七五三であの頃がよみがえる~高齢者レクリエーション11月の壁画作り~
目次
はじめに…11月は思い出を手でなぞれる貴重な月
11月になると、空気がきゅっと澄んで、写真の中の笑顔までくっきり見えてくる気がします。高齢者レクリエーションの現場でも、この季節は“手が自然に動き出す月”。折り紙の端っこを揃えたり、色紙の角を指で押さえたり、のりの香りにふっと昔の景色が重なったり——そんな瞬間が増えていきます。
そこで今月は、七五三をテーマに「壁画作り」に挑戦します。七五三は、3歳・5歳・7歳の節目を祝う晴れの日。主役は子どもたちですが、実は“見守る喜び”を思い出せるのが大人の特権です。祖父母として袖を直してあげた手の感触、千歳飴の長さに驚いた幼い日の自分、神社の鳥居の朱色——どれも心のなかにちゃんと残っています。
介護施設でも病院でも、壁画はただの飾りではなく“毎日出会えるアルバム”になります。食堂へ向かう途中、リハビリの帰り道、面会の家族と通りがかった一瞬に、色や形がそっと語りかけてくれる。言葉が出にくい日も、指先は覚えています。色紙をちぎって貼るリズム、筆を運ぶゆったりした呼吸——そのリズムが心の落ち着きにつながります。
今回、目指すのは、見上げるたびに小さな笑顔が増える壁面です。昔の写真からヒントを集めたり、地元の神社の“いま”を取り入れて“むかし”と並べたり、皆さんの人生が一枚の景色に溶け合うと、とても素敵です。完成したら、玄関や面会スペースに掲示して、通るたびに「おや、今日はここが増えたね」と話が弾むようにしていきましょう。
七五三は11月15日。日付が近づくほど、心の中のページがめくられていきます。さあ、あの頃の音や匂いを思い出しながら、手でなぞるように“今ここ”の色を重ねていきましょう。小さな一片が貼られるたびに、皆さんの“晴れの日”が少しずつよみがえります。
[広告]第1章…“あの頃”を呼び起こす~七五三の記憶インタビュー大作戦~
最初の合図は、深呼吸と一言のあいさつです。「今日は七五三をめぐる“晴れの日アルバム”を、みんなで開きましょう」。席は向かい合うより斜め並びが話しやすく、テーブルには色紙とペン、写真を置くための小さな台を用意します。ここで大切なのは、焦らず、楽しく、ゆっくり。写真が無い方も安心できるように、神社の鳥居の写真や千歳飴の包み紙の画像、和柄の端切れなど、気持ちを温める小道具をそっと添えます。
話の火がつきやすいのは、においと音と手ざわりです。お茶をいれた湯気の香り、紙をめくる音、しわしわの包み紙の感触——それらが糸口になります。「3歳のとき、着物はどんな色でしたか」「5歳のとき、誰が帯を結んでくれましたか」「7歳のとき、写真の後でどこへ寄りましたか」と、問いかけは短くやさしく。思い出がほどけてきたら、「そのときの空の色」「足元の草履の音」「帰り道に買ってもらった甘いもの」へと、少しずつ景色を広げていきます。
進め方のおすすめは、15分×3ラウンドです。第1ラウンドは“出会い直しの時間”として自由なおしゃべりに任せ、うなずきの肯定と笑顔で背中を押します。第2ラウンドは“言葉を形にする時間”。話に出てきた鳥居、千歳飴、ご神木などを、その場でメモやラフスケッチに起こし、壁画に入れる候補を自然に増やしていきます。第3ラウンドは“壁画への橋渡し”。思い出の中で特に光った場面を、色や形でどう表すかを一緒に決めていきます。例えば、朱色が強く残っているなら大きな鳥居を、家族で肩を寄せた温かさが主役なら、人の距離感を大切に描く——そんな風に、心の中心を一枚に映します。
役割分担は、堅苦しくしないのがコツです。聞き手は相づちと復唱で安心を作り、語り手はマイペース、書き手は拾った言葉をそっと紙に移し、描き手は色の試し塗りを並べて選べるようにする。途中で席替えをして、いつの間にか全員が少しずつ全部の役を経験できると、場がやわらかく混ざり合います。
うまく行った合図は、同じ話が二度三度、気持ちよくくり返されることです。くり返しは記憶の味わい直し。笑いのツボが揃ってきたら、仕上げに「では、この景色を壁に残しましょう」と声をかけます。ここまでくれば、皆さんの“晴れの日”はもう、壁画の中に半分ほど顔を出しています。あとは色と形をそっと手伝うだけ。次の章で“毎日ふと笑顔になる仕掛け”へつなげていきます。
第2章…毎日ふと笑顔に~壁画で見える化する小さな仕掛け~
壁に飾る一枚は、完成した瞬間がゴールではありません。通るたびに新しい発見があって、ふっと笑顔がこぼれる——そんな日常の相棒に育てていきます。置き場所は人の往来がゆっくりになる地点が理想で、たとえば玄関から食堂へ向かう角や、リハビリ帰りに必ず一息つくソファの前などがぴったりです。目線の高さは座位の方が見やすい位置に合わせ、立位でも自然に覗けるように少しだけ上へ広げます。通る度に視線がやわらかく吸い寄せられ、会話がはじまる高さ——それが合図です。
色の計画は、七五三の朱と金を主役に据え、背景には地元らしさを一匙。神社の鳥居やご神木の緑、秋空のうすい青をのびのびと塗ると、遠目からでも季節の空気が伝わります。近づいてみると、着物の柄に和紙のちぎり目や、千歳飴の包みに細い光のラインが走っている——この“遠くで分かる、近くで嬉しい”二段構えが、毎日の通り道を小さな散歩に変えてくれます。
仕上げの工夫として、壁画を“育つ作品”にしてしまいましょう。たとえば、千歳飴の帯に小さな日付札を並べ、11月15日へ向けて一枚ずつ増やしていくと、通りがかりの方が思わず数えたくなります。鳥居の両脇には“みんなの一言ゾーン”を設けて、短いメッセージカードをそっと差せるようにします。今日は朱がきれいだった、着物の柄が自分の若い頃に似ている、帰りに甘いものが食べたくなった——たった一行で十分です。カードが増えるたび、壁画は今日の気分をまとって少し表情を変えます。
写真の力も借りましょう。ご家族からお預かりした昔の一枚を、高解像のコピーで小さく印刷し、壁画の端に“今と昔”の見比べ窓を作ります。左に当時の写真、右に今回の壁画の同じ場所を寄せて飾るだけで、目は自然と往復運動を始めます。往復する視線のリズムは記憶をやさしく揺らし、あの頃の匂いや音まで引っぱり出してくれます。面会の方にも説明しやすく、会話のきっかけが絶えません。
参加のしやすさは、準備段階でぐっと上がります。貼る素材は軽くてめくりやすいものを選び、のりは乾きがゆっくりで位置調整がしやすいタイプを用意します。筆を持つのが難しい日は、スタンプのようにポン、と置くだけで模様が生まれる道具に替えて、色の楽しさを守ります。片手で作業する方には、台紙に“ここに置くとぴったり”の目印をやさしく添えて、成功体験の手触りを積み重ねます。完成度より“できた瞬間の笑顔”が主役ですから、細部のゆらぎは味わいとして受け止めて大丈夫。むしろその揺らぎこそが、見た人の心を動かします。
最後に、日々の小さな変化を残す仕掛けをもうひとつ。壁画の片隅に小さな“季節の窓”を作って、毎週ひとつだけパーツを入れ替えます。落ち葉が一枚増える、鈴の紐がきゅっと結ばれる、和傘に光の粒が足される——そんな控えめな変化で十分です。面会のたびに「あ、今日はここが変わったね」と、自然に会話がほどけます。壁画は飾りから、暮らしのペースメーカーへ。毎日をやわらかく整える一枚として、次章の“写真から編む設計”へつないでいきましょう。
第3章…写真から今と昔を編む~背景パーツを集めて一枚へ~
壁画作りの設計図は、アルバムの1枚から始まります。まずはご家族にお願いして、七五三の写真をお借りします。台紙からそっと外すのが不安な場合は、スマホで撮った画像でも大丈夫。光がやわらかな午前中に窓辺で撮ると、色がいきいきと残ります。写っているのは主役の子どもだけではありません。鳥居の朱、玉砂利の質感、ご神木の幹、千歳飴の包み紙、着物の柄、家族の立ち位置——これら全部が、壁画の“部品箱”になります。
写真を囲んで眺めていると、「あ、ここ知ってる」「この店、今もあるよ」と、会話の糸がするすると伸びていきます。場所が分かるなら、できたら職員さんが“現在の1枚”も撮っておくと、比べっこが楽しくなります。昔の参道は広かったのか、石段の段数は変わらないか、灯籠はどんな顔をしているのか——見比べるほど、描きたいポイントが自然に決まってきます。
構図の決め方は、視線の流れを意識すると一気にまとまります。入り口の鳥居を少し大きく、奥へ続く参道をすっと細く、ひと呼吸置いてご本殿。そこへ主役の子ども達を重ねると、見る人の目は“手前から奥へ”気持ちよく歩いてくれます。男の子は3歳と5歳、女の子は3歳と7歳——4つの年代感を並べると華やかですが、画面が込み合うなら、7歳の女の子・5歳の男の子・3歳の女の子の“三人並び”が安定します。並び順は中央に男の子を置くと、左右の振袖がふわりと舞って、画面が綺麗に広がります。
色選びは、記憶の“温度”を基準にすると失敗しにくくなります。鳥居の朱が鮮やかに残っているなら、背景の空は少し落ち着いた青で受け止めます。着物が淡い桃色なら、千歳飴の帯に金をひと筋入れて、晴れの日のきらめきを添えます。紙の素材は同じ色でも質感が違うと表情が出るので、和紙とコピー紙を混ぜるだけで、近づいたときに“うれしい凹凸”が生まれます。
人物の描き方は、顔の“距離感”が鍵です。家族で肩が触れそうな寄り添い方なら、腕と腕の間を狭めて描きます。撮影のあとで食事に行った思い出が強いなら、口もとをほんの少しだけ上向きに。大げさに笑顔を描かなくても、目じりの角度と頬のラインで、十分に温度が伝わります。
仕上げの前に、そっと確認をひとつ。写真の扱いに配慮して、お名前や住所が写っていれば絵では省略し、個人が特定できる要素は控えめにします。完成後は撮影してデータを残し、来年の11月に“去年の自分たち”と見比べられるようにしておくと、季節がめぐるたびに楽しみが増えます。ラミネートして各ご家庭へ1部ずつお渡しするのも素敵ですし、玄関にミニ複製を飾って「ここが今年の推しポイントです」と小さな札を添えると、面会の方の足が自然と止まります。
こうして“むかし”と“いま”を一枚に重ねると、壁画はただの飾りではなく、毎日少しずつ語りかけてくる窓になります。次は、みんなで安心して取り組める進め方と、声かけのコツへと進みましょう。
第4章…みんなで仕上げる~安全と衛生に配慮する声かけのコツ~
壁画作りは、道具を並べた瞬間から“作品”が始まります。机は角を内側に向けて丸く寄せ、座る位置は“利き手が外側”になるようにそっと調整します。のりや絵の具は小分けにして、1人分ずつの“小さなトレー”に乗せておくと、手が迷いません。床には滑りにくいマットを敷き、椅子は高さをそろえます。立ったり座ったりが多い方は、肘掛けつきの椅子にして、立ち上がりのたびにゆっくり数えて呼吸を合わせます。ここまで整うだけで、作業のテンポはふんわり優しくなります。
安全と衛生は“ちょっと先回り”が合言葉
のりは乾きがおだやかなタイプが相性よく、手についたらぬるま湯で流せるものを選ぶと安心です。はさみは先端が丸いものを用意し、紙を押さえる指の上には、柔らかい指サックをそっと添えます。誤って口に運びそうな素材は最初から遠ざけ、食事の1時間前後は絵の具ではなく色紙中心の時間にするなど、生活リズムに寄り添うと、全員が気持ちよく続けられます。終わり際には“手のぬくもりタイム”として、ぬるま湯での手洗いと保湿をひとつの楽しみにして、指先の乾燥を防ぎます。
心に寄り添う声かけは“今ここ”から
思い出話が止まらない日は、話を味わうこと自体が作品づくりです。「その続き、色で描いてみませんか」とやわらかく橋をかけ、筆やちぎり紙へ自然に導きます。集中が切れたら、光の当たる部分や柄の見どころを指で輪っかにして「ここ、とても素敵ですね」と視線をそっと集めます。うまく貼れなかった時は「今のゆらぎ、秋の風みたいで好きです」と揺れを長所に変換。完成度を競うのではなく“今ここで心が動いたか”を合図に、場の温度を保っていきます。
著作と個人の配慮で、気持ちよく掲示へ
写真を資料にするときは、名前や住所など個別の情報は絵の中に写し込まないようにし、掲示前にご本人とご家族へ“どこに飾るか、いつまで飾るか”を丁寧に説明します。顔の表情がはっきり分かる描写は、許可が取れた範囲に抑え、特徴は色や所作で表します。掲示の高さは座位の目線を基準に、通路側へ出っ張らないよう平面に固定。朝の換気のついでに、作品の表面を柔らかい布で拭き、日差しが強い日は薄い布で直射をやわらげます。
仕上げの“ひとしずく”で、暮らしに溶け込む
最後に、みんなで題名を決める小さなセレモニーを。候補をいくつか口にして、いちばん自然に笑顔が広がった言葉を採用します。題名の文字は大きく書かなくても大丈夫。朱の鳥居の足もとに、やさしい筆致で添えると、見る人は無意識に近づいて読みたくなります。掲示した後は、通りがかりに“今日の一言メモ”を小さく貼れるコーナーをつくり、1週間に1度だけ入れ替えます。「千歳飴、今年も長かった」「玉砂利、音が気持ちいい」——そんな短い言葉が、壁画の呼吸を整えてくれます。
もしもの時は“いったん休憩、そして再開”
手が止まってしまう日や、感情がゆさぶられて涙がこぼれる日もあります。そのときは深呼吸を2回、一緒にお茶をひと口。「続きは明日の“いい時間”にしましょう」と“いつでも再開できる約束”を残して席を立ちます。作品は待ってくれますし、待つ間に色はさらにやさしく見えてきます。
こうして、道具と場と心の温度を揃えると、壁画は飾りを超えて暮らしの一部になります。七五三の朱が、毎日のリズムをそっと明るくしてくれる。次は“おしまいに”として、11月の締めくくりをあたたかく結んでいきましょう。
[広告]まとめ…七五三で心があったまる11月へ
壁に一枚の景色が生まれると、通り道の空気がやわらかく変わります。11月の七五三は、3歳・5歳・7歳の晴れやかさと、見守る大人の安心がぎゅっと重なる日。壁画作りは、その温度を“手の動き”で写し取る時間でした。貼る、塗る、眺める——ゆっくり続くリズムの中で、「あの時の朱い鳥居」「千歳飴の甘さ」「肩を寄せ合った並び方」が、ちゃんと今ここに戻ってきます。
掲示された作品は、毎日ちょっとずつ表情を変えます。面会のひとこと、通りすがりの笑顔、夕方の光の角度——それらが積み重なって、壁画は“暮らしの窓”になっていきます。見上げるたびに、やさしい記憶がひとつ胸に灯る。その繰り返しが、心の張り合いを作ります。
もし、まだ始めていないなら、今日の小さな一手からで大丈夫です。写真を一枚眺める、鳥居の朱をひと刷毛のせる、千歳飴の帯に細い線を入れる——そのたった少しが、場の空気を変えるきっかけになります。完成の形は施設ごとに違っていていいのです。大切なのは、ここで過ごす皆さんの“晴れの日の気分”が、壁の前に立つたびそっと胸に返ってくること。
11月15日を過ぎても、壁画は終わりではありません。12月の支度に合わせて、落ち葉を一枚、和傘に光の粒をひとつ——季節の合図を足しながら、来年の11月へバトンを渡していきましょう。1年後、玄関でふと立ち止まったとき、「去年の自分たち、いい顔してるね」と笑えるように。七五三の朱が、これからも毎日の真ん中で、皆さんの心をあたため続けますように。
⭐ 今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m 💖
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