9月9日は救急の日~慌てる前の小さな備えが家族を守る~

[ 介護現場の流儀 ]

はじめに…救急の日は「もしも」を暮らしで受け止める日

台所でお茶を入れている時、居間でテレビの音が流れている時、いつもの夕方がそのまま続くと思っていた時に、家族の「ちょっと変かも」という声で空気が変わることがあります。

胸が苦しい。返事がいつもと違う。立ち上がれない。顔色が悪い。

そんな場面では、誰でも心臓がバタバタします。冷静沈着でいたいのに、頭の中だけ町内運動会のリレー最終走者みたいに全力疾走。自分で自分に「落ち着いて」と言いながら、その声が既に落ち着いていない。救急の場面には、そんな人間らしさがあります。

9月9日の救急の日は、救急車のことだけを考える日ではありません。家族の体調、連絡先、薬、持病、病院までの動き方を、暮らしの中でそっと点検する日です。備えというと堅く聞こえますが、実際は「玄関のどこに靴を置くか」と同じくらい、日常に近いものです。

救急車を呼ぶべき時は、迷わず呼ぶ。その一方で、普段から情報をまとめておくと、救急隊や病院に伝わる速さが変わります。氏名、年齢、住所、今の症状、飲んでいる薬、持病。たったそれだけでも、いざという時には百戦錬磨の助っ人になります。

救急の備えは、怖い未来を待つためではなく、今日の安心を少し厚くするためにあります。

備えあれば憂いなし。昔からのことわざは、こういう時に妙に頼もしい顔をします。冷蔵庫のプリンを守る時よりも、家族の命を守る時こそ本気で働いてもらいましょう。……プリンも大事ですけどね。いや、そこは命が先です。

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第1章…救急車を呼ぶ前に見るべき命のサイン

家族の様子が急に変わった時、最初に迷うのは「救急車を呼ぶべきか?」「病院へ連れて行くべきか?」というところです。ここで完璧な判断をしようとすると、頭の中に会議室が出現します。議長は焦り、書記は混乱、議題は「どうする!?」の一点突破。もう会議どころではありません。

そんな時ほど、まず見る場所を決めておくと動きやすくなります。大切なのは、意識、呼吸、会話、手足の動き、顔色です。意識がぼんやりしている、呼吸が苦しそう、呂律が回らない、片側の手足が動きにくい、胸や頭に激しい痛みがある。こうした変化がある時は、一刻千金の場面になり得ます。迷う時間を短くして、119番に繋げる判断が必要です。

救急車は、単なる移動手段ではありません。救急隊が来ることで、状態の確認、応急処置、受け入れ先との連絡が始まります。特に、本人を動かすと危険そうな時、意識がはっきりしない時、呼吸や胸の痛みがある時は、家族だけで車に乗せようとしない方が安全です。

一方で、本人がはっきり話せて、自分で歩ける、症状も軽く、家族が安全に付き添える時は、かかりつけ医や救急相談窓口に連絡して、受診先を確認する動きも考えられます。救急相談窓口#7119(救急車を呼ぶか迷う時に相談できる電話窓口)を知っておくと、夜間や休日の心細さが少し和らぎます。

ただし、ここで大事なのは「我慢大会」にしないことです。高齢の方は、痛みや苦しさを遠慮して「大丈夫」と言うことがあります。家族も「いつものことかな」と思いたくなります。けれど、いつもと違う表情、返事の遅さ、座り方の崩れ、息の荒さは、小さな旗のように異変を知らせてくれます。

救急の判断は、病名を当てることではなく、今すぐ助けが必要な変化に気づくことです。

冷静な人ほど、判断に時間をかけてしまうこともあります。慎重なのは良いことですが、命の場面では優柔不断が足元にまとわりつきます。まるで洗濯物を干そうとした瞬間に、何故か足元へ絡んでくる靴下のように。あれ、本当にどこから来るのでしょうね。

まずは、意識、呼吸、会話、動き、顔色。見る順番を持っておく。それだけで、突然の場面でも右往左往から一歩抜け出せます。家族を守る第一歩は、特別な技術よりも、いつもと違うサインを見逃さない目から始まります。


第2章…119番で慌てないための電話と言葉の準備

119番に電話をかける場面では、手元のスマートフォンが急に重たく感じます。いつもなら家族の写真を見たり、天気を見たり、ちょっとした連絡をしたりする小さな機械なのに、その時だけは命綱のような顔をしてこちらを見てきます。

電話が繋がると、相手は落ち着いた声で必要なことを聞いてくれます。こちらは慌てていて当然です。百戦錬磨の救急隊側と、人生で何度も経験したくない家族側。そもそも場数が違います。慌てる自分を責めるより、「聞かれたことに答える」と決めておく方が、ずっと現実的です。

最初に伝えたいのは、住所、氏名、年齢、今起きていること、です。住所は番地、建物名、部屋番号まで。家の前に目印があるなら、それも助けになります。「白い塀の家です」「玄関に植木鉢があります」と言えれば、到着までの道しるべになります。植木鉢が急に大役を任される瞬間です。昨日まで水やりを忘れられかけていたのに、急に地域の案内係。人生、何が評価されるか分かりません。

症状は、綺麗な説明でなくて大丈夫です。「〇時頃に」「倒れました」「返事がありません」「胸を押さえて苦しそうです」「片側の手が動きません」「息が変です」。このように、見たままの言葉で伝えます。専門用語を無理に使う必要はありません。バイタルサイン(体温・脈拍・呼吸・血圧など命に関わる基本情報)が分かれば役立ちますが、分からない時は分からないままで構いません。

電話中にありがちなのが、家族全員で一斉に話し始めることです。心配な気持ちは同じでも、受話器の向こうでは音声が大渋滞になります。「お父さん、昨日から変で」「いや朝は普通だった」「薬はどこ」「保険証は?」と、一家総出演の生放送。気持ちは分かりますが、その場の連絡役は一人だけに決める方が安全です。

119番で大切なのは、上手に話すことではなく、必要な情報を1つずつ渡すことです。

救急隊が来るまでの間も、電話を切らずに指示を受ける場面があります。ですから救急の電話は固定電話ではなくてスマートフォンがベストです。通話をしながら、胸骨圧迫(心臓の動きを助けるため胸の中央を押す応急手当)を案内されることもありますし、玄関を開ける、ペットを別室に移す、保険証や薬の情報を準備するように言われることもあります。慌てた時ほど一石二鳥を狙わず、言われた順に動く方が上手くいきます。

家の中では、救急隊3人とストレッチャーが入りやすい動線も大切です。玄関から本人のいる場所まで、荷物や小物を少し寄せるだけでも違います。普段は便利な折りたたみ椅子や買い物袋も、その瞬間だけは通路の忍者になります。静かに邪魔をしてきます。いや、悪気はないのです。置いたのはだいたい自分です。

電話と言葉の準備は、難しい訓練ではありません。冷蔵庫や電話の近くに、住所、家族の連絡先、かかりつけ医、持病、薬の置き場所を書いた紙を置く。それだけでも、いざという時の混乱は小さくなります。沈着冷静を目指すより、慌てても動ける形を作っておく。救急の日に見直したいのは、そんな暮らしの中の小さな仕組みです。

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第3章…お薬手帳と一枚メモが病院への道を短くする

救急の場面で、意外なほど存在感を放つものがあります。大きな機械でも、特別な道具でもありません。お薬手帳と、家族が書いた一枚のメモです。

本人が痛みや苦しさで話せない時、家族も動揺している時、病院側が知りたいのは「その人の体のこれまで」です。どんな病気があるのか。どの薬を飲んでいるのか。アレルギーはあるのか。手術歴はあるのか。かかりつけ医はどこか。これらは、治療の入口でとても大事な情報になります。

お薬手帳は、薬の名前や量、飲み方を伝えてくれる小さな案内役です。薬剤情報(薬の種類・量・飲む回数などを示す情報)が分かると、病院での判断が進みやすくなります。血を固まりにくくする薬、血圧の薬、糖尿病の薬、眠るための薬などは、処置や検査に関わることがあります。ここで「たぶん白い錠剤です」となると、白い錠剤界が広すぎて、病院側も名探偵モードに入るしかありません。こちらも申し訳ない気持ちで一杯になります。

一枚メモには、氏名、生年月日、住所、緊急連絡先、持病、かかりつけ医、飲んでいる薬、アレルギー、過去の大きな病気や手術を書いておきます。紙一枚で十分です。見た目を立派にするより、すぐ読めることが大切です。達筆すぎて古文書のようになると、ありがたみはあるのに解読班が必要になります。ここは質実剛健、読みやすさ優先でいきたいところです。

救急時のメモは、家族の記憶を助けるだけでなく、本人の代わりに体の歴史を伝えてくれます。

高齢の方の場合、複数の病院に通っていることも珍しくありません。内科、整形外科、眼科、皮膚科。通院先が増えると、薬も情報も少しずつ増えていきます。本人は「いつもの薬」と言えても、初めて会う医療者には分かりません。平穏無事な日ほど、情報を一か所に寄せておく価値があります。

持ち出し場所も決めておくと安心です。玄関近くの引き出し、保険証の傍、いつもの通院バッグの中。家族が分かる場所に置き、「救急の時はこれ」と共有しておきます。本人だけが知っている場所にしまうと、いざという時に家族が家中を宝探しすることになります。しかも宝の地図なし。これはなかなかの難易度です。

スマートフォンに写真で保存しておく方法もあります。ただし、充電切れやロック解除の問題もあるため、紙と併用すると安心です。デジタルは便利、紙は素直。この二刀流が暮らしの備えにはよく合います。

救急の日に出来る準備は、特別なことばかりではありません。お薬手帳をいつもの場所に置く。一枚メモを作る。通院バッグを見直す。たったそれだけでも、救急隊や病院に渡せる情報は増えます。小さな紙が、家族の不安を少し軽くし、治療までの道をなめらかにしてくれるのです。マイナ保険証も便利ですがそこまで情報はまだ充実していません。


第4章…家族・近所・主治医と繋がる救急前夜の備え

救急の備えというと、救急箱や保険証を思い浮かべやすいものです。けれど、いざという時に本当に心を支えてくれるのは、人との繋がりだったりします。家族、近所の人、かかりつけ医、薬局、ケアマネジャー。普段はそれぞれの場所で静かに暮らしを支えている人たちが、急な場面では一本の線になります。

一人暮らしの高齢者さんなら、尚更です。毎日会うわけではなくても、新聞が溜まっている、雨戸が開かない、電話に出ない、そんな小さな変化に気づく人がいるだけで、命の発見は早くなります。ご近所付き合いを濃くし過ぎる必要はありません。玄関先で「暑いですね」と声を交わすくらいの距離感でも、いざという時には立派な見守りになります。

かかりつけ医も大切です。かかりつけ医(普段から体調や病気を見てくれる身近な医師)がいると、本人の持病や薬の流れを知っている分、相談の入口がはっきりします。夜間や休日にすぐ診てもらえるとは限りませんが、「この症状なら救急へ」「明日の受診でよいかもしれない」といった判断材料を持ちやすくなります。用意周到という言葉は、こういう暮らしの準備にこそ似合います。

家族の中では、役割を決めておくと安心です。119番に電話する人、玄関を開ける人、薬と保険証を出す人、親族へ連絡する人。全員が同じ場所で「どうするどうする?」と集まると、真剣なのに少しだけ台所の鍋奉行会議みたいになります。誰が味を見るのか?誰が火を止めるのか?そこが決まらない。救急の場面で鍋は出てきませんが、役割分担は大事です。

救急前夜の備えとは、特別な訓練ではなく、困った時に誰へ何を頼むかを決めておくことです。

介護サービスを利用している場合は、ケアマネジャーや訪問介護、訪問看護との連絡方法も確認しておきたいところです。訪問看護(看護師が自宅を訪ねて健康状態を見たり処置をしたりするサービス)が入っている場合、体調変化の相談先として心強い存在になります。連絡ノートや緊急連絡先の紙があるなら、古い電話番号のままになっていないかも見ておきましょう。電話番号が変わっていた時の絶望感は、買ったばかりの乾電池が単三ではなく単四だった時に少し似ています。地味に困ります。

備えは、家の中だけで完結しません。病院までの交通手段、夜間に頼れる家族、近所で鍵を預けられる相手、ペットがいる家なら一時的に見てくれる人。こうしたことを少しずつ考えておくと、急な場面でも七転八起の気持ちで立て直しやすくなります。

救急の日は、怖い想像を広げる日ではありません。家族の連絡先を一枚にする。近所の人に軽く声をかけておく。かかりつけ医の診察券をまとめる。通院バッグを見える場所に置く。そんな小さな準備が、暮らしの底に安心を敷いてくれます。

救急は突然やって来ることがあります。けれど、備えは今日の午後にでも始められます。お茶を一杯飲んだ後、引き出しを1つ開けてみる。そのくらいの一歩で、家族を守る道は少し明るくなります。

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まとめ…備えは怖がるためではなく安心して暮らすためにある

救急のことを考えると、少し胸がざわつきます。できれば起きてほしくない。考えずに済むなら、その方がいい。そう思うのは自然なことです。

けれど、暮らしの中の備えは、不安を増やすためのものではありません。連絡先をまとめる。お薬手帳を分かる場所に置く。持病や通院先を一枚に書く。玄関から部屋までの通り道を少し整える。どれも、今日の生活を壊さずに出来る小さな一歩です。

救急車を呼ぶべき時は、迷わず呼ぶ。迷う時は相談できる先を持つ。家族だけで抱えず、主治医や地域の支えにも繋がっておく。そんな準備があると、急な場面でも右往左往の時間を少し短くできます。完全無欠の備えでなくても大丈夫です。まずは「これなら出来る」を1つ置くところから始まります。

命を守る備えは、特別な家だけの話ではなく、どの家の台所や玄関にも置ける安心です。

救急の日は、怖い出来事を待つ日ではなく、家族の暮らしを見つめる日です。冷蔵庫の横に連絡メモを貼るだけでもいい。通院バッグを決めるだけでもいい。保険証とお薬手帳の居場所を家族で共有するだけでも、明日の安心は少し厚くなります。

いざという時、人は慌てます。そこは人間ですから、仕方ありません。慌てない自分を目指すより、慌てても動ける形を作る。そのくらいの柔らかさで、救急の備えは暮らしに馴染んでいきます。

9月9日が過ぎても、家族を思う気持ちは続きます。備えた分だけ、毎日は少し軽くなる。もしもの話が、今日を大切にするキッカケになれば、それだけで十分に意味のある1日です。

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今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m


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