高齢者施設にテレビ局を作ろう!~季節に頼らない爆笑レクリエーションの新定番~
目次
はじめに…いつもの食堂がスタジオになる日
高齢者施設の午後、食堂に少し眠たげな空気が流れることがあります。お昼ご飯の余韻が残り、湯呑みのお茶がホッと湯気を立て、職員さんは時計を見ながら「さて、今日のレクリエーションはどうしましょう…」と心の中で腕まくりをします。腕まくりだけは勇ましいのに、ネタ帳は真っ白。これは介護現場あるあるです。いや、真っ白どころか、昨日のメモが「風船?」だけ残っていて、自分で書いたのに自分で首を傾げる日もあります。
そんな日に、季節行事や特別な材料に頼らず、いつもの空間を少しだけ楽しく変える方法があります。食堂を“テレビ局”にしてしまうのです。カメラは本物でなくて大丈夫。マイクは丸めた新聞紙でも、ラップの芯でも、手を軽く握っただけでも立派です。ニュースキャスター、天気予報士、通販番組の司会者、食レポ係、拍手係、頷き係。役が生まれると、いつもの席に座る方の表情がフッと変わります。
レクリエーションは、全員が同じ動きをする時間だけではありません。声を出す人、聞く人、笑う人、合いの手を入れる人、それぞれの出番があるだけで場は和気藹々と動き出します。役割付与(その人に合った出番を用意すること)が上手くはまると、「参加してください」と声をかけるより自然に心が前へ出てきます。
「本日の食堂ニュースです。お茶のおかわり希望者が、静かに勢力を拡大しています」
こんな一言で、場の空気は少しほぐれます。笑いは、無理に作ると疲れます。でも、日常の中にある小さな出来事を番組風に眺めると、そこには創意工夫の余地が広がります。職員さんのボールペン行方不明事件、昼食の味噌汁が予想より熱かった速報、体操の掛け声だけは名人級だった午後。どれも平凡な出来事なのに、言い方を変えるだけで小さなニュースになります。
高齢者レクリエーションは、特別な日を待たなくても、今日の出来事を少し楽しく受け止めるだけで始められます。
笑いは人を置いてけぼりにしないことが大切です。誰かをからかう笑いではなく、みんなで「あるある」と頷ける笑い。失敗を責めるのではなく、「それも番組の名場面でしたね」と受け止める笑い。転ばぬ先の杖ということわざがありますが、レクリエーションでも同じで、やさしいルールを先に置いておくと、安心して笑える時間になります。
テレビ局ごっこの良さは、準備が少ないところにもあります。高価な道具も、大きな制作物もいりません。必要なのは、少しの芝居心と、日常を面白がる目線です。食堂の片隅に「ただいま生放送中」と言いたくなる空気が生まれたら、もう番組は始まっています。もちろん本当に生放送ではありません。録画も配信もありません。あるのは、湯のみと笑顔と、たまに行方不明になる職員さんのペンくらいです。
[広告]第1章…役を持つと人は少し背筋が伸びる
「ちょっと読んでみますか?」と紙を渡すと首を横に振る方が、「では、本日のニュースをお願いします」と言われた途端、ほんの少し姿勢を直すことがあります。人は不思議なもので、作業を頼まれるより、役を渡される方が心が動きやすいのです。
ニュースキャスター役、天気予報士役、相談室の先生役、拍手係、頷き係、番組名を考える係。どれも難しい役である必要はありません。むしろ、少し笑えるくらい軽い役の方が場に馴染みます。「本日のニュースをお伝えします」と言うだけで、食堂の空気がほんのり変わります。湯呑みを持つ手まで、どこか報道番組のベテラン風に見えてくるから面白いものです。もちろん湯呑みはマイクではありません。たぶん。いや、気分としては立派なマイクです。
このレクリエーションで大切なのは、上手く話すことではありません。人前で立派に発表することでもありません。役があるだけで、その人の中に「自分の出番」が生まれることです。自己効力感(自分にも出来ると思える気持ち)が少しずつ育つと、参加の形も自然に広がります。声が小さくても、短い一言でも、頷くだけでも、その場に必要な存在になれます。
役決めは、適材適所で緩く進めるのがコツです。よく話す方には司会者やリポーター役。聞き上手な方には審査員や相談室の先生役。声を出すのがしんどい方には、札を上げる係や拍手係。表情で参加する方には、番組のご意見番として「うんうん」と場を支えてもらいます。全員が同じ形で参加しなくても、番組はちゃんと成り立ちます。
職員さんは、つい盛り上げようとして一生懸命になりがちです。気づけば司会、進行、解説、拍手、ツッコミまで1人で背負い、午後の食堂で小さなワンマンショーが始まります。これはこれでありがたいのですが、職員さんが汗だくになるほど、利用者さんの出番が小さくなることもあります。主役は利用者さん。職員さんは場を整える名脇役くらいがちょうど良いのです。
失敗も番組の味になります。読み間違えたら、「ただいま表現に味わいが出ました」と笑って受け止める。沈黙が続いたら、「考える時間が深まっております」と少し間を楽しむ。思わぬ返答が出たら、一喜一憂し過ぎず、にこやかに拾う。正解を探す時間ではなく、その人らしい反応を喜ぶ時間にすると、場がやわらかくなります。
テレビ局ごっこは、凄いことをするレクリエーションではありません。いつもの人に、いつもと少し違う席札を渡すような遊びです。「今日は先生」「今日は司会者」「今日は拍手の名人」。それだけで、午後の空気に小さな張りが出ます。背筋が少し伸びる瞬間は、心が前を向いた合図かもしれません。
第2章…ニュースも天気も通販も日常から生まれる
施設内テレビ局の面白さは、立派な台本がなくても始められるところにあります。食堂に置かれたお茶、配られたおしぼり、今日の昼食、体操の掛け声、職員さんの小走り。いつもの景色を少し番組風に見立てるだけで、日常がふわっと動き出します。
「本日の食堂ニュースです。お茶のおかわり希望者が、静かに増えております」
これだけで、ただのお茶の時間がニュースになります。深刻な顔をして読むほど、何故か笑いが生まれます。読んでいる本人が途中で笑ってしまっても大丈夫です。むしろ、その小さな照れが番組の味になります。抱腹絶倒まで狙わなくても、口元が緩むくらいの笑いが、午後の空気にはちょうど良いのです。
天気予報も、窓の外だけを見る必要はありません。「本日の食堂は、午前中は穏やか、午後からおやつ前線が近づく見込みです」と言えば、天気図がなくても場が明るくなります。「体操の時間帯には、やる気の高気圧がゆっくり接近します。ただし眠気の低気圧にもご注意ください」と続ければ、職員さんが自分で言って自分で吹き出す可能性があります。そこは職員さんの職業病、いえ、サービス精神です。
通販番組も相性抜群です。紹介する品物は、タオル、紙コップ、うちわ、クッション、新聞紙で十分です。「こちらのタオル、なんと拭けます。さらに畳めます。使わない時は、そこにあります」。あまりに当たり前のことを真剣に言うと、日常の品物が少し楽しく見えてきます。創意工夫とは、特別な物を用意することだけではなく、目の前の物を別の角度から眺める力でもあります。
いつもの道具に役を持たせると、いつもの時間にも小さな舞台が生まれます。
食レポ番組にするなら、おやつや飲み物が登場した時が出番です。「甘さがやさしいですね」「これは歯に相談しながら食べたいですね」「もう一口いけますね、いや、これは個人の感想です」。無理に褒めなくても、感じたことを短く言えば番組になります。食べる力や嚥下機能(飲み込む力)に配慮しながら、味わう楽しみを言葉にする時間は、食事やおやつへの気持ちも明るくしてくれます。
現場中継も盛り上がります。「ただいま洗面台前に来ております。手洗いを終えた皆さんの表情は、実にサッパリしています」。廊下を歩く方を無理に映す必要はありません。言葉だけで十分です。聞いている方が頭の中で場面を思い浮かべられるので、参加の形が広がります。目で見るレクだけでなく、耳で楽しむレクにもなります。
このテレビ局ごっこは、臨機応変に組み合わせられるのが魅力です。今日はニュース中心、明日は通販、来週は人生相談、気分が乗らない日は拍手番組でも構いません。自由自在に変えられるから、季節に左右されず、準備に追われ過ぎず、職員さんの肩も少し軽くなります。
日常は、ただ過ぎていく時間に見えることがあります。でも、番組の目線で眺めると、そこには小さな出来事がたくさんあります。お茶が配られた。誰かが笑った。うちわが一枚、妙に頼もしく見えた。そんな1つ1つを拾い上げるだけで、食堂は今日も放送中になります。
[広告]第3章…笑いの主役は利用者さんで職員は名脇役でいい
施設内テレビ局が盛り上がるかどうかは、職員さんの芸達者ぶりで決まるわけではありません。もちろん、ひと声で場を明るく出来る職員さんは頼もしい存在です。けれど、職員さんがしゃべり続けるほど、いつの間にか利用者さんが観客席に座ってしまうことがあります。主役を張るつもりがなくても、気づけば午後の食堂でひとり独演会。拍手はもらえても、息切れもします。これはなかなか切ない喜劇です。
テレビ局ごっこで大切なのは、利用者さんに“笑わせられる側”だけでなく、“笑いを生む側”にもなってもらうことです。ニュースを読む、天気を予想する、通販の商品を褒める、相談に答える、司会者にひと言ツッコむ。ほんの短い出番でも、「自分の言葉で場が動いた」と感じられると、表情がフッと明るくなります。
笑いの主役が利用者さんになると、レクリエーションは見せ物ではなく、みんなで作る時間に変わります。
職員さんの役目は、場を引っ張ることより、場を渡すことです。ファシリテーション(場の流れをやさしく整えること)を意識すると、会話のボールを持ち続けなくて済みます。「今のひと言、ニュース速報にしましょう」「その感想、通販番組なら名ゼリフですね」「先生、そのお悩みに一言お願いします」と、相手の言葉を少し番組風に飾って返すだけで十分です。正に縁の下の力持ちです。
利用者さんから予想外の言葉が出ることもあります。「今日の体操はいかがでしたか?」と聞いたら、「見ている分には良かった」と返ってくる。素晴しい正直さです。職員さんは一瞬だけ固まるかもしれません。心の中で「参加して欲しかったんですけど…」と小さくツッコみながらも、「見守り専門員からの貴重なご意見でした」と受け止めれば、場は和気藹々と続きます。
但し、笑いの方向には気を配りたいところです。誰かの失敗や体の不自由さ、物忘れを笑いの中心に置くと、場はすぐに冷えてしまいます。笑いは人を近づける力がありますが、使い方を間違えると、心を遠ざけることもあります。安心して笑えるレクリエーションにするには、主客転倒にならないように、利用者さんの尊厳を真ん中に置くことが大切です。
職員さんが名脇役に徹すると、場には余白が生まれます。その余白に、利用者さんの言葉や表情が入ってきます。「それ、昔はよう売れたで」「このタオルはええ、何でも拭ける」「眠気注意報は毎日出とるなあ」。そんな何気ない一言が、番組の名場面になります。台本通りではないから面白いのです。
職員さんは、完璧な司会者を目指さなくて大丈夫です。少し噛んでも、進行を忘れても、番組名を途中で変えても構いません。「ただいま番組名が迷子になりました」と笑ってしまえば、それも立派な演出です。むしろ、そのゆるさがあるから、利用者さんも安心して参加できます。
施設内テレビ局は、職員さんが笑わせ切るレクではありません。利用者さんの一言を受け止め、光を当て、みんなで笑える形にするレクです。主役が前に出過ぎなくてもいい。脇役が支え過ぎなくてもいい。食堂の空気が少しやわらぎ、「今日も何だか面白かったね」と誰かが言ってくれたら、その日の番組は大成功です。
第4章…爆笑レクほど安全とやさしさで整える
笑いが生まれるレクリエーションほど、始まる前の空気作りが大切です。食堂に新聞紙マイクが登場し、誰かが「本日の重大ニュースです」と言った瞬間、場はフッと明るくなります。けれど、明るい時間ほど、職員さんの目配りはさりげなく働いています。笑いながらも、椅子の位置、お茶の温度、声の大きさ、参加する方の表情を見ている。介護現場の笑顔は、ただ楽しいだけではなく、きちんと安心安全に支えられています。
施設内テレビ局では、誰かを無理に前へ出さないことが大切です。「今日はニュースを読みましょう」と誘っても、気分が乗らない日があります。声が出にくい日もあります。そんな時に「折角ですから」と押し切ると、番組どころか心のシャッターが下ります。ガラガラガラ、閉店です。職員さんの心の中にも「今の声かけ、少し急ぎ過ぎました」と小さな反省会が始まるかもしれません。
参加の形は、言葉だけではありません。頷く、笑う、拍手する、札を上げる、職員さんに目で合図する。それだけでも立派な出演です。役割調整(その人に合う出番へ変えること)が出来ると、無理なく場に入れます。ニュースキャスターが難しければ、番組のご意見番。通販司会が難しければ、商品を見て「いいね」と合図する審査員。声の大きな人だけが目立つ時間ではなく、静かな参加もちゃんと見える時間にしたいところです。
爆笑レクリエーションの土台は、笑わせる技術より、安心して笑える配慮です。
笑いの方向にも気をつけたいものです。職員さんの小さな失敗をネタにする時も、相手が一緒に笑える範囲にとどめます。利用者さんの物忘れ、身体の動き、病気、家族事情などは、笑いの材料にしません。楽しいつもりの一言が、誰かの心に小さく刺さることがあります。和気藹々とした番組にするには、笑いの中心を「日常のあるある」や「物の見立て」に置く方が穏やかです。
道具の安全も忘れずに整えます。マイク代わりの新聞紙は軽く丸め、振り回しても痛くない形にします。ラップの芯を使う時は、角や硬さを確認します。紙コップやタオルを通販番組風に扱う時も、投げたり奪い合ったりする流れにはしません。リスクマネジメント(事故を防ぐための準備と確認)は、楽しい空気を壊すものではなく、楽しい時間を最後まで守るための支えです。
認知症の方が参加する時は、番組の流れを短く、分かりやすくすると安心しやすくなります。「今からニュースを読みます」「次は拍手です」「終わったらお茶にしましょう」と、先の見通しを短い言葉で添えるだけでも落ち着きます。予定変更が必要な時も、臨機応変に役を変えれば大丈夫です。司会者が急にお休みしても、番組名を「本日はのんびり放送」に変えれば、何となく成立します。緩い番組は、こういう時に頼もしいのです。
職員さん同士の合図も役に立ちます。盛り上げ役、見守り役、道具を渡す役、疲れた方に声をかける役。全員が同じ方向を見ていると、場の乱れにも早く気づけます。笑い声の裏で、誰かが寂しそうな顔をしていないか。拍手が苦手な方に音が負担になっていないか。途中で水分を取りたい方はいないか。そうした小さな気づきが、レクリエーションを品よく整えてくれます。
爆笑を目指すと、つい派手な演出に目が向きます。でも、高齢者施設の楽しい時間は、派手さよりも「また参加してもいいかな」と思える後味が大切です。番組が終わった後、誰かが「今日はよう笑ったなあ」と湯呑みを手にする。その横で職員さんが「次回の放送もお楽しみに」と言って、少し照れる。そんな穏やかな余韻が残れば、施設内テレビ局は今日も無事に放送終了です。
[広告]まとめ…季節がなくても、今日という一日は番組になる
高齢者施設のレクリエーションは、カレンダーの行事だけで成り立つものではありません。七夕や敬老の日、クリスマスやお正月のように、分かりやすいキッカケがある日は確かに企画を立てやすいものです。飾りも作りやすく、歌も選びやすく、職員さんの心も「よし、やるぞ」と動きます。
けれど、施設の毎日は行事の日ばかりではありません。むしろ、何でもない日の方が多いものです。午後のお茶、食堂のざわめき、体操の掛け声、廊下をゆっくり歩く足音、職員さんが「あれ、ペンどこ置いたかな?」と小さく困る瞬間。そうした普通の日にこそ、笑いの種は隠れています。
施設内テレビ局レクリエーションは、その普通の日を少しだけ楽しく見せてくれます。ニュース番組にすれば、昼食も事件になります。天気予報にすれば、眠気も低気圧になります。通販番組にすれば、ただのタオルが頼れる名品になります。人生相談室にすれば、利用者さんのひと言が金言玉条のように光ります。もちろん、タオルはタオルです。空も飛びませんし、味噌汁も冷めたら温め直しです。それでも、見方が変わると、時間の表情も変わります。
何でもない一日を少し面白がれる施設は、毎日の中に小さな楽しみを育てられます。
このレクリエーションの良さは、上手な人だけが目立つ仕組みではないところです。よく話す方は司会者に。聞き上手な方は相談室の先生に。声を出すのがしんどい方は拍手係や審査員に。表情で参加する方は、番組を見守る大切なご意見番に。それぞれの形で出番があり、無理なく参加できるから、場に安心感が生まれます。
笑いは、誰かを置き去りにしない時に、やさしい力になります。職員さんが全力で笑わせようとしなくても大丈夫です。利用者さんの一言を拾い、少し番組風に受け止め、「今のは名場面ですね」と場に返す。その積み重ねが、和気藹々とした時間を作ります。番組名が途中で変わっても、台本を忘れても、拍手のタイミングが早過ぎても、それも含めて今日の放送です。
大切なのは、笑いの後にあたたかさが残ることです。終わった後に、誰かが「今日はよう笑ったなあ」と言う。別の誰かが「次は私も天気を言おうかな」と呟く。職員さんが「次回の放送予定は未定です」と言いながら、もう頭の中では次のネタを探している。そういう時間は、派手ではなくても、施設の暮らしを少し明るくします。
高齢者レクリエーションは、特別な材料や立派な道具だけで作るものではありません。人の声、表情、気分、思い出、日常の小さな出来事。それらが重なった時、一日一善ならぬ一日一笑のような時間が生まれます。季節がなくても、記念日でなくても、今日という日は一度キリです。まさに一期一会の放送日です。
食堂に新聞紙マイクが一本あるだけで、午後は少し変わります。湯呑みの向こうにニュースがあり、タオルの横に通販があり、おやつの前に天気予報があります。今日の番組は、今日の人たちでしか作れません。施設内テレビ局、次回も緩やかに開局です。
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