梅雨入り前の玄関は小さな難所~滑る・濡れる・慌てるを優しくほどく暮らしの支度~

[ 介護現場の流儀 ]

はじめに…雨の季節のヒヤリは、たった数歩の玄関から始まりやすい

梅雨が近づく頃の玄関は、家の中なのに、何故か外の顔をし始めます。傘立ての底にはうっすら水が溜まり、昨日ぬれた玄関マットはまだ少ししっとりしていて、脱ぎっ放しの靴は「今日は私から片付けてください」とでも言いたげな香り…です。たった数歩の場所なのに、雨の日だけ急に多忙多端。のんびりしているようで、じつは小さな用事と小さな危なさが、ギュっと集まっています。

特に気をつけたいのは、転びそうな大きな場面よりも、いつもの動きの中にまぎれた小さなヒヤリです。片手は傘、もう片方には買い物袋、足元は少し濡れていて、靴を脱ぐにも履くにも気が急く。そこで「よいしょ」が一回増えるだけで、玄関は急に難所になります。家の中の話なのに、気分はちょっとした関所です。いや、関所にしては靴が多過ぎますが…。

雨の季節の玄関は、広さよりも“重なり”で困りやすい場所です。

けれど、空模様と同じで、玄関の空気も少し手を入れるだけで変わっていきます。荷物を置く場所がある、手を添えやすい、濡れた物が溜まり難い、座ってひと息つける。そんな小さな支度があるだけで、行きも帰りもグッと軽やかになります。備えあれば憂いなしとは、まさにこの数歩のためにある言葉かもしれません。

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第1章…玄関は雨の日の渋滞口~傘と荷物と足元がぶつかる場所~

雨の日の玄関は、普段の玄関とは少し性格が変わります。晴れた日なら、靴を履いて、戸を開けて、行ってきますで済むはずの数歩が、梅雨時になると急に多事多端。片手には傘、背中にはリュック、もう片方の手には鍵か買い物袋。そこへ濡れた靴底まで加わるのですから、玄関の床からすれば「本日の業務量、ちょっと多くありませんか?」と言いたくなる様子かもしれません。

高齢の家族がいる家では、この数歩がさらに忙しくなります。杖をつく手、手すりに触れたい手、傘を持つ手、荷物を持つ手。人の手は2本しかないのに、雨の日の用事は平気で4つ5つと並んできます。動線(人が動く道筋)が少し狭いだけで、靴をよけ、傘をよけ、置きっ放しの段ボールを横目で睨みながら進むことになります。睨んだところで段ボールは自力で移動してくれません。そこがまた、なんとも生活らしい場面です。

玄関が困りやすいのは、広さが足りないからではなく、同じ場所に用事が重なりやすいからです。

しかも困る場面は、いかにも危なそうな瞬間だけではありません。帰宅して、まず荷物を下ろしたい。けれど床が少し濡れている。靴を脱ぎたい。けれど片手が傘で埋まっている。座りたい。けれどちょうど良く腰を下ろせる場所がない。こうして小さな不便が右往左往し始めると、たった数歩の玄関が、急に気を抜けない場所になります。転ばないまでも、ヒヤっとする。怒るほどではないけれど、毎回ちょっと疲れる。その積み重ねが、雨の季節の玄関にはあります。

子どもがいる家なら、話はさらに賑やかです。先に入りたい子、早く傘を閉じたい大人、濡れたレインコート、砂のついた靴、宅配便の箱、ついでに犬の散歩グッズまで並んだら、玄関はもはや小さな駅の改札口です。しかも駅と違って、案内表示もありません。気づけばみんなが「ちょっと待って」を口にしていて、待っている間に床の雫が増えていく。梅雨の玄関は、静かそうでいて、じつはかなり忙しない場所なのです。

こういう季節ほど、無理に手際よくこなそうとしない方が、却って上手く回ります。荷物を持ったまま段差を越えない。傘を持ったまま靴を脱ごうとしない。先に置く、先に拭く、先にひと呼吸。玄関に必要なのは根性より段取りで、気合いよりも受け皿です。雨の日に玄関が少し手強く感じるのは、暮らしが下手だからではありません。やることが一度に集まり過ぎるだけ。そう思うだけでも、気持ちは少し軽くなりませんか?


第2章…持ったまま頑張らない~背負いリュックと荷物置き場が動きを軽くする~

雨の日の玄関で起こりやすい困り事は、足元だけではありません。じつは手元もかなり忙しくなっています。傘を持つ。鍵を出す。荷物を支える。戸を開ける。ついでに買い物袋まで提げていたら、もう満身創痍です。頑張っているのは分かるのですが、玄関の段差はその努力に拍手してくれません。むしろ「まず置いてから来てください」と無言で圧をかけてきます。

この季節に役立つのが、背負いリュックという発想です。片手が傘になりやすい時期は、荷物を手で持つより背中に逃がした方が、体の動きがグッと素直になります。重心(体のバランスの中心)がブレ難くなり、戸の開け閉めもしやすい。買い物帰りも、通院帰りも、送迎の乗り降りも、両手が少し自由になるだけで気持ちが変わります。手提げ袋をいくつもぶら下げて歩く姿は、頑張り屋さんの勲章のようにも見えますが、雨の日の玄関では、勲章より身軽さの方が頼もしいものです。

玄関で大切なのは、持ったまま踏ん張ることより、先に荷物を置ける段取りです。

そのために欲しいのが、荷物の一時置き場です。立派な家具でなくても構いません。段差の手前に小さな棚が1つあるだけでも、買い物袋や郵便物、濡れた折りたたみ傘をいったん預けられます。荷物を置いてから、手すりに触れる。荷物を置いてから、靴を脱ぐ。荷物を置いてから、段差を跨ぐ。この順番になるだけで、玄関の空気が随分と落ち着きます。急いでいる時ほど、先に置く。これだけで雨の日の右往左往が減っていきます。

帰宅の場面でも、この差はよく出ます。背中にリュック、片手に傘、もう片方に少しだけ重い荷物。玄関に入った瞬間、床はややしっとり、靴も少し濡れている。そんな時に荷物を置く場所がないと、人はとても器用に不器用になります。膝で支えたり、腕に引っかけたり、壁に寄せたりして、最後は「もういいから早く座りたい」にたどり着くのです。気持ちはよく分かります。分かるのですが、そのひと手間がヒヤリを呼びやすい。雨の日の玄関で名人芸は目指さない方が、暮らしは穏やかです。

戸周りにも、小さな助っ人がいると助かります。ドアストッパーがあれば、戸が戻ってきて体や荷物にぶつかり難くなりますし、壁側のフックがあれば、傘やレインコートを床に置かずに済みます。濡れた物を「とりあえず床へ」としないだけで、足元の景色はかなり整います。シルバーカーや杖を使う人がいる家なら、一旦、手を離しても倒れ難い置き場所があるだけで安心感が違います。玄関は広げるより、役割を決めてあげる方が機嫌よく働いてくれます。

雨の日は、外から帰ってきただけで少し疲れています。そんな時に玄関まで気合いの勝負にしてしまうと、家に着いたのにまだ戦っているような気分になります。先に置く、手を空ける、ひと呼吸してから動く。そんな流れがあると、玄関はただの通り道ではなく、小さな緩衝地帯になります。濡れた空気を家の中へ持ち込み過ぎず、慌ただしさも少し外に置いてこられる。梅雨時の玄関には、その役目がよく似合います。

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第3章…靴と杖と椅子が味方になる~滑り止めと杖先点検と回転座面の安心支度~

玄関で靴を履く瞬間、人は思った以上に片足立ちになります。普段は何気なくやっている動きでも、床が少ししっとりしていたり、片手が傘で塞がっていたりすると、それだけで雲行きが変わります。梅雨時は床ばかりが注目されがちですが、足元を守る主役はやはり履き物です。滑り止めのある靴を選ぶ、擦り減った靴底をそのまま働かせない、それだけでも安心感はかなり違います。見た目はいつもの靴でも、足裏の機嫌が良いだけで歩き出しが随分と穏やかになります。

靴の脱ぎ履きには、長い靴ベラもよく効きます。少し屈むだけで平気な日もあれば、その少しが妙に遠く感じる日もあります。そんな日は、靴ベラ一本が用意周到な助っ人になったりします。大袈裟な道具立てではなく、前屈みを減らして、掴まる手を残してくれる。こういう静かな働き者は、玄関でこそ光ります。しかも靴を履くたびに「よっこいしょ」と言う回数が減るので、気分の消耗まで抑えてくれます。小さな道具なのに、なかなかやります。

杖を使う人がいるなら、杖先ゴムの点検も見逃せません。杖先ゴムは、杖の先につく滑り難い部分です。ここが擦り減っていると、せっかく杖をついても支えが心もとなくなります。見た目は地味でも、縁の下の力持ちとはこのことです。雨の日の玄関では、安定性から一点杖より四点杖(接地面が広く安定しやすい杖)がしっくりくる人もいます。立ち止まる場面が多い、向きを変える時にふらつきやすい、そういう気配があるなら、杖の種類を見直すだけでも景色が変わります。杖置きがあると、一旦、手を離しても倒れ難く、壁に立てかけた杖が「では私は失礼します」と、勝手に横倒しになる事件も減ってくれます。

玄関では、立ったまま踏ん張る工夫より、座って整えられる工夫の方が人に優しい。

その意味で、とても頼もしいのが固定椅子です。キャスターなしで安定していて、通路を塞がず、出来れば肘掛けがあるもの。さらに座面が九十度クルリと回る形なら、正面からどっこいしょと座って、向きを変えながら靴を脱いだり履いたりしやすくなります。濡れた靴下を替える時も、レインコートを整える時も、立ったままの無理が減ります。回転の横には安定した手すりも大事。ほんのひと息つく場所にもなりますし、外から帰ってきた心を室内モードへ切り替える中継地点にもなります。休憩と実用が同居しているので、一挙両得という言葉がよく似合います。

椅子のそばに手すりがあり、すぐ手の届く位置に荷物置き場があり、床には滑り難い靴。そこへ杖の状態まで整っていたら、玄関は随分と親切になります。雨の日の動きは、若い人でも少し不器用になるものです。まして足元に不安があるなら、道具の助けは遠慮なく借りて良いのです。頑張る力を増やすより、頑張らなくても済む形へ寄せる。玄関の安心は、その考え方から育っていきます。


第4章…乾かす・片づく・ホッとする~湿気と臭いと虫の気配を遠ざける玄関作り~

梅雨時の玄関は、濡れた床だけが相手ではありません。帰ってきた傘、まだ水気を抱えた長靴、うっすら湿った玄関マット、つい床に置きたくなるレインコート。こうした物たちが静かに集まると、玄関の空気はたちまち湿気を溜め込みます。見た目はそれほど散らかっていなくても、足元はしっとり、靴箱はむんわり、傘立ての底には小さな水溜まり。玄関は黙っていても、なかなか正直です。

こういう時に助かるのが、濡れた物の“一時置き先”を決めておくことです。傘や長靴をそのまま床に置くのではなく、受け皿になるトレーへ。玄関マットも洗える物や替えのある物にしておくと、湿ったまま働かせ続けずに済みます。替えがあるだけで、暮らしは意外と泰然自若です。今日濡れた物は、今日のうちに乾く場所へ移る。その流れが出来ると、玄関はグッと呼吸しやすくなります。

玄関が気持ちよく保てるかどうかは、しまう速さより、乾かす順番で決まりやすいのです。

そこで頼もしいのが、送風や乾燥の工夫です。靴乾燥機や小さな送風機、乾いたタオルをすぐ使える位置に置いておくと、濡れた靴や雨具の後始末がグンと軽くなります。電源の取りやすい場所に無理のない形で置ければ、雨の日の終業式が少し早くなります。靴箱の中にも除湿剤を入れて、戸を時々開けて風を通す。たったそれだけでも、籠った臭いが和らぎます。玄関は口数の少ない場所ですが、空気が整うと不思議と機嫌が見えてきます。

臭いの面では、小さな花ややわらかな香りもよい働きをします。大きな鉢をどんと置いて動線を塞ぐのは困りますが、邪魔にならない小ぶりの花が1つあるだけで、帰宅した時の印象は変わります。湿った空気の中に、ほんの少しだけ明るい気配が混じるのです。花は虫よけの主役ではありませんが、空間をスッキリ感じさせる名脇役にはなれます。濡れた物の臭いばかりが先に立つ玄関より、ホッと息をつける玄関の方が、人にも優しいに決まっています。

虫の気配も、梅雨の玄関では気になるところです。ジメジメした隅、外から持ち込んだ土、濡れたままの物が重なる場所は、小さな虫にとって居心地の良い場所になります。ムカデやヤスデ、藪蚊まで大歓迎ではかなり困ることになるので、玄関周りは風通しよく、物を床に溜め込まない方が安心です。吊り下げ型の虫対策グッズを使うのも良いですし、植木鉢の置き方を見直すのも手です。虫だけを目の敵にするより、虫が寄り付き難い環境を作る方が、結果は穏やかです。湿気も臭いも虫も、仲良くしたい相手ではありませんが、暮らしの綻びに敏感という意味では、随分と観察眼がするどい存在たちです。

もう1つ見逃せないのが、明るさです。梅雨の玄関は昼間でも少し暗く、床の濡れ具合や小さな段差が見え難くなることがあります。人感センサーライトがあると、入った瞬間に足元が見えやすくなり、濡れた靴や置きっ放しの荷物にも早く気づけます。明るくなるだけで、片付けようかなという気持ちも少し起きてきます。玄関は説教より照明の方が効くことがある。なかなか含蓄があるところです。

乾かす、しまう、明るくする、ほんのり和む。そんな流れが出来ると、玄関は“濡れた物の仮置き場”から、“帰ってきて気持ちを戻す場所”へ変わっていきます。雨の日のたびに小さく消耗していた気持ちが、少しずつ削られ難くなるのです。玄関の快適さは、見た目の美しさだけでは決まりません。帰ってきた人が「ああ、ここで一旦、落ち着ける」と思えるかどうか。そのひと言があるだけで、梅雨の暮らしはかなり和らぎます。

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まとめ…雨の日ほど玄関でひと呼吸~小さな備えが毎日の帰り道を優しくする~

玄関は、家の中にある小さな通り道です。けれど梅雨が近づくと、その数歩の中に、傘も荷物も湿気も気遣いも集まってきます。床が濡れる、手が足りない、靴がもたつく、杖や荷物の置き場に迷う。そうした小さな出来事が重なると、ほんの短い出入りが、思いのほか消耗する時間になります。反対に言えば、そこに少しだけ手を入れるだけで、玄関は見違えるほど親切になります。

背負いリュックで手を空ける。荷物は先に置く。手すりや椅子で、立ったまま無理をしない。滑り難い靴や杖先ゴムを見直す。濡れた物には乾く場所を用意し、臭いも湿気も溜め込まない。小さな花や柔らかな明かりがあれば、玄関はただの出入口ではなく、帰ってきた気持ちを受け止める場所になっていきます。派手さはなくても平穏無事。そんな玄関は、毎日の暮らしをじんわり助けてくれます。

雨の日ほど、玄関でひと呼吸できる家は、それだけで暮らしに優しいのだと思います。

足元に不安がある人だけの話ではありません。子どもがいても、買い物帰りでも、通院の行き帰りでも、雨の日の玄関はみんな少し不器用になります。だからこそ、気合いで乗り切るより、最初から困り難い形にしておく方が気持ちよく過ごせます。毎日を整える工夫は、何かを我慢するためではなく、少し楽にするためにあるものです。

雨の季節は、空模様ばかりに目が向きがちです。けれど暮らしの機嫌は、案外、家に入るその瞬間に左右されます。玄関が整うと、外のジメジメを家の中まで引きずり難くなります。帰ってきた人が「ああ、助かった」と思えるなら、それは立派な快適さです。数歩の場所に宿る一工夫が、日々の景色を柔らかく変えてくれる。そんな玄関なら、梅雨も少しだけ穏やかに迎えられそうです。

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