お正月の初詣で心を整える~意味・由来と神社仏閣巡りの楽しみ方~
目次
はじめに…お正月の初詣をいつもより少しだけ深く味わうために
お正月が近づくと、街のあちこちでしめ飾りや門松が並び、空気そのものが少しだけ引き締まったような気がしてきます。そんな新しい一年のスタートに欠かせない行事が、初詣です。家族で出掛ける方、お一人で静かにお参りする方、カップルで手を繋いで夜の神社へ向かう方、高齢者施設の行事としてバスで連れ立って参拝される方…。形はそれぞれ違っても、「新しい一年を気持ちよく始めたい」という願いは、きっとどこも同じではないでしょうか。
とはいえ、「毎年なんとなく行っているけれど、そもそも初詣ってどんな意味があるの?」「神社とお寺、どちらに行けば良いのか分からない」「正式な作法を知らないから、少し不安…」というモヤモヤを抱えたまま、寒い中を列に並んでいる方も多いかもしれません。マナー本を開くと細かい決まりごとがズラリと並んでいて、却って気後れしてしまうこともありますよね。
本来の初詣は、歳神様と呼ばれる新年の神様や、地域を見守る氏神様、仏様にご挨拶をし、「今年もどうぞよろしくお願いします」と心を整える時間です。立派な祝詞を暗記していなくても、特別な言葉が言えなくても構いません。大切なのは、日常より少しだけ背筋を伸ばし、自分と家族の暮らしを思い返しながら、静かに手を合わせる気持ちそのものです。
この記事では、初詣の意味や歴史を辿りながら、「どこへお参りに行くとよいのか」「どんな順番で詣でると気持ちよく一年を始められるのか」「境内ではどのように振る舞えば良いのか」といった素朴な疑問を、難しい言葉を避けて優しく紐解いていきます。ご家族連れはもちろん、高齢者施設の行事として初詣を企画する時のヒントにもなるよう、少しだけ視点を広げてお話ししていきます。
毎年のように通っている神社やお寺でも、由来やご神体、ご本尊のことを知ると、景色がガラリと変わって見えることがあります。いつもの道を歩きながら、「ここにはこんな歴史があったのか」と小さな発見が増えると、それだけでお参りの時間が豊かなものになります。今年の初詣は、単なる「恒例行事」で終わらせず、自分らしく心を整える一時にしてみませんか?ここから先の章で、そのためのヒントをゆっくりとご一緒に見ていきましょう。
[広告]第1章…初詣とは何か?歳神様と神社仏閣にご挨拶するということ
お正月になると、多くの人が当り前のように「初詣に行こう」と口にしますが、「そもそも初詣って、どんな意味があるの?」と改めて聞かれると、上手く言葉に出来ない方も多いかもしれません。毎年の習慣として何となく続けているうちに、本来の意味がぼんやりしてしまうのは、ごく自然なことです。ここではまず、初詣という行事を、優しく言い換えながら整理してみましょう。
初詣は新しい一年の始まりのご挨拶
一番シンプルに言うと、初詣とは「新しい一年が始まったことを、神様や仏様にご報告し、ご挨拶する行事」です。「昨年もなんとか無事に過ごせました。今年もどうぞお守りください」と、感謝とお願いをまとめて伝える時間だと考えると、イメージしやすいかもしれません。
私たちが普段の暮らしの中でお世話になっている人に「今年もよろしくお願いします」と頭を下げるのと同じように、初詣は目に見えない存在に向けて行う、新年の挨拶です。服装を少しだけきちんと整えたり、境内での歩き方や話し方に気をつけたりするのは、「大切な人に会いに行く」という気持ちの表れでもあります。
歳神様と氏神様~誰に向かってお参りしているの?~
日本のお正月には、「歳神様(としがみさま)」という特別な神様がやってくると考えられてきました。歳神様は、その一年の豊作や家族の健康を司る存在とされ、お正月に飾る鏡餅や門松は、この神様を自宅にお迎えするための目印のような役割を持っています。家の中では、神棚や床の間にお供え物をし、歳神様に「どうぞこちらへお越しください」とお招きするわけですね。
一方で、地域には「氏神様(うじがみさま)」と呼ばれる、その土地を見守っている守り神がいます。地元の神社にお祀りされている神様がそれにあたり、昔からその地域で暮らしてきた人々にとっては、「我が家のことをよく知ってくれているご近所の神様」という感覚に近い存在です。初詣で地元の神社に足を運ぶことは、「今年もこの土地でお世話になります」と氏神様にお伝えする意味合いも持っています。
神社とお寺のどちらに行ってもいいの?
現代の初詣では、神社に行く方もいれば、お寺にお参りする方もいます。中には、同じ日に両方を回る方もいるでしょう。日本では、神様と仏様を厳密に分けず、長い歴史の中で緩やかに一緒に信仰してきた時代がありました。そのため、「初詣は絶対にこちら」という決まりはなく、それぞれのご家庭や地域の習慣、そして本人の気持ちによって行き先を選ぶのが一般的になっています。
ただ、意味合いを少し整理すると、神社は「新しい一年の始まりをことほぐ場所」、お寺は「心を静かに落ち着かせ、先祖や仏様に手を合わせる場所」として訪れることが多いと言えます。初詣で神社に行き、その後ゆっくりお寺で鐘の音を聞きながら手を合わせる、といった過ごし方も良いでしょう。
「作法が完璧」でなくても大丈夫~大切なのは心の持ち方~
初詣について調べ始めると、参道を歩く位置から手水の順番、お賽銭の入れ方や拝礼の回数まで、細かい作法がたくさん出てきます。もちろん、知っていると安心できるルールも多いのですが、「間違えたら失礼かもしれない」と不安になり過ぎてしまうと、せっかくの新年のご挨拶が窮屈なものになってしまいます。
一番大切なのは、「これからの一年を丁寧に過ごしたい」という気持ちを持って参拝することです。大声で騒がない、境内では立ち止まってスマートフォンばかり見ない、ゴミを持ち帰るなど、周りの人と神様・仏様への思いやりを意識していれば、大きな失礼になることは殆どありません。
初詣は、神様や仏様に会いに行くと同時に、自分自身の心と向き合う時間でもあります。「昨年つらかったこと」「上手く行かなかったこと」「今年はこうしたいこと」を静かに思い返し、気持ちを整える一区切りの場として活用してみてください。次の章では、こうした初詣の姿が、昔はどのような形で行われていたのか、その歴史を辿っていきます。
第2章…大晦日のこもり詣と恵方参り~初詣の歴史と現代までの歩み~
初詣という言葉を聞くと、多くの方は「元日の朝やお正月の三箇日にお参りする行事」というイメージをお持ちだと思います。しかし、少し昔に遡ると、その姿は今とはかなり違っていました。この章では、大晦日の夜を跨ぐ「こもり詣」や、自宅から見た吉方位に向かってお参りする「恵方参り」といった古い習わしを辿りながら、初詣がどのように変化してきたのかを見ていきましょう。
大晦日から元旦まで~夜を徹して祈る「こもり詣」~
現代では、大晦日は家で紅白歌合戦を見て、年が明けたら近所の神社へ…という過ごし方が一般的かもしれません。でも、かつての人々は、もっと「祈り」に集中した年越しをしていました。古い時代の初詣は、大晦日の夜にお寺や神社に出向き、そのまま元旦の朝まで境内や堂内にこもって祈り続ける「こもり詣」が基本だったと言われています。
夜の間に、前年の穢れや厄を落とし、新しい年を迎え入れる準備をする。そのために、灯明の明かりだけが揺らめく静かな本堂で、僧侶の読経に耳を傾けながら夜を明かす人たちがいたのです。除夜の鐘も、その流れの中で生まれた習慣の1つだと考えると、今とは少し違った重みが感じられますよね。
とはいえ、大晦日から元旦まで一晩中こもるのは体力的にも大変です。仕事や家事、子育てがある暮らしの中で、毎年続けるのは簡単なことではありません。そこで生まれたのが、大晦日と元旦の2回に分けてお参りする、いわゆる「2年詣り」のスタイルです。大晦日に一年の感謝と厄払いを祈り、元旦に改めて新しい年の無事と恵みを願う。2つ合わせて、かつてのこもり詣のエッセンスを引き継いでいると言えるでしょう。
自宅から見た吉方位へ~「恵方参り」という初詣~
もう1つ、忘れてはならないのが「恵方参り」です。元々、初詣は、どこの神社でも良いというものではなく、その年の吉方位「恵方」の方向にある神社やお寺にお参りするのが良いとされていました。自宅から見てその年の恵方に位置する神社やお寺を選び、福を招き入れるために出向く。これが本来の恵方参りの姿です。
恵方といえば、現代では節分の恵方巻きを思い浮かべる方が多いかもしれません。「その年の恵方を向いて黙々と太巻きを食べる」という楽しい行事として定着しましたが、根っこにあるのは「恵方に向かって願いを託す」という考え方です。元々は、恵方に鎮座する神様へ出向き、1年の安全と繁栄を祈る行為こそが中心だったわけですね。
このように、かつての初詣は「自宅から見た方角」と深く結びついていました。自分たちが暮らす場所と神様の位置関係を意識しながら、「今年はこの方向から福がやってくる」と考える。その感覚は、現代の私たちが住まいを選ぶ時に「どの方角から朝日が差し込むか」を気にする感覚とも、どこか通じるものがあるかもしれません。
近代の交通網が変えた初詣の形
やがて時代が進み、鉄道が整備されると、人々の移動範囲は一気に広がりました。遠くの大きな神社や有名な寺院にも、比較的気軽に足を運べるようになっていきます。この時期から、「どこへお参りするか」という問題に、新しい要素が加わりました。
地元の氏神様だけでなく、「せっかくなら有名な神社にも行ってみたい」「ご利益が豊かだと評判のあのお寺にも参拝したい」と、様々な思いが重なります。その流れの中で、「初詣は必ず恵方にあるお寺や神社で」という縛りは次第に薄れ、「自分が参りたい場所へ行く」という今のスタイルが広まっていきました。
現代の私たちは、交通の便が良くなったおかげで、元日から数日にかけて複数の神社仏閣を巡ることも出来るようになりました。一見すると昔ながらの恵方参りとは違うように見えますが、「今年の自分にとって大切にしたいご縁の場所へ足を運ぶ」という点では、流れを受け継いでいると言えるかもしれません。
「歴史を知る」と、いつもの初詣が少しだけ特別になる
こもり詣や恵方参り、2年詣りといった古い習わしを振り返ってみると、初詣は単なる「行事」ではなく、「新しい年に向けて心を整えるための一晩」だったことが見えてきます。夜通し祈り続けることは難しくなりましたが、その思いを受け継いだ形として、大晦日から元日にかけて、あるいは三が日のどこかで、神社やお寺に足を運ぶ文化が残っているわけです。
歴史を知ることで、「毎年なんとなく行っている初詣」が、少しだけ違って見えてきます。今年の自分は、どんな気持ちで一年を迎えたいのか。どの場所で手を合わせると、心が落ち着くだろうか。そうしたことを考えながら行き先を選ぶと、同じ神社の鳥居をくぐる時でも、胸の中に流れる時間が変わっていきます。
次の章では、この歴史を踏まえた上で、「地元の氏神様」「有名な神社」「七福神巡り」など、現代ならではの初詣の行き先の選び方について、もう少し具体的に見ていきましょう。
第3章…どこにお参りする?氏神様・有名神社・七福神めぐりの選び方
初詣とひと口に言っても、行き先の選び方は人それぞれです。自宅のすぐ近くの小さな神社にお参りする方もいれば、毎年のように有名な大社や大寺院へ出掛ける方もいますし、七福神巡りのように複数の神社仏閣を歩いて巡る方もいます。「どこに行くのが正解なのか」と考えると難しく感じますが、少し視点を整理すると、自分に合った初詣のかたちが見つかりやすくなります。ここでは、行き先別の意味合いや楽しみ方をやさしく整理してみましょう。
まずは足元から~地元の氏神様にご挨拶~
初詣の行き先として、いちばんの基本になるのが地元の氏神様です。家の近くにある神社で、子どもの頃から夏祭りや秋祭り、七五三などで参拝してきた場所が思い浮かぶ方も多いのではないでしょうか。氏神様は、その土地に暮らす人々を代々見守ってきた守り神ですから、「今年もこの土地でお世話になります」というご挨拶を最初にお届けする相手として、とても相応しい存在です。
氏神様の神社は、大きな観光地ではなくても、朝の空気がひんやり澄んだ時間帯にお参りすると、とても落ち着いた清らかな雰囲気に包まれます。混雑が少ない分、家族一人一人がゆっくりと手を合わせる時間を取りやすいのも魅力です。高齢のご家族と一緒にお参りする時や、車椅子をご利用の方と出掛ける際にも、移動の負担が少なくて済むという点でも安心感があります。
「有名な神社に行きたい」という気持ちと両立させるために、元日の朝の早い時間に氏神様へお参りし、日を改めて別の神社に足を伸ばす、という2段構えの初詣にするのも良い方法です。まずは足元の神様にご挨拶、その上でご縁を深めたい神社仏閣を訪ねる、という順番にすると、自分の暮らしの中心がどこにあるのかを改めて感じる切っ掛けにもなります。
憧れの有名神社や大寺院~「特別な1年」の記念として~
一方で、「今年は少し特別な初詣にしたい」という年もあります。受験、就職、転職、結婚、独立など、大きな節目を迎える予定がある時には、古くからご利益で知られる有名な神社や大寺院へお参りしたくなる方も多いでしょう。こうした場所には、そのご利益にあやかろうと全国から人々が集まりますから、自然と空気が張り詰め、「ここで一年のスタートを切るんだ」という気持ちになりやすいという面もあります。
ただし、有名な神社仏閣はどうしても混雑しやすく、長時間立ちっぱなしになることもあります。小さなお子さん連れや高齢者施設の外出行事として利用する際には、三箇日のピークを避けて、松の内の後半や少し時期をずらした日程を選ぶなど、無理のない計画を立てることが大切です。予めトイレの場所や休憩できるベンチ、バス停などを調べておくと、当日の不安もかなり軽くなります。
「どうしてもここでお参りしたい」という神社やお寺がある場合は、その場所がどのような神様・仏様をお祀りしているのか、どんな歴史を持っているのかを、事前に少しだけ調べてから出掛けるのがおすすめです。現地で案内板を読んだり、授与所でパンフレットをいただいたりして、由緒を知りながら手を合わせると、「観光地に来た」という感覚から、「ご縁のある場所に招かれた」という感覚へと、心のスイッチがさりげなく切り替わっていきます。
七福神巡りで一年の願い事をゆっくり整理する
もう1つ、初詣の楽しみ方として人気なのが七福神巡りです。七福神とは、恵比寿天、大黒天、毘沙門天、弁財天、福禄寿、寿老人、布袋尊の7柱の神様のことで、それぞれ商売繁盛や学業成就、病気平癒、芸事上達など、異なるご利益を持つとされています。江戸時代には、「新年のうちに七福神をひと巡りすると、たくさんの福を授かる」として大変な人気を集めました。
現代でも、地域ごとに「七福神巡り」のコースが用意されていることがあります。地図を片手に、あるいはスタンプ台紙や御朱印帳を持って、数日かけてゆっくり巡るのも、心身のリフレッシュになります。それぞれの神様が得意とする分野を意識しながら、「この神様の前では仕事のことを」「このお寺では家族の健康を」と願い事を分けて考えていくと、自分の一年の目標や優先順位が自然と整理されていくのも良いところです。
高齢者施設のレクリエーションとして七福神巡りを取り入れる場合は、全ての寺社を一遍に回ろうとせず、例えば「今年は近場の2カ所だけ」「来年以降も少しずつ増やしていく」といった長期的な楽しみ方も考えられます。歩いて巡るのが難しい方には、施設内に七福神の写真やイラストを掲示し、「今日は恵比寿天様の日」といったテーマでお話会やミニゲームをするなど、室内での工夫に置き換えることも出来ます。
自分に合った「初詣コース」を作ってみる
行き先を選ぶ時に、大切なのは「正しいかどうか」ではなく、「自分や家族の暮らしに合っているかどうか」です。例えば、元日の朝に氏神様へお参りし、別の日に有名な神社を訪ね、さらに時間に余裕があれば七福神巡りの一部を楽しむ、といった組み合わせも立派な初詣です。「一度に全部こなそう」と思うと疲れてしまいますが、「数日に分けて、じっくり味わいながら巡る」と考えると、心にも体にもゆとりが生まれます。
家族構成や体調によっても、理想的な初詣の形は変わります。小さなお子さんがいるご家庭なら、あまり長時間の移動を伴わないコースが安心ですし、足腰に不安のある高齢者の方がいらっしゃる場合は、階段の少ない神社や、バリアフリー対応のお寺を中心に選ぶと良いでしょう。その上で、「今年こそ行ってみたい場所」があるなら、無理のない時期や時間帯を選んで、ゆっくり計画を立ててみてください。
こうして自分なりの「初詣コース」を考えることは、一年のスタートラインをどう切るかを決める作業でもあります。どの神様・仏様の前で、どんな気持ちで手を合わせたいのか。どんな順番で回ると、心が一番落ち着くだろうか。そうしたことを考え始めた時点で、初詣は既に始まっているのかもしれません。
次の章では、いざ神社仏閣に到着してからの「境内での歩き方」や「手水の作法」「願い事の伝え方」など、基本の振舞いのコツを、優しくおさらいしていきます。
第4章…初詣の作法と願い事の伝え方~境内での振舞いのコツ~
初詣というと、どうしても「作法を間違えたら失礼ではないか」という不安が先に立ちやすいものです。しかし、堅苦しい決まりに縛られて緊張しきってしまうと、本来の「神様・仏様と静かに向き合う時間」が霞んでしまいます。この章では、必要以上に構えずに心地良く参拝できるよう、境内での振舞いのポイントを優しく整理していきます。
参道を歩く時の心構え
神社やお寺の門をくぐった瞬間から、日常とは少し違う時間が始まります。鳥居や山門は、「ここから先は、ご神域・聖域ですよ」という目印のようなものですから、その手前で一度立ち止まり、軽く一礼してからくぐると、気持ちがフッと切り替わります。
参道のまん中は、神様や仏様の通り道と考えられてきました。真ん中を避け、やや端を歩きながら進むのは、そうした考え方へのささやかな敬意の表れです。といっても、混雑している時に無理をする必要はありません。周りの人とぶつからないよう気を付けつつ、「ここは特別な場所なんだな」と意識して歩くだけでも、自然と姿勢や呼吸が整っていきます。
境内では、大声で笑ったり走り回ったりするのは控えめにし、必要な会話も出来るだけ短く静かに済ませるようにすると、周りで参拝している人たちにとっても心地良い空間になります。子ども連れの場合は、「ここは神様のお庭だから、少しだけ小声で話そうね」と事前に伝えておくと、子どもなりに空気を感じ取ってくれることが多いものです。
手水舎で体と心を清める
参道の途中にある手水舎は、体だけでなく心も整える場所です。細かな順番はいくつかの流派がありますが、「両手と口を軽く清める」という流れを押さえていれば十分です。
一般的には、柄杓で一杯だけ水をすくい、まず左手、次に右手を洗い、左手に受けた水で口元をさっと漱ぎ、もう一度左手を漱いでから、最後に柄杓の柄を流して元の位置に戻します。口を漱ぐ時に、柄杓に直接口をつけないこと、強くうがいをして音を立てないことを意識しておくと、周囲にも自分にも、落ち着いた時間になります。
手水舎が混雑している時は、1つ1つの動作を丁寧にしつつも、長時間場所を占有しないよう心掛けましょう。高齢の方や小さな子どもが一緒にいる場合は、全ての所作を完璧にこなそうとせず、「手だけでも清める」「代表者が一緒に行う」といった柔らかな形にしても構いません。大切なのは、「これからお参りしますので、身も心も整えます」という気持ちを持つことです。
拝殿の前での作法と願い事の伝え方
拝殿や本堂の前に辿り着いたら、まずは賽銭箱の前で軽く一礼し、賽銭をそっと入れます。賽銭は「これだけ出したから願いを叶えてください」という対価ではなく、「日々の恵みをいただいていることへの感謝の印」と考えると良いでしょう。金額に決まりはありませんから、自分の気持ちが落ち着く額を選べば十分です。
神社の場合は、鈴があれば静かに鳴らし、姿勢を正してから合掌に入ります。一般的によく行われるのは「二礼二拍手一礼」の形です。まず深く二度おじぎをし、胸の前で両手を合わせてから、右手を少しだけ引いて二度手を打ちます。そして、両手を揃えて静かに祈り、最後にもう一度深くおじぎをする、という流れです。
この時、心の中で願い事を唱えるだけでなく、「どこの誰が何を願っているのか」を、ゆっくりと言葉にして伝えることが大切だとされます。例えば、「〇〇県〇〇市に住む△△と申します。昨年も家族共々、大きな病気や事故もなく過ごすことが出来ました。今年もどうか無事に暮らしていけますよう、お見守りください」など、自分なりの言葉で構いません。
願い事は、あれもこれもと欲張るより、「これだけは」というものをいくつかに絞った方が、心の中で整理しやすくなります。家族の健康、仕事のこと、学びのこと、人間関係のこと…。具体的な場面を思い浮かべながら静かに祈ると、自然と「では自分は何を頑張ろうか」という前向きな気持ちも芽生えてきます。
お寺で手を合わせる時も流れは似ていますが、拍手は行わず、合掌して静かに祈るのが一般的です。特にご本尊のお顔が正面からよく見える場合は、じっと見つめ続けるよりも、軽く目を伏せるようにして手を合わせると、心がスッと落ち着くことが多いでしょう。
帰り道までが初詣
お参りを終えて境内を出る時も、鳥居や山門の前で改めて一礼し、「ありがとうございました」と心の中で呟いてみてください。たったそれだけで、参拝全体が「行って良かったな」と感じられる時間にまとまります。
初詣の後、帰り道で家族や友人と「今年はどんな一年にしたい?」と話してみるのもおすすめです。神様・仏様の前で決意したことを、身近な人と分かち合うことで、自分の中での優先順位がはっきりし、小さな一歩が踏み出しやすくなります。高齢者施設などの団体で出掛けた場合は、帰ってからお茶を飲みながら「どんなお願いをしたのか」「昔の初詣はどんな様子だったのか」を語り合う時間を作ると、それ自体が豊かなレクリエーションになります。
細かな作法を全て覚えていなくても、「ここは特別な場所」「今は特別な時間」という意識さえ持てていれば、大きな失礼になることは殆どありません。むしろ大切なのは、周囲の人と神様・仏様への思いやりです。次のまとめでは、初詣という行事を、これからの一年を支える「心のスタートライン」としてどう活かしていくかを、改めて整理していきます。
[広告]まとめ…新しい一年を託す「初詣タイム」を自分らしく大切にするために
お正月の初詣は、「決まった日にとりあえず神社へ行く行事」ではなく、本来は歳神様や氏神様、仏様へ新しい一年の挨拶を届ける、大切な一時でした。家族や自分の暮らしを思い返しながら、「昨年もありがとうございました」「今年もどうぞお守りください」と頭を下げる時間そのものが、日常から少しだけ離れた特別な区切りになります。
昔の人々は、大晦日の夜を徹して寺社に籠もるこもり詣や、自宅から見た恵方の方向にある社寺へ向かう恵方参りとして、この節目をとても丁寧に過ごしてきました。やがて時代が進み、交通が発達する中で、初詣のかたちは「恵方の社寺へ」から「自分が参りたい場所へ」へと、緩やかに姿を変えてきましたが、「新しい年を心静かに迎えたい」という願いは、今も変わっていません。
行き先を選ぶ時、一番の基本になるのは、やはり地元の氏神様です。その土地に暮らす人々を長く見守ってきた神様に、「今年もこの場所でお世話になります」と最初に伝えることには、言葉以上の意味があります。その上で、人生の節目となる年には憧れの有名な神社や大きな寺院を訪ねたり、七福神を少しずつ巡ったりと、自分なりの「特別な一歩」を重ねていくと、記憶に残る初詣になっていきます。
境内での振舞いや参拝の作法は、全てを完璧に覚えようとしなくても大丈夫です。鳥居や山門の前で一度立ち止まり、手水で身と心を整え、ご本尊やご神前の前では「どこの誰が、何を願っているのか」を静かに伝える。その上で、大声で騒がない、ゴミを持ち帰る、長時間場所を占有しないといった、周りの人と神仏への思いやりを心掛けていれば、大きな失礼になることはまずありません。
家族連れで出掛ける方にとっては、初詣の道中や帰り道に「今年はどんな一年にしたい?」と語り合う時間も含めて、1つの行事です。高齢者施設やグループホームなどの場では、外出が難しい方に向けて、写真や思い出話を交えながら「心の初詣タイム」を企画することも出来るでしょう。その人に合った距離とリズムで、「手を合わせる場」を用意すること自体が、大切なケアにもなります。
毎年同じ神社に通うのも良し、その年ごとのテーマを決めてゆっくり巡るのも良し。初詣に決まった正解はありません。ただ、せっかく足を運ぶのであれば、「何故ここで手を合わせるのか」「どんな気持ちで一年を始めたいのか」を、ほんの少しだけ言葉にしてみてください。その一手間が、短い参拝の時間を、心の底から静まる豊かな一時へと変えてくれます。
今年の初詣は、「取り敢えず行く」から一歩進んで、「自分と家族の心を整えるための時間」として味わってみませんか。鳥居をくぐる時、鈴の音を聞く時、手を合わせる時…。その全ての瞬間が、新しい一年をゆっくりと支えてくれる、小さなスタートラインになってくれるはずです。
今日も閲覧ありがとうございましたm(__)m
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