冬の介護現場は何故こんなにしんどいのか?衣類・お風呂・訪問介護のリアル
目次
はじめに…冬の訪問介護・施設介護で感じる「しんどさ」と向き合う序章
冬になると、同じ介護の仕事でも、ぐっと負担が増えたように感じることはありませんか。外は冷たい風、現場に着けば上着を脱いで動き回り、気がつけば汗だく。そんな「寒いのか暑いのか分からない」1日を、何日も続けている方も多いと思います。
介護の仕事は、元々、体を使う場面がとても多いお仕事です。利用者さんの体を支えたり、ベッドや車いすへの移乗をお手伝いしたり、洗濯や掃除、調理に買い物と、1つ1つを丁寧に行っていけばアッという間に時間が過ぎていきます。そこに冬特有の「厚着」「冷え」「乾燥」が重なってくると、同じ介助内容でも、グッと重たく感じられてしまうのです。
特に、在宅で暮らす高齢者さんの元へ通う訪問介護や、入浴人数の多い施設では、冬の「しんどさ」がはっきりと姿を現します。衣類の枚数が増えることで、着替えにかかる時間や手間が増加し、お風呂の介助では、狭い脱衣所や浴室で体を捻りながら、利用者さんの転倒やヒートショックに気を配りつつ対応しなければなりません。利用者さんを守るための配慮が増えるほど、介護者の負担もまた増えていくという、少し切ない現実があります。
一方で、その負担の全てが「仕方ないもの」かというと、実はそうとも限りません。ケアマネジャーやサービス提供責任者のケアプランの組み立て方、家族との役割分担の話し合い方、衣類の選び方や入浴の段取りの工夫次第で、冬の大変さを少し和らげることも出来ます。
この記事では、冬の介護現場でよくある「しんどさ」の中身を、衣類・体力・お風呂介助といった場面ごとに紐解いていきながら、「どこが大変なのか」「どこなら工夫できるのか」を、現場目線で一緒に眺めていきます。今まさに頑張っている介護職の方にも、ご家族として支えている方にも、「ああ、こういうことだったのか」と少しでも心が軽くなるヒントになれば嬉しいです。
[広告]第1章…厚着と着替えの回数が増えるだけで…冬の介護が一気に重くなる理由
冬の介護がしんどく感じられる場面を辿っていくと、真っ先に浮かぶのが「衣類」と「着替え」の問題です。夏場なら1枚で済んでいた上着が、冬には肌着・中間着・セーター・カーディガン…と何枚にも増え、ズボンの下にはタイツやレギンス、靴下も重ね履き。これだけで、同じ1回の着替えにかかる時間と体力は、グッと増えてしまいます。
例えば、朝起きてパジャマから日中の服に着替えるタイミング、食事や水分で汚れて着替えるタイミング、お風呂上がりの着替え、夜の寝間着への着替え…。基本的な流れだけでも、1日で少なくとも4回は衣類の交換が発生します。ここに失禁や嘔吐、発汗などのトラブルが重なれば、5回、6回と増えていくことも珍しくありません。1人の利用者さんでそれだけの回数があるということは、その人数分だけ介護者の「立つ」「しゃがむ」「捻る」「持ち上げる」といった動きが積み重なっていく、ということでもあります。
しかも、高齢になると筋力の低下や関節のこわばりから、「自分で腕を上げて袖を通す」「立ったままズボンを上げ下げする」といった動作が難しくなりがちです。厚手の衣類は生地自体が重く、袖や裾も長くてまとわりつきやすいため、介助での着脱には細かな配慮と力が必要です。袖が裏返ったままになっていないか、首回りが窮屈そうではないか、ズボンが捻じれていないか…こうしたところまで整えてあげようとすると、どうしても1人辺りに掛ける時間が長くなります。
利用者さんの立場に立てば、「寒いのは辛いから、たくさん着ていたい」という気持ちはごく当たり前です。ところが枚数を増やし過ぎると、今度は動きづらくなって転倒リスクが高まったり、トイレでの着脱が間に合わず失敗に繋がったりすることもあります。その結果、また着替えが増え、介護者の負担も増える…という、少し残念な悪循環が生まれてしまうこともあります。
ここで鍵になるのが、「枚数を増やす」防寒から「中身で調整する」防寒への発想の転換です。薄手でも保温性の高い肌着やインナーを取り入れたり、重ね着しても動きやすい伸縮性のある素材を選んだりすることで、着替えのステップを減らしつつ、寒さ対策を両立させることができます。また、日中に少しでも体を動かす時間を取り入れることで、筋肉量を維持し、冷えにくい体作りをしていくことも大事な視点です。
冬の介護が辛く感じられる背景には、「高齢者さんを冷やさないように」という優しさと、「限られた時間でサービスを提供しなければならない」という現場の事情が、ギュッと押し込まれています。この章では主に衣類と着替えに焦点を当てましたが、その1つ1つの場面には、介護者の小さな工夫で負担を和らげられる余地がまだまだ残されています。次の章では、こうした「冬ならではの手間」が、ケアプランの組み立て方とどう結びついているのかを、もう少し踏み込んで見ていきましょう。
第2章…ケアマネとサ責のケアプラン次第で現場の負担はこうも変わる
冬の介護が「なんだか今年も超ハードだなあ」と感じられる背景には、現場の頑張りだけではどうにもならない事情があります。1つが、ケアマネジャーとサービス提供責任者が組み立てるケアプランやサービス内容の組み方です。
介護のお仕事は、春夏秋冬いつでも体力勝負です。ただ、冬は第1章で触れた通り、衣類の枚数が増える分、同じ介助でも時間と手間が掛かるようになります。例えば、夏場なら1回の着替えで済んでいたところが、冬になると肌着から上着まで何枚も交換しなければならないことがあります。ここに入浴介助や排泄介助が重なれば、1件辺りに必要な時間は、アッという間に膨らんでしまいます。
ところが、利用者さんに割り振られる介護保険の枠は、夏でも冬でも基本的には変わりません。「同じ単位数の中で、同じ回数、同じ時間、同じ内容のサービスを続ける」という考え方だけでケアプランが組まれてしまうと、季節ごとの負担の差が見落とされがちになります。その結果、夏と同じ感覚で冬の予定をびっしり入れてしまい、現場にとっては「時間が足りないのに、やることだけが増えた」状態になってしまうのです。
例えば、1回の訪問で「全身の清拭と着替え」「トイレ介助」「食事の準備と片付け」「簡単な掃除や洗濯」などをまとめてお願いされているケースを想像してみてください。夏場であれば、時間ギリギリでも何とかこなせていたかもしれません。しかし冬になると、着替えにかかる時間が増え、トイレでも衣類の上げ下げにひと苦労し、冷え対策で浴室や脱衣所を温める作業も加わります。同じ訪問時間の中で、静かに増えた「ひと手間」「ふた手間」が、じわじわと介護者の体力と気力を奪っていきます。
ここで本当は必要なのが、「冬仕様のケアプラン」という発想です。単に回数を増やすことだけが答えではありません。冬の間だけは、優先順位の高い介助に集中できるよう内容を整理したり、衣類の準備や浴室の暖房、タオルの用意などを、家族や他サービスと分担できないか話し合ったりするだけでも、現場の負担は大きく変わります。
サービス提供責任者にとっては、ケアマネジャーが立てた計画を、実際の現場で「どうすれば安全かつ現実的にこなせるか」に落とし込む役割があります。ここで、スタッフから上がってきた「時間が足りない」「このままだと安全が心配」といった声を丁寧に拾い上げ、必要であればケアマネジャーに相談し、サービス内容の見直しを提案していくことが大切になります。紙の上では綺麗に収まっていても、現場では1つの動作にかかる時間が季節によって変化する、という事実を共有していくイメージです。
利用者さんやご家族の立場から見れば、「せっかく来てくれるのだから、あれもこれもお願いしたい」という気持ちはとても自然なものです。その一方で、冬になると介護者の体力的な負担は確実に増えていきます。「この季節だけは、優先してやってほしいことを絞りましょう」「衣類の準備や浴室の暖めは、事前にご家族でお願い出来ませんか」といった提案は、一見するとお願いごとのようですが、実は利用者さんを安全に支え続けるための大事な調整でもあります。
冬のケアプランは、ほんの少しの工夫や一言の相談で、現場の空気を大きく変えることができます。ケアマネジャーとサービス提供責任者が、季節ごとの負担をイメージしながら計画を組み立てること。現場の介護職が、「本当に必要なこと」と「時間的に難しいこと」を遠慮なく伝えられる雰囲気をつくること。そして、ご家族が「一緒に冬を乗り切るパートナー」として協力してくださること。この三者が繋がることで、冬の介護は少しずつ「超ハードモード」から抜け出していけるのだと思います。
次の章では、その中でも特に負担が大きくなりやすい「入浴介助」に焦点を当てて、施設と在宅、それぞれの現場でどのような大変さが生まれているのかを見ていきます。
第3章…冬の入浴介助が体力を奪う施設と在宅それぞれの現場のリアル
介護の現場で「一番しんどい仕事は何ですか」と聞かれたら、多くの人がまっ先に思い浮かべるのが入浴介助ではないでしょうか。特に冬は、お湯と汗と湿気の中で動き回りながら、脱衣所と浴室の温度差にも気を配り、利用者さんの体調を見守り続けることになります。まさに、体力と集中力の両方をジワジワ削られていく仕事です。
施設の場合、入浴日は朝から「お風呂モード」に入り、決められた時間の間、次々と利用者さんをお迎えします。洗い場で体を洗い、浴槽への出入りを支え、上がったら素早く体を拭いて着替えを整える。この流れを、1人あたり10分前後のペースで、2時間、3時間と続けることもあります。入浴人数が50人規模の施設であれば、その日のお風呂担当は、ほとんど休む間もなく浴室と脱衣所を行ったり来たりすることになるでしょう。
しかも、ただ「洗って入れて着替えさせればいい」という単純な話ではありません。足元が滑りやすくなっていないか、湯温は高過ぎないか、顔色や表情に変化はないか、持病のある方は血圧が急に下がっていないか…。ヒートショックや転倒を防ぐために、常に周りに目を配りながら動き続けなければなりません。利用者さんの安全を守ろうとするほど、「気を張る時間」も長くなり、その分、終わった後の疲れはドッと押し寄せてきます。
在宅での入浴介助も、別の意味でハードです。多くのお宅では、浴室も脱衣所もとてもコンパクトで、介護用に作られているわけではありません。1人が立つだけでいっぱいのスペースで、浴槽の縁を跨いだり、体を支えたり、タオルや着替えを広げたりしなければならない場面も多くあります。介護者は中腰になったり、体を捻じったりしながら支えることが多く、腰や膝への負担はかなりのものです。
さらに、訪問介護では「お湯をはる」「浴室や脱衣所を温める」といった準備から始まり、入浴を終えたら後片付けや簡単な掃除まで含まれることも少なくありません。冬の冷え込んだ浴室や脱衣所を暖めつつ、利用者さんが寒い思いをしないよう急ぎながらも、安全に配慮した動きが求められます。訪問が終わって外に出れば、今度は冷たい風。濡れた服が乾ききらないうちに次のお宅へ向かう、ということも珍しくありません。体が冷えたり汗が急に引いたりすることで、介護者自身の体調を崩すリスクも高まります。
負担が集中しやすいのが、1対1での入浴介助が必要なケースです。万が一の事態に冷静に対応できる経験や判断力が求められるため、どうしてもベテランの介護職に仕事が偏りがちになります。結果として、その人だけが1日に何件も「お風呂巡り」をすることになってしまうこともあります。特に、年末年始前後は「綺麗な状態で年を越したい」「休み明けにすぐ入りたい」という希望が重なり、12月28日~30日、1月4日・5日の辺りは、ベテラン勢が連続してお風呂を担当する、まさに超ハードな時期になりやすいのです。
それでも、入浴介助を終えた後に聞こえる「はあ、さっぱりした」「今日はよく眠れそう」という笑顔の一言が、この仕事を続ける大きな支えになっている方も多いと思います。達成感ややりがいと引き換えに、かなりの体力と時間を注ぎ込んでいるのが、冬の入浴介助の現実です。だからこそ、「気合いと根性で乗り切る」だけではなく、どうすれば負担を減らしつつ、利用者さんに気持ちよく入浴していただけるのかを考えることが大切になってきます。
次の章では、衣類の選び方や段取りの組み方、ご家族との役割分担の工夫など、冬の介護、特に入浴介助の負担を少しでも軽くするための具体的なヒントを整理していきます。
第4章…衣類選び・段取り・家族協力で冬の介護負担を軽くするヒント
ここまで見てきたように、冬の介護がしんどくなる背景には、衣類の枚数、入浴介助の負担、時間に追われるケアプランなど、様々な要素が重なっています。ただ、その全てがどうにもならない「宿命」かというと、必ずしもそうではありません。小さな工夫を積み重ねることで、「同じ仕事量でも少し楽になる」「体が限界にくる前にブレーキをかけられる」ようにしていくことは十分に可能です。
まず取り組みやすいのが、衣類の見直しです。防寒といえば「厚手で重ね着」というイメージがありますが、最近は薄くて軽く、保温性の高いインナーや靴下がたくさん出ています。厚手のセーターを何枚も重ねる代わりに、1枚目の肌着と2枚目のインナーを機能性の高いものに変えるだけでも、着替えの手順や枚数を減らすことが出来ます。結果として、介護者の動作もシンプルになり、高齢者さん自身も動きやすくなって転倒のリスクが下がるなど、良い循環が生まれます。
また、冬場の入浴介助では、段取りの工夫が介護者と利用者さんの両方を守る鍵になります。例えば、訪問前にご家族へ「浴室と脱衣所を予め温めておいていただく」「タオルと下着を脱衣所に並べておいていただく」といったお願いをしておくだけでも、現場に着いてからの準備時間を大きく短縮できます。施設の場合でも、入浴時間の前後に暖房のタイミングを合わせたり、脱衣所の動線が混み合わないように車いすや歩行器の位置を予め決めておいたりすることで、バタバタと慌てる場面を減らすことが出来ます。
さらに大切なのが、「介護者だけで抱え込まない」という発想です。在宅介護では、「お風呂の日だけは家族が早めに帰宅して脱衣のお手伝いをする」「衣類の整理や季節の入れ替えは、家族が主担当になる」といった役割分担も有効です。介護職の立場からも、「ここまでをヘルパーが担当します」「ここから先はご家族のお力をお借り出来ませんか」と具体的に線引きを示すことで、お互いに無理のない体制を作りやすくなります。
ケアマネジャーやサービス提供責任者にとっては、こうした工夫をプランの中に組み込んでいくことが腕の見せどころです。例えば、年末年始に向けてお風呂の希望が集中しそうな利用者さんには、早めの段階で「この期間は入浴日を前倒しにしましょう」「お正月明けの入浴は、体調を見ながら無理のない日程にしましょう」といった提案をしておくことが出来ます。また、入浴に関わる介助時間がどうしても長くなってしまう場合は、他の家事援助の内容を整理して、冬の間だけは「お風呂優先」のメニューに切り替えることも1つの選択肢です。
忘れてはいけないのが、介護者自身のセルフケアです。1日に何件もお風呂を回るようなスケジュールが続くと、気づかないうちに疲労が蓄積してしまいます。訪問の合間に温かい飲み物を一口飲む時間を意識的に作る、防寒具や靴は自分の体に合ったものを選ぶ、腰や膝への負担を減らすために簡単なストレッチを習慣にするなど、「明日も同じペースで働けるようにするための工夫」を、自分の味方として持っておくことが大切です。
冬の介護の大変さは、現場で働く人であれば誰もが少なからず感じているものです。しかし、衣類の選び方、入浴の段取り、家族との役割分担、ケアプランの組み立て方、そして介護者自身のセルフケア。このいくつかのポイントを少しずつ整えていくことで、「しんどいけれど、何とか乗り越えられる冬」に近づいていくはずです。次の「まとめ」では、冬の介護を少しでも軽やかに乗り切るために、この記事全体のポイントを改めて振り返っていきます。
[広告]まとめ…頑張りだけに頼らない冬の介護へ~現場を守る視点を持とう~
冬の介護がしんどいのは、決して介護職の体力や気力が足りないからではありません。衣類が増えて着替えに時間がかかること、冷えや乾燥に気を配りながら安全に支えること、入浴介助で全身を使い続けること…。季節の条件が、元々、負担の大きい仕事にさらに重なってくるのですから、「いつもより疲れる」と感じるのはごく自然なことです。
一方で、その大変さを少しでも軽くしていくヒントも、この記事のあちこちに散りばめられていました。薄くて温かい肌着や動きやすい衣類に変えて着替えの手順を減らすこと。冬だけは、入浴や着替えなど時間のかかる介助に集中できるよう、ケアプランやサービス内容を「季節仕様」に整えること。浴室や脱衣所の準備、タオルや下着の用意などを、家族や他のサービスと上手に分担していくこと。どれも特別な道具が必要なわけではなく、「少し視点を変える」「一言お願いしてみる」ことで始められる工夫ばかりです。
現場で働く介護職にとっては、「今日も何とかやりきった」と感じられる1日が続くことが、何よりの支えになります。そのためには、ケアマネジャーやサービス提供責任者が、冬の負担を具体的にイメージしながら計画を組み立てること、スタッフの声をこまめに拾い上げて調整していくことが欠かせません。そして家族の側も、「全部お願いする」か「全部自分でやる」かの二択ではなく、「ここまではお願いして、ここから先は一緒にやろう」という発想で関わっていけると、お互いの心の余裕が少しずつ増えていきます。
忘れてはならないのが、介護者自身の体と心を守る視点です。訪問の合間に温かい飲み物を口にする、小さなカイロをポケットに忍ばせる、腰や膝を労わる動き方を意識する…。そんな1つ1つのセルフケアが「明日も利用者さんに笑顔で会いに行ける自分」を支えてくれます。
冬の介護は、どうしてもハードになりがちな季節です。それでも、衣類選び、段取り、役割分担、ケアプランの工夫、そしてセルフケアといういくつかのピースを少しずつ整えていけば、「辛いけれど、何とか乗り越えられる冬」に近づいていくはずです。この記事が、現場で頑張る方やご家族の「そうか、ここから変えてみようかな」という小さな一歩に繋がれば嬉しいですし、その一歩が、冬の介護を少しでも温かくする力になることを願っています。
今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m
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