〈Episode1〉死に目に出会う。別れの感慨…。〈後編〉
はじめに
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本記事では、記事とは一線を画しまして…。
私の介護体験で既にオムニバス(omnibus;既に記事として何かしらで活用したもの)を含む中からエピソード(Episode)やエッセー(essay)を多少、ドラマチックにお届けしようというものです。
もちろん、盗作はありません。
実体験に基づく体験談になりますが…。
記憶が曖昧な面もあるので、結論としては読み物、小説に近い作りになります。
※尚、作中に登場します主人公は私の分身、登場人物や団体は全て架空の設定に変更しておりますこと、ご了承ください(*^▽^*)
22年の介護の世界で最も印象に残る利用者さんとの関わりの中から産まれたストーリーの数々…。
印象に残る利用者さんとは…。
とても深い情で繋がる。
亡くなって久しく時が過ぎても、瞼を閉じて思い起こすと…。
その声、姿が脳裏を過る…。
私が出会った利用者さんは数千人に及ぶ。
その中で1番の印象に残る出会いのEpisodeから…。
〈Episode1〉死に目に出会う。別れの感慨…。
≪後編です≫
清春さんの病室では…。
妻と長男のお嫁さんが寄り添う。
酸素マスク、看護師さんによる吸引器の活用…。
心電図が繋がれ、点滴も数個、ぶら下げられている。
点滴を引き抜いてしまうので、四肢は拘束を受けている。
それもわずかな間だけだった。
2日もすると落ち着いて、拘束も解かれ、愛する妻を思い出した。
絶飲食は続いている。
酸素マスクと点滴、心電図など医療機器は外されない。
私はその時…肺炎が清春さんの中で沈静化に向かわない証拠だと思った。
これらの機器を外して様子を見る段階に医師が判断して進まない理由がそこにあるわけで…。
軽い肺炎の人は数日で落ち着く。
私は…日々、落ち着かない気持ちで病室を訪ねた。
※※※
ある日、見舞った病室で…。
清春さんの呼吸は酸素マスクの晴れ曇りに合わせて苦しいように見える。
けれど眠っていたのに目を覚まして起き上がろうとする。
清春さんを手で制するゼスチャーをしながら…。
枕元に寄り添う。
あぁ…いつもの優しい瞳だ…。
温かい…。
早く良くなって欲しい…。
彼は私の右手を両手で優しく包み込む…。
柔らかくもあり、無骨で大きな手が私の手を包み込む。
体温は高い…いまだに発熱があるのだ。
肺炎は肺の中の雑菌を抗生物質で退治できて体力があれば必ず回復するという。
清春さんは長期間の熱で体力が消耗している。
発熱がまだあるということは、抗生物質が効いていないのか?
依然として危篤な状態が続いているということだと私は思った。
寝たきりで病に疲労困憊しているのに、両腕を挙げて手を握ってくれる…。
今の清春さんにとってどれだけ大変なことか…。
『 清春さん… 』
今はゆっくり休みましょう…。
早く良くなってください…。
続けて投げかける言葉が出てこない。
『 …。 』
清春さんは言葉こそないが、握った手に僅かに力を込め…優しい笑みを浮かべる…。
私の脳裏には未だに…この時の彼の笑顔が焼き付いている。
わずかに引き寄せられ…。
頭を2回…ぽんぽん…。
肩を2回…ぽんぽん…。
幼子をあやすように優しく…。
年季の入った教師のプロの仕業である。
それもこんな衰弱した中でも、妥協せずに行動するなんて…。
とめどなく伝う涙、私は利用者さんの前で感情的に泣いてしまった初の出来事。
化粧も崩れぐちゃぐちゃだった…。
そして…この日の深夜、ご家族様に看取られて清春さんは穏やかに旅立った。
※※※
拝啓 秦 清春様
生前、入院直前は認知症で、食事もマナー正しくとはいかず、言葉も上手く出ない。
それでも小学生の童謡は、ピアノで弾けて、奥様との連弾まで披露してくださいましたね。
演奏のお相伴に与った後に魅せていただいた清春さんの満足そうな微笑み…とても眩しくて素敵でした。
私をとても明るい気持ちにさせていただいたことを覚えております。
最初の出会いから、最後の看取りまで認知症を患ったとはいえ…教師の鑑、ここにありでしたね。
私に貴方様の生き方、心に明確なメッセージとしてとても響いたのですよ。
私、最後の日に、貴方の教え子の一人になった気分でした。
不肖の教え子ですが、これからも私なりの社会貢献へ邁進していく所存です。
秦清春様、最後の最後までありがとうございました。
敬具
追伸 恩師様、あの温もり…私の心の支えになっております。
良き教育とは、永遠不変のもの。心に染みわたりました…。
後書き
本Episode、いかがでしたでしょうか?
今までの記事とは全く違う境地で驚かれて、呆れてしまわれたかもしれません。
実話を私なりの文章力で再現した小説ですが…。
事実はご本人様とご家族様のみが知る境地です。
同僚にも上司にも報告できなかったことですが…。
私の中で最高の思い出の一つになっております。
この小説の中での私のポジションや背景を補足しておきますと…。
介護支援専門員(ケアマネージャー)という立場で清春さんの生活計画を設計しておりました。
直接的な介護を提供するわけではなくて、設計するポジション。
入院された時は、それこそ早朝から駆けつけて、排泄の片付けから、落ち着ける環境設定まで看護師さんと共に1時間もかけて整えたものです。
計画を机上で練るだけではなくて直接の介護士としても、一時的にですが動いていたわけです。
でも…清春さんの数々の教え子の皆様からは、お叱りを受ける結果です。
もっと落ち度のない計画を作っていれば…。
清春さんはもっと長生きできていたのかもしれません。
認知症というご病気があっても、最後まで立派であり続けたその生き様は私の心に今も深く刻まれております(*^▽^*)
誠にありがとうございました。
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