お正月のお餅と赤ちゃんの縁起ご飯~一升餅とお食い初めの話~
目次
はじめに…お正月と赤ちゃんの「縁起ご飯」をもう一度見直す
冬の朝、ストーブの上でプクッと膨らむお餅の匂いは、どこか子どもの頃の記憶と繋がっています。お雑煮、焼き餅、きなこ餅……。お正月の食卓にお餅が並ぶと、「今年も一年が始まったなあ」と、少し背筋がしゃんとする方も多いのではないでしょうか。その輪の中に、まだ離乳食の途中だったり、ようやく掴まり立ちを覚えたばかりの赤ちゃんがちょこんと座っていると、それだけで場がふんわり明るくなります。
けれど、大人にとっては馴染み深いお餅も、赤ちゃんにとっては少し話が別です。軟らかくて美味しいのに、粘りが強くて喉に残りやすいお餅は、小さな子どもにはまだまだ危険な食べ物でもあります。だからこそ、昔の人たちは「赤ちゃんには無理に食べさせない代わりに、特別なお膳やお餅の儀式を通して、食にまつわる願いをたっぷり込めてきた」のだと考えられます。その代表が、生後100日前後の「お食い初め」と、満1歳ごろの「一升餅」のお祝いです。
一升餅というと、「お正月の行事だったよね?」というイメージをお持ちの方もいるかもしれません。実は本来は初誕生のお祝いですが、数え年で年を重ねていた時代には、お正月と誕生日の感覚が今よりずっと近く、親戚も集まりやすいことから、お正月の賑わいの中で一緒に行う家も少なくありませんでした。赤ちゃん専用の祝い膳であるお食い初め膳も、塗りのお膳や尾頭付きの魚、赤飯など、まるで小さなお正月料理のような顔触れです。こうして「赤ちゃんの縁起ご飯」と「お正月らしさ」は、自然と重なり合ってきました。
この文章では、お正月のお餅の意味を辿りながら、赤ちゃんのための縁起ご飯であるお食い初め膳、一生の願いを背中に背負う一升餅のお祝い、そして「お餅は何歳頃から食べさせてもよいのか」という素朴な疑問まで、順番に紐解いていきます。これから赤ちゃんを迎えるご家庭はもちろん、孫のお祝いを楽しみにしているお爺ちゃん・お婆ちゃん、仕事でご家族の行事に寄り添う介護職や福祉職の方にも、「なるほど、こういう意味があったのか」と感じてもらえるように、昔ながらの知恵と現代の安全への配慮を、優しく繋げていきたいと思います。
[広告]第1章…お正月のお餅と鏡餅~家族を守る白くて丸い縁起物~
お正月になると、卓袱台やリビングのローテーブルに、白くて丸いお餅がチョコンと乗った台を飾る家は今でも少なくありません。紅白の紙、緑の葉、みかん、扇や干支の飾り……。その真ん中にどん、と構えるのが鏡餅です。子どもの頃は「何だか可愛い形のお餅」くらいにしか思っていなかった物が、大人になってから改めて見てみると、「家族を守るお守り」のようにも感じられてきます。
そもそもお餅は、昔から特別な日にだけ登場する「ハレの日のご馳走」でした。お米そのものが田んぼの神様の力を宿すと考えられていて、そのお米をついて、まとめて、弾力のある一つの塊にしたものが餅です。白くて丸い形には、「心を丸く」「角を立てず」「清らかに」という願いも重ねられてきました。普段はご飯として食べているお米を、わざわざ時間と手間を掛けて突き直すこと自体が、「今日は特別な日ですよ」という合図でもあります。
鏡餅の「鏡」は、昔の青銅製の丸い鏡の形からきていると言われます。丸い鏡は、光を跳ね返し、悪いものを寄せつけない力があると考えられていました。その形を白いお餅でかたどり、上下二段に重ねて飾ることで、「去年まで」と「これからの一年」を重ね合わせ、家族の歴史と未来を繋ぐという意味も込められています。上に乗せる橙は、「代々(だいだい)続く」に通じ、家が長く続くようにという願いを象徴する存在です。
お正月は、年の神様が各家庭にやってくると考えられてきた時期でもあります。家の中を綺麗に掃除し、玄関に飾りを下げ、家族が揃って新しい年を迎える準備を整えるのは、その神様をお迎えするためです。鏡餅は、その神様へのお供えであり、家の大黒柱のような場所にドンと座って、一年間の無事と豊作、健康を願う役目を担っています。
そして、お正月が過ぎてしばらくした頃に迎える鏡開きでは、その鏡餅を割って、皆でいただきます。「切る」「割る」というと縁起が悪く聞こえるため、「開く」と言い替えてきたとも言われます。お供えしたお餅を食べることは、年の神様の力を分けてもらう行為とされており、このお餅を食べることで「一年を元気に過ごせますように」と願いを体の中に取り込む意味がありました。お汁粉やお雑煮、揚げ餅など、家庭それぞれの味があるのもまた楽しいところです。
こうして見てみると、お正月のお餅は、ただの炭水化物ではなく、「神様と家族を繋ぐ媒介」であり、「願いを目に見える形にしたもの」でもあります。だからこそ、赤ちゃんの成長を祝う場面でも、お米やお餅が主役級の立場を譲らずに登場してくるのでしょう。まだ歯も生え揃っていない小さな子どもに無理やり食べさせるのではなく、「形」と「儀式」を通して願いを託してきた先人たちの知恵は、現代の私たちにとっても学ぶところが多いように思います。
次の章では、このお正月のお餅とよく似た雰囲気を持ちながら、実はお正月以外のタイミングで行われる「お食い初め」のお膳について、赤ちゃん専用の小さな祝い料理の意味を辿っていきます。
第2章…百日祝いのお食い初め膳~赤ちゃん専用の小さな祝い料理~
お正月の鏡餅が「家全体」を守るお供えだとしたら、お食い初めのお膳は「一人の赤ちゃん」にスポットライトを当てた、専用のご馳走と言えます。生まれてまだ数か月の小さな体に、「これから一生、ごはんに困りませんように」という願いを、ギュッと詰め込んだのが百日祝いのお膳です。
お食い初めは、生後およそ100日から120日頃に行われる行事で、「百日祝い」「ももか祝い」「箸揃え」「歯固め」など、地域によって様々な呼び名があります。昔は乳児死亡が多かったこともあり、「100日を迎えられた」という事実そのものが、とても大きな喜びでした。そこで、まだ母乳やミルクが中心の時期ではあるけれど、敢えて立派なお膳を用意して、「この子も、もうこんなご馳走を囲めるくらい育ちましたよ」と神様やご先祖様に報告したのだと考えられています。
お食い初め膳の中身は、一汁三菜の形を整えた、昔ながらの和食です。赤飯や白いご飯には、元気に育つ力を願う思いが込められ、尾頭付きの焼き魚は「目出度い」に通じる鯛が選ばれることが多くなりました。お吸い物は「良いご縁を吸い寄せる」、煮物の根菜は「しっかり根を張って生きていく」、香の物は「ささやかな日常の味わいを大切にする」といった具合に、ひと皿ごとに小さな物語があります。赤い漆のお膳や椀、両端が細い祝い箸が並ぶ様子は、大人用のお正月料理をそのまま小さくしたようで、見ているだけでも気持ちがシャンとします。
とはいえ、主役の赤ちゃんが本当にこれらを食べるわけではありません。お膳の料理を少しずつ箸で摘まみ、赤ちゃんの口もとにそっと運んで「食べさせる真似」をするのが、この儀式の本来の姿です。ご飯➡汁物➡ご飯➡魚➡ご飯……という順番を数回繰り返したあと、「歯固めの石」に箸先を軽く当て、その箸をそっと赤ちゃんの歯茎に触れさせます。川や神社からいただいてきた小石の固さにあやかって、「歯が丈夫になりますように」「しっかりかんでご飯を楽しめますように」と願う場面です。多くの地域では、長寿の祖父母や親戚の中で一番年上の人が、この「食べさせ役」を務めることも多く、年長者の運の強さを赤ちゃんに分ける、という意味合いも重ねられています。
儀式が終わった後の料理は、集まった家族がありがたくいただきます。赤ちゃんが実際に口にするのは、せいぜいほんのひと舐め程度か、真似ごとだけで終わることも珍しくありません。それでも、きちんと膳を整え、順番に箸を運び、歯固めの石に触れる一連の流れを通して、「この子は今日から、家族と同じ食卓に招かれる存在なのだ」ということを、皆で確認する時間になっているのです。母乳やミルクだけの世界から、少しずつ「家族と食を分かち合う世界」へと橋を掛ける儀式だとも言えるでしょう。
現代では、料亭や仕出し屋さんが用意してくれるお食い初め膳、写真スタジオとセットになったプラン、自宅の和食器を総動員して手作りするスタイルなど、形はかなり自由になりました。中には、お正月とタイミングを合わせて、祖父母が集まる日に百日祝いを行い、赤ちゃん用の祝い膳と、大人のおせち料理をズラリと並べる家庭もあります。赤い漆のお膳、祝い箸、尾頭付きの魚、赤飯……。この辺りの風景が、お正月の食卓とよく似ているからこそ、「お正月の赤ちゃん用のお膳」という記憶と結びついているのかもしれません。
お食い初めは、「まだ食べられないからこそ、形として食の願いを託す」行事です。その先には、今度は本物のお餅を巡る初誕生の一升餅祝いが待っています。次の章では、この一升餅がどのようにして赤ちゃんの背中に縁起を背負わせる行事になったのか、その意味と昔ながらのやり方、そしてお正月との関係を辿っていきます。
第3章…一升餅の初誕生祝い~一生を背負うちいさな背中の物語~
生後100日頃のお食い初めが、「まだ食べられない赤ちゃんに食の願いを先取りして贈る行事」だとしたら、一升餅はその少し先、満1歳頃に行われる「これからの一生を背中に背負わせる行事」と言えるかもしれません。丸くてどっしりとしたお餅を、小さな体に敢えて預けることで、「この子がこれから歩いていく道が、どうか豊かで、食べ物に困らず、円満でありますように」と祈る時間が、一升餅の初誕生祝いです。
「一升餅」という名前には、二つの意味が掛けられています。1つは、お米をたっぷり使った「一升(いっしょう)」という量そのもの。もう1つは、「一生(いっしょう)」という言葉への願掛けです。一升分のお米を突き上げると、重さにしてだいたい1.8キロほどになります。数字で聞くと大したことがないように思えても、まだよちよち歩きの赤ちゃんにとっては、十分に「大仕事」になる重さです。その重さを敢えて背負わせることで、「これからの一生を、自分の足で歩んでいくんだよ」という、少し背伸びをしたメッセージを託してきたのでしょう。
昔ながらの一升餅のやり方では、まず一升分のお餅を丸くまとめたり、紅白の丸餅に分けたりして用意し、そこに赤ちゃんの名前や「寿」「祝」といった文字を書き入れることが多くなります。それを風呂敷や小さな布の袋に包み、赤ちゃんの背中にしょわせて立たせるのが定番の流れです。最近は、可愛い一升餅用リュックを用意する家庭も増えていて、洋風のスタジオ撮影と組み合わせるなど、見た目のバリエーションはかなり豊かになっていますが、「丸いお餅を一升分だけ用意して、背負わせる」という骨組みはあまり変わっていません。
地域によっては、背負わせる代わりに「踏み餅」として、大きなお餅の上に赤ちゃんを立たせたり、抱き餅・持たせ餅として、小さめのお餅を両手に持たせたりするところもあります。いずれも、餅そのものを食べさせる儀式ではなく、「体で餅に触れる」ことが主役になっている点が共通しています。まだまだ噛む力も飲み込む力も未熟な1歳前後であることを考えると、「背負う」「踏む」「持つ」といった形で願いを託し、本格的に食べさせるのはもう少し先に譲る、という昔の人の感覚は、現代の安全面の考え方ともじつはよく馴染みます。
一升餅というと、お正月の賑やかな雰囲気と結びついて記憶している方も多いかもしれません。本来は誕生日に行う初誕生の行事ですが、かつては数え年で年を重ねていたため、「お正月を迎えたら皆が歳を取る」という感覚が強くありました。親戚一同が集まりやすいのも、やはりお正月のタイミングです。そのため、実際の誕生日が少し前後していても、「初めて迎えるお正月」や「満1歳に近いお正月」に合わせて一升餅を行う家庭もあり、「お正月の赤ちゃん行事」の1つのように印象付けられてきた面があります。お食い初めの祝い膳が小さな正月料理のように見えることも、そのイメージを後押ししているのでしょう。
一升餅の場面では、赤ちゃんが重さに驚いてその場に座り込んでしまったり、数歩だけよちよちと歩いてみせたり、後ろにひっくり返りそうになって大人が慌てて抱き留めたりと、家族の笑い声が絶えません。「転んだ方が厄落としになる」と言う人もいれば、「転ばずにしっかり歩けた方が将来安泰だ」と言う人もいて、地域ごとの解釈は様々です。ただ、大切なのはどちらが正しいかではなく、「この子がどう育っていくのか」を、皆が温かい目で見守り、物語として語り合う切っ掛けになっていることではないでしょうか。
現代では、一升餅と一緒に、将来の職業や得意分野を占う「選び取り」を組み合わせる家庭も増えています。そろばんや筆、本、ボール、おたまなど、意味を持たせた道具をいくつか並べておき、赤ちゃんがどれを手に取るかで「この子はこういう道に進むかもしれないね」と盛り上がる遊びです。一升餅で「一生の歩み」を祝い、選び取りで「これからの未来」を想像する。そんな風に、昔ながらの儀式は、時代に合わせて少しずつ装いを変えながらも、「食」と「人生」を重ね合わせるという本質的な部分を受け継いでいます。
ただし、ここで忘れてはいけないのが、「一升餅の主役は、あくまで背負う・触れるという体験であって、食べることではない」という点です。儀式の後にお餅を小さく切り分けて、大人や兄弟がありがたくいただくのはもちろん良いことですが、当の1歳児に本格的に餅を食べさせるのは、やはり時期尚早と言わざるを得ません。お餅は美味しいけれど、粘りが強くて喉に詰まりやすい食べ物でもあります。だからこそ、一升餅の段階では「形としての餅」を大事にし、本当に口から味わうのは、もう少し成長してからの楽しみにとっておく方が安心です。
次の章では、「では具体的に、お餅は何歳頃からなら安心して食べさせられるのか」という、子育て世代の一番気になる疑問について、赤ちゃんや幼児の発達の段階、大人の見守り方と合わせて、丁寧に考えていきます。お正月のお餅と初誕生のお餅を、家族全員が笑顔で囲むために、知っておきたいポイントを整理していきましょう。
第4章…お餅は何歳から食べて良い?赤ちゃんと幼児の安全な付き合い方
ここまで読んでくださった方が、きっと一番気になっているのが、「では、実際にお餅を口に入れていいのは何歳からなの?」というところだと思います。お食い初めのお膳も、一升餅の儀式も、主役はあくまで「形」と「願い」であって、赤ちゃん自身はほとんど食べていません。とはいえ、家族全員でお雑煮や焼き餅を囲んでいると、隣でニコニコしている幼い子にも、つい「少しくらいなら」と分けてあげたくなってしまうものです。
まず押さえておきたいのは、お餅が「窒息しやすい食品の代表格」であるという事実です。粘り気がとても強く、唾液を吸うとさらに飲み込みづらくなり、よく噛まないまま飲み込もうとすると、喉や気道に張り付いてしまうことがあります。日本小児科学会なども、餅やパン、ご飯などの粘着性の高い食品は、子どもの窒息事故の原因になりやすいと、繰り返し注意を呼びかけています。
一方で、「お餅は3歳から」といった言い方もよく耳にします。実際、育児サイトや小児科医の解説でも、「目安としては3歳頃から」と紹介されることが多いのは事実です。ただし、その多くが「3歳だから自動的に安全になるわけではない」と続けており、年齢の数字よりも、歯の生え方や噛む力、食べる時のお行儀など、その子どもの発達段階を重視する姿勢を示しています。
例えば、目安にされやすいポイントとして、乳歯がしっかり生え揃っていることが挙げられます。前歯だけでなく、奥歯も生えてきて、ある程度、固い物を噛み砕けるようになっているかどうかは、お餅との付き合いを考える上で大切な材料になります。また、「よく噛んでね」「一口ずつゆっくり食べようね」といった大人の声掛けを理解し、それを守ろうとする姿勢が見られるかどうかも重要です。まだまだ食事中に立ち上がったり、口に物を入れたまましゃべったりしてしまう年頃であれば、お餅はもう少し先送りにした方が安心だと言えるでしょう。
食事の場の雰囲気も、安全に大きく関わってきます。お正月は親戚が集まり、テレビも点きっ放しで、いつも以上に賑やかになりがちです。そんな時に、まだお餅の経験が浅い小さな子どもに、誰かが気まぐれに大きめの一口を渡してしまうと、周りの大人の目が届かず、危険が増してしまいます。実際に、家庭内での窒息事故の報告には、「周囲が盛り上がっている間に」「大人がよそ見している隙に」といった状況が少なくありません。
では、実際にお餅を食べさせることになった場合、どんな点に気をつければ良いのでしょうか。まず、ひと口の量を小さくすることは欠かせません。薄めに切って、さらに短冊状や角切りにし、汁物で軟らかくしてから出すと、喉に貼り付くリスクをいくらか減らせます。それでも、「よく噛んで、飲み込むまで次の一口を渡さない」「食べている間は大人が正面でしっかり見守る」といった基本は手放せません。立ったまま、歩きながら、遊びながら、お餅を口に入れさせないことも徹底したいところです。
年齢の目安を少し整理してみると、0歳から2歳頃までは、やはり「餅は形だけ」で十分な時期だと言えます。一升餅で背中にしょったり、小さく切った餅を手に持たせたりといった体験で、「これは特別な食べ物なんだ」と雰囲気だけ味わってもらえばよく、実際に口へ運ぶのはグッと堪えて、大人たちがありがたくいただく側に回りたいところです。3歳前後になり、歯や噛む力、食事のマナーがある程度安定してきたら、「条件が揃った場面で、ほんの少しだけ」を検討しても良いかもしれません。それでも、まだまだ窒息リスクは残る年代なので、「今回は見送る」という判断があってもまったくおかしくありません。
4歳、5歳と成長していけば、お餅を楽しめる場面も少しずつ増えていきますが、「もう小学生だから大丈夫」と油断するのは禁物です。丸飲みの癖があったり、早食いになりがちな子は、年齢に関係なく危険度が高くなりますし、体調が悪い日や極端に眠そうな時も、飲み込みの力が落ちます。大き過ぎる一口を止めてあげること、食卓ではきちんと座って食べること、食べ終わるまで遊びと食事を混ぜないこと。どれも当たり前のようですが、実は窒息事故を防ぐための重要な習慣です。
そして忘れてはいけないのが、お餅は子どもだけでなく、高齢者にとっても危険な食べ物だという点です。東京消防庁のまとめでは、餅などを喉に詰まらせて救急搬送される人の多くが、65歳以上の高齢者であると報告されています。噛む力や飲み込む力が落ち、入れ歯が合わないまま食事をしていたり、持病の影響で反応が遅くなっていたりすると、ほんのひと口のお餅でも命に関わることがあります。子どもと同じように、ひと口を小さくする、汁物に入れてやわらかくする、食事中は傍で様子を見るといった配慮が、高齢の家族にはいっそう大切になってきます。
お餅は、日本のお正月の象徴であり、家族の歴史と願いがギュッと詰まった食べ物です。その一方で、扱い方を誤れば、大切な命を脅かすことにも繋がります。だからこそ、赤ちゃんや幼児の時期には、「儀式としての餅」「形としての餅」をたっぷり味わい、実際に口から味わう楽しみは、その子の成長に合わせて少しずつ解禁していくのが賢いやり方なのだと思います。次の「まとめ」では、お正月のお餅、お食い初め膳、一升餅という三つの場面を振り返りながら、赤ちゃんの一年と家族の世代を繋ぐ「縁起ご飯」の楽しみ方をもう一度整理していきます。
[広告]まとめ…赤ちゃんの一年を「食の儀式」で優しくお祝いするために
お正月の食卓に並ぶお餅やおせち料理は、単なるご馳走ではなく、「家族で新しい一年を迎える」という気持ちを目に見える形にしたものです。その輪の中で、生まれて間もない赤ちゃんがチョコンと座っている姿は、それだけで頼もしく、どこか神聖なものさえ感じさせます。ただ、赤ちゃんの体や口の機能はまだまだ未熟で、大人と同じようにお餅を頬張るわけにはいきません。だからこそ、昔の人たちは「食べさせる」のではなく「形で願いを込める」知恵を、いくつもの儀式として残してきました。
百日祝いのお食い初め膳は、その最初の一歩です。赤い漆のお膳に、ご飯、尾頭付きの魚、汁物、煮物、香の物を丁寧に並べ、赤ちゃんの口もとへ箸を運ぶしぐさを繰り返す。ほんの一口も食べないとしても、「これからこの子は、家族と同じ食卓に招かれていくんだよ」という宣言のような時間になります。歯固めの石に長寿の願いを託し、「しっかり噛んで生きていけますように」と祈る場面は、今の時代に見ても胸が温かくなる瞬間です。
そこから少し時が流れると、一升餅の初誕生祝いが待っています。一升分の丸いお餅を風呂敷や小さなリュックに入れて、まだあどけない背中にそっと背負わせる光景は、「一生」という言葉をそのまま形にしたようにも見えます。よちよちと数歩踏み出す子、重さに驚いてその場に座り込んでしまう子、今にも後ろにひっくり返りそうで大人が慌てて支える子。どんな姿も、その子らしい物語です。本来は誕生日の行事でありながら、親戚が集まりやすいお正月と組み合わせて行われてきた歴史もあり、「お正月の赤ちゃん行事」として記憶に残っている方も多いでしょう。
一方で、お餅そのものは、小さな子どもや高齢者にとって、扱いを誤れば命に関わることもある食べ物です。粘りが強く、飲み込みづらい性質を持つため、幼い子にはまだ早い場面が多くなります。実際に口に入れるのは、歯や噛む力がしっかりしているか、よく噛む習慣がついているか、座って落ち着いて食べられるかなど、その子の様子を総合的に見ながら、慎重にタイミングを選んでいく必要があります。お正月の賑やかさに押されて「まあ、少しくらい」と妥協するのではなく、「今年はまだ雰囲気だけ」「来年は一口だけ」など、その子のペースに合わせてゆっくり付き合っていくことが大切です。
赤ちゃんの一年を振り返ると、生まれて間もないころの百日祝い、掴まり立ちやあんよが始まる頃の一升餅、そして少し大きくなってからのお雑煮デビューと、「食」にまつわる節目がいくつも現れます。そのどれもが、家族にとっては写真に残したくなるような特別な日であり、介護や福祉の現場で赤ちゃん世代と高齢世代が一緒に過ごす場面では、世代を繋ぐ話題にもなります。「あなたも昔は一升餅を背負ったのかもしれませんね」「お子さんやお孫さんの百日祝いはどんなお膳でしたか」といった会話は、高齢者の表情をフッとゆるめてくれる小さな切っ掛けになるはずです。
お正月のお餅、お食い初め膳、一升餅という三つの場面は、それぞれ対象も時期も少しずつ違いますが、根っこに流れているものは同じです。「この子が健やかに育ちますように」「家族全員が食べ物に恵まれますように」「今年も無事に一年を重ねていけますように」という、静かで力強い願いです。昔ながらのしきたりをそのままなぞる必要はありませんが、その意味を知った上で、今の暮らしに合った形にアレンジしていけば、赤ちゃんにとっても高齢の家族にとっても、心に残るお正月と一年のスタートを用意してあげられるのではないでしょうか。
これから赤ちゃんとのお正月やお祝いごとを迎える方は、「どの儀式を、いつ、どこまでやるか」を完璧に決めようとし過ぎなくて大丈夫です。家の事情や親戚の集まり方、体調や歳時の感覚に応じて、「今年はここまで」「来年はこんな風にしてみよう」と、緩やかに積み重ねていけば、それがその家庭ならではの優しい伝統になっていきます。お餅に込められた願いと、赤ちゃんの笑顔、高齢の家族のまなざし。その三つが同じ食卓に揃う一時こそが、何よりの縁起ものなのかもしれません。
今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m
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