介護技術・食事介助2~噛む・飲む・流すを味方にする話~

[ 介護現場の流儀 ]

はじめに…「食べる」は毎日の大イベント~まずは口の中で作戦会議~

食事介助って、一番地味に見えて、一番ドラマが起きやすい時間だと思うんです。だって「食べる」って、ただモグモグしてるだけじゃなくて、口の中で細かく砕いて、唾液と混ぜて、ちょうど良い大きさにまとめて、飲み込んで、胃腸に運んで、最後は排泄まで繋がる長~いリレーなんですよね。しかも途中には、咽込み、喉詰まり、誤って気道に入りそうになるヒヤッ、便秘でお腹がパンパン…など、トラブル候補がズラリ。毎日やってるのに、毎日「油断するとコケる」タイプのイベントです。

この回では、食事介助を「作法」だけで終わらせずに、体の中の流れとして繋げて考えてみます。噛む(咀嚼)、飲み込む(嚥下)、胃腸で運ぶ(消化管の動き)。この3つが噛み合うと、食事はグッと安全に、そして気持ちよくなります。逆に、どこかが詰まると、本人もつらいし、介助する側も心臓がキュッとなります。だからこそ、流れを知っておくと強い。介助が「怖いもの」から「段取りで守れるもの」に変わっていきます。

とはいえ、食事介助は“正解が1つ”ではありません。昔ながらの食べ方の好みがあったり、体格や体調、その日の眠気、口の乾き具合でも変わります。さらに言うと、同じ方でも「今日は飲み込みが良い日」「今日は慎重な日」があります。だからこの記事は、ガチガチのマニュアルというより「現場で役立つ見取り図」みたいなものにします。今、目の前のその方が、どこで躓いているのかを見つけるための地図ですね。

そして大事な前提を1つ。食事は、急がせるとだいたい裏目に出ます。こちらが焦ると、相手も焦ります。焦りは、噛む回数を減らし、飲み込みを雑にし、口の中の整理も崩します。つまり、焦りは最強の敵です。逆に言えば、落ち着いたテンポと、ほんの少しの気配りで、食事の安全度はグッと上がります。介助は、腕力ではなく“間”と“観察力”で勝つ競技なんです。

この先の章では、まず「噛む」ことで口の中がどう整うのか、次に「飲み込む」瞬間に何が起きているのか、そして胃腸が運ぶためにどんな助けが出来るのかを、出来るだけ分かりやすく、でも現場で使えるレベルでまとめていきます。読み終わった頃に、「よし、次の食事介助は一段うまくなる気がするぞ」と思ってもらえたら大成功です。さあ、口の中の作戦会議、始めましょう。

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第1章…噛むほど増える安心感~唾液と歯と舌のチームプレーを知ろう~

食事介助の土台は、まず「噛む」です。噛むって、ただ歯でバリバリ割る作業に見えますが、実は口の中では小さな工場がフル稼働しています。噛むことで食べ物は細かくなり、唾液と混ざり、舌と頬が協力して“飲み込みやすい形”へまとめられていきます。この準備がきちんと出来るほど、次の「飲み込む」が安全になり、胃腸の負担も減ります。つまり噛むは、口の中での下拵え。ここを雑にすると、後で取り返しがつかなくなる、一番大事な工程です。

高齢者の食事で気にしたいのは、噛む力そのものだけではありません。歯が少ない、入れ歯が合わない、舌が動き難い、口の中が乾く、味が感じ難い。こういう小さな不具合が重なると、食べ物が口の中で迷子になります。迷子になった食べ物は、舌の上でまとまらず、頬の内側に張り付き、喉へ行くタイミングもバラバラになりやすい。すると、飲み込みの瞬間に「まだ口の中に残っているのに次が来る」という、ヒヤッとする場面に繋がります。

ここで介助者が出来ることは、力技ではなく“段取りの調整”です。例えば、ひと口の量。量が多いと、口の中でまとめるまでに時間が掛かります。逆に少な過ぎると、まとまりができ難く、飲み込みのスイッチが入り難い方もいます。だから「ひとくちの量はこの人には今どのくらいがちょうど良いか」を、観察しながら寄せていくのがコツです。目安は、口が忙しそうなら少し減らす、余裕がありそうならほんの少しだけ増やす。大きく変えずに、じわじわ寄せるのが安全です。食事介助は、いきなり大改造すると事故が起きるので、細い調整で勝ちます。

もう1つ大事なのは、口の中を“湿らせる”ことです。口が乾いていると、噛んだ食べ物がまとまり難く、喉へ送る滑りも悪くなります。開始直後にお茶や汁物をひとくち入れて、口の中を整えるのは、シンプルだけど強い方法です。「さあ本番!」の前に、口内のコンディションを整えておく。これだけで噛む・まとめる・飲み込むの流れが綺麗になります。

そして噛む工程で忘れちゃいけないのが、「味と気分」です。昔の方ほど、食事を楽しむ技を体に染み込ませています。ご飯と汁とおかずを行ったり来たりする食べ方をしてきた方も多いですし、味の濃淡の順番にも拘りがあったりします。ここを無視して、最初から濃いおかずばかり続けると、後半の味がぼんやりして「何だか楽しくない」になりがちです。楽しくないと噛む回数が減る方もいるので、ここは“美味しさの段取り”として意外と重要です。薄い味を挟み、汁物で口をリセットし、また次へ。食事は舌だけじゃなく、心も動かして食べるものです。

介助の立ち位置は「食べやすさ」と「気まずさ」の分かれ道

介助者の立ち位置は、実務としては「利き手で安全に介助できる側」が基本です。右利きの介助者が多いので、利用者さんの右側に立つと動きが安定しやすい。スプーンの動線が短く、手首も無理が出にくいからです。もちろん介助者が左利きなら、反対側の方が安全な場合もあります。大切なのは“作法の正解”より“安全に運べるか”。ここは遠慮なく、自分が事故を起こしにくい側を選びましょう。

それと同時に、気持ちの面でも位置は大事です。真横から顔を覗き込まれると、食べる側は落ち着きません。距離が近過ぎると、監視されている気分になる方もいます。ほどよく横、ほどよく斜め前。スプーンの動きが見えて安心できて、でも視界を占領しない位置。これが一番“食べる人の主役感”を守れます。

「口の中が空になるまで待つ」が一番強い安全策

口の中に残っているのに次を入れると、味が混ざって楽しめないだけでなく、飲み込みのタイミングが崩れて事故に繋がります。ここは介助の基本中の基本で、「口の中が空になってから次」です。とはいえ、全部見えるわけじゃありません。だから観察ポイントを持ちます。頬がモグモグ動いているか、舌が口の中で整理している時間があるか、飲み込んだ後に肩や顎がフッと落ち着くか。こういうサインが出たら次へ、という流れを作ると安定します。

声掛けも同じです。食事中に返事を求める質問を連発すると、噛むリズムが崩れます。噛んでいる最中に「美味しいですか?」と聞かれても、本人は答えたいけど口が忙しい。結果、慌てて飲み込もうとして危ない。どうしても必要な声掛けは、飲み込んだ後の“ひと呼吸”のタイミングにします。食事介助は、会話で盛り上げる時間ではなく、食べることを支える時間。しゃべるのは、食べられてからでも遅くありません。

食後の口腔ケアは「次の食事の仕込み」でもある

噛む工程を支えるのは、食事中だけではありません。食後の口腔ケアが雑だと、口の中の不快感や痛みが増え、翌日の食事が進み難くなります。歯がある方もない方も、入れ歯の方も、口の中を綺麗にしておくことは“次の食事の仕込み”です。磨き残しは意外と目視で見えます。頬の内側、歯茎の境目、舌の上。ここに残りやすいので、さっと点検するだけでも違います。

力を入れてゴシゴシすると、歯茎が傷つきます。介助で磨く時は、力は抜いて、ブラシを滑らせる感じで十分です。口の中は皮膚よりずっと繊細なので、強さより丁寧さ。ここを押さえると、噛むための土台が安定していきます。

噛むことは、食事の最初の工程でありながら、実は最後まで影響する“起点”です。ひとくちの量、口の潤い、味の順番、立ち位置、待つ間、そして食後のケア。この辺りが整うと、「飲み込む」が怖くなくなっていきます。次の章では、その飲み込む瞬間に何が起きているのか、咽込みを減らすために何が出来るのかを、もう少し深く見ていきましょう。


第2章…飲み込む瞬間が最大の山場~咽込みを減らす“静かな段取り”のコツ~

嚥下(えんげ)って、言葉だけ聞くと難しそうですが、やっていることは「飲み込む」ただそれだけです。ところが、この“ただそれだけ”の中に、体の中のスイッチ切り替えがギュッと詰まっています。口の中にある食べ物を、食道へ送りたいのに、すぐ隣には空気の通り道である気管がある。つまり「間違って入ってはいけない道」が、すぐ横にあるんです。普段は体が自動で交通整理をしてくれますが、加齢や病気、筋力低下、感覚の鈍さが重なると、この交通整理が遅れたり、うまく閉まらなかったりします。その結果として起きるのが、咽込み、咳込み、そして誤って気管へ入りかける“ヒヤッ”です。

ここで大事なのは、咽込みを「根性が足りない」とか「飲み込みが下手」みたいに見ないことです。咽込みは、体が出している警報音なんですよね。「今、通り道の切り替えが間に合ってませんよ」「今のひと口、急ぎ過ぎですよ」というサインです。だから介助の腕は、咽込みを叱るのではなく、咽込みが出にくい“段取り”を整えるところに出ます。

飲み込みやすさを上げる最初のコツは、姿勢です。背中が丸まり、顎が上がる姿勢になると、喉の入口が開き気味になりやすく、食べ物が変な方向へ行きやすくなります。反対に、座位で骨盤が立って、顎がほんの少し引けていると、飲み込みの動きが出やすい。難しい言い方をすると「喉の安全装置が働きやすい角度」になります。車で言えば、ブレーキが効きやすい路面を作っておく感じですね。食べ物の種類を工夫する前に、まず座り方を整える。これは地味だけど効きます。

次に大事なのが、ひと口の“送り方”です。スプーンを口へ運ぶとき、上から入れると、受ける側は顎が上がりやすい。下からスッと入ると、自然に口が受け取りやすく、顎も上がり難い。さらに、スプーンを奥まで突っ込み過ぎると、反射的に咽込みを誘発することがあります。スプーンは「口に置く」くらいで十分。入れたら引く。口の中で整理する時間は、相手のものです。介助者が口の中まで手を出し過ぎると、交通整理が混乱します。

そして、水分の扱いがまた一段難しい。水やお茶はサラサラしているので、勢いよく喉へ流れ込みやすい一方で、タイミングがズレると気管側へ行きやすい。ここで「水分で流し込めば良い」という発想をすると、危険な場面が増えます。むしろ、飲み込みが不安定な方ほど、水分は少量ずつ、様子を見ながらが基本です。飲み込みを助けるために、トロミを使うという選択肢が出るのは、この“勢い”を落ち着かせるためですね。

咽込んだら介助者の心臓もむせる~まず落ち着くのが最優先~

咽込みが起きた瞬間、介助者も焦ります。焦ると、背中を強く叩きたくなる、急いで水を飲ませたくなる、会話で気を反らしたくなる。気持ちは分かるんです。けれど、ここで大事なのは「まず落ち着かせる」です。咳が出ているなら、体は自力で出そうとしている最中です。咳は、防御反応としては頼もしい味方です。咳が出ているうちは、見守りながら呼吸の様子を確認し、顔色や唇の色、声が出るかを見ます。咳が弱くなって苦しそう、息が出来ない、顔色が悪いなどがあれば、すぐ応援要請や医療に繋げます。ここは施設の手順に従って、迷わず動けるようにしておくのが安心です。

「ずっと噛んでる」人の正体は飲み込みの渋滞かもしれない

食事介助の場面で、いつまでも噛んでいて飲み込まない方がいますよね。あれは“怠け”ではなく、口の中でまとまらないか、飲み込むスイッチが入り難い状態のことがあります。こういう時、次を足してしまうと口の中が渋滞して、危険度が上がります。そこで役立つのが、ほんの少しだけ「まとまり」を助ける工夫です。

例えば、少量のトロミのあるもの、無味のゼリー、まとまりやすいご飯の一部などを“少しだけ”足して、口の中の食べ物が団子状になりやすいようにする。こうすると、飲み込みのスイッチが入りやすい方がいます。ただし、何度も繰り返すのは避けます。うまくいかないときは、潔く吐き出してもらう方が安全です。「吐き出す=失敗」ではなく、「吐き出せる=安全な選択が出来た」です。

嚥下の力を育てるのは特別な訓練だけじゃない

嚥下の力をつける、というと、特別な訓練を想像しがちですが、日常の中にもヒントがあります。よく話すこと、よく笑うこと、適度に水分を摂ること。喉周りは“使うほど働きやすくなる”面があるので、会話や発声が自然な刺激になります。もちろん無理は禁物で、乾燥している部屋で喉を酷使すると逆効果になりやすい。だから環境として湿度を整え、前後に水分を摂る。喉を鍛えるというより、「喉が働きやすい状態を作る」と考えると失敗が減ります。

口腔ケアも同じく、嚥下を助けます。口の中が清潔で、舌の動きが出やすいほど、食べ物をまとめるのが上手くなり、飲み込みのタイミングも整いやすい。舌の汚れが厚いと、味も感じ難く、唾液も出難くなりがちです。だから舌のケアは、地味に見えて“飲み込みの下支え”になります。

食形態を変える前にまず確認しておきたいこと

咽込みが増えたり、飲み込みが心配になったりすると、すぐ「刻み食にしよう」「ペーストにしよう」となりがちです。もちろん必要な場面はありますが、急ぎ過ぎると“食べる楽しみ”が大きく減ってしまうことがあります。ここは、いったん落ち着いて確認できると安心です。

まずは専門家の目で、嚥下の状態を確認できる機会を作ること。耳鼻咽喉科などで評価ができる場合がありますし、施設なら多職種での観察もできます。そしてもう1つは、「何を食べたらどうだったか」を記録してみること。施設では咽るのに、外食では普通に食べられる方がいるのは珍しくありません。食べ物の形、温度、香り、本人の気分。いろいろな条件で、飲み込みは変わります。だからこそ、“合わない条件”を見つけることが、一番確実な対策になります。

嚥下は、食事の中で一番緊張が走りやすい瞬間です。でも、怖がり過ぎる必要はありません。姿勢、ひとくちの量、送り方、待つ間、水分の扱い。これらを整えると、咽込みはかなり減らせます。そして、咽込みは敵ではなく、体が教えてくれるサイン。サインを読みながら段取りを直していくと、食事介助はグッと安全に、そして穏やかになっていきます。

次の章では、飲み込んだ食べ物が胃腸をどう進み、どう出ていくのか、消化管の動きの目線で「詰まり難い暮らし方」を一緒に整理していきましょう。


第3章…胃腸は体内の運送屋さん~流れを助ける水分・姿勢・動きの知恵~

飲み込まれた食べ物は、喉を通った瞬間に「はい、口の仕事は終わり!」ではありません。ここから先は、胃と腸が主役の長距離リレーです。しかもこのリレー、走者が気分屋というか、コンディションに左右されやすい。寝不足、冷え、乾燥、緊張、活動量の少なさ、食べる量の偏り。どれか1つでも崩れると、運送屋さん(胃腸)が「本日は渋滞しております」と言い出します。

高齢者の食事で、介助側が知っておくと強いのは、「胃腸は上から下へ運ぶけれど、勝手に流れていくわけではない」という感覚です。胃腸はホースじゃなくて筋肉で出来た通路です。中身を前へ送るには、腸がウネウネ動く“押し出し”の力が必要で、その力は体全体の元気さや水分量、姿勢や動きにも影響を受けます。つまり、食べた後のケアはトイレの話だけじゃなく、食事の安全そのものに繋がってくるんですよね。

水分は「飲み込みのため」だけじゃない~腸の通行料にもなる~

水分は、喉のために大事、という話はよく出ますが、胃腸にとっても同じくらい大事です。腸の中は、ある程度しっとりしていないと進みません。乾いた中身は、流れ難く、固まりやすく、結果としてお腹が張る、便が硬い、出にくい、という困り事に繋がります。

ただし、水分は「一気にドカン」より「ちょこちょこ」です。特に食事中に咽込みやすい方は、一度にたくさん飲ませると別のリスクが出ますから、食事の前後や合間に、無理のない範囲で少しずつ。ここは、その方の飲み込みの力や指示理解、体調に合わせて調整が基本です。水分は多ければ良い、ではなく「足りない日が続かないこと」がポイントです。

姿勢と活動量は腸のスイッチを入れるリモコン

腸は、寝たきりのままだと動きが弱くなりやすいです。もちろん病状や状態によって無理は禁物ですが、可能な範囲で座る時間を作る、上体を起こす、少しでも体を動かすことは、腸のスイッチを入れる助けになります。

歩ける方なら、食後に少しだけ廊下を歩く。それが難しければ、椅子に座って足踏みでも良いし、ベッド上なら寝返りを左右に丁寧に繰り返すだけでも違います。ここで大事なのは「激しい運動」ではなく「流れが作られる程度の刺激」です。腸にとっては、体が動くこと自体が“配送ルートが開く合図”になります。

そして姿勢。背中が丸くなり過ぎると、お腹が圧迫されて動きが出にくいことがあります。反対に、骨盤が立って呼吸がしやすい姿勢だと、お腹の内側が自然に動きやすい。食事の姿勢を整えることは、飲み込みだけでなく、その先の胃腸の働きにも繋がっているわけです。

お腹への外からの刺激は使いどころを間違えない

お腹をさする、温める、ゆっくり触れる。これで落ち着く方もいますし、排便のリズムが整いやすいこともあります。ただ、ここは“万能の魔法”ではありません。お腹の痛みが強い、発熱がある、吐き気がある、明らかに様子がおかしい時に、むやみにマッサージをすると逆に危ないことがあります。

だから介助としては、体調が落ち着いていて、触れても痛がらず、日常的な便秘傾向がある時に、優しく短時間で、という使い方が安心です。少しでも「いつもと違う」と感じたら、無理に触らず、看護師さんや医療職に相談する。ここを徹底しておくと、余計なトラブルを避けられます。

「出す力」は生活リズムで育つ~トイレは待ち伏せが勝つ~

排泄は、気合で捻り出すものというより、生活リズムで出やすくなるものです。毎日バラバラの時間にトイレへ行くより、だいたい同じ時間に座る習慣があると、体が「あ、この時間ね」と思い出してくれます。特に高齢者は、便意のサイン自体が小さくなっていることもあるので、「行きたくなったら行く」だけに頼ると遅れることがあります。

ここは介助の腕の見せどころで、トイレの声掛けを“お願い”ではなく“予定”にしてあげると進みやすいです。本人の尊厳は守りつつ、「今の時間は座ってみようか」という自然な誘導にすると、成功率が上がります。トイレは、追いかけるより待ち伏せ。腸がその気になる瞬間を、こちらが先に席を用意しておく感じですね。

食べ物の中身は「栄養」だけでなく「流れの素材」でもある

食べ物は、体を作る材料であると同時に、腸の中を進む“素材”でもあります。よく噛めるものか、口の中でまとまりやすいか、飲み込みやすいか、その先で動きやすいか。全部繋がっています。だから「体に良いから」といって、噛み難いものやパサつくものばかりが続くと、口の段階で躓きますし、結果として食べる量が減って、腸の動きも弱りやすくなります。

反対に、食べやすくて、ほどよく水分があり、温かくて香りが立つものは、口も胃腸も動きやすい。食事の介助は、栄養の話だけじゃなく「今日、体が流れやすい食べ方になっているか」を整える仕事でもあるんですね。

最後に、念のための大事な合図も置いておきます。お腹の張りが強い、痛みが増える、吐き気や嘔吐がある、便もガスも出ない状態が続く、ぐったりして顔色が悪い。こういう時は「いつもの便秘かな」で済ませず、早めに医療職へ相談するのが安全です。腸のトラブルは、早い対応ほど軽く済みやすいからです。

胃腸の運送は、焦らせると遅れます。水分、姿勢、少しの動き、生活リズム。派手な技は少なくても、これらを整えるだけで流れは変わります。次の章では、食形態を変える前にやっておきたい確認や、記録と相談のコツをまとめて、「早とちりで損しない食事介助」の道を一緒に作っていきましょう。


第4章…食形態を変える前にやること~記録と相談で“早とちり”を防ぐ~

食事介助の現場で、咽込みが増えたり、飲み込みが不安になったりすると、頭に浮かぶのはだいたいこれです。「刻んだ方が良いかな」「ペーストにした方が安全かな」「もうゼリー食の方が…」。その気持ち、よくわかります。介助する側は毎回ヒヤッとしたくないし、本人も苦しい思いはしたくない。だから“安全そうな形”に早く寄せたくなるんですよね。

でも、ここでいったん深呼吸です。食形態を変えるのは、確かに大事な安全策になり得ますが、同時に「食べる楽しみ」をごっそり削ってしまうこともあります。しかも、刻めば刻むほど安全、という単純な話でもありません。細かいものは口の中で散りやすく、まとまり難く、逆に飲み込みづらい方もいます。ペーストが合う方もいれば、粘り気が苦手で飲み込みのタイミングが崩れる方もいます。つまり、食形態の変更は“万能の盾”ではなく、本人との相性で効き方が変わる道具なんです。

だからこそ、第4章の主役は「急いで形を変える前に、やっておくと失敗が減ること」です。ここを押さえておくと、結果的に安全にも近づきやすく、本人の満足も守りやすくなります。介助者の心臓にも優しい章です。

まずは「いつ・何で・どうなった」を見える化する

咽込む、飲み込みづらい、口の中に残る。これらは、いつも同じ条件で起きるわけではありません。日によって違いますし、同じ日でもメニューで変わります。だから、一番効くのは「条件探し」です。

例えば、温かい汁物だと飲み込みやすいけれど、冷たいお茶だと咽込みやすい。白米は大丈夫だけど、パンだと口が乾いてまとまらない。魚は大丈夫だけど、黄な粉や粉ものは咽込みやすい。こういう“地雷”は、人それぞれ違います。ここを当てずっぽうで避けようとすると、全部怖くなって、食べるものが一気に減ります。だから、食べた物と様子を、短いメモで良いので積み重ねる。これが強いです。

書く内容は、難しくするほど続きません。食事の場面では「咽込んだかどうか」だけでなく、「口の中に残っていたか」「飲み込むまでの時間が長かったか」「本人が嫌がったか」「疲れて途中で止まったか」。こういう観察があると、次に試す工夫が絞れます。つまり、記録は“本人に合う道”を見つけるためのライトです。

専門家に相談するのは「形を変えるため」だけじゃない

食形態を変えるかどうかの前に、そもそも嚥下の状態を確認するというのが大きな助けになります。耳鼻咽喉科での評価が役立つ場合がありますし、施設なら看護師さん、栄養士さん、言語聴覚士さんなど、いろいろな目が入るだけで情報の精度が上がります。

ここで大事なのは、「もう危ないから変えたいんです」だけで終わらせないことです。「この食材で咽込みやすい」「この時間帯は調子が悪い」「口の中に残りやすい」「声が掠れてきた」など、具体的な観察を持っていくと、相談が一気に実践的になります。相談は、丸投げではなく“共同作業”にすると強くなるんですね。

刻み食が合わない人もいる~“細かい=安全”の落とし穴~

ここ、誤解が多いので一度しっかり書いておきます。刻み食は、噛む力が落ちた方にとって助けになることが多いです。ですが、細かく刻むと、口の中でバラけます。バラけたものは舌でまとめ難い。まとめ難いと飲み込みのタイミングがズレる。結果として、咽込みが増える方もいます。

つまり「噛み難い」問題と、「まとまり難い」問題は別物なんです。だから、刻むなら刻むで、“まとまり”を助ける工夫が必要になることがあります。トロミやあんかけ、適度な水分、口の中で散らばらない形。ここをセットで考えられると、刻み食が味方になります。

逆に、ペーストも同じで、滑らかなら安全というわけではありません。粘り気の感じ方が苦手だと、飲み込むリズムが崩れる方もいます。大事なのは「その人の口の中で扱えるか」。見た目の安全そう、ではなく、実際の動きで判断するのが正解です。

いきなり全部変えない~“1つだけ変える”が一番安全~

食形態を変える時に失敗しやすいのは、いきなり全部の料理を一斉に変えてしまうことです。そうすると、何が良かったのか、何が合わなかったのかが分からなくなります。さらに本人も、「急に別の食事になった」と感じて食欲が落ちることがあります。

だから、変えるなら“1つだけ”。主菜だけ、汁物だけ、ご飯だけ。まずは1つ試して、様子を見て、合えば増やす。合わなければ戻す。ここを丁寧にやると、本人の安心感も守れますし、介助者の負担も減ります。食事介助は、テスト勉強と同じで、いきなり全部やると混乱します。単元ごとにやると勝てます。

食べる力を落とさないために~「楽しみ」を守る工夫も入れる~

安全の話をしているのに、何故、楽しみが必要かというと、楽しみは“食べる力”を支えるからです。美味しいと思うと唾液が出ます。香りが立つと口が動きます。好きな味だと噛む回数が増える方もいます。つまり、楽しみは生理的にも役立つのです。

だから、形を変えるとしても、見た目や香り、温度、味のメリハリは出来る範囲で守ってあげたい。例えば、同じ柔らかさでも、温かいものと冷たいものの差で食べやすさが変わることがあります。香りが立つだけで飲み込みやすい方もいます。安全と楽しみは、喧嘩する相手ではなく、うまく組ませると両方が強くなります。

食形態の変更は、焦ってやると損をしやすい一方で、丁寧にやれば大きな味方になります。記録で条件を見つけ、相談で視点を増やし、変えるなら1つずつ。これで“早とちり”が減って、本人の食事が守られます。

次はいよいよまとめです。噛む、飲む、流す。この3つの流れを一本の線にして、明日からの食事介助が少しだけラクになって、少しだけ上手くなる締めを作っていきましょう。

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まとめ…ひとくち名人への道~「噛む・飲む・流す」を最後までつなげよう~

食事介助は、スプーンを運ぶ技術だけで完成しません。噛む(咀嚼)、飲み込む(嚥下)、胃腸へ送って出す(消化管の動き)。この3つが一本の線で繋がっている、と分かるだけで、介助の見え方が変わってきます。口の中でまとまらないのに次を入れれば渋滞しますし、飲み込む瞬間に姿勢が崩れていれば交通整理が間に合いません。さらに、食後の水分や動きが足りなければ、体の中の運送屋さんが「今日は遅延です」と言い出す。つまり、食事介助は“その場の一瞬”よりも“流れ全体”を整える仕事なんですね。

第1章では、噛む工程がいかに大事かを見ました。ひとくちの量、口の潤い、待つ間、立ち位置。派手なことはしていないのに、そこが整うと急に安全になります。ここでのコツは、相手の口の中を尊重することでした。口の中の作業時間は本人のもの。介助者は急がず、見守って、ちょうどよく手伝う。これが出来る人は、もう半分“ひとくち名人”です。

第2章では、飲み込む瞬間が最大の山場であることを押さえました。咽込みは敵ではなく、体が出している警報音。だから叱るより、段取りを直す。姿勢を整える、スプーンの入れ方と抜き方を工夫する、水分は少量ずつ、焦りは最強の敵。ここを意識するだけで、ヒヤッの回数は減っていきます。介助者の心臓も長持ちします。これ、地味に大事です。

第3章では、胃腸は体内の運送屋さんだという話をしました。飲み込めたら終わりではなく、そこからが長い。水分、姿勢、少しの動き、生活リズム。これらが腸の動きを助けます。便秘やお腹の張りは、食べる量や食べる意欲にも影響して、次の食事へ連鎖します。だから排泄は別枠の話ではなく、食事介助と同じ一本の線の上にある。そう考えると、日々のケアが繋がって見えてきます。

第4章では、食形態を変える前に、まず“条件探し”をする大切さをまとめました。刻めば安心、ペーストなら安全、とは限らず、細かいものほどまとまり難い人もいます。だから、いきなり全部を変えず、1つだけ試す。食べたものと様子を軽く記録する。相談する時は、観察を添えて共同作業にする。これで“早とちり”が減って、本人の楽しみも守りやすくなります。

結局のところ、食事介助の一番の目標は「安全に食べ切る」だけではなく、「できるだけ気持ちよく食べ終える」ことだと思います。美味しいと思えると唾液が出ますし、落ち着いて食べると噛む回数も増えます。楽しみは贅沢ではなく、体の働きを引き上げる味方です。だから、安全と楽しみは両立できます。むしろ両立させた時が、一番強い。

明日からできる一番の近道は、たった1つです。次のひと口を入れる前に、ひと呼吸おくこと。口が落ち着いたのを見てから、少しだけ手伝うこと。この“ひと呼吸”が、噛む・飲む・流すを一本に繋ぐ、最小で最大のコツになります。ひとくち名人への道は、派手な技ではなく、丁寧な間から始まりますよ。

今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m


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