月が見えない夜もお月見は成功する~高齢者施設で育てる9月の小さな夜空レクリエーション~

[ 季節と行事 ]

はじめに…曇り空でも、秋の楽しみは消えない

9月のお月見は、立派な行事に仕上げなくても十分に楽しめます。窓辺で空を待つ数分、月の思い出を語る声、お団子を眺めて「見るのと食べるの、どちらが先かな」と笑う時間。そんな小さなひと時が、暑さに疲れた心を気分一新してくれます。

施設の夜は、食事、排泄、服薬、就寝準備と大忙しです。職員が空を確認した瞬間だけ雲が出ると、「月にも休憩時間があるのかな」と自分でツッコミたくなることも。それでも、月が見えなければ失敗というわけではありません。写真や飾りを使った昼間の鑑賞でも、秋の風情は届けられます。

月が見えたかどうかより、同じ空を待った時間の方が心に残ります。

晴れたら嬉しい。曇っても、それはそれで話の種になる。無理を重ねず、利用者さんにも職員にも心地良い形を選ぶことから、やさしいお月見の夜が始まります。

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第1章…お月見は十五夜の一晩だけではない

お月見の予定表に大きな丸を付けると、その一日だけで成功させなければならない気がしてきます。ところが、相手は夜空です。人間の勤務表は調整できても、雲に「本日は午後7時から薄めでお願いします」と頼むことはできません。そこまで話が通じたら、担当職員としては随分と助かるのですが…。

そこで、お月見を一晩限りの催しではなく、数日かけて秋を迎える時間として育てます。初日は月の飾りを作り、翌日は昔のお月見を語り、その次の日は秋の歌を口ずさむ。晴れた夜には窓辺から空を眺め、天候が合わなければ室内で月の写真や飾りを楽しみます。臨機応変に進めれば、「見えなかったから中止」という寂しい結末を避けられます。

準備の時間も立派なレクリエーションです。「昔は縁側で見たよ」「団子より芋だったなあ」と話が広がれば、月が出る前から心は秋へ向かっています。待つことまで楽しみに変わると、職員も天気に一喜一憂し過ぎずに済むでしょう。

お月見は月を見る一瞬ではなく、月を待ちながら季節を分かち合う時間です。

行事を1日に詰め込まなければ、参加できる方も増えていきます。夜は早く休みたい方、体調が揺らぎやすい方、外へ出にくい方にも、それぞれに合う入口を用意できます。全員が同じ時間に同じことをするより、その人の暮らしに合わせて秋を届ける方が、無理のない笑顔に繋がります。急がば回れ。数日かけた小さな積み重ねが、思いのほか豊かな十五夜を連れてきます。


第2章…昼から始まる「月を迎える時間」

お月見という名前から、活動は夜になってから始まると思いがちです。けれども、高齢者施設では夕食後になると、服薬、排泄、口腔ケア(口の中を清潔に整えるケア)、就寝準備が次々とやってきます。月はのんびり昇りますが、夜勤者の時計はかなりせっかちです。

そこで、昼間から秋の空気を少しずつ作っておきます。黄色い紙で丸い月を作り、ススキや秋の花を飾り、利用者さんと一緒に団子の数を数える。「15個だったかな」「私は食べる係で良いよ」と話が転がり始めれば、もう和気藹々としたお月見時間です。団子は嚥下機能(食べ物を安全に飲み込む力)に合わせ、飾りや別のおやつへ替えても構いません。

昔のお月見について尋ねると、縁側、虫の声、里芋、家族の顔など、月とは少し離れた思い出まで出てくることがあります。それで大丈夫です。月は話題の主役でありながら、記憶の扉を開ける呼び鈴にもなってくれます。

夕方にはカーテンを少し閉め、室内の照明を落として、月の写真や夜空の映像を眺める方法もあります。これなら夜まで起きているのが難しい方も参加でき、天候にも左右されません。職員が慌てず、利用者さんも疲れにくい。一石二鳥どころか、予定通り進めば三鳥くらい飛んできそうです。数えると欲張りなので、二鳥で止めておきましょう。

お月見は夜空を見る行事ではなく、昼から秋を迎える準備の時間でもあります。

夜に本物の月が見えれば、それは嬉しい仕上げです。雲に隠れていても、飾りや歌や会話の中には、もう立派な十五夜が昇っています。行事の成功を空任せにせず、昼間の暮らしの中へ秋を置いておくことが、無理なく楽しめる月見支度になります。

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第3章…外・窓辺・室内で誰も置き去りにしない楽しみ方

月がきれいに見える夜でも、利用者さん全員を同じ場所へ集める必要はありません。庭や玄関先へ出られる方、窓辺まで移動できる方、ベッドで休みながら参加する方。それぞれの体調や生活リズムに合う「月の席」を用意すれば、お月見はもっと穏やかに広がります。

外へ出る方は、少人数で数分ずつ楽しみます。車いすのブレーキ、足台、上着、夜風の冷たさを確認し、職員が傍で空を案内する。「あの雲の向こうかな」と一緒に探す時間も、立派な風情です。月を見つけた途端に雲へ隠れたら、「随分と照れ屋さんですね」とひと言。待ち構えていた職員としては少し複雑ですが、その出来事まで笑い話になります。

外出が難しい方には、窓辺の席を整えます。窓ガラスへの室内灯の映り込みを減らし、椅子や車いすの向きを少し変えるだけでも、空は見やすくなります。安全第一を守りながら、その方が普段過ごしている場所へ夜空を近づける発想です。

ベッド上で過ごす方や、夜間の移動に不安がある方には、室内の月を届けます。月の写真、壁に映した夜空、ススキの飾り、秋の虫の音。視覚だけに頼らず、音や会話も合わせれば、室内にも季節の奥行きが生まれます。満月を丸いクッションで表して、「抱えるには少々大きな月ですね」と笑うのも悪くありません。

全員を同じ場所へ動かすのではなく、その人のいる場所へ秋を届けることが大切です。

十人十色の楽しみ方があれば、体調や障害によって行事から離れてしまう方を減らせます。外で見た月も、窓越しに待った月も、室内で思い出した月も、心に届けば同じ十五夜です。職員が1人ずつ数分間寄り添う小さな時間は、にぎやかな催しとは違う、静かで温かな思い出になります。


第4章…団子も夜更かしも無理をしない段取りが肝心

お月見の日が近づくと、飾り、団子、席の準備、職員配置まで、やりたいことが次々と浮かびます。気が付けば企画書の中だけ、老舗旅館の観月会。現場の人数を見て、「あれ、仲居さんが十人ほど足りないぞ」と我に返ることもあります。

大切なのは、豪華さよりも用意周到な段取りです。夕食、服薬、排泄、口腔ケア、就寝準備の時間を確認し、その間に誰が利用者さんを案内し、誰が普段の介護を守るのかを決めておきます。お月見を担当する人だけでなく、食事や排泄を支える人、急な呼び出しに動ける人がいることで、短い催しが落ち着いて進みます。

参加時間は、1人につき数分でも構いません。全員を長時間集めるより、少人数ずつ窓辺や玄関先へ案内する方が、待ち時間も疲れも減らせます。夜風が冷たい、眠気が強い、排泄の時間が近いといった様子があれば、その場で室内鑑賞へ切り替える。臨機応変に予定を小さくできることも、立派な企画力です。

団子も、出すこと自体を目標にしない方が安心です。食べにくい方には無理に勧めず、月に見立てた飾りや、普段から食べ慣れたおやつで雰囲気を添えます。団子がなくても月は怒りません。むしろ、厨房と職員が少しホッとするなら、空の上で頷いているかもしれません。

夜の時間を少し延ばす場合は、翌朝の起床や朝食への影響にも目を向けます。楽しい夜の翌日に、眠そうな方を予定通り急いで起こしてしまっては、余韻が布団の中へ置き去りです。普段の暮らしを大きく崩さず、少しゆっくりできる幅を残しておくと、行事は穏やかに終わります。

無理なく終えられる段取りまで含めて、お月見の楽しさです。

晴れたら外へ、曇れば窓辺へ、忙しければ短時間へ。中止か決行かの二択にせず、出来る形へ小さく変えていけば、職員も利用者さんも疲れ切らずに秋の夜を味わえます。

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まとめ…一緒に空を見上げた時間が心に残る

お月見は、大きな催しを成功させる日ではありません。昼間に飾りを作り、昔の月夜を語り、窓辺で雲の動きを待つ。外へ出られない方には、写真や虫の音と一緒に秋を届ける。そんな1つ1つの時間が集まって、施設の中に小さな十五夜が生まれます。

月が雲に隠れても、準備してきた時間まで消えるわけではありません。「今日は会えませんでしたね」と笑えば、その夜だけの思い出になります。職員が空を見上げた途端に雲が厚くなったなら、月のかくれんぼはなかなか本気です。少し悔しいけれど、翌日の会話の種としては優秀でしょう。

食事、服薬、排泄、就寝準備を守りながら、無理のない人数と時間で楽しむ。晴天だけを正解にせず、窓辺や室内へ切り替える。そうした用意周到な工夫があれば、利用者さんにも職員にも穏やかな時間を残せます。

月よりも明るく心に残るのは、誰かと一緒に空を待った時間です。

明鏡止水のように澄んだ月夜でなくても構いません。雲の向こうを想像し、秋の気配を分かち合えたなら、そのお月見は立派に完成しています。翌朝、「昨日の月はどうだった?」と会話が続けば、行事は一晩で終わらず、暮らしの中へ静かに根を下ろしていきます。

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