夏のおでんは薬味で遊ぶ~大根に卵とつみれと似合う相棒探し~

[ 旬の食と暮らし ]

はじめに…冷房の部屋で湯気のご馳走

外ではセミが全力で鳴き、冷蔵庫には麦茶とそうめんが控えている。そんな真夏の食卓へ、おでんの鍋を運んだらどうなるでしょう。「季節を間違えていませんか?」と家族の視線が集まりそうです。いえ、鍋はカレンダーを見ていません。美味しく食べられる日が、出番なのです。

冷たい料理や飲み物が続いた日に、出汁の香りとやわらかな湯気に包まれると、食卓の空気まで少し落ち着きます。熱々を我慢大会のように頬張る必要はありません。少し冷まして、柚子胡椒やおろし生姜、梅肉などを添えれば、いつものおでんが軽やかな夏の味へ動き出します。

しかも、大根、卵、こんにゃく、厚揚げ、つみれ、昆布と、鍋の中は千差万別。それぞれに似合う薬味を探し始めると、夕食が小さな食べ比べ会になります。からしだけを端に置いていた頃には戻れないかもしれません。からしさん、長年お疲れ様でした……引退ではなく、選手層が厚くなるだけです。

夏のおでんは、暑さに逆らう料理ではなく、冷たいものへ傾いた食卓をやさしく戻す料理です。

今夜は好きな種をいくつか選び、小皿に薬味を並べてみましょう。夏に見つけたお気に入りの組み合わせは、きっと冬のおでんをもっと楽しみにしてくれます。

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第1章…夏こそおでんが頼もしい~冷たいもの続きの食卓にひと休み~

暑い日の昼時、そうめんをツルリ。午後にはアイスを1つ、夕方には冷えた麦茶をグイっと一杯。どれも夏らしい幸せですが、夜になると「お腹は空いているのに、何を食べたいのか分からない」という日があります。

冷たい食べ物が悪いわけではありません。ただ、朝から晩まで冷たいものが続くと、食卓の景色も味わいも似てきます。そんな夜に、出汁の香りがする温かい一皿が現れると、食欲の気分転換になります。夏のおでんは、季節に逆らう挑戦者ではなく、冷たい献立の合間に入る休憩係なのです。

とはいえ、真夏にグツグツ煮立つ鍋を囲み、額の汗を拭いながら根性で食べる必要はありません。それでは夕食なのか修行なのか、話が変わってきます。鍋から器へ取り分けて少し待ち、湯気が穏やかになった頃に食べれば十分です。冷房の効いた部屋なら、熱過ぎない出汁の温かさが心地よく感じられるでしょう。

大根やこんにゃくは口当たりが軽く、卵や厚揚げ、つみれを加えれば食べ応えも生まれます。食欲に合わせて種の数や量を変えられるのも、おでんの頼もしいところです。今日は大根と卵を中心に、元気のある日はつみれや餅入り巾着も追加する。正に適材適所、鍋の中で自分用の献立を組み立てられます。

作る側にも小さな利点があります。大根、こんにゃく、卵などをまとめて煮れば、何皿も別々に用意しなくても食卓がにぎやかになります。台所に立つ時間を抑えながら、魚、豆腐、野菜を取り入れやすいのは一石二鳥。ただし、練り物やツユには塩分が含まれるため、ツユを飲み干さず、野菜の種を多めにするくらいが気楽です。

夏は「冷たくなければ夏らしくない」と思い込みがちですが、季節の食卓に必要なのは統一感よりも逃げ道かもしれません。冷やし中華の日もあれば、カレーの日もあり、おでんの日もある。その自由さが、食べる元気を繋いでくれます。

夏のおでんは、弱った食欲を無理に奮い立たせるのではなく、食べやすい種を選びながら温かい食事へ戻れる一皿です。

おでん鍋を出した瞬間に家族から二度見されても、大丈夫。ひと口食べて「これ、夏でもアリだよね」と言われたら、鍋の季節判定はこちらの勝ちです。


第2章…大根、卵、こんにゃく~定番の種に似合う薬味を探そう~

白い小皿に、からし、柚子胡椒、おろし生姜、梅肉、七味唐辛子、カレー粉を少しずつ並べる。たったそれだけで、いつもの食卓が急に「おでん味覚研究所」のようになります。白衣までは必要ありません。うっかり着たら、夕食なのに報告書を求められそうです。

最初に迎えたいのは、出汁をたっぷり含んだ大根です。箸を入れたところから湯気が立ち、口へ運ぶとやさしい味が広がります。そこへ柚子胡椒をほんの少し。柚子の香りがフワリと抜け、唐辛子の刺激が後から追いかけてきます。夏のおでんに涼やかな印象を加えたいなら、頼もしい組み合わせです。

柚子胡椒には塩気もあるため、大根の端へちょこんと載せるくらいで十分でしょう。勢いよく塗ると、出汁を味わうはずが柚子胡椒との一騎打ちになります。勝敗を決める必要はありません。食卓は平和が何よりです。

おろし生姜も大根によく似合います。辛さがスッと消えるので、柚子胡椒より穏やかな後味になります。梅肉を添えれば酸味が加わり、食欲が重たい夜にも軽やかです。大根1つでも、柚子胡椒ならキリリ、生姜ならサッパリ、梅肉なら爽快。正に十人十色ならぬ「一根三色」といったところでしょうか。四字熟語に見えて、今できた言葉です。

次は卵です。黄身のホクホクした甘みには、からしの鋭さがよく合いますが、夏ならカレー粉も試したくなります。半分に割った卵へ、耳かき一杯ほどのカレー粉を振ると、出汁の和風味に香ばしさが加わります。量を増やし過ぎると、おでん鍋の中で卵だけが給食の人気者になってしまうため、香りづけ程度がちょうど良いでしょう。

粗びき黒胡椒も卵の相棒になります。黄身のまろやかさが引き締まり、少し洋風の味わいへ変わります。からし、カレー粉、黒胡椒を順番に試せば、同じ卵を食べているのに別の料理を旅しているようです。食べ比べる際は卵を小さく切り分けておくと、1つで何通りも楽しめます。

こんにゃくには、酢からしが好相性です。からしへ少量の酢を混ぜると、鋭い辛さが軽くなり、こんにゃくのツルンとした歯触りに爽やかさが加わります。七味唐辛子なら香り高く、おろし生姜なら後味が軽やか。こんにゃくは味が控えめだからこそ、薬味を受け止める懐の深さがあります。

ただし、薬味を載せたこんにゃくは、時々ツルリと逃げます。箸で追えば追うほど遠ざかり、最後には皿の端で無言の抵抗。そんな時は潔く小さく切りましょう。急がば回れ。食卓でも昔からの教えは意外なところで役に立ちます。

食べ比べは、香りの穏やかなものから始めると味の違いが分かりやすくなります。生姜、梅肉、柚子胡椒、カレー粉、七味と進めれば、前の香りに次の味が負けにくくなります。薬味は一度にたくさん載せず、箸先ほどから試すのが臨機応変な楽しみ方です。

「大根には柚子胡椒が正解」「卵にはカレー粉で決まり」と、全員の答えを揃える必要もありません。柚子胡椒が好きな人もいれば、いつものからしへ戻ってホッとする人もいます。蓼食う虫も好き好き。好みが分かれるからこそ、「それ、ひと口試させて」と食卓の会話が生まれます。

薬味選びに正解はなく、自分の舌が嬉しくなる組み合わせを見つけた時、その一口が今日のご馳走になります。

大根、卵、こんにゃくという見慣れた顔触れも、添える味を変えれば新鮮です。定番とは、変えずに守るものではなく、何度でも遊びに戻れる場所なのかもしれません。

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第3章…つみれ、厚揚げ、トマトまで~おでんの相棒はからしだけではない~

大根や卵の食べ比べで薬味の面白さに気づくと、鍋の奥にいる具まで気になり始めます。つみれは何を待っているのだろう。厚揚げは生姜だけで満足なのか。トマトにからしを添えて良いのか。おでん鍋が、急に無言の面接会場に見えてきます。

魚の旨味が詰まったつみれには、柚子胡椒やおろし生姜がよく似合います。特に、鰯や鯖など青魚を使ったつみれは、柚子の香りを添えることで後味が軽やかになります。生姜なら魚の風味を包み込みながら、出汁の味を邪魔しにくいでしょう。

山椒をほんの少し振るのも風雅洒脱。鼻へ抜ける香りが加わり、いつものつみれが少し上品な顔を見せます。ただし、山椒を気前よく振ると、つみれより舌のしびれが主役になります。薬味は応援団であって、センターを奪う人ではありません。

ちくわやごぼう巻きには、七味唐辛子や青のりが合います。七味は練り物の甘みを引き締め、青のりは魚の香ばしさを広げてくれます。わさびを少量添えると、刺身とは違うやわらかな魚料理として味わえるのも面白いところです。

厚揚げは、出汁を吸った表面と豆腐のまろやかさを持つ、懐の深いおでん種です。おろし生姜なら王道の安心感があり、刻みネギを加えれば香りと歯触りが生まれます。梅肉を少し載せると油のコクが軽くなり、夏の夕食にも食べやすくなります。

がんもどきには、大根おろしや柑橘の果汁を少々。中に含んだだしが口いっぱいに広がったところへ酸味が重なると、味がスッと整います。出汁をたっぷり吸ったがんもどきを勢いよく噛むと、熱いツユが飛び出すこともありますので、勇猛果敢は別の場面で発揮しましょう。まずは端から、そっとです。

はんぺんは味が淡く、薬味の個性が分かりやすい種です。黒胡椒を振れば洋風に、わさびを添えればキリリと和風に、粉チーズをほんの少し載せればコクのある味になります。フワフワした見た目に油断していると、意外な変身ぶりを見せてくれます。おでん界の白い実力者です。

夏のおでんで迎えたい変わり種が、トマトです。湯むきしたトマトを出汁でやさしく煮ると、酸味と旨味が溶け合います。黒胡椒や粉チーズ、刻んだ大葉を添えれば、和風と洋風の間を行き来する一皿になります。トマトまで鍋へ入れたら、もうおでんではないという声も聞こえそうですが、出汁を吸って静かに待っている姿は、なかなか立派なおでん顔です。

じゃがいもには青のりと黒胡椒、ロールキャベツには粒からし、たこにはレモンや柚子の果汁も似合います。同じ鍋から取り出した具なのに、添える香りによって和食にも洋食にも近づく。正に変幻自在、おでんの種の多さは、味の入口の多さでもあります。

具材の味を隠すのではなく、その種が持っている香りや甘みを少し先まで連れていくのが、薬味の楽しい役目です。

小皿を何枚も並べる必要はありません。柚子胡椒、生姜、梅肉、黒胡椒のうち、家にあるものを2つほど出すだけでも十分です。「この組み合わせ、あり」「これは次回に持ち越し」と話しながら食べれば、いつもの夕食が小さな試食会になります。

最後まで残った薬味を誰が片づけるのか。それは食べ比べ会の閉会後に開かれる、もう1つの会議です。


第4章…一鍋多彩の栄養補給~魚、野菜、豆腐を楽しく組み合わせる~

おでん鍋のフタを開けると、大根の白、卵の黄色、昆布の深い色、つみれや厚揚げの香ばしい茶色が湯気の向こうに並びます。見慣れた料理なのに、じっくり眺めると多種多様。まるで食材たちが、1つの鍋へ持ち寄りで集まったようです。

卵、厚揚げ、がんもどきには、体を作る材料になるたんぱく質が含まれます。ちくわやはんぺん、つみれといった魚の練り物も、たんぱく源として仲間入りします。特に、鰯や鯖などの青魚を使ったつみれなら、DHA・EPA(青魚の脂に多く含まれる成分)も取り入れやすくなります。

但し、「魚から作った練りものなら、どれでもDHA・EPAがたっぷり」とは限りません。何の魚を使っていのつみれを手作りしたりすると、狙いが分かりやすくなります。おでん売り場で表示をじっと見つめている姿は少々真剣ですが、魚との面談ではありません。

大根、こんにゃく、昆布、ロールキャベツ、トマトなどを加えれば、野菜や海藻も一緒に食べられます。じゃがいもや餅入り巾着は、活動するためのエネルギーになる炭水化物を足してくれます。そこへ卵やつみれを組み合わせれば、軽い食事にも、しっかりした夕食にも調整できます。

大切なのは、全種類を意地でも制覇することではありません。大根、卵、つみれ、厚揚げ、こんにゃくと順調に進み、餅入り巾着の前で箸が止まったら、それは敗北ではなく満腹です。鍋の底に残った具から「まだおりますが…」と視線を感じても、次の食事へ回せば良いのです。

おでんの良さは、1つの完璧な献立を押しつけるのではなく、その日の食欲に合わせて栄養の組み合わせを選べることです。

食欲が少ない日は、大根やこんにゃくを中心にして、卵やつみれを少し添える。元気のある日は、厚揚げやじゃがいもも加える。主食が足りなければ小さなおにぎりを添え、野菜が少なければトマトやロールキャベツを鍋へ迎える。こうした自由な組み立て方が、おでんを栄養満点へ近づけてくれます。

一方で、練り物やツユには塩気があります。ちくわ、はんぺん、ごぼう巻きばかりを集めると、鍋の中が練り物の同窓会になり、塩分も重なりやすくなります。大根、こんにゃく、卵、野菜を混ぜ、ツユは飲み干さないくらいが無理のない食べ方です。柚子胡椒や梅肉にも塩気があるので、薬味は箸先に少しで十分でしょう。

夏のおでんには、保存の気配りも欠かせません。たくさん作った鍋を室温に長く置かず、残った分は早めに小さな容器へ移して冷蔵します。鍋ごと入れようとして冷蔵庫から無言の入場拒否を受ける前に、小分けにしておくと翌日も扱いやすくなります。食べる時には、中心までしっかり温め直します。

魚、卵、豆腐、野菜、海藻、いも類。おでんは、選び方によっていくつもの食品を1つの器へ集められる料理です。「これさえ食べれば何も要らない」と肩に力を入れるより、好きな種を選びながら足りないものを少し足す。その気楽さが、暑さで献立を考える元気まで薄くなった日の食卓を支えてくれます。

夏の夜、湯気の立つ器を前に「今日はどれから食べよう」と迷えるなら、それも立派な食欲です。大根からでも、つみれからでも、遠慮なくどうぞ。鍋の中では、全員が出番を待っています。

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まとめ…夏に見つけた味を冬のおでんへ連れていこう

真夏の食卓におでんを置く。それだけ聞けば、少し暑苦しい挑戦のようですが、フタを開けてみれば、出汁の香り、食べやすい具材、好きな量を選べる気楽さが待っています。冷たい料理が続いた日に、温かいものをゆっくり食べる時間は、体だけでなく気持ちにも小さな休憩をくれます。

大根には柚子胡椒、卵にはカレー粉、こんにゃくには酢からし。つみれには生姜、厚揚げには梅肉、トマトには黒胡椒。組み合わせは千差万別で、同じ鍋を囲んでいても、皿の上にはそれぞれの好みが表れます。

からしを添えるだけでも、もちろん立派なおでんです。けれど、小皿へ薬味を2つほど出してみれば、「こっちも合う」「いや、私はいつもの味が落ち着く」と、食卓に会話が生まれます。気づけば大根の薬味を決めるだけで家族会議が始まっているかもしれません。議題は平和ですが、柚子胡椒派と生姜派の発言は妙に熱くなりがちです。

魚のつみれ、卵、豆腐の仲間、大根、昆布、こんにゃく、いも類。具材を偏らせずに選べば、おでんは多彩な食品を1つの鍋へ集められます。全種類を食べ切ろうと頑張るより、その日の食欲に合うものを選び、足りないものを少し足す。それくらいの自由さが、夏の食卓にはよく似合います。

保存や塩分への気配りは必要ですが、それもおでんを長く楽しむためのひと工夫です。ツユを飲み干さず、野菜の種を増やし、残った分は早めに冷蔵する。無理なく扱えば、翌日には味の染みた楽しみも待っています。

季節に料理を合わせるだけでなく、その日の自分に料理を合わせることも、元気に食べ続けるための知恵です。

夏に見つけたお気に入りの薬味は、冬になっても消えません。冷房の部屋で試した柚子胡椒が、寒い夜にはさらに頼もしく感じられることもあるでしょう。夏のおでんは季節外れではなく、冬の楽しみを先にひと口味わう前奏曲。今夜の鍋から生まれた小さな発見を、次の季節まで美味しく連れていきましょう。

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