寒の内は仕込みの時間~未来の自分を助ける冬の小さな台所計画~
目次
はじめに…「今やらないと損」ではなく「未来の自分への贈り物」という発想に
お正月が過ぎて、空気がキュッと冷え込み、ふと「今年も本格的に始まったなあ」と感じる寒の内。外に出るのが少し億劫で、用事が済んだらさっさと家に帰りたくなる時期でもあります。同じ冬でも、師走のバタバタした空気とは違って、1日の中にスッと静けさが入り込む時間が増えてくるのが、この季節ならではの空気かもしれません。
そんな寒の内を、「何となく寒さに耐えるだけの時期」にしてしまうのは、少しもったいない気もします。どうせ家にいる時間が長くなるのなら、そのエネルギーの一部を、未来の自分を助ける台所仕事に回してみる。今日のご飯を作るためだけではなく、「数日後」「来週」「来月のちょっと疲れた自分」のための仕込みを、少しだけ増やしてみる。そう考えると、寒の内の台所は、実はかなりワクワクする場所に変わってきます。
ここで大切にしたいのは、「今のうちにやっておかないと損」というギラギラした気分ではなく、「少し先の自分への贈り物を1つ置いておこう」という、柔らかい発想です。大量の保存食を作って、何か月も持たせようと頑張る必要はありません。干し野菜を少しだけ作っておく、ジンジャーシロップを小さめの瓶に1本分仕込んでおく、鍋やスープ用の野菜を切って冷凍庫の隅っこにそっと置いておく。それくらいの、肩の力が抜けた仕込みで構わないのです。
そしてもう1つ忘れてはいけないのが、賞味期限や衛生面への優しい配慮です。市販の保存食とは違い、家庭の台所で作る物は、その家の冷蔵庫や冷凍庫の状態、台所の環境によって、持ちやすさが変わってきます。だからこそ、「長く持たせる」ことよりも、「美味しいうちに食べ切れる量を仕込む」ことを目標にした方が安心です。寒の内の間に食べ切れるくらいの量を目安にして、「これは来週の自分」「これは再来週の忙しい平日の夜」とプレゼントの行き先を決めておくと、台所の中でも迷子になり難くなります。
この文章では、寒の内を「仕込みの時間」として楽しむためのアイデアを、読み物としてゆっくり味わえるようにまとめていきます。第1章では、何故この季節が仕込みに向いているのか、台所の空気や家で過ごす時間の変化から考えてみます。第2章では、干し野菜や簡単なおかずのストックのように、冬の光と風を味方につけた優しい常備菜を。第3章では、ジンジャーシロップや小さな瓶詰めを中心に、温まる一杯と、日々のご飯にちょい足し出来る小さな魔法の話を。そして第4章では、冷凍ミックス具材という形で、平日のご飯を軽くしてくれる「未来の味方」の作り方をイメージしていきます。
寒の内の台所で、少しだけ手を動かしておくと、2月、3月の自分がほんの少し楽になります。「あの時の自分、良くやった」と、フッと笑える瞬間がどこかでやって来るはずです。そんな未来の自分への小さな贈り物を、一緒に思い描きながら、寒い季節の台所時間を楽しんでいきましょう。
[広告]第1章…寒の内は台所が一番静かな季節だからこそ「仕込み日和」
年末の慌ただしさが終わり、お正月のご馳走ムードも落ち着いてくると、家の中の時間の流れがフッとゆっくりになります。特に寒の内の台所は、1年の中でも少し特別な空気を纏っています。真夏のように火を使うだけで汗をかくこともなく、梅雨のように湿気でベタベタすることもない。外は冷たいけれど、室内は暖房のおかげで程良く温もりがあって、静かに手を動かすのに向いた季節です。
寒いからこそ、用事が終わればあまり遠くへ出かけず、家にいる時間が増えます。買い物も、「今日はもう出たくないから、あるもので何とかしよう」と考える日が増えてくるかもしれません。この「家に籠りがちになる感じ」は、一見マイナスに思えますが、見方を変えると、じっくり台所仕事に向き合うにはぴったりのタイミングです。毎日のご飯作りだけでなく、「少し先のご飯のためのひと手間」を差し込む余白が、生まれやすいからです。
もう1つ、寒の内が仕込みに向いている理由は、空気と温度です。湿度が高い季節は、生の野菜や作り置きおかずが傷みやすくなりますが、冬は空気が乾いていて、気温も低い日が多いので、冷蔵庫や冷凍庫の力が発揮されやすくなります。ベランダに風通しの良い場所があれば、大根や人参、きのこなどを干し野菜にするのも、冬ならではの楽しみです。晴れた日の日差しと、ひんやりした風は、ゆっくりと水分を抜いてくれる、自然の乾燥機のようなもの。綺麗な空気の中で干された野菜は、ギュッと味が濃くなり、炊き込みご飯や味噌汁、炒め物の良い脇役になってくれます。
ただし、ここで大事なのは、「長く持たせるための保存食を大量に仕込むぞ」と意気込み過ぎないことです。昔ながらの保存食は、塩や砂糖、酢をたっぷり使い、道具も環境も整えた上で作られてきました。同じ感覚で家庭の台所で真似をしようとすると、どうしても衛生面や管理が難しくなります。だからこそ、寒の内の仕込みは、「数日からせいぜい数週間で、美味しいうちに食べ切ること」を前提にしておくと安心です。例えば、干し野菜なら冷蔵で1~2週間を目安に使い切る、ジンジャーシロップなら冷蔵で1~2週間、冷凍しても寒の内の間に飲み切る、といった具合に、「春まで持たせよう」と欲張らない考え方が大切になってきます。
そのためには、量も控えめにしておく方が気持ちが楽です。大根1本を全て干してしまうのではなく、今夜の煮物に使う分を取り分けて、残りの半分だけを干し野菜にしてみる。生姜も、大きな袋を一気にシロップにしてしまうのではなく、「マグカップ数杯分」を意識して小さめの瓶に仕込む。冷凍ミックス具材も、巨大な保存袋にまとめて入れるのではなく、「1回分ずつ小分けにして、寒の内の間に使い切れる個数だけ」用意してみる。そうやって、小さく始めることで、台所の負担も、賞味期限の不安もグッと減っていきます。
また、冬は気持ちの面でも、仕込みに向いている季節です。春や夏は、外の予定やイベントに意識が向きやすく、家の中の細かい工夫はどうしても後回しになりがちです。その点、寒の内は「今日は家で静かに過ごそう」と決めやすい時期。テレビや動画を流しながら、少しずつ野菜を切ったり、鍋でシロップをコトコト煮込んだりする時間は、作業そのものがちょっとした癒やしにもなります。「未来の自分のために、今の自分がここまでやった」という感覚が、寒い季節の心の支えになってくれることもあります。
賞味期限が気になる人ほど、台所のどこかにペンを1本置いておくと便利です。瓶や保存袋に日付を書いておくだけで、「これはいつの分だったかな」と迷う時間が減り、安心して使えるようになります。「寒の内に仕込んだものは、寒の内のうちに美味しく食べ切る」という自分ルールを決めておけば、無理に長期保存を目指さなくても大丈夫です。もし見た目やにおいに少しでも違和感があったら、もったいなくても無理をしない。その「もったいない」は、次の仕込みを少し少なめにするための、優しい学びとして受け取るくらいでちょうど良いのかもしれません。
寒の内は、台所が一年で一番「静かな働き者」になれる季節です。毎日のご飯を作るついでに、ほんの少しだけ未来の自分のための仕事を足してあげる。その積み重ねが、2月や3月の忙しい日々をそっと支えてくれます。次の章では、そんな仕込みの中でも手軽に始めやすい干し野菜や、冬の光と風を生かした優しい常備菜について、もう少し具体的にイメージしていきます。
第2章…干し野菜と簡単おかずのストック~冬の光と風で作る優しい常備菜~
寒の内の晴れた日は、キリッとした冷たい空気と、透き通るような青空が広がります。洗濯物がよく乾く日でもありますが、同じように「野菜も気持ちよく乾く日」でもあります。ベランダや軒先に、薄く切った大根や人参、きのこを並べておくと、冬の光と風がゆっくりと水分を抜いてくれて、味の濃い干し野菜へと育ててくれます。わざわざ立派な干し網を用意しなくても、最初は小さなザルや、目の細かいネットなどで充分です。「今日の晴れ間を、ちょっと台所に分けてもらう」くらいの気持ちで始めてみると、ハードルがグッと下がります。
干し野菜に向いているのは、大根、人参、ごぼう、れんこん、しめじや舞茸といった「元々、煮物や炒め物でよく使う仲間たち」です。大根は短冊や銀杏切りにして、キッチンペーパーで表面の水気を軽く拭き取り、ザルに重ならないように並べます。人参も同じように薄切りにしておくと、火の通りが早くなり、後で味噌汁やスープに入れる時に便利です。きのこは石づきを落として、小房に分けておきます。後は、日当たりと風通しの良い場所に半日から1日ほど置いておけば、表面が少しシワっとして、水気が抜けてきます。
ここで大事なのは、「カラカラになるまで完璧に乾かそう」と頑張り過ぎないことです。家庭のベランダや室内干しで、専門店のような本格的な乾物を目指すと、どうしても時間も手間もかかってしまいます。寒の内の仕込みでは、「生よりも少し水分が抜けて、味がギュッとなったセミドライ野菜」をイメージしておいた方が、暮らしに取り入れやすくなります。表面がしっとりから少し乾いたくらいの状態で取り込み、保存容器や清潔な保存袋に入れて、冷蔵庫で休ませてあげましょう。
干し野菜の良さは、調理するときにジワッと違いが分かるところにあります。例えば、軽く乾かした大根と人参を使って味噌汁を作ると、生のままの時よりも、出汁の沁み込みが早くなり、少ない調味料でも「しっかり味」の一杯になります。油揚げやわかめと一緒に煮れば、それだけで立派なおかずスープです。きのこを炒め物に加えれば、香りが濃くなり、「あれ、同じ材料なのにいつもより美味しい」と感じることも多いはずです。少しだけ水分が抜けた分、歯ざわりにも心地良い弾力が出て、冬の食卓にホッとする噛み心地を添えてくれます。
ただ、どれだけ美味しくても、いつまでも冷蔵庫の中に置いておけるわけではありません。家庭で作る干し野菜は、塩や酢でしっかり保存処理をしたものとは違い、「寒の内の間に、おいしく食べ切るためのストック」と考えておいた方が安心です。目安としては、冷蔵庫でおよそ1週間から2週間くらい。容器に入れる時は、日付を書いたマスキングテープやラベルを貼っておくと、「これはいつの仕込みだったかな」と迷わずに済みます。開けた時に酸っぱいような変な臭いがしたり、糸を引くような違和感があったり、見た目にカビっぽい斑点が見えた時は、もったいなくても無理をしないことが一番大切です。次に仕込む時に、量を少し減らしてみれば、それが「自分の家に合った分量」を探すヒントになります。
干し野菜を使った簡単おかずとしては、冬らしい小鉢がいくつも浮かびます。薄く干した大根と人参をごま油でサッと炒めて、醤油とみりんを少しだけ加えれば、即席のきんぴら風おかずの出来上がり。ひじきや油揚げを足せば、白いご飯にもよく合う常備菜になります。軽く干したきのこは、バターと醤油で炒めるだけで立派な一皿ですし、ベーコンやソーセージを少し足してスープにすれば、朝ご飯にも晩ご飯にも行き先のある便利な一品になります。ポイントは、「干し野菜そのものを主役にしよう」と気負い過ぎず、いつもの料理にひと握り足してみるところから始めることです。
また、干し野菜そのものだけでなく、「ついでに作る小さなストックおかず」も、寒の内の台所にはよく似合います。例えば、夕方の煮物や鍋の準備のついでに、にんにくや生姜を刻んで、油でゆっくり火を通しておく。それを清潔な瓶に入れて冷蔵庫にしまっておけば、翌日以降の炒め物やスープのベースとして、さっと使えます。細かく刻んだ小ねぎを保存容器に入れておくだけでも、味噌汁やうどん、卵焼きの「最後のひとふり」が簡単になります。「干し野菜+刻みねぎ+生姜オイル」のように、いくつかのミニストックが台所の中に点在していると、手間をかけずに手作り感のあるご飯を用意しやすくなります。
寒の内の仕込みは、台所をノルマの場にするためではなく、「暮らしの中に、ちょっとした余裕を貯めておく」ための小さな遊び場です。干し野菜作りも、最初から完璧を目指さなくて構いません。大根数切れ、人参数枚、きのこひと掴み。そんな小さな量から冬の光と風に預けてみて、「思ったより簡単だった」「このくらいがうちにはちょうどいい」と、自分のペースを見つけていけば良いのです。
次の章では、干し野菜と並んで寒の内にぴったりな、ジンジャーシロップや小さな瓶詰めたちの世界を覗いていきます。カップ1杯の温かい飲み物や、ひと匙のソースが、どれだけ心と体をほぐしてくれるのか。そんな「冬のちょい足しの魔法」を、ゆっくり味わっていきましょう。
第3章…ジンジャーシロップと瓶詰めたち~温まる一杯と“ちょい足し”の魔法~
寒の内の台所で、もう1つ心強い味方になってくれるのが、ジンジャーシロップを中心とした小さな瓶詰めたちです。干し野菜が「ご飯のおかず係」だとしたら、こちらは「ひと息つく飲みもの係」や「味に奥行きを足す隠し味係」。どれも大掛かりな保存食ではなく、寒い間に美味しく使い切ることを前提にした、ささやかなストックです。冷蔵庫を開けた時、小さな瓶がいくつか並んでいるだけで、「今日はどれを使おうかな」と、台所に立つ気分が少し明るくなります。
ジンジャーシロップ作りは、難しそうに見えて意外と単純です。生姜の皮をよく洗い、スプーンで薄くこそげ取ってから、薄切りか細切りにします。後は、同じくらいの量の砂糖と一緒に鍋へ入れ、浸る程度の水を足して、弱火でコトコト煮るだけ。沸いてきたらアクを取りながら、香りが立ち、少しトロミが出てくるまで火にかけます。レモンを少しだけ絞り入れると、爽やかさと保存性がほんの少し増して、一気に「冬の飲み物のベース」という顔付きになります。火を止めて粗熱を取り、清潔な瓶に移して冷蔵庫へ。これで、寒い日のお楽しみが1つ完成です。
出来上がったジンジャーシロップは、お湯で割れば、体の芯から温まるホットドリンクになります。蜂蜜を少し足すと喉にやさしい甘さになり、レモンスライスを浮かべれば、冬の夜のちょっとしたご褒美。炭酸水で割れば、大人も子どもも楽しめるジンジャーエール風になりますし、紅茶に少し垂らせば、いつもの一杯が「ジンジャーティー」に変身します。朝ご飯に添えたり、お風呂上がりの一杯にしたり、「今日はどのタイミングで飲もうかな」と考える時間もまた、寒い季節ならではの楽しみです。
とはいえ、家庭で作るシロップは、どうしても保存できる期間に限りがあります。砂糖をしっかり使い、いったん加熱してから冷蔵していれば、数日で傷むことはそうそうありませんが、「寒の内の間に飲み切る」くらいの気持ちで仕込むのが安心です。量としては、小ぶりの瓶に1つか2つくらいがちょうど良いところ。瓶の側面に日付を書いたテープを貼っておき、「この冬の間に楽しめる分だけ」を目安にしておけば、無理なく飲み切ることが出来ます。蓋を開けた時に、いつもと違う酸っぱい臭いがしたり、ドロッとした違和感があれば、その時は無理をしない。もったいなく感じても、「次はもう少し少なめに作ろう」という学びに変えてしまった方が、安全で優しい選択です。
ジンジャーシロップと並んで、寒の内に仕込んでおくと便利なのが、「ちょっと足すだけで味が決まる」瓶詰めたちです。例えば、刻んだにんにくと生姜を、ゆっくり火を通した油ごと瓶に入れたもの。スプーンひと匙を鍋に落とせば、野菜炒めもスープも一気に本格的な香りになります。刻んだ玉ねぎを酢と油と少しの塩で和えた簡単ドレッシング風も、サラダはもちろん、冷奴や蒸し鶏にかけるだけで満足度がグッと増します。味噌に少しの砂糖とみりん、ごま油と刻みねぎを混ぜた「甘辛味噌ダレ」は、焼きおにぎりにも、熱々の豆腐や蒸し野菜にも相性の良い万能選手です。
これらの瓶詰めも、やはり長持ちを狙い過ぎないのがコツです。数か月保存する前提の本格レシピとは違い、「今週と来週のご飯を少し楽にするための助っ人」として仕込んでおくイメージに留めます。冷蔵庫で過ごす期間の目安は、だいたい一週間から二週間ほど。少しでも不安を感じたら、匂いや見た目をよく確認し、違和感があればそこで使うのを辞める。そうやって、自分の家の冷蔵庫の癖や、使い切れるペースを掴んでいくと、「この量ならちょうど良かった」という感覚が自然と身についてきます。
ジンジャーシロップや小さな瓶詰めを作る時間は、忙しい日々の中で、ちょっとした「手作業のひと休み」にもなります。材料を刻む音、鍋でコトコト煮える音、立ち昇る香り。どれも、スマートフォンやパソコンの前では味わえない、台所ならではの小さな気分転換です。「体を温めるために」と思って始めたはずが、気がつけば心もフッとほどけていることも少なくありません。
何より、この章で大事にしたいのは、「凝った保存食を作らなければ」と自分を追い込まないことです。大きな瓶を棚にズラリと並べるのではなく、小さな瓶に少しずつ。ジンジャーシロップが1つ、生姜やにんにくのオイルが1つ、甘辛味噌ダレが1つ。それだけでも、寒い日のご飯やお茶の時間はグッと豊かになります。「今日は何を足そうかな」と瓶を選ぶその瞬間が、未来の自分に向けて用意しておいた優しい贈り物なのだと思えたら、寒の内の台所はもう立派な楽しみの場所です。
次の章では、ジンジャーシロップや瓶詰めたちと並んで、日々のご飯作りを軽くしてくれる「冷凍ミックス具材」のことを考えていきます。冷凍庫の引き出しを開けた時に、鍋やスープ、炒め物にすぐ使える野菜の袋が1つ見えるだけで、平日の夜がどれほど救われるのか。その具体的なイメージを、寒の内の台所から覗いてみましょう。
第4章…冷凍ミックス具材で平日のご飯を軽くする「未来の味方」計画
干し野菜やジンジャーシロップが、寒の内のゆったりした時間の中でジワジワ効いてくる「影の立役者」だとしたら、冷凍ミックス具材は、平日の夕方に頼りになる「即戦力メンバー」です。仕事や家事を終えて家に戻り、コートを脱いでため息をついた時、冷凍庫の引き出しを開けたら、鍋用・スープ用・炒め物用のミックス具材がひと袋ずつ並んでいる。そんな状況をイメージするだけで、「あ、今日の夜ご飯も、何とかなるかも」という小さな安心が生まれます。寒の内に少しだけ頑張っておけば、2月や3月の平日がフッと軽くなる。その橋渡し役をしてくれるのが、この章の主役です。
冷凍ミックス具材といっても、特別なことは殆どありません。いつもの野菜を、いつものように切って、まとめて冷凍するだけです。例えば、鍋や味噌汁に向くのは、大根、人参、長ねぎ、白菜、しめじや舞茸など。これらを一口大に切り、しっかり水気を切ってから、薄めに平らにして保存袋に入れます。袋の外から軽くもんで、具材がくっつき過ぎないようにしておくと、凍った後に必要な分だけパキッと割って使いやすくなります。炒め物用なら、ピーマン、玉ねぎ、人参、きのこなどを少し細めの短冊切りにしておくと、フライパンに直接あけて、そのまま強火で炒めるだけで色とりどりの一皿になります。
ここでも大事なのは、「少量を小分けにしておく」という考え方です。大きな保存袋にどっさり詰め込むと、どうしても塊になってしまい、「一度に全部使い切らないといけない」プレッシャーが生まれてしまいます。そうではなく、1回分ずつを薄く平らにして小さめの袋に分けたり、製氷皿やカップ型のトレーに入れて凍らせ、後から保存袋にまとめて移したりすると、「今日は鍋の追加に1かけ分」「スープに半分だけ」と、気分や人数に合わせて柔軟に使えます。これなら、一人暮らしでも家族暮らしでも、負担になり難い形で冷凍庫に常備することが出来ます。
冷凍ミックス具材の強みは、「とにかく火にかければ形になる」ところにあります。鍋用ミックスなら、出汁と一緒に鍋に入れて少し煮込めば、それだけで野菜たっぷりのスープや鍋のベースが完成します。味噌を溶けば具だくさん味噌汁に、醤油と味醂を足せば簡単煮物風に、トマト缶を加えればミネストローネ風にと、味付けのバリエーションも豊富です。炒め物用ミックスは、油を引いたフライパンにそのままあけて、肉やソーセージを少し足し、塩こしょうと醤油、オイスターソースなどをサッと絡めるだけで、ご飯にもパンにも合うメインおかずになります。「冷蔵庫の野菜が少し心もとないな」と感じる日ほど、冷凍庫の奥にあるミックス具材が心強く見えてくるものです。
とはいえ、冷凍だからといって、無限に持つわけではありません。家庭の冷凍庫は、扉の開け閉めや霜の付き方によって温度が変わりやすいため、「理論上は数か月大丈夫」と考えるよりも、「美味しく食べ切れる期間」を基準にした方が安心です。野菜だけのミックスなら、凡そ1か月くらいを目安に。肉や魚を一緒に入れたミックスは、元々の賞味期限も考慮して、2~3週間くらいで使い切るつもりでいると良いでしょう。袋には、作った日付と大まかな中身(鍋用・炒め物用など)を書いておくと、後から冷凍庫を開けた時に迷わず手に取れます。霜がたくさん付いていたり、解凍した時に明らかに色や臭いがおかしかったりしたら、その時はもったいなくても無理をしないこと。その経験が、「次は少し量を減らそう」「もう少し細かく小分けにしよう」という改善ポイントを教えてくれます。
冷凍ミックス具材を仕込むタイミングとしては、野菜が中途半端に余った時や、葉物が安く手に入った時が狙い目です。大根の下の方だけ余った、人参が1本だけ残っている、白菜を丸ごと買ったけれど数日で使い切る自信がない。そんな時、「とりあえず野菜室に押し込んでおく」のではなく、「一度まな板の上に全部並べて、切ってミックス冷凍にしてしまう」という選択肢を持っておくと、後々の自分を助けることになります。寒の内は外が冷えている分、室内作業に向いた日も多く、「今日は野菜の整理の日」と決めて、冷蔵庫と冷凍庫を整えるにはうってつけの季節です。
冷凍ミックス具材は、物理的に体を助けるだけでなく、心の負担も軽くしてくれます。「今日の夜、何作ろう」と考える時、「冷凍庫にあのミックスがあったな」と思い出せるかどうかで、気持ちの重さは大きく違います。たとえそれが1袋きりでも、「最悪あれを鍋に放り込めば何とかなる」という保険があるだけで、日中の疲れ方も少し変わってきます。未来の自分は、その日の体調や仕事の状況によって、頑張れる日もあれば、どうしても力が出ない日もあるはずです。そんな時、「寒の内のあの時の自分」が仕込んでくれたミックス具材が、そっと背中を押してくれるのだと思えば、今、包丁を持つ手にも少し力が入ります。
こうして見てくると、冷凍ミックス具材は、立派な料理スキルというより、「自分の暮らしを軽くするための小さな仕組み」の1つだということが分かります。完璧なレシピ通りに作る必要はありませんし、中身の組み合わせも、その家の好みやいつもの食卓に合わせて、少しずつ変えていけば良いのです。「うちの定番は、大根・人参・きのこ・ねぎの鍋ミックス」「うちの子どもはコーンが好きだから、炒め物ミックスには必ず入れておく」など、家ごとのスタイルが育ってくると、冷凍庫そのものがオリジナルのストック棚になっていきます。
寒の内の間に、干し野菜やジンジャーシロップ、小さな瓶詰め、冷凍ミックス具材と、いくつかの「未来の味方」を台所に増やしておく。そうすると、春に向かう頃、平日のご飯作りがほんの少し軽く感じられるはずです。次のまとめでは、ここまでの仕込みたちをもう一度振り返りながら、「今の自分が未来の自分にしてあげられること」を、寒の内という季節から優しく見つめ直していきます。
[広告]まとめ…寒の内に少しだけ仕込んでおくと春の自分がそっと救われる
寒の内というと、「1年で一番寒くてつらい時期」というイメージが先に立ちがちです。外は冷たい風が吹き、夕方も早く暗くなり、気持ちまで縮こまってしまうように感じる日もあります。でも、視点を少し変えてみると、この時期は「家の中で静かに整えること」に向いた、特別な1か月でもあります。慌ただしい年末と、新しい年度に向けて動き出す春の間にある、小さなクッションのような時間。その真ん中にあるのが、台所での「仕込み」という過ごし方でした。
第1章では、寒の内の台所がなぜ「仕込み日和」なのかを改めて見つめました。外に出る機会が減り、家で過ごす時間が少し増えること。空気が乾いていて、冷蔵庫や冷凍庫の力が発揮されやすいこと。そして何より、気持ちの上でも「今日は家で静かに過ごそう」と決めやすい時期であること。大掛かりな保存食を目指すのではなく、「寒の内のうちに美味しく食べ切る量」を、未来の自分に残しておく。そのくらいの距離感が、今の暮らしにはちょうど良いのかもしれません。
第2章では、冬の光と風を味方にした干し野菜と、そこから生まれる簡単おかずのストックに目を向けました。大根や人参、きのこをごく普通に切って、ベランダや窓辺で少しだけ乾かす。完全な乾物ではなく、生よりも少し水分が抜けた「セミドライ」の状態に留めて、冷蔵庫で1~2週間ほどの間で食べ切る。その干し野菜を、味噌汁や炒め物にひと握り足すだけで、味わいに深みと噛み応えが加わり、「いつもの一品」が冬仕様に育っていきます。完璧を目指さず、大根数切れ、人参数枚から始められる気軽さも、寒の内の仕込みにピッタリでした。
第3章では、ジンジャーシロップと小さな瓶詰めたちを紹介しました。生姜と砂糖と水を鍋に入れて、ことこと煮込むシロップは、寒い日のホットドリンクや、炭酸割りのジンジャーエール、温かい紅茶のアクセントとして、1日を何度も支えてくれる存在です。そこに、刻んだにんにくと生姜のオイル、玉ねぎの簡単ドレッシング、甘辛味噌ダレなどの「ちょい足し瓶」が加わると、台所に立つたびに「今日はどれを使おうかな」と選ぶ楽しみが生まれます。どの瓶も、寒の内のあいだに無理なく使い切れる量に留め、「怪しいと感じたら無理をしない」というルールを添えることで、安全と安心のバランスを保つことが出来ます。
第4章では、平日のご飯をグッと軽くしてくれる冷凍ミックス具材に焦点を当てました。鍋用の野菜ミックス、炒め物用ミックスを、1回分ずつ小分けにして冷凍庫に並べておく。家に帰って冷凍庫を開けた時、「最悪これを鍋に入れれば何とかなる」という保険があるだけで、夜の負担は目に見えて変わります。冷凍だからといって安心し切るのではなく、野菜だけのミックスは凡そ1か月、肉や魚入りは2~3週間ほどを目安に使い切る。袋に日付と中身を書き込んで、見た目や臭いに違和感を覚えたら、その経験を次の仕込み量の調整に活かしていく。そんな「ちょっと慎重なくらいの距離感」が、家庭の冷凍庫にはお似合いです。
こうして振り返ると、寒の内の仕込みは決して特別な技術ではなく、「今の自分が、少し先の自分を助けてあげるための小さな工夫」の積み重ねだということが分かります。干し野菜は、平日の味噌汁や炒め物をそっと底上げしてくれる係。ジンジャーシロップや瓶詰めたちは、体と心を温める一杯やひと匙を担当する係。冷凍ミックス具材は、「今日は疲れたな」と感じた日の夕方に、黙って支えてくれる係。それぞれの役割が台所のあちこちに散らばっていると、暮らし全体が少しだけ軽く、少しだけ優しくなっていきます。
大事なのは、「やらなきゃ」と自分を追い込まず、「出来そうな日だけ、出来そうな分だけ」手を動かすことです。天気の良い日に干し野菜を少しだけ作ってみる。気が向いた夜にジンジャーシロップを一鍋分だけ煮てみる。野菜が余った週末に、冷凍ミックス具材を2袋だけ仕込んでみる。それだけでも、数週間後の自分は確かに助けられています。冷蔵庫や冷凍庫の中に、「寒の内の自分からのプレゼント」が点々と隠れていると思えると、家に帰るのが少し楽しみになってくるはずです。
寒の内は、「ただ寒さに耐える時期」から、「未来の自分への贈り物を用意する時期」に変えることが出来ます。春に向かう頃、「あの時、少し頑張っておいて良かったな」と、鍋の湯気の向こうでふっと笑える瞬間がきっとやって来ます。今日の自分が、数日後、数週間後の自分の味方になる。その切っ掛けとして、今年の寒の内は、台所での小さな仕込み時間をそっと暮らしに組み込んでみてはいかがでしょうか。
今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m
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