12月の高齢者レクリエーション~外出と買い物で年越しの不安をほぐす企画~

[ 12月の記事 ]

はじめに…師走になると高齢者の心がそわそわするわけ

12月、いわゆる師走になると、街の空気が一気に変わります。イルミネーションが光り始め、スーパーの店頭にはクリスマスとお正月の品物がズラリと並び、テレビからも特番や年末の挨拶が聞こえてきます。若い人にとっては「賑やかな季節」かもしれませんが、高齢の方にとっては、胸の中がソワソワして落ち着かなくなる時期でもあります。

かつては自分で大掃除をして、台所でおせちの準備をして、神棚や仏壇を整えて、新しい年を迎える支度をしていた方がたくさんおられます。ところが、年齢を重ねて体が思うように動かなくなったり、病気や障害を抱えるようになったりすると、その「当たり前だった年末の風景」が、少しずつ自分の手から離れていきます。

家族と同居している方、老老介護の世帯、一人暮らしの方、施設で暮らしている方……生活の形は様々ですが、「昔は自分でやれていたのに、今は任せるしかない」「もう自分の家では何もしてあげられないのかな」という思いは、多くの方の心の奥に静かに積もっています。周りから見ると何気ない一言や、飾り付けの1つが、その思いを強く揺さぶることもあります。

一方で、介護の現場は12月こそ大忙しです。通常のケアに加えて、大掃除やクリスマス会、年末年始の準備など、予定はぎっしり。安全管理の観点から、インフルエンザや風邪への警戒も強まり、どうしても「屋内で完結するレクリエーション」に偏りやすくなります。その結果として、利用者さんは「忙しそうだから、お願いしにくい」「自分の願いは後回しでいい」と遠慮してしまうことも少なくありません。

本来、年の締め括りと新年のスタートは、その方がずっと大切にしてきた価値観や習慣が一番表に出るタイミングです。「本当は、玄関だけでも綺麗にして新年を迎えたい」「小さくてもいいから正月飾りを置きたい」「家族に何か一品だけでも送ってあげたい」──そんな小さな願いが形になったかどうかで、その年の満足感は大きく変わります。

この12月のレクリエーションでは、歌やゲーム、体操といった定番の取り組みも大切にしながら、「年末年始を、自分らしく迎えるお手伝い」という視点をもう一段、前に出してみたいところです。そのための方法として、本記事では、ショッピングモールや百貨店などへの外出を敢えて企画に組み込み、「年越し準備を一緒に整えるレクリエーション」という考え方を提案していきます。

忙しい時期だからこそ、高齢者さんのソワソワした心に寄り添い、「今年もちゃんと年を越せた」と実感していただく。そんな年末ならではの関わり方を、次の章から具体的に見ていきましょう。

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第1章…12月の暮らしを見つめ直してレクリエーション企画書を整える

12月の介護現場は、とにかく予定が詰まりがちです。普段の入浴や食事、排泄の支援に加えて、大掃除、クリスマス会、年末年始の準備……。職員側から見ると、「どうやって全部こなそうか」というスケジュール調整の月になりやすいかもしれません。

けれど、利用者さんの立場から12月を見直してみると、少し違う風景が見えてきます。かつては、自分で障子を張り替え、台所で煮しめの匂いを漂わせ、玄関に飾りを整えて新しい年を迎えていた方がたくさんおられます。その「当たり前だった年末の仕事」が、年齢や病気の影響で少しずつ手放されていく時、人は心のどこかで「自分の役目が削られていくような寂しさ」を抱えやすくなります。

同居家族がいて代わりに動いてくれる方もいれば、一人暮らしや老老介護のご家庭、施設入所の方もいます。生活の形は違っても、「昔のようには動けない」「お願いすることが増えて気が引ける」という思いは、程度の差こそあれ、多くの方に共通する感覚です。そこに、テレビや街の賑やかな年末ムードが重なると、「自分の家だけ取り残されている気がする」と落ち込んでしまうこともあります。

だからこそ、12月のレクリエーション企画書は、「行事を埋めるための予定表」ではなく、「その人なりの年越しを取り戻すための設計図」として考えてみると、組み立て方が変わってきます。例えば、企画内容を大まかに次のような三つの視点で眺めてみると分かりやすくなります。

1つ目は、体操や口腔体操、簡単なゲームなど、生活リズムを整え、身体や頭の働きを保つための「日常レクリエーション」。
2つ目は、クリスマス会や忘年会、餅つき風のイベントなど、季節の雰囲気を味わうための「行事レクリエーション」。
そして3つ目が、年末だからこそ出てくる不安や願いに寄り添う「個別レクリエーション」です。

12月は、この3つのうち、どうしても行事レクリエーションに視線が集中しがちです。大人数で楽しめる企画は大切ですが、それだけに偏ると、「賑やかだけれど、自分の年末準備は何も進んでいない」というモヤモヤを残してしまうことにも繋がります。個別の願いに目を向ける時間を、敢えて企画書の中に確保することがポイントになります。

具体的には、月初には「今年を振り返る会」や「昔の年越しの思い出を話す時間」をゆったりと取り入れ、利用者さんの口から「本当はこう過ごしたかった」というヒントを拾っていく流れが考えられます。中旬には、施設内で出来る年末準備として、小さな正月飾り作りや、年賀状代わりのメッセージカード作成を組み込みます。そして下旬には、希望者を絞った少人数での外出や買い物を検討し、「実際に必要な物を一緒に整える日」を一日でもいいので用意してみるのです。

ここで注意したいのは、12月は寒さや感染症への警戒から、どうしても「屋内だけで完結するレクリエーション」に寄りがちだという点です。安全を守るための判断はとても大切ですが、それが続くと、「もう外には出られない」「年末の支度は自分には関係ない」という諦めを強めてしまうことにもなりかねません。そこで、企画書を作る段階で予め「外に出ることを前提にした日」と「準備と休息にあてる日」をセットで書き込んでおくと、全体のバランスが取りやすくなります。

また、企画書には「何をするか」だけでなく、「何故それを12月に行うのか」という理由も添えておくと、その後の説明がグッとしやすくなります。例えば、「年末に自分で選んだ飾りを部屋に飾ることで、その方らしい年越しの感覚を取り戻していただく」「お正月用品の買い物を通じて、役割や決定の機会を持っていただく」といった言葉を、狙いとして明文化しておくイメージです。これは、家族や管理者に説明する時にも、外部の目を意識した評価の場面にも役立ってきます。

12月のレクリエーション企画書は、「レクリエーション枠を埋めるためのカレンダー」から一歩進んで、「その人の年末年始の物語を一緒に作るための台本」に変えていくことが出来ます。次の章では、その中でも特に、月末下旬に外出を組み込むアイデアについて、もう少し具体的に掘り下げていきましょう。


第2章…月末下旬に外出レクリエーションを組み込むという発想

12月の高齢者レクリエーションを考える時、多くの事業所では月の前半から中旬にかけてクリスマス会や忘年会を配置し、後半は大掃除や年末年始の準備で慌ただしく過ぎていく、という流れになりがちです。職員側から見ると、「ここにさらに外出まで入れるなんて無理」と感じる方もおられるかもしれません。

ところが、利用者さんの心の動きに目を向けると、12月下旬こそ「外に出ておきたい」「もう一度、自分で年越しの支度をしている空気を感じたい」という思いが強くなるタイミングでもあります。街の飾り付けはほとんどお正月モードに切り替わり、スーパーやショッピングモールでは、しめ飾りや鏡餅、縁起物の食材がズラリと並びます。自宅やかつての暮らしで当たり前のように見ていた光景と重なりやすいのが、まさにこの時期なのです。

施設の中でクリスマス会を楽しみ、年末の雰囲気を味わうことも大切です。しかし、それだけでは「自分の家の年越しを用意している」という実感にはなかなか繋がりません。そこで、12月下旬にあえて少人数の外出レクリエーションを配置し、「自分の目で選び、自分の手でカゴに入れる」という体験をしていただくことが、大きな意味を持ってきます。

なぜ12月下旬に外出するのか

12月上旬や中旬に外出を企画すると、どうしてもクリスマス関連の商品が中心になります。これはこれで楽しいのですが、高齢の方の多くにとって、心の底から懐かしさが湧き上がるのは、お正月用品が並び始める頃です。子ども時代や若い頃を思い返した時、「家族総出で年末の買い出しに出かけた」「商店街の賑わいが忘れられない」という記憶と結び付きやすいのも、年越し準備の風景ではないでしょうか。

また、12月下旬は「今年もここまで来た」「何とか一年を乗り切った」という区切りの感覚が強くなる時期でもあります。そのタイミングで外出し、年末らしい空気を一緒に感じることは、「今年もちゃんと年を越す準備ができた」という安心感に繋がります。施設での生活が長くなると、「カレンダーが変わるだけで、自分の生活は何も変わらない」と感じてしまう方もおられますが、外出レクリエーションによって、その思いを和らげることができます。

もちろん、天候や体調、感染症の状況など、慎重な判断が必要な条件は多くあります。それでも、「危ないから外出はやめておきましょう」と完全に閉じてしまうのではなく、「条件を整えた上で、出来る範囲で外に出てみる」という発想に切り替えることが、12月下旬のレクリエーションを豊かにします。

行き先は日常と年末が交差する場所を選ぶ

外出レクリエーションの行き先としてお勧めなのは、ショッピングモールや大型スーパー、昔ながらの商店街など、「日常の買い物」と「年末の特別感」が同時に味わえる場所です。華やかなイルミネーションやイベントスペースも良いですが、利用者さんと一緒に歩きながら、「これ、家に飾ったことがある」「昔はこういうのを手作りした」といった会話が生まれやすいのは、売り場そのものです。

例えば、締め飾り売り場の前で足を止めて、「どんな飾りが好きでしたか」と尋ねるだけでも、その方の人生の風景が語られ始めます。昆布や黒豆、数の子が並ぶコーナーでは、「昔はここまで作るのが大変だった」「子どもたちが手伝ってくれた」といったエピソードが自然と出てくるでしょう。こうした何気ない会話こそが、回想法としての効果を持ち、心の整理にも繋がります。

予算については、事前にご家族と相談したり、施設としてのルールを確認したりしながら、「玄関飾りを1つ」「小さなお花をひと鉢」「自分用のおやつを少し」など、無理のない範囲で設定しておくと安心です。「今日は自分で選んだ物を持ち帰る日」という目標があると、歩行や車椅子の移動にも自然と前向きな気持ちが生まれます。

外出レクリエーションを特別なご褒美にしない

ここで大事なのは、12月下旬の外出レクリエーションを、「頑張った人だけが行けるご褒美」にしないことです。日頃からリハビリや集団レクリエーションに参加している利用者さんはもちろん、体力や認知機能に不安がある方にも、何らかの形で外出の機会を検討することが望ましいと言えます。

例えば、歩行が難しい方であれば、車椅子で短時間だけ店内を回るコースを設定したり、混雑を避けて平日の午前中を狙ったりする工夫が考えられます。外出が難しい方には、職員が予め売り場の様子を写真に撮ってきて、施設内で「出張ミニ売り場」のような形で紹介しながら、一緒に物を選ぶという方法もあります。直接現地には行けなくても、「自分で選んだ物が自分の手元に届く」という体験はしっかりと残ります。

12月下旬に外出を組み込むという発想は、単なる行事の追加ではなく、「年末年始の主役から降りたように感じている方を、もう一度、年越しの舞台に招き直す」取り組みだと言い換えることができます。次の章では、この外出レクリエーションにどのようなねらいを込めるのか、心と体の両面から整理していきましょう。


第3章…買い物外出レクリエーションの狙いと心と体への効果

日々のレクリエーションは、体操やゲーム、制作活動などを通して、少しずつ機能を維持したり、生活のリズムを整えたりする大切な役割を担っています。ただ、その効果はどうしても「じわじわ」と表れるもので、「今日のこの時間で何が変わったのか」が、ご本人にも職員にも見えにくいことが多いのではないでしょうか。

一方で、買い物を含む外出レクリエーションは、準備から実施、帰ってからの振り返りまでを1つの流れとして捉えることで、「達成したこと」が非常に分かりやすい形で残ります。玄関に飾られた正月飾り、居室に置かれた小さな鉢植え、自分で選んだお菓子や茶葉……。目に見える形で残る物があると、利用者さん自身も「自分で選んで、自分のために用意した」という実感を持ちやすくなります。

ここでは、12月下旬に行う買い物外出レクリエーションに、どのような狙いを込めるのかを、心と体の両面から整理してみましょう。

「達成した」と胸を張れる経験を作る

高齢になると、「出来なくなったこと」にばかり目が向きがちです。介護の現場でも、「転ばないように」「無理をしないように」と、どうしても制限や注意点の話が多くなってしまいます。その一方で、「これが出来た」「ここまで自分でやれた」と胸を張れる場面は、意識しないとどんどん減っていきます。

買い物外出は、その「出来た」を分かりやすく感じてもらえる機会です。例えば、歩行訓練を続けてきた方が、カートに掴まりながら売り場を一周できた。レジで財布からお金を出し、自分の口で「お願いします」と言えた。職員の付き添いはあっても、その一つ一つが、その方にとっての大きな達成になります。

施設に戻ってから、購入した品物を一緒に確認したり、「ここまで歩きましたね」「今日は自分で全部選べましたね」と言葉にして振り返ったりすると、達成感はさらに強くなります。「年末に一仕事した」という感覚が生まれることで、年を越す前向きな気持ちにも繋がっていきます。

「役割」と「自己決定」の感覚を取り戻す

人は、誰かの役に立っていると感じられる時、生き甲斐や自尊心を保ちやすくなります。ところが、介護が必要になると、「世話をされる側」に回ったように感じ、「迷惑を掛けているのでは」と自分を責めてしまう方も少なくありません。

買い物外出では、「自分のため」だけでなく、「家族や友人のため」に品物を選ぶことも出来ます。例えば、「お孫さんへのお菓子を選びましょうか」「年始に来るご家族へのお茶請けを一緒に決めましょう」といった声掛けをすると、その方が家族の中で担ってきた役割が、フッと戻ってくることがあります。

また、「どれにしますか」「これとこれなら、どちらが好みですか」と選択の場面を意識的に増やすことで、「自分で決める」という感覚も刺激されます。施設の生活では、どうしても職員の段取りに合わせた日課になりやすいため、12月下旬の買い物外出を「自己決定の場」として位置付けることには大きな意味があります。

選んだ結果、少し失敗することもあるかもしれません。「思ったより甘かった」「サイズが合わなかった」。しかし、その経験も含めて、「自分で決めたからこその納得」が生まれます。これが、心の張りを保つエネルギーになります。

時間の流れと季節感を取り戻す

認知症の方や、施設での生活が長くなっている方の中には、「今日は何月何日なのか」「今はどんな季節なのか」が分かりにくくなっている方もおられます。カレンダーや掲示物でお知らせしていても、「頭では分かっているけれど、実感が湧かない」という状態になりやすいのが現実です。

買い物外出は、まさに「季節をまとめて肌で感じる」機会になります。店頭の締め飾り、門松、鏡餅、年越し蕎麦の売り場、福袋の案内ポスター……。視覚から入ってくる情報はとても多く、自然と「もうすぐお正月だ」という感覚が心の中に広がっていきます。

さらに、「今年もこの時期が来ましたね」「去年はここで何を買いましたっけ」といった会話を重ねることで、時間の流れをなぞり直すことができます。「去年はまだ杖だったけれど、今年は車椅子で来ましたね」「でも、ちゃんとここまで一緒に来られましたね」といった振り返りは、単に機能の変化を確認するだけでなく、「それでも今、ここにいる」という事実を丁寧に認める作業にもなります。

体力や生活機能の確認にもつながる

外出レクリエーションは、心理的な効果だけでなく、体の状態や生活機能を具体的に把握するチャンスにもなります。例えば、「どのくらいの距離なら休憩を入れながら歩けるのか」「人混みの中で、どの程度、周囲に注意を向けられるのか」「支払いの場面で、どのような支援が必要なのか」といった点は、施設内の廊下では見え難い部分です。

買い物外出の後で、職員同士で観察した内容を共有したり、記録に残したりすると、その後のリハビリ計画やケア内容の調整にも役立ちます。「この方なら、近所のコンビニまでなら安全に行けそうだ」「次はもう少し短いコースにしよう」といった具体的な判断材料になりますし、ご家族に「ここまでは一緒に外出できますよ」と安心してお伝えする材料にもなります。

利用者さんの側から見ても、「今日はここまで歩けた」「ここで少し疲れが出た」と振り返ることは、自分の体と付き合う感覚を取り戻すことに繋がります。外出のたびに、ほんの少しずつでも「前回より楽だった」「今日はここまで頑張れた」と感じられると、それが日々の体操やリハビリに向かう意欲にも跳ね返ってきます。

このように、12月下旬の買い物外出レクリエーションには、「達成感」「役割と自己決定」「季節感と時間の感覚」「体力の確認」といった、様々な狙いを重ねることが出来ます。次の第4章では、こうした狙いを実現するために欠かせない、お金の扱い、人員配置、計画書作りなど、実務面での工夫について具体的に見ていきましょう。


第4章…お金・人員配置・計画書作りを乗り越える実務工夫

ここまで見てきたように、12月下旬の買い物外出レクリエーションには、心と体の両方にとって大きな意味があります。とはいえ、現場の職員さんからすると、「理想は分かるけれど、お金の扱いや人員配置、実地指導での説明を考えると、やっぱり踏み出しにくい……」という本音もありますよね。

この章では、そんな現場の不安に1つずつ光を当てながら、実際に動かしやすくするための工夫を整理していきます。

お金の扱いと事前説明を「見える化」する

まず、多くの事業所が気にされるのが、お金に関するトラブルです。「利用者さんに多額のお金を持たせて紛失したらどうしよう」「誰が管理していたことにするのか」という問題は、確かに曖昧にしてはいけません。

そこで意識したいのは、当日の対応だけでなく、事前の取り決めと説明をしっかり「見える形」にしておくことです。例えば、次のような流れを整えておくと安心感がぐっと増します。

まず、外出レクリエーションの案内文を作成し、「参加の目的」「想定される買い物の内容」「金額の目安」「お金の管理方法」を分かりやすい言葉で記載します。利用者さん本人だけでなく、ご家族にも目を通していただき、「当日は〇〇円程度まで」「財布はご本人がお持ちになるのか、職員が預かるのか」といった具体的な点を、事前に同意していただきます。

さらに、当日のお金のやり取りは、担当職員を決めた上で、「誰が、どのタイミングで一緒に確認したか」を簡潔に記録に残します。領収書やレシートは小さな封筒にまとめておき、帰所後にご本人やご家族と一緒に確認すると、「今日はこんな物を買いましたね」と振り返る材料にもなりますし、「きちんと管理されていた」という安心材料にもなります。

大切なのは、「お金は全て自己責任です」と突き放すのではなく、「施設として出来る範囲の見守りと記録は行います。その上で、紛失を完全にゼロには出来ないこともご理解ください」と、現実的な線を丁寧に共有しておくことです。この擦り合わせがあるかどうかで、後々の印象が大きく変わります。

人員配置は「外出組」と「施設組」をセットで考える

次に気になるのが、人員配置の問題です。外出に職員を付けると、施設内に残る利用者さんへの支援が手薄にならないか、という心配は、どの事業所でも避けて通れません。

ここでのポイントは、「外出レクリエーションを特別枠として無理やり捻り出す」のではなく、「その日一日の流れを、外出組と施設組の二本立てで設計する」という発想に切り替えることです。

例えば、外出当日の午前中は、施設に残る方を中心にした落ち着いたプログラムを組み、午後から少人数で外出する、という形が考えられます。外出組の人数は、必ず「安全に目が届く範囲」に絞り、歩行状態や理解力に応じて、職員一人辺りが見る人数の目安を決めておきます。

施設内に残る方には、普段よりもゆったりとした個別対応や、好みを重視した活動を用意します。「今日は外出の人ばかり優遇されている」と感じさせないよう、「こちらはこちらで、じっくりした時間を過ごせる日」であることを意識します。事前に、「今日は買い物に行くグループと、施設で特別な制作活動をするグループに分かれます」と説明しておくと、それぞれが自分の過ごし方に納得しやすくなります。

このように、「外出組の予定」だけを切り取って考えるのではなく、「その日の全体図」の中で人員配置を組み立てると、無理のない運営方法が見えてきます。

計画書とケアプランに「狙いの筋道」を通す

外出レクリエーションを実施する上で、もう1つの大きなハードルになりやすいのが、「ケアプランとの整合性」と「実地指導での説明」です。

多くの場合、ケアプランには「出来ないこと」や「安全面での課題」が中心に書かれています。そのため、「多額のお金を持って人混みに出る」買い物外出は、一見するとプランの方向性と合わないように見えてしまうこともあります。

ここで意識したいのは、ケアプランそのものを無理に書き換える前に、「サービス提供側の計画書の中で、具体的な狙いと手段をハッキリさせる」というステップです。例えば、通所系の事業所であれば、個別支援計画の中に、

「年末の買い物を通じて、自己決定の機会を増やし、生活への意欲を高める」
「歩行訓練の成果を、実際の外出場面で確認し、今後の目標作りに役立てる」

といった文言を盛り込みます。合わせて、「外出時は職員が傍について歩行を見守る」「レジでの支払いは職員が隣で確認しながら行う」など、具体的な支援方法も記載しておくと、計画として筋道が通ります。

その上で、次回の担当者会議では、「このような外出を計画し、こんな効果が見込まれます」と写真や記録を添えて説明します。実際の様子を目で見て共有すると、「危ないのではないか」という漠然とした不安よりも、「どうやって安全を確保しながら続けていくか」を建設的に話し合いやすくなります。

ケアプランとのズレが話題になった場合も、「利用者さんの生活の質を高める取り組みとして、こういう視点も必要だと感じています」と、現場の実感を言葉にして伝えることが大切です。対立ではなく、「利用者さんのために、プランを一緒に育てていく」という姿勢を共有できれば、外出レクリエーションは、むしろ計画書を豊かにする材料になっていきます。

記録と振り返りが、次の外出の背中を押す

最後に、外出レクリエーションの効果を長く活かすために欠かせないのが、「記録」と「振り返り」です。

当日の様子は、写真やメモで残しておきます。買い物の前後で表情がどう変わったか、どんな会話が生まれたか、歩行や支払いの場面でどのような支援が必要だったか。後から読み返しても情景が浮かぶような記録は、次に企画を立てる時の心強い味方になります。

また、利用者さんご本人にも、可能な範囲で振り返りに参加していただきます。文字が書ける方なら、「今日買った物」「嬉しかったこと」をひと言ずつ書いていただくのも良い方法です。難しい方には、写真を見ながら、「この飾りはどこに飾りましょうか」「来年も行きたいですか」と、答えやすい問いかけで振り返ります。

こうした記録は、実地指導やご家族への説明の場面で、「外出レクリエーションが、具体的にどのような変化をもたらしたか」を示す証拠にもなります。単に「楽しかったです」という一言で終わるのではなく、「歩行距離が伸びた」「表情が明るくなった」「家族との会話が増えた」といった変化が言葉と写真で残っていれば、「危険だからやめておきましょう」という意見だけで企画を消されてしまう可能性は、グッと減っていきます。

お金の扱い、人員配置、計画書、記録。どれも簡単とは言えませんが、工夫次第で「出来ない理由」から「どうすれば出来るか」へと視点を変えることが出来ます。12月の外出レクリエーションは、そのための挑戦の場にもなり得ます。最後のまとめでは、こうした取り組みが、利用者さんと職員、そして地域にとってどのような意味を持つのかを、もう一度ゆっくり振り返ってみましょう。

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まとめ…諦めの年末から誇らしい年越しの思い出作りへ

12月は、カレンダーの上では一年の終わりであり、新しい年の入口でもあります。けれど、高齢の方にとっては、「もう昔のようには動けない」「家のことを任せるばかりになってしまった」という、寂しさや諦めが強くなりやすい時期でもあります。テレビや街の賑わいを眺めながら、「自分の年越しは、ただ日付が変わるだけになってしまうのだろうか」と胸の中で呟いている方も、きっと少なくないでしょう。

本記事では、そんな12月の揺らぐ心に寄り添うために、2つの視点を大切にしてきました。1つは、「その人なりの年末年始の物語を取り戻す」という視点。もう1つは、「現場としてどうやって実現していくか」という視点です。レクリエーションを、単なる行事消化のための予定表として見るのではなく、「その人が主役になれる場面をどう増やすか」という観点から組み立てていくことで、企画書の中身は大きく変わっていきます。

特に、12月下旬に敢えて外出レクリエーションを組み込み、ショッピングモールやスーパー、商店街で一緒に年越し準備の買い物をする、という発想は、「もう役目を終えた」と感じている方を、もう一度、年末の舞台へ招き直す取り組みと言えます。玄関飾りを自分の目で選び、かつての味を思い出しながらおせちの材料を眺め、家族の顔を思い浮かべつつ手土産を選ぶ。その一つ一つが、「まだ自分にも出来ることがある」「今年もちゃんと年を越せた」という実感へと繋がります。

もちろん、理念だけでは現場は動きません。お金の扱い、人員配置、計画書との整合性、実地指導での説明……。どれも、介護職にとっては頭を悩ませやすい現実的な課題です。だからこそ、事前の同意書や案内文でお金の流れを明らかにし、外出組と施設組をセットで設計し、サービス提供側の計画書に狙いと支援方法を書き込むといった「段取りの工夫」が重要になります。

そして何より、外出の様子や利用者さんの表情、歩行の様子、買い物後の会話などを、写真や記録として残しておくことが、次の一歩を後押ししてくれます。「危ないからやめましょう」という声に対して、「これだけの変化がありました」と胸を張って示せる材料があれば、外出レクリエーションは一度きりの冒険で終わらず、事業所の文化として根付いていくはずです。

年末の慌ただしさの中で、介護職員自身も疲れやプレッシャーを抱えがちです。それでも、利用者さんが自分で選んだ飾りを手にして、「これでうちも新年が迎えられる」とホッと笑う瞬間に立ち会えたなら、その景色はきっと、職員にとっても忘れがたい宝物になります。「忙しかったけれど、あの外出はやってよかった」と、後から振り返って思える日は、必ずやってきます。

諦めの色が滲んだ年末を、「今年もちゃんとやり切った」と胸を張れる年越しに変えていくこと。12月の外出レクリエーションは、その切っ掛けを作る力を持っています。一人一人の生活の背景と、現場の事情の両方を大切にしながら、今年の師走も、利用者さんと一緒に「誇らしい年越しの思い出作り」に挑んでいきたいですね。

今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m


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