味が走り過ぎた日に~ワサビ・唐辛子・砂糖・塩を食べやすく戻す匙加減大全~

[ 旬の食と暮らし ]

はじめに…料理は失敗してからもおいしくなれる

フタを開けたインスタント麺から、湯気と一緒に食欲をそそる香りが立ち上る。ところが、ひと口すすってみると「今日は少し塩辛いな」。評判のお店で注文した料理も、スーパーで選んだお惣菜も、作り手にとっては自信作でも、自分の舌には少し合わない日があります。

そんな時に役立つのが味変です。ただ新しい味を足して楽しむだけではありません。ワサビが鼻へ突き抜けた時、唐辛子で口の中が火事になった時、砂糖の甘さが前へ出過ぎた時、塩気が料理全体を乗っ取った時。食卓にある物を使い、臨機応変に食べやすい場所へ戻すことも立派な味変です。

卵で辛さを包み、出汁で塩気を広げ、酸味で甘さの単調さを崩す。工夫を知っていれば、「もう食べられない」が「これならいける」に変わります。料理を捨てずに済み、食べる人も我慢大会を開かずに済む。台所にもお財布にも、なかなか平和な着地点です。

ただし、チーズ、マヨネーズ、卵、砂糖、油などを次々と加えると、味は穏やかになってもカロリーだけが意気揚々と行進を始めます。「辛さは消えた。代わりに丼が豪華になった……いや、誰が宴会を始めた?」となりかねません。

味を直す時に大切なのは、たくさん足すことではなく、少量ずつ確かめながら着地点を探すことです。

ワサビ、唐辛子、砂糖、塩は、同じ「濃い」でも性格がまるで違います。揮発させる、包み込む、薄める、分散させる。試行錯誤を楽しみながら、それぞれに合った匙加減を知れば、好みと少し違う一皿も、最後まで気持ちよく味わえるようになります。

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第1章…ワサビが鼻へ突き抜けた!~揮発・加熱・油脂でツーンを逃がす~

お寿司へワサビを少し足したつもりが、ひと口目で鼻の奥へ一直線。刺身を味わうはずだったのに、目には涙、手には湯呑み、頭の中には「私は今、何と戦っているのだろう」という疑問が浮かびます。

ワサビの刺激を生む代表的な成分は、アリルイソチオシアネート(鼻や口の粘膜を刺激する揮発性の辛味成分)です。舌だけで味わう辛さではなく、気体になった成分が鼻へ抜けて、ツーンとした痛覚刺激を起こします。唐辛子とは性格が違い、空気に触れたり、時間がたったり、熱が加わったりすると、刺激が弱まりやすいのが特徴です。

ワサビが襲ってくると、人は反射的に鼻を摘み、息を止め、俯きがちです。ところが、その姿勢では刺激成分との密室会議が始まります。

食べ物を飲み込んでから顔を上げ、鼻からゆっくり吸って口から吐くと、鼻に残った揮発成分を空気と一緒に逃がしやすくなります。

大量のワサビを食べた人が平然としている場面があります。心から辛さを消したように見えますが、種の一部として語られるのが、この姿勢と呼吸です。いつもの反応とは正反対に、鼻を塞がず、顔を上げて空気の通り道を作る。操られていたのは心ではなく、ワサビの行き先なのかもしれません。

ただし、食べ物を口へ入れたまま急に上を向くのは危険です。特に飲み込みに不安がある方は、きちんと飲み込んで、咽込んでいないことを確かめてから、無理のない姿勢で呼吸します。喉の腫れや息苦しさがある場合は、単なるワサビの刺激と決めつけないことも大切です。

食べる前にワサビの固まりが見えているなら、最初の方法はとても単純です。箸やスプーンで少し取り除きます。「出された物を残すのは申し訳ない」と我慢するより、涙が出るほどの量を口へ運ばない方が、料理も落ち着いて味わえます。勇気ある撤退は、決して敗北ではありません。

握り寿司なら、ネタを少し持ち上げてワサビを減らします。刺身なら、ワサビを醤油へ全部溶かさず、一口ごとに少量を付けます。既にワサビ醤油が完成してしまった時は、新しい小皿へ普通の醤油を少しだけ用意し、辛い醤油を少量ずつ混ぜます。醤油を大量に足すと塩分まで増えるため、皿いっぱいの救援部隊を呼ぶ必要はありません。

インスタント麺や惣菜のソースへワサビを入れ過ぎた場合は、まず数分待ちます。フタを閉めて封じ込めるより、軽く混ぜて空気へ触れさせる方が、揮発成分は逃げやすくなります。時間を味方につけるのは、手間もカロリーも増やさない臨機応変な方法です。

温かい汁物、餡、炒め物、炊き込みご飯なら、短時間だけ温め直す手もあります。アリルイソチオシアネートは熱で失われやすいため、刺激が和らぐ可能性があります。ただし、グツグツ煮続けるとワサビの香りだけでなく、料理の風味や具材の食感までくたびれます。弱火で少し温め、味を確かめながら止めるくらいが程良い加減です。

刺身や握り寿司まで温めると、今度は生ものの魅力が逃げてしまいます。そんな時は、ご飯、大根のつま、味を付けていないキュウリ、大根おろし、豆腐などと一緒に食べ、ひと口当たりのワサビ量を減らします。麺類なら、ツユを増やす前に麺や薬味の偏りを直し、ワサビが固まった部分を分散させます。

大根おろしやキュウリは、量を増やしても比較的カロリーを抑えやすい助っ人です。豆腐やご飯、麺も刺激を受け止めますが、足した分だけ食事量は増えます。「辛さが消えたから実質ゼロカロリー」と胃袋が主張しても、栄養表示は催眠術にかかってくれません。

それでも刺激がきつい時は、マヨネーズ、卵黄、アボカド、クリームチーズなどの油脂を少量混ぜると、ワサビの尖った風味が丸く感じられます。ワサビマヨやワサビチーズのソースへ転身させれば、肉、魚、サンドイッチにも使えます。失敗を別の一品へ移す適材適所の知恵です。

ただし、油脂は頼もしい分、カロリーも上がりやすい方法です。最初からマヨネーズをドン、チーズをドサッ、卵をポンと重ねると、ワサビは静かになっても料理が別人になります。取り除く、待つ、呼吸で逃がす、薄い食材へ広げる。その後に、小さじ半分ほどの油脂を試す順番なら、味も食事量も暴走しにくくなります。

生ワサビ、粉ワサビ、チューブ入りでは、原材料や香り方が異なります。少し待てば必ず刺激が消えるわけではなく、製品によっては辛さや塩気が残ることもあります。一度に大改造せず、ほんの少し動かして味見をする。それが食卓を救う匙加減です。

ワサビが鼻へ駆け上がっても、料理の終わりではありません。摂る、待つ、顔を上げて逃がす、温める、広げる、最後に少し包む。順番を知っていれば、涙の一口からでも、次の一口を美味しい場所へ戻せます。


第2章…唐辛子が止まらない!~卵・乳製品・主食で辛さを受け止める~

赤いスープをひと口すすった瞬間、舌の上で非常ベルが鳴る。額には汗、鼻からも汗、何故か耳まで熱い。「辛口と書いてあったけれど、こちらは火口では?」と器を見つめても、唐辛子は知らん顔です。

唐辛子の刺激を生む代表的な成分は、カプサイシン(口や喉の熱さを感じる受容体を刺激する辛味成分)です。ワサビのように揮発して鼻へ逃げる辛さではなく、舌や口の中へ残りやすい性質があります。顔を上げても唐辛子は退場してくれません。相手が違えば、作戦も変わります。

唐辛子が辛過ぎる時は、トッピングを重ねる前に「冷ます・減らす・薄める」の順で動くと、味もカロリーも暴走しにくくなります。

熱々の料理は、温度の熱さと唐辛子の刺激が重なります。インスタント麺やスープカレーなら、まず少し置いて温度を下げます。これだけでカプサイシンが消えるわけではありませんが、口が受け取る二重の熱さを減らせます。急いで食べ進めず、ひと呼吸。急がば回れは、辛い丼の前でも働き者です。

スープやタレが辛さの中心なら、食べ切る前に量を減らします。インスタント麺は辛いスープを少し別の器へ取り、湯や味を付けていない出汁を加えます。お店の麺なら、麺を深く沈めず、具と麺を中心に食べるだけでも一口当たりの刺激は変わります。スーパーの辛い惣菜は、赤いタレを全部絡め直さず、底に残す選択もあります。

ただのお湯を口に含めば消火できそうですが、カプサイシンは水と馴染み難いため、水だけでは流れにくく、口の中へ刺激を広げることがあります。冷たい水で一瞬だけ楽になっても、飲み込んだ後に辛さが戻ることもあります。炭酸飲料や熱いお茶も、刺激を重ねる場合があるので、慌てて流し込まない方が落ち着きます。

頼りになるのは、牛乳やヨーグルトなどの乳製品です。乳製品に含まれるカゼイン(牛乳に含まれる代表的なたんぱく質)が、口に残ったカプサイシンを取り込み、刺激を和らげる助けになります。牛乳を少量飲む、無糖ヨーグルトを小匙1杯を添える、料理へ少し混ぜる。臨機応変に使えば、辛さの角が丸くなります。

チーズや生クリームも辛いソースと馴染みますが、脂質とカロリーは上がりやすくなります。卵、チーズ、マヨネーズを全員集合させると、辛さ対策だったはずの一杯が、いつの間にか祝勝会の献立です。最初は牛乳や無糖ヨーグルトを少量、それで足りなければチーズを少し、という順番が穏やかでしょう。

卵も使いやすい味戻し役です。生卵や温泉卵を辛い麺へ混ぜると、黄身のコクが刺激を包み、料理全体へ辛さを分散させます。炒め物なら溶き卵を流し入れ、火を通して辛さを受け止めます。卵1個で済むところへ、さらにチーズとマヨネーズを重ねないことが匙加減です。

豆腐、無調整豆乳、納豆も、辛さを料理全体へ広げる材料になります。辛い麻婆豆腐なら味を付けていない豆腐を追加し、キムチや辛い惣菜なら納豆や豆腐と合わせます。ただし、豆乳には乳製品のカゼインは含まれません。牛乳と全く同じ働きではなく、辛味の濃度を下げ、口当たりをまろやかにする方法として考えると分かりやすいでしょう。

ご飯、パン、麺、ジャガイモなどの主食も、ひと口当たりのカプサイシンを減らしてくれます。辛いカレーをご飯へ少しずつ付ける、激辛ソースをパンで受ける、炒め物へ茹でた麺を足す。試行錯誤の末に食べやすくなりますが、主食を倍にすれば糖質も食事量も増えます。辛さが半分になっても、夕食が2人前になれば話は別です。

低カロリー寄りの方法なら、味を付けていないモヤシ、キャベツ、白菜、キノコ、大根などを加えます。炒め物には茹で野菜、鍋には出汁と野菜、辛い惣菜には千切りキャベツを合わせると、辛味を分散させながら食べる量を整えやすくなります。ただし、野菜を足した後で味が薄く感じても、辛いタレを追加して元へ戻さないよう注意が必要です。救助した船へ、もう一度唐辛子を積み込むことになります。

砂糖やハチミツを少し加えると、甘味によって辛さが目立ちにくくなることがあります。酢やレモンの酸味も、味の方向を変えて食べやすく感じさせます。しかし、どちらもカプサイシンそのものを消す方法ではありません。砂糖を何杯も加えれば甘辛料理へ変わり、ハチミツならカロリーも増えます。小さじの先へ少し付ける程度から試すのが無難です。

油はカプサイシンと馴染みやすいものの、辛い料理へさらに油を注ぐ方法は勧めにくいところです。口当たりが変わっても、油を飲むような状態になれば胃にも重く、カロリーも急上昇します。ゴマ油やラー油で辛さを直そうとすると、唐辛子に応援団を呼ぶ結果にもなります。油脂を使うなら、ヨーグルトや卵など、料理として食べやすい形を少量選びます。

辛さを直す時は、小さな器で試す方法も役立ちます。鍋全体へ牛乳を注ぐ前に、一口分だけ取り分け、牛乳や卵、出汁を混ぜて味を確かめます。良ければ全体へ少しずつ広げ、合わなければ元の料理は無事です。大鍋を一発勝負の実験場にしないことが、台所の平和を守ります。

口の中が痛くなったら、無理に完食する必要はありません。少し休み、乳製品などで落ち着かせます。唇や喉の腫れ、息苦しさ、強い腹痛などが現れた場合は、単なる辛さとして我慢せず、体調を優先します。辛さへの慣れ方は千差万別で、隣の人が平然としていても、自分まで根性大会へ参加する理由はありません。

唐辛子の味戻しは、豪華なトッピング選手権ではありません。冷まして、辛い部分を減らし、薄い汁や具材へ広げ、必要な分だけ卵や乳製品で包む。足す物を増やすより、順番を知る方が、食卓も体も軽やかに着地します。

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第3章…砂糖が前へ出過ぎた!~酸味・苦味・塩気で甘さの居場所を整える~

煮物を味見した瞬間、「ご飯のおかずを作ったはずなのに、これは和菓子の親戚では?」と鍋を二度見する。コーヒーへ砂糖を入れた後で、もう入れたことを忘れて、もう一杯。スーパーの惣菜も、期待していた味より甘めに仕上がっていることがあります。

砂糖の困ったところは、ワサビのように揮発せず、唐辛子のように辛い部分だけ取り除くことも難しい点です。鍋へ溶けた砂糖は、箸でつまんで帰ってもらえません。出来ることは、甘さの濃度を下げるか、酸味や苦味、香りを加えて、甘さだけが目立たない味へ動かすことです。

甘過ぎる料理を救う時は、砂糖を消そうとせず、甘さが座る席を少し後ろへ移します。

煮物、照り焼き、すき焼き風の惣菜など、食事のおかずが甘過ぎる時は、味を付けていない具材を増やす方法が堅実です。大根、豆腐、コンニャク、キノコ、白菜、タマネギなどを加え、出汁で煮直すと、料理全体へ甘さが分散します。完成品へ具材を加える時は、元の煮汁を全部使わず、一部だけ別鍋へ移して薄い出汁と合わせると調整しやすくなります。

水だけを大量に入れると、甘さと一緒に旨味まで薄くなり、今度は醤油や塩を足したくなります。そこから砂糖も必要になり、鍋の中で一進一退の味付け会議が始まります。薄める時は、少量の出汁を加えて温め、味見をしてから次へ進む方が平和です。

酸味は、甘さの単調さを切り替える頼もしい役です。煮物や甘酢料理なら、酢を数滴ずつ。肉料理や魚料理なら、レモン、スダチ、ユズなどの果汁を少し加えると、後味が軽くなります。惣菜へ直接かけるのが心配なら、小皿へ一口分だけ取り、酸味との相性を確かめます。鍋全体へ豪快に注ぐ必要はありません。料理番組のように格好よく回しかけて、次の瞬間に酸味と見つめ合う展開は避けたいところです。

トマトも甘辛い料理へ使いやすい材料です。無塩のトマトジュースや刻んだトマトを、カレー、ミートソース、煮込み料理へ少量加えると、酸味と水分で甘さを散らせます。ただし、市販のケチャップは砂糖を含む物が多く、甘さを直そうとして甘い調味料を追加する形になりかねません。原材料や味を確かめて、無糖に近い物を選びます。

苦味や香ばしさも、甘さの印象を変えてくれます。甘過ぎるココアには無糖ココアを、甘いコーヒーには砂糖を入れていない濃いコーヒーを足します。チョコレート風味の菓子やクリームなら、無糖ココア、深煎りのコーヒー、香ばしく炒ったナッツなどを少量合わせると、甘さ一色だった味に奥行きが生まれます。

ただし、ナッツやチョコレートを大量に加えると、甘さは目立ちにくくなってもカロリーは着実に増えます。無糖ココアやコーヒーを先に試し、ナッツは香りを添える程度に留めるのが匙加減です。「甘くなくなったから健康的」と思った頃には、器の中で高カロリー連合が結成されているかもしれません。

塩気は甘味を引き締めることがありますが、使い方には注意が必要です。ほんの少しの塩は甘さを抑えるどころか、却って甘味を際立たせることもあります。スイカへ塩を振ると甘く感じるのと同じです。甘過ぎる物へ塩を何度も足すと、甘くて塩辛い料理が完成し、問題が二人組になります。

塩を使うなら、指先にわずかに付く程度から試します。煮物やタレでは、醤油を追加するより、出汁、酢、香味野菜を先に使う方が塩分を増やさずに済みます。塩や醤油は味の輪郭を整える最後の調整役であり、砂糖を打ち消す消しゴムではありません。

生姜、黒コショウ、山椒、紫蘇、ネギなどの香りを加える方法もあります。甘い肉料理に生姜を少量足すと、後味が締まり、甘さが前へ出にくくなります。甘いそぼろには山椒、甘辛い焼き鳥には七味、甘めの南蛮漬けには紫蘇やミョウガ。適材適所で香りを入れ替えると、砂糖の量を変えなくても食べやすさが動きます。

汁物、カレー、シチューなら、無糖のヨーグルトや牛乳を少量使う方法もあります。酸味や乳製品のコクによって、甘さが丸く感じられます。しかし、生クリーム、バター、チーズを次々と加えると、味は整っても脂質とカロリーが跳ね上がります。ヨーグルトや牛乳を少量から試し、濃厚な材料は最後の手段に残します。

甘過ぎるデザートは、料理のように出汁で薄めるわけにはいきません。無糖ヨーグルト、甘くない果物、無糖の寒天、プレーンなクラッカーなどと組み合わせ、一回に食べる量を小さくします。甘いプリンを無糖ヨーグルトと交互に食べる、甘いあんこを寒天や豆腐へ少量添える、濃いケーキを小さく切って無糖の飲み物と楽しむ。味を直すだけでなく、食べ方を変えるのも臨機応変な味戻しです。

甘過ぎる飲み物なら、無糖の同じ飲み物で割るのが素直です。甘いコーヒーにはブラックコーヒー、甘い紅茶には無糖紅茶、濃いジュースには水や炭酸水を加えます。氷を入れて時間を置く方法もありますが、冷たさで甘味を感じにくくなるだけで、砂糖の量は変わりません。飲みやすくなったからと量を増やせば、摂る糖分も増えてしまいます。

どうしても味が戻らない時は、一度に食べ切らず、別の料理へ分けて使います。甘い煮物を刻んで卵焼きの具にする、甘い肉そぼろを豆腐や野菜へ少量のせる、甘いソースを無糖のトマトソースへ混ぜる。失敗作として我慢するより、濃い調味料として少しずつ活用すれば、食卓に新しい出番が生まれます。

砂糖の味戻しは、酸味、苦味、香り、薄い材料を少しずつ動かす試行錯誤です。何かを山ほど加えて甘さを隠すのではなく、小皿で確かめ、食べる量も含めて整える。甘さが前へ出過ぎた一皿にも、落ち着ける居場所はちゃんと残っています。


第4章…塩が主役になってしまった!~薄める・増やす・分けるで濃さを戻す~

インスタント麺のスープをひと口飲んで、「今日は海が近いな」と感じる。スーパーの煮物は見た目こそ優しそうなのに、口へ入れると醤油が堂々のセンター。お店の料理でも、自分には少し濃いと感じることがあります。

塩気の感じ方は、体調、汗をかいた量、普段の食習慣によっても変わります。作った人には程良くても、食べる人には濃い。味覚の違いなので、どちらかが間違っているわけではありません。無理に慣れようとせず、自分が気持ちよく食べられる場所へ動かせば良いのです。

塩辛さを直す時に知っておきたいのは、砂糖、酢、油などを加えて塩味が目立たなくなっても、ナトリウム(食塩に含まれる成分)の量は減らないことです。甘辛くしたり、コクを足したりすれば舌は納得しても、体へ入る塩分はそのまま。しかも砂糖、マヨネーズ、チーズ、バターまで加われば、カロリーも一緒に増えていきます。

塩辛い料理の基本は、別の味で隠すことではなく、濃い部分を減らして薄い材料へ分散させることです。

インスタント麺なら、粉末スープや液体スープを最初から全部入れない方法が手堅いでしょう。半分から3分の2ほど入れて味を見れば、濃過ぎてから救出する手間が減ります。袋の中身を全投入してから「濃い!」と驚くのは、説明書を読まずに家具を組み立て、最後にネジが1本余る時と少し似ています。完成はした。でも、胸に小さな不安が残ります。

既に完成した麺が濃い時は、スープを少し別の器へ移し、お湯か無塩に近い出汁を足します。器の大きさに余裕がなければ、麺と具を別の器へ移し、薄めたスープを必要な分だけ戻します。全部を薄めて大盛りにするより、一部を取り除く方が食べる量も増えにくく、塩分を口へ運ぶ量も抑えやすくなります。

スープを残すのも立派な調整です。ラーメンやうどんの汁を飲み干さなければ、器に残った分の塩分まで摂る必要はありません。「作った人に悪いかな」と思うこともありますが、満腹と体調を越えて完飲することまで、おもてなしには含まれていないでしょう。

味噌汁や鍋物なら、味を付けていない出汁、水、白菜、キノコ、豆腐、大根などを加えます。水だけで薄めると旨味までぼやけやすいため、無塩の出汁や具材を使うと食べやすさを保ちやすくなります。豆腐や野菜は比較的カロリーを増やしにくく、料理の嵩も出るので一石二鳥です。ただし、増やした分を全部食べれば量は増えます。翌日の一品へ分ける発想も持っておきたいところです。

煮物は、濃い煮汁を一部取り除き、薄い出汁を加えて短く煮直します。大根、里芋、コンニャク、豆腐など、味を付けていない材料を別に火入れしてから加える方法もあります。生の具材をそのまま放り込むと、元の具が煮崩れるまで時間がかかるため、追加する材料だけ先に柔らかくしておくと臨機応変に動けます。

炒め物なら、味を付けていないモヤシ、キャベツ、キノコ、タマネギなどを別に炒めて混ぜます。フライパンへそのまま生野菜を山ほど足すと、水分が出て料理全体がベチャッとすることがあります。追加分を別で加熱し、水気を飛ばしてから合わせると、元の食感を守りやすくなります。

スーパーの唐揚げや焼き鳥に、濃いタレがたっぷり付いている時は、キッチンペーパーで表面の余分なタレを軽く押さえます。水で洗うのは食感も衛生面も心配が残るため、表面を拭う程度が現実的です。タレを落とした後に千切りキャベツ、大根おろし、レタスなどと合わせれば、一口当たりの濃さを散らせます。

漬物や塩漬けの魚は、料理によっては短時間だけ水へさらす方法があります。ただし、長くさらすと旨味や香りまで抜け、保存性にも影響します。食べる分だけ取り分け、短く試して水気をしっかり切ります。商品によって扱いが異なるため、表示に塩抜き方法がある場合は、それに合わせるのが安心です。

チャーハン、炊き込みご飯、混ぜご飯が塩辛い時は、味を付けていない白ご飯を混ぜます。一度に大量投入せず、小さな器で割合を確かめると失敗が広がりません。卵を加える方法もありますが、油で炒め直せばカロリーが増えます。白ご飯で調整した後、必要な時だけ卵を使う順番なら、豪華になり過ぎずに済みます。

パスタや焼きそばは、味を付けていない麺を追加する方法があります。新しく麺を1人前茹でると食事量まで倍になるため、半量だけ追加する、翌日の分へ分ける、野菜やキノコで嵩を整える方が現実的です。塩気を半分にしたつもりが、夕食を2倍食べてしまえば、胃袋だけが勝利宣言を上げます。

ジャガイモが塩分を吸い取るという話もありますが、鍋へ入れただけで塩だけを選んで消してくれるわけではありません。ジャガイモ自体が煮汁を吸い、料理全体の量が増えることで、一口当たりの濃さが下がります。豆腐、大根、麺、ご飯と同じく、薄い材料へ味を分ける働きとして考えると自然です。

酢、レモン、コショウ、山椒、生姜、ネギなどの香りは、塩気以外の輪郭を作ってくれます。薄めた後で味が頼りなく感じた時に少量使うと、塩や醤油を戻さずに満足感を補えます。ただし、酸味や香りは塩分そのものを減らしません。薄める前から大量に加えると、しょっぱくて酸っぱい料理が誕生し、悩みが二世帯住宅になります。

砂糖で塩味を打ち消そうとする方法にも注意が必要です。甘味が加わると塩辛さが隠れることはありますが、食塩は残り、糖分とカロリーが増えます。味醂、蜂蜜、ケチャップも同じです。味を整える最後の数滴なら使えますが、塩辛さを消す主役には向きません。

マヨネーズ、チーズ、生クリーム、バターは、塩味をまろやかに感じさせることがあります。しかし、これら自体にも塩分を含む商品があり、脂質とカロリーも増えやすい材料です。濃い惣菜へマヨネーズを山盛りにすると、味は丸くなっても数字は丸く収まりません。先にタレを減らす、野菜へ分散する、食べる量を小さくする。その後に必要な分だけ使います。

外食で味が濃い時は、店員さんへお湯や薄い出汁を頼める場合もあります。つけ汁を少なめに付ける、ご飯や付け合わせと交互に食べる、ソースを別添えにしてもらう。注文時に「味を薄めに出来ますか?」と聞くのも、気難しいお願いではありません。好みを伝えることは、料理を最後まで楽しむための小さな工夫です。

どう動かしても濃い時は、一度に食べ切らず、翌日に薄い材料と合わせます。濃い煮物を刻んで卵焼きや混ぜご飯の具にする、濃い肉料理を野菜炒めの調味料代わりに使う、濃いスープを少量ずつ鍋料理へ移す。完成品を「料理」ではなく「濃い味の素」として扱えば、出番を変えて救えます。

塩が前へ出過ぎた時に必要なのは、砂糖や油脂との力比べではありません。濃い部分を減らす、薄い出汁で広げる、味のない具材を加える、食べる量を分ける。静かな匙加減を重ねれば、塩が独占していた舞台へ、素材の味も少しずつ戻ってきます。

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まとめ…足すことは引くことにもなる~味を救う最後のひと匙~

ワサビ、唐辛子、砂糖、塩。同じ「濃過ぎる」でも、食べやすい味へ戻る道はそれぞれ違います。

鼻へ抜けるワサビは、取り除き、空気へ触れさせ、顔を上げて呼吸し、必要なら熱で香りを逃がす。口に残る唐辛子は、辛い汁やタレを減らし、野菜や主食へ広げ、卵や乳製品で刺激を受け止める。前へ出過ぎた砂糖は、出汁や無糖の材料で薄め、酸味、苦味、香りによって甘さの席を少し後ろへ移す。塩は別の調味料で隠さず、濃い部分を減らし、薄い汁や味のない具材へ分散させる。

食卓で役立つのは、何でも足せば何とかなるという勢いではありません。その味が、鼻に残るのか、口に残るのか、料理全体へ溶けているのかを見分ける臨機応変な目線です。相手の性格が分かれば、ワサビへ牛乳を注ぎ、塩辛い煮物へ砂糖を山盛りにするような、にぎやか過ぎる救助活動も減っていきます。

卵、チーズ、マヨネーズ、バター、砂糖、ご飯は、困った味を穏やかにしてくれる頼もしい仲間です。ただし、全員を一度に呼ぶと、辛さや塩気が落ち着く代わりに、カロリーが元気よく席を埋め始めます。味を消すために食事量が2倍になれば、料理は助かっても、お腹が残業することになるでしょう。

先に試したいのは、取り除く、待つ、冷ます、汁を残す、無塩の出汁で薄める、低カロリーの野菜へ広げるといった方法です。油脂や主食を使う時も、別皿へ一口分を取り、小匙単位で確かめれば大改造を防げます。適材適所のひと匙は、豪快な一杯よりも頼りになります。

インスタント麺も、スーパーのお惣菜も、お店の料理も、作った人が決めた味をそのまま我慢して食べなければならないものではありません。体調や好みは日によって変わり、昨日は美味しかった濃さが、今日は少し重く感じることもあります。残す、薄める、組み合わせる、翌日の料理へ分ける。それも立派な食べ方です。

味の失敗は食卓の終点ではなく、自分に合う美味しさを見つける出発点です。

「少し濃いな」と感じた時こそ、台所の腕の見せどころ。慌てて調味料を総動員せず、まずは一口分から動かしてみる。ワサビの涙も、唐辛子の汗も、甘過ぎる煮物も、海のように塩辛いスープも、匙加減1つで笑って食べられる場所へ戻ってきます。

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