梅雨の1日を夏祭り前夜に~6月から育てる高齢者レクリエーション~

[ 季節と行事 ]

はじめに…雨の日こそ準備!~祭りは室内から始められる~

6月の空は、朝からシトシト。窓の外を見ても雨、玄関を見れば濡れた傘、何となく気分まで湿りがちです。高齢者施設でも外へ出にくい日が続けば、「今日も室内で何をしようかな?」と職員さんの頭上にも小さな雨雲が浮かびます。いや、天気予報に職員の頭上までは出ませんけれども。そんな日こそ、少し先の夏を部屋の中へ連れてきても面白いものです。浴衣や甚平を広げたり、祭りの歌を口ずさんだり、夏らしい食べ物の話をしたりするだけでも、梅雨の1日はグッと表情を変えます。

夏祭りは、本番の日だけが楽しいわけではありません。「この柄、似合うかな」「あの歌なら歌えるよ」「屋台なら何が食べたい?」と話している時間にも、もう祭りの空気は生まれています。準備とレクリエーションを別々に考えず、みんなで楽しみながら少しずつ進めれば一石二鳥。職員だけが汗をかいて準備し、当日に利用者さんをご案内する形とは、少し違った景色が見えてきます。

夏祭りは、花火が上がった瞬間ではなく、「楽しみだね」と誰かが言った時から始まっています。梅雨で外に出られない1日も、見方を変えれば夏への助走期間です。雨音をBGMにしながら、衣装を選び、声を出し、香りや思い出まで味方につける。そんな準備の日なら、7月や8月を待たなくても、6月から笑顔の季節を始められそうです。

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第1章…浴衣を着る前から楽しい~衣装選びをレクに変える~

倉庫や収納棚から浴衣や甚平を出してくると、それだけで部屋の空気が少し変わります。たたまれた布を広げた瞬間に鮮やかな柄が現れ、「あら、綺麗ね」「こんなのもあったの?」と声が集まってくる。夏祭りの衣装準備を職員だけの作業にしてしまうのは、少々もったいないところです。色を眺め、柄を選び、誰に似合いそうか話す時間そのものをレクリエーションにすれば、梅雨の室内にも一足早く夏がやってきます。

最初に確かめたいのは、サイズや傷み、ほつれなどです。ただし、点検だけで終われば本当に衣装整理になってしまいます。「この紺色、似合いそうですね」「私はもっと派手なのが良いわ」と会話を交えながら進めれば、和気藹々とした衣装選びに早変わりします。昔着ていた浴衣の話や、地域のお祭りへ出掛けた記憶が自然に出てくることもあるでしょう。服には不思議なくらい、その人の記憶を連れてくる力があります。

実際に肩へ軽く合わせてみるだけでも十分です。鏡を見ながら「こっちの色かな?」「いや、赤も捨てがたい」と迷う時間まで楽しみにしてしまいましょう。昨年、ピッタリだったものが少し窮屈なら、「あれ?浴衣が縮んだのかな」と言いたくなりますが、浴衣だけを容疑者にするのは少々気の毒です。そんな小さな笑いも交えながら、無理なく着られるものを探していけば、一喜一憂の衣装合わせも立派な季節行事になります。

さらに余裕があれば、団扇を持って少し歩いてもらったり、職員が「よくお似合いです」と声を掛けたりして、ほんの短いお披露目時間を作るのも楽しそうです。誰かと競う必要はありません。拍手が起こり、照れ笑いが返ってくるだけで、いつもの廊下が少し華やぎます。浴衣や甚平を選ぶ時間は、服を決める時間ではなく、その人の「楽しみ」を先に着てもらう時間です。

夏祭りは当日だけ豪華絢爛にすれば良いものではありません。6月から衣装を出し、「今年はどれにしよう」とみんなで話しておけば、その会話が次の楽しみへ繋がります。準備を裏方仕事だけにせず、人と人が笑う時間へ変えていく。そうすると、まだ雨の続く窓の向こうに、少しだけ夏祭りの景色が見えてくるのです。


第2章…歌えば会場が動き出す~声とリズムで育てる祭りの空気~

浴衣や甚平を眺めて気分が少し華やいだら、今度は耳から夏祭りを育ててみましょう。マイクを1本用意して、画面に歌詞を映す。それだけでも、いつもの部屋に「何か始まりそう」という空気が漂います。最初は「私は聴くだけで良いよ」と遠慮していた人が、知っている前奏が流れた途端に小さく口ずさみ始めることもあります。職員が先に歌ってみたら、音程が迷子になって利用者さんの方が助けてくれる……そんな逆転劇まで起きれば、もう大成功です。

歌うことを、上手下手だけで考える必要はありません。口を開き、舌や唇を動かし、息を使って声を出すことは、普段あまり意識しない口周りを動かすキッカケにもなります。嚥下(食べ物や飲み物を口から胃へ送り込む働き)を大切にする高齢者の暮らしでは、無理のない範囲で声を出したり、表情を動かしたりする時間も楽しい刺激になります。ただし、体調や声の出しやすさには個人差がありますから、「全員で大声を出しましょう」と号令を掛ける必要はありません。聴く人、手拍子する人、サビだけ参加する人までいてこそ、十人十色のカラオケ時間です。

選ぶ曲も一種類に固めないほうが面白くなります。懐かしい童謡に反応する人もいれば、演歌のイントロが流れた瞬間に背筋が伸びる人もいます。少し新しい歌を職員が担当すれば、「その歌、知らんなぁ」と笑われるかもしれません。それならそれで良し。次は利用者さんが先生役になって、昔の歌を教えてもらえば意気投合です。歌のレクリエーションで大切なのは、正しく歌うことより、その人が参加したくなる入口をたくさん用意することです。

マイクを持たなくても、肩を揺らしたり、手拍子をしたり、好きな歌手の話をしたりすれば十分に仲間入りできます。「好きこそ物の上手なれ」と言いますが、歌は特にその言葉がよく似合います。普段は静かな人が一曲だけ朗々と歌い、終わった瞬間に何事もなかったような顔へ戻ることもあります。職員としては「今のアンコールしたいんですけど」と言いたくなりますが、ご本人が満足そうなら、その余韻まで大切にしたいところです。

みんなが同じように盛り上がらなくても構いません。一心同体を目指すより、それぞれの楽しみ方が同じ場所に集まっていることの方が自然です。歌う人の横で笑う人がいて、手拍子する人がいて、職員までつられて声を出す。そんな時間が生まれれば、雨の音がしていた部屋にも、少しずつ祭りのざわめきが混じってきます。夏祭りの会場作りは、飾り付けより先に、人の声から始めても良いのです。

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第3章…屋台の楽しさは五感で作れる~香りと音で夏を先取り~

歌って声を出した後は、不思議とお腹まで祭り気分になってきます。そんなところへ、どこからか焼ける香りがフワリ。ジュッという音が聞こえれば、まだ屋台が並んでいなくても気持ちはもう夏祭りです。食べ物のレクリエーションには、口へ運ぶ前から楽しめる時間があります。見た目、音、香り、そこから呼び起こされる記憶まで含めれば、食事は五感を使った立派な催しになります。

炭火や七輪を使える環境なら、火の扱い、換気、煙の流れを十分に確認しながら進めたいところです。施設によって設備や安全上の条件は違いますから、無理に本格的な焼き場を作る必要はありません。それでも、調理の様子が見える場所を作ったり、焼ける音を感じてもらったりするだけで臨場感は生まれます。調理担当だけに任せきらず、介護職員や栄養に関わる職員も一緒に動けば、協力して1つの時間を作る一挙両得の機会にもなります。

干物なら表面が焼ける香ばしさ、肉なら鉄板へ置いた瞬間の音。そんな刺激から、「昔は庭で焼いたなぁ」「祭りではこれを食べたよ」と話が始まるかもしれません。食べ物はお腹だけでなく、記憶まで突いてくるところが面白いものです。「まだ焼けないの?」と催促が飛んできたら、職員としては少し焦りますが、それだけ楽しみにしてもらえている証拠でもあります。焼き担当だけ妙に真剣な顔になり、周囲は待つだけで盛り上がる。焼き場というのは、なかなか不公平な舞台です。

もちろん、高齢者の食事では食べやすさへの配慮も欠かせません。嚥下(食べ物や飲み物を飲み込む働き)の状態や食事形態に合わせ、硬さや大きさを調整し、その人が安心して楽しめる形にします。目の前で焼いたものを必ずそのまま食べる必要はなく、同じ香りや雰囲気を味わいながら、その人に合った料理を用意する方法もあります。祭りらしさは、同じ物を食べることではなく、同じワクワクを一緒に味わうところから生まれます。

少量ずつ味わえる形にすれば、「次は何かな?」という期待も続きます。あれも少し、これも少しと進んで、気づけば「試食のはずだったよね?」という状態になるかもしれません。そこは腹八分目を忘れずに、と職員同士で笑えるくらいがちょうど良いでしょう。和気藹々と焼ける音を囲み、香りに誘われ、昔話まで飛び出す。そんな時間ができれば、外は梅雨空でも、室内には十分な夏があります。


第4章…失敗できる日が本番を助ける~職員も楽しむ予行練習~

浴衣を出し、歌を歌い、食べ物の香りまで楽しんだら、「もう夏祭りをやったようなものでは?」という気分になってきます。けれど、予行練習にはもう1つ大きな役目があります。本番で慌てそうなところを、笑って見つけておくことです。衣装の数が足りない、マイクの位置が使いにくい、移動する通路が少し狭い。そんな小さな引っ掛かりが見つかったなら、失敗というより収穫です。

衣装担当なら、サイズや名前の確認をしながら「これは誰のだっけ?」が発生するかもしれません。音響担当なら、マイクのコードが足元を横切っていることに気づくかもしれません。食べ物を扱う場所では、煙や香りが思わぬ方向へ流れることもあります。準備中なら、「あ、これは変えよう」で済みます。本番の日に全員が右往左往するより、6月のうちに一度ドタバタしておく方が安心です。試行錯誤しながら少しずつ整えていけば、職員同士にも阿吽之息が生まれてきます。

そして、夏祭りを支えるのは目立つ担当ばかりではありません。司会をする人、写真を撮る人、食事を運ぶ人、誘導する人、その間にも普段の介助は続いています。「今日はお祭りだから通常業務もお休み!」となれば職員も喜びそうですが、もちろんトイレの時間は祭りの予定表を読んでくれません。そんな時に、誰かがサッと動き、別の人が自然に持ち場を埋める。そうした臨機応変な連携こそ、本番を支える大切な力です。

予行練習の日には、職員自身にも楽しんでもらいたいものです。「私は裏方だから」と表情まで裏方にならなくても大丈夫。司会が少し張り切り過ぎたり、焼き担当が妙に職人気質になったり、写真係が良い瞬間を狙ってそっと移動したりする姿も含めて、祭りの空気は出来上がります。良い行事は、利用者さんだけを楽しませるのではなく、支える職員まで自然に参加者へ変えていきます。

終わった後には、「あそこは良かったね」「あの場所は通りにくかった」「次はこうしたい」と気軽に話せる時間があると、本番の姿がさらに見えやすくなります。反省会という名前にすると急に会議室の空気が漂いますので、「祭り作戦会議」くらいでも良いかもしれません。失敗を責める場ではなく、気づきを持ち寄る時間にする。その積み重ねが、本番当日の安心と笑顔を支えてくれます。

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まとめ…準備の日まで楽しくなれば夏祭りはもう始まっている

夏祭りという言葉を聞くと、提灯が並び、音楽が流れ、屋台の香りが漂う本番の日を思い浮かべます。けれど、その楽しさは当日だけのものではありません。6月の雨の日に浴衣を広げ、「どれが似合うかな?」と笑う。懐かしい歌を口ずさみ、焼ける香りに昔のお祭りを思い出す。そんな何気ない時間にも、夏へ向かう気持ちはちゃんと動き始めています。

準備を職員だけの仕事にせず、利用者さんと一緒に楽しめる時間へ変えてしまえば、梅雨の一日にも新しい役割が生まれます。衣装を合わせながらサイズを確かめ、歌いながら音響の位置を試し、食べ物を楽しみながら動線や安全も確かめる。1つ1つは小さなことでも、積土成山。積み重なった工夫が、本番の日の安心に繋がっていきます。

そして何より嬉しいのは、「夏祭りの日まで待たなくて良い」ということです。利用者さんが「次はいつやるの?」と尋ね、職員が「今度は何をしようか?」と考え始めたなら、その時点で季節の楽しみは続いています。完璧な催しを1日だけ作るより、楽しみな時間が何日も続く方が、暮らしには似合っているのかもしれません。

準備まで笑える行事なら、本番が終わった後にも「またやりたい!」という楽しみが残ります。雨の6月から始めた小さな予行練習が、やがて夏祭りへ繋がり、その先の次の楽しみまで連れてくる。そんな1日なら、外の空がどんよりしていても、施設の中は笑顔満開です。

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