福祉の営業は「会わない日」に信頼が育つ~追いかけない営業がご縁を太くする新しい作法~

[ 職場の四季と作法 ]

はじめに…「会えない」は不利じゃない~福祉の営業は静かな日にも進んでいる~

福祉の営業というと、施設や病院へ足を運び、名刺を渡して、何度も顔を見せる姿を思い浮かべるかもしれません。ところが、忙しい現場では「来てくれた回数」より、「忙しい時に邪魔をしなかった人」の方が妙に覚えられていることがあります。

電話なら短く、資料なら読みやすく、訪問するなら必要な時だけ。相手が慌ただしそうなら、今日は引く。こうした小さな判断も立派な営業です。会えない日にも相手を気遣える人は、会えた日のひと言まで軽くしてくれます。

福祉は一期一会の連続に見えて、実際には「あの人なら相談しやすそう」という小さな記憶が、ご縁をゆっくり育てていく世界です。毎回、素晴しい提案を持参しなくても構いません。むしろ毎回それをやったら、こちらも相手も息切れします。営業鞄より先に肩がパンパンでは困ります。

感染対策や人手不足で、気軽な訪問が難しい日もあります。そんな時こそ、営業を「会いに行く仕事」だけで考えないこと。連絡するタイミングを選ぶ、短い情報を届ける、相手が必要になった時に思い出してもらえる場所にいる。見えないところで出来ることは、意外にたくさんあります。

追いかけなくても、ご縁は育ちます。静かな気遣いを重ねていると、ある日こちらから扉を叩く前に、「ちょっと相談したいんですが」と向こうから扉が開くことがあります。そんな営業なら、する側も受ける側も、少し気持ち良く働けそうです。

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第1章…会う回数より負担を減らす~訪問を「行く営業」から「選ぶ営業」へ~

午前10時。施設の玄関へ着いてみると、受付には電話、奥では職員さんが小走り、さらに何やら会議まで始まりそうな気配。

折角、来たんだから挨拶だけでも……と進みたくなるところですが、そんな日は名刺より先に空気を読む方が良いことがあります。

「今日は、お忙しそうなので失礼します」

それだけ伝えて帰る。

営業なのに帰って良いのか、と自分でツッコミたくなりますが、むしろその判断が次の訪問を楽にしてくれることがあります。臨機応変とは、何でも器用にこなすことではなく、「今日は押さない」と決められることでもあるのでしょう。

福祉の現場には、その日の予定だけでは読めない忙しさがあります。急な受診、家族からの電話、利用者さんの体調変化、職員の欠勤。そこへ営業担当者が現れれば、対応する人には新しい仕事が1つ増えます。

福祉の営業は、会えた回数より「この人は私たちの忙しさを分かってくれる」と感じてもらえた回数で信頼が育ちます。

ならば、訪問は多ければ良いものではありません。「行けるから行く」から「行く意味がある日に行く」へ変える。それだけでも営業の景色は随分と違います。

会う前には、相手の様子を少し想像しておきます。最近は忙しい時期なのか、電話とメールのどちらが負担になりにくいのか、担当者が動きやすい時間帯はいつ頃か、今日伝えたいことは何なのか。

これを営業先ごとに1枚のメモへ残しておくと、次の一手が見えやすくなります。優先順位(大切なものから先に決める順番)が見えるので、「取り敢えず行ってみよう」が減っていきます。

私などメモを作ると、それだけで仕事をした気分になりそうですが、そこは危険です。メモは眺める観賞用ではありません。ちゃんと使いましょう。自分への注意書きでもあります。

訪問が必要な日には、相手が構えなくて済む形を先に見せます。

「10分ほどで終わります」「資料は1枚です」「今日決めていただく話ではありません」

この3つが分かるだけでも、受ける側の気持ちはかなり違います。「何分かかるんだろう」「大量の資料を説明されるのかな」「何か決めなきゃいけないのかな」という小さな警戒が減るからです。

これはタイムコスト(対応に使う時間の負担)を小さくする考え方でもあります。営業する側には短時間で要点を伝える訓練になり、相手には仕事を止められにくい。一石二鳥です。

そして、会わない日は何もしない日ではありません。

短い挨拶を1つ。相手に役立ちそうな情報を1つ。必要なら、次に連絡する頃合いを1つ。

長文の大作を送りつける必要はありません。読むだけで昼休みが終わるようなメールは、もはや小説です。こちらは営業担当者であって、連載作家ではありません。

大切なのは、接点を無理に増やすことではなく、1つ1つを気持ち良くすることです。タッチポイント(相手と接する機会)が少なくても、そのたびに「短かった」「分かりやすかった」「こちらの都合を考えてくれた」が積み重なれば、名前は少しずつ残っていきます。

訪問を減らすことは、関係を薄くすることではありません。

行く日を選び、引く日を選び、伝える量まで選ぶ。その小さな選択が出来るようになると、営業は玄関を突破する仕事ではなく、相手が扉を開けやすくしておく仕事へ変わっていきます。


第2章…名刺より「思い出せる人」になる~顔・声・ひと言で相談の入口を作る~

名刺を渡して、丁寧にお辞儀をして、名前と所属を伝える。

ここまでは完璧。ところが数日後、相手の机には別の名刺が何枚も増えています。

「あの人、何て名前だったっけ?」

少々切ないですが、福祉の営業では珍しい話ではありません。こちらにとっては大切な訪問でも、相手にとっては忙しい1日の中の数分です。名刺1枚に全責任を背負わせるのは、名刺にも少し酷でしょう。

そこで大切になるのが、「覚えてもらう」より「必要な時に思い出してもらう」という考え方です。

覚えてもらう営業より、思い出してもらえる営業の方が、福祉では長く役に立ちます。

「車いすのことで困った時の人」「退院後の相談をしやすかった人」「短い電話で話が通じる人」

こんなふうに、名前と一緒に役割が浮かべば十分です。営業担当者の名前を毎朝唱えてくれる人など、まずいません。それはもう営業ではなく朝の唱和です。

顔も、その手助けになります。

名刺や案内に小さな顔写真を載せるなら、華やかさを競う必要はありません。清潔感があり、本人だと分かり、実際に会った時との違いが少ない。それくらいがちょうど良いでしょう。

人は言葉だけで相手を見ているわけではありません。非言語コミュニケーション(表情や姿勢など、言葉以外から伝わる情報)も一緒に受け取っています。柔らかな表情、落ち着いた声、急かさない話し方。その全部が、「この人なら話しても大丈夫そう」という小さな安心になります。

声にも、覚えてもらいやすい形があります。

毎回違う立派な挨拶を考えるより、

「〇〇の△△です。☆☆のご相談を担当しています」

くらいの簡潔明瞭な名乗り方を決めておく方が伝わりやすくなります。

電話でも訪問でも同じ順番で名乗れば、聞く側も「ああ、あの人ね」と結びつきやすい。こちらも途中で言葉を盛り過ぎて、自分が何を説明しているのか迷子にならずに済みます。営業の自己紹介で遭難する必要はありません。

直接会う機会が少ないなら、短い自己紹介を別の形で残す方法もあります。

文章なら数行。動画なら30秒ほど。伝えるのは、名前、担当していること、どんな時に相談してほしいか。それだけです。

立派な経歴を全部詰め込むより、「何を相談できる人なのか」が分かる方が実用的です。相手が困った場面で思い出すのは、経歴書の5行目ではなく、「そういえば、あの件を相談できる人がいたな」という記憶だからです。

ここには十人十色があります。話すのが得意な人もいれば、文章の方が柔らかく伝わる人もいます。写真が似合う人もいれば、電話の声で安心感が伝わる人もいるでしょう。全員が同じ営業スタイルになる必要はありません。

ただし、どの方法でも共通して大切なのは、「見せるため」より「相手が分かるため」に作ることです。

名前が分かる。役割が分かる。相談して良い内容が分かる。

この3つが揃えば、次の接点はずっと軽くなります。

名刺交換の瞬間に勝負を決めなくても大丈夫です。福祉のご縁は、困り事が生まれた時にもう一度名前が浮かぶことで動き出します。

「あ、この人に聞いてみよう」

そのひと言が相手の頭に浮かぶなら、営業としては随分と良い場所に立てています。

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第3章…売る前に役に立つ~小さな手助けが地域のご縁を連れてくる~

営業に出かける時、「今日は何を説明しよう?」と考えるのは自然なことです。

けれど福祉の現場では、説明されたい日より「ちょっと助かりたい日」の方が多かったりします。電話が鳴り、書類が積み上がり、予定外の出来事が横から入ってくる。そんな午後に立派な案内を広げられても、頭の中では「済みません、今それどころでは……」となることもあります。

そこで発想を少し変えて、売り込みより先に「何か1つ、相手の手間を減らせないか?」を考えます。

福祉の営業では、商品やサービスを覚えてもらう前に、「この人は役に立つ」と感じてもらえることが大きな入口になります。

相手に渡すものは、豪華でなくて構いません。

現場で使いやすい連絡先の一覧、迷いやすい手続きを短くした案内、季節に合わせた注意点、電話一本で済む確認。こうした小さな助けは、派手さこそなくても実務の中にスッと入り込みます。

専門用語ではベネフィット(相手が実際に得られる良いこと)と呼ばれます。こちらが何を売りたいかではなく、相手の仕事がどう楽になるかを見る考え方です。

福祉では、この視点が特によく似合います。

介護事業所も病院も地域の相談窓口も、人を支えるために動いています。その人たちへ何かを届けるなら、「こちらの話を聞いてください」より「これ、使えそうならどうぞ」の方が入り口は柔らかくなります。

ただし、善意も盛り過ぎると少々重くなります。

頼まれていない資料を分厚く作り、便利グッズを山ほど持ち込み、「良かれと思って全部、揃えました!」となれば、受け取る側に新しい管理仕事が発生することもあります。

親切のフルコースを出した結果、相手が胃もたれしては本末転倒です。

ここで大切なのは適材適所。相手の規模や役割に合わせて、ちょうど良い大きさで届けます。

大きな病院や施設には、物品の受け取りや情報共有に決まった手順があることも珍しくありません。一方、小さな事業所や地域の活動場所では、ほんの少しの情報や工夫がそのまま役立つ場合があります。

営業先を「契約に繋がりそうな所」だけで見ると、地域は点々とした目的地になります。

けれど、「誰が誰を支えているのだろう?」と眺めると景色が変わります。

ケアマネ事業所の向こうには訪問介護があり、その先に家族がいて、病院や薬局、地域活動とも繋がっています。福祉の営業は、その輪のどこかに小さな橋を架ける仕事とも考えられます。

そんな時、役立つ情報を渡した後のひと言も大切です。

「使いにくかったら教えてください」「必要な時には声をかけてください」

この程度で十分です。

返事を求めず、次の注文も迫らず、相談の入口だけ残して帰る。相手には逃げ道があり、こちらには次に繋がる細い糸が残ります。

「情けは人の為ならず」ということわざがあります。人への親切は巡り巡って自分にも返ってくる、という意味です。

ただ、営業で返ってくるものを最初から待ち構えていると、急に計算高く見えてしまいます。「そろそろ返ってきても良い頃ですが?」なんて顔をしたら台無しです。

役に立てる時に、小さく役に立つ。

それを無理なく続けていると、地域のどこかで名前が繋がります。

「そのことなら、あの人に聞いてみたら?」

営業担当者にとって、こんな紹介はとても嬉しいものです。

自分から売り込んだ言葉ではなく、誰かが誰かへ渡してくれたひと言だからです。

ご縁は、こちらが引っ張って連れてくるものばかりではありません。小さな手助けを置いて帰った後、見えないところでゆっくり歩いてこちらへ戻ってくることもあります。


第4章…追いかけないのに途切れない~短いフォローと記録で信頼を育てる~

名刺を渡し、話もできて、「感じの良い人だったな」と思ってもらえた。ところが、それから1か月。こちらも忙しく、相手も忙しく、気づけば2か月が過ぎています。そして電話をかけようとした瞬間、「随分とご無沙汰してしまったな……」と妙に緊張する。電話番号は昨日と同じなのに、発信ボタンだけ急に重く感じるから不思議です。

福祉の営業では、最初の出会いより、その後を自然に繋いでいく方が難しいことがあります。そこで役に立つのが、気合いではなく「次が分かる状態」を作っておくことです。「また頃合いを見て連絡します」だけで終えるより、「来月の中頃に一度だけ様子を伺いますね」と添えておけば、相手の予定を縛らずに次の入口を残せます。間が空いても、こちらから声をかける理由が最初からあるので、久しぶりの連絡がずっと軽くなります。

フォローアップ(その後の様子を気遣う連絡)も、立派な文章である必要はありません。「その後、困っていることはありませんか?」「先日のお話に関係しそうな情報があったので、お送りします」「お忙しいと思いますので、ご返信はお気遣いなく」。そんな短いやり取りでも、関係はちゃんと残ります。良いフォローとは、相手に自分を思い出させ続けることではなく、必要になった時に思い出せる場所へ静かに残っておくことです。

この距離感には、不即不離という言葉がよく似合います。近づき過ぎず、離れ過ぎない。営業だからと毎週連絡すれば、熱心さより先に「また電話だ」と思われるかもしれません。反対に、長い間まったく音沙汰がなければ、「あの人、まだ担当しているのかな」と存在まで薄くなってしまいます。相手の負担にならない間隔を探しながら、時々、小さく声を届ける。それくらいの関係の方が、長く続くことがあります。

福祉の現場には、忙しさの波もあります。年度替わりで人の動きが大きい時、感染症への対応が続いている時、行事や監査などが重なっている時。こちらにはいつもの1本の電話でも、相手には「今日増えた仕事のもう1件」になる場合があります。そんな時には、敢えて連絡しないことも気遣いです。「何もしなかった」と考えるのではなく、「今は邪魔をしない方を選んだ」と考えれば、営業の動き方にも少し余裕が生まれます。

ただし、相手をそっとしておくうちに、こちらまで忘れてしまっては困ります。そこで助けになるのが記録です。いつ連絡したか、何を話したか、相手がどんな様子だったか、次はいつ頃が良さそうか。全部を長々と残す必要はなく、後から読んで「ああ、そうだった」と会話の続きを思い出せる程度で十分です。

ログ(後から確認するためのやり取りの記録)が残っていれば、次の電話で「前にお話しされていた件、その後どうですか?」と自然に続けられます。このひと言は小さいようで、「覚えてくれていたんだな」という安心に繋がります。反対に記録がないと、「えーっと……前は何のお話でしたっけ」と、電話の冒頭から記憶力テストが始まります。しかも受験者はこちらです。営業先まで出向いて、自分で抜き打ち試験を開催する必要はありません。

記録は、相手を細かく管理するためのものではありません。未来の自分が失礼をしないための助けであり、次の会話を気持ち良く始めるための小さな橋です。用意周到と聞くと大きな管理表を想像しがちですが、続かない仕組みを立派に作るより、必要なことだけ残して見返せる方が役に立ちます。忙しい日にも続けられる大きさにしておくことが、結果として関係を長持ちさせます。

そして、ご縁が続くほど連絡の目的も少しずつ変わっていきます。最初は「自分を知ってもらうため」だったものが、「困っていないか確かめるため」になり、いつの間にか相手の方から相談が届くようになる。そこまで来れば、営業は追いかける仕事から、必要な時に支えられる関係へと姿を変えています。

必要以上に近づかず、忘れられるほど離れず、相手の仕事の呼吸に合わせながら細い糸を切らさない。その糸は普段ほとんど見えません。それでも、ある日困り事が起きた時、「そうだ、あの人に聞いてみよう」と電話が鳴ることがあります。

何も起きていないように見えた時間も、ご縁にとっては空白ではありません。静かに覚えていて、静かに覚えてもらう。その積み重ねが、福祉の営業を無理なく長く続ける力になります。

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まとめ…営業は足し算より余白~静かな気遣いが必要な日に思い出される~

福祉の営業は、たくさん会えば完成する仕事ではありません。忙しい日は無理に訪ねず、会えた時には短く分かりやすく伝え、会えない日は相手の負担にならない距離からご縁を繋いでおく。そんな静かな動きの積み重ねが、「この人なら相談しやすい」という安心を少しずつ育てていきます。

名刺を何枚配ったかより、困った時に顔が浮かぶか。立派な説明が出来たかより、相手の仕事を少し楽に出来たか。そして、こちらの都合で連絡を重ねるのではなく、相手が忙しい時には引き、必要な頃にそっと戻る。この距離感が整うと、営業は「お願いする仕事」から「頼ってもらえる関係を育てる仕事」へ変わっていきます。

誠心誠意という言葉は、何でも全力で押し切ることではないのでしょう。相手の事情を考えて今日は連絡しないことも、資料を1枚に減らすことも、返事を求めないひと言を添えることも、その中に入ります。気遣いは派手ではありませんが、派手ではないからこそ日常の中へ残りやすいものです。

営業する側としては、時々、不安になります。「最近会っていないけれど大丈夫かな」「もっと動いたほうが良いのでは?」と。しかし、ご縁には見えない時間があります。何も起きていないような数週間にも、以前の挨拶や小さな手助け、気持ちの良い電話の記憶は相手の中に残っています。

福祉の営業で積み立てたいのは訪問回数ではなく、「必要な時に思い出してもらえる安心」です。

そして、ある日電話が鳴ります。「少し相談したいことがあるんですが…」。その瞬間、会わなかった日々まで無駄ではなかったことが分かります。こちらが扉を叩き続けなくても、向こうから扉が開く日があるのです。

そんな電話を受けたら、まずは落ち着いて話を聞きたいところです。ここで嬉しさのあまり声が1オクターブ上がったら、「随分と待ってましたね」と全部バレそうですから。

追いかけ過ぎず、離れ過ぎず、役に立てる時にはそっと手を伸ばす。福祉の営業は、空白まで味方に出来る仕事です。今日会えなかった相手とのご縁も、静かなところで次の一歩を待っているのかもしれません。

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今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m


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