びるには、やや刺激が強い。強いけれど、そこにちゃんと「歓迎」があったのが救いでした。

理事長の暴走は、確かに現場の胃に来ます。事務長のアタフタも、見ている側の手に汗が滲みます。けれど、笑いが起きた瞬間に、場の緊張がスッとほどけるのも事実です。新人くん新人さんが“ポカン”のまま固まってしまっても、利用者さんの笑いが優しければ、空気は刺さらずに丸くなる。「ここは怖い場所じゃないよ」「失敗しても大丈夫だよ」というメッセージが、言葉より先に伝わるんですよね。これって、歓迎の技術としてはかなり強い。笑いは、場を壊すものじゃなく、場を繋ぐものにもなります。

ただし、忘れてはいけないのが事務長の存在です。理事長の演出欲が燃え上がるほど、現場には“守る人”が必要になる。音量、動線、時間、転倒リスク、そしてフロアの空気。その全部を頭の中で同時に回しながら、でも表情はにこやかに、言葉は柔らかく、場を安全に着地させる。あの火消しと防衛があったからこそ、笑いは“安心”に変わりました。もし事務長がいなかったら、握手会は本当に始まっていたかもしれないし、4Fのアンコールは夜まで続いていたかもしれません。新人くん新人さんの心拍は、きっと戻ってこなかったでしょう。

そして新人くん新人さん。2人は最後に「腰を守ります」「お名前を覚えます」と、自分の言葉で決め台詞を言えました。これが地味に大きい。派手な特技より、現場で信頼を積むのは、こういう一言です。施設の仕事は、毎日が積み重ねで、誰かを驚かせるより、誰かを安心させる方がずっと難しい。入社前の挨拶でそれを言えたのなら、もう歓迎は半分成功しています。新人くん新人さん、待ってたよ。その言葉が、拍手や笑いの中にちゃんと混ざっていたから、2人の表情は最後に「楽しかった」に変わりました。

今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m


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