3月22日放送記念日に特養が一日だけラジオ局に~理事長の鶴の一声で現場が救われた話~
目次
はじめに…春は心がゆらぐ、だから“声”でつながる作戦会議
3月って、何故か気持ちがザワつきませんか。寒さが残っているのに日差しだけは春っぽくて、服装も心も「どっち!?」となる。花粉は本気を出し、年度末の空気はソワソワし、職員もご家族も、つい早口になりがちです。特養のフロアも例外ではなく、いつもなら笑って流せる小さなことが、何故か胸に引っかかってしまう季節でもあります。
そんな時、いちばん効くのは「正論」より「声」だったりします。例えば、同じ内容の声掛けでも、落ち着いた声でゆっくり言われると安心する。逆に、ちょっと焦った声が聞こえるだけで、空気全体がピリッとする。特養って、目に見えない“空気の温度”が毎日の暮らしを左右する場所なんですよね。
そこで今回の主役は、ちょっと意外な存在です。薬でも、最新機器でもなく、何と「ラジオ」。しかも本格的な配信とか、難しい機材とかは一旦置いておいて、特養が「一日だけラジオ局になる」ごっこです。3月22日は放送記念日。だからこそ、堂々と言えるんです。「今日は声を大事にする日です」と。
そしてこの企画を、ただのレクで終わらせないために、登場していただきます。理事長と事務長。現場にとっては、時々“神話級の存在”であり、会議室の扉の向こう側から現れると空気が変わる、あの二人です。理事長は言うかもしれません。「よし、うちは今日から放送局だ」と。事務長は心の中で言うでしょう。「胃が……胃がキュッ……」と。
でも、ここからが今回の面白いところで、権力者の鶴の一声って、現場を困らせるだけじゃないんです。上手く使うと、現場がずっと言えなかった「本当はこうしたかった」を一気に通してくれることがある。つまり、鶴の一声は“怖い”のではなく、“使い方”が全て。理事長の勢いと、事務長の現実感。そして現場の知恵。この三つが噛み合ったとき、特養の空気は本当に変わります。
この話は、春の揺らぎを「しょうがない」で終わらせず、「声の力」で繋ぎ直していく作戦の記録です。ご利用者の笑い声、職員の落ち着いた一言、ご家族の安心する声色。そういう“音”が、フロアの毎日を少しずつ整えていく。しかも、上手くいくと、施設全体がちょっと好きになります。何なら、事務長の胃痛も、ほんの少し軽くなるかもしれませんね。
さあ、放送開始です。最初のジングルは、理事長の咳払い。スポンサーは……たぶん事務長の胃薬。ですがご安心ください。今日の番組は、ちゃんと現場の味方です。
[広告]第1章…理事長の一声「うちは今日から放送局だ」事務長の胃がキュッとなる
3月22日、放送記念日。朝のフロアはいつも通りに始まりました。夜勤明けの職員が「今日も平和でありますように」と小声で祈り、入浴担当がタオルの山に埋もれ、ナースがバイタルサインのメモを握りしめ、介護職が「この時間だけは戦だ…」みたいな顔で配膳の導線を確認している、あの感じです。
そこへ、理事長が現れます。しかも、妙に上機嫌。外ならスキップし始めそうな感じ。さらに不穏なのは、手に小さな紙を持っていることです。会議資料か、何かの決裁か。あるいは、思いつきメモ。現場としては「紙=何かが始まる」の合図なので、空気がほんの少し硬くなります。
理事長は、フロアを一周、ぐるり見渡してから、ニヤッと笑って言いました。
「今日、放送記念日らしいな。うちは今日から放送局だ」
一瞬、時間が止まります。誰も反論しません。反論すると、話が長くなるからです。代わりに、事務長の表情だけが動きます。眉が1ミリ上がり、口角が0.5ミリ下がり、胃がキュッとなったのが見ている側にも伝わる、あの顔です。
「り、理事長。放送局というのは……ええと……施設内の、館内放送的な……?」
「そうそう!ラジオっぽくやろう。声で元気にする。春は大事だ。春は」
理事長は「春」という言葉を、だいたい万能薬みたいに使います。事務長は頭の中で電卓を叩き始めます。機材は?人員は?音量は?苦情は?個人情報は?録音は?責任者は? 責任者は誰だ?責任者は……え、私?
現場職員は別の角度で固まっています。「ラジオ?」という戸惑いと、「でもちょっと楽しそう」というワクワクが同居して、顔が忙しい。ご利用者の中には、理事長の声だけで何かを察して、既に笑っている方もいます。長年の人生経験が言っているのです。「この人は今、始める気だ」と。
ここで、事務長が“現場の守護神モード”に入ります。理事長の勢いを止めるのではなく、「事故らない形」に変換して、現場を守るモードです。事務長は静かに、しかし確実に、必要な確認を差し込みます。
放送局ごっこを“現場で回る形”に落とす事務長の技
「理事長、まず“館内イベント”としてやりましょう。配信とか外部公開ではなく、施設の中だけ。録音も原則なし。音量も、会話の邪魔にならない程度。あと番組の内容は、個人が特定される話題は避けて、安心して笑えるものにします」
言い方は柔らかいのに、線引きは鋭い。これが事務長の強さです。理事長は「うむ」と満足げに頷きます。勢いはそのまま、方向だけが安全な方へ向きます。
そして理事長は、さらに一段ギアを上げます。
「よし。なら、職員も出演しよう。あと、出来れば“お便り”もやろう。昭和のラジオっぽいやつ。良いだろう?」
現場の誰かが、ポロっと言います。「お便り……良いかも」。その一言で空気が変わります。やらされ仕事の匂いが消えて、「みんなで作る遊び」になっていく瞬間です。理事長の鶴の一声は、現場を振り回すだけのものじゃありません。普段なら「忙しいから無理」で終わる企画に、“やって良い免罪符”をくれることがあるんです。
しかも、放送記念日という名目があると強い。職員同士でも「今日はそういう日だから」で笑って受け止めやすい。ご利用者にも「今日はラジオの日なんです」と説明しやすい。家族にも「季節のイベントで」と言いやすい。つまり、場を整える“言い訳”が、ちゃんと用意されているわけです。春は、こういう名目が味方になります。
理事長は最後に、決め台詞を落とします。
「番組名は……『特養ラジオ・春の巻』で良いな。事務長、台本は任せた」
事務長の胃が、もう一度キュッとなります。
でも、その直後。事務長は小さくため息をつきながらも、口元だけで笑います。「台本」と言われた瞬間に、頭の中で“最小の準備で最大の安心を作る段取り”が走り出している顔です。理事長の熱と、事務長の現実が、ここで噛み合いました。
こうして、特養の一日は、いつもと同じようでいて、少しだけ違う方向へ転がり始めます。放送局ごっこが、ただの思いつきで終わるか、それとも現場の空気を変える“新しい道具”になるか。勝負はここからです。
第2章…特養ラジオの意義を確認する「声は薬より早い日がある」
理事長の「放送局だ」が飛び出した後、事務長は一瞬だけ遠い目をしました。あれは多分、胃の奥で“責任”という名の小石が転がった音を聞いた顔です。とはいえ、ここで「辞めましょう」と言うのは簡単。でも、それをやると現場の空気が萎むのも、事務長は知っています。
「理事長、やるなら“何のためにやるか”を先に決めましょう。目的が曖昧だと、現場が疲れます」
事務長のこの言葉で、企画が「思いつき」から「意味のある道具」に変わり始めます。理事長は大きく頷きました。「そうだな。意義だ。意義を言おう」と。勢いだけは相変わらずです。
ここで、特養ラジオの“意義”を、ちゃんと確認しておきます。結論から言うと、ラジオは「話す人のため」だけではなく、「聞いている人の心と体を整えるため」のものです。しかもそれが、案外すぐに効く日がある。声は、時々、薬より早いんです。もちろん医療の代わりになるわけではありません。ただ、空気の荒れを静めたり、不安の波を小さくしたりする力が、声にはあります。
声は“安心の温度”を整える
特養では、予定通りに進む日よりも、ちょっとズレる日の方が多いですよね。気分が乗らない、眠い、痛い、思い出して不安になる、理由は言葉に出来ないけれど落ち着かない。そういう時、フロアに流れる「落ち着いた声」「ゆっくりした声」「いつもの声」が、安心の温度を一定にしてくれます。
ラジオの形にすると、これがグッとやりやすくなります。職員が1人ずつ声を張り上げなくても良い。番組として流れていれば、空気の土台が整う。あちこちで別々の声掛けが起きても、中心に“共通の音”があるだけで、フロアは驚くほど穏やかになります。
理事長が「声で元気にする」と言ったのは、勢いだけではありません。施設って、目に見えない部分が一番大事で、そこを動かすのが“声”だからです。
“思い出の引き出し”が自然に開く
ラジオには、昔を思い出す力があります。若い頃に家で流れていた音、仕事終わりに聞いていた番組、受験勉強のお供、夜更かしの相棒。テレビみたいに映像で情報が押し寄せない分、「自分の記憶」が主役になりやすいんですね。
特養ラジオで懐かしい曲を一曲流すだけで、急に表情が柔らかくなる方がいます。普段は言葉が少ない方が、ポツリと歌詞を口ずさむこともある。これは凄いことで、ただ“楽しい”だけじゃなく、心のスイッチが入る瞬間です。回想が動くと、会話も動く。会話が動くと、その日1日の雰囲気が変わります。
ここで事務長が、現場に向けて小声で言いました。「曲は“懐かしさ”だけで選ぶと危ない時もあります。切なくなり過ぎる方もいるので、まずは明るい曲から」。この人、やっぱり守護神です。
口の体操にも耳のトレーニングにもなる
ラジオの凄いところは、自然に「話す」「聞く」を引き出すところです。レクで“発声練習しましょう”と言うと構えてしまう方も、番組の「お便り紹介」で自分の名前(またはニックネーム)が呼ばれると、口角が上がる。思わず返事をしたり、隣の人に話し掛けたりします。
聞く側にとっても、ラジオはちょうど良い刺激です。テレビほど情報量が多くないので疲れ難い。でも無音ほど不安にならない。耳を傾ける時間が少し増えるだけで、落ち着き方が変わる方もいます。
理事長がここで、何故か得意げに言いました。「つまり、うちは“声のリハビリ施設”ということだな」。事務長は即座に返します。「理事長、それは言い過ぎです。ですが方向性は悪くありません」。褒めてるのか止めてるのか分からない。これが名コンビです。
職員の心にも効く“現場の呼吸合わせ”
そして、ここが一番大事かもしれません。特養ラジオは、ご利用者だけでなく職員にも効きます。忙しい時間帯ほど、職員は呼吸が浅くなります。視野が狭くなって、言葉が短くなる。短い言葉は誤解を生みやすい。誤解は疲れを増やす。疲れはさらに短い言葉を選ぶ。春先はこのループが起きやすい季節です。
番組があると、職員側にも「節目」が生まれます。曲が終わったら深呼吸、コーナーが変わったら気持ちを切り替える。時計を見るより自然で、しかも一緒に働く仲間と呼吸が合いやすい。現場の連携って、作業の手順だけじゃなく“気持ちの速度”を揃えることでもあるので、ラジオはその助けになります。
事務長がポツリと言いました。「結局、事故を減らすのは、こういう地味な整いなんです」。理事長は「うむ!」と大きく頷きます。たぶん半分くらいしか分かっていません。でも頷くことで、現場は救われます。偉い人の頷きは、現場の背中を押す力があるんです。
こうして、特養ラジオの意義ははっきりしました。“盛り上げ”のためだけじゃない。“整える”ための企画。春の揺らぎを、声でゆっくり丸めていく道具。だったら、やる価値は十分あります。
次の章では、いよいよ「現場が回る進化形」にしていきます。番組が勝手に生まれて、しかも続いてしまう。理事長の夢と事務長の現実が、ここで美しく噛み合う予定です。
第3章…現場が回る進化形ラジオ、番組はこうして勝手に生まれる
理事長が「放送局だ」と言い、事務長が胃を押さえ、現場が「やるなら回したい」と目を輝かせたところで、次に来る壁は1つです。続かない企画は、だいたい“準備が重い”。そして重い準備は、忙しい特養にとってだいたい敵です。
事務長はそこを分かっているので、いきなり結論を言いました。「台本を作り込みません。型だけ決めます」。理事長は一瞬「台本を任せたのに?」という顔をしましたが、事務長の次の一言で黙ります。「作り込むほど、やる人が固定されます。固定されるほど、誰かが倒れます」。理事長は「それは困る」と頷きました。理事長は大きな企画が好きですが、倒れる人が出る企画は嫌いです。そこにはちゃんと人情があります。
“番組の中身”より先に“番組の型”を作る
特養ラジオが回り出すコツは、面白い話を用意することではなく、「誰でも同じ手順で始められる形」にしておくことでした。例えば、最初に短い挨拶、次に今日の一言、次に一曲、最後に締めの言葉。これだけで“番組っぽさ”が出ます。内容が薄くても、型があると不思議と安心して聞けるんです。
現場の職員も、型があると動きやすい。忙しい時間帯は、頭のメモリが少ないので「何をしゃべるか」を毎回考えるのはしんどい。でも型があると、「この順番で言えば良い」になる。思考が減る分、声のトーンが落ち着く。落ち着いた声は、ご利用者にも職員にも効きます。
理事長はここで余計なひと言を入れます。「つまり、うちの放送局は“台本が少ないのが売り”ということだな」。事務長は、笑いながらも即修正します。「理事長、それは売りではなく、生存戦略です」。現場の数名が吹きました。こういう小さな笑いが、企画の寿命を伸ばします。
お便りが来た瞬間に番組は勝手に増殖する
番組が“勝手に生まれる”切っ掛けは、お便りです。とはいえ、難しく考える必要はありません。立派な文章じゃなくて良い。「今日の昼ご飯の好きなもの」「昔よく聴いた曲」「最近、嬉しかったこと」みたいな一言で十分です。むしろ一言の方が、読まれる側の負担が軽いし、投稿する側も出しやすい。
事務長が作ったのは、豪華な投稿フォームではありません。紙と箱です。しかも箱の名前が妙に気合い入っていました。「お便り箱・投函するとだいたい読まれる(ただし個人情報は禁止)」。理事長が「長いな」と言い、事務長が「大事なことなので」と返した時点で、もう番組は半分成功しています。
お便りが集まり始めると、現場が勝手に“コーナー”を作り始めます。誰かが「今日は懐かしの曲を流そう」と言い出し、別の誰かが「お便りにツッコミ入れて良い?」と言い出し、さらに別の誰かが「理事長、天気予報やってください」と言い出す。理事長はやります。求められるとやります。多分、それが理事長の良いところです。
ただし、事務長はここで必ず釘を刺します。「本名は出さない。部屋番号も出さない。病気と病状に触れない。家族の話は本人が話したい範囲だけ」。この線引きがあるから、安心して笑えます。笑いは、安心の上にしか乗りません。
ジングルがあるだけで“施設内放送”がエンタメになる
ここで、提案を1つ。ラジオが一気に“それっぽく”なる小技があります。ジングルです。大げさな音源はいりません。職員の手拍子でも、タンバリンでも、テーブルを軽くトントンでもいい。「今から始まるよ」という合図があるだけで、人は聞く姿勢になります。
実際、現場で起きるのはこうです。ジングルが鳴る。ご利用者の目線がフッと上がる。職員の動きが一瞬だけ整う。「今は音を聞く時間だ」と、場が共有する。これだけで空気が落ち着きます。つまりジングルは、音楽というより“合図の道具”なんです。
理事長はジングルに謎の拘りを見せました。「うちは“理事長の咳払い”がジングルで良いな」。事務長は即却下します。「それだと体調不良の合図と間違えます」。理事長は「確かに」と納得しました。こういう攻防を経て、最終的に採用されたのは、職員が口で言う「ピンポーン、特養ラジオの時間です」。これが一番強い。何故なら、誰でも出来るからです。
主役を固定しないと現場の疲れも固定されない
もう1つ、回る番組の条件があります。主役を固定しないこと。声の担当が同じ人だと、その人が休んだ瞬間に番組が止まります。そして止まると、次に復活させるのが面倒になります。面倒は、忙しい特養にとって最大の敵です。
だから、声の担当は“交代できる前提”にします。上手に話せる人がやるのではなく、「今日いける人がやる」。噛んでも良い。言い間違えても良い。むしろ、噛むと笑いが起きて場が柔らかくなります。完璧な放送は、施設には要りません。必要なのは、安心と温度です。
理事長がここで急に良いことを言いました。「放送ってのは、上手さじゃない。続くことだ」。事務長は驚いて「今日はどうしたんですか」と言い、理事長は得意げに「春だからな」と返しました。春は万能薬です。たまに当たります。
こうして、特養ラジオは“現場が回る形”に進化しました。型があるから始めやすい。お便りがあるから中身が勝手に増える。ジングルがあるから場が整う。主役が固定されないから続く。理事長の勢いと、事務長の線引きと、現場の遊び心が、ようやく同じ方向を向いたのです。
次の章では、この仕組みを「鶴の一声で終わらせない」形にします。理事長の熱が冷めても続くように、事務長が“続く仕掛け”を裏で仕上げていた話に入りますね。
第4章…鶴の一声で終わらせないで続く仕組みは事務長が守っていた
特養ラジオが“回り始めた”瞬間って、現場の空気がフワっと軽くなるんですよね。ご利用者の表情が柔らかくなって、職員の声のトーンが整って、廊下のバタバタが「まあまあ、落ち着いていこうや」みたいなテンポになる。
ところが、こういう良い企画は、放っておくとだいたい「一回だけの伝説」になりがちです。最初は盛り上がる。でも、担当者が休み、行事が重なり、年度末が過ぎた辺りで、いつの間にか誰も触れなくなる。特養あるあるです。忙しさは、思い出を薄めるのが上手い。
その“あるある”を見越して、事務長は静かに動いていました。表では理事長が「放送局だ!」と旗を振り、現場が笑って走り、フロアが盛り上がる。裏では事務長が、企画を「続く形」に変えていく。ここからの話は、地味だけどめちゃくちゃ重要です。何故なら、施設で本当に価値があるのは「派手さ」より「続くこと」だからです。
事務長の引き出しから出てきた謎のファイル「放送局運用(仮)」
翌日、事務長がデスクの引き出しから分厚いクリアファイルを出してきました。タイトルが手書きで、何故か字が妙に丁寧です。「特養ラジオ 運用(仮)」。仮って書いてあるのに、ページ数は仮じゃありません。
理事長が覗き込んで言います。「なんだ、それは。もう本気じゃないか」
事務長は、サラっと返します。「理事長が始めたものは、続くようにするのが私の仕事です。続かなければ、現場が疲れるだけなので」
この一言で、企画が“イベント”から“文化”になり始めます。事務長がやったのは、豪華な企画書ではなく、現場が困らないための小さな仕組み作りでした。
例えば、番組は毎日じゃなくて良い。週に何回でも良いし、時間帯も固定し過ぎない。ただ、現場が迷わないように「だいたいこの時間なら入れて良い」という目安だけ置く。内容は「型」で回す。担当は交代できる。困ったらこの紙を見る。こういう“迷いを減らす道具”を、そっと用意するんです。
理事長は勢いで走り、現場は気合で支え、事務長は仕組みで守る。ここが噛み合うと、施設は強いです。
「禁止」より先に「守る」を決めると楽しく続く
事務長が最初に作ったのは、いわゆる注意事項の山ではありません。注意事項を増やすと、現場は「辞めとくか」になりやすいからです。代わりに、事務長が決めたのは“守るもの”でした。
ご利用者の安心、個人のプライバシー、音が苦手な方への配慮、職員が無理をしないこと。この4つが守られるなら、後は遊んで良い。そういう考え方です。だから現場も笑って続けられます。
理事長が「よし、じゃあ私が毎回パーソナリティをやろう」と言いかけた時、事務長は即座に微笑みます。「理事長が毎回出ると、理事長が休んだ日に番組が止まります。止まると復活が面倒です」。理事長は渋い顔をして、「確かに」と引き下がりました。珍しく合理的です。
ここで事務長が、さらに小声で続けます。「あと理事長が毎回出ると、現場が“理事長の顔色”を気にし始めます」。理事長は「それは困るな」と言い、ようやく“続く設計”の意味を理解しました。
実は一番効いたのは「いつでも代打ができる」安心感
特養ラジオが続く決め手になったのは、番組の面白さよりも「代打が出来る」安心感でした。誰かが欠けても回る仕組みは、現場にとって救命ボートみたいなものです。
事務長は、担当者を「固定しない」のを徹底しました。上手な人を選ばない。声が大きい人を選ばない。その日できる人が、出来る範囲でやる。噛んでも良いし、言い間違いも笑いにする。ただし、無理はしない。番組は短くても成立する。これが安心に繋がります。
そして、事務長の策がもう1つあります。番組の中で、現場が自然に整うように“間”を仕込んだことです。曲の前後にひと言だけ深呼吸の合図を入れる。食事前は落ち着く言葉を一つだけ挟む。入浴の前は不安をほどく声を1つだけ添える。大袈裟じゃない、小さな整いの積み重ねが、事故を減らし、疲れを減らし、結果的に続きます。
理事長は、最終的にこう言いました。「つまり、放送は派手にやることじゃない。施設の呼吸を揃えることだな」
事務長は「今日は冴えてますね」と返し、理事長は得意げに「春だからな」と言いました。やっぱり春は万能薬です。
こうして、特養ラジオは鶴の一声で終わらず、現場に根を張りました。理事長が生む勢い、現場が育てる笑い、事務長が守る仕組み。その3つが揃った時、新しいものは“続く形”で生まれます。
次はいよいよ、まとめです。春の揺らぎを越えて、「また来年もやろう」と言える着地に持っていきましょう。
[広告]まとめ…春の新企画は“派手さ”より“続く笑い”が強い
3月の特養は、ほんの少しだけ空気が揺れます。寒さと春の気配が同居して、心も体も「どっちに合わせたら良いの?」となる季節。年度末の気忙しさも重なって、いつもなら笑って流せることが、何故か引っかかる日もある。そんな時、現場を支えるのは、結局のところ“正しさ”より“安心”で、その安心を運んでくるのは、案外「声」だったりします。
放送記念日にちなんだ特養ラジオは、派手な企画ではありません。配信もしない。凝った機材もいらない。台本も作り込まない。だけど、声の温度を整える力だけは本物です。ジングルひとつで場が切り替わり、懐かしい曲ひとつで表情がほどけ、お便り一枚で会話が生まれる。何より、職員の呼吸が合う。これが強い。施設の暮らしは、こういう“地味に効く整い”で、想像以上に変わります。
そして今回の面白さは、理事長と事務長がちゃんと役割を果たしたところでした。理事長の鶴の一声は、現場を振り回すだけのものじゃありません。普段なら通らない「やってみたい」を、堂々と始める力になる。勢いがある人の一言は、現場の背中を押す。これは事実です。
ただし、押しただけでは続きません。続けるために必要なのは、事務長の“守り”でした。個人情報に触れない線引き、音が苦手な方への配慮、無理をしない段取り、代打ができる仕組み。こうした地味な準備があるから、現場は安心して笑えるし、笑えるから続きます。結局、企画って「面白いかどうか」より、「続けていい空気があるかどうか」で決まるんですよね。
理事長が咳払いをジングルにしようとして却下され、事務長が胃を押さえながらもファイルを作り、現場が噛み噛みの司会を笑って受け止める。そんな小さな出来事の積み重ねが、特養の1日を少しずつ優しくします。春は万能薬ではありません。でも、春に合わせた小さな工夫は、確実に人を楽にします。
もし今年、フロアの空気を変える何かが欲しいなら、“声”を使う企画はおすすめです。大きなイベントじゃなくていい。1日だけでもいい。大事なのは「気合い」ではなく、「続く形」にしておくこと。理事長が始めて、事務長が守って、現場が育てる。そうやって生まれた笑いは、来年の3月にもちゃんと帰ってきます。
では、次回の放送もお楽しみに。スポンサーは……たぶん事務長の胃薬。ですが番組の中身は、ちゃんと特養の味方になります。
今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m
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