介護現場のひと言が変わる~魔法の褒め言葉トレーニング~
目次
はじめに…「お疲れ様」のつもりが刺さってない?~言葉から見直す介護の現場~
介護の仕事をしていると、どうしても時間との戦いになりがちです。移乗、排泄介助、記録、家族への連絡、ケース会議……やることは山のようにあって、一日がアッという間に過ぎていきます。気がつけば、利用者さんやご家族にかけるひと言が、つい用件だけになってしまうことも少なくありません。
こちらとしては「お疲れ様です」「大丈夫ですか」と伝えたつもりなのに、相手の表情が固くなったり、どこか距離が出来てしまったように感じることがあります。後になって、「あの言い方、きつく聞こえなかったかな」「もっと優しく伝えられたはずなのに」と自分を責めてしまう職員さんもいるでしょう。
実は、内容そのものよりも、「どんな言葉で」「どんな空気で」伝えたかが、相手の心に残ります。同じ意味でも、少し言い替えるだけで、責められたように感じていたひと言が、「分かってもらえた」「受け留めてもらえた」という安心に変わることがあります。これは特別な心理テクニックではなく、ちょっとした言い替えの積み重ねで出来る、優しい工夫です。
この記事では、介護現場でつい出てしまいがちなマイナス寄りの言葉を、皆で「褒め言葉」や「労いのひと言」に変えていく、ちょっとした言葉遊びのようなトレーニングを紹介していきます。難しい研修ではなく、笑いも交えながら、「こんな言い替えもありだね」と話し合える場作りを目指します。
利用者さん、ご家族、そして介護に関わる全ての人が、「ここにいるとホッとする」「この人と話すと気持ちがやわらぐ」と感じられるような場は、1つ1つの言葉から育っていきます。小さなひと言の積み重ねが、信頼や安心という大きな土台を作ります。
あなたの職場でも、今日から少しずつ、マイナス言葉を「魔法の褒め言葉」に変えていく旅に出てみませんか。
[広告]第1章…ひと言で空気が変わる~マイナス言葉と褒め言葉の違い~
介護の現場では、時間も人手もゆとりが少ない中で、職員同士、利用者さん、ご家族と会話を重ねていかなければなりません。だからこそ、「伝えた内容」より先に「伝えた言い方」が、良くも悪くもその場の空気を決めてしまうことがあります。忙しさに追われていると、そのことを分かっていても、つい、きつい調子になってしまうのが人間らしいところでもあります。
例えば、職員が利用者さんに声をかける場面を思い浮かべてみます。同じ状況でも、「まだ終わっていないんですか」という言い方と、「ここまで丁寧にやってくださったんですね、続きは一緒にやりましょうか」という言い方では、受け取る側の気持ちはまるで違います。前者は「急かされている」「責められている」と感じさせやすく、後者は「頑張りを見てもらえた」「一緒にやってくれるんだ」と心がほぐれて安心しやすくなります。伝えている事実はどちらも「まだ終わっていない」という一点なのに、言葉の選び方1つで、相手の胸に残る印象が変わってしまうのです。
同じように、ご家族に説明する時にも、ちょっとした言い回しが大きな違いを生みます。「手が回らなくて、ここまでしか出来ていません」と言うと、ご家族は不安になったり、「人手が足りないからうちの親は後回しにされているのでは」と疑いを深めてしまうかもしれません。しかし、「今日は他の方の急な対応が重なり、こちらの配慮が追いつかない場面がありました。次回からは〇〇のように改善していきます」と、状況とこれからの工夫まで添えて伝えると、「大変な中でも考えてくれているんだな」と、同じ事実でも前向きに受け留めてもらいやすくなります。
ここで意識しておきたいのは、「マイナス言葉」と「褒め言葉」が、白と黒のようにくっきり分かれているわけではないという点です。きつく聞こえる言葉の中にも、「なんとか良くしたい」という思いが隠れていることがありますし、綺麗な褒め言葉のように見えても、心がこもっていなければ相手に空々しく響いてしまいます。大切なのは、言葉の表面だけを整えることではなく、「この人にどう感じて欲しいか」という願いを、言い回しに乗せていくことです。
例えば、同じ「注意」の場面でも、「どうしてこんなことをしたんですか」と問い詰める形で始めると、相手は身構えてしまいます。一方で、「びっくりしましたね。まずは怪我が無くて良かったです。次に同じことが起きないように、一緒に考えさせてください」と始めれば、「責められている」より「受け止めてもらえた」という感覚が先に立ちます。ここにも、事実は変えていないのに、「相手と並んで立つ言い方」によって、関係性が守られていることが分かります。
介護職は、利用者さんやご家族のつらさ、怒り、諦めと向き合う場面が多い仕事です。そんな中で、「マイナスに聞こえるひと言」は、大抵の場合、言った本人の疲れや追いつめられた気持ちから、ふと漏れてしまったものです。だからこそ、「あの言い方はだめ」「これはいけない」と自分を縛るのではなく、「同じ内容を、もっと柔らかく伝える言葉はないかな」と、言い替えの引き出しを増やしていくことが現実的です。
この章で伝えたいのは、「マイナス言葉を完全に封じる」ことではなく、「マイナス寄りのひと言を、少しずつ褒め言葉や労いに近づけていく」という考え方です。「遅いですよ」ではなく「ゆっくりで大丈夫ですよ」、「出来ていません」ではなく「ここまで進みましたね」というように、ほんの少し向きを変えるだけで、相手の心の温度は変わります。その積み重ねが、職場全体の空気や、利用者さんが感じる安心感に繋がっていきます。
次の章では、こうした言い替えの視点を、敢えて「ゲーム」にして楽しみながら身につける方法を紹介していきます。堅苦しい研修ではなく、笑い声のある時間の中で、自然と褒め言葉の持ち主が増えていく。そのための土台として、「ひと言で空気が変わる」という感覚だけ、まず心の片隅に置いておいてもらえたらうれしいです。
第2章…マイナス言葉をひっくり返す~褒め言葉言い替えゲームのルール~
言い方を変えよう、と頭では分かっていても、いざ忙しい現場の中で咄嗟に優しいひと言を選ぶのはなかなか難しいものです。だからこそ、落ち着いている時間帯に、遊び半分の気持ちで練習しておくことが役に立ちます。「褒め言葉言い替えゲーム」は、その名のとおり、マイナス寄りの言い方をどこまでやわらかく、どこまで相手に優しい表現に変えられるかを、皆で考えてみる時間です。正解を1つに決めるのではなく、「その言い替え、いいね」「こういう伝え方もあるね」と、引き出しを増やしていくことが目的になります。
やり方は、とてもシンプルです。まず、日常の中で目立って耳にしやすい「ちょっと刺さりやすいひと言」を、紙やホワイトボードに1つ書きます。例えば、「まだ終わっていないんですか」「さっきも言いましたよね」「今日は忙しいので無理です」といった言葉です。次に、そのひと言を、出来るだけ相手を認める形や、一緒に考える形に言い替えるとしたらどう言うか、1人ずつ順番に口に出してみます。時間を区切って、1分以内に必ず何かしら言ってみる、と決めておくと、「うーん」と悩み続けて終わってしまうことを防げます。
この時に大切なのは、「本音を無理に隠す」のではなく、「本音にクッションをかける」という意識です。例えば「まだ終わっていないんですか」という言葉には、「予定より遅れている」「この後も段取りがあるから困っている」という本音が含まれています。それを丸ごと消すのではなく、「ここまでありがとうございます、この後〇〇があるので、残りは一緒に進めていきましょうか」というように、相手の頑張りを認めるひと言と、自分の事情の説明を足していく形で言い替えを考えていきます。
ゲームをする時は、少人数のグループに分かれると安心して意見が出やすくなります。例えば、2~3人のペアやトリオに分かれて、「今日のマイナス言葉」を1つ決め、交代で言いかえ案を出し合います。それぞれのグループで「これは上手な言い替えだな」と感じたものを代表として1つ選び、最後に全員の前で発表すると、「そんな表現もあるのか」と新しい気付きが増えていきます。笑いが起こるような言い替えが出てきたら、「それ、最高です」と場を和ませるひと言も添えてあげると、トレーニングの時間そのものが楽しい思い出になります。
また、職員だけでなく、場合によってはご家族も交えて行ってみると、お互いの「言葉の癖」や「こう言われると安心する」というポイントが見えてきます。例えば、ご家族側の「つい口にしてしまうひと言」を題材にして、「こう言い替えたら、職員さんも受け取りやすいかもしれません」と一緒に考えてみるのも1つの方法です。もちろん、責め合う場ではなく、「皆、人間だから、ついきつくなる時もあるよね」と認め合いながら、「それでも、少しずつ言い方を工夫していきたいね」と語り合う場にすることが大切です。
ゲームを日常の中に組み込む時は、長時間の研修に組み込むより、朝礼や終礼で5分だけ、ミーティングの最後に10分だけ、といった短い時間でこまめに行う方が続きやすくなります。毎回違う「今日のひと言」を決めて、当番制でテーマを持ってきてもらうようにすると、「自分の職場の中で、どんな言葉が飛び交っているのか」を意識する切っ掛けにもなります。そして、「この前のゲームの言い替え、現場で使ってみたら上手くいったよ」という経験談が増えてくれば、遊びの時間で身につけた表現が、少しずつ実際のケアへと溶け込んでいきます。
この章で紹介したルールは、とても素朴なものです。しかし、この素朴さが、現場に持ち込みやすい大きな強みでもあります。特別な資料や道具がなくても、紙とペンがあれば、今からでも始めることができます。次の章では、実際に介護現場で起こりがちな場面を取り上げて、「このひと言を、どうやって褒め言葉風に変えていくか」という具体例を、いくつかじっくり見ていきます。そこで、自分の職場や家庭で使えそうな言い替え表現を、ぜひ拾っていってください。
第3章…介護現場あるあるで実践~「そのひと言」をこう言い替えてみる~
ここからは、実際の介護現場で起こりやすい場面を思い浮かべながら、「つい出てしまいがちなひと言」と「それを少しやわらかく言い替えた例」を、物語を読むように追いかけてみます。大切なのは、ここで紹介する言い替えが正解ということではなく、「こんな言い方も出来るかもしれない」と、自分なりの表現を増やしていく切っ掛けにすることです。
まず、食事介助の時間帯を想像してみます。配膳からかなり時間がたっても、なかなか箸が進まない利用者さんがいます。つい口から出そうになるのは、「まだ食べ終わっていないんですか」というひと言かもしれません。しかし、この言い方は、利用者さんにとって「責められている」「急がされている」と感じる切っ掛けになりやすい表現です。ここで、少し言い替えてみます。「ここまで召し上がってくださったんですね。残りは、一緒に少しずつ進めてみましょうか」同じ「時間が押している」という事実を伝えつつも、「ここまで」という言葉で努力を認め、「一緒に」という言葉で寄り添いを添えることで、利用者さんの心の姿勢が変わります。「怒られている人」から「応援されている人」に戻ってもらうための、ささやかな一歩です。
次に、同じ質問を何度も繰り返す認知症の方への対応を考えてみます。「今日は何曜日?」「今日はどこへ行くんやったかな」と、数分おきに同じことを尋ねられると、介護者の方が疲れてしまうことがあります。そんな時、「さっきも言いましたよね」と返してしまうと、相手は「自分が迷惑を掛けている」という不安だけが胸に残ってしまいます。ここを、「安心の繰り返し」に変えてみます。「気になりますよね。今日は〇曜日で、午後からは△△に行く予定ですよ。忘れても大丈夫、何回でもお伝えしますね」このように、「忘れても大丈夫」という一文を添えるだけで、同じ答えを伝えていても、「ここにいていいんだ」という安心感が少しずつ積み重なっていきます。介護者の心の中には、「何度も答えるのはしんどいな」という本音も当然ありますが、それでも「この人は不安だから聞いている」という前提を思い出すためのひと言だと考えると、気持ちの向きを保ちやすくなります。
三つ目の場面として、忙しい時間帯にご家族から要望や質問を受けた時の言い替えを見てみます。ナースコールが重なり、記録も山積み……そんな夕方に、「ちょっと相談したいんですけど、今いいですか」と声を掛けられると、心の中で思わず溜め息が出てしまうことがあります。ここで「今日は忙しいので無理です」とだけ返してしまうと、ご家族は「話を聞いてもらえない施設」という印象を強く持ってしまいます。「ご相談いただいてありがとうございます。今、急ぎの対応が重なっていて、しっかりお話を聞ける自信がありません。宜しければ、〇時頃に改めてお時間をいただけますか。その時はこちらからお声掛けしますね」と伝えれば、「断られた」という印象よりも、「きちんと時間を取ろうとしてくれている」という信頼が残ります。忙しさを誤魔化さずに正直に伝えつつ、「いつなら向き合えるか」を具体的に示すことが、言葉の中に誠意を宿すポイントになります。
四つ目は、職員同士の声かけです。例えば、申し送りの内容に抜けがあったり、共有していたはずの情報が伝わっていなかったりした時、「どうしてやっていないんですか」と詰めてしまうと、相手は委縮してしまい、次から報告そのものを控えるようになってしまうかもしれません。そこで、視点を少し変えてみます。「今日のこの件、私の伝え方が足りなかったかもしれません。一緒に流れを確認して、次からやりやすくしましょうか」と切り出せば、「責める側」と「責められる側」ではなく、「一緒に改善する仲間」という立場を取り戻すことが出来ます。もちろん、実際には相手のミスが大きかったとしても、「次に同じことを起こさない」ためには、安心して相談できる関係を保つほうが結果的にプラスに働きます。言葉の向きが変わるだけで、職場全体の空気が少し柔らかくなる瞬間です。
最後に、新人職員の場面を思い浮かべてみます。慣れない環境で、覚えることも多く、どうしてもミスが増えがちな時期です。先輩としては、「何回言えば分かるの」と口に出したくなる日もあるかもしれません。しかし、その一言は、新人の心に「自分は向いていない」「ここにはいてはいけない」という傷を残してしまいます。ここで、敢えて視点を変えてみます。「たくさん覚えることがあって大変ですよね。さっきのところで躓きやすい人は多いので、一緒にもう一度だけ整理してみましょうか。分からないところを言ってくれてありがとうございます」と伝えれば、「ミスをした新人」から「学ぼうとしている新人」へと、相手の立ち位置が変わります。「分からない時に質問していいんだ」と思ってもらえることは、長い目で見ると、その職場にとって大きな財産になります。
こうしていくつかの場面を並べてみると、どのケースでも共通しているのは、「事実そのものは変えていない」という点です。終わっていない仕事、繰り返される質問、忙しい現場、新人のミス。どれも消してしまうことは出来ません。それでも、「そのひと言」を、相手を責める向きから、相手と並んで立つ向きへと少しだけひっくり返すことで、同じ一日が「温かい記憶」に変わっていきます。
次の章では、こうした言い替えの考え方を、職場全体や家族ぐるみの取り組みに広げていく方法を見ていきます。研修の場だけでなく、日常の中に「言葉遊びトレーニング」を溶け込ませる工夫について、一緒に考えていきましょう。
第4章…家族にも職場研修にも使える~言葉遊びトレーニングの広げ方~
ここまで見てきたような言い替えの工夫は、特別な教材や資格がなくても始められる、とても素朴なものです。だからこそ、「年に1回の研修でやって終わり」にしてしまうのはもったいない取り組みでもあります。日々のちょっとした時間、家族との何気ない会話、職場の和みタイムの中に溶け込ませていくことで、ゆっくりと根を張っていきます。この章では、「どんな場面にどう取り入れると育ちやすいか」という視点で、言葉遊びトレーニングの広げ方を眺めてみます。
職場の日常にそっと置く言葉の遊び場
まずは、介護職同士の場面です。朝礼や終礼、ミーティングの前後など、既に集まる時間が決まっている場所に、言葉遊びの要素をひと匙だけ足してみます。例えば、「今日のマイナスひと言」を1つだけホワイトボードに書いておき、そこから1人ずつ、思いついた言い替えを口にしてみる。全員が必ず発言しなくても、「言ってみたい人だけどうぞ」としておくと、苦手な人も無理なく参加できます。
この時、発言のうまさを競う場にはしません。「その言いかえ、素敵ですね」「そのひと言、すぐ現場で使えそう」といった、温かいリアクションを意識して返していくことで、「ここでは安心して言葉を試せる」という空気が育っていきます。上手く言えなかったと感じている人には、「その視点は気付きになりますね」と、良いところを1つ拾ってあげると、次もチャレンジしやすくなります。
また、「言い替えノート」を1冊用意しておき、皆で思いついた表現を書き溜めていく方法もあります。実際に現場で使ってみてうまくいった言葉や、利用者さんやご家族から「その言い方、嬉しいわ」と返ってきたひと言を、メモとして残しておくのです。ノートが少しずつ埋まっていく様子は、「この職場には、言葉を大事にする文化がある」という目に見える証拠にもなります。新人さんが入ってきた時には、そのノートを一緒にめくりながら、「うちの事業所の大事にしている声掛け」を伝えることも出来るでしょう。
家族と一緒に楽しむ言い替えレッスン
言葉遊びトレーニングは、職員だけのものにしておく必要はありません。家族会や面談、ケア会議などの場で、ほんの短い時間を使って、「ご家族バージョンの言い替えレッスン」を試してみることも出来ます。例えば、「つい言ってしまいがちだけれど、言われる側は少しつらくなるかもしれないひと言」を、家族目線から挙げてもらい、それを皆で別の表現に変えてみるのです。
「ちゃんと歩かないとダメでしょう」ではなく、「一緒にゆっくり歩いてみようか」、「まだ覚えてないの?」ではなく、「何度でも一緒に確認しようね」、といった具合に、家庭の日常で起こりがちな場面を題材にすると、「ああ、うちもあるあるだ」と笑いながら考えることが出来ます。ここでも大事なのは、「言い方が悪い」と責めることではなく、「この言い替え、いいね」「そのひと言なら、言う方も言われる方も気持ちが和らぐね」と、前向きな例を皆で増やしていく姿勢です。
施設だよりや情報紙を発行しているのであれば、「今月の褒め言葉」「今月の言い替えアイデア」といった小さなコーナーを作るのも1つの方法です。1回に1例だけでも良いので、短いエピソードと共に紹介しておくと、「次はどんな言い替えが載るかな」と楽しみにしてくれるご家族も出てきます。家庭内の介護が中心の方にとっても、「自分のひと言を見直す切っ掛け」になり、孤立しがちなケアの日常に、少しだけ違う光が差し込みます。
管理者とリーダーが出来る後押し
言葉の空気を変える取り組みは、現場の職員だけで頑張ろうとすると、忙しさの中でどうしても続き難くなります。ここでとても大きな役割を持つのが、管理者やリーダー層の関わり方です。例えば、リーダー自身が「今の言い替え、いいですね。メモしておきます」と口にすることで、「言葉を工夫することが評価される」というメッセージを静かに伝えることができます。
また、面談や評価の場で、「介助の技術」だけでなく、「声掛けの工夫」も具体的に褒めることは、職員の励みになります。「先日の〇さんへの説明の仕方、とても分かりやすくて安心感がありました」といった一文を添えるだけでも、「自分の言葉は誰かの心を支えている」という自覚に繋がっていきます。その実感があればこそ、「もっと優しい言い回しを探してみよう」という意欲が自然に育っていきます。
管理者自身もまた、人手不足や制度の変化の中で、言葉が尖りやすい立場にあります。「どうして出来ていないのか」「なぜ守らないのか」と詰めたくなる気持ちを抱える日もあるでしょう。だからこそ、自分自身も含めて、「言い替えゲーム」をする仲間の一人だと捉えてみると、少し肩の力が抜けます。「今の言い方、ちょっと強かったかな。次はこう言ってみよう」と、管理者も一緒に学ぶ姿を見せることは、職場全体にとって大切なメッセージになります。
言葉遊びトレーニングは、誰か一人が完璧になることを目指すものではありません。利用者さん、ご家族、現場の職員、リーダー、皆がそれぞれの立場で、「どう言えば伝わりやすいか」「どう伝えたらお互いが楽になるか」を少しずつ考えてみる、そのプロセスそのものに意味があります。次の章では、こうした小さな言い替えが積み重なった先に、どんな未来の介護現場を描けるのかを、もう一度ゆっくり振り返ってみます。
[広告]まとめ…小さな言い替えが大きな安心に~褒め言葉が行き交う介護現場へ~
介護の現場では、一日に交わされる言葉の数は、本当に数え切れないほどあります。利用者さんへの声掛け、ご家族への説明、職員同士の申し送りや相談。そのどれもが、その場の空気や人間関係に、少しずつ色を付けていきます。振り返ってみると、心に残っている場面には、決まって印象的なひと言がそっと添えられているものです。
この記事で辿ってきたのは、「マイナス言葉を完全になくす」という理想ではありませんでした。忙しさや疲れが溜まる中で、人はどうしても尖った言い方をしてしまうことがあります。それを責め立てるのではなく、「同じ内容を、もう少しやわらかく伝える道はないかな」と、一緒に探してみる姿勢こそが、現実的でやさしい一歩になります。
第一の柱は、「ひと言で空気が変わる」という感覚を思い出すことでした。「まだ終わっていないんですか」と「ここまでありがとうございます、残りは一緒に進めましょうか」。事実は変わらないのに、伝え方だけで受けとめ方が大きく変わる。その小さな違いが、利用者さんやご家族の心の温度を、少しずつ温めていきます。
第二の柱は、それを日常の中で楽しく練習するための「褒め言葉言い替えゲーム」です。マイナス寄りのひと言を題材にして、「どう言えば相手がホッと出来るか」を皆で考えていく。正解を1つに決めるのではなく、「その表現いいね」「そんな言い替えもあるのか」と、引き出しを増やす時間にしていく。遊びのようでいて、現場でそのまま使える具体的な言葉が、少しずつ身についていきます。
第三の柱は、実際の場面に当てはめてみることでした。食事が進まない時、同じ質問が繰り返される時、ご家族の相談にすぐ応じられない時、新人さんが失敗をした時。どの場面でも、「責める向きのひと言」から、「隣に立つひと言」へと、ほんの少し向きを変えるだけで、関係性は守られます。自分の中の本音を消してしまうのではなく、「本音にクッションをかける」イメージで言い替えを考えることで、言う側の苦しさも和らいでいきます。
そして第四の柱として、それを個人の努力に留めず、職場全体や家族ぐるみの取り組みに広げていく視点を見てきました。朝礼や終礼のひとコマで行うミニゲーム、言い替えノートの作成、施設便りでの「今月の褒め言葉」紹介。管理者やリーダーが「言葉の工夫」を具体的に褒めることで、「ここでは声かけも立派なケアの一部だ」というメッセージが伝わります。家族会で一緒に言い替えを考える時間を持てば、「施設」と「家庭」が同じ方向を向いて、高齢の方の毎日を支える仲間になっていくことが出来ます。
介護の仕事は、決して楽なものではありません。制度の変化、人手不足、身体的な負担、心の疲れ。様々な重さを抱えながら、それでも現場に立ち続ける人たちの口から紡がれるひと言は、時に、薬以上に人の心を支える力を持ちます。「ここにいていいんだ」「自分は邪魔ではないんだ」と感じさせる言葉が、どれほど多くの孤独や不安を和らげてきたかは、現場にいる人ほどよく知っているはずです。
小さな言い替えは、一日に一度だけでも構いません。昨日までなら「まだ終わっていないんですか」と言っていた場面で、「ここまで一緒に頑張りましたね」とそっと向きを替えてみる。その一度が、自分の中に残る後味を変え、相手の心に残る記憶を変え、やがて職場の空気を変えていきます。
今日、この記事を読み終えた後、あなたが誰かにかけるひと言が、ほんの少しだけやさしくなっていたら。それは、介護の現場に新しい風が吹き始めた合図なのかもしれません。褒め言葉が当たり前のように行き交い、「ここに来ると安心する」と思われる場所を、言葉の力で一緒に作っていきましょう。
今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m
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