冬の後半でバレンタインが施設を救う?~架空チョコ談話から始まる団体戦・おやつ大作戦~
目次
はじめに…恋より先に笑いが届く、2月の甘い作戦会議
バレンタインって、世の中では「チョコを渡す日」で終わりがちです。でも施設の2月後半は、もっと現実的です。寒さで肩が竦み、窓の外はまだ冬の顔。そんな中で「甘いもの」の話題は、やけに強い。だって甘い話は、口に入れる前から心がほぐれるからです。
そして、ここが大事なところ。日本のバレンタインって、どこか「女子が男子を満足させる」空気も残っていますよね。施設でも同じで、男性利用者さんや男性職員が、何故かちょっとソワソワしている。別に「ちょうだい」と言うわけじゃないのに、目が語っている。あの目は、長年の経験で分かります。あれは「期待している目」です。
そこで女性陣が立ち上がるわけです。……と言いたいところですが、ここは福彩心流。頑張り過ぎて疲れる方向には行きません。女性が全部背負うでもなく、男性がただ待つでもなく、「日頃お世話になってる人を、ちゃんと喜ばせたい」を皆で回す。これが一番温かいんです。バレンタインは恋の行事というより、「ありがとうを形にする日」に変身できる。しかも、笑いながら。
今回のお話は、そんな2月の談話から始まります。高齢者さんたちとバレンタイン談義に花を咲かせていたら、出るわ出るわ、実在しないチョコのアイデア。「これ、売ってたら買うのにねぇ」と言いながら、誰も売っていないものを堂々と語る。この“存在しないのに、何故か美味しそう”な空気が、もう面白い。
さらに今回の記事で面白いのは、そのメモを手にした大人たちが、真顔で本気になってしまうところです。普段、理事長はロマン担当、事務長は現実担当、介護士は盛り上げ担当、看護師は安全担当、栄養士は味のまとめ担当。普段はそれぞれ別の戦場で戦っているのに、何故かバレンタインだけは同じテーブルに集まって「試作と試食の団体戦」になる。しかも今回は、おやつとして最後に登場する“本番”がある。愛情を届ける回なので、コストの話はいったん封印。主役は安全性と、口に入れた瞬間の「嬉しい」です。
この物語のゴールは、立派な高級チョコを作ることではありません。第2回の談話で、高齢者さんの前にリアルな1口おやつとして“厳選3種”が登場し、「これ、誰かにあげたくなるね」「これなら僕も満足だ」と、場がポッと明るくなること。バレンタインの甘さって、実は味よりも空気なんだなぁ……と、笑いながら気づくやつです。
さあ、ここからです。最初はただの雑談だったはずのバレンタインが、何故“施設まるごと巻き込む甘い作戦会議”に育っていったのか。まずは高齢者談話で爆誕した、あの「存在しないチョコ」たちの話から始めましょう。
[広告]第1章…高齢者談話で爆誕する「存在しないチョコ」たち
談話室って、不思議な場所です。コーヒーの香りと、テレビの音と、誰かの「ちょっと聞いてよ」が混ざった瞬間、世の中にないものが急に生まれます。しかも冬の後半。外は寒いのに、室内は温かい。こういう時、人は何故か“甘い話”をしたくなるんですよね。
切っ掛けは、いつもの雑談でした。
「もうすぐバレンタインですねぇ」
この一言で、男性陣の目がほんの少しだけ光るのを、女性職員は見逃しません。見逃しませんが、ここで変に煽らないのがプロです。「期待してるでしょ」と突っ込むと照れて黙る。だからニコッとして、サラッと続けます。
「昔は、どんなチョコもらいました?」
そこからは、話の雪崩です。昔の職場の話、若い頃の話、奥様の話、もらえなかった話まで出る。もらえなかった話は、何故か一番ウケる。本人も「いやぁ、俺はねぇ!」と気合いが入ってしまい、周囲が笑う。バレンタイン、恋の行事というより、もう“回想イベント”です。
そして、事件が起きます。
女性利用者さんが、急に真顔で言うんです。
「売ってるのは、だいたい同じ味でしょう。つまらないわね」
この瞬間、談話室の空気が変わります。ここから先は、チョコの話じゃありません。「私たちなら、どんなチョコを作る?」という“空想の大会”が始まる合図です。誰かが言いました。
「ほら、あれよ。しょっぱいチョコ」
男性陣が即座に首を傾げます。
「しょっぱいのにチョコ?」
「そうよ。人生だって甘いだけじゃないでしょ」
いきなり名言っぽいのが出て、周りが笑う。チョコの話なのに、人生訓が混ざる。これが談話の面白さです。
次に飛び出したのが、想像の斜め上でした。
「湯豆腐チョコ」
言った本人は、けろっとしています。周囲は一瞬フリーズして、次の瞬間に笑いが爆発します。
「それ、チョコじゃなくて湯豆腐じゃないの」
「違うの。見た目はチョコなの。食べたら、心が湯豆腐になるの」
心が湯豆腐。意味が分からないのに、何故か分かる気がしてしまうから困ります。
すると男性利用者さんが、負けじと続けます。
「じゃあ俺は、畳の香りチョコだな」
「え、畳!?」
「食べた瞬間、旅館に行った気分になるやつ」
「それは良い!温泉まんじゅうのライバルだね」
談話室の中で、勝手に温泉旅行が始まります。外は寒いのに、心の中は湯けむりです。
このあたりで、介護士がそっとメモを取り始めます。理由は簡単です。放っておくと、話が宇宙へ飛ぶからです。宇宙へ飛ぶ前に、地上で拾っておく。これが大事。
しかも、このメモが後で“団体戦の火種”になります。理事長と事務長が、これを見て真顔になる未来が、既に見える。見えるのに、止められない。何故なら、談話室の勢いは強いからです。
さらに面白いのは、女性陣の“男子を満足させる視点”が、ここで自然に出てくることです。女性利用者さんが、男性陣の反応を見ながらこう言うんです。
「男の人はね、結局“おおっ”って言いたいのよ」
「おおっ?」
「そう。口に入れた瞬間に“おおっ”ってなるやつ」
この一言で、全員が納得顔になります。男性陣も照れながら頷く。結局、バレンタインの正体は“驚きと満足の一口”なんです。
だから、アイデアがだんだん現実寄りに整っていきます。空想の中でも、ちゃんと「食べやすい」「香りが良い」「一口で満足できる」が混ざり始める。ここが施設の談話の凄いところで、ふざけているようで、最後は優しさに着地するんです。
談話の終盤、誰かがポツリと呟きました。
「売ってないなら、作れば良いじゃない」
この瞬間、メモ帳の価値が跳ね上がります。しょっぱい、湯豆腐、畳。ふざけたようで、何故か捨てがたい。むしろここからが面白い。あの理事長が、これを見たらどう言うのか。事務長は眉間にシワを寄せるのか。栄養士は味をまとめられるのか。看護師は安全の旗を振れるのか。介護士は盛り上げ役をどう回すのか。
談話室で生まれた“存在しないチョコ”たちは、こうして紙の上に捕獲されました。次の舞台は、試作会です。ふざけたメモが、真顔の大人たちを動かす。冬の後半、バレンタインはここから本当に施設を巻き込み始めます。
第2章…理事長・事務長・介護士・看護師・栄養士が真顔の試作会を開幕!
談話のメモは、たった数枚の紙でした。ところがその紙は、冬の後半の施設において、時々「世界を動かす書類」になります。会議室に持ち込まれた瞬間、いつもの議題とは違う緊張が走るんです。なにせ書いてあるのは、真面目な業務連絡ではありません。
「しょっぱいチョコ」「湯豆腐チョコ」「畳の香りチョコ」
事務長がメモを見たまま、ゆっくり顔を上げました。目が言っています。「……これは、何の稟議ですか」と。
理事長は、逆に目が輝きます。「良いねぇ」と言いそうな顔です。
介護士は、現場の空気を知っているので、もう半分笑っています。「あの談話、盛り上がりましたもんねぇ」と、火に油を注ぐ役。
看護師は、最初から落ち着いていて、既に安全の旗を心の中で振っています。
栄養士は、メモを指でトントンしながら、静かに戦闘態勢に入りました。「……まとめます」と一言。頼もしい。
今回のバレンタインのお話は、ちょっと特別です。男性利用者さんも男性職員も、何故か楽しみにしてしまうあの空気。そこに、女性陣の「喜ばせたい」という気持ちが混ざると、勢いが出ます。とはいえ、誰か1人が頑張り過ぎると続きません。だからこその団体戦。しかも今回は「愛情を届けるおやつ」がテーマなので、余計な遠慮は脇に置いて、主役は安全性と満足感です。事務長も、そこだけは異議なし。コストの話が封印された事務長は、代わりに別の武器を出してきます。
「……では、これは『実現可能か』ではなく『実現しても安全か』で審査します」
口調は冷静なのに、ちょっと面白い。理事長がニッコリします。
「良いねぇ、今日は“愛の監査”だね」
「監査は監査です」
この時点で、会議室の空気はもう勝ちです。バレンタインらしい甘さは、まだひと粒も登場していないのに、既に場が甘い。
試作会は、まず現実の土台作りから始まりました。栄養士が言います。
「談話の“世界観”は大事にします。ただ、味はちゃんと美味しくします」
理事長が頷きます。「夢は残して、舌は裏切らない。良いねぇ」
看護師が続けます。「一口で終わる、口溶けが良い、硬過ぎない。これは絶対です」
介護士も重ねます。「食べる時間が楽しくなる、見た目が可愛い、話が弾む。ここも大事です」
事務長は腕を組みました。「……そして、配る時に混乱しない」
理事長が軽く笑います。「愛を配るのに、混乱は不要だよねぇ」
事務長は真顔のままです。「不要です」
こうして、談話のメモは“現場で出せる一口おやつ”へと姿を変え始めます。ここが面白いところで、元がどれだけ無茶でも、専門職が集まると「無茶が程良い面白さ」に整っていくんです。湯豆腐チョコも、畳の香りチョコも、完全に消えるわけじゃない。形を変えて生き残る。まるで伝説の生物の進化みたいに。
「湯豆腐チョコって、要するに“優しい”ってことですよね」
栄養士が言うと、全員がハッとします。
「口の中がホッとする、温泉みたいな安心感」
理事長が乗ります。
事務長が確認します。「温泉成分は入りませんよね」
介護士が笑いながら言います。「入れませんってば」
看護師は真面目です。「でも“ホッとする”は大事です。香りと口溶けで作れます」
畳の香りチョコも、同じです。
「畳は、旅館の記憶です」
理事長が言うと、急に名言っぽい。
「記憶で食べるおやつ、ですね」
栄養士が受けます。
事務長は眉を寄せながらも、今日は愛の監査官です。
「……香りで“旅館”を作るなら、刺激が強過ぎない方が良い」
看護師が即頷きます。「それは賛成です」
この辺りから、会議室は“真顔の遊び場”になります。みんな本気なのに、扱っている題材がふざけている。ギャップが笑いを生むんです。しかも、試作が始まるとさらに加速します。
まず登場したのは、見た目が可愛い小粒タイプ。介護士が「宝石みたいにしたい」と言い、理事長が「うん、それは愛だねぇ」と言い、栄養士が「一口で終わるサイズにします」とまとめ、看護師が「硬くしないでくださいね」と釘を刺し、事務長が「配る順番も決めましょう」と締める。
この流れ、何故か全部が気持ち良い。団体戦ってこういうことです。
そして、事件はだいたいここで起きます。試食の瞬間です。
最初のひと口、栄養士が慎重に頷きます。「香り、良いですね」
看護師が頷きます。「口溶け、問題なし」
介護士が笑います。「これ、女子が男子に渡したら“おおっ”って言いますね」
理事長が満足そうに目を細めます。「ほら、もう“おおっ”が出た」
事務長が真顔で言います。「“おおっ”は評価基準に入りますか」
理事長が即答します。「入る」
事務長は一拍置いてから、ペンを走らせます。「……では、入れます」
会議室に笑いが落ちて、空気が柔らかくなります。ここが一番大事で、バレンタインの「喜ばせたい」は、頑張り過ぎると疲れます。でも笑いがあると、ちゃんと続く。男性陣を満足させる視点も、ここでは「大袈裟に持ち上げる」じゃなくて「一口で気分が上がる仕掛けをみんなで作る」切り替えスイッチに変わるんです。押し付けがなくて、優しさだけが残る。
ただし、試作会は甘いだけでは終わりません。次の試作品で、理事長が口に入れた瞬間、ほんの少し目が泳ぎました。
栄養士が聞きます。「……どうですか」
理事長がゆっくり言います。「これは……冒険だねぇ」
介護士が首をかしげます。「褒めてます?」
事務長が即座にメモします。「冒険、という評価」
看護師が静かに助け舟を出します。「香りが強いと、好みが分かれます。安全性は問題なくても、驚きが勝つ可能性があります」
この“驚きが勝つ”という言い方が、すごく便利です。バレンタインだからこそ驚きは欲しい。でも驚き過ぎると、満足より先に顔が固まる。団体戦の目的は、相手を驚かせて黙らせることじゃありません。驚かせて笑わせて、最後に「美味しいね」で終わること。そこで、栄養士が宣言します。
「談話で出たアイデアは残します。ただ、味は“優しい驚き”にします」
良い言葉です。優しい驚き。理事長が頷きます。
事務長も、今回は敵ではありません。「その方針なら、賛成です」
介護士が小声で言います。「今日の事務長、なんか優しい」
事務長は聞こえないフリをしました。聞こえているはずなのに。
こうして試作会は、ふざけたメモを土台にしながら、真面目に、でも楽しく進んでいきました。会議室には、いつの間にか“職種の違い”じゃなく“同じ目標に向かう感じ”が出来ている。バレンタインの本質はここかもしれません。女子が男子を満足させる、という一方向じゃなくて、皆で「誰かの嬉しい」を作りにいく。
次はいよいよ試食会の後半戦です。安全性の目で絞り込み、談話から出せる「リアル一口おやつ」に仕上げる最終戦。甘いのに、何故か真剣。真剣なのに、何故か笑える。冬の後半の施設に、そんな時間が生まれ始めます。
第3章…試食会は裁判かそれとも愛か~安全性で絞り込む最終戦~
試作会の空気が既に甘かったせいか、試食会は何故か“法廷”みたいになりました。会議室のテーブルに並んだ小さな一口たちが、まるで被告人みたいに整列しているんです。誰も「裁判です」とは言っていないのに、事務長がペンを持った瞬間、空気が勝手に引き締まるのが怖いところです。
「では、試食を開始します」
事務長が宣言すると、理事長が小声で呟きました。
「今日は愛の審理だねぇ」
事務長は一拍置いて、冷静に返します。
「審理は審理です」
介護士が笑いをこらえながら、「法廷の人、来ました」と心の中で拍手します。看護師は既に“安全が最優先”の表情で、栄養士は“味は守る”の表情。ここまで役割がはっきりしている試食会、ちょっと見たことがありません。
今回の目標は、ただ「美味しい」を決めることじゃありません。談話で出た“存在しないチョコ”の面白さを、ちゃんと現実の一口おやつに落として、しかも安全に出せる形にすること。さらに、バレンタインらしく「女子が男子を満足させる」目線も、柔らかく入れていきたい。つまり、口に入れた瞬間に男性陣が「おおっ」と言いたくなる、でも無理はしない。驚きは優しく、満足はしっかり。欲張りですが、団体戦でならいけます。
最初に出てきたのは、香りがフワッと立つタイプでした。理事長が口に入れた瞬間、表情が少し緩みます。
「……これは、旅館の玄関みたいだねぇ」
さっそく出た“旅館”。畳の香りチョコの魂が、形を変えて生き残っています。介護士が嬉しそうに言います。
「ほら、畳が成仏しました」
事務長がすかさず訂正します。
「成仏していません。落ち着いた香りに変換されただけです」
看護師が頷きます。「香りが強過ぎないのは良いですね。食べる前から気分が上がります」
栄養士が小さくガッツポーズをしました。香りで笑顔が出ると、もう半分勝ちです。
次に出てきたのは、口溶けで勝負するタイプ。見た目はシンプルなのに、口に入れると解けるように消えていきます。男性利用者さんの顔を思い浮かべた介護士が言いました。
「これ、硬くないから安心だし、満足感もある。男子も“おおっ”って言いやすい」
理事長がニッコリします。「そうそう、男子は“おおっ”が言いたいんだよねぇ」
事務長が真顔で聞き返します。
「“おおっ”は、どの程度の音量を想定していますか」
全員が黙って、次の瞬間に笑ってしまいました。栄養士が笑いながら答えます。
「小さめで大丈夫です。控えめの“おおっ”で」
事務長は納得したようにメモを取ります。「控えめのおおっ、了解です」
看護師は笑いながらも真面目に言いました。「口溶けが良いのは助かります。安心して出しやすい」
この瞬間、法廷がちょっと優しくなります。裁判っぽい空気はあるのに、判決が“愛”の方向へ寄っていく。不思議です。
そして問題児が登場します。談話で人気だった「しょっぱいチョコ」の系統。試作会の段階から“やさしい驚き”に寄せていたのに、試食会で口に入れた理事長が、ほんの少し遠い目をしました。
「これは……人生だねぇ」
褒めているのか、困っているのか、判別が難しい顔です。介護士が恐る恐る聞きます。
「理事長、それは……美味しいの方向ですか?」
理事長は正直に言いました。
「記憶に残る。でも、毎日は会いたくない」
栄養士が即座にまとめます。「良い表現です。記憶に残るけど毎日は会いたくない」
事務長が頷きます。「つまり、採用すると現場がざわつく」
看護師が優しく補足します。「驚きが勝つと、食べるより先に顔が固まる方もいます。今回は“嬉しい”が主役なので、驚きは控えめが良いですね」
ここで一度、全員が同じ方向を向きます。バレンタインだからといって、奇抜さで勝負する必要はない。むしろ「この一口なら安心して笑える」が勝ち。男子を満足させるのも、派手に驚かせることじゃなくて、口に入れた瞬間に“良い顔”が出ること。女性側が頑張り過ぎて疲れるより、皆で「ちょうど良い喜び」を作る方が長く続く。施設のバレンタインは、そういう強さがあります。
それでも理事長は、少しだけ未練がありました。
「でもさ、しょっぱい系がゼロだと、談話の魂が寂しくない?」
ここで栄養士が、一番頼もしい顔をします。
「ゼロにはしません。魂は残します。味は、優しくします」
事務長も今日は愛の監査官です。
「“魂は残して、刺激は減らす”なら賛成です」
介護士が感心します。「今日の事務長、愛に理解がある」
事務長は聞こえないフリをしました。聞こえているはずなのに。
試食会の終盤、テーブルの上には“候補になれる一口”だけが残りました。ここから先は、味だけでは決まりません。次の談話で実際に出す時、どれが一番場を明るくするか。どれが一番「誰かにあげたい」と思えるか。どれが一番「男子が満足した顔になるか」。そして何より、どれが一番安全に出せるか。
理事長が静かに言います。
「じゃあ、最後は“談話の反応”で決めよう」
看護師が即頷きます。「それが一番良いです」
栄養士も同意します。「現場の笑顔が、最終判定ですね」
事務長はペンを置いて、珍しく柔らかい声で言いました。
「……判決は、談話室に委ねます」
その言い方が、完全に裁判で、完全に優しい。誰かが小さく笑って、全員が笑って、試食会はフワッと終わりました。こうして“厳選3種”は、まだ正式決定ではないまま、いったん談話室へ持ち込まれることになります。
次はいよいよ第2回の談話。高齢者さんの前に、リアル一口おやつとして候補が登場します。あの“存在しないチョコ”たちが、どんな顔で現れるのか。そして男性陣は、控えめの「おおっ」と言えるのか。冬の後半の施設は、ここから一番美味しい場面に入ります。
第4章…第2回談話で登場!リアル1口おやつ“厳選3種”の感動と大混乱
第2回の談話の日、談話室の空気はいつもと違いました。いつものお茶、いつもの椅子、いつものテレビ。見た目は同じなのに、何故か「今日は何かある」と全員が分かっている。特に男性陣。口では何も言わないのに、姿勢が少しだけ前のめりです。あの感じ、ありますよね。狙いが分かりやす過ぎて、逆にこちらが照れるやつです。
介護士が、いつもの調子で軽く言います。
「今日はね、前回のお話の続きです。あの“存在しないチョコ”が、ちょっとだけ現実になってます」
「えっ」
声が揃う。揃い方が、なんとも可愛い。
そこへ栄養士が入ってきました。手にはトレー。看護師も一緒です。理事長と事務長は、何故か少し遅れて入ってきます。たぶん“審査員の入場”をしたいのでしょう。理事長は自然に笑顔、事務長は自然に真顔。いつもの二人なのに、今日は二人とも“やけに役に入り込んでいる”感じがします。
テーブルに置かれたトレーの上には、小さな一口おやつが3種類。ここで大事なのは、量より空気です。山盛りにしない。大きくしない。たった一口で「特別」を出す。冬の後半は、こういう“少しの贅沢”が心に効くんです。
理事長が、わざとらしく咳払いをしました。
「えー、本日の…」
事務長がすかさず遮ります。
「前置きは短く」
談話室に笑いが落ちます。はい、もう勝ちです。
介護士が説明します。
「前回の談話で出たアイデアを元に、皆で試作して、試食して、最後に3つに絞りました。今日は、その3つを“リアル1口”で食べてみて、感想を聞かせてもらいます」
「おお…」
早速出ました、控えめのおおっ。第3章で決めた評価基準が、ここで実績を出します。
最初に出たのは、香りで気分を持ち上げるタイプ。包装を開けた瞬間、フワッと香る。いかにも「畳の香りチョコ」の魂が、旅館の玄関くらいの温度で戻ってきた感じです。
男性利用者さんが、口に入れる前に言いました。
「これ、もう旨い気がする」
その時点で、勝ちです。味はまだなのに、心が先に喜んでいる。
ひと口食べて、女性利用者さんが目を細めます。
「あら、優しい」
男性陣がすかさず頷く。
「うん、優しい」
理事長が胸に手を当てて言いました。
「恋の香りは、優しさから始まるんだねぇ」
事務長は真顔で返します。
「始まりません」
爆笑。談話室が一気に温かくなりました。
二つ目は、口溶け勝負のタイプ。見た目は控えめなのに、口に入れた瞬間にほどける。看護師が横で見ながら、さりげなく頷きます。言葉は少ないのに、あの頷きは大きい。「これなら安心」という印です。
男性職員がひと口食べて、思わず本音が出ました。
「これ、女子がくれたら…普通に嬉しいっす」
談話室が「分かる~」の空気になります。女性陣が笑い、男性陣が照れ笑いし、介護士が「はい出ました」と心の中で拍手する。ここがポイントで、バレンタインの“女子が男子を満足させる視点”は、派手な演出じゃなく、こういう一言を引き出すことなんです。頑張り過ぎないのに、ちゃんと嬉しい。これが一番強い。
理事長が満足そうに言います。
「ほらねぇ、“おおっ”じゃなくても、もう合格だよ」
事務長は頷きます。
「はい、合格です」
この日一番の事件は、事務長があっさり合格と言ったことかもしれません。
そして三つ目。ここで場がザワッとします。談話の魂をほんの少し残した“しょっぱい系”の名残。とはいえ試食会で矯正済みなので、驚きは優しめ。名前だけは少し攻めています。理事長がニヤリとしました。
「これは…“大人の人生ひと摘まみ”です」
事務長が訂正します。
「商品名に人生を入れないでください」
介護士が笑いながら言います。
「でもウケますよ、人生」
男性利用者さんが口に入れた瞬間、少しだけ顔が固まって、次の瞬間に笑いました。
「なんだこれ!でも…嫌いじゃない」
女性利用者さんが即座に言います。
「ほら、そういうのが男子は好きなのよ」
男子は言い返せません。何故なら当たっているからです。
ここで看護師が、空気を壊さずにサラッと言います。
「皆さん、飲み物も一緒にどうぞ」
この一言があると、場が安心します。安全性が主役だと、こういう“さりげない支え”が効くんです。説教でも注意でもなく、自然な導線。施設の優しさは、こういうところに出ます。
さて、3つ食べ終わったところで、談話室は“勝手に総選挙”に入ります。誰かが言いました。
「一番はどれ?」
理事長が身を乗り出します。「聞こうじゃないか」
事務長も身を乗り出します。今日は愛の監査官です。
介護士は、ここで焦らない。答えを急がせない。少し間を置いて、ゆっくり聞きます。
「誰にあげたくなりました?」
この質問が、バレンタインの核心です。自分が好き、だけだと好みの話で終わる。でも「誰にあげたい?」になると、愛情の話になります。男性利用者さんが、照れながら言いました。
「……妻に」
場が一瞬静かになって、すぐに温かい笑いが起きます。冷やかしじゃない笑いです。
別の男性職員が言いました。
「母に…かな」
女性陣が「良いねぇ」と頷く。
女性利用者さんは、ニヤッと笑って言いました。
「私はね、あの事務長さんに」
事務長が固まります。理事長が大笑いします。
「ほら、事務長も満足させる側に入ったよ!」
事務長は真っ赤にならない代わりに、真顔のまま小さく言いました。
「……光栄です」
談話室が拍手に包まれます。
こうして“厳選3種”は、ただの味比べではなく、誰かに向けた一口になりました。勝ち負けより、気持ちが届くこと。女子が男子を満足させる視点も、押し付けではなく「一口で嬉しい顔を引き出す」形で自然に実現しました。そして安全性も、看護師のさりげない導線と、皆のゆっくりした食べ方でちゃんと守られている。
最後に理事長が締めます。
「バレンタインはね、恋じゃなくても良い。今日みたいに、誰かのために笑えるなら、それで十分だよ」
事務長が小さく付け足します。
「十分です」
外はまだ冬の顔。でも談話室は、もう春みたいでした。次は、ここで生まれた“一口の時間”が、どうやって施設の空気を変えていくのか。最後にまとめで、しっかり味わって終わりにしましょう。
[広告]まとめ…バレンタインの正体はチョコじゃない~皆で作る「嬉しい時間」だった~
バレンタインというと、どうしても「チョコを渡す日」の話になりがちです。さらに言えば、日本の空気では「女子が男子を満足させる日」になりやすい。だからこそ、施設の2月後半でこの話題を扱う時は、少しだけ視点を変えると面白くなります。満足させるのは、誰かが頑張って背負うことじゃなくて、皆で笑いながら作っていくもの。今回の“架空チョコ談話から始まる団体戦”は、そのことを綺麗に見せてくれました。
最初は、談話室の雑談でした。売っていないのに、何故か美味しそうな「存在しないチョコ」が次々に生まれて、笑いが起きて、話が広がっていく。あれは単なる冗談に見えて、実は“気持ちの準備運動”だったんだと思います。誰かに何かを渡すって、照れます。とくに高齢者さんも男性陣も、照れがある。でも「面白い話」なら参加できる。そこが談話の強みです。
次に、そのメモが大人たちを真顔にしました。理事長はロマンで押し、事務長は現実で整え、介護士は場を温め、看護師は安全を守り、栄養士が味をまとめる。職種が違うからこそ、役割が分かれ、団体戦が成立しました。コストを度外視に出来たのも、今回のテーマが「愛情を届ける一口」だったからです。高いものを作るという話ではなく、受け取った人の表情が柔らかくなる一口を作る。そこに価値がありました。
そして試食会。あれは裁判みたいで、でもちゃんと愛でした。安全性が主役になると、空気が引き締まります。でも引き締まり過ぎると楽しくない。そこを「真顔のユーモア」で支え合えたのが、この企画の勝ち筋です。事務長の“愛の監査”が、最後には談話室の笑いに溶けていったのも象徴的でした。
第2回の談話で、厳選3種がリアル一口おやつとして登場した瞬間、ようやくバレンタインの本体が姿を見せました。香りで気分が上がる、口溶けで安心できる、少しだけ冒険して笑える。どれも「奇抜さで黙らせる」ではなく、「優しい驚きで笑わせる」方向にまとまっていたから、男性陣の満足も、女性陣の達成感も、自然に生まれました。女子が男子を満足させる視点も、無理をしない形でちゃんと叶った。誰かにあげたくなる、という言葉が出た時点で、もう勝ちです。
この企画は、バレンタインを“恋”だけの行事にしませんでした。誰かを喜ばせたい気持ちを、談話の笑いに変えて、専門職の力で形にして、最後はまた談話室に返す。つまり、施設の中にある優しさを循環させたんです。外はまだ冬の顔でも、談話室の空気は少し春に近づく。たった一口で、それが起きる。だからバレンタインは、チョコそのものより「嬉しい時間」を作る行事なんだと思います。
もし来年もやるなら、最初の談話で出た“存在しないチョコ”を、毎年少しずつ集めていくのも楽しいです。いつか「うちの施設だけの架空チョコ図鑑」が出来たら、男子も女子も、理事長も事務長も、きっとまた真顔で笑うはずです。冬の後半は寒い。でも、こういう甘い作戦会議があると、寒さはちゃんと笑いに変わります。
今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m
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